説明

高脆性材料の切削又は研削加工方法及び切り屑付着抑制剤

【課題】高脆性材料の加工時に発生する切り屑や研磨粉等の被加工材料への付着を抑制し、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減を解消することができる高脆性材料の切削又は研削加工方法及び切り屑付着抑制剤を提供する。
【解決手段】本高脆性材料の切削又は研削加工方法は、水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩等)と、を混合することにより得られ、且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、pHが6〜9である高脆性材料加工用剤を用いて高脆性材料の切削又は研削加工を行うことを特徴とする。本高脆性材料の切削又は研削加工は、特にガラス、セラミックス又はシリコンを含む高脆性材料の切削又は研削加工、特に切断加工、精密研磨加工、又はダイシング加工に好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脆性材料の切削又は研削加工方法及び切り屑付着抑制剤に関する。更に詳しくは、本発明は、ガラス、セラミックス及びシリコン等の高脆性材料の加工時に発生する切り屑や研磨粉等の被加工材料への付着を抑制し、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減を解消することができる高脆性材料の切削又は研削加工方法及び切り屑付着抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体材料、MEMSデバイス材料及び磁気記録材料等の分野において、ガラス、セラミックス及びシリコン等の高脆性材料が多用されている。これらの材料は硬く脆い性質があり、また、かかる高脆性材料の切削又は研削加工を行うと、微細な切り屑又は研磨粉に由来するパーティクルと呼ばれる微細な粒子が被加工材に付着することがある。かかるパーティクルが被加工材に付着すると、後工程で特性不良や配線不良等の不具合が発生するおそれがある。そのため、切削又は研削加工後、かかるパーティクルを速やかに除去する必要がある。特に、ダイシング加工では、微細な素子や回路が形成されたデバイスを切断対象とするため、切り屑、コンタミネーション及び金属汚染に対する要求が格段に高い。更に、デジタルカメラなどで使用されるイメージセンサ等では、その受光面となる表面に、かかるパーティクルが残留すると撮像時の妨げとなり、近年の高画素化や小型化を目指した受光素子部の微細化とも相まって、その要求は難化の一途を辿っている。また、ダイシング加工では、デバイスに損傷を与えないために、使用する砥粒が細かい。このため、発生する切り屑は非常に細かく、一旦デバイス表面に付着してしまうと除去しづらい。そこで、従来より、切削水のかけ方を工夫したり、切削水に二酸化炭素を混入して静電気の発生を抑えたりすることにより、汚れの付着を少なくする工夫をしている。また、加工後の洗浄工程を工夫したりしている。
【0003】
例えば、下記特許文献1及び2には、固体材料をダイシング後、切断されたワークに向けて高圧で洗浄液を噴射すると共に、洗浄液に超音波振動を与えて切り屑の除去性を向上させる技術が開示されている。また、下記特許文献3には、ダイシング後の固体材料を真空吸着により固定し、その後、ロールブラシで洗浄して切り屑の残留を防ぐ技術が開示されている。更に、下記特許文献4には、ダイシング前の固体材料表面に界面活性剤を塗布してからダイシングし、その後、ダイシングされた固体材料を洗浄することによりチッピング、クラックの減少や切り屑の付着低減を可能にする技術が開示されている。
【0004】
また、ダイシング時の切削水に関する技術として、下記特許文献5及び6には、ダイシング時の切削水に、界面活性剤、炭酸若しくは酢酸等の無機酸、又は低級カルボン酸と、アンモニア塩基の化合物とからなる塩を添加して、切削水の電気伝導度を上げて、回路素子の静電破壊を抑制する技術が紹介されている。しかしながら、これらの文献には、ダイシング時の切り屑の除去効果についての言及はない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−177245号公報
【特許文献2】特開平11−214333号公報
【特許文献3】特開2003−209089号公報
【特許文献4】特開平11−191540号公報
【特許文献5】特開昭63−28608号公報
【特許文献6】特開平3−227556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、装置及び方法の面から被加工材表面からのパーティクルの除去を改善する方法では、相応の設備が必要である。その結果、装置が大型化、複雑化するのに加えて、装置自体の費用増の問題がある。また、いずれの方法も、活性剤塗布・洗浄工程等の加工以外の工程を増やすことになるため、コストの面からも不利な点が挙げられていた。更に、加工用油剤の組成から被加工材表面からのパーティクルの除去を改善する方法についても、従来の加工用油剤は、材料の帯電防止又は金属イオンによる汚染の除去に重点が置かれており、切り屑の付着防止を考慮した組成物は報告されていなかった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ガラス、セラミックス及びシリコン等の高脆性材料の加工時に発生する切り屑や研磨粉等の被加工材料への付着を抑制し、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減を解消することができる高脆性材料の切削又は研削加工方法及び切り屑付着抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高脆性材料の加工、特に半導体材料に用いられるダイシング加工において、加工水の面から種々検討を行った。その結果、水に特定の添加剤を加えることにより、水溶性でありながら切り屑、研磨粉又はパーティクルに対する高い付着防止効果を奏し、高脆性材料の加工、特に半導体材料に用いられる脆性材料の切削又は研削加工、特にダイシング加工等の切断加工又は精密研磨加工において、高い生産性を実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmである高脆性材料加工用剤を用いて、高脆性材料の切削又は研削加工を行うことを特徴とする高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔2〕水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、且つ遊離砥粒を含まない高脆性材料加工用剤を用いて、該高脆性材料加工用剤と遊離砥粒とを混合せずに、高脆性材料の切削又は研削加工を行うことを特徴とする高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔3〕上記高脆性材料加工用剤は、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制する切り屑付着抑制剤である上記〔1〕又は〔2〕に記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔4〕上記高分子量水溶性カチオンポリマーは、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種である上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔5〕上記高脆性材料加工用剤のpHが6〜9である上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔6〕上記高脆性材料が、ガラス、セラミックス又はシリコンを含む高脆性材料である上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔7〕上記高脆性材料が半導体ウエハである上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔8〕上記切削又は研削加工が、切断加工又は精密研磨加工である上記〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔9〕上記切削又は研削加工が、ダイシング加工である上記〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
〔10〕高脆性材料の切削又は研削加工に用いられる切り屑付着抑制剤であって、
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制することを特徴とする切り屑付着抑制剤。
〔11〕高脆性材料の切削又は研削加工に用いられる切り屑付着抑制剤であって、
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり且つ遊離砥粒を含んでおらず、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制することを特徴とする切り屑付着抑制剤。
〔12〕上記高分子量水溶性カチオンポリマーは、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種である上記〔10〕又は〔11〕に記載の切り屑付着抑制剤。
〔13〕上記切削又は研削加工が、ダイシング加工である上記〔10〕乃至〔12〕のいずれかに記載の切り屑付着抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法は、上記構成を有することにより、高脆性材料の加工時に発生する切り屑や研削粉等の付着を抑制し、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減することができる。
他の本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法は、上記構成を有することにより、遊離砥粒の付着を防いで切削又は研削加工を行うことができる。その結果、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減することができる。
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法において、上記高分子量水溶性カチオンポリマーが、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種であると、より優れた切り屑や研削粉等の付着抑制効果を奏する。
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法において、上記高脆性材料加工用剤のpHを6〜9とすると、より優れた切り屑や研削粉等の付着抑制効果を奏する。
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法では、ガラス、セラミックス又はシリコンを含む高脆性材料、例えば半導体ウエハの切削又は研削において、上記の好適な作用効果を奏する。
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法では、切断加工又は精密研磨加工において、上記の好適な作用効果を奏する。更には、ダイシング加工において、上記の好適な作用効果を奏する。
本発明の切り屑付着抑制剤は、上記構成を有することにより、切削又は研削加工の際に生じる切り屑や研削粉等が被加工材に付着するのを十分に抑制することができる。
他の本発明の切り屑付着抑制剤は、上記構成を有することにより、切削又は研削加工の際に生じる切り屑や研削粉等が被加工材に付着するのを十分に抑制することができる。
本発明の切り屑付着抑制剤において、上記高分子量水溶性カチオンポリマーが、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種であると、より優れた切り屑や研削粉等の付着抑制効果を奏する。
本発明の切り屑付着抑制剤は、ダイシング加工において、上記の好適な作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法は、水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmである高脆性材料加工用剤を用いて、高脆性材料の切削又は研削加工を行う。
また、他の本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法は、水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、且つ遊離砥粒を含まない高脆性材料加工用剤を用いて、該高脆性材料加工用剤と遊離砥粒とを混合せずに、高脆性材料の切削又は研削加工を行う。
更に、本発明の切り屑付着抑制剤は、高脆性材料の切削又は研削加工に用いられ、水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制する。
また、他の本発明の切り屑付着抑制剤は、高脆性材料の切削又は研削加工に用いられ、水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり且つ遊離砥粒を含んでおらず、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制する。
【0012】
上記高分子量水溶性カチオンポリマーとしては、第4級窒素原子及び/又は4級化可能な窒素原子を合計で2個以上有するものが好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンエトキシレート、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルイミダゾールの共重合体、ポリアリルアミン、ポリアルキレンポリアミン、カチオン化セルロース、ジシアンジアミド、4級化アンモニウム塩及びこれらの誘導体等が挙げられる。上記4級化アンモニウム塩としては、例えば、モノアルキルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
これらの高分子量水溶性カチオンポリマーのなかでも、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、4級化アンモニウム塩が好ましく、ポリエチレンイミンが特に好ましい。
上記高分子量水溶性カチオンポリマーは、単独で用いてよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
上記高分子量水溶性カチオンポリマーの重量平均分子量は70〜70000、好ましくは100〜30000、更に好ましくは200〜15000、より好ましくは250〜7000、特に好ましくは250〜2000である。上記高分子量水溶性カチオンポリマーの重量平均分子量が70未満では、高脆性材料の加工性及びパーティクルの洗浄性を向上させるのに十分でなく、上記高分子量水溶性カチオンポリマーの重量平均分子量が70000を超えると、粘度の上昇により作業性が低下してしまうので好ましくない。
【0014】
上記高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量は5〜10000ppm、好ましくは10〜5000ppm、更に好ましくは20〜4000ppm、より好ましくは30〜3000ppm、特に好ましくは50〜1500ppmである。上記高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5ppm未満では、加工性・洗浄性を向上させるには不十分であるので好ましくなく、含有量が10000ppmを超えると、高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤への溶解性に劣る上、加工対象である高脆性材料に対して悪影響を与えるほど、高脆性材料加工用剤等のpHが上昇することがあるので好ましくない。一方、上記高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量を上記範囲とすると、加工性・洗浄性を向上させることができる。また、上記高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量を上記範囲とすると、微量の含有量であることから、加工後の廃液処理が容易、あるいは不要とすることができるという長所もある。
【0015】
上記高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤の溶媒として、高脆性材料に対する影響の観点から、通常は水(純水、精製水)が使用されるが、必要に応じて水と油剤等の水以外の媒体とを混合して使用することもできる。かかる混合溶媒の場合、水の配合量については特に限定はないが、通常は、上記高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤100質量%中、10〜99.5質量%、好ましくは40〜99.5質量%、更に好ましくは60〜99.5質量%である。かかる範囲とすることにより、上記高分子量水溶性カチオンポリマーの添加による効果が十分に発揮されるので好ましい。尚、上記高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤は、上記のように最初から水を配合したものとするだけでなく、使用時に水を加えて所定の水系加工用として使用することもできる。また、必要に応じて、使用の際に更に水で稀釈して使用することもできる。
【0016】
上記高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤のpHは6〜9であることが好ましく、より好ましくは6〜7である。かかる範囲とすることにより、より優れた切り屑や研削粉等の付着抑制効果を奏する。
また、上記高脆性材料加工用剤等のpHの調整には、pH調整剤を用いることができる。
上記pH調整剤は、上記高脆性材料加工用剤等の加工性能・洗浄性能を著しく低下させない限り特に限定されず、例えば、安息香酸、フタル酸及びトリメリット酸などの芳香族酸、プロピオン酸、ブチル酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、クエン酸及びリンゴ酸などの脂肪族酸、並びに、硝酸、塩酸及びリン酸などの無機酸等を挙げることができる。
【0017】
上記高脆性材料加工用剤又は切り屑付着抑制剤には、その加工性能・洗浄性能を著しく低下させない限り、一般的な加工油剤に添加されている種々の添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて適宜含有させることができる。上記添加剤としては、例えば、一般的な加工油剤に添加されている公知の防錆剤、消泡剤、防食剤、防腐剤及び着色剤等が挙げられる。また、上記高脆性材料加工用剤には、必要に応じて遊離砥粒を含有させてもよいが、遊離砥粒を含まないものとしてもよい。
【0018】
また、本発明における上記高脆性材料加工用剤は、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制するための切り屑付着抑制剤として用いることができる。
【0019】
上記高脆性材料加工用剤の使用形態は、切削又は研削加工に応じて適宜の使用形態とすることができる。例えば、必要に応じて、使用の際に更に水で稀釈してもよい。また、必要に応じて遊離砥粒を含有させてもよいが、遊離砥粒を含まないものとしてもよい。例えば、遊離砥粒を含まない上記高脆性材料加工用剤を用いて、該高脆性材料加工用剤と遊離砥粒とを混合せずに、高脆性材料の切削又は研削加工を行うことができる。この方法の場合、砥石からの脱落砥粒が若干含まれることは不可避であるが、切削又は研削加工における遊離砥粒の量を減らすことができる。そのため、かかる遊離砥粒が付着することを防いで切削又は研削加工を行うことができ、その結果、加工後の洗浄を容易にして洗浄不良による歩留まりの低減することができる。
【0020】
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法をより良好に行うため、上記高脆性材料加工用剤の液温、供給量及び加工速度等の諸条件を適宜調整することができる。例えば、上記高脆性材料加工用剤の供給量は、通常0.5リットル/min以上、好ましくは0.7リットル/min以上、更に好ましくは1.2リットル/min以上とすることができる。
【0021】
本発明の高脆性材料の切削又は研削加工方法において、上記高脆性材料の種類、材質及び形状等には特に限定はない。上記高脆性材料として具体的には、例えば、ガラス、セラミックス、又はシリコンを含む高脆性材料等が挙げられる。より具体的には、例えば、シリコン、ガリウムヒ素、酸化珪素などを含む半導体ウエハ等の半導体材料、水晶、サファイア等を含む電子デバイス基板材料、酸化アルミニウムなどの金属酸化物からなるセラミックス材料、及び、フェライト、ネオジム磁石、サマリウム・コバルト磁石などの各種磁性材料等が挙げられる。尚、上記半導体材料には、その表面が樹脂製の保護膜やマイクロレンズに覆われているものも含まれる。
【0022】
上記切削又は研削加工の具体的種類には特に限定はない。上記切削又は研削加工として具体的には、例えば、切断加工、精密研磨加工、又はダイシング加工等が挙げられる。また、上記切削又は研削加工を行う装置についても特に限定はなく、公知の切削又は研削加工装置を適宜使用することができる。更に、上記切削又は研削加工の具体的な方法についても特に限定はなく、公知の方法により行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)高脆性材料加工用剤(切り屑付着抑制剤)の調製
表1及び表2に記載の各成分を、表1及び表2に示す割合で純水に配合することにより、高脆性材料加工用剤を調製した。
尚、実施例8及び比較例1〜6で添加した各成分の詳細を以下に記載する。
<1>「4級化アンモニウム塩」;三愛石油株式会社製、「ビューサン77」
<2>「カチオン活性剤」;塩化ベンザルコニウム
<3>「ノニオン活性剤A」;エチレンジアミンのポリオキシアルキレン縮合物
<4>「ノニオン活性剤B」;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
<5>「市販品A」;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体
<6>「市販品B」;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル
<7>「市販品C」;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル
【0024】
(2)高脆性材料のダイシング加工及びその性能評価
Siウエハ(φ6",t;0.635mm)をダイシングテープで固定し、次いで、上記高脆性材料用加工剤を用いてダイシング加工を行った(実施例1〜8及び比較例1〜6)。尚、参考例として、純水を高脆性材料加工用剤としてダイシング加工を行った。ダイシング条件は以下に示す通りである。
使用装置:「DFD641 FULLY AUTOMATIC DICING SAW」(ディスコ社製)
切断条件:送り速度;50mm/s、切り込み深さ;ダイシングテープへ30μm、スピンドル回転数;40000rpm
切削水流量:0.7リットル/min(ブレードノズル)、1.0リットル/min(シャワーノズル)、スピンナ洗浄なし
【0025】
上記ダイシング加工後、ダイシングした際に切り分けられた個々のチップの表面及びカーフ部について、切り屑の残存状態を目視にて観察し、以下の4水準に区別した。この結果を以下の表1に示す。
<切り屑残存基準>
◎:個々のチップ及びカーフ部に切り屑は認められない。
○:個々のチップ及びカーフ部に僅かに切り屑の残留が認められる。
△:個々のチップ及びカーフ部に切り屑の残留が認められる。
×:個々のチップ及びカーフ部に切り屑の残留が多量に認められる。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
(3)実施例の効果
表2によれば、単なる純水を用いた参考例では、ダイシングした際に切り分けられた個々のチップの表面及びカーフ部の切り屑の残存状態は「×」であり、高脆性材料の加工時に発生する切り屑の付着を十分抑制していないことが分かる。
また、本発明の範囲外であるカチオン活性剤(アルキルアミン塩酸塩)を用いた比較例1、ノニオン系活性剤(エチレンジアミンのポリオキシアルキレン縮合物)を用いた比較例2、ノニオン系活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)を用いた比較例3、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体を用いた比較例4、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルを用いた比較例5及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを用いた比較例6では、ダイシングした際に切り分けられた個々のチップの表面及びカーフ部の切り屑の残存状態は「×」であり、高脆性材料の加工時に発生する切り屑の付着抑制効果の向上が認められていないことが分かる。
【0029】
これに対し、表1より、本発明の範囲内である実施例1〜8では、いずれもダイシング後、ダイシングした際に切り分けられた個々のチップの表面及びカーフ部の切り屑の残存状態は「◎」、「○」及び「△」のいずれかであった。特に、実施例1〜5及び7〜8では、含まれる水溶性カチオンポリマーの濃度が100ppm以上であると、切り屑の残存状態は「◎」か「○」であり、残存する切り屑はほとんど認められず、より優れた切り屑の付着抑制効果を奏することが分かる。
【0030】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmである高脆性材料加工用剤を用いて、高脆性材料の切削又は研削加工を行うことを特徴とする高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項2】
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、且つ遊離砥粒を含まない高脆性材料加工用剤を用いて、該高脆性材料加工用剤と遊離砥粒とを混合せずに、高脆性材料の切削又は研削加工を行うことを特徴とする高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項3】
上記高脆性材料加工用剤は、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制する切り屑付着抑制剤である請求項1又は2に記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項4】
上記高分子量水溶性カチオンポリマーは、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項5】
上記高脆性材料加工用剤のpHが6〜9である請求項1乃至4のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項6】
上記高脆性材料が、ガラス、セラミックス又はシリコンを含む高脆性材料である請求項1乃至5のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項7】
上記高脆性材料が半導体ウエハである請求項1乃至6のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項8】
上記切削又は研削加工が、切断加工又は精密研磨加工である請求項1乃至7のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項9】
上記切削又は研削加工が、ダイシング加工である請求項1乃至7のいずれかに記載の高脆性材料の切削又は研削加工方法。
【請求項10】
高脆性材料の切削又は研削加工に用いられる切り屑付着抑制剤であって、
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ且つ該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制することを特徴とする切り屑付着抑制剤。
【請求項11】
高脆性材料の切削又は研削加工に用いられる切り屑付着抑制剤であって、
水と、重量平均分子量70〜70000の高分子量水溶性カチオンポリマーと、を混合することにより得られ、該高分子量水溶性カチオンポリマーの含有量が5〜10000ppmであり且つ遊離砥粒を含んでおらず、上記切削又は研削加工の際に生じる切り屑が被加工材に付着するのを抑制することを特徴とする切り屑付着抑制剤。
【請求項12】
上記高分子量水溶性カチオンポリマーは、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド及び4級化アンモニウム塩のうちの少なくとも1種である請求項10又は11に記載の切り屑付着抑制剤。
【請求項13】
上記切削又は研削加工が、ダイシング加工である請求項10乃至12のいずれかに記載の切り屑付着抑制剤。

【公開番号】特開2007−152858(P2007−152858A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354069(P2005−354069)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】