説明

高血圧症の予防または治療のためのエリスリトールの使用

本発明は、哺乳動物におけるSOD2酵素の上方制御ならびに高血圧症の予防または治療のためのエリスリトールの使用に関する。より詳しくは、エリスリトールは、内皮機能不全の発生および血管拡張の関連低減を防ぎ、エリスリトールは溶血誘導の血管収縮を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物におけるSOD2酵素の上方制御、ならびに高血圧症の予防または治療のためのエリスリトールの使用に関する。より詳しくは、エリスリトールは、内皮機能不全および血管拡張の関連する低減の発生を防ぎ、エリスリトールは、溶血誘導血管収縮を防ぐ。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、ERYTHRITOL IS A SWEET ANTIOXIDANTを発明の名称とする、2009年7月27日付けで出願した米国仮特許出願第61/228,803号、ならびにUSE OF ERYTHRITOL FOR THE PREVENTION OR TREATMENT OF HYPERTENSIONを発明の名称とする、2009年7月27日付けで出願した米国仮特許出願第61/228,785号の利益を主張し、これらをここに出典明示してそのすべてを本明細書の一部とみなす。
【背景技術】
【0003】
高血圧症または高血圧は、動脈内の血圧が慢性的に上昇した状態である。すべての心拍動毎に、心臓は残りの身体に動脈を介して血液を送リ出す。血圧は、血管壁を押している血液の力である。圧力が余りにも高いならば、心臓は送リ出すためにより激しく働かなければならなく、また、これは、心臓発作、脳卒中、心不全、動脈瘤または腎不全のごとき臓器障害およびいくつかの病気に導きかねない。
【0004】
高血圧症の状態に関係する因子は、限定されるものではないが、喫煙、肥満または過体重、糖尿病、座りがちな生活習慣、身体活動の不足、メタボリック症候群、高レベルの食塩摂取、不十分なカルシウム、カリウムおよびマグネシウム消費、ビタミンD欠乏、高レベルのアルコール消費、ストレス、老化、経口抗避妊薬を含めた薬物、高血圧症の遺伝学および家族歴、慢性腎臓疾患、副腎および甲状腺障害またはある形態の癌を含む。これらの因子の多数は、血圧の増加を引き起こす以下の2つの機序:(1)内皮機能不全の発生および(2)赤血球の溶血の一方または双方を含む。
【0005】
内皮機能不全(ED)は、低減された血管拡張への内皮の作用のシフト、前炎症性状態および血栓形成促進性(prothrombic)特性により特徴付けられる、最も早期の臨床的に検出可能な段階の心血管性疾患である。EDは、高血圧症、冠動脈疾患、慢性心不全、末梢動脈疾患、アテローム性動脈硬化、糖尿病、メタボリック症候群、肥満、炎症および慢性腎不全の一因となる。
【0006】
全循環ツリーは、血管内皮細胞(EC)の単一の上皮−様層により並べられる(Poberら, 2009)。ECは解剖学的位置に応じて、臓器系および血管タイプ(例えば、動脈、小動脈、毛細管、細静脈、静脈)の双方により変化する特性を示すが、すべてのECはそれらと他の細胞型を区別する共通の特徴を共有し、それらが非常に重要な恒常性機能を行なうことを可能にする。鍵となる恒常性機能は、血液流動性の維持、血流の調節、組織との高分子および流体交換の調節、白血球活性化の防止、病原体用免疫監視の援助を含む。損傷または細胞死は、これらの活動処置を障害または防止する結果、機能不全を生じる。大部分の内皮細胞死は、カスパーゼの活性化を含むアポトーシスであるが、非アポトーシス死応答も記載されている。内皮の損傷または死滅を引き起こすことができる刺激は、酸化ストレス、小胞体ストレス、代謝ストレスおよび遺伝毒性ストレスのごとき環境ストレス、ならびに先天的でかつ適応性の免疫系により媒介した損傷の経路を含む。
【0007】
溶血は、高血圧症、貧血で見られる血管内溶血、細血管障害性(nicroangiopathic)溶血性貧血、鎌型赤血球症、発作性夜間色素尿症、サラセミアおよび遺伝性球状赤血球症のごときいくつかの疾患の構成成分である。溶血に関連する高血圧症は、いくつかの機序を介して引き起こされかねない。主要でかつ即時のものは、血漿への赤血球内容物の放出を介する血管収縮により引き起こされる。さらに、血漿への特に可溶性のヘモグロビンおよびアルギナーゼの放出は、一酸化窒素欠乏、および高血圧症の臨床的発生に関係する内皮機能不全の状態に導く。もう一つの機序は、損傷した赤血球から血漿へのアデノシンデアミナーゼの放出、次いでアデノシンデアミナーゼによるイノシンへのアデノシンの代謝変換、それにより、細胞外のアデノシンレベルを低下させることに関する。アデノシンは、主としてアデノシンA2A受容体の活性化を介して、溶血誘導血管障害および高血圧症のリスクを低減する多数の生物学的応答を媒介する。アデノシンの脈管保護効果は、損傷した赤血球から放出されたアデノシンデアミナーゼにより大幅に縮小される。
【0008】
内皮機能不全または赤血球の溶血に対するいずれの保護も、高血圧症を発生するリスクの低減またはその処置を支援するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、哺乳動物におけるSOD2酵素の上方制御、ならびに高血圧症の予防または治療のためのエリスリトールの使用に関する。より詳しくは、エリスリトールは、内皮機能不全および血管拡張の関連する低減の発生を防ぎ、エリスリトールは、溶血誘導血管収縮を防ぐ。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、細胞におけるSOD2発現がエリスリトールへの曝露を介して劇的に上方制御されるという新規でかつ予期されない発見を中心に展開する。エリスリトールは、細胞自身の抗酸化機構を活性化する。この活性化または上方調節は、内皮に保護効果を提供し、内皮機能不全および溶血を防止する。内皮機能不全と溶血との間の因果関係は、当該技術分野において十分立証されている。結果的に、エリスリトールのこのSOD2上方制御効果は、高血圧症を治療または予防する手段として利用できる。
【0011】
本発明は、動物またはヒトにおけるSOD2の発現を刺激する生成物または組成物の製造のためのエリスリトールの使用に関する。
【0012】
本発明のもう一つの好ましい具体例において、予防または治療される疾患は、内皮機能不全および内皮機能不全誘導の高血圧症である。
【0013】
本発明のもう一つの好ましい具体例において、予防または治療される疾患は赤血球溶血および溶血誘導の高血圧症である。
【0014】
特に好ましい具体例において、本発明は、動物またはヒトにおける高血圧症の予防または治療を目的とする。
【0015】
本発明は、動物またはヒトに有効量のエリスリトールを投与することにより、高血圧症を処置する方法を含む。また、本発明は、動物またはヒトに有効量のエリスリトールを投与することにより内皮機能不全を予防または治療する方法を含む。また、第3には、本発明は、動物またはヒトに有効量のエリスリトールを投与することにより、高血糖症の合併症を処置する方法を含む。
【0016】
もう一つの好ましい具体例において、前記の生成物または組成物は経口投与される。
【0017】
さらに、生成物または組成物は、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、液剤、粉末または乳剤の形態でのように医薬の生成物または組成物として製剤化し得る。特に、生成物または組成物は高血圧症保護剤としてエリスリトールを補足した飲料または食品の形態で製剤化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、正常血糖ラット(黒丸)、エリスリトールを消費した正常血糖ラット(1g/kg/日、白丸)および糖尿病ラット(三角形)のカルバコール濃度応答曲線を示す。
【図2】図2は、糖尿病ラット(黒丸)およびエリスリトールを消費した糖尿病ラット(1g/kg/日、白丸)のカルバコール濃度応答曲線を示す。
【図3】図3は、AAPH誘導溶血に対するエリスリトール(0〜50mM)の効果を示す。データポイントは3つの別々の実験の平均である。曲線は、適合される(3変数S字型)。エリスリトールは、濃度依存的に曲線を右に移動させた。
【図4】図4は、エリスリトールが内皮細胞に対して有する効果を示し、この結果、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(SOD2)転写は増加した。培養ヒト臍静脈内皮細胞(CRL−1730、ATCCから入手可能)は、エリスリトール(5mM、24時間)での標準状態下で培養した。エリスリトールへの曝露は、qPCRにより決定されるSOD2の発現の9.4倍の増加を誘導または刺激した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、(1)エリスリトールの投与が非常に重要な抗酸化酵素のマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(SOD2)の発現をかなり増加させる;および(2)エリスリトールが、赤血球の溶血を遅延および低減できるという新規な観察に基づいている。これらの双方の知見は、高血圧症およびそれに関連する合併症または疾患の長期予防または治療のための治療戦略を提供する。
【0020】
SOD2は、ミトコンドリアに限定されるが、細胞外間隙に放出できる抗酸化酵素である。細胞質ゾル(SOD1)および細胞外(SOD3)に見出される、他のSODのようにSOD2は、スーパーオキシドラジカルを過酸化水素および酸素に変換し、それにより、スーパーオキシドラジカルの毒作用を制限する。これらのラジカルは脂質過酸化を引き起こし、一酸化窒素と反応して、反応性過酸化亜硝酸を形成し、かくして、血管弛緩性の一酸化窒素を血管毒性の過酸化亜硝酸に変化させることができる。高血圧症の病理発生における内皮細胞内およびその周囲でのスーパーオキシドラジカルの非常に重要な役割は、ほとんど20年間認識されている。SOD2の発現および活性は、肺動脈高血圧症において低減されることが知られている。また、血管の酸化ストレスは、糖尿病と高血圧症との間の共通連鎖であると同定されている。エリスリトールが、高血圧症(の病理発生)ならびにスーパーオキシドジスムターゼの抗高血圧作用におけるスーパーオキシドラジカルの役割についての大量の従前の観察と一緒に、内皮細胞におけるSOD2の発現を刺激するという発明者らの発見は、エリスリトールが、高血圧症の予防および減弱ならびに溶血の予防に用いることができるこを明確に示す。結果的に、本発明は、内皮機能不全および高血圧症を予防または治療する生成物または組成物の製造のためのエリスリトールの使用に関する。
【0021】
かくして、SOD2酵素の上方制御は、正常血糖ラットに見出される実質的に同一レベルまで、糖尿病ラットの血管平滑筋の損傷または減弱した内皮依存性の弛緩を修復し、エリスリトールは赤血球の溶血を遅延および低減できる。結果的に、SOD2の発現の増加は、正常な内皮機能、血管緊張および正常血圧を維持するのを助けるであろう。
【0022】
エリスリトールは、メロンおよび桃において少量が存在し、現在、菓子、チューインガム、飲料およびベーカリー製品においてノンカロリーの歯にやさしいバルク甘味料としての用途のために大量に生成される多価アルコール(1,2,3,4−ブタンテトラオール)である。エリスリトールは血液インシュリンまたはグルコースレベルに影響を有さず、これは、高血糖症の患者、特に、糖尿病患者につき、それを有用でかつ安全な食品成分とする。さらに、エリスリトールは、迅速でかつ事実上、腸から完全に吸収され、身体の膜を通過でき、これは、本明細書に記載されたその高血圧症保護効果を発揮するのに必要な適切な全身性の濃度に達することを容易にする。加えて、広範囲な臨床試験は、エリスリトールが、大量の消費後でさえ、よく許容され、消化管副作用を有しないことを示している。例えば、エリスリトールの50グラム以下のボーラス用量および80グラム以下の1日用量が、よく許容されることが示されている。
【0023】
本発明の文脈内では、「疾患」なる用語は、動物またはヒトのいずれかの部分、臓器もしくは系またはその組合せの正常な構造または機能からのいずれかの逸脱、またはその障害を意味することを意図し、これは、特徴的な組の症状および徴候により明示され、その病因学、病理学および予後は、公知または不明であり得る。本明細書に用いた「動物」なる用語は、ウマ、ブタ、ウシ、ネズミ、イヌ、ネコ種のメンバーのごときヒト以外の哺乳動物を含む。
【0024】
本発明によれば、「高血糖症」なる用語は、過剰量のグルコースが血清中に存在する状態をいう。生理学的な血中グルコースレベルは、約5〜7mmol/lである。10mmol/l以上(または慢性的に7mmol/lを超える)の血糖レベルは、高血糖であると考えられる。異常な高血中グルコースレベルは、限定されるものではないが、糖尿病、特に、I型またはII型糖尿病、副腎機能亢進症、下垂体機能亢進症(hyperpituarism)、腫瘍随伴症候群、ベータ遮断薬、チアジド系利尿薬、コルチコステロイド、ナイアシン、ペンタミジン、ある種のプロテアーゼ阻害薬、L−アスパラギナーゼ、いくつかの抗精神病薬のごときある種の医薬での処置、膵臓疾患、心筋梗塞、脳卒中または他の神経系疾患、腎不全、肝不全、末端肥大症、クッシング症候群、クロム親和性細胞腫、甲状腺機能亢進症、グルカゴノーマ、アミロイドーシスを含めた、種々の原因の一因となる。
【0025】
本発明に用いた「予防」なる用語は、(i)疾患に罹患し易いが、まだ疾患を有すると診断されていない動物またはヒトの疾患の発生を回避するいずれかの活動、および(ii)早期の疾患検出を目的とし、それにより、介入がその疾患の進行および症状の出現を防止する機会を増加させるいずれかの活動を含む。さらに、本明細書に用いた「処置」なる用語は、(i)その疾患の抑制、すなわち、疾患発生の抑止により疾患を防ぐいずれかの活動、および(ii)疾患を軽減する、すなわち、疾患の後退または消失を引き起こすいずれかの活動を包含する。
どれが。
【0026】
予防または治療を必要とする対象は、哺乳動物対象、すなわち、ヒト、または飼育動物および家畜を含めた哺乳動物に分類されるいずれの他の動物、ならびに動物園、スポーツまたはペット動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ等である。好ましくは、予防または治療を必要とする対象は、ヒトである。
【0027】
本発明の好ましい具体例において、予防または治療される疾患は、内皮機能不全および内皮機能不全誘導の高血圧症である。
【0028】
本発明のもう一つの好ましい具体例において、予防または治療される疾患は、赤血球溶血または溶血誘導の高血圧症である。
【0029】
本発明による「内皮機能不全」なる用語は、一般的に、内皮により媒介した平滑筋血管拡張または弛緩の損傷、減弱、または喪失でさえ、により特徴付けられる状態をいう。「内皮」は、管、特に血管の内面を裏打ちし、管腔内の循環血液および血管壁との間の界面を構成する内皮細胞の層を意味する。かくして、換言すれば、内皮機能不全なる用語は、低減された内皮依存性の血管拡張能力をいう。「内皮機能不全」なる用語の好ましい意味によれば、アセチルコリンまたは他のM受容体アゴニストに対する冠状動脈および末梢の循環の低減された内皮依存性血管拡張能力が意味される。
【0030】
特に好ましい具体例において、本発明は、糖尿病関連の高血圧症の予防または治療に関する。「糖尿病関連」なる表現は、特に、「糖尿病により引き起こされた」を含むことを意味する。エリスリトールは、動物またはヒトの高血圧症の予防または治療に特に有用である。本発明によれば、生成物または組成物は種々の経路により投与できる。投与経路は、特に制限されなく、調製形態、および年齢、性別および疾患の程度のごとき予防または治療される動物またはヒトの状態により決定される。例えば、生成物または組成物は経口的、非経口的、皮下的、静脈内、筋肉内、吸入スプレーにより、局所的、直腸的、経鼻的、頬側、腟内または経皮的に投与できる。エリスリトールが腸から迅速でかつ事実上完全に吸収されるので、好ましい投与経路は経口的である。
【0031】
本発明の生成物または組成物は、最も好ましくは、慢性的に上昇した血中グルコースレベルに苦しむヒトまたは動物の部分集団を標的とした飲料、食品または他の経口的に用いる生成物の形態で処方される。本明細書に用いた「飲料」なる用語は、大部分は水からなる、動物またはヒト消費のために特に調製された飲料をいう。本発明に用いる飲料の例は、既存または新たに開発されたソフトドリンク、乳製品飲料、ジュースベースの飲料およびその混合物を含む。本明細書に用いた「食品」なる用語は、動物またはヒトにより摂取されることを意図した、飲料以外の既存または新たに開発された食料品を含む。
【0032】
エリスリトールは、特定の既存または新たに開発された飲料をエリスリトールと混合することによってのごとき、食品、飲料または他の経口的に用いる生成物に容易にそれを組み入れることができるという利点を有する。本明細書に前記に記載のごとく、エリスリトールは、大量の消費後でさえ、腸から迅速でかつ事実上完全に吸収され、よく許容され、消化管副作用を有しないので、特に、飲料および食品への組み込みに適している。加えて、エリスリトールは全身代謝されず、したがって、本特許出願の対象であるそのin vivoでの有益な効果を発揮し続けることができる。尿でのエリスリトールの排出は、それが投与された約3日後に完了する。
【0033】
また、発明の生成物または組成物は、ヒトまたは動物消費のための医薬の生成物または組成物の形態で製剤化し得る。本明細書に用いた「医薬の生成物または組成物」なる用語は、患者に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘導でき、エリスリトールと、所望により他の有効成分を生理学的に許容できる担体、希釈剤、および改善された移動、送達、寛容等を提供するために医薬製剤に組み込む他の剤から選択された1以上のよく知られた物質とを混合することにより製剤化される化学的生成物または組成物をいう。加えて、抗酸化剤、分散剤、乳化剤、香味剤、甘味剤、着色剤および保存剤のごとき化合物を医薬の生成物または組成物に含み得る。
【0034】
本発明の医薬の生成物または組成物の適切な形態は、例えば、粉末、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤および顆粒剤のごとき固体形態、ならびに溶液、シロップ剤、懸濁剤および乳剤のごとき液体形態を含む。医薬の生成物または組成物の適切な形態は、投与経路、所望の放出プロフィール、および有効成分および医薬添加剤の不適合性のごとき他の因子により主として導かれる。医薬製剤の当業者は、ルーチンにて公知の材料およびプロセスのパラメーターに関しての形態および調製方法を選定できる。例えば、経口投与については、錠剤は、限定されるものではないが、多価アルコール、ラクトースおよびコーンスターチおよび/またはステアリン酸マグネシウムのごとき滑沢剤のごとき担体を含み得る。さらに、カプセル剤は、限定されるものではないが、多価アルコール、ラクトースおよび乾燥コーンスターチを含めた希釈剤を含み得る。さらに、水溶液または懸濁剤は、乳化用剤および懸濁化剤を含み得る。
【0035】
エリスリトールは、約50グラム以下の一回用量、および80グラム以下の1日用量で許容されるとことがよく知られている。このレベルの寛容のために、エリスリトールのポジティブな効果が、動物またはヒトのキログラム体重当たり1mg〜2500mgのごとく広範囲の1日量にわたり見られることが期待できる。好ましい用量は、体重1キログラム当たり2mg〜1000mgを含む。好ましくは、本発明のエリスリトール含有生成物または組成物は単位投与形態である。かかる形態において、生成物または組成物は適切な量のエリスリトールを含有する単位用量に細分される。単位用量におけるエリスリトールの量は、10mg〜50,000mg、好ましくは1,000mg〜25,000mgで変化し得る。このレベルの用量は、典型的な食品、飲料または菓子生成物の経口消費を介して達成するのが容易にできる。例えば、10%のエリスリトールを含有する200グラムのヨーグルトは、容易に20グラム用量を提供するであろう。小さな硬いキャンディーまたは錠剤は、エリスリトールを各0.5〜5グラムの範囲を含有して調製できる。飲料は、典型的には0.5%〜20%のエリスリトールを含むことができ、1〜40グラムの一回用量を都合よく提供するであろう。
【0036】
特定の動物またはヒト用の特定の1日用量は、動物またはヒトの年齢、体重、一般的な健康、性別および食事、投与の形態および時間を含めた種々の因子に依存して変化するであろう。適切な投与レベルの決定に対するための考慮は当業者によく知られている。
【0037】
本発明によれば、投与の時期および順序を調節するいずれかの投与処置を用いて、必要ならば、反復して、高血圧症およびそれにより生じた疾患の予防または治療に影響できる。さらに、本発明のエリスリトール含有生成物または組成物は、1以上のさらなる活性剤と共投与し得る。別法としてまたは加えて、本発明の生成物または組成物は、1以上のさらなる活性剤を含有し得る。
【0038】
本発明は今や、実施例の方法により示され、それは本発明に対する制限を強いるものと解釈されるべきはない。
【0039】
実施例1
下記において、本発明の発明者らは、in vivo実験による内皮機能不全誘導の高血圧症の予防または治療のためのエリスリトールの使用を示す。これらのin vivo実験において、標準的飲料水またはエリスリトールを補足した水を受けた正常血糖または糖尿病のラットの内皮依存性平滑筋弛緩を研究した。より具体的には、内皮機能に対するエリスリトールの効果は、胸部大動脈(大動脈輪)の切片を用いて、臓器浴中で決定した。収縮は、フェニレフリン(PE)、α−アドレナリン作動性受容体アゴニストで刺激することにより誘導した。引き続いて、内皮依存性弛緩は、ムスカリン受容体アゴニストのカルバコール(CAR)での濃度応答曲線の決定により分析した。最後に、最大弛緩は、NOを放出し、かくして内皮NO生成を回避する化合物であるニトロプルシドナトリウム(SNP)の添加により誘導した。
【0040】
血管弛緩剤カルバコールに応じた内皮依存性弛緩が、糖尿病ラットにおいて顕著に減弱することが判明した。エリスリトールの投与の結果、実質的に正常血糖ラットの弛緩反応と同じであるCARに対する弛緩反応を生じた。
【0041】
かくして、以下のセクションにおいてさらに説明される、実施したin vivo実験は、糖尿病に苦しむ動物またはヒトのごとき、慢性的に上昇した血中グルコースレベルに苦しむ動物またはヒトに適当な様式の投与および量においてエリスリトールを投与することにより、高血圧症の予防または治療のための新規な治療戦略の同定を示す。
【0042】
実験手順
20匹のウィスターラット(10匹の雄、10匹の雌、体重200〜250g)をこれらのin vivo試験に用い、この試験は、マーストリヒト大学の動物についての倫理委員会の承認で行った。ラットはCharles River Nederland BVにより供給され、標準的条件下で維持し、ここに、標準食品(Ssniff Spezialdiaten GmbH, Soest, Germany)および酸性化飲料を無制限に提供した。糖尿病はHasselbainkらのプロトコールにより誘導し、ここに、ラットはハロタンで麻酔し、次いで、尾静脈へのi.v注射によりクエン酸緩衝液(100mM、pH4.5)中の70mg/kgのストレプトゾトチン(STZ)で処置した。対照は、クエン酸緩衝液剤のみを受けた。7日後、血中グルコースは、グルコース計(Lifescan BV, Maastricht, Netherlands)で測定した。
【0043】
そのように得た10匹の糖尿病ラットを2群:1)標準的飲料水を受ける糖尿病ラット(D群、N=5)、および2)エリスリトール補足水を21日間受ける糖尿病ラット(DE群、N=5)に分けた。10匹の非糖尿病ラットも2群:1)標準的飲料水を受ける正常血糖ラット(N群、N=5)、および2)エリスリトールを補足した水を21日間受ける正常血糖ラット(NE群、N=5)に分けた。個々のラットにより飲まれた液量をモニターし、エリスリトール溶液の濃度を毎日再調整して、NE群およびDE群ラットが、各々、kg体重当たり1gのエリスリトールの毎日消費を有することを確実にした。他の群(NおよびD)には、標準的飲料水を無制限に与えた。ラットの重量および血中グルコースレベルを毎週測定した。
【0044】
3週後、ラットをCO/Oで犠牲にし、血液を静脈穿刺により迅速に集めた。次いで、大動脈の胸部部分を切除し、過剰な脂肪および結合組織を除去した後、クレブスリンゲル緩衝液(118mM NaCl、4.4mM KCl、2.5mM CaCl、1.2mM KHPO、1.2mM MgSO、10mMグルコースおよび25mM NaHCO)中に直ちに入れた。長さが約4mmの輪を切断し、37℃で維持し、95%のO−5%COで通気したクレブスリンゲル緩衝液で満たした20mlの臓器浴中のステンレス鋼フック間に取り付けた。
【0045】
等張性トランスデューサー(Grass FT03)を各条片に付け、その後、静止張力を60分間、常に1.0gに再調整した。組織の完全性はフェニレフリン(PE;10μM)およびカルバコール(CAR;100μM)で確認した後、30分の洗浄期間とした。次いで、大動脈輪をフェニレフリン(10μM)で最大下に収縮させた。安定な収縮が確立された場合、カルバコール濃度応答曲線(10nM〜100μM)を記録した。安定な弛緩をカルバコールの最後の添加後に得た場合、ニトロプルシドナトリウム(SNP、100μM)を臓器浴に添加して、最大の弛緩を誘導した。
【0046】
結果
対照ラットの6.7±0.2mMと比較して、ストレプトゾトチン(STZ)処置の7日後に測定したSTZ糖尿病ラットの血糖レベルは25.0±1.4mMに増加した。4つの異なる実験群(N、NE、DおよびDE)の内皮機能は、フェニレフリン(PE)、カルバコール(CAR)およびニトロプルシドナトリウム(SNP)に対する、単離した大動脈輪の応答を測定することにより決定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】


値は、NおよびNE群につきN=5;DおよびDE群につきN=4の平均±SEMである。
−PE:10μMフェニレフリンにより誘導した収縮
−CAR:100μMカルバコールにより誘導した収縮
−SNP:100μMカルバコールの安定な応答を得た後の100μM SNPにより誘導した弛緩
−合計弛緩 100μMカルバコールに続いての100μM SNPにより誘導した弛緩
−SNP画分:合計弛緩に対する100μM SNPの寄与
:Nに比較したP<0.05
:Dに比較したP<0.05
【0048】
表1から明らかなごとく、10μMフェニレフリンは、4群すべてからの大動脈輪において同一の収縮を引き起こした。しかしながら、血管弛緩化合物カルバコールに対する応答は、糖尿病ラット(D群)において著しく減弱した。他の群と比較して、糖尿病ラットからの大動脈輪の合計弛緩は小さくなかったが、NO供与化合物SNPにより、大部分につき誘発されなければならなかった。これは、血管平滑筋の弛緩の能力が糖尿病ラットにおいて影響されないことを示す。不変の合計弛緩と組み合わせた糖尿病ラットにおけるカルバコールに対する応答の減弱は、糖尿病ラットの内皮が損傷され、したがって、最大弛緩を引き起こすために十分なNOを生成できないという強力な証拠を提供する。
【0049】
驚くべきことには、エリスリトールを消費していた糖尿病ラット(DE群)において、内皮は無傷のままであり、カルバコールに対する応答は、正常血糖ラットにおいて観察したものと同一であった。カルバコールに対するこの損なわれない応答の反映は、エリスリトール補足糖尿病ラットにおける大動脈セグメントの合計弛緩に対して、正常血糖ラットからの大動脈輪の弛緩におけるSNPの寄与に類似するより小さなSNP寄与である。
【0050】
さらに、糖尿病ラット(D)、正常血糖ラット(N)、およびエリスリトール(NE)を補足した正常血糖ラット(NE)のカルバコール濃度応答曲線を図1に示す。図1に見られるごとく、エリスリトールの消費は正常血糖ラットにおける濃度応答曲線にかなりの効果は有しなかった。対照的に、糖尿病ラット(D)からの大動脈輪のカルバコール応答曲線は、曲線が右に移動し、合計弛緩が低下したという点で、正常血糖ラット(N)およびエリスリトールを補足した正常血糖ラット(NE)からの輪で得た曲線と著しく異なった。
【0051】
図2において、糖尿病ラット(D)およびエリスリトール消費糖尿病ラット(DE)からのカルバコール濃度応答曲線を示す。DE群のラットからの大動脈輪におけるカルバコールに対する応答はより高く、NおよびNE群のラットの大動脈輪で判明したごとき同じレベルであった。これらの結果は、エリスリトールが、糖尿病ラットにおける内皮機能不全の発生を防止でき、高血圧症を防ぐことができることを示す。
【0052】
実施例2
この第2の実施例において、本発明は、in vitro実験における赤血球の溶血の遅延および低減のためのエリスリトールの使用を示す。赤血球の溶血を遅延および低減することにより、溶血誘導の高血圧症を予防、低減または治療できる。
【0053】
実験手順
2,2’ −アゾビス−2−アミジノプロパンジヒドロクロリド(AAPH)誘導の溶血に対するエリスリトールの効果をVosters & Neveにより調べた。赤血球懸濁液をエリスリトール(0〜50mM)と37℃にて5分間インキュベートし、その後、AAPH(50mM)を添加した。規則的な時間間隔(0〜300分)にて、200μlアリコートを取り、2mlの0.9% NaCl溶液で希釈した。溶血の程度は、ヘモグロビン測定のためにHemoglobina TC(登録商標)(ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム 2.4mM、シアン化カリウム 3mM)で試料を処理することにより決定した。混合物の吸収度は540nmで測定した。100%の溶血は、200μlアリコートを2mlの脱塩水に添加することにより得た。溶血のパーセンテージは、比率(試験サンプル中の溶血)−(100%の溶血)から計算した。50%溶血(t50)を得るのに必要な時間は、Window用SigmaPlot 2001 (SPSS Inc., Chicago, USA) からの3パラメーターS字型モデルでデータを適合することにより、各濃度につき決定した。
【0054】
結果
AAPH誘導の溶血に対するエリスリトール(0〜50mM)の効果を図3に示す。エリスリトールは、遅延時間(溶血開始前にかかった時間)の濃度依存性の増加を引き起こした。遅延時間は、t50、または50%溶血に達するのにかかった時間を測定することにより定量化した。エリスリトールは濃度依存性に溶血を抑制し、それにより、膜保護特性を示した。
【0055】
実施例3
マンガンスーパーオキシドジスムターゼ発現
エリスリトールへの内皮細胞の曝露の結果、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(SOD2)転写が増加する(図4)。培養したヒト臍静脈内皮細胞(CRL−1730、ATCCから入手可能)をエリスリトール(5mM、24時間)と標準状態下でインキュベートした。エリスリトールに対する曝露は、qPCRにより決定されたSOD2の発現の9.4倍の増加を誘導または刺激した(図4)。
【0056】
遺伝子発現解析
インキュベーション後、RNAは製造者のプロトコールにより、Qiazol懸濁細胞から単離し、ナノドロップを用いて定量した。逆転写反応を500ngの合計RNAを用いて行い、これをiScript(商標)cDNA合成キットを用いて、cDNAに逆転写した。次に、リアルタイムPCRは、25μlの合計体積中のSensimix(商標)Plus SYBR およびフルオレセイン、5μlの希釈(10×)cDNAおよび0.3μMプライマーを用いて、BioRad MyiQ iCycler Single Color RT-PCR 検出システムで行った。PCRは以下のように実施した:3分間の95℃での変性に続いての95℃15秒間および60℃45秒間の40サイクル。PCR後、融解曲線(60〜95℃)を生成物の同定および純度のために生成した。β−アクチンを内部対照として含んだ。プライマー配列を表2に示す。データをMyIQソフトウェアシステム(Biorad)を用いて分析し、2ΔΔCt法を用いて、相対的遺伝子発現(倍変化)として表現した。
【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOD2発現を刺激する生成物または組成物の製造のためのエリスリトールの使用。
【請求項2】
内皮機能不全または溶血を予防または治療する生成物または組成物の製造のためのエリスリトールの使用。
【請求項3】
高血圧症を予防または治療する生成物または組成物の製造のためのエリスリトールの使用。
【請求項4】
予防または治療される高血圧症が、内皮機能不全誘導の高血圧症である請求項3記載の使用。
【請求項5】
予防または治療される高血圧症が、溶血誘導の高血圧症である請求項3記載の使用。
【請求項6】
内皮機能不全が、高血糖症、糖尿病、メタボリック症候群、心血管性疾患、肥満、アテローム性動脈硬化または炎症に関係する請求項2記載の使用。
【請求項7】
溶血が、冠動脈疾患、慢性心不全、末梢動脈疾患、アテローム性動脈硬化、糖尿病、メタボリック症候群、肥満、炎症および慢性腎不全に関係している請求項2記載の使用。
【請求項8】
生成物または組成物が経口投与される請求項1〜7のいずれか1記載の使用。
【請求項9】
生成物または組成物が飲料または食品である請求項8記載の使用。
【請求項10】
生成物または組成物が医薬の生成物または組成物である請求項8記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−500341(P2013−500341A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522930(P2012−522930)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/043216
【国際公開番号】WO2011/014448
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(500159680)カーギル・インコーポレイテッド (30)
【Fターム(参考)】