説明

高誘電率流体接合ガスケット

ガスケットアセンブリは少なくとも1つの流体運搬開口と、少なくとも1つのボルト穴とを有している。ガスケットはPEEK材料を含んでおり、このPEEK材料はガスケットの金属コアの少なくとも一部分に1つの層として塗布されていてもよい。エラストマー系の被覆材料の層は、PEEK材料の少なくとも一部分に塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は一般的には金属ガスケットに関連し、より特定的には、電解液の存在下で隣接する部品同士の間で固定される用途のガスケットであって、適切に保護されないと隣接する部品同士の電解腐食を引起こす金属の導電経路を生じるようなガスケットに関連する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術
金属ガスケットは、隣接する部品同士の間の流体密封のシールを提供する多くの用途で用いられている。これらの用途の1つは油冷却器のコアのためのガスケットである。ガスケットは、シールされる流体開口を取囲む金属のエンボス部分を持ち、かつ複数のボルト穴開口を含んでいる。これらの複数のボルト穴開口には、ガスケットを間に挟んで部品同士を互いに固定するために用いられるボルトの通路がある。いくつかの例では、隣接する部品は腐食の影響を受けやすいことがわかっており、金属のガスケットは少なくとも部分的に、部品同士の間の導電経路の役割を果たすものと考えられている。この導電経路は、流体の存在下で、隣接する部品の不必要な電気めっき的な腐食を引起こす腐食セルを形成する。その腐食セルは、取付けられるボルトと、ガスケットと、ボルトで留められたフランジおよびガスケットの内外の両方に露出した液体(電解液)と、ボルトで留められた別のフランジ材料とによって構成されていると考えられている。現在の用途のガスケットは、ガスケットと隣接する部品との間の界面のシーリングを増大させるため、典型的にはエラストマーで被覆されている。そのようなコーティングによって、ある領域であるレベルの絶縁性が得られる一方で、ボルト穴の周りやガスケットにおけるモールドスタンドオフ(standoff)位置の近くにおいてエラストマー材料が金属ガスケットのコアの周りで差し挟まれる所で、エラストマー材料が使用中に剥がれ落ち、剥がれ落ちた領域の金属コアが固定された部品に対して露出され、電気めっき的な腐食の問題を引起こす電気的導電経路が作り出されることがわかっている。したがって、エラストマー系材料はガスケットの全面的なシーリング性能を増大させるために必要とされ求められている一方で、電気めっき的な腐食を十分に防ぐことができない。このような電気めっき的な腐食は、ガスケットの設置および使用の際にエラストマー材料が剥がれ落ちる場所であるボルト穴の周囲において特に起こる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の概要および利点
本発明に従って構成されるガスケットは、ボルト穴の周囲のような剥がれやすい領域にPEEK材料の露出したガスケット表面を有しており、好ましくはPEEK材料の露出したガスケット表面はガスケットコア全体を覆っている。第1の実施例に従えば、ガスケットコアは鋼または他の金属材料によって製造されており、そしてPEEK材料によって被覆されている。PEEK材料は、ガスケットを通じての金属の導電経路を分断する電気バリアをもたらす、高い誘電性および絶縁性の性質を提供するという利点を有している。この金属の導電経路はこれまで、固定された隣接する部品の腐食を起こす電気めっき的なセルを作り出すものとして少なくとも考えられてきた。第2の実施例において、ガスケットのコア全体がPEEKよりなっており、これはPEEK材料のシートからスタンプを押されるようにして作られたものである。どちらの実施例においても、本発明によれば、PEEK領域の上に、ガスケットのシーリングを促進するエラストマーの層が塗布される。しかし、PEEKはエラストマーが付着するためのベースを提供する一方で、ボルト穴の近くのような剥がれやすい場所にはエラストマーは塗布されない。このような場所では、P
EEKのみが露出されており、PEEKは必要とされる絶縁性を維持するための条件に耐え得る。さらなる特徴に従えば、エラストマー材料が金属コア材料に付着することを付加的に促進するために、PEEK材料はマスクされてもよいし、流体開口の端部から取除かれてもよい。
【0004】
したがって、コアガスケット、特に剥がれやすいボルト穴の領域にPEEK材料を提供することによって、ガスケットを通じての金属の導電経路を遮断する、必要な高い誘電性および絶縁性の性質を得ることができる。さらにPEEK材料の上を覆うエラストマーによって、ガスケットのシーリング性能を増大させる、必要なシーリング性能を得ることができる。
【0005】
本発明のこれらの特徴および利点、および他の特徴および利点は、以下の詳細な記載および添付された図面とともに考慮された場合に、より容易に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明における現在好ましい実施例に従って構成された金属ガスケットは、図3および図4中において10で一般的に示されており、ガスケットの構造的な枠組みまたはバックボーンを提供するガスケットコア12(図1)を含んでいる。コア12は、ガスケット10を通して流体を運ぶための少なくとも1つの流体開口14によって形成されている。ガスケット10は、たとえば、流体密封のシールを形成するための油冷却器およびエンジンブロック(どちらも図示なし)の間で固定されるように設計された油冷却器ガスケットを含んでいてもよい。ガスケット10は、流体開口14から間隔をおいて、コア10を通じて形成された少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのボルト穴開口16をさらに含んでいる。ボルト開口16は、油冷却器をブロックに留めるのに用いられる取付ボルト(図示なし)の通路を収容できるように設計されており、取付ボルトが締められたときには、油冷却器とブロックとの間の液体密封のシーリングを作り出すようにガスケット10を押付ける。これによって、油冷却器とブロックとの間に運ばれた流体の漏出物が、ガスケットジョイントから漏れることが防がれる。
【0007】
流体開口14およびボルト穴開口16の両方は、図2に示されるように、最終的な大きさとの関係でわずかに大きく形成されている。点線は開口14および16の最終的な大きさを示している。
【0008】
図1〜図7の第1の好ましい実施例に従えば、ガスケットコア12はプレーンな炭素鋼または他の非PEEK材料によって製造されており、好ましくはスタンプ押しされた炭素鋼により製造されている。発明に従えば、図3に示されているように、コア12は純粋なPEEK(polyethyletherkeytone)の分散被膜によって初めに被覆される。好ましい厚さは約2μmである。本発明に関連してうまくいくことが示されている1つの材料は、テクラインコーティングス(Techline Coatings)によって利用可能とされている、「テクトリックス7100(Techtrix7100)」という商品名のものである。PEEK材料は鋼のキャリアによく接合し、コア12の周りで電気的な絶縁バリアを形成する高誘電率の性質を有しているので、以下に詳細に説明するように、ガスケット10を通じての電気的導電経路を分断する。
【0009】
PEEK材料18の層によってコア12が一旦被覆されると、エラストマー層20の外部コーティングが塗布される。エラストマー層20は、好ましくはゴムベースであり、以下に述べるある領域を除いてコア12およびPEEK層18がエラストマー層20によって実質的に封入されるように、コア12およびPEEK層18に関してエラストマー層20がモールドされる。好ましいエラストマーは、シリコーンベースの、注入されてモールドされたエラストマーであり、存在している油冷却器コアガスケットに関連する製品で現
在用いられているエラストマーであってもよい。このような製品では、介在したPEEK層を用いることなくエラストマー材料は金属コアに直接接合される。当業者であれば使用可能なエラストマー材料が1つではないことを認識するであろうし、またこの発明がPEEKおよび意図されたガスケット用途と相性のよい、供給されるエラストマーの多様性を意図していることを認識するであろう。存在する油冷却器コアガスケットのための製品として現在用いられているシリコーンエラストマーおよび本発明のエラストマー層20として採用されるシリコーンエラストマーは、フェデラルモーグル(Federal-Mogul)の材料規格R7725に従って準備される。
【0010】
エラストマー20を塗布する前に、図4に説明されているように、PEEK材料18を含まない、流体開口14を直接取囲むコア12における被覆されていない環状のリム22を露出するように、流体開口からPEEK材料18が削られることが好ましい。実際には、被覆されていないリム22は、初めにPEEK材料18を被覆し、それから取除くことによって準備することができ、またはPEEK材料18の塗布からシールドするように、PEEK材料の塗布の間リム領域22をマスクすることによって準備される。どちらの場合においても、流体開口14の周りおよび一段高いツールスタンドオフの形状24から離れた位置で、PEEK材料18は約0.070インチだけ後退させられている。これにより、エラストマー材料20を直接接合させるためにこれらの領域にのみコア12の裸の鋼が現われ、ガスケット10の他のすべての領域はPEEKによって被覆され、かつエラストマー層20によって封入されている。
【0011】
コア12がPEEK層18によって一旦被覆され、流体開口14の周りにおいて削られるまたはPEEK材料の存在に対してマスクされると、PEEKで被覆されたコア12はモールドの中に配置され、エラストマー材料20はコア12に関してモールドされ、以下に記す流体開口16の周りを除いて、エラストマー材料20によってコア12が完全に封入されるように、コア12のPEEKで被覆された領域および露出された金属の領域の両方が被覆される。図5および6に示すように、エラストマー層20は、ボルト穴開口16の環状のリム領域26を除くすべての領域を覆っている。従って、リム領域26は高誘電率PEEK層材料18によって被覆されており、しかしエラストマー材料20によっては被覆されていない。ガスケット10はまた、ガスケットの平面から突起しているために剥がれやすいツールスタンドオフ領域24を有している。これらの領域24もまた、エラストマー層20の塗布から遮蔽されてもよいが、結局のところ高誘電率PEEK層18によって被覆されている。流体開口14の環状リム領域22は、図7に最もよく示されているように、PEEK材料がなく、エラストマー材料20によって被覆されている。
【0012】
使用時には、ガスケット10は、油冷却器コア(図示なし)の取付フランジと、エンジンブロック(図示なし)の関連するフランジまたは取付領域との間に配置され、取付ボルト(図示なし)は、これらのフランジの整列された開口を通ってまたガスケット10のボルト穴開口16を通ってガイドされる。PEEK層18は、エラストマー材料20よりも耐剥離性および接合性が高く、それによってボルト穴開口16を通じて挿入されたボルトによる剥離による除去に逆らい、また裸の金属コア12が露出することに逆らう。特にボルト穴開口16の近辺におけるPEEK材料18の高誘電率の性質は、開口16を通過する電解液の存在する中で発生し、ガスケット10の露出された金属コア領域12に接触する導電経路であって、電気めっき的な腐食セルの導電経路からガスケット10を隔離する効果を有する。高誘電率PEEK材料は、この面倒な腐食セルを遮断する性質を示し、それによってガスケット10およびその仲間の部品の腐食を防ぐ。それによって、エラストマーもまた存在しない特にボルト穴開口16の領域およびスタンドオフ領域24のように、PEEK材料18が存在しなくても、スタンドオフ領域24にはPEEK材料18が被覆される。
【0013】
図8〜図10は、本発明の他の実施例をであって、少なくとも1つの流体開口32と、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのボルト開口34とが形成され、ガスケット10と一般的な形状が同様であるガスケット30の実施例を説明している。この実施例では、ガスケット10は、PEEK材料によって全体が製造されたコア36を含んでいる。コア36は、ボルト穴開口34の周りのリム領域40を除いてエラストマー38の層によって上からモールドされている。リム領域40は全体がPEEK材料であり、エラストマー38が被覆されていない。このガスケットは、第1実施例のガスケットと同様の利点を有している。
【0014】
本発明の多くの修正および変更は、上記の教唆の観点から明らかに可能である。ゆえに、添付されたクレームの範囲内において、発明は詳細に説明された以外の方法で実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の第1実施例に従うガスケットの平面図である。
【図2】金属ガスケットコアの平面図である。
【図3】続いてPEEK材料によって被覆された後の図2のような平面図である。
【図4】露出されたコア金属のリムを示す流体開口の拡大平面図である。
【図5】エラストマー材料の無いボルト開口およびスタンドオフ領域の平面図である。
【図6】ボルト開口およびスタンドオフ領域の断面図である。
【図7】エラストマー層が塗布された断面図であって、図4の線7−7に沿う断面図である。
【図8】変形例のガスケットの平面図である。
【図9】図8のガスケットに関連するPEEK材料によって形成された、変形例のコアの平面図である。
【図10】図8の線10−10に沿う断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体媒体の運搬のため、そこを通る開口を有する少なくとも1つの金属ガスケット層と、
少なくとも1つのガスケット層の少なくとも一部分に塗布されたPEEK材料の被膜と、
前記少なくとも1つのガスケット層の前記少なくとも一部分に塗布された、前記PEEK材料とは異なるエラストマー系のシーリング材料の層とを備えた、ガスケットアセンブリ。
【請求項2】
前記エラストマー系シーリング材料は、前記PEEK材料の少なくとも一部分に塗布されている、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記PEEK材料の少なくとも1つの領域が露出されている、請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
補助エラストマー系シーリング材料は、前記PEEK材料の少なくとも一部分と、前記少なくとも1つのガスケット層の少なくとも一部分とに塗布されている、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記リム領域に前記PEEK材料がないように、前記PEEK材料が前記開口の後の領域から間隔をあけて存在している、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記エラストマー系材料が前記リム領域に塗布されている、請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記少なくとも1つのガスケット層は、前記PEEK材料によって被覆されかつ前記エラストマー材料のない少なくとも1つのボルト穴を含む、請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項8】
少なくとも1つの流体開口と、少なくとも1つのボルト穴開口とを有する、PEEK材料によって製造されたガスケット本体と、
前記PEEK材料に塗布されたエラストマーシーリング材料の層とを備えた、ガスケットアセンブリ。
【請求項9】
前記ボルト穴には前記エラストマー材料がない、請求項8に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−514890(P2008−514890A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534748(P2007−534748)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/034944
【国際公開番号】WO2006/039374
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】