説明

高速スピンレート条件下における慣性センサのバイアス誤差のリアルタイム補償方法

【課題】高速スピン条件下で飛行中の飛行体のためのバイアス誤差を高精度で推定する。
【解決手段】飛行体100の処理部130は、カナード152の展開前の時間1及び時間2それぞれにおいて、ジャイロスコープ112、X、Y及びZ方向の加速度計114から一連のデータを収集する。そして、2つの時点で収集したデータに基づき、Y方向加速度計の推定加速度計バイアスbYを、bY=(AY2ω12−AY1ω22)/(ω12−ω22)によって計算する。ω及びωは、ジャイロスコープから得られた時間1及び2でのロールレート、AY1及びAY2は、Y方向加速度計によって測定された時間1及び時間2での加速度である。Z方向加速度計についても同様に計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速スピンレート条件下における慣性センサのバイアス誤差のリアルタイム補償方法に関する。
なお、米政府は、レイセオンミサイルシステムズ及び米陸軍との契約番号DAAB07-03-D-B013に基づいた所定の権利を本発明に対して有している。
【背景技術】
【0002】
慣性計測装置(IMU)は、航空機、車両、誘導ミサイル、及び誘導弾又は兵器等のデバイスで用いられる慣性誘導システムの一部である。IMUは、運動を正確に感知するために、加速度計及びジャイロスコープを使用している。IMUによって収集されたデータは、飛行制御のため、あるいはIMUが内蔵されているデバイスを操縦するために使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
IMUの機能における1ファクタは、その慣性データの精密性及び正確性である。しかしながら、IMUは多くの潜在的誤差の影響を受けてしまい、この誤差を補正すなわち補償する必要がある。特に、高速スピンレートを有するIMUアプリケーション(例えば、ライフル銃から高速で発射される弾)は、ミスアラインメント、非中心スピン軸誤差、及び該デバイス又はIMU自身のメカニカルな搭載バリエーションに起因して、速度及び加速度の推定で誤差を生じてしまう場合がある。このような誤差のリアルタイム補償をすることにより、誘導推定並びにレート及び加速度の値に対する、機体又は発射体の形状における誤差及びばらつきの影響を軽減し、且つ、速度及び加速度における誤差を生じさせる、周期運動(歳差運動等)時に明らかになる飛行誤差を低減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一実施形態では、高速スピン条件下で飛行中の飛行体に関するバイアス誤差を推定する方法を提供する。該方法は、第1時間における第1の一連データサンプルを収集するステップ、及び、第2時間における第2の一連データサンプルを収集するステップを含む。第1時間及び第2時間は、飛行体の展開後でカナード(canard)ショックの前に発生する。第1及び第2の一連データサンプルは、少なくとも第1ジャイロスコープからのロールレートデータ、及び少なくとも第1加速度計からの加速度データを備えている。該方法はさらに、第1及び第2のデータサンプルから少なくとも第1の推定加速度計バイアスを算出するステップを備えている。
【0005】
別の実施形態では、加速度バイアス誤差のリアルタイム推定をするよう動作する飛行体を提供し、該飛行体は、機体、慣性測定装置(IMU)、カナードの展開を制御する誘導システム、及び処理部を備えている。IMUは、第1ジャイロスコープ、並びに少なくとも第1及び第2加速度計を備えている。処理部は、飛行体の展開後でカナードショックの前に、第1加速度計からのデータに基づいて生成された算出された第1の加速度計バイアスを用いて、第1加速度計の出力を補償し、飛行体の展開後でカナードショックの前に、第2加速度計からのデータに基づき生成された算出された第2の加速度計バイアスを用いて第2加速度計の出力を補償し、そして、第1及び第2加速度計の補償された出力に基づいて、飛行体を誘導するよう構成されている。
【0006】
さらに別の実施形態では、飛行体の慣性測定装置(IMU)におけるバイアス誤差を決定するためのプログラム製品を提供し、該プログラム製品は、プログラムインストラクションが記憶されているプロセッサ可読媒体を含んでいる。プログラムインストラクションは、飛行体に含まれる少なくとも1つのプログラム可能プロセッサによって実行される時に動作し、飛行体の誘導システムに、第1時間における第1の一連データサンプルを収集させ、第2時間における第2の一連データサンプルを収集させる。ここにおいて第1及び第2時間は、飛行体の展開後である。第1及び第2のデータサンプルは、第1ジャイロスコープからのロールレートデータ、少なくとも第1及び第2加速度計からの加速度データを備えている。プログラムインストラクションもまた、誘導システムに少なくとも第1及び第2の推定加速度バイアスを算出させるよう動作する。
【0007】
請求項に係る本発明の多様な実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の記述で説明される。別の特徴及び利点は、以下の記述、図面、及び請求項で明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】バイアス補正ルーティンを実行するよう構成された飛行体の一実施形態を説明するブロック図である。
【図2】飛行体と通信するよう構成されたホスト機体制御システムの一実施形態のブロック図である。
【図3】飛行体の形状の一実施形態を示すブロック図である。
【図4】高速スピン条件下の飛行体のリアルタイムバイアス誤差を推定するための方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図5】A〜Cはそれぞれ、飛行体の1飛行例に対応するIMUデータのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、バイアス補正ルーチン144を実行するよう構成された飛行体100の一実施形態を示すブロック図である。飛行体100は、発射体、ミサイル、弾丸等である。飛行体100は、胴体又は機体等のボディ102(図2参照)を備えている。飛行体100は、慣性計測装置(IMU)110及びグローバルポジショニングシステム(GPS)受信機120を用いて、自身の位置を決定するよう構成される。飛行体100はさらに、GPS情報が無くてもIMU110を用いて航行するよう構成される。IMU110は、飛行体100に関する加速度及び高度データを提供する。図1に示される実施形態の一例では、IMU110は、所与の軸に沿った速度における線形変化(すなわち、加速度)を感知するための加速度計114、及び、回転速度における変化を感知するためのジャイロスコープ112(すなわち、回転速度又は角度位置を決定するために用いられる)を備えている。ジャイロスコープ112は、飛行体100の運動の方向に、入力軸を有する第1ジャイロスコープを少なくとも備えている。加速度計114は、加速度を測定するための第1及び第2加速度計を、相互に直交する方向に、且つ、機体のスピンレートを感知するジャイロスコープに対して直交する方向に備えている。GPS受信機120は、GPS利用可能時に、飛行体100に対して位置情報を提供する。他の実施形態では、GPS受信機120を備えていない場合もある。
【0010】
飛行体100は、誘導システム150の誘導の下で標的に向かって飛行する。飛行体100は、はじめは高速スピンレート状態にある。例えば、ライフル銃からの発射又は操縦翼面(フィン)によって回転されることにより、飛行体100は最初は高速スピンレート状態におかれる。誘導システム150はカナード152を配備している。カナード152は発射後に展開される小さな翼であり、飛行中の飛行体100を誘導するために用いられる。誘導システム150は、通常、カナード152を展開するために飛行中に爆発する1又は複数のパイロテクニックデバイスを備えている。カナード152を展開することは、カナードショックと称される。本明細書では、カナード152が展開される前の時間を弾道ステージと称し、カナード152が展開された後をカナードショック後と称する。カナード152は、飛行体100の回転を遅延又は停止するために、また、飛行体100を反対方向にスピンさせるためにも使用することができる。一実施形態では、誘導システム150はさらに、誘導システム150の別のコンポーネントを制御するための、処理部を備えている。
【0011】
IMU110の精度は、飛行体100の標的への飛行に影響を与える。飛行の早い段階(弾道ステージ)でIMU110の誤差を低減することにより、飛行体100をより正確に誘導することができる。誤差のいくつかが補償されると、飛行体100の航路は、決定された誤差の補償に基づいて再計算される。カナードショックの前に発生する、飛行体100及びそのコンポーネントのミスアラインメント、非中心スピン軸誤差、又は非対称による速度及び加速度推定における誤差(又はオフセット)は、飛行体100が指定の標的をはずす原因となる。これらのバイアス誤差を推定する従来の方法は、カナード152が展開された後にのみ実行されるものであり、カルマンフィルタを適用して、主としてIMUの測定値を外部補助ソース(GPS等)と比較することにより、行われていた。バイアス補正ルーティン144は、これらの誤差を補正し、且つ、ミッションのはるかに早い段階すなわち弾道ステージで適用されるものである。バイアス補正ルーチン144は、リアルタイムの推定ルーチンであり、ロールレート、時間、飛行体100の形状及び方向を関数として、ジャイロスコープ及び加速度計の誤差モデルを推定する。弾道ステージ中に実行される誤差推定は、早い段階での誤差推定が行われない場合よりも、飛行体100の航行及び制御をより向上させる。
【0012】
観測されたジャイロスコープ及び加速度計のオフセット(主として弾道ステージにおいて見られる)に対して、主に2通りの説明が可能である。第1の説明は、IMU110がミスアラインメントしており、且つ、飛行体100が、自身のセンタラインの周囲をかなり正確にスピンしている場合である。第2の説明は、IMU110は良好なアラインメント状態にあるが、飛行体100が、ある角度で歳差運動をしている場合である。歳差運動及びミスアラインメントは、同一の飛行体100で発生する可能性がある。飛行体100が歳差運動をしている場合である第2の説明が、図3A〜3Cに示されている。
【0013】
飛行体100は、バイアス補正ルーチン144を実行するために用いられる処理部130を備えている。バイアス補正ルーチン144は、高速スピンレートの条件下で(すなわち、飛行体100がスピンしているとき)、且つ、飛行体100が主に弾道(ballistic)飛行を経験している時(カナード展開の前)に、ジャイロスコープ及び加速度計の誤差を補正する。図1に示される実施形態では、バイアス補正ルーチン144は、処理部130で実行されるソフトウェア142により実現される。ソフトウェア142は、適宜の記憶デバイス又は媒体140に記憶されたプログラムインストラクションを含んでいる。処理部130によって実行されるソフトウェア142の一部、及び実行時にソフトウェア142によって用いられる1又は複数のデータ構造は、メモリ146に記憶される。飛行体100はまた、ホスト機体制御システム等の、飛行体100の外部にあるシステムと通信するために、トランシーバ160を備えている。飛行体100のコンポーネントは、適切なインターフェース及び配線を用いて、必要に応じて相互に通信可能に接続されている。
【0014】
代替的な実施形態では、処理部130、メモリ146、又は記憶媒体140は、例えばホスト機体制御システム210の内等の、IMU110から離間(物理的、電気的、又はその両方)して位置している。図2は、飛行体100と通信するよう構成された、ホスト機体制御システム210の一実施形態のブロック図である。バイアス補正ルーチン144は、処理部230によって実行されるソフトウェア222に実装される。ソフトウェア222は、適切な記憶デバイス又は媒体220に記憶されるプログラムインストラクションで構成される。処理部230によって実行されるソフトウェア222の一部、及び実行時にソフトウェア222によって用いられる1又は複数のデータ構造は、メモリ240に記憶される。したがって、バイアス補正ルーティン144は、飛行体100、又はホスト機体制御システム210(飛行体100の外部に位置する)にあるホスト機体制御システム220のいずれにおいても、実行可能である。
【0015】
ホスト機体制御システム210は、トランシーバ250を介して飛行体100と通信するよう構成される。ホスト機体制御システム210のトランシーバ250は、飛行体100のトランシーバ160と通信する。IMU110によって取得されるデータサンプルはホスト期待制御システム210に送信され、該システムにおいて加速度計のバイアス誤差を算出する。誤差が算出されると、ホスト機体制御システム210は、飛行体100に対して補正又は更新された飛行誘導情報を送信する。この情報は、飛行体100を誘導するための誘導システム150に提供される。ホスト機体制御システム210のコンポーネントは、適切なインターフェース及び配線を用いて、必要に応じて互いに通信可能に接続されている。
【0016】
図3A〜図3Cは、飛行体100の形状の一実施形態に関するブロック図である。図3Aは、中心軸300に沿って飛行し、回転の軸302の周りで歳差運動する飛行体100を示す。飛行体100のボディは、X軸300(本明細書では航行の中心(CON)とも称される)の方向に沿っている。回転の軸302及びX軸300の間の偏倚は、飛行体100が歳差運動をする原因となり、歳差運動の角度であるθPを規定する。歳差運動の角度は通常は小さく、例えば約0.5度である。歳差運動は、飛行体100の質量の中心が、正確に機体の中心軸300上に位置していないという不完全性に起因している可能性が高い。
【0017】
図3Bは、飛行体100におけるIMU110の加速度計モーメントアームの形状の一実施形態に関するブロック図である。IMU110は、3つの加速度計(図3参照)を備えており、それぞれが直交方向(X、Y、Z方向)の加速度を測定する。X方向は、飛行体100の運動の方向とは若干異なる中心軸300に沿っている。X軸はさらに、飛行体100のロールに対応している。Y軸304及びZ軸306はそれぞれ、飛行体100のピッチ及びヨーに対応している。
【0018】
図3Aに示されるように、飛行体100は、中心軸300とは異なる軸302の周りを回転している。歳差運動により、Y軸及びZ軸の加速度計に対するレバーアームはオフセット状態にある。本明細書では、加速度計のレバーアームは、加速度計が測定するよう設定されている方向における、加速度計及び航行の中心軸(CON)300間の距離である。
【0019】
図3Cは、運動の方向、すなわち、図面と直交する方向(X軸方向)にある飛行体100を示す。IMU110は、3つの直交方向を測定するための3つの加速度計310−X、310−Y、310−Zを備えている。点300は、中心軸に対応しており、また点302は、実際の回転の軸(飛行体100はこの点302の周りをスピンしている)に対応する。Y方向用の加速度計310−Yに対するレバーアーム誤差はdlev_y(320-Y)である。Z方向用の加速度計310−Zに対するレバーアーム誤差は、dlev_z(320-Z)である。これらdlev_y(320-Y)及びdlev_z(320-Z)の長さは、回転軸302が中心軸300からずれている程度によって異なる。飛行体100が自身のセンタラインの周りをスピンしていない場合と、飛行体100がセンタラインの周りをスピンしている場合とでは、レバーアームが異なるので、測定された加速度は明らかにバイアス誤差を含んでいる。これらのバイアス誤差を決定することで、誤差を補償することが可能になり、これらの誤差が消失して加速度推定が向上することにより、飛行体100の誘導を改善することができる。
【0020】
ラジアル加速度バイアスモデルは、加速度出力(A)=固定バイアス(b)+サイズエフェクトデルタ(δ)+ミスアラインメント+SF非線形性+横力、の形式で表されると仮定することができる。この式は、カナード展開以前の弾道飛行と関連している。このような条件下で、初めの2つの項(固定バイアス及びサイズエフェクトデルタ)が、最も重要である。他の項は無視できるほど小さいため、ゼロと仮定することができる。これらを消去すると、加速度出力Aは、以下のように表すことができる。
A=b+δ
サイズエフェクトデルタδは、
δ=ω2dlev
で求められる。ここでdlevはレバーアーム誤差(デルタレバーアーム)である。レバーアーム誤差は、IMU110CON300及びそれに関連する所定のレバーアームについての回転ではなく、回転軸302についての回転から生じる。ωは、運動の方向におけるロールレート(回転速度)である。従って、Y軸方向加速度(AY)及びZ軸方向加速度(AZ)は、以下のように求めることができる。
AY=bY 2dlev_y
AZ=bZ+ω2dlev_z
AY及びAZを、異なる時間に異なるスピンレート(回転速度)ωで少なくとも2回測定することにより、bY、bZ、dlev_y、dlev_zは、これらの連立式を解くことによって算出することができる。
【0021】
図4は、高速スピンレートでの条件下の飛行体100のリアルタイムのバイアス誤差を推定するための方法400の一実施形態を示すフロー図である。データは、弾道すなわちカナード前飛行中の第1時間及び第2時間の飛行体100に関するIMUデータストリームから抽出される。一連の第1データサンプルが、第1時間の測定で収集される(ステップ410)。一連の第2データサンプルが、第2時間の測定で収集される(ステップ420)。IMUデータは、飛行体100内(メモリ146内等)に又はIMU110内に記憶されるか、あるいは、遠隔システム(ホスト機体制御システム210等)へ送信され記憶される。一連のデータサンプルは、X軸方向のスピンレート(ω)、Y軸方向の加速度(AY)、及びZ軸方向の加速度(AZ)を含む。
【0022】
データが抽出される(少なくとも)2つの時間は、弾道飛行ステージ、すなわち飛行体100がまだスピンしており、かつ操縦翼面が展開されていない状態での時間である。説明のために、2つの時間について論述する。2つの時間は、サブスクリプト1及び2で示される。図5A〜図5Cは、飛行体の一飛行例に対応するIMUデータのグラフである。データサンプルは、100Hzデータレートで取得された。
【0023】
図5Aは、ジャイロスコープX(X軸用ジャイロスコープ)に関するIMUデータの一実施形態のグラフである。線510は、角度/秒(°/s又はd/s)で表された、飛行体100の回転速度ωである。ポイント530は、カナードショック(すなわち、カナード152の展開)の状態を示している。カナード152が展開されると、飛行体100は、自身のスピンを減少し、また反対方向にスピンされることもある。ポイント540では、飛行体100は、ポイント530以前の回転方向とは反対方向に、自身の最大速度でスピンしている。20秒以降の時間では、飛行体100は、スピンしていない(又はゆっくりスピンしている)。
【0024】
測定の時間1及び2は、スピンレートω及びωが異なっている時間が選択される。ω及びωの相違が大きい程、より正確にバイアスを推定できる。一実施形態では、時間1は、ωが最低値を超えた時間として選択される。その実施形態において、飛行開始から3秒間でのωの最低値は1500°/sである。図5Aでは、ωは時間520−1(時間1)で測定され、ωは時間520−2(時間2)で測定される。実施形態では、異なるクライテリアを用いて、ωを測定するための時間2を選択しており、例えば、ωが閾値(2500°/s等)を超える場合、最大値(つまり、特定の飛行に関する最大スピン)を超える場合、又はωのある割合を超える場合(ω>Kωである場合、ここでKは1.25等の定数)であるが、これに限定するものではない。
【0025】
図5Bは、Y軸用の加速度計310−Yに関するIMUデータのグラフであり、飛行時間(秒)に対して、重力単位(g)の加速度がプロットされている。ポイント550−1及び550−2は、スピンレートωが測定された時間520−1及び520−2に対応している。時間1(ポイント550−1)で、Y軸加速度計310−Yの第1データサンプル(加速度)AY1が測定される。時間2(ポイント550−2)で、Y軸加速度計310−Yの加速度の第2データサンプル(加速度)AY2が測定される。同様に、図5Cは飛行航路中にZ軸加速度計310−Zが検出した加速度を示す。時間1(ポイント560−1)で、Z軸加速度計の第1加速度AZ1が測定され、時間2(ポイント560−2)で、Z軸加速度計の第2加速度AZ2が測定される。一例では、ω、AY1、及びAZ1は発射後4〜5秒の間に収集され、且つω、AY2、及びAZ2は発射後12〜13秒の間に収集される。実際には、測定値は、これらの1秒間の間に収集された100Hzのデータの平均値となる。一実施形態では、時間1で、一連の第1のデータサンプルの全ての測定値が収集され、また時間2で、一連の第2のデータサンプルの全ての測定値が収集される。別の実施形態では、データセット内でデータサンプルが収集される正確な時間に関しては、別の時間としてもよい。
【0026】
代替的な実施形態では、データサンプルが飛行中に継続的に収集される。この実施形態では、ウィンドウ(0.5秒等)内のデータサンプルのみが用いられる。ウィンドウは、例えば最低及び最高スピンレート(回転速度)、又はスピンレートの割合に基づいて、又はある経過時間の後に、事前に決定される。これらのウィンドウ内のデータは、時間1及び時間2のための平均値を得るために平均化される。
【0027】
別の実施形態では、データ品質メトリック(DQ)が、計算される。このデータ品質メトリックは、データサンプルのランニングアベレージの標準偏差が所定レベルを下回っていることを確認するためのものである。複数のデータサンプルを平均化することによって、AY1、AZ1、AY2、及びAZ2が算出される一実施形態では、標準偏差が所定の閾値以上ではないことを保証するために、平均化されるデータサンプルの標準偏差がチェックされる。これによってノイズ及びデータスパイクの影響が低減されるため、その結果として平均値がより信頼に値することが保証される。バイアスの平均推定になるデータの標準偏差が低いほど、その結果として生じるバイアス推定b及びbZの不確実性も低くなる。
【0028】
一実施形態では、推定品質のインジケータ(本明細書では品質の推定インジケータとも称される)が、処理部130に提供される。処理部130は、品質の推定インジケータに基づいた加速度計バイアス推定を使用するかを決定する。一実施形態では、第1の推定加速度計バイアスの品質が閾値を下回っていることを示す警告が出力される。警告は、処理部又はユーザに対して(ディスプレイ、スピーカ、ソフトウェアデータ商品又は同様のもの等を介して)出力することができる。推定の品質が所定の閾値を下回っていれば、処理部130は、加速度計バイアス推定を用いて飛行体100のフライトソリューションを補正することはない。推定の品質が閾値を上回っていれば、加速度計バイアス推定が、飛行体100のフライトソリューションを補正するために使用される。別の実施形態では、推定の品質インジケータは、ホスト機体制御システム210に出力され、そこで加速度計バイアス誤差を飛行体100の飛行制御に使用するかが決定される。
【0029】
別の実施形態では、バイアス推定の品質が閾値を超えていて(つまり、推定が正確である)、バイアス誤差推定値が所定の閾値を超えている場合(許容不可能に大きなバイアス誤差を示している場合)は、警告が誘導システム150に発せられ、誘導の禁止、カナード152の展開の禁止、又は機体ミッションの停止を表示する。このように、算出された推定加速度計バイアスは、許容可能な加速度計バイアス誤差の閾値に基づいて、誘導システムに対して、第1の加速度計バイアス推定が大きすぎて適切な航行ができないという警告メッセージを生成するために用いられる。
【0030】
同様にして、推定が無効であることを示すテスト出力(例えば、「推定無効」のテスト出力)が処理部130に出力され、該処理部はエンドユーザに推定を使用すべきでないことを表示する。推定が無効である場合の例は、推定値AY1、AZ1、AY2、及びAZ2を得るためのデータの標準偏差が所定の閾値を超える場合、誤差推定の不確実性が、カナードショック後に補正が可能な誤差量を超える場合、又は、従前のノミナル飛行特性からみて補正可能な誤差量を超えている場合が含まれる。第1及び第2の回転軸の回転速度(ローレイト)推定値の差(ω−ω)の大きさが充分でない場合もまた、推定は無効となる。ω−ωが所定値以下である場合、bY又はbZは無効とされる。
【0031】
全てのデータサンプルが収集されると、方法400は、加速度計バイアス補正bY及びbZを算出する(ステップ430)。加速度計バイアス補正bY及びbZは、残りの飛行のために、リアルタイムのロー(raw)加速度計出力A及びAに追加される。Y軸加速度計310−Yに対する加速度計バイアス補正bYは、
bY=(AY2ω12−AY1ω22)/(ω12−ω22
によって求められる。
また、Z軸加速度計310−Zに対する加速度計バイアス補正bZは、
bZ=(AZ2ω12−AZ1ω22)/(ω12−ω22
によって求められる。
【0032】
レバーアームデルタ(レバーアーム誤差)dlev_y及びdlev_zもまた算出される(ステップ440)。Y軸及びZ軸に対するレバーアームデルタdlev_y及びdlev_zは、以下の式で求められる。
dlev_y=(AY1−AY2)/(ω12−ω22
dlev_z=(AZ1−AZ2)/(ω12−ω22
レバーアームデルタは、飛行体のミスアラインメントを算出するのに用いられる。Y軸及びZ軸加速度計のミスアラインメントδY及びδZは、以下の式で求められる。
δY=ωdlev_y
δZ=ωdlev_z
【0033】
追加的には、ラウンドレベル(round-level)のミスアラインメントは、飛行体100がスピンしている間にジャイロスコープから算出できる。ラウンドレベルのミスアラインメントは、
ωY/ωX、及びωY/ωX
で与えられる。ラウンドレベルのミスアラインメントは、観測されたジャイロスコープ及び加速度計の測定値に対する補正をするために用いられる。
処理部130は、入力(すなわち、デルタサンプル)の異なるレベルの帯域幅制御をバイアス補正ルーチン144に提供する。帯域幅制御のパラメータは、AY1、AZ1、AY2、及びAZ2を平均化するためにデルタサンプルが取得された期間、並びにこれらの期間の時間間隔を含む。
【0034】
メモリ146(メモリ240も同様)は、汎用又は専用のコンピュータ又はプロセッサ、あるいは任意のプログラム可能論理回路によってアクセス可能な任意の利用できる媒体として実現される。適切な記憶デバイス又は媒体140(媒体220も同様)は、例えば不揮発性メモリの形態を含み、例としては、半導体メモリデバイス(消去可能プログラム可能読み取り専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラム可能読み取り専用メモリ(EEPROM)、及びフラッシュメモリデバイス等)、磁気ディスク(ローカルハードディスク、及びリムーバブルディスク等)、及び光ディスク(コンパクトディスク−読み取り専用メモリ(CD−ROM)ディスク等)が含まれる。さらに、記憶デバイスすなわち媒体140は、飛行体100に搭載する必要はない。処理部130によって実行されるソフトウェア142の一部、及び実行中にソフトウェア142によって使用される1又は複数のデータ構造は、メモリ146に記憶される。メモリ146は、既知の又は今後開発される任意の適宜の形状のランダムアクセスメモリ(RAM)、例えばダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)である。別の実施形態では、別のタイプのメモリが用いられる。
【0035】
上述の種々の実施形態は、誘導兵器のアプリケーションに使用するための、高速スピンレート時のバイアス推定技術を提供するものである。バイアス補正ルーチン144を実行することにより、飛行体100は不所望に大きい加速度計バイアスを除去することができ、それによって標的への航行を改善することができ、また追加的な機能が、飛行体100の飛行中のテストに応用される。加速度計バイアス及びジャイロスコープのミスアラインメントは、IMUデータから算出される。補正ステップすなわちバイアス誤差及びミスアラインメントの補償ステップは、発射後(例えば発砲後)のIMU測定値の精度を向上させる。いくつかの実施形態の利点は、レート及び加速度の誘導推定が、飛行体100の機体又は発射体の形状の不精密さ及びばらつきにあまり反応しないようにすること、並びに、レート及び加速度において明らかな誤差を発生する回転飛行誤差を、周期運動(歳差運動等)で明らかにすることを含む。
【0036】
以下の請求項で規定される本発明についての多くの実施形態が記載された。しかしながら、上述の実施形態に対して、本請求項に係る発明の精神及び範囲を逸脱すことなく、多様な変形が可能であることが理解されよう。さらに、記載された任意の特定の実施形態の様態は、それが別の実施形態には記載されていない場合であっても、別の実施形態と組み合わせてもよい。したがって、別の実施形態も、以下に記載の請求項の範囲に含まれる。代替的な実施形態は、GPS受信機120を使用しない、又は備えていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速スピン状態(510)で飛行中の飛行体(100)に対するバイアス誤差を推定する方法であって、
第1時間において一連の第1のデータサンプルを収集するステップ(410)と、
第2時間において一連の第2のデータサンプルを収集するステップ(420)と、
第1及び第2のデータサンプルから、少なくとも第1の推定される加速度計のバイアスを算出するステップ(430)と
を含み、
第1時間(520−1)及び第2時間(520−2)は、飛行体の展開後でカナードショック(530)前であり、
第1及び第2のデータサンプルは、少なくとも第1のジャイロスコープ(112)からのロールレートデータ、少なくとも第1の加速度計(310−Y)からの加速度データ、及び該第1の加速度計が測定する加速度方向に対して直交する方向の加速度を測定する第2の加速度計(310−Z)からの加速度データを含んでいる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、少なくとも第1の推定加速度計バイアスを算出するステップは、
第1の加速度計に対する推定加速度計バイアスbYを、
bY=(AY2ω12−AY1ω22)/(ω12−ω22
ただし、ω:第1のジャイロスコープからの第1時間のロールレート
ω:第1のジャイロスコープからの第2時間のロールレート
AY1:第1の加速度計によって測定された第1時間の加速度
AY2:第1の加速度計によって測定された第2時間の加速度
によって計算するステップと、
第2の加速度計に対する推定加速度計バイアスbZを、
bZ=(AZ2ω12−AZ1ω22)/(ω12−ω22
ただし、AZ1:第2の加速度計によって測定された第1時間の加速度
AZ2:第2の加速度計によって測定された第2時間の加速度
によって計算するステップと
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、第1の推定加速度計バイアスを算出するステップは、
第1の加速度計に関するレベルアームバイアス誤差dlev_yを、
dlev_y=(AY1−AY2)/(ω12−ω22
により計算するステップと、
第2の加速度計に関するレベルアームバイアス誤差dlev_zを、
dlev_z=(AZ1−AZ2)/(ω12−ω22
により計算するステップと、
Y軸加速度計のミスアライメント誤差δYを、δY=ωdlev_yにより計算するステップと、
Z軸加速度計のミスアライメント誤差δZを、δZ=ωdlev_zにより計算するステップと
を含んでいることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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