説明

高速衝撃性能が向上した布帛構築体

衝撃発射体耐性または耐穿刺性の物品の製造用の糸による布帛であって、布帛は、布帛の平面内に平行配向された糸の第1複数体を有し、それは布帛の平面内において第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、布帛の平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、第1複数体の任意の繊維糸と第2複数体の繊維糸が交差して90度未満の測定角度を有する一対の鋭角の対頂角を形成している、布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛構築体およびそれから作り上げられる柔軟な防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
保護用防護服(衝撃および刺傷タイプの脅威に対して保護となるものなど)は、長い間、大いに興味をそそる分野となっている。防護服の製造における1つの課題は、着用者の機敏さの妨げとならないように防護服の重量(または面密度)を最小限に抑えつつ、着用者が現場で曝されることのある特定の脅威から十分保護することである。
【0003】
衝撃発射体の脅威(変形しうる弾丸および変形しない榴散弾など)に対する任意の装甲材料の保護能力を特徴付けるためには、材料の面密度および大きさならびに発射体の性質(質量、硬さ、形状など)に関して、何らかの衝撃速度限界の測定を行う必要がある。1つの一般的な衝撃限界性能基準は、衝撃V50、つまり防護服が発射体の50%を阻みうる速度である。防護服のV50を求めるための特定の試験手順および計算手順は、国立司法研究所(NIJ)のStandard−0101.04 Ballistic Resistance of Personal Body Armor(2000年9月)に略述されている。発射体の貫通を阻止する防護服の能力以上に、警察官、警備要員、および看守が着用する隠し防護服(concealable body armors)での高速衝撃(ballistic impact)に関連した鈍的外傷を最小限に抑える必要は、NIJ Standard−0101.04で説明されている更なる安全要求事項になっている。この規格は、粘土証拠物(clay witness)シミュレーション材料の上に置かれた防護服の高速衝撃に関連した背面形跡(backface signature)の測定による鈍的外傷の許容レベルに関する、試験手順および性能要件を略述している。NIJ Standard−0101.04では、許容できる背面変形量は、粘土証拠物(Roma Plastilina粘土、粘土証拠物の深さが5.5インチ(140mm))の44mm以下と定義されている。
【0004】
NIJ Standard−0101.04では、様々なタイプの発射体および衝撃エネルギーレベルに固有の衝撃要件を規定している。柔軟防護服に関する3つの一般的なNIJ脅威レベルとして、脅威レベルII、IIA、およびIIIAがある。脅威レベルIIは、高速度の357マグナム弾(10.2g(158gr))および9mmの弾丸(8.0g(124gr))(衝撃速度がそれぞれ約1400ft/s(427m/s)未満および1175ft/s(358m/s)未満)と関係している。レベルIIAは、公称質量(nominal mass)が11.7g(180gr)である低速度の40S&W口径のフルメタルジャケット弾(full metal jacket bullets)、および9mmの8.0g(124gr)の弾丸(衝撃速度がそれぞれ約1025ft/s(312m/s)未満および約1090ft/s(332m/s)未満である)と関係している。脅威レベルIIIAは、15.6g(240gr)の44マグナム弾および短機関銃の9mm(124gr)の弾丸(衝撃速度が約1400ft/s未満である)と関係している。
【0005】
上述の衝撃性能要件は、幾つかの市販の耐衝撃材料のいずれかまたは前記材料の組合わせを用いて満たすことができるが、その一方で、柔軟防護服の製造の課題は、受け入れ可能な安全限界で貫通を防止するため、また背面変形を最小限に抑えるために必要な衝撃層を選択および配置すると共に、快適性を向上させるために防護服の重量、大きさおよび剛さを最小限に抑えることである。
【0006】
市販の耐衝撃材料としては、様々な織られた衝撃繊維糸の布帛、衝撃布帛補強複合材、衝撃繊維の一方向ラミネートおよび不織布がある。こうした様々な構造体のうち、高強度の繊維糸から製作される織られた布帛は、柔軟防護服の製作での使用において最も長い歴史がある。機織りは、長い間、高強度の繊維糸から耐衝撃性布帛プライを均一に作り出すための比較的安価な方法とされており、これは、接着樹脂によって化学的に固定する(その場合、更なる重量および剛さが衣料品にもたらされうる)のではなく、糸を機械的に相互に絡み合わせるか、または「インターレース」して糸を所定の位置に保持することに依拠するものである。耐衝撃性布帛で製作された柔軟防護服は、非常に多くの場合、使用時にいっそうぴったり合い、柔軟であるので、一方向繊維ラミネートまたは樹脂含浸布帛などの堅い背面制御層(backface control layers)を含んでいるハイブリッド防護服(hybrid armors)よりも優れた快適性をもたらす。加えて、織られた高強度の繊維糸で全体が作り出された耐衝撃性衣服は、何年間か使用され摩耗した後でも耐衝撃性を維持することが明らかになってきた。すべてが織られたものである耐衝撃性ベストに代わるものが市販されている。そのような物品は、高強度の繊維、マトリックス樹脂およびフィルムを組み合わせて作られるので、多くの場合、製造コストが高くなる。加えて、衝撃繊維の物理的性質とは異なる、温度および歪みに左右される物理的性質(例えば、熱膨張係数、モジュラスなど)を有する構成材料のせいで、こうした複合層は、選択した材料の最も弱い点によって決まる耐用期間を有することが多い。
【0007】
典型的な織られた二軸の耐衝撃性布帛(布帛平面内に2つの糸配向を有する、織り交ぜられ織り合わさった糸からなる布帛)は、自動織機で作り出される。こうした機織り操作により、織り交ぜられるよこ繊維糸が、たて方向(つまり、流れ方向)のそうした糸に対して90度ずれている織られた布帛が作り出される。布帛の性質は、4つの基本変数(糸デニール、糸カウント、織目および織物仕上げ)に大きく左右される。平織り、サテン織り、綾織、バスケット織、およびからみ織を含め、布帛には幾つかのスタイルがある。上記の布帛のみを使用して最小衝撃性能要件を満たすことは、衝撃防護服の製造業者にとって挑戦となる。多数の低カバーファクター(疎織(loosely woven))の耐衝撃性繊維糸布帛は、所望の面密度において申し分のないV50性能をもたらす(それから製作されたベストは、NIJ Standard−0101.04に略述されている限界値より間違いなく上の速度でも発射体がベスト材料を貫通するのを何度も防ぐことを示すことができる)が、十分な背面変形抵抗はもたらされない。その逆に、同じベスト面密度の高カバーファクター(いっそう密に織られた)の耐衝撃性繊維糸布帛を使用した場合、背面変形性能は向上するが、V50性能がかなり低下することが多く、時には背面形跡測定に必要なNIJ Standard−0101.04の速度に達しないこともある。すべてがp−アラミド繊維糸(Kevlar(登録商標)またはTwaron(登録商標)という商品名で販売されているものなど)であって、NIJ Standard−0101.04の44マグナム弾衝撃危険に関するレベルIIIAの背面要件を満たすことのできる、面密度が1 lb/ft2未満の織られた布帛ベストは、現在市販されていない。
【0008】
柔軟防護服の背面形跡を減少させる一般的な一方法は、衝撃時の変形を防ぐために、高強度繊維の硬質プライまたは布帛補強樹脂複合プライを含めるというものである。これには、織られた衝撃布帛に高分子フィルムを結合させるかまたはポリマーコーティングを施すか、あるいは低い溶融温度のポリマーフィルムまたは感圧接着剤を用いて2つの織られた衝撃布帛層を結合させて、衝撃防護服構造体に(背面形跡を向上させるために)追加することができる耐衝撃プライを得るというものも含まれ、これは、国際公開第00/08411号パンフレット、米国特許第5,677,029号明細書、および米国特許出願公開第2003/0109188号明細書に記載されているとおりである。樹脂またはエラストマー含浸の衝撃繊維布帛は、衝撃背面形跡を向上させるために衝撃ベスト構造体に追加する別のタイプの複合プライである。こうした層を追加すると、防護服材料の背面形跡性能が向上することが明らかになっているが、V50性能に対して悪影響を及ぼしうることが多い。さらに、樹脂により、衝撃ベスト組合せ体の重量および剛さが増大する。
【0009】
ポリマーマトリックス中の平行に配向した高強度繊維の第1複数体(first plurality)が、ポリマーマトリックス中の平行に配向した高強度繊維の第2複数体(second plurality)に接着結合したものからなり、第2複数体の繊維の配向が第1複数体の配向に対して多くの場合90度ずれている一方向繊維ラミネートは、安全なV50性能を維持しながら良好に背面外傷を制御できる一般的な耐衝撃材料になってきている。こうした一方向繊維ラミネートの作製方法は、一般的に、米国特許第4,916,000号明細書;米国特許第4,748,064号明細書;米国特許第4,737,401号明細書;米国特許第4,681,792号明細書;米国特許第4,650,710号明細書;米国特許第4,623,574号明細書;米国特許第4,563,392号明細書;米国特許第4,543,286号明細書;米国特許第4,501,854号明細書;米国特許第4,457,985号明細書、および米国特許第4,403,012号明細書に記載されている。こうした一方向ラミネートは、Honeywell International,Inc.からSpectra Shield(登録商標) Plus FlexおよびGold Flex(商標)という商品名で、またDSMからDyneema(登録商標)UDという商品名で市販されている。こうした一方向繊維ラミネートは単独で使用して衝撃防護をもたらすことができるが、米国特許第6,119,575号明細書に示されているように、こうした材料を織られた衝撃繊維糸布帛と組み合わせて使用すると、性能を低下させずに面密度をさらに減少させられることが、明らかになっている。
【0010】
ベストにおいて一方向繊維または布帛と樹脂との複合層を使用することに関係した性能の向上は、米国特許第6,119,575号明細書で論じられているように、複数プライ構造体中でのその位置に大きく依存しうる。文書に記録されている多数の例では、こうしたより堅い複合層を従来の衝撃布帛の背後に配置すると、背面形跡およびV50性能が最適になる。この「片面配置(sidedness)」のせいで、こうしたハイブリッド衝撃ベスト構造体は、不注意で裏返しに着用されるか、または戦術ベスト(tactical vest)に誤った仕方で挿入されうるので、発射体脅威からの保護は最適とは言えないものとなる。したがって、一体構造の(まったく同様の耐衝撃材料プライからなる)、または前後で同等の耐衝撃性のある防護服構造体には価値がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高速衝撃に関連した鈍的外傷を減少させることのできる、すべてが織られた布帛である軽量の防護服が必要とされている。本明細書に記載される本発明の二軸(布帛平面内において2つの別個の配向を有する織り合わさった繊維糸を含んでなる)布帛構築体および柔軟防護服構造体が登場する以前には、文書に記録されたもので、NIJ Standard−0101.04の44口径の変形可能発射体に関する背面要件(1430±30ft/s(436±9m/s)の発射体速度で44mm未満の背面形跡)を満たし、約1 lb/ft2未満の面密度を有する、すべてが織られたp−アラミド布帛の衝撃防護服は存在していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施態様によれば、本発明は、衝撃発射体耐性物品または耐穿刺性物品の製造用の糸から織られる二軸布帛(biaxial fabric)であって、前記二軸布帛が、布帛平面内に平行配向された糸の第1複数体を含み、第1複数体が、布帛平面内において第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、布帛平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、第1複数体の任意の繊維糸と第2複数体の繊維糸が交差して90度未満の測定角度(angular measurement)を有する一対の鋭角の対頂角を形成する、衝撃発射体耐性物品または耐穿刺性物品の製造用の糸から織られる二軸布帛に関する。
【0013】
別の実施態様では、本発明は、芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアレニアゾール(polyareneazole)、ポリエステル、レーヨン、液晶高分子、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック、ポリアクリロニトリルおよびポリビニルアルコールを含む群から、単独でまたは組み合わせて選択される糸を含む複数の実質的に非付着性の不織または織られた布帛層から組み合わせて作られる衝撃発射体耐性または耐穿刺性の多層物品であって、その組合せ体内の少なくとも1つの層が、二軸布帛であって、布帛平面内に平行配向された第1複数糸を含み、第1複数糸が、布帛平面において第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する布帛平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、第1複数体の任意の繊維糸と第2複数体の繊維糸が交差して90度未満の測定角度の一対の鋭角の対頂角を形成する二軸布帛である、多層物品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】先行技術の織られた布帛の例である。
【図2】本発明の耐衝撃性布帛構造体の一実施態様を拡大した画像である。
【図3A】従来の織られた布帛のロールからバイアス配向(bias−oriented)の布帛細片を作る場合を示したものである。
【図3B】3Aに示したロールから切り取った布帛を菱形格子状化(trellising)器具に固定したものを示す。
【図3C】菱形格子状化器具に固定して伸張した布帛を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書用の用語集
鋭角 − 大きさが90度未満の角度
【0016】
織られた布帛 − 一方向に配向した繊維糸の1つの複数体が、その第1複数体の方向とは異なる方向に配向した糸の第2複数体と織り交ぜられているものを含んでなる布帛。流れ方向に整列された平行糸の第1複数体を、たて糸と呼ぶ。たて糸に対して90度で配向した織り交ぜられた糸を、よこ糸または横糸と呼ぶ。
【0017】
バイアス織またはバイアス配向の布帛 − 布帛のXY平面内(ここで、Xは流れ方向(長さ)であり、Yは横方向(幅)である)に配向されたときに、布帛平面内のXおよびY軸とは異なる方向に配向された織り合わさった糸を含む、織られるかまたは編まれた二次元の布帛。
【0018】
バイアス配向方向(Bias orientation) − 布帛平面内の一方向に配向した複数の糸が、その最初のものとは異なる配向を有する糸の第2複数体と織り交ぜられているものを含んでなる二軸布帛では、第1複数体の糸の繊維と第2複数体の糸の繊維との間に形成される任意の角を二等分する任意の射線に平行している方向のこと。
【0019】
一方向繊維層 − 共通の繊維方向に沿って実質的に平行に配列された繊維を有する層。
【0020】
複合布帛プライ − 1つの織られた布帛層と少なくとも1つの第2層(別の布帛層、一方向繊維層、高分子フィルム、布帛構成体に含浸させた高分子樹脂などであってよい)とを組み合わせたもの。1つの織られた布帛層を、縫い付け、溶融接着剤、感圧接着剤、圧縮成形、コーティングなどによって第2層と結合させることができる。
【0021】
補角 − 2つの角度は、それらの測定角度の合計が180度に等しい場合に補角と呼ばれる。補角の一方は、他方を補足するものであると言われる。
【0022】
対頂角 − 以下の図のような、交差する任意の2本の線(射線)では、角度Aおよび角度Bを対頂角と呼ぶ。対頂角は、同じ測定角度を有する。角度Cおよび角度Dも対頂角
【0023】
【表1】

【0024】
格子角(Trellis angle) − 二軸布帛において、布帛平面内で配向が異なる任意の2本の糸の間に形成される鋭角であって、どちらのバイアス方向においても、編まれた二軸構成体で観察されるか、または二軸織物構造体の面内の延長によって実現されるもの。
【0025】
格子方向(Trellis direction) − 鋭角の対頂角を二等分する線と平行している方向。
【0026】
カバーファクター − 丸い糸形状を想定した場合に、糸がカバーする布帛の表面積の割合。
【0027】
V50 − V50衝撃限度試験は、もともとは頑丈な装甲を評価するために米軍によって開発された統計的検定である。V50試験では、弾丸が試験用物体を貫通する確率が50パーセントである速度を実験的に突き止める。
【0028】
背面形跡(BFS) − 貫通しない発射体の衝撃によって作り出される、裏材料に生じるへこみの深さ。背面形跡は、裏材料固定具の前端部によって画定される平面から測定する。国立司法研究所(National Institute of Justice)(NIJ) Standard−0101.04の個人用防護服の耐衝撃性(Ballistic Resistance of Personal Body Armor)によれば、その値が限界値44mmを超えることは許されない。
【0029】
本発明は、様々な実施態様において、新規の種類の耐衝撃性布帛構築体、並びに衝撃層およびそれから作られる多層防護服構造体(従来の織られた衝撃布帛よりも衝撃背面変形の向上したもの)を対象としている。本発明の一実施態様は、従来の衝撃布帛では決して実現されなかった大幅な背面形跡の向上を防護服にもたらすことができる衝撃布帛構築体を作り出すことを含む。本発明の第2の実施態様は、防護服組合せ体用の衝撃布帛構築体からバランスの取れた衝撃層を作り出すことである。本発明の第3の実施態様は、本発明の衝撃布帛構築体を組み込んだ特殊な多層ベスト構造体を製作することである。
【0030】
本発明の第1の実施態様は、織られた布帛10の先行技術の例を示す図1を最初に参照して説明することができる。この図は、マルチフィラメント糸を含んでなる平織構造体の例を拡大して示しており、布帛平面内で方向が平行している糸の第1セット1(Xで示されている)の交差が、布帛平面内で平行していて第1セットのそれから90度ずれている糸の第2セット2(線Yで示されている)と織り交ぜられている。第1セットの糸と第2セットの糸との交差によって角度A〜Dが形成され、それぞれの大きさは90度である。線Lは、角度AおよびBを二等分するものとして示されている。
【0031】
本発明の第1の実施態様は、布帛平面内に平行配向された糸の第1複数体を含む織られた布帛構築体であって、第1複数体が、布帛平面内において第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、布帛平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、第1複数体の任意の繊維糸と第2複数体の繊維糸が交差して、90度未満の測定角度を有する一対の鋭角の対頂角と、必然的に90度より大きい測定値を有する一対の鈍角の対頂角(前述の鋭角の角度を補うもの)とを形成する、織られた布帛構築体である。本発明の衝撃布帛の配列10’を図2に示すが、これは、布帛平面内に配向された平行な糸の第1複数体1’(線X’で示されている)が、第1複数体とは異なる配向を有する、布帛平面内における平行な糸の第2複数体2’(線Y’で示されている)と織り交ぜられているものを含んでなり、第1複数体1’の任意の繊維糸と第2複数体2’の任意の繊維糸との交差により布帛平面内に一対の対頂角が形成され、鋭角の対頂角A’およびB’の測定角度は値が等しくかつ90°未満であり、鈍角の対頂角C’およびD’の測定角度は値が等しくかつ90°より大きい。本発明の布帛は、図3A〜3Cを参照しながら以下に説明するように、元の布帛を格子方向に伸張することによって実現できる。本開示の目的においては、本出願人は、こうした布帛の配向または格子延長方向を、図2に示すように、角度A'およびB'を横切って鋭角の対頂角を二等分する線L’に平行な方向として表すことにする。
【0032】
本発明の範囲は、図1に示されている平織り布帛でのインターレースと類似している、図2に示されているような1つおきに糸が1つ1つ重なる交互構造で織り合わさった糸からなる構造体に限定されない。それどころか、本発明の範囲は、布帛平面内の一方向の糸が、考えられる任意の特定の繰り返しパターンで、第2方向に配向した2本以上の隣接糸の上または下を交互に横切ることができる構築体を含み、それには、例えば、サテン織(3ハーネスサテン織、4ハーネスサテン織(クローフート(crow’s foot))、5ハーネスサテン織、および8ハーネスサテン織などを含むが、これらに限定されない)、バスケット織、およびあや織構成体のバイアス方向の伸張によって構成することができる布帛構築体があるが、これらに限定されない。
【0033】
本開示で説明した耐衝撃性構築体を構成するのに用いる繊維糸は、引張強度が約8g/デニールより大きいか、より好ましくは約12g/デニールより大きいであろう。本発明の一実施態様では、布帛糸中の繊維は、芳香族ポリマー材料で作られるであろう。芳香族ポリマーとしては、芳香族ポリアミド(E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,DE)(DuPont)からKevlar(登録商標)という商品名で販売されており、帝人からはTwaron(登録商標)として入手可能なポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)など)、およびNomex(登録商標)という商品名で販売されているポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(東洋紡績から入手可能なPBO)、ポリベンゾキサゾール、ポリベンゾチアゾールがある。他の芳香族ポリマーとしては、芳香族不飽和ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、液晶サーモトロピックポリエステル(クラレから入手可能なVectran(登録商標)という商品名で販売されているものなど)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミドおよび芳香族ポリエステルイミドがある。上に述べた種類の任意の物質のコポリマーも使用できる。
【0034】
12g/デニールより大きな強度を有する、こうした織られた構築体を製作するのに使用できるであろう他の衝撃グレードの繊維糸としては、Dyneema(登録商標)という商品名でDSMから市販されており、またSpectra(登録商標)という商品名でHoneywell Internationalから市販されているポリオレフィン(特に注目すべきは、高分子量ポリエチレン)、高分子量ポリプロピレンおよびそれらのコポリマーがある。
【0035】
本開示で示す例示的ケースでは、バイアス配向布帛細片は、流れ(長手)方向に配向したたて糸繊維と、たて糸繊維の方向に対して90度に配向したよこ繊維糸(流れ方向を横断して、布帛ロールの軸に平行している)とを有する布帛ロールから、衝撃布帛を切り取って得た。こうした細片は、図3Aに示すように、バイアス方向に切り取って準備した。次いで、布帛は、図3Bおよび3Cに示す菱形格子状化器具にいったん固定し、伸張して耐衝撃性バイアス布帛構築体を形成した。
【0036】
上記の方法は、本明細書に示す実例を作り出すのに適切であったが、こうした構成体を経済的に作り出す方法では、連続長さ(continuous running lengths)およびベストを切り取るのに十分な幅を有する、所望の格子角を作るために伸張したバイアス配向布帛を製造する必要があるであろう。バイアス配向布帛を作り出す方法は、特許文献に開示されている。その例として、米国特許第6,494,235号明細書、米国特許第6,494,238号明細書、米国特許第4,907,323号明細書および国際公開第99/55519号パンフレットがある。バイアス配向の織物構成体は、当業界で知られている編み工程を用いて作り出すこともでき、これにより、連続布帛シートを直接作り出すか、または管の軸に平行な一側面に沿って細長く切ってバイアス配向布帛の平らな連続シートを製造することのできる管状構造体を作り出すかのいずれかを行う。バイアス配向布帛の連続シートを製作する第2の手段は、たて糸繊維が管の軸に平行に配向され、よこ糸繊維が周方向に配向される管状織機(tubular loom)から作り出される管状布帛を、螺旋状に切り取るものであろう。これも米国特許第4,299,878号明細書に記載されている。
【0037】
本発明の第2の実施態様は、衝撃防護服を構成するのに使用できる、独立している格子状布帛構築体または格子状布帛複合プライを作り出すことである。格子状衝撃構築体のそのような安定化層は、衝撃防護服の製造者によって使用される連続ロール状品(continuous rolled good)として提供できる。本発明のこの構築体を有する個別の布帛層は、安定化手段がなければ、非等方性のゆえに本来的に不安定であることを理解しなければならない。すなわち、布帛層は、ほとんど変わらずいっそう均衡の取れた構造に容易に逆戻りする(元に戻る)傾向がある(鋭角の測定角度の増大によって示される)。このため、こうした布帛構築体は、防護服を組み合わせて作る時に望ましくない逆戻りを起こさないように取り扱うのが困難になる。個々の布帛層において格子状にされた状態を維持するのに用いる一方法として、いったん所望の格子角にされたなら、裁縫作業によって縫い付けるという方法がある。どんな方向に縫い付けてもいくらかの安定性を衝撃布帛に与えうるが、「元に戻る」傾向を防ぐ最も効果的な縫い付けは、格子方向の方向に対して垂直な方向に縫い付けることである。所望の鋭角の格子角になるまで伸張した細長いバイアス配向の布帛を横切るように一定間隔でこのようなやり方で縫い付けると、安定化した単一の布帛シートが得られる。あるいはまた、ポリマー層(格子布帛の「元に戻る」傾向に対抗するための十分な程度の寸法安定性/逆戻り抵抗性(reversion resistance)を有する)を、格子状布帛層に接着して、構造を維持しやすくすることができる。そのようなポリマー層は、(加熱プラテン圧縮または加熱カレンダー加工によって)布帛に溶融結合された薄膜の形態か、または伸張状態を保ちつつ、布帛の片面または両面に施してから乾燥させるポリマーコーティング(溶剤をベースにしたものか、またはエマルジョン/ラテックス)の形態であってもよい。そのようなポリマー層は、布帛の表面全体を覆うという点で連続あってよいか、または衝撃層への重量および剛さの影響を最小限に抑えるために布帛構築体の表面全体にわたって不連続であってよい。樹脂の不連続コーティングには、布帛上の樹脂の穴あきパターン(open patterns)または線または不連続スポットが含まれる。これは、布帛表面に溶着させることができる穴あきパターンの形に切り取られた溶融接着フィルムを用いて達成できる。あるいはまた、溶剤をベースとするポリマーコーティングまたはポリマーエマルジョン/ラテックスは、グラビア印刷法などを用いて、前述の不連続なやり方で格子状布帛に転写することができる。
【0038】
上述の個別の本発明の格子状にされた布帛層及び/または複合プライは、衝撃防護服全体を構成するのに使用できるか、または他の耐衝撃材料と組み合わせて衝撃防護服に使用することができる。縫い付けるか、または接着されたポリマーのフィルムまたはコーティングで安定化された構成体は、防護服内に様々な配列で積み重ねることができる。
【0039】
バランスの取れた複合布帛プライは、格子状布帛構築体の2つを一体化し、一方の布帛の鋭角方向または格子方向(2本の織り交ぜられた糸によって形成される鋭角の対頂角を二等分する線と平行になっているものと定義される)が、第2格子状布帛構築体の鋭角方向に対して90度の角度で配向するように組み合わせることによって作り出すこともできる。得られた布帛の2つの層は、裁縫作業で縫い付けて結合するか、感圧接着剤で接着するか、層間にポリマーフィルムまたは熱可塑性エラストマーフィルムを置いて溶融接着によって付着させて一緒にするか、接着を促進するため融点より上まで加熱しつつプレスまたはカレンダー加工操作で層を圧縮して一緒にすることができるであろう。2つの材料層を一体化して一緒にするのに、熱硬化性の樹脂またはエラストマーも使用できる。ポリマーコーティングで安定化される単一布帛層構築体の場合と同様に、こうした2つの布帛のサンドイッチ構造ラミネートの剛さおよび重量を少なくする手段として、不連続コーティングが最も好ましい。
【実施例】
【0040】
比較例1
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、JPS Industries Inc,Anderson,SCから入手できる25層のスタイル726の生機布帛(greige fabric)から作った。これは、840デニールのKevlar(登録商標)129繊維糸から作製される平織布帛であり、糸カウント(yarn count)がたて糸で26本/インチ、よこ糸が26本/インチであり、測定抜き取り糸(measured extracted yarn)の強度がたて糸で27g/デニール、よこ糸で26g/デニールであり、面密度が6.04oz/yd2(205g/m2)である。個々の正方形布帛層は、たて糸およびよこ糸方向に沿って切り取って作り出した(正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸の繊維糸を有する)。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。背面形跡高速衝撃試験(ballistic backface signature impact testing)は、NIJ Standard 0101−04に略述された手順に従って、粘土証拠物(Roma plastilina粘土)に押しつけるように置かれた標的に対して、1430±30ft/sの速度の44マグナム弾を用いて実施した。この試験パネルについて、44マグナム弾での衝撃V50を求めた。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表1に示す。
【0041】
比較例2
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、JPS Industries Inc.によって840デニールのKevlar(登録商標)129繊維糸から作製された36層の平織布帛から作った。その平織布帛は、糸カウントがたて糸で18本/インチ、よこ糸で18本/インチであり、測定抜き出し糸の強度がたて糸で27g/デニール、よこ糸で26g/デニールであり、面密度が4.04oz/yd2(137g/m2)であった。正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸を有している個々の布帛層を、布帛ロールから切り取った。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維糸がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表1に示す。
【0042】
比較例3
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例1に記載した性質を有する37層のスタイル726の生機布帛から作った。1つおきの層で布帛配向が互い違いになっている標的であって、19枚の正方形の布帛は、正方形の辺がたて糸およびよこ糸の繊維糸の方向(0−90)と平行に配向されており、18層は、前の布帛の方向から45度ずらして配向されている(−45、+45)標的を作製した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表1に示す。
【0043】
比較例4
15インチ×15インチ(38cm×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、Kevlar(登録商標)KM2(600デニールの繊維糸)の53層の平織から作った。その平織は、糸カウントがたて糸で17本/インチ、よこ糸で17本/インチであり、抜き出し糸の強度がたて糸で25g/デニール、よこ糸で22g/デニールであり、面密度が2.64oz/yd2(89.5g/m2)であった。個々の正方形布帛層は、たて糸およびよこ糸方向に沿って切り取って作り出した(正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸の繊維糸を有する)。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表2に示す。
【0044】
比較例5
15インチ×15インチ(38cm×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、Kevlar(登録商標)KM2(600デニールの繊維糸)の26層の平織から作った。その平織は、糸カウントがたて糸で34本/インチ、よこ糸で34本/インチであり、抜き出し糸の強度がたて糸で21g/デニール、よこ糸で23g/デニールであり、面密度が5.50oz/yd2(186g/m2)であった。個々の正方形布帛層は、たて糸およびよこ糸方向に沿って切り取って作り出した(正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸の繊維糸を有する)。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表2に示す。
【0045】
比較例6
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、JPS Industries Incによって840デニールのKevlar(登録商標)129繊維糸から作製された、33層の4ハーネスサテン織(クローフート)の布帛から作った。この布帛は、糸カウントがたて糸で20本/インチ、よこ糸が20本/インチであり、たて糸の強度が27g/デニール、よこ糸の強度が25g/デニールであり、面密度が4.43oz/yd2(150g/m2)であった。正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸を有している個々の布帛層を、布帛ロールから切り取った。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表3に示す。
【0046】
比較例7
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例1で記載したスタイル726生機布帛の層を2つ結合することによって製作した12の複合材から作った。第2層は、第1層に対して45度ずらした。不織ポリマー布帛接着剤(Pellon(登録商標)Consumer Products Group,LLC of Tucker(Georgia)から入手可能なPellon(登録商標)Wonder−Under(登録商標)805可融性不織布芯地ウェブ)を用いて、約130℃の温度において、層を結合して一緒にし、ハンドアイロン(hand iron)で押しつけて接着剤を溶融させて布帛層間の結合を行わせた。12の複合層を積み重ね、周辺部付近を縫い、2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表4に示す。
【0047】
比較例8
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例1で記載した性質を有するスタイル726生機布帛を12層と、比較例7で記載した726生機布帛の2層複合材のうちの6つとから作った。パネルは、12の非結合層が前に(最初に弾丸の衝撃が加わる)、6つの複合材が後ろに(粘土証拠物に最も近い)くるようにして、組み合わせて作った。得られたスタックは、周辺部付近を縫い、2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表4に示す。
【0048】
比較例9
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例2で記載したたて糸が18本/インチ、よこ糸が18本/インチである840デニールの生機布帛の層を2つ結合して製作した17の複合材のスタックから作った。第2層は第1層に対して45度ずらした。不織ポリマー布帛接着剤(Pellen(登録商標)805 Wonder−Under(登録商標))を用いて、比較例7と同様の条件下で層を結合して一緒にし、接着剤を溶融させ、布帛層間の結合を行わせた。17の複合層を積み重ね、周辺部付近を縫い、2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の背面形跡およびV50の結果を表4に示す。
【0049】
比較例10
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例2で記載した840デニールのKevlar(登録商標)129糸の生機布帛(たて糸が18本/インチ、よこ糸が18本/インチ)の層を17枚と、比較例9で記載した2層複合材の布帛プライのうちの9枚とから作った。パネルは、17の非結合層が前に(最初に弾丸の衝撃が加わる)、6つの複合材が後ろに(粘土証拠物に最も近い)くるようにして、組み合わせて作った。得られたスタックは、周辺部付近を縫い、2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sでの44マグナム弾衝撃試験の、背面形跡およびV50の結果を表4に示す。
【0050】
比較例11
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、Beijing Tongyizhong Specialty Fiber Technology & Development Company Ltd.(Beijing,China)によって作られた超高分子量ポリエチレン糸からJPS Industries Inc.が織ったCS811仕上げの平織布帛タイプS−17114Gの30層から作った。この800デニール糸補強材は、たて糸およびよこ糸が24本/インチ(94本/10cm)の糸カウントを有しており、面密度が4.86oz/yd2(165g/m2)であった。個々の正方形布帛層は、たて糸およびよこ方向に沿って切り取って作り出した(正方形の辺に平行になっているたて糸およびよこ糸繊維を有する)。布帛層は、たて糸およびよこ糸の繊維がスタック中のすべての布帛層で同じ方向に配向するように配置した。布帛層は、エッジから1/2インチ(1.27cm)の、パネルの周辺部付近を縫い合わせた。また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて、層を機械的に結合した。背面形跡高速衝撃試験は、NIJによって略述されている手順に従って、粘土証拠物(Roma plastilina 粘土)に押しつけるように配置された標的に対して、1430±30ft/sの速度で44マグナム弾を用いて実施した。この試験パネルでの44マグナム弾の衝撃V50を求めた。背面形跡およびV50の結果を表5に示す。
【0051】
実施例1
斜め模様の細片を、比較例2で記載した840デニールのKevlar(登録商標)129糸の生機布帛(たて糸が18本/インチ、よこ糸が18本/インチ)の63インチ(160cm)幅のロールから切り取った。斜め模様の切断片は、図3Aに示すようにこの平織布帛のバイアス方向に沿って配向していて、幅が28インチ(71cm)のバイアス配向布帛細片が作り出された。布帛を、図3Bに示すように菱形格子状化フレームに固定し、伸張して45度の鋭角の格子角になるようにした。格子状布帛を、等しい断片に切断して交差配置させた(すべての層で格子方向がその前の層に対して90度ずれるように、層が互い違いになるように積み重ねた)。構築時に個々の布帛層の格子角を一定に保つ正方形のピンニングフレーム(pinning frame)を用いて、スタックを構築した。布帛層のこの互い違いの交差配置を繰り返して、格子状にされた26の布帛層を有するスタックを作った。布帛層のスタックは、布帛層をピンニングフレームで所定の位置に保持しながら、周辺部の付近で縫い合わせ、また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて層を機械的に結合した。その後、パネルをトリムして、15インチ×15インチ(38×38cm)の端構造を有するようにした。粘土証拠物に対する1430±30ft/sの44マグナム弾の、背面形跡およびV50の結果を表1に示す。本発明の布帛構築体から製作されたこれらのパネルは、比較例1〜3よりも背面形跡が減少することを実証した。またこの新規の構造体を有するこれらのパネルでは、V50性能も損なわれておらず、比較例1〜3と値が同等のままであった。
【0052】
実施例2
斜め模様の細片を、比較例2で記載した600デニールのKevlar(登録商標)KM2糸の生機布帛(たて糸が17本/インチ、よこ糸が17本/インチ)の63インチ(160cm)幅のロールから切り取った。斜め模様の切断片は、図3Aに示すようにこの平織布帛のバイアス方向に沿って配向していて、バイアス配向布帛細片が作り出された。布帛を、図3Bに示すように菱形格子状化フレームに固定し、伸張して30度の鋭角の格子角になるようにした。格子状布帛を、等しい断片に切断して交差配置させた(すべての層で格子方向がその前の層に対して90度ずれるように、層が互い違いになるように積み重ねた)。構築時に個々の布帛層の格子角を一定に保つ正方形のピンニングフレームを用いて、スタックを構築した。布帛層のこの互い違いの交差配置を繰り返して、格子状にされた27の布帛層を有するスタックを作った。布帛層のスタックは、布帛層をピンニングフレームで所定の位置に保持したまま、周辺部の付近で縫い合わせ、また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて層を機械的に結合した。その後、パネルをトリムして、15インチ×15インチ(38×38cm)の端構造を有するようにした。粘土証拠物に対する1430±30ft/sの44マグナム弾の、背面形跡およびV50の結果を表1に示す。この格子状布帛構造体は、17本/インチのたて糸および17本/インチのよこ糸の基布で製作された標的(比較例5)および同じ600デニール糸の平織り布帛の標的(個別に布帛層の面密度は同じである)(比較例6)の両方よりもV50性能が向上していた。本発明の構造体に対して実施された最初の背面測定でも、比較例5および6の両方よりも向上していることが実証されたが、この最初の背面試験後のこの構造体の一体性は低下した。それによって、第2背面形跡測定で観察された変形抵抗が増大した可能性がある。
【0053】
実施例3
20×20本/インチの、840デニールのKevlar(登録商標)129糸のクローフート織りの布帛(比較例6で記載したもの)を用いて作り出された格子状布帛構築体を含んでなる多層パネルを、上記の実験的実施例1で記載した手順を用いて作り出した。出来上がった試験パネルは23層を含んでなり、それぞれは45度の格子角を有しており、実験的実施例1で行われたように、層は0度と90度の互い違いの配向で積み重ねたものであった。パネルは、周辺部付近を縫い付け、また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)キルトパターンで縫い付けた。粘土証拠物に対する1430±30ft/sの44マグナム弾の、背面形跡およびV50の結果を表3に示す。
【0054】
この実施例では、比較例6における基布から製作された標的と比べて、V50の大幅な減少もなく背面が向上した。
【0055】
実施例4
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、実施例1で記載したようにして作製された本発明の格子状布帛構築体の2層を結合することにより製作された12の複合材の布帛層から作った。第2布帛層は、格子方向が第1層に対して90度ずれていた。不織ポリマー布帛接着剤(Pellen(登録商標)805)を用いて、比較例7と同様の条件下で層を結合して一緒にし、布帛層間の結合を行わせた。12の複合層を積み重ね、周辺部付近を縫い付け、2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。表4に示すように、この構造体は比較例7〜10で記載した比較の複合布帛プライパネルよりも大きなV50を示すとともに、1430±30ft/sの44マグナム弾で5回の背面試験を実施した後でさえ、一貫して申し分のない背面形跡を示した。
【0056】
実施例5
15インチ×15インチ(38×38cm)の正方形の衝撃試験パネルを、比較例2で記載した840デニールのKevlar(登録商標)129繊維糸の生機布帛の18層と、実験的実施例4で記載したようにしてこの同じ布帛から作製した6つの格子状布帛複合プライとから作った。パネルは、18の布帛層が前に(最初に弾丸の衝撃が加わる)、6つの複合層が後ろに(粘土証拠物に最も近い)くるようにして、組み合わせて作った。得られたスタックは、周辺部付近を縫い付け、また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルト縫いで縫い付けて、試験パネルを作り出した。粘土証拠物に対する1430±30ft/sの44マグナム弾の、背面形跡およびV50の結果を表4に示す。
【0057】
実験的実施例6
斜め模様の細片を、比較例11のスタイルS−17114GのCS811のポリエチレン布帛のロールから切り取った。斜め模様の切断片は、図3Aに示すようにこの平織布帛のバイアス方向に沿って配向していて、バイアス配向布帛細片が作り出された。布帛を、図3Bに示すように菱形格子状化フレームで固定し、伸張して50度の鋭角の格子角になるようにした。格子状布帛を、等しい断片に切断して交差配置させた(すべての層で格子方向がその前の層に対して90度ずれるように、層が互い違いになるように積み重ねた)。構築時に個々の布帛層の格子角を一定に保つ正方形のピンニングフレームを用いて、スタックを構築した。布帛層のこの互い違いの交差配置を繰り返して、格子状にされた22の布帛層を有するスタックを作った。布帛層のスタックは、布帛層をピンニングフレームで所定の位置に保持したまま、周辺部付近で縫い合わせ、また2インチ×2インチ(5.1×5.1cm)のキルトパターンをパネルの厚さ越しに縫い付けて層を機械的に結合した。その後、パネルをトリムして、15インチ×15インチ(38×38cm)の端構造を有するようにした。粘土証拠物に対する1430±30ft/sの44マグナム弾の、背面形跡およびV50の結果を表5に示す。この格子布帛構造体は、従来の0/90の平織構造布帛と比べて背面形跡が27%減少した。
【0058】
表1

【0059】
表2

【0060】
表3

【0061】
表4

* 標的の端から2.5インチの衝撃を意味する。
** 「貫通」は、弾丸が標的をまっすぐ貫通したことを意味する。
【0062】
表5


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃発射体耐性物品の製造用の糸から織られる布帛であって、前記布帛が、前記布帛の平面内に平行配向された糸の第1複数体を含み、第1複数体が、前記布帛の平面内において前記第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、前記布帛の平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、前記第1複数体の任意の繊維糸と前記第2複数体の繊維糸が交差して90度未満の測定角度を有する一対の鋭角の対頂角を形成する、布帛。
【請求項2】
前記布帛が、芳香族ポリアミド(ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾキサゾール、ポリベンゾチアゾールを含む)、芳香族の不飽和ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミドおよび芳香族ポリエステルイミドまたは上述の種類の物質のいずれかのコポリマーを含有する繊維糸を含んでなる、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記布帛が、超高分子量ポリエチレンを含有する繊維糸を含んでなる、請求項1に記載の布帛。
【請求項4】
前記鋭角の対頂角の角度が80から89度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項5】
前記鋭角の対頂角の角度が70から80度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項6】
前記鋭角の対頂角の角度が60から70度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項7】
前記鋭角の対頂角の角度が50から60度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項8】
前記鋭角の対頂角の角度が40から50度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項9】
前記鋭角の対頂角の角度が30から40度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項10】
前記鋭角の対頂角の角度が20から30度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項11】
前記鋭角の対頂角の角度が10から20度の間である、請求項1に記載の布帛。
【請求項12】
前記鋭角の対頂角の角度が10度未満である、請求項1に記載の布帛。
【請求項13】
複数の実質的に非付着性の不織の布帛層、織られた布帛層、または複合布帛プライから組み合わせて作られる衝撃発射体耐性または耐穿刺性の多層物品であって、前記組合せ体における前記層の少なくとも1つが、前記布帛の平面内に平行配向された糸の第1複数体を有する繊維糸から作られた二軸布帛であり、第1複数体が、前記布帛の平面内において前記第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、前記布帛の平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、前記第1複数体の任意の繊維糸が前記第2複数体の繊維糸と交差して90度未満の測定角度を有する一対の鋭角の対頂角を形成する、多層物品。
【請求項14】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が80から89度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が70から80度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項16】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が60から70度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項17】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が50から60度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項18】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が40から50度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項19】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が30から40度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項20】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が20から30度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項21】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が10から20度の間である、請求項13に記載の物品。
【請求項22】
前記二軸布帛層の少なくとも1つにおいて前記鋭角の対頂角の角度が10度未満である、請求項13に記載の物品。
【請求項23】
前記二軸布帛層の少なくとも2つが、1つの層内の前記糸配向と別の層内の糸配向とがずれるように配向されている、請求項13に記載の物品。
【請求項24】
前記二軸布帛層の少なくとも2つが、1つの層内の前記糸配向と別の層内の前記糸配向とが同じになるように配向されている、請求項13に記載の物品。
【請求項25】
衝撃発射体耐性物品の製造用の糸から織られる少なくとも1つの布帛(と他の1つの布帛層)を含む複合布帛プライであって、前記布帛が、前記布帛の平面内に平行配向された糸の第1複数体を含み、第1複数体が、前記布帛の平面内において前記第1複数体の方向/配向とは異なる方向/配向を有する、前記布帛の平面内で平行配向された糸の第2複数体と織り交ぜられており、前記第1複数体の任意の繊維糸と前記第2複数体の繊維糸が交差して90度未満の測定角度を有する一対の鋭角の対頂角を形成する、複合布帛プライ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公表番号】特表2011−508829(P2011−508829A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540684(P2010−540684)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/080675
【国際公開番号】WO2009/088551
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】