説明

高選択性酸化エチレン触媒の開始工程

【課題】エチレンのエポキシ化始動工程を提供する。
【解決手段】工程は、エポキシ化触媒の存在下で供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の第1の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始することを含む。十分な濃度の減速材を添加すると同時に約6時間〜約50時間にわたって第1の温度を約230℃〜約290℃の第2の温度に昇温し、第2の温度到達後に触媒に吸着した減速材の量が触媒に対して約10〜約50g/mとなる。約50時間〜約350時間の間、供給ガス組成物が約0.5%〜約25%のCOを含むように調整しながら第2の温度を維持する。十分な濃度を超えるレベルまで減速材濃度を高めると同時に第2の温度を第3の温度まで低下させる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エチレン酸化用の高選択性銀系触媒の始動には、特別な手順が必要である。特にレニウムを助触媒として含む場合の触媒は、所期の高性能を発揮できるようになる前に、開始期間が必要である。先行技術において、Lauritzenの米国特許第4,874,879号及びP. Shankarの米国特許第5,155,242号は、供給材料に酸素を添加する前の新鮮レニウム含有触媒の過塩素化を開示している。これらの開示では、まず初めに、エチレン、メタン及び塩化エチルを含む供給物で触媒を過塩素化した。その後、酸素を供給物に添加し、反応温度を237℃以下に維持した。最後に、最適な性能を得るために反応条件に若干の調整を行った。この過塩素化工程は、レニウム含有触媒の活性を高め、低温での始動を可能にするとクレームされている。
【0002】
更なる始動工程が、J. Lockemeyerの米国特許公開公報第2004/0049061号に開示されている。特に、J. Lockemeyerの公報では、担体の表面積mあたり最大0.17gの量の銀を含む高選択性担持エポキシ化触媒を、最大150時間までの間250℃を超える触媒温度で酸素を含む供給材料と接触させることにより、触媒の選択性を改善する方法をクレームしている。本開示に減速材浸漬工程についての言及はなかった。
【0003】
Evansの米国特許第7,102,022号は、酸素を含む供給材料に触媒床を接触させることによる高選択性銀系エポキシ化触媒を含むオレフィンのエポキシ化工程の始動方法をクレームしている。この処理では、最長150時間の間触媒床の温度は260℃を超えていた。供給材料には、酸素の他、オレフィン、二酸化酸素、不活性ガス、及び有機ハロゲン化合物等の反応改質剤から選択される1種類以上の成分を存在させることができる。しかし、供給材料中のこれらの追加成分の存在は本発明にとって不可欠ではない、と記載されている。ただし、供給材料が有機ハロゲン化合物からなる場合、その濃度は全供給材料に対し、ハロゲン含有量を基準に算出した1〜30ppmの範囲であった。本開示に減速材浸漬工程についての言及はなかった。
【0004】
上述の文献は、ある状況下の特定の触媒にとって効果的な始動手順を開示する。しかし、最適な性能条件下で高選択性触媒を作用させることが重要なので、これらの触媒の始動のために新規で改良された方法を開発することが継続的に必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素を含む供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の第1の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始し、十分な濃度の減速材を添加すると同時に約6時間〜約50時間にわたって第1の温度を約230℃〜約290℃の第2の温度に昇温し、第2の温度到達後に触媒に吸着した塩素減速材の量が、触媒1mあたり約10〜約50gとなるようにし、供給ガス組成物が約0.5%〜約25%のCOを含むように調整しながら約50時間〜約350時間の間第2の温度を維持し、及び、十分な濃度を超えるレベルまで減速材(反応調節剤:moderator)濃度を高めると同時に第2の温度を第3の温度まで低下させる工程からなることを特徴とするエチレンのエポキシ化工程の始動方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
先行技術文献は、エチレン酸化用の高選択性銀系触媒の始動には、高温で長時間行われる特別な手順が必要なことを開示している。報告された調整では供給材料中の減速材の存在は不可欠ではないと報告されている。
【0007】
本願の出願人らは、昇温前に添加処理を開始すると過飽和状態になることを発見した。一方、調整温度までの加熱期間経過後に触媒を添加すると、調整段階の初期段階で無制御反応を起こす。本発明は、早すぎる又は遅すぎる添加処理の開始に付随する問題を回避する方法を提供する。本願の出願人らは、特にレニウムを助触媒として含む場合に、2段階に分けて反応調節剤を触媒に添加すると、高選択性銀系触媒の「調整」が更に効果的であることを発見した。本発明によれば、浸漬によるハロゲン化炭化水素減速材化合物の触媒への添加は、触媒を第2の調整温度まで加熱している間に開始すべきである。
【0008】
本発明の工程では、触媒床を指定されたレベルの塩素で飽和状態にするのに必要な時間が、加熱期間開始前又は加熱温度に達した後に行った場合に比べて顕著に短いことも発見された。
【0009】
第2の添加処理は、調整期間が終了した後に行われる。この第2の段階の後に添加された減速材は、通常、第1の添加段階で使用した量のごく一部である。この第2の添加処理は、第3の温度まで低下させている間又はその後に行われるとよい。
【0010】
本実施の形態において、減速材は通常、クロロメタン類、クロロエタン類、クロロプロパン類及びその他のクロロアルカン類、塩化ビニル類等のクロロアルケン類、及びクロロプロペン類等を含むがこれらに限定されない有機塩素化合物類を含むが、これに限定されない。他の有機塩素化合物類及び他の有機ハロゲン化合物類を除外するものではない。特に、減速材材料は、供給ガス混合物中の全ての有機塩素化合物(又は、有機ハロゲン化合物)部分が有効合計に含まれることを意図している。供給ガス混合物中の有機塩素化合物部分の量の範囲は、一般に、体積比で0.5〜5ppmである。
【0011】
本発明の始動方法を行う前に、触媒床上に窒素等の不活性ガスを流して触媒を掃引してもよい。本発明の始動方法は、最初に、高選択性触媒の上にガス、例えば窒素が流れている反応器を利用可能な外部熱源、例えば蒸気を使って反応器の設計限界内に留めつつ、第1の温度まで加熱し、反応器へのガス流を設計速度の25〜100%に維持することで開始される。
【0012】
外部熱源を利用することで、通常約180℃〜約210℃である第1の温度まで反応器の温度を昇温させる。通常、温度は約0.15時間以上保持される。一実施の形態においては、約0.5時間〜約48時間の間保持される。
【0013】
一旦反応器が第1の温度に達すると、エチレン、続いて酸素が反応器の供給ガスに導入される。この導入工程の間の反応器内のオレフィン濃度は、通常約2〜約15%の範囲内の値まで上昇する。触媒始動の初期段階の反応状態は、低選択性を示すであろう。このことは、新鮮触媒の表面が周知の燃焼抑制塩素系成分を含んでいないことから予想される。この低選択性段階で、供給材料は最小レベルのエチレン及び酸素を含むであろう。供給材料は、最初は、窒素、メタン及び二酸化炭素のうち1つ又はそれらの組み合わせである不活性ガスを含むであろう。
【0014】
できるだけ短時間且つ最少量であれば、減速材を第1の温度で供給材料に添加できる場合がある。しかし、第2の温度への昇温を開始する前は、触媒を減速材に曝露させないようにするのが好ましい。酸素は、通常、反応器入口において約0.5〜約3%の範囲内の濃度となるように導入される。
【0015】
上述の導入段階の間、オレフィン及び酸素の濃度は、約6時間〜約50時間かけて反応器温度を第1の温度よりも高い第2の温度まで徐々に上昇させることを可能とするのに十分な反応熱が発生するように調整される。通常、第2の温度は、約230℃〜約290℃の範囲内である。第2の温度は、反応器内で約50〜約350時間の間維持される。
【0016】
供給材料中のエチレン及び酸素のレベルは、第1の温度から第2の温度にするのに必要な熱を発生することができる自立反応をもたらすように設定される。例えば、供給材料中のエチレン濃度は約1%〜約7%の範囲であり、好ましくは約2〜約5%の範囲である。この加熱段階での酸素濃度は約0.2%〜約2%とすべきであり、好ましくは約0.5%〜約1%である。最初は、供給材料中の酸素全てが消費され、反応器排水には実質的に酸素が含まれず、選択性の範囲は40〜50%となるだろう。しかし、これらの効果は、第1の温度が第2の温度まで昇温される約6時間〜15時間の限定された加熱期間の間だけ持続するだろう。
【0017】
昇温の間のガス供給物中の有機塩素化合物種の濃度は約0.2〜約2ppmであり、その正確な値は、第2の温度までの温度上昇の終了以降に指定された量の触媒床を投入するため算出される。昇温の結果として第2の温度に達するまでには、この段階で触媒に吸着「浸漬」した減速材、例えば有機塩素化合物の量は触媒1mあたり10〜50gの範囲となる。好ましくは、この段階で触媒に吸着される減速材の量は、触媒1mあたり約15〜約40gである。触媒が低活性且つ高選択性となる定常状態に触媒が達するまで、減速材は触媒に吸着される。よって、排出水中には減速材と酸素の双方が存在する(昇温期間の終了時又は終了後は、触媒の塩素種は飽和レベルに達し、調整期間中ではあるが、いつでもエポキシ化生成物の生成ができる状態にある)。
【0018】
触媒飽和状態を同レベルに維持すると共に触媒性能を維持するため、減速材レベルは調節、低減される。残りの調整期間の間に選択性が向上し、触媒は、触媒の組成と反応パラメータによっては80〜90%の範囲の選択性で酸化エチレン生成に使用可能となるであろう。第2の温度周辺の狭い範囲で触媒活性を制御するために、約0.5%〜約25%のCOを含むように供給ガス組成物は調節されるであろう。上述の供給組成物と作業量の全てを調整するのと同時に、第2の温度を50時間〜約350時間の間維持する。
【0019】
本発明の工程のその後の段階で、第2の温度を第3の(生産レベル)温度に低下させ、同時に約0.5ppm〜約5ppmのオーダーの高レベルの減速材化合物を導入し、第2の浸漬段階を実質的に開始する。減速材の供給率は、第1の浸漬処理後のレベルよりも高いレベルで減速材、例えば有機塩素化合物で飽和した触媒となるように調整される。よって、第3の温度到達後に触媒に吸着した減速材の量は、第2の温度到達後に触媒に吸着した減速材の量よりも多い。浸漬された減速材の総量は、触媒1mあたり約20g〜80gである。その後、ガス供給物の成分はフル生産用設計レベルに調整される。
【0020】
上記段階が終了するまでの設計条件は以下の通りである。
【表1】

【0021】
好適な設計条件は以下の通りである。
【表2】

【0022】
これらは、基本的生成条件である。
【0023】
以下に、本発明で使用することのできる高選択性触媒を説明する。本発明で使用する高選択性触媒は、83%を超える選択性を達成するいずれかの担持銀系触媒である。本発明で使用される担体は、多数の固体で耐火性の担体から選択することができ、多孔質でもよい。担体は、α−アルミナ、炭、軽石、マグネシア、ジルコニア、チタニア、珪藻土、酸性白土、炭化ケイ素、シリカ、炭化ケイ素、粘土類、人工ゼオライト、天然ゼオライト、二酸化ケイ素及び/又は二酸化チタン、セラミック類等の材料及びその組み合わせから構成されてもよい。好適な担体は、非常に高純度、即ち、少なくとも95wt%の純度のα−アルミナ、より好ましくは少なくとも98wt%のα−アルミナを含んでいる。残余成分は、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)及び、微量のその他の金属含有又は非金属含有添加剤又は不純物等の、α−アルミナ以外の無機酸化物を含んでもよい。
【0024】
担体は、当業者に周知の従来技術を用いて作製してもよい。又は、触媒担体販売業者から担体を購入してもよい。
【0025】
担体は、好ましくは多孔質であり、多くとも20m/g、好ましくは0.1〜10m/g、より好ましくは0.5〜5m/gのBET表面積を有する。本明細書で用いるBET表面積とは、Brunauer、Emmet 及びTellerのJ. Am. Chem. Soc. 60 (1938) 309-316に記載される方法により測定されたものと見なす。担体は、単峰性細孔径分布又は多峰性細孔径分布を有してもよい。
【0026】
使用される担体の性質に関わらず、担体は通常の場合、固定床エポキシ化反応器での使用に適した寸法の粒子、塊、断片、小粒、輪、球体、ワゴン車輪状、十字分割された中空円筒等に成形される。望ましくは、担体粒子は、通常は触媒が設置される管型反応器の内径に適合した約3mm〜約12mmの範囲、好ましくは約5mm〜約10mmの範囲の等価直径を有する。等価直径とは、使用される担体粒子と体積比に対する外部表面積(即ち、粒子の細孔内の表面積は無視)が同一の球体の直径である。
【0027】
エチレンを酸化エチレンに酸化するための触媒を生成するために、上記の特性を有する担体の表面に触媒有効量の銀を供給する。触媒は、適切な溶剤に溶解した銀の化合物、錯体又は塩に担体を含浸することにより準備する。好ましくは、銀水溶液が使用される。当分野で知られるように、含浸後、過剰な溶液を含浸担体から除去し、含浸担体を加熱して溶剤を気化し、担体上に銀又は銀化合物を沈着させる。
【0028】
好適な触媒は、担体を含む触媒の総重量に対して、金属として表わされる銀を最大約45重量%まで含む。銀は、多孔質耐火性担体の表面上及び細孔中に沈着される。金属として表わされる銀の含有量は、触媒の総重量に対して約1%〜約40%が好ましく、約8%〜約35%の銀含有量がより好ましい。担体上に沈着される又は担体上に存在する銀の量は、触媒有効量の銀、即ち、酸化エチレンを生成するためのエチレンと酸素の反応を経済的に触媒する量である。本明細書で使用する用語「触媒有効量」とは、エチレンと酸素から酸化エチレンへの測定可能な変換をもたらす銀の量を言う。銀前駆体である有用な銀含有化合物は、硝酸銀、酸化銀又はカルボン酸銀、例えばシュウ酸銀、クエン酸銀、フタル酸銀、乳酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀及び高脂肪酸塩とその組み合わせが含むが、他を排除するものではない。
【0029】
また、銀の沈着の前に、同時に、又はその後に、促進量のレニウム成分を担体に沈着する。レニウム成分は、レニウム含有化合物又はレニウム含有錯体でもよい。レニウム助触媒は、レニウム金属として表わされた場合、担体を含む全触媒の重量に対して、約0.001wt%〜約1wt%の量で存在してもよく、好ましくは約0.005wt%〜約0.5wt%であり、より好ましくは約0.01wt%〜約0.1wt%である。
【0030】
また、銀及びレニウムの沈着の前に、同時に、又は後に担体上に沈着されるのは、促進量のアルカリ金属又は2種類以上のアルカリ金属の混合物、及び任意の促進量のIIA族アルカリ土類金属成分又は2種類以上のIIA族アルカリ土類金属成分の混合物及び/又は遷移金属成分又は2種類以上の遷移金属成分の混合物であり、その全ては適切な溶剤に溶解した金属イオン、金属化合物、金属錯体及び/又は金属塩の形態のものである。担体は、同時に又は別の工程で、様々な助触媒に含浸することができる。本発明の銀、担体、アルカリ金属助触媒、レニウム成分及び任意の追加助触媒の特定の組み合わせは1つ以上の触媒特性を改善させ、銀と担体と助触媒無し又は1種類の助触媒の同様の組み合わせよりも優れている。
【0031】
本明細書で使用される触媒の特定の成分の「促進量」という用語は、その成分を含まない触媒と比較した場合に、触媒の触媒性能を向上させるために効果的に作用する成分の量を言う。適用される正確な濃度は、もちろん、その他の要素のうち、所望の銀含有量、担体の性質、液体の粘度、及び含浸溶液に助触媒を導入するために使用される特定の化合物の溶解性によって決定される。触媒特性の例は、とりわけ、操作性(耐暴走性)、選択性、活性、変換率、安定性及び収率を含む。1つ以上の個々の触媒特性が「促進量」によって改善される一方で、他の触媒特性が改善される場合、及び改善されない場合があり、さらに低下する場合もあることは、当業者であれば理解するだろう。更に、異なる触媒特性が異なる処理条件で高められることが理解される。例えば、ある処理条件で高選択性を有する触媒が、選択性よりは活性において向上が見られるような異なる条件で処理されてもよい。エポキシ化工程においては、他の触媒特性を犠牲にしても特定の触媒特性の利点が得られるように、意図的に処理条件を変更することが望ましい。好適な処理条件は、その他の要因のうち、原料費、エネルギー費、副生成物除去費等により決定される。
【0032】
適切なアルカリ金属助触媒は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はその組み合わせから選択することができるが、セシウムが好ましく、セシウムと他のアルカリ金属の組み合わせが特に好ましい。担体上に沈着される又は存在するアルカリ金属の量が促進量となる。好適には、その量の範囲は、金属として測定された場合の、全触媒の重量に対して約10ppm〜約3000ppmであり、好ましくは約15ppm〜約2000ppmであり、より好ましくは約20ppm〜約1500ppmであり、特に好ましくは約50ppm〜約1000ppmである。
【0033】
適切なアルカリ土類金属助触媒は、元素周期表のIIA族の元素からなり、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム又はその組み合わせとすることができる。適切な遷移金属助触媒は、元素周期表のIVA、VA、VIA、VIIA及びVIIIA族の元素及びその組み合わせとすることができる。最も好ましくは、遷移金属は元素周期表のIVA、VA又はVIA族から選択された元素からなる。存在させることのできる好適な遷移金属は、モリブデン、タングステン、クロム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブ又はその組み合わせを含む。
【0034】
担体上に沈着されるアルカリ土類金属助触媒及び/又は遷移金属助触媒の量は、促進量である。通常、遷移金属助触媒は、金属として表わされた場合、全触媒に対して約10ppm〜約1000ppmの量で存在することができ、好ましくは約20ppm〜約500ppmであり、より好ましくは約30ppm〜約350ppmである。触媒は、それぞれ促進量の1種類以上の硫黄化合物、1種類以上のリン化合物、1種類以上のホウ素化合物、1種類以上のハロゲン含有化合物又はその組み合わせを更に含んでもよい。
【0035】
担体を含浸するために使用される銀溶液は、本分野で公知の任意の溶剤又は錯化/可溶化剤を含んでもよい。多種多様な溶剤又は錯化/可溶化剤を、銀を含浸媒体で所望の濃度になるように可溶化するために用いることができる。有用な錯化/可溶化剤は、アミン類、アンモニア、シュウ酸、乳酸及びその組み合わせを含む。アミン類は、1〜5個の炭素原子を有するジアミノアルカンを含む。好適な一実施の形態において、溶液はシュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液からなる。錯化/可溶化剤は、含浸溶液中に銀1モルにつき約0.1〜約5.0モルの量で存在することができ、好ましくは約0.2〜約4.0モル、より好ましくは銀1モルにつき約0.3〜約3.0モルである。
【0036】
溶剤を使用する場合は、有機溶剤でも水でもよく、極性であっても実質的に非極性であってもよい。一般に溶液は、溶液成分を可溶化するために十分な溶媒和力を有するべきである。同時に、溶媒和した助触媒への悪影響又は相互作用を避けるように、溶剤を選択することが好ましい。
【0037】
通常、含浸溶液中の銀の濃度は、約0.1重量%から、使用される特定の溶剤/可溶化剤の組み合わせで溶解可能な最大限までの範囲内である。一般に、約5%〜約45重量%の銀を含む溶液の使用が非常に適しており、10〜約35重量%の銀の濃度が好ましい。
【0038】
選択された担体の含浸は、例えば、過剰溶液含浸法、初期湿潤含浸法、吹き付け塗装等の、いずれかの従来の方法で行われる。通常、担体材料は、十分な量の溶液が担体に吸収されるまで、銀含有溶液に接触させて留置される。溶液中の銀成分の濃度に部分的に応じて、途中の乾燥の有無に関わらず、1回の含浸又は一連の含浸を行うことができる。含浸工程は、米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号、米国特許第4,908,343号、米国特許第5,057,481号、米国特許第5,187,140号、米国特許第5,102,848号、米国特許第5,011,807号、米国特許第5,099,041号及び米国特許第5,407,888号に記載されている。様々な助触媒の前蒸着、共蒸着及び後蒸着といった公知の先行技術の工程を利用することができる。
【0039】
銀含有化合物、即ち、銀前駆体、レニウム成分、アルカリ金属成分、及び任意の他の助触媒に担体を含浸した後、含浸担体は、銀含有化合物を銀に変換し、含浸担体から揮発性成分を除去して触媒前駆体とするのに十分な時間で焼成される。焼成は、0.5〜35バールの範囲の圧力で、好ましくは段階的な変化率で約200℃〜約600℃、好ましくは約200℃〜約500℃、より好ましくは約200℃〜約450℃の範囲の温度まで含浸担体を加熱することにより行うことができる。一般に、温度が高いほど、必要な加熱期間は短くなる。本分野では、広範囲の加熱期間が示唆され、例えば、米国特許第3,563,914号は300秒未満の間加熱することを示唆し、米国特許第3,702,259号は、通常約0.5〜約8時間の継続時間であるところ、100℃〜375℃の温度で2〜8時間加熱することを開示している。しかし、唯一重要なのは、略全ての含有銀が銀に変換されるように加熱期間と温度が相関することである。ここでは、連続的又は段階的加熱を使用してもよい。
【0040】
焼成の間、不活性ガス又は不活性ガスと約10ppm〜21体積%の酸素との混合物からなるガス雰囲気に、含浸担体を曝露してもよい。
【0041】
高選択性触媒を焼成した後、当業者に周知の従来の投入方法を用い、通常固定床管型反応器であるエポキシ化反応器の反応管に焼成触媒を投入する。投入後、触媒床上に窒素等の不活性ガスを流して触媒床を掃引してもよい。
【0042】
当業者には、その広い発明的概念から逸脱することなく上記実施の形態に変更を行なうことができることが認識されよう。本発明は開示された特定の実施例に限定されず、添付のクレームに記載された本発明の精神および範囲内での改良に及ぶことを意図していることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素を含む供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の第1の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始し、
十分な濃度の減速材を添加すると同時に約6時間〜約50時間にわたって前記第1の温度を約230℃〜約290℃の第2の温度に昇温し、前記第2の温度達成後に触媒に吸着した減速材の量が触媒1mあたり約10〜約50gとなるようにし、
前記供給ガス組成物が約0.5%〜約25%のCOを含むように調整しながら、約50時間〜約350時間の間前記第2の温度を維持し、及び
十分な濃度を超えるレベルまで減速材濃度を高めると同時に、前記第2の温度を第3の温度まで低下させる工程からなることを特徴とするエチレンのエポキシ化工程の始動方法。
【請求項2】
前記第1の温度の昇温中の前記減速材の十分な濃度は、約0.2ppm〜約1ppmである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記減速材は、有機ハロゲン化合物である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記減速材は、C1〜C8のハロゲン化炭化水素類のみからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記減速材は、塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン及び塩化ビニルのみからなる群より選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記開始工程の間、前記供給ガス組成物が約2%〜約15%のエチレンと約0.5%〜3%の酸素を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記調整工程の間、前記供給ガスが約8%〜約30%のエチレンと約4%〜約8%の酸素を含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第3の温度は、約230℃〜約250℃である請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記第3の温度での選択性は、約80%〜約92%である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記昇温工程の間、前記触媒に吸着した塩素減速材の量は、触媒1mあたり約10〜約40gである請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記開始工程の後に触媒に吸着した塩素の総量は、触媒1mあたり約20g〜約80gである請求項1記載の方法。


【公表番号】特表2013−515730(P2013−515730A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546098(P2012−546098)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/061192
【国際公開番号】WO2011/079056
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】