説明

高難燃性芳香族ポリカーボネート共重合体及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】難燃剤を含有させなくても、単独で高い難燃性を示すことができ、さらに他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した樹脂組成物としても、高い難燃性を維持することができる芳香族ポリカーボネート共重合体及び該共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位(I)、及び二価フェノールから誘導される繰り返し単位(II)を有する、粘度平均分子量10,000〜50,000の芳香族ポリカーボネート共重合体であって、
該共重合体中における前記繰り返し単位(I)をxモル、前記繰り返し単位(II)をyモルとしたときに、繰り返し単位(I)のモル分率[x/(x+y)]×100が30〜45モル%であり、
該共重合体中における繰り返し単位(I)の2連鎖をaモル、繰り返し単位(I)と繰り返し単位(II)とからなる連鎖をbモル、繰り返し単位(II)の2連鎖をcモルとしたときに、繰り返し単位(I)の2連鎖のモル分率[a/(a+b+c)]×100が10〜20モル%であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート共重合体及び該共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高難燃性芳香族ポリカーボネート共重合体及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。詳しくは、難燃剤などの添加剤を用いずとも高難燃性を有し、電気・電子分野、OA機器などの難燃性を必要とする用途、さらに薄肉において難燃性が必要とされる用途に有用である高難燃性芳香族ポリカーボネート共重合体、及び該共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性、耐熱性、電気的特性などにより、OA機器、電気・電子部品、家庭用品、建築部品、自動車用部品などの材料として広く用いられており、ジヒドロキシビフェニルを原料として用いたポリカーボネート樹脂が知られている。
例えば、二価フェノールの一部にジヒドロキシビフェニルを用いたポリカーボネート共重合体は、耐熱性や難燃性を有する樹脂であって(例えば、特許文献1、2参照)、良好な低温衝撃性を有する樹脂である(例えば、特許文献3参照)。特許文献1の実施例1における共重合体中には、ジヒドロキシビフェニルが30モル%含まれ、ジヒドロキシビフェニル−ジヒドロキシビフェニルの2連鎖が9.6%含まれると推定される。また、特許文献2の実施例1では、溶融法によりジヒドロキシビフェニル量が35モル%の共重合体を得ているが、得られた共重合体の透明性がホモポリカーボネートと同等であることから、ジヒドロキシビフェニル−ジヒドロキシビフェニルの2連鎖がないか、あるとしても極わずかであると考えられる。
【0003】
また、OA機器、電気・電子部品などの分野において、ポリカーボネート樹脂には、より高い難燃性が要求されており、ポリカーボネート樹脂以外の添加物や各種難燃剤などを用いることにより、その改善が図られている。
例えば、ジヒドロキシビフェニルを含むポリカーボネート共重合体を必須成分とし、非晶質スチレン系樹脂(特許文献3)や脂肪酸ポリエステル系樹脂(特許文献4)、任意成分としてポリオルガノシロキサン含有ポリカーボネートなどの添加物を含む樹脂組成物が開示されている。しかし、このような非晶質スチレン系樹脂、脂肪酸ポリエステル系樹脂、及びポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を含むことにより、得られた樹脂組成物の耐熱性が低下するなど、添加物由来の物性などの不具合や外観不良が生じるという問題があった。
さらに、製品の薄肉化の傾向や、材料の環境負荷を低減するためには、各種難燃剤やシリコーン系化合物などの添加物を用いずとも難燃性を示す必要があり、このためには、ポリカーボネート樹脂自身がさらに高い難燃性を示すことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−227927号公報
【特許文献2】特開平5−117382号公報
【特許文献3】特開2003−049062号公報
【特許文献4】特開2005−255724号公報
【特許文献5】特開2006−232956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みなされたもので、ポリカーボネート樹脂が有する優れた耐衝撃性を損なわず、難燃剤を含有させなくても、高い難燃性を示すことができ、さらに他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した樹脂組成物としても、高い難燃性を維持することができる芳香族ポリカーボネート共重合体、及び該共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、ジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位を有し、特定の粘度平均分子量である芳香族ポリカーボネート共重合体であって、共重合体中のジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位が30〜45モル%で、ジヒドロキシビフェニル−ジヒドロキシビフェニルの2連鎖が10〜20モル%であれば、難燃剤を添加することなく、高い難燃性を示すことを見出し、さらに該共重合体と他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合しても、高い難燃性を維持できること見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の芳香族ポリカーボネート共重合体、及び該共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0007】
1.ジヒドロキシビフェニルから誘導される下記式(I)で表される繰り返し単位、及び二価フェノールから誘導される下記式(II)で表される繰り返し単位を有する、粘度平均分子量10,000〜50,000の芳香族ポリカーボネート共重合体であって、
該共重合体中における前記繰り返し単位(I)をxモル、前記繰り返し単位(II)をyモルとしたときに、繰り返し単位(I)のモル分率[x/(x+y)]×100が30〜45モル%であり、
該共重合体中における下記式(A)、(B)、(C)で表される連鎖をそれぞれaモル、bモル、cモルとしたときに、式(A)のモル分率[a/(a+b+c)]×100が10〜20モル%であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート共重合体。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
〔上記式(I),(II),(A),(B)及び(C)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜12の置換又は無置換のアリール基から選ばれる基を示す。n、m、p及びqは、それぞれ独立に1〜4の整数を示す。Zは、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、炭素数7〜15のアリールアルキレン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−、−CO−、又は下記の式(II−1)、もしくは式(II−2)で示される基である。
【0011】
【化3】


【0012】
2.繰り返し単位(I)が、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位であることを特徴とする上記1に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
3.繰り返し単位(II)が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される繰り返し単位であることを特徴とする上記1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
4.上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体99〜1質量部と他の芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99質量部とからなる組合わせを含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
5.他の芳香族ポリカーボネート樹脂が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料として製造されたものであることを特徴とする上記4に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
6.上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体もしくは上記4又は5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
7.上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体もしくは上記4又は5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるフィルム又はシート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、優れた耐衝撃性を損なわず、難燃剤を含有させなくても、該共重合体単独で高い難燃性を示すことができ、さらに他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した樹脂組成物としても、高い難燃性を維持することができるものである。また、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、薄肉であっても高い難燃性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[芳香族ポリカーボネート共重合体]
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、ジヒドロキシビフェニルから誘導される下記式(I)で表される繰り返し単位、及びジヒドロキシビフェニル以外の二価フェノール(以下、単に二価フェノールと称す。)から誘導される下記式(II)で表される繰り返し単位を有する、粘度平均分子量10,000〜50,000の芳香族ポリカーボネート共重合体であって、
該共重合体中における前記繰り返し単位(I)をxモル、前記繰り返し単位(II)をyモルとしたときに、繰り返し単位(I)のモル分率[x/(x+y)]×100が30〜45モル%であり、
該共重合体中における下記式(A)、(B)、(C)で表される連鎖をそれぞれaモル、bモル、cモルとしたときに、式(A)のモル分率[a/(a+b+c)]×100が10〜20モル%であることを特徴とする。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
上記式(I)、(II)、(A)、(B)及び(C)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(例えば、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素)、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基など)、炭素数5〜7のシクロアルキル基(シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基など)、炭素数6〜12の置換又は無置換のアリール基から選ばれる基を示す。n、m、p及びqは、それぞれ独立に1〜4の整数を示す。
【0018】
Zは、炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基など)、炭素数2〜10のアルキリデン基(エチリデン基、イソプロピリデン基など)、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基(例えば、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基など)、炭素数7〜15のアリールアルキレン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−、−CO−、又は下記の式(II−1)、もしくは式(II−2)で示される基である。
【0019】
【化6】

【0020】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、ジヒドロキシビフェニル及び二価フェノールと、ホスゲンや炭酸ジエステル化合物などのカーボネート源とを反応させてオリゴマーを製造し、次いでこのオリゴマーとジヒドロキシビフェニル及び二価フェノールとを反応させることによって容易に製造することができる。
例えば、塩化メチレンなどの不活性有機溶剤中において、公知の酸受容体や分子量調節剤の存在下、ジヒドロキシビフェニル及び二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート源との反応により、あるいはジヒドロキシビフェニル及び二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート源とのエステル交換反応などによって製造される。
【0021】
(ジヒドロキシビフェニル)
本発明において用いられるジヒドロキシビフェニルは、下記の式で表すことができる。
【0022】
【化7】

【0023】
上記式中、R1,R2,n及びmは前記のとおりである。
上記の式で表されるジヒドロキシビフェニルの具体例としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,3,5,6,2’,3’,5’,6’−オクタフルオロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが好適である。
【0024】
(二価フェノール)
本発明において用いられるジヒドロキシビフェニル以外の二価フェノールは、下記の式で表すことができる。
【0025】
【化8】

【0026】
上記式中、R3,R4,Z,p及びqは前記のとおりである。
上記の式で表される二価フェノールの具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称:ビスフェノールA〕が好適である。
ビスフェノールA以外の上記の式で表される二価フェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラメチルフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラクロロフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノルボルネンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類、4,4’−ジヒロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシジアリールフルオレン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン;1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタンなどのジヒドロキシジアリールアダマンタン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、10,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−9−アントロン、1,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルチオ)−2,3−ジオキサペンタエン、α,ω−ビスヒドロキシフェニルポリジメチルシロキサン化合物などが挙げられる。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい
【0027】
(カーボネート源)
本発明において用いられるカーボネート源は、一般的なポリカーボネートの重合で用いられるホスゲンを始め、トリホスゲン、ブロモホスゲンなどを用いることができる。なお、エステル交換法の場合は、ジアリルカーボネートなどが、酸化的カルボニル化法の場合は一酸化炭素などを用いることができる。
【0028】
(不活性有機溶剤)
本発明において用いられる不活性有機溶剤は、例えば、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンなどの塩素化炭化水素や、トルエン、アセトフェノンなどが挙げられる。これらの不活性有機溶剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、特に塩化メチレンが好適である。
【0029】
(酸受容体)
本発明において用いられる酸受容体は、一般的なポリカーボネートの重合に用いられるものなら各種のものを用いることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、ピリジンなどの有機塩基などが挙げられる。これらの酸受容体はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(分子量調節剤)
本発明において用いられる分子量調節剤は、一般的なポリカーボネートの重合に用いられるものなら各種のものを用いることができる。具体的には、一価フェノールとして、例えばフェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、ドコシルフェノール、テトラコシルフェノール、ヘキサコシルフェノール、オクタコシルフェノール、トリアコンチルフェノール、ドトリアコンチルフェノール、テトラトリアコンチルフェノールなどを挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールなどが好ましく用いられる。また、これらの分子量調節剤は、効果を損ねない範囲で他のフェノール化合物などを併用しても差し支えない。
【0031】
(粘度平均分子量)
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体の粘度平均分子量は、10,000〜50,000であり、好ましくは13,000〜35,000、さらに好ましくは15,000〜20,000である。
粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度「η」を求め、次式にて算出するものである。
「η」=1.23×10-5Mv0.83
【0032】
(繰り返し単位(I)及びBP−BP連鎖のモル分率)
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体中における、ジヒドロキシビフェニルから誘導される前記繰り返し単位(I)をxモル、二価フェノールから誘導される前記繰り返し単位(II)をyモルとしたときに、繰り返し単位(I)のモル分率[x/(x+y)]×100が、30〜45モル%であり、好ましくは32〜45モル%、より好ましくは36〜45モル%である。
【0033】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体中には、前記式(A)で表される繰り返し単位(I)の2連鎖(BP−BP)、前記式(B)で表される繰り返し単位(I)と繰り返し単位(II)とからなる連鎖(BP−BPA)、前記式(C)で表される繰り返し単位(II)の2連鎖(BPA−BPA)が含まれており、該共重合体中におけるBP−BP連鎖をaモル、BP−BPA連鎖をbモル、BPA−BPA連鎖をcモルとしたときに、BP−BP連鎖のモル分率[a/(a+b+c)]×100が、10〜20モル%であり、好ましくは11〜18モル%、より好ましくは14〜18モル%である。
なお、本発明において共重合体中における上記BP−BP、BP−BPA及びBPA−BPA連鎖の各モルは、核磁気共鳴(NMR)分光法の13C−NMRでの測定により、カーボネート結合のC=O結合部分のCのシグナルより算出することができる。
【0034】
繰り返し単位(I)のモル分率が30モル%未満で、BP−BP連鎖のモル分率が10モル%未満であると難燃性能が生じず、また繰り返し単位(I)のモル分率が45モル%超で、BP−BP連鎖のモル分率が20モル%超であると、共重合体が不活性有機溶剤に難溶、又は溶融しなくなるため好ましくない。
【0035】
上記の繰り返し単位(I)のモル分率30〜45モル%、及びBP−BP連鎖のモル分率10〜20モル%を満足する本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体の製造方法は、前述したとおりであり、すなわちオリゴマー製造時にジヒドロキシビフェニル及びジヒドロキシビフェニル以外の二価フェノールを原料として用い、得られたオリゴマーをポリマー化することで繰り返し単位(I)の2連鎖BP−BPが生成される。
共重合体中のBP−BP連鎖のモル分率を10〜20モル%の範囲とするためには、オリゴマー製造時に使用されるジヒドロキシビフェニル量と、重縮合時に使用されるジヒドロキシビフェニル量との使用比率(モル比)が、20:80〜35:75の範囲であることが好ましい。
【0036】
オリゴマーの製造において、モノマーの3量体程度のオリゴマーを製造する場合、オリゴマー製造時に使用するジヒドロキシビフェニル量と重縮合時に使用するジヒドロキシビフェニル量の合計に対し、オリゴマー製造時に使用するジヒドロキシビフェニル量の割合が2割より少ないと、最終的に得られる共重合体におけるBP−BP連鎖のモル分率が10モル%よりも少なくなる。また、オリゴマー製造時に使用するジヒドロキシビフェニル量と重縮合時に使用するジヒドロキシビフェニル量の合計に対し、オリゴマー製造時に使用するジヒドロキシビフェニル量の割合が4割以上だと、得られるオリゴマーが溶媒に難溶、又は溶融しなくなるため適さない。
【0037】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、前述した芳香族ポリカーボネート共重合体99〜1質量部と該共重合体以外の他の芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99質量部とからなる組合せを含む。該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が高い難燃性を有するには、樹脂組成物中におけるジヒドロキシビフェニルから誘導される前述の繰り返し単位(I)のモル分率は、3モル%以上であることが好ましく、またBP−BP連鎖のモル分率は、1.5モル%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明において、用いることができる他の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく、例えば、二価フェノールとホスゲン又は炭酸エステル化合物などのポリカーボネート前駆体とを反応させることにより製造したものなど、慣用の方法により製造したものを挙げることができる。他の芳香族ポリカーボネート樹脂は、特に二価フェノールとしてビスフェノールAを原料として製造されたものが好適である。
【0039】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート共重合体と他の芳香族ポリカーボネート樹脂とを上記の割合で配合し、混練することにより得られる。なお、該樹脂組成物に配合する本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、それ自体で高い難燃性を示し、樹脂組成物としてもその難燃性を維持するため、該樹脂組成物に難燃剤の添加を必要としないが、必要に応じ難燃剤以外の酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0040】
配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダなどを用いる方法で行うことができるが、単軸押出成形機、多軸押出成形機などの連続押出成形機であって、強制ベント排気するタイプの押出成形機の採用が好ましい。また、押出成形機としては、成形原料の流れ方向において複数の原料供給部を備えたものも好適に用いることができる。
溶融混練の際の加熱温度は、通常200〜320℃、好ましくは220〜280℃の範囲で適宜選択される。
【0041】
[成形品]
本発明の成形品は、各種難燃剤やシリコーン系化合物などの難燃性を向上させる添加物を含有しない前述の芳香族ポリカーボネート共重合体あるいは前述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなるものである。また、成形方法としては特に制限はなく、従来公知の各種成形方法、例えば射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法などが挙げられる。
本発明の共重合体あるいは樹脂組成物は、難燃剤や上記添加物などを含有せずとも高い難燃性を示すことができ、さらにポリカーボネート樹脂が有する優れた耐衝撃性を維持しているものであるため、電気・電子分野、OA機器などの分野の材料として用いられる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、各例においてBPモル分率とは、前述したジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位(I)のモル分率のことである。
【0043】
また、本発明の製造例、実施例及び比較例において、粘度平均分子量、限界酸素指数、IZOD衝撃強度、ヘーズ及び全光線透過率を下記の方法により測定した。
・ 粘度平均分子量
ベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度「η」を求め、次式にて算出した。「η」=1.23×10-5Mv0.83
・ 限界酸素指数(LOI)
フレーク状のポリカーボネート樹脂を成形し、JIS K7201に従い、厚さ4mmの試験片を用いて限界酸素指数を測定した。
・ IZOD衝撃強度
フレーク状のポリカーボネート樹脂を成形し、JIS K7110に従い、0℃で5回測定した平均値を算出した。
・ ヘーズ、全光線透過率
厚み3mmの射出成形板についてJIS K7105に準拠し、ヘーズ及び全光線透過率を測定した。
【0044】
[製造例1]BPモル分率32mol%、BP−BP連鎖のモル分率11mol%の共重合体(A−1)
(1)ポリカーボネートオリゴマー合成工程
濃度5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に、後に溶解するビスフェノールA及び4,4’−ジヒドロキシビフェニル合計量に対して0.2質量%の亜二チオン酸ナトリウムを加え、ここにビスフェノールA:4,4’−ジヒドロキシビフェニル=75:25(モル比)でビスフェノールA及び4,4’−ジヒドロキシビフェニル合計濃度が13.5質量%になるように溶解し、モノマーの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。内径6mm、管径30mの管型反応器に、上記モノマーの水酸化ナトリウム水溶液を40L/hr及び塩化メチレンを35L/hrの流量で連続的に通すと共に、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器から送出された反応液は、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。(このようにして得られたポリカーボネートオリゴマー溶液は、オリゴマー濃度280g/L、クロロホーメート基濃度0.88mol/Lだった。)
【0045】
(2)ポリカーボネートの重合工程
上記オリゴマー溶液161ml、塩化メチレン64ml、トリエチルアミン39μlを仕込み、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH5gと亜二チオン酸ナトリウム18mgを水73mlに溶解した水溶液に、4,4’−ジヒドロキシビフェニル9gを溶解させたもの)を加え、10分間重合反応を行なった。その後、p−tert−ブチルフェノール(PTBP)1.36g、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH3.5gと亜二チオン酸ナトリウム10mgを水51mlに溶解した水溶液に、ビスフェノールA5.1gを溶解させたもの)を加え、50分間重合反応を行なった。希釈のために塩化メチレン200mlを加えたあと、静置することにより、ポリカーボネート共重合体を含む有機相と過剰のビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
【0046】
(3)洗浄工程
上記(2)の工程で得られたポリカーボネート共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して15体積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.05μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
溶液の一部を減圧下、120℃−4時間乾燥させて固形のポリカーボネート共重合体を得た。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19100であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は32mol%、BP−BP連鎖のモル分率は11mol%であった。
【0047】
[製造例2]BPモル分率36mol%、BP−BP連鎖のモル分率14mol%の共重合体(A−2)
製造例1の(2)において、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液を、NaOH6gと亜二チオン酸ナトリウム23mgを水88mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル11.4gを溶解させたものに変え、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を、NaOH2.5gと亜二チオン酸ナトリウム4mgを水36mlに溶解した水溶液にビスフェノールA2.2gを溶解させたものに変えたほかは、製造例1と同様に行なった。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19000であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は36mol%、BP−BP連鎖のモル分率は14.4mol%であった。
【0048】
[製造例3]BPモル分率39mol%、BP−BP連鎖のモル分率16mol%の共重合体(A−3)
製造例1の(1)で得られたオリゴマー溶液161ml、塩化メチレン64ml、トリエチルアミン39ml、PTBP1.36gを仕込み、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH8.5gと亜二チオン酸ナトリウム26mgを水124mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル13.2gを溶解させたもの)を加え一時間重合反応を行なった。希釈のために塩化メチレン200ml加えたあと、静置することにより、ポリカーボネート共重合体を含む有機相と過剰のビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離したほかは、製造例1と同様に行なった。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19100であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は39mol%、BP−BP連鎖のモル分率は16.4mol%であった。
【0049】
[製造例4]BPモル分率42mol%、BP−BP連鎖のモル分率18mol%の共重合体(A−4)
(1)ポリカーボネートオリゴマー合成工程
濃度5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に、後に溶解するビスフェノールA及び4,4’−ジヒドロキシビフェニル合計量に対して0.2質量%の亜二チオン酸ナトリウムを加え、ここにビスフェノールA:4,4’−ジヒドロキシビフェニル=65:35(モル比)で、ビスフェノールA及び4,4’−ジヒドロキシビフェニル合計濃度が13.5質量%になるように溶解し、モノマーの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。内径6mm、管径30mの管型反応器に、上記モノマーの水酸化ナトリウム水溶液を40L/hr及び塩化メチレンを35L/hrの流量で連続的に通すと共に、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器から送出された反応液は、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。(このようにして得られたポリカーボネートオリゴマー溶液は、オリゴマー濃度230g/L、クロロホーメート基濃度0.70mol/Lだった。)
【0050】
(2)ポリカーボネートの重合工程
上記オリゴマー溶液181ml、塩化メチレン44ml、トリエチルアミン35μl、PTBP1.36gを仕込み、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH7.6gと亜二チオン酸ナトリウム24mgを水111mlに溶解した水溶液に、4,4’−ジヒドロキシビフェニル11.8gを溶解させたもの)を加え、1時間重合反応を行なった。希釈のために塩化メチレン200Lを加えたあと、静置することにより、ポリカーボネート共重合体を含む有機相と過剰のビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
【0051】
(3)洗浄工程
上記(2)の工程で得られたポリカーボネート共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して15体積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.05μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
溶液の一部を減圧下、120℃−4時間乾燥させて固形のポリカーボネート共重合体を得た。
得られた共重合体の粘度平均分子量は18900であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は42mol%、BP−BP連鎖のモル分率は17.7mol%であった。
【0052】
[製造例5]BPモル分率7mol%、BP−BP連鎖のモル分率0mol%の共重合体(A−5)
(1)ポリカーボネートオリゴマー合成工程
濃度5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に、後に溶解するビスフェノールAに対して0.2質量%の亜二チオン酸ナトリウムを加え、ここにビスフェノールA濃度が13.5質量%になるようにビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。内径6mm、管長30mの管型反応器に、上記ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を40L/hr及び塩化メチレンを15L/hrの流量で連続的に通すと共に、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器から送出された反応液は、後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を2.8L/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を0.07L/hr、水を17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hrの流量で供給し、29〜32℃で反応を行った。槽型反応器から反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。このようにして得られたポリカーボネートオリゴマー溶液は、オリゴマー濃度318g/L、クロロホーメート基濃度0.75mol/Lであった。
【0053】
(2)ポリカーボネートの重合工程
邪魔板、パドル型撹拌翼を備えた内容積1Lの槽型反応器に上記オリゴマー溶液142ml、塩化メチレン83ml、トリエチルアミン29μlを仕込み、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH3.37gと亜二チオン酸ナトリウム12mgを水49.3mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル5.9gを溶解したもの)を加え10分間攪拌後、PTBP0.72g、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH3gと亜二チオン酸ナトリウム10mgを水43mlに溶解した水溶液に、ビスフェノールA4.81gを溶解したもの)を添加し50分間重合反応を行った。希釈のため塩化メチレン200Lを加えた後、静置することにより、ポリカーボネート共重合体を含む有機相と過剰の4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
【0054】
(3)洗浄工程
上記(2)の工程で得られたポリカーボネート共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して15体積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.05μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
溶液の一部を減圧下、120℃−4時間乾燥させて固形のポリカーボネート共重合体を得た。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19000であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は7mol%、BP−BP連鎖のモル分率は0mol%であった。
【0055】
[製造例6]BPモル分率12mol%、BP−BP連鎖のモル分率0mol%の共重合体(A−6)
製造例5の(2)ポリカーボネートの重合工程において、4,4’−ジヒドロキシビフェニル水溶液を、NaOH2.45gと亜二チオン酸ナトリウム6.1mgを水36mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル3.07gを溶解したものに変え、ビスフェノールA水溶液を、NaOH6.0gと亜二チオン酸ナトリウム25mgを水88mlに溶解した水溶液にビスフェノールA12.4gを溶解させたものに変えたほかは、製造例5と同様に行なった。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19100であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は12mol%、BP−BP連鎖のモル分率は0mol%であった。
【0056】
[製造例7]BPモル分率18mol%、BP−BP連鎖のモル分率0mol%の共重合体(A−7)
製造例5の(2)ポリカーボネートの重合工程において、4,4’−ジヒドロキシビフェニル水溶液を、NaOH6.33gと亜二チオン酸ナトリウム18mgを水92.5mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.8gを溶解したものに変えたほかは、製造例5と同様に行なった。
得られた共重合体の粘度平均分子量は18900であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は18mol%、BP−BP連鎖のモル分率は0mol%であった。
【0057】
[製造例8]BPモル分率18mol%、BP−BP連鎖のモル分率2.7mol%の共重合体(A−8)
製造例1において、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液を、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム8.5gと亜二チオン酸ナトリウム32mgを水124mlに溶解した水溶液に溶解したものにビスフェノールA16.1gを溶解したもの)に変えた以外は、製造例1と同様に行なった。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19000であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は18mol%、BP−BP連鎖のモル分率は2.7mol%であった。
【0058】
[製造例9]BPモル分率22mol%、BP−BP連鎖のモル分率3.5mol%の共重合体(A−9)
製造例1の(2)において、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液を、NaOH2.45gと亜二チオン酸ナトリウム6mgを水35.8mlに溶解した水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル3.1gを溶解させたものに変え、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を、NaOH6gと亜二チオン酸ナトリウム25mgを水88mlに溶解した水溶液にビスフェノールA12.4gを溶解させたものに変えたほかは、製造例1と同様に行った。
得られた共重合体の粘度平均分子量は19000であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は22mol%、BP−BP連鎖のモル分率は3.5mol%であった。
【0059】
[製造例10]BPモル分率30mol%、BP−BP連鎖のモル分率9.6mol%の共重合体(A−10)
(1)ポリカーボネートオリゴマーの合成工程
邪魔板を備えた内容積1Lの反応器に、4,4’−ジヒドロキシビフェニル12.2g(0,075mol)とビスフェノールA39.9g(0,175mol)とを6質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液480mlに溶解した溶液を入れ、次いで塩化メチレン250mlを加えて激しく攪拌しながらホスゲンを900ml/分の割合で13分間吹き込んだ。次いで得られた静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取しポリカーボネートオリゴマーを得た。
【0060】
(2)ポリカーボネートの重合工程
次に、このポリカーボネートオリゴマーの塩化メチレン溶液300mlをさらに塩化メチレンで希釈して全体を450mlとした。これに分子量調節剤としてPTBP2.0gを加えた後、2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液に4,4’−ジヒドロキシビフェニル4.6gとビスフェノールA15.3gを溶解させた溶液を加えて混合した。この混合液を攪拌下に重合触媒として5質量%濃度のトリエチルアミン水溶液1mlを加え、1時間重縮合反応を行なった。希釈のため塩化メチレン200Lを加えた後、静置することにより、ポリカーボネート共重合体を含む有機相と過剰のビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
【0061】
(3)洗浄工程
上記(2)の工程で得られたポリカーボネート共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して15体積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.05μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。溶液の一部を減圧下、120℃−4時間乾燥させて固形のポリカーボネート共重合体を得た。
得られた共重合体の粘度平均分子量は18900であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は30mol%、BP−BP連鎖のモル分率は9.6mol%であった。
【0062】
[製造例11]BPモル分率42mol%、BP−BP連鎖のモル分率0mol%の共重合体(A−11)
製造例1の(1)ポリカーボネートオリゴマー合成工程及び(2)ポリカーボネートの重合工程を、ビスフェノールAビスクロロフォーメート37mlに、ジクロロメタン130ml、PTBP0.52gを加え、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH3.3gを47.7mlに溶解したNaOH水溶液に亜二チオン酸ナトリウム13mg、4,4’−ジヒドロキシビフェニル6g溶解したもの)を加えて1時間攪拌したほかは、製造例1と同様に行った。
得られた共重合体の粘度平均分子量は18500であり、1H−NMR、13C−NMRを測定したところ、BPモル分率は42mol%、BP−BP連鎖のモル分率は0mol%であった。
【0063】
[実施例及び比較例]
表1及び2に示すように、上記製造例1〜11で製造した共重合体をA成分とし、また下記のB成分及びC成分を用いて、共重合体及び樹脂組成物について前述の測定を行ったものを実施例又は比較例とした。
【0064】
B成分:
ビスフェノールAポリカーボネート〔粘度平均分子量(Mv)17500、出光興産社製〕
C成分:
パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(C49SO3K)〔メガファックスF114、DIC社製〕
【0065】
【表1】

【0066】
上記表1におけるLOI及びIZOD衝撃強度の測定値から、実施例1〜4で得られた樹脂は、比較例1〜8で得られた樹脂よりも、難燃性及び耐衝撃性に優れることがわかる。
すなわち、上記表1より、ジヒドキシビフェニルを原料とする樹脂において、樹脂中のBPモル分率及びBP−BPモル分率が本発明で規定した範囲を満足することによって、該樹脂は、ポリカーボネート樹脂が有する優れた耐衝撃性を維持しつつ、樹脂単独で高い難燃性を示すという本発明の効果を奏することがわかる。
また、上記表1におけるヘーズや全光透過率の測定値から、比較例1〜8で得られた樹脂は、実施例1〜4で得られた樹脂よりも透明に近いことがわかる。このことから、樹脂中のBPモル分率及びBP−BPモル分率が本発明で規定した値よりも低いもしくはない場合、樹脂が透明に近くなることから、BPモル分率及びBP−BPモル分率と樹脂の透明性(ヘーズ値や全光透過率)との間に関連性があることがわかる。
【0067】
【表2】

【0068】
上記表2における、実施例5〜7で得られた樹脂組成物のLOI及びIZOD衝撃強度の測定値から、本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した樹脂組成物としても、高い難燃性及び優れた耐衝撃性を維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、優れた耐衝撃性を損なわず、難燃剤を含有させなくても、単独で高い難燃性を示すことができ、さらに他の芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した樹脂組成物としても、高い難燃性を維持することができるものである。そのため、電気・電子分野、OA機器などの難燃性を必要とする用途、さらに薄肉において難燃性が必要とされる用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロキシビフェニルから誘導される下記式(I)で表される繰り返し単位、及び二価フェノールから誘導される下記式(II)で表される繰り返し単位を有する、粘度平均分子量10,000〜50,000の芳香族ポリカーボネート共重合体であって、
該共重合体中における前記繰り返し単位(I)をxモル、前記繰り返し単位(II)をyモルとしたときに、繰り返し単位(I)のモル分率[x/(x+y)]×100が30〜45モル%であり、
該共重合体中における下記式(A)、(B)、(C)で表される連鎖をそれぞれaモル、bモル、cモルとしたときに、式(A)のモル分率[a/(a+b+c)]×100が10〜20モル%であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート共重合体。
【化1】

【化2】

〔上記式(I),(II),(A),(B)及び(C)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜12の置換又は無置換のアリール基から選ばれる基を示す。n、m、p及びqは、それぞれ独立に1〜4の整数を示す。Zは、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、炭素数7〜15のアリールアルキレン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−、−CO−、又は下記の式(II−1)、もしくは式(II−2)で示される基である。
【化3】


【請求項2】
繰り返し単位(I)が、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから誘導される繰り返し単位であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項3】
繰り返し単位(II)が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される繰り返し単位であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体99〜1質量部と他の芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99質量部とからなる組合せを含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
他の芳香族ポリカーボネート樹脂が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料として製造されたものであることを特徴とする請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体もしくは請求項4又は5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体もしくは請求項4又は5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるフィルム又はシート。

【公開番号】特開2012−46567(P2012−46567A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187579(P2010−187579)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】