説明

高電圧インバータ装置

【課題】コアの磁気抵抗部(ギャップ)からの漏れ磁束による不要輻射ノイズを効果的に低減させ、出力電圧も高められるようにする。
【解決手段】入力電圧Vinをスイッチング素子Qswによってスイッチングしてトランス10の励磁巻線NPに励磁電流を流し、出力巻線NSから高電圧Voutを出力する。そのトランス10が、励磁巻線NPと出力巻線NSを巻装するコアの磁路に磁気抵抗となるギャップを有する共振トランスであり、コアにおける磁束の向きと鎖交するように閉じられた帯状の導電材からなる磁気消去リング13を、その幅方向の中央がギャップの間隔の中央と磁束方向の位置が一致するように、コアと巻線部の外側に巻き付けて設け、その磁気消去リング13を、抵抗R2とコンデンサC2の並列回路を通してフレームグラウンドGNDに接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高電圧電源装置や放電用電源装置等に用いられるスイッチングレギュレータ、インバータ等の高電圧インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタにおける帯電器、大型液晶表示パネルのバックライト用放電管、プラズマ発生装置など、種々の装置に高電圧を供給するためにスイッチングレギュレータ等の高電圧インバータ装置が用いられている。
その高電圧インバータ装置におけるフライバック方式の昇圧用トランスには、そのコアの磁路にギャップによる磁気抵抗を設けて磁束飽和を抑制し、ギャップにエネルギーを蓄積することができ、飽和することなく多くの電流を流せるようにし、電流が不連続にならないようにしている。
【0003】
しかし、トランスのコアに磁気抵抗を設けると、その磁気抵抗部分から漏れ磁束が負荷に応じて発生し、不要輻射ノイズが発生すると共に出力が低下する要因ともなる。
そこで、特許文献1にも見られるように、トランスの磁気抵抗を形成するギャップに対応する位置の外周に、導電材によるショートリングを巻き付け、それによって磁気抵抗から出る漏れ磁束を電界成分に替え、フレミングの左手の法則により電流に替えて対応することが行なわれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−64318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、出力電圧が10KVを超える高電圧高電流のインバータ装置では、漏れ磁束による影響(不要輻射ノイズの発生や出力の低下等)は過大であり、単にショートリングを設けただけでは不要輻射を押さえきれない。ショートリングの幅を広くすればよいと思われるが、そうすると、ショートリングとコア等との間の分布容量が増加するため出力高電圧のピークがリークして出力が低下してしまう。
【0006】
ショートリングを筐体等のフレームグランド(GND)に落として安定な電位にするのが有効であるが、そうするとショートリングが1点アースのループアンテナとなり、そのループ長及び面積によって、フレームグランドである筐体等に急峻な電流が流れ、その経路から強い放射がなされてしまう。
【0007】
この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、高電圧インバータ装置における磁気抵抗部(ギャップ)からの漏れ磁束による不要輻射ノイズを効果的に低減させ、出力電圧も高められるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記の目的を達成するため、入力電圧をスイッチングしてトランスの励磁巻線に励磁電流を流し、出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、上記トランスが、上記励磁巻線と出力巻線を巻装するコアの磁路に磁気抵抗となるギャップを有する共振トランスであり、コアにおける磁束の向きと鎖交するように閉じられた帯状の導電材からなる磁気消去リングを、その幅方向の中央が上記ギャップの間隔の中央と磁束方向の位置が一致するように、上記コアと巻線部の外側に巻き付けて設け、その磁気消去リングを、抵抗とコンデンサの並列回路を通してフレームグラウンドに接続したことを特徴とする。
【0009】
上記磁気消去リングを、上記抵抗とコンデンサの並列回路およびその並列回路に直列に介挿された抵抗を通してフレームグラウンドに接続してもよい。
上記ギャップの間隔である磁気抵抗の距離をLrとしたとき、上記磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2(Wは磁気消去リングの幅)が、
Lr×8≦W/2≦Lr×16
の範囲であることが望ましい。
【0010】
上記トランスがコアの磁路に磁気抵抗となるギャップを複数有する場合は、その複数の各ギャップの間隔の和が上記磁気抵抗の距離Lrとなる。
上記磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2が、上記磁気抵抗の距離Lrの12倍(W/2=Lr×12)であると、出力電圧を最も高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の高電圧インバータ装置によれば、上記の構成によって、コアの磁気抵抗部(ギャップ)からの漏れ磁束による不要輻射ノイズを効果的に低減させることができ、また、漏れ磁束分の電界を再度励磁電流に重畳させることによって、出力電圧も高めることができる。
さらに、磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2が、上記磁気抵抗の距離Lrに対して上記の範囲になるようにすれば、その効果を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明による高電圧インバータ装置の一実施例を示す回路図である。
【図2】図1におけるトランス10の構成を示す正面図である。
【図3】図2に示したトランス10における巻線部12の右半部の縦断面図である。
【図4】従来例とこの発明の実施例のノイズレベルとその周波数特性を比較して示す線図である。
【図5】ギャップ中央と対応する磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離が磁気抵抗の距離の何倍かをパラメータとして、磁気抵抗の距離と出力電圧との関係を示す線図である。
【図6】この発明による高電圧インバータ装置に使用するトランスの異なる例を示す図2と同様な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、この発明による高電圧インバータ装置の実施例を示す回路図である。
この高電圧インバータ装置は、入力端子1a,1bから供給される直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された入力電圧Vinを、スイッチング素子Qswによってスイッチングしてトランス10の一次側の励磁巻線NPに励磁電流を流し、そのトランス10の二次側の出力巻線NSから高電圧を出力し、出力端子2a,2bから交流高電圧の出力電圧Vout を負荷に対して出力する。すなわち、図1においてINが入力、OUTが出力である。入力電圧Vinは安全特別低電圧(SELV)以内の電圧にするとよい。
【0014】
トランス10の励磁巻線NPの一端が正極側の入力端子1aに接続され、他端がFETによるスイッチング素子Qswのドレイン・ソース間を通して負極側の入力端子1bに接続されている。出力巻線NSの一端は出力端子2aに接続され、他端は出力端子2bに接続されている。なお、負極側の入力端子1bと出力端子2bは共通接続され、導電体からなる筐体やシャーシ又はフレーム等によるフレームグラウンドGNDに接続(接地)されている。
【0015】
20は発振回路を含む制御回路でありIC(集積回路)として作られている。この制御回路20は入力端子1a,1bから供給される入力電圧Vinによって動作し、抵抗R1を介してスイッチング素子Qswのゲートにスイッチングパルスを印加して、そのスイッチング素子Qswをオン・オフさせる。それによって、トランス10の励磁巻線NPに断続的に電流を流し、出力巻線NSに交流高電圧を発生させる。
【0016】
また、入力電源の正極側のa点とスイッチング素子Qswの正極側のb点との間に、a点に一端を接続したコンデンサC1とアノードをb点に接続したダイオードDとを直列に接続してスナバ回路を構成している。このスナバ回路は、トランス10のリセット用及びスイッチング素子Qswの電圧抑圧用に設けられている。
そのスナバ回路としては、このダイオードDとコンデンサC1の直列回路以外にも、図示していないが、a点とb点の間にコンデンサとに並列に抵抗を接続したいわゆるRCスナバ回路もある。
【0017】
トランス10の出力はスイッチング周波数の半波交流(脈流)であるが、直流部分が少しあったときにそれをカットしたい等の理由で交流のみ出力させたい場合が生じる。その場合は、出力の正極側ラインに図1に破線で示すようにコンデンサCsを配置するとよい。コンデンサCsは交流成分のみ導通する。
【0018】
ところで、トランス10は共振トランスであって、詳細は後述するが、外周に導電材料からなる磁気消去リング(ショートリングとも称す)13を設けている。その磁気消去リング13上の任意の位置がコンデンサC2と抵抗R2の並列回路(CR回路)を介してグラウンドGNDに接続されている。あるいは、コンデンサC2と抵抗R2の並列回路と抵抗Ryとの直列回路を介してフレームグラウンドGNDに接続してもよい。
【0019】
磁気消去リング13とその一端をフレームグラウンドGNDに落とす上記CR回路又はCRRy回路とによって、磁気消去回路30を構成している。
このトランス10は図2の正面図に示すように、コア11と巻線部12とショートリング13とを備えている。コア11はフェライト等の磁性材からなり、この実施例では両側部11bとその間の空間を仕切る中足(中央磁脚)11aを有するE字状のコアを2個向かい合わせに重ねたような形状をなす、例えばFEER42L型のコアである。
【0020】
このコア11は、矢印線H1,H2で示すように中足11aと一方の側部11bを通る磁路及び中足11aと他方の側部11bを通る磁路との2磁路を形成しており、その中足11aの長さ方向の中央部に2磁路分の磁気抵抗となるギャップGrを、磁路に直交する方向に設けて磁束飽和を抑制している。組み付けの便宜上、両側部11bも上下に分割されているが、互いに密着してギャップを形成せず、磁気抵抗とならないようにしている。ギャップGrは空隙に限らず絶縁材等の非磁性材を介在させてもよい。
【0021】
コアの磁路に磁気抵抗を設けることによって、前述したように磁路から磁束が離れる漏れ磁束が生じるが、磁束飽和が抑制され、すぐに飽和しなくなり磁界の強さ(ΔH)の幅がとれるので制御しやすくなる。磁界の強さに応じて磁束密度が変化し、それがインダクタンスの大きさに比例する。
【0022】
そして、このコア11の中足11aを巻き芯として、両側部11b,11bとの間の空間を埋めるように巻線部12を設けている。
この例では図示していないが、巻線するために予め中足11aを覆うように樹脂製のボビンを装着し、その上に巻線部12を巻装するのが一般的であるが、これにこだわる必要はない。
【0023】
そして、巻線部12は図3の右半部断面図に示すように、コア11の中足11aに出力巻線NSを略同じ巻き幅の複数層の巻線NS1〜NS4に分割(この例では4分割)して積層して巻装し、その外側に誘電体でなる主絶縁層Epsを介して励磁巻線NPを出力巻線NSと略同じ巻き幅で巻装している。その出力巻線NSの分割された各層の最下層の巻線NS1と中足11aとの間および隣接する各層間にも、それぞれ誘電体でなる絶縁層Es1〜Es4を設けている。励磁巻線NPは1層で所定巻き数だけ巻装し、その上を絶縁被覆層12aで被覆している。巻線NS1〜NS4は直列に繋がって励磁巻線NPに対して所定巻数比の出力巻線NSを形成している。
【0024】
上記各絶縁層Es1〜Es4及び主絶縁層Epsはいずれも、フッ素樹脂フィルムからなるテープを複数枚重ねて巻いて形成する。そして、主絶縁層Epsの厚さを絶縁層Es1〜Es4の厚さの2倍から4倍になるようにするとよい。
この実施例では図3に示すように、絶縁層Es1〜Es4は、それぞれフッ素樹脂フィルムからなるテープを3枚重ねて巻いて形成し、主絶縁層Epsは、同じテープを9枚重ねて巻いて形成して、主絶縁層Epsの厚さが絶縁層Es1〜Es4の各厚さの3倍になるようにしている。絶縁層Es1はボビンが兼ねるようにしてもよい。
しかし、この発明に使用するトランスの巻線部はこのような構成に限るものではない。
【0025】
このトランス10の励磁巻線NPに励磁電流が流れると、図2のコア11内に矢印線H1,H2で示す方向に磁束が発生するが、その磁束の向きと鎖交するように閉じられた帯状の磁気消去リング13を、その幅方向の中央が磁気抵抗となるギャップGrの間隔の中央と磁束方向の位置が一致するように、コア11と巻線部12の外側に図2に示すように巻き付けて設けている。この磁気消去リング13は磁場消去用のリングであり、銅やアルミニウムなどの導電材料からなるテープや薄板で形成される。
【0026】
この磁気消去リング13の一端を図1によって前述したように、コンデンサC2と抵抗R2の並列回路(CR回路)を介して、あるいはさらにライン上の抵抗Ryも介してフレームグラウンドGNDに接続されている。フレームグラウンドGNDは、安全性の観点からアース(接地)するのが好ましい。
【0027】
図2によって説明したようなコア11に磁気抵抗(ギャップGr)を持つトランス10において、磁気抵抗面(ギャップGrの対向面)で磁路から離れて外側へ出る磁束(漏れ磁束)が生じる。出力巻線NSに交番電圧が繰り返し発生されることによって磁束が上限に大きく変化する。当然のことながら出力される電圧の電位が高ければ高い程、その磁束変化が必然と大きくなるため漏れ磁束も定量的に多くなる。
【0028】
この漏れ磁束を抑制するために磁気消去リング13を設けているが、漏れ磁束を発生しているコア11とショートリング13との間で分布容量Coが発生し(図1に破線で示す)、そこに電圧が誘電される。その誘電された電圧が新たなノイズを放射するため、その電圧が逃げる電流経路上にダンピング用の抵抗R2を設けて電流変化の鋭さを無くし、コンデンサC2でさらに丸める。磁気消去リング13に流れる電流I(図2参照)はその磁気消去リング13の表面上で流れる(リング両端が特に強く流れる)。コア11との分布容量の悪さ、すなわち分布容量が発生する箇所で回路電流が流れてしまい、CR回路又はCR回路と抵抗Ryとの直列回路で抑制できなくなってしまう。
実験の結果、抵抗R2、Ryの抵抗値は2.2〜10kΩの範囲、コンデンサC2の容量値は22pF〜10μFの範囲が有効であった。
【0029】
従来のように磁気消去リング(ショートリング)を直接筐体等のフレームグラウンドに接続(直接GND接地)すると、急峻な電流が筐体等に流れ、戻り電流の一部が分布容量Coからも磁気消去リングへ戻ることになる。そのため、図4に曲線Aで示すようにノイズレベルが高く、しかもその周波数分布が大きく変動する(実際には曲線Aで示すよりも激しく変動する)。それに対して、磁気消去リング13を抵抗R2とコンデンサC2の並列回路(CR回路)を通してフレームグラウンドに接続したこの発明の上述した実施例によれば、図4に曲線Bで示すように、ノイズレベルが大幅に低下するとともに、その周波数分布も安定している。
【0030】
図2に示すように、磁気消去リング13を流れる電流Iの向きが、巻線部12における励磁巻線NPの巻線方向と同じ向きになり、漏れ磁束分の電界が再度励磁電流に重畳、加算されることが分かった。そのリング効果により出力電圧の約20%昇圧が可能になった。例えば、出力電圧8KVであったものが10KVに上昇可能になる。
【0031】
しかし、出力電圧を効率よく上昇させるためには、図2に示すように、磁気消去リング13の幅方向の中央とコア11の閉磁路における磁気抵抗となるギャップGrの間隔の中央との磁束方向の位置が一致するように、磁気消去リング13を設けることが必要である。そして、ギャップ中央と対応する磁気消去リング13の幅方向の中央から端縁までの距離をW/2(Wは磁気消去リング13の幅)とし、磁路内の磁気抵抗の距離(図2の例では磁気抵抗はギャップGrだけなので、そのギャップGrの間隔、ギャップが複数ある場合はその各ギャップの間隔の和になる)をLrとして、磁気消去リング13の距離W/2の磁気抵抗の距離Lrに対する倍率を次のように変えて、磁気抵抗の距離Lrに対する出力電圧Voutの変化を実験により求めた。
【0032】
a)W/2=Lr×12
b)W/2=Lr×14 又は W/2=Lr×10
c)W/2=Lr×16 又は W/2=Lr×8
d)W/2=Lr×17 又は W/2=Lr×7
【0033】
図5は、上記a)〜d)をパラメータとして、磁気抵抗の距離Lrと出力電圧Voutとの関係を示す線図である。直線a,b,c,dは上記a),b),c),d)の場合の各出力電圧を相対的に示している。
この実験例から、出力電圧を効率よく上昇させるためには、図5における直線c以上になる条件、すなわち下記の条件を満たすことが望ましい。
Lr×8≦W/2≦Lr×16 したがって、Lr×16≦W≦Lr×32
【0034】
この実験では、図1に示した高電圧インバータ装置において、トランス10として、FER42Lのコア11を使用し、励磁巻線NPとして0.9mm径の銅線を20T(T:ターン)巻き、出力巻線NSとして0.3mm径の銅線を200T(50Tずつ4層)巻いたもので、ギャップGrによる磁気抵抗の距離Lrが1.0mmで磁気消去リング13を装着しないトランスを使用した場合に、入力電圧Vinが56VDCで出力電圧Voutが8KVになるスイッチング周波数及びONデユーティでトランス10を励磁する。
【0035】
そして、磁気抵抗の距離Lrが0.5mm,1.0mm,1.5mmの3種類のトランスを交換して使用し、磁気消去リング13として、幅方向の中央から端縁までの距離W/2が磁気抵抗の距離Lrの7,8,10,12,14,16,17倍のものをそれぞれ交換して巻き付け、それぞれの組合せの場合の出力電圧Voutを測定した。
図5の直線aはW/2=Lr×12の場合のLrに応じたプロット点による直線である。
【0036】
図5の直線b付近の黒点で示す各プロット点はW/2=Lr×14の場合、×で示す各プロット点はW/2=Lr×10場合の各出力電圧であるが、Lrがいずれの値の場合も両プロット点は殆ど同じ電圧値になる。そのため、1本の直線bで示している。
直線c付近の黒点で示す各プロット点はW/2=Lr×16の場合、×で示す各プロット点はW/2=Lr×8の場合の各出力電圧であるが、Lrがいずれの値の場合も両プロット点は殆ど同じ電圧値になる。そのため、1本の直線cで示している。
【0037】
直線d付近の黒点で示す各プロット点はW/2=Lr×17の場合、×で示す各プロット点はW/2=Lr×7の場合の各出力電圧であるが、Lrがいずれの値の場合も両プロット点は殆ど同じ電圧値になる。そのため、1本の直線dで示している。
なお、W/2>Lr×17 又は W/2<Lr×7になると、出力電圧が図5の直線dよりさらに低下する。
【0038】
出力電圧が最も高くなるのは、図5における直線aになる上記a)の条件であり、W/2=Lr×12である。この場合の磁気消去リングの幅Wは、W=Lr×24である。
磁気抵抗の距離Lrは0.1mm〜2.0mm程度であり、Lr=0.5mmの場合、磁気消去リングの幅Wは、8mm〜16mmの範囲が望ましく、12mmが最もよい。
Lr=1.0mmの場合、磁気消去リングの幅Wは、16mm〜32mmの範囲が望ましく、24mmが最もよい。
【0039】
磁気消去リングの幅が上記の範囲を越えて大きくなると、リング上に流れる電流が均一電界から遠くなる。また、分布容量が増えることによって磁気消去リングの効果は上がるが、励磁巻線に重畳する電界の変化量が少なくなって出力電圧が上がらなくなる。
一方、磁気消去リングの幅が狭くなりすぎると磁気消去リングの効果なくなり、EMIのレベルが上がっていく。
【0040】
次に、この発明による高電圧インバータ装置に使用するトランスの異なる例を図6によって簡単に説明する。図6はそのトランスの図2と同様な正面図であり、図2と対応する部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
このトランス10′は、コア11の中足11aのギャップGr1の間隔を図2のトランス10の中足11aのギャップGりりも小さくして、その分の間隔を有するギャップGr2を両側部11bの長手方向の中央部に、ギャップGr1と高さ位置を一致させて磁路と直交する方向に設けている。
【0041】
この場合、前述した磁路内の磁気抵抗の距離Lrは、1つの閉磁路内の2つのギャップGr1の間隔Lr1とGr2の間隔Lr2の和になる。すなわち、Lr=Lr1+Lr2となる。
ギャップ中央と対応する磁気消去リング13の幅方向の中央から端縁までの距離をW/2(Wは磁気消去リング13の幅)とし、磁路内の磁気抵抗の距離Lrとの望ましい条件等は、前述の実施例の場合と同じである。
【0042】
以上、この発明による高電圧インバータ装置の好ましい実施例について説明してきたが、この発明はこれらに限るものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、この発明による高電圧インバータ装置のトランスを、同一の特性を持つ個別の複数のトランスによって構成し、その複数のトランスの各励磁巻線を並列に接続して同時並列に励磁させるようにし、その複数のトランスの各出力巻線を互いに並列又は直列に接続し、かつ各出力巻線の出力電圧波形の時間軸が同期するようにして、一層高電圧又は大電流の出力が得られるようにすることもできる。
【0043】
その場合も、その同一の特性を持つ個別の複数のトランスのそれぞれに、前述した磁気消去リングを設け、それを各々CR回路またはCR回路と抵抗との直列回路(CR・Ry回路)を通してフレームグラウンドに接続すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、スイッチングレギュレータ、インバータ、高電圧電源、放電用電源等の各種の高電圧発生装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1a,1b:入力端子 2a,2b:出力端子
10,10′:トランス(共振トランス) 11:コア
11a:中足(中央磁脚) 11b:側部 12:巻線部
12a:絶縁被覆層 13:磁気消去リング(ショートリング)
20:制御回路 30:磁気消去回路
Gr,Gr1,Gr2:磁気抵抗となるギャップ
Qsw:スイッチング素子 D:ダイオード
C1,C2,Cs:コンデンサ R1,R2:抵抗
NP:トランスの励磁巻線 NS:トランスの出力巻線
NS1〜NS4:出力巻線を構成する分割された各層の巻線
Eps:主絶縁層 Es1,Es2,Es3,Es4:絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧をスイッチングしてトランスの励磁巻線に励磁電流を流し、該トランスの出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、
前記トランスが、前記励磁巻線と出力巻線を巻装するコアの磁路に磁気抵抗となるギャップを有する共振トランスであり、
前記コアにおける磁束の向きと鎖交するように閉じられた帯状の導電材からなる磁気消去リングを、その幅方向の中央が前記ギャップの間隔の中央と磁束方向の位置が一致するように、前記コアと巻線部の外側に巻き付けて設け、
該磁気消去リングを、抵抗とコンデンサの並列回路を通してフレームグラウンドに接続したことを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高電圧インバータ装置において、前記磁気消去リングを、前記抵抗とコンデンサの並列回路および該並列回路に直列に介挿された抵抗を通して前記フレームグラウンドに接続したことを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高電圧インバータ装置において、
前記ギャップの間隔である磁気抵抗の距離をLrとしたとき、前記磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2(Wは前記磁気消去リングの幅)が、
Lr×8≦W/2≦Lr×16
の範囲であることを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高電圧インバータ装置において、
前記トランスが前記コアの磁路に前記磁気抵抗となるギャップを複数有し、該複数の各ギャップの間隔の和である磁気抵抗の距離をLrとしたとき、前記磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2(Wは前記磁気消去リングの幅)が、
Lr×8≦W/2≦Lr×16
の範囲であることを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の高電圧インバータ装置において、
前記磁気消去リングの幅方向の中央から端縁までの距離W/2が、前記磁気抵抗の距離Lrの12倍(W/2=Lr×12)であることを特徴とする高電圧インバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−143058(P2012−143058A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293313(P2010−293313)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】