説明

高電圧電気パルスの電気光学発生装置を含む断層アトムプローブ

本発明は、断層アトムプローブの一般的な分野に関し、特に、分析されているサンプルの蒸発を実現するために、電極に印加される電気パルスを用いる断層アトムプローブに関する。
これらの電気パルスを生成するために、本発明による断層アトムプローブには、半導体材料のチップを含む電気接続部によって電極に接続された高電圧発生装置が含まれる。プローブにはまた、半導体チップに印加される光パルスを生成するように制御できる光源が含まれる。照射全体を通して、チップは導電性にされるが、これは、電位ステップが電極に印加されるように、高電圧発生装置および電極を電気的に接触させる。プローブにはまた、時間間隔Δtの終わりに、前のステップと反対振幅の電圧ステップを印加するための手段が含まれ、その結果、電極は、最終的に期間Δtの電圧パルスを受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧パルス発生装置の一般的な分野に関する。本発明は、特に、材料サンプルの分析の目的で、断層アトムプローブに配置された材料サンプルから原子の蒸発を引き起こすために用いられるパルス発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
断層アトムプローブの本質的な特徴は、このプローブを用いて得ることができる質量分解能の値である。アトムプローブの質量分解能は、特に、以下のことを特徴付ける本質的な特性である。すなわち、
− 分析される材料を構成する元素における異なる同位体の様々な質量ピークを明白に分離するプローブの能力。この区別する能力は、それが、非常に異なる振幅を備えた隣接する質量ピークに関係する場合には、それだけ一層価値がある。
− 分析されている材料の元素に対応する質量ピークにおける検出ノイズの取り込みを低減することによって、分析されている材料、例えば合金における組成の測定精度を向上させるプローブの能力。
【0003】
質量分解能は、比率R=m/dmの形で表現されるが、ここでmは、問題のピークに(すなわち元素に)に対応する質量を表し、dmは、この所与のピークに関連する振幅に対する質量ピークの幅を表す。mが28に等しく、かつdmが、例えばh=0.5(半分の高さの幅)に対して0.28に等しい場合には、半分の高さでR=100である。
【0004】
したがって、飛行時間型質量分析計を構成するかかるプローブのメーカに対して提示される問題は、可能な最良のスペクトル分解能を得ることである。したがって、優れた質量分解能を得るときに、飛行時間型質量分析計を構成するかかるプローブのメーカに対して提示される問題は、可能な最良のスペクトル分解能を得ることである。周知のように、優れた質量分解能を得るには、サンプル(ここから、材料粒子が、一般にはイオン形態で分離される)から検出器への材料粒子の運動速度を制御することが含まれる。換言すれば、周知のように、提示される問題は、イオン形態で蒸発される原子が、同じ初期ポテンシャルエネルギでサンプルから分離され、次にこれらの原子が、ほぼ同じ速度で検出器へ移動できるようにすることである。
【0005】
同じく周知のように、サンプルの原子層からいくつかの原子を分離するために必要なポテンシャルエネルギの入力は、高い値の電圧パルス(高電圧パルス)を印加することによって実行されるが、その期間は、実際には、サンプル抽出ゾーン(先端)において1ナノ秒程度である。
【0006】
サンプルの端部におけるこの電圧および湾曲は、当業者には周知の効果である「電界効果蒸発」現象を得るために強度が十分な電界を生成するのに十分である。しかしながら、実際には、必要とされる理論的な電位レベルにほぼ瞬間的に達し、所与の時間にわたってこのレベルを常に維持し、その後同様にほぼ瞬間的に終了するパルスの生成は、当該技術分野の現在の状況では現実の問題を構成する。したがって、上部がほぼ放物線形状を有するパルスが一般に生成されるが、これは、かかるパルスが断層アトムプローブにおいて用いられる場合には、質量分解能の低下につながる。したがって、サンプルに印加されるパルスの振幅を蒸発中に変え、その後、放出されたイオンの軌道における第1の数ナノメートル中に変えることは、単一のエネルギ線ではなく、かなり広いエネルギ(速度)スペクトルの出現につながる。したがって、アトムプローブのスペクトル分解能は、高振幅および急勾配のエッジを備えた矩形波パルスを生成する能力次第である。
【0007】
図1および2は、断層アトムプローブまたは「広角断層アトムプローブ(wide angle tomographic atom prove)」の頭字語の「Watap」用のシミュレートされた質量ヒストグラムであって、シミュレートされたプローブが0.11mの所与の飛行距離を有する質量ヒストグラムによって、この依存性を示す。
【0008】
図1は、例として取り上げた、典型的で好都合な場合を示すが、この場合には、蒸発パルスは、200ピコ秒(ps)のプラトーおよび50ピコ秒のエッジを有する矩形波パルスである。
【0009】
次に図2は、それほど好都合ではない場合を示すが、この場合には、蒸発パルスは、200ピコ秒のプラトーおよび1000ピコ秒のエッジを有する矩形波パルスである。
【0010】
ある程度の幅を有するピーク11、21の存在、およびより拡張されているがしかしより低いレベルのテール12、22の存在の両方を、それぞれの図において見ることができる。ここで、ピークは、蒸発パルスがその最大レベル(パルスのプラトー)に達したときに生成される蒸発に対応し、一方で今度はテールは、前縁および後縁に対応する時間間隔中に生成される蒸発に対応し、それに対しては、蒸発イオンのエネルギ損失が観察される。
【0011】
したがって、一方でピークの、他方でテール(ピーク後に位置するパルスの部分)の相対的な振幅および期間が、問題のプローブの解像度を特徴付けること、ならびにピークの振幅が大きければ大きいほど、かつその幅が小さければ小さいほど、プローブの解像度がそれだけ大きいことを知れば、パルスの立ち上がりおよび立ち下がり時間の拡大が解像度の低下につながることが、図2から分かる。換言すれば、蒸発パルスが矩形波形状に近似すればするほど、プローブの解像度は、それだけ高くなることができる。
【0012】
この問題を制限するために、メーカは、非常に短いパルス(典型的には500ピコ秒未満)用の、急勾配のエッジすなわち非常に短い立ち上がりおよび立ち下がり時間(典型的には100ピコ秒未満)を備えたある一定の振幅プラトーを生成する方法を探している。周知の先行技術が、かかる高電圧パルスを生成するための様々なアプローチを提案している。
【0013】
例えば、水銀湿潤継電器を用いる高電圧パルス発生装置がある。しかしながら、比較的古い設計のかかる装置によって生成されるパルスの繰り返し周波数は、望ましい特性を考慮すると非常に低く(100ヘルツ程度)、これは、サンプルの分析を比較的遅くする。
【0014】
また、より最近の設計の半導体装置があり、これらの半導体装置によって、典型的には0Vに近い電圧と4kVの電圧との間の広い電圧範囲に振幅を設定できる短期間パルスを生成することが可能になる。さらに、これらの装置によって、数十キロヘルツまで及ぶ繰り返し周波数を得ることが可能になる。
【0015】
しかしながら、これらの性能は、立ち上がりおよび立ち下がり時間、すなわち、このように生成されるパルスのエッジにおける勾配度の劣化という犠牲の上に得られる。したがって、現在の先行技術では、かかる装置によって、短期間の高電圧矩形波パルス、すなわち、急勾配のエッジ(典型的には100ピコ秒未満)および最大値が短い(典型的には500ピコ秒未満)一定レベルを有するパルスを生成することは不可能である。
【0016】
さらに、所望の時間特性を有するが、しかし固定されているかまたは調整が困難なより低い振幅を有するパルスを生成できるパルス発生システムがある。したがって、これらのシステムは、次のような断層アトムプローブの範囲で使用するのに適さないか、またはそれほど適してはいない。すなわち、その性質上、異なる材料の分析を意図する断層アトムプローブであって、各材料が、サンプルを極性化する高電圧に電圧値が比例するパルスの生成を必要とする断層アトムプローブの範囲で使用するのに適さないか、またはそれほど適してはいない。
【0017】
したがって、先行技術の周知の装置は、一般に、高質量分解能を備えたアトムプローブを作製する文脈では、満足のゆくものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上記の特性を有する高電圧パルスの生成における特定の問題を解決すること、およびしたがって断層アトムプローブの質量分解能を改善できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的のために、本発明は、振幅Vおよび期間Δtの電気蒸発パルスを、電位Vにされたサンプルに印加するための手段を有する断層アトムプローブに関する。本発明によれば、これらの手段には、
− 初期電位Vにされ、かつ電気パルスをサンプルに印加するように構成および配置された電極と、
− 振幅Vのパルスを生成するために必要な電圧を発生できる電圧発生装置であって、開または閉にすることができる電気接続部によって電極に接続される電圧発生装置と、
− 電圧ステップVを電極に印加するために、所与の時間τに電気接続部を閉にするための手段であって、これらの手段が、電極の近くで、発生装置と電極との間の電気接続部に配置された半導体材料のチップと、波長λの光パルスを半導体チップに放射する第1の光源と、を含み、前記チップが、それが波長λの光パルスで照射された場合に、導電性になって電気接続部を閉じ、導電時間が、印加された光パルスの期間の関数である手段と、
− 電気接続部を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅(−V)の電圧ステップを電極に印加して、電極を電位Vにするための手段であって、電圧ステップがτとほぼ等しい時間τ’に印加されるように構成された前記手段と、
が含まれる。
【0020】
本発明による断層アトムプローブの特定の実施形態によれば、回路を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅−Vの電圧ステップを電極に印加するための手段は、発生装置をチップに接続する、特性インピーダンスZを備えた伝送線であって、Zに等しいインピーダンスによって電極の下流で終端される伝送線からなる。
【0021】
この特定の実施形態によれば、伝送線の長さLは、問題の時間間隔Δtの値によって決定されるが、この時間間隔は、生成される電気パルスの期間に等しい。
【0022】
本発明による断層アトムプローブの別の特定の実施形態によれば、回路を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅−Vの電圧ステップを電極に印加するための手段は、波長λの光パルスを半導体チップ上に放射する第2の光源であって、前記チップが、それが波長λの光パルスで照射された場合に絶縁性になり、電気接続部を開く第2の光源に存する。
【0023】
この特定の実施形態によれば、波長λの光パルスの放射と、波長λの光パルスの放射との間の時間間隔Δtが、生成される電気パルスの期間を決定する。
【0024】
本発明による断層アトムプローブの特定の実施形態によれば、電気パルスが生成される電極は、蒸発が予想されるサンプル端部に面して位置する。
【0025】
本発明による断層アトムプローブの別の特定の実施形態によれば、電気パルスが生成される電極は、サンプル自体からなる。
【0026】
本発明による装置によって、典型的には数ピコ秒程度の非常に短い立ち上がりおよび立ち下がり時間を有する電気パルス、特に高電圧パルスを形成することが可能になる。この方法によってまた、このパルスの最大振幅を、電圧プレートの期間を通して制御し一定に保つことが可能になる。この方法によってまた、電気蒸発パルス、すなわち、その特定の形状が、アトムプローブの質量分解能および特にその広角な変形を最適化できるようにする電気蒸発パルスを生成することが可能になる。
【0027】
本発明の特徴および利点は、以下の記載からよりよく理解されるであろうが、以下の記載は、非限定的な例として選択された特定の実施形態を用い、かつ添付の図を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】既存のアトムプローブの電気蒸発パルス生成装置によってもたらされる解像度問題の例示として図示された2つの質量ヒストグラムを示す。
【図2】既存のアトムプローブの電気蒸発パルス生成装置によってもたらされる解像度問題の例示として図示された2つの質量ヒストグラムを示す。
【図3】電気蒸発パルスが、一般に、周知の先行技術によるアトムプローブにおいて生成される方法を図示する概略図を示す。
【図4】好ましい実施形態に関連して、本発明による装置の一般的な動作原理を示す、図3の図に似た概略図を表す。
【図5】アトムプローブにおけるサンプル先端/バック電極アセンブリの等価回路図を示す。
【図6】本発明による装置の好ましい実施形態における、制御されたスイッチの機能を果たす半導体チップの等価回路図を示す。
【図7】本発明による装置の第1の好ましい代替実施形態に関する例示を示す
【図8】本発明による装置の第1の好ましい代替実施形態に関する例示を示す
【図9】本発明による装置の第1の好ましい代替実施形態に関する例示を示す
【図10】本発明による装置の第1の好ましい代替実施形態に関する例示を示す
【図11】本発明による装置の第2の好ましい代替実施形態に関する例示を示す。
【図12】本発明による装置の第3の好ましい代替実施形態に関する例示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図4の概略図に示すように、本発明による電気パルス発生装置には、第1に、電極32において振幅Vのパルスを生成するために必要な電圧を発生できる電圧発生装置41が含まれるが、このパルスは、サンプルがかけられる電位を考慮して、その蒸発を引き起こすことができるようにする。この電圧発生装置は、開または閉にできる電気接続部46によって電極32に接続される。
【0030】
本発明による装置にはまた、電圧ステップVを電極に印加して、最初は値Vに等しい電極の電位をV+Vにするために、接続部46の閉および開をもたらすための手段が含まれる。接続部46の閉をもたらすための手段には、電極の近くで発生装置41と電極32との間の電気回路に挿入された、制御されたスイッチと、このスイッチを制御するための手段と、が含まれる。
【0031】
これらの手段の好ましいが、しかし排他的でない実施形態は、高電圧発生装置41と、電気パルスが印加される電極32とを接続する回路に取り付けられた半導体材料のチップ42を用いることに存する。
【0032】
半導体材料のチップ42によって構成されたスイッチを作動させるための手段は、典型的には100ピコ秒未満で高強度の短パルス44を放射する光源43、例えばレーザ光源である。光源43によって放射されるパルスの長さλは、チップ42を形成するために用いられる半導体の関数として決定される。さらに、典型的には10マイクロジュール程度の、各パルスに含まれるエネルギは、半導体チップを導電状態に設定するのに十分である。
【0033】
本発明によれば、アセンブリは、チップ42が光源43によって照射されるように構成される。そのために、光パルス44は、透明窓45を通して直接に、または光ファイバもしくは任意の他の手段のいずれかによって、半導体チップ42に印加される。
【0034】
したがって、決められた期間の光パルスを半導体材料のチップに印加することによって、チップの導電性は、当然発現される。最初に、チップは、短い時間τで、絶縁状態から導電状態に変わる。続いて、チップは、光パルスの全体を通して導電状態に留まる。次に、光パルスが消された後で、チップは、時間τ’の終わりに絶縁状態に徐々に戻る。
【0035】
半導体材料のチップを導電状態に設定することが、電極における電圧ステップの出現につながり、そのとき電極は、電圧Vにされる。反対に、非導電状態へのチップの戻りが、電極では反対の電圧ステップの出現につながり、そのとき電極は、不活性電位Vにされる。このように、電気パルスが電極に生成され、その期間は、印加された光パルスの期間、およびチップを構成する半導体の特性に依存する。したがって、かかるパルスは、有利なことに、非常に短くすることができる。
【0036】
しかしながら、かかる構造を用いると、絶縁状態へ戻るための時間τ’が、時間τより実質的に非常に大きくなることに留意されたい。なぜなら、単に、半導体材料が照射された場合に、その内部で自由キャリアを生成するためにかかる時間が、照射が終了した場合に、これらのキャリアを除去するためにかかる時間τ’よりはるかに小さいからである。さらに、この時間t’は、どんな外部手段によっても修正することができない。したがって、一般に用いられる手段によってもたらされる期間よりはるかに短いものの、生成される電気パルスの期間は、完全には制御することができない。
【0037】
これが、次のことの理由である。すなわち、ここではスイッチとして働く半導体材料チップの絶縁状態へと戻るための時間を完全には決定できないという事実にもかかわらず、図4に示す要素に対して、さらに、本発明による装置が、電極において生成される電気パルスの幅を完全に制御できるようにする追加手段を組み込む理由である。
【0038】
これらの手段の動作は、次のことに存する。すなわち、電極の電位をほぼ瞬間的にVにするために、回路が閉じられた後、つまり好ましい実施形態ではチップが導電状態に設定された後の時間Δtの終わりに、振幅−Vの電圧ステップを電極に印加することである。このようにして、従来のパルス発生装置で生成されたパルスの期間よりも期間を短く(100ピコ秒程度)することができ、かつ前縁および後縁が非常に急勾配で(数ピコ秒)かつ類似しているかまたはほぼ等しくさえある期間を有する電気パルスを得ることが可能である。
【0039】
次のことに留意されたい。すなわち、かかる手段は、電極にかけられる電位に直接影響を及ぼすが、有利なことに、接続部46の閉および開をもたらすための種々様々な手段と関連付けてもよいことである。したがって、かかる手段を用いることによって提供される利点は、上記の好ましい実施形態の特定の場合、すなわち、これらの手段が半導体材料のチップおよび光パルスを生成する光源からなる場合に限定されない。
【0040】
したがって、物理的な観点から、本発明による装置の好ましい実施形態において、高電圧パルスは、直接または間接ギャップを備えた半導体材料(シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素等)の1つまたは複数のチップ42によって生成される。かかる元素は、それらの電気光学特性で知られているが、例えばフェムト秒パルスレーザ発生装置から来る短くて強い光パルス44の影響下で、短時間にわたって導電性になる。したがって、光パルス44の波長λは、半導体材料における光導電によって自由電荷を生成するように選択される。換言すれば、放射される光子のエネルギは、用いられる材料のギャップより大きくなるように決定される。
【0041】
このように、材料のこのチップ42が照射されていない場合には、その電気抵抗は、100メグオーム程度で高いままである。反対に、チップが、光源43によって放射された強い光パルス44によって照射されている場合には、多数の自由電荷またはキャリアが、光導電効果によってチップ42内で放出される。次に、チップは、非常に短い時間、典型的には100ピコ秒未満で、数メグオームから数オームのインピーダンスに変わる。次に、チップは、導電性になる。装置が導電性である時間(導電時間)は、自由キャリアの寿命に対応するが、さらに、チップの厚さ、用いられる半導体材料の性質、および半導体が照射される時間またはより一般的には受け取る光エネルギに依存する。
【0042】
半導体チップ42の形状は、実際には、チップが絶縁状態(開スイッチ)にある場合にチップの2つの端部間に数キロボルトの電圧を設定できることが必要であることが知られているため、材料の破壊電圧に達するのを避けるように選択される。この破壊電圧は、例えば、シリコンに対しては3・10V/cm、ガリウムヒ素に対しては4・10V/cmに等しい半導体材料の定数である。したがって、十分な厚さが必要である。反対に、高パルス発生周波数で動作できるために、チップが、絶縁状態から導電状態へ、および導電状態から絶縁状態へ非常に急速に変化することが望ましい。これには、厚さの薄いチップ42を用いることを必要とする。したがって、チップ42に与えられる厚さの選択は、特に、用いられる材料の機能と、特に材料の性質に依存するチップの導電時間(光誘起キャリアの再結合時間)との妥協からもたらされる。
【0043】
動作の観点からすれば、チップ42は、図5に示すRLCタイプの回路をそれ自体で構成するが、この回路に関して、抵抗Rは、チップが照射されていない場合(スイッチの開状態)の数メグオームから、チップが照射されている場合(スイッチの閉状態)の数オームに変化する。典型的には1ピコファラド程度のキャパシタンスCは、チップの形状の関数である。次に、インダクタンスLは、数十ピコヘンリー程度である。したがって、このチップは、共振回路を表し、その共振周波数ν
【数1】

は、典型的には数十ギガヘルツである。したがって、できるだけ一定した電圧プレートを有するパルスを生成できるようにするために、チップに印加される光ビームの強度を活用して抵抗Rを調整し、どんな寄生振動も抑制するようにすべきである。しかしながら、チップが導電性の場合に、非ゼロ抵抗を維持することによって、立ち上がり時間は、数ピコ秒だけ劣化される。
【0044】
したがって、本発明によれば、材料のチップ42は、生成される電気パルスの形成を直接左右し、その結果、図3に原理が示された、従来の装置に装備された発生装置31と異なり、発生装置41は、DC電圧発生装置、すなわちチップ42によって構成されたスイッチによって刻まれる広いパルスを放射する発生装置である。
【0045】
チップ42の導電時間、および導電時間中におけるチップの導電性の発現が、サンプルに印加される電気パルスの最大幅を決定することに留意されたい。この期間は、特に、光パルス44の期間およびチップ材料の性質の関数である。さらに、今度は、パルスの最小立ち上がり時間は、一方では自由キャリアの生成速度の、他方では内部に装置が挿入されている電子回路の構造の関数である。このように、適切な構造を採用することによって、数ピコ秒程度の最小立ち上がり時間を有利に得ることができる。
【0046】
さらに、チップ42内の自由キャリアの寿命が、電気パルスの最大立ち下がり時間を決定する。したがって、パルスの正確な期間と同様に立ち下がり時間の期間も、相補的な手段によって制御される。しかしながら、自由キャリアの消滅速度は、図12に示し、かつ以下の記載で説明する応用例など、ある応用例において、第2の光パルスをチップ42に印加することによって増加させてもよく、この第2の光パルスは、チップを導電状態に設定するために用いられる波長とは異なる波長ν’を有する。この場合の目的は、前縁の期間程度の期間を備えた後縁を有する電気パルスを得ることである。
【0047】
さらに、光パルス45の波長は、光導電効果を生成するために、用いられる材料の関数として選択される。用いられる光源43の光度もまた、チップが導電状態(閉スイッチ)にある場合に、チップの電気抵抗を十分に低減するように選択されるべきである。
【0048】
したがって、発生されるパルスのサイズ、および取得可能な前縁および後縁の勾配度ゆえに、特に上記の好ましい実施形態における本発明による装置は、アトムプローブ用に従来的に用いられる電気パルス発生装置(図3を参照)に有利に取って代わる。
【0049】
さらに、半導体材料のチップをスイッチとして用いることによって、このように作製された装置のスイッチング部を、プローブの真空チャンバに直接統合することが可能になり、その結果、スイッチは、パルスの印加点のすぐ近くに有利に配置することができる。スイッチング回路の適応、およびしたがって生成されるパルスの形状は、かくしてよりよく制御することができる。
【0050】
アトムプローブ内で蒸発パルス発生装置として用いるための、好ましい実施形態における本発明による装置の変形は、広範囲にわたり、かつサンプル33に対する電極32の配置と、生成された電気パルスを電極32およびサンプル33に伝達できるようにする全体的な電気接続部46を作製する方法と、に特に依存する。様々な代替実施形態が、以下の説明において、非限定的な例として示されている。これらの代替実施形態は、特に次の事実を考慮する。すなわち、図6によって示すように、バック電極およびサンプル先端によって形成されたアセンブリが、RLCタイプの回路を構成し、その抵抗Rが、ほぼゼロオームから1000メグオームに変化し、そのキャパシタンスCおよびインダクタンスLが、それぞれ、100ピコファラド程度および1ナノヘンリー程度であるという事実を考慮する。この回路は、特性時間が1〜5ピコ秒程度である共振周波数ν
【数2】

を有する。したがって、本発明による装置は、どんな共振振動も回避するために、前縁および後縁がこの値より大きな期間を有するパルスを生成できるようにするべきである。
【0051】
図7〜10は、本発明による装置の第1の変形と、同様に本発明の一般的な動作原理を示す。
【0052】
図7および8は、本発明による装置の第1の実施形態を概略的に示し、かつその動作を詳述できるようにする。この第1の実施形態は、以下の説明に示す他の実施形態と同様に、当然のこととして、非限定的な例として提示される。
【0053】
この代替実施形態において、インピーダンスRの電圧発生装置71は、長さLの伝送線72によってリング状電極73に接続される。電極は、分析されるサンプル76の端部に面して配置されるが、このサンプルは、先端形状をしており、それ自体が電位Vにされる。
【0054】
半導体チップ75は、リング73のベースに配置され、リング73は、線72を閉じる負荷インピーダンスZ、74に接続される。
【0055】
伝播線72は、典型的には100オーム程度の、負荷インピーダンスZ、74に等しい特性インピーダンスを有し、一方で発生装置71の抵抗Rの値は、電圧波の反射を最大限にするように選択される。さらに、Rの値は、チップの端子にわたって最大電圧を得るように、典型的には数メグオームの、非導電状態におけるチップ75のインピーダンスRoffより小さい。したがって、様々なインピーダンスの関係は、以下のように設定される。
>>Roff>>Z
【0056】
サンプル76におけるいくつかの原子の電界効果蒸発は、最初は基準電位に近い電位のリング73が、この基準に対して負の値にされたときに発生する。プローブの解像度を左右する蒸発プロセスの制御は、この電位が、非常に短い瞬間だけリングに印加され、その結果、ほんの少数の原子だけが蒸発されることを必要とする。
【0057】
図7は、刺激が存在しない状態における装置を示す。そのとき、半導体チップ74は非導電性であり、その結果、それは、高インピーダンスRoffを有する。今度は次に、リング73は、基準電位にほぼ等しい電位、例えば地電位にされる(Vring〜0)。このようにして、サンプル76は電位Vにされるだけなので、蒸発は発生しない。
【0058】
他方で図8は、刺激が存在する状態における装置を示す。この刺激は、光パルスの形態を取るが、この光パルスは、半導体材料のチップ75を導電性にすることによって装置をトリガして、そのときチップ75が、所与の時間にわたって低いかまたは非常に低い値の抵抗Ronを有するようにする。
【0059】
したがって、チップ75の抵抗Rの値におけるこの変動は、一方では発生装置71の方向に、他方では負荷Z、74の方向に、速度Vで線に沿って伝播する値Vの電圧ステップ82の、時間tにおける出現につながる。チップ75のインピーダンスがほぼゼロであり、かつ負荷インピーダンス74および線72の特性インピーダンスの値が同じ値Zにほぼ等しいことを考慮すると、電圧ステップの振幅Vは、−V/2にほぼ等しい。さらに、このステップの立ち上がり時間τは、光パルスの影響下で導電性になるために材料によって費やされる時間の関数である。それは、1ピコ秒程度である。
【0060】
発生装置71の入力部に到達すると、電圧ステップ83は、Rで反射され、インピーダンスZの値に対して抵抗Rの高い値を背景に、V/2とほぼ等しい振幅を備えた反対符号のステップ84を生成し、今度は、ステップ84が、線72に沿って伝播し、その結果、2・L/vs(vsは、線74に沿った信号の伝播速度を表す)にほぼ等しい時間Δt後に、入射ステップ83および反射ステップ84は、リング73で加算される。次に、リング73に印加された電圧は、立ち上がり時間に等しい時間(立ち下がり時間)において互いにキャンセルする。したがって、線72の長さL、およびリングがチップ75の近くに位置するという事実ゆえに、リング73は、最初に、立ち上がり時間τを備えた電圧ステップVを受信し、次に、時間Δtの終わりに、同様にτに等しい立ち下がり時間を備えた反対電圧ステップ−Vを受信する。したがって、振幅−V/2ならびに期間τの前縁および後縁を有する期間Δtのパルスが、リング73に印加される。
【0061】
有利なことに、リング73に印加されるパルスの形状および期間を定義するパラメータτおよびΔtの値を制御できることに留意されたい。具体的には、前縁および後縁の期間τは、直接的に、用いられる半導体材料および印加される光パルス81の強度の関数である。次に、期間Δtは、伝送線74の性質および長さによって決定される。
【0062】
図9および10は、本発明による装置を用いることの有利な効果を、シミュレーション結果によって示す。このシミュレーション用に、半導体チップ75は、RLC回路、すなわち、レーザ照射下のその抵抗Ronが10オームに等しく、照射のないその抵抗Roffが1メグオームに等しいRLC回路をモデルとしている。インダクタンスLは、ここでは5・10−12ヘンリーに設定され、キャパシタンスCは、10−13ファラドに設定される。さらに、発生装置71によって送出される電圧Vは、1000ボルトに設定され、その抵抗Rは、33キロオームに設定される。さらに、インピーダンスZは、100オームに設定され、伝送線72の長さは、2センチメートルに設定される。最後に、線72に沿った伝播速度は、マイクロ秒当たり200メートルに設定され、チップ75を構成する半導体におけるキャリア生成時間は、ここでは2ピコ秒に設定される。
【0063】
図9のオシログラムは、半導体チップが光パルスによって照射された場合に、かかる装置を用いれば、200ピコ秒にほぼ等しい期間を備え、数ピコ秒程度の等しい期間の非常に短い前縁92および後縁93ならびにV/2に近い振幅を有する電気パルス91が生成されることを示す。また、有利なことに、生成されるパルスの期間が、伝播線72に沿った電圧ステップの伝播時間にのみ依存することが分かる。
【0064】
図10の例示は、先行技術による周知のタイプのパルス発生装置ならびに図7および8によって示すような本発明による装置によって作製されるパルス発生装置を用いることによってそれぞれ得られる質量スペクトル101および102を、30AMUに等しい質量を備えた元素からなる均一サンプルに対して単一図に示す。図に示すように、有利なことに、本発明による装置を用いることによって、パルス、すなわち、その特性が、この装置を統合するアトムプローブの総合的性能を改善するパルスを生成することが可能になる。質量分解能の観点から、この改善は、周知の従来的手段を用いることによって得られた同じサンプルのスペクトルに対して、少なくとも1桁のスペクトルのベースの減衰によって、図で実証される。
【0065】
図11は、本発明による装置の第2の代替実施形態を概略的に示す。
【0066】
この変形において、蒸発パルス発生装置は、分析されるサンプルが、リング電極73ではなくアセンブリに直接組み入れられるように構成される。装置の電位基準は、前の実施形態においてサンプルにだけ印加された電位Vにされ、したがって、アセンブリは、Vに等しい共通の電位にされた装置およびサンプルからなる。
【0067】
さらに、電圧発生装置は、サンプルに印加された電圧Vに加えることができる電圧+Vを送出するように構成される。
【0068】
したがって、停止中に、すなわち照射がない状態で、半導体材料のチップ74は、そのとき非導電性であり、その結果、それは、高インピーダンスRoffを有する。次に、サンプル76は、基準電位Vとほぼ等しい電位にされ、その結果、溶融は発生しない。
【0069】
他方において、動作中に、すなわち半導体材料のチップ74が照射にさらされ、したがって非常に低いインピーダンスRonを有する場合には、サンプル76は、電圧パルスの期間全体にわたってサンプル76をV+Vにほぼ等しい電位にする電圧パルスにさらされ、これが、所望の蒸発を引き起こす。
【0070】
前の実施形態におけるように、この第2の代替実施形態において、パルスの期間は、発生装置71によって送出された電圧をサンプル76に印加できるようにする線72の長さによって決定される。したがって、この第2の構成をアトムプローブにおいて用いることによって、解像度の点で、前の構成によって得られたものと同じ利点が得られる。
【0071】
図12は、本発明による装置の第3の代替実施形態を概略的に示す。
【0072】
ここで説明する変形は、生成される電気パルスの期間と同様に、その前縁および後縁の期間が、単に半導体材料のチップ75に影響を及ぼすことによって得られる点で、前の変形と異なる。
【0073】
チップ75は、第1の光パルス121を印加することによって導電性(R=Ron)にされ、次に、第1の光パルスと異なる波長を備えた第2の光パルス122を、時間Δtの終わりに印加することによって、再び非導電性(R=Roff)にされる。このように、期間Δtの電気パルスが生成される。
【0074】
前述のように、第1の光パルス121の動作は、光誘起された自由キャリアを半導体材料に生成することに存する。一方で第2の光パルス122は、自由キャリアのほぼ瞬間的な破壊を引き起こすように、半導体の再結合サイトを活性化することによって半導体に影響を及ぼす。この実施形態によれば、チップを構成する半導体材料は、問題の2つの波長に反応するように選択される。
【0075】
本発明によれば、2つの光パルス121および122間の時間間隔Δtは、任意の周知の手段、例えば光遅延線によって生成される。
【0076】
期間が、2つの光パルス間の時間間隔の関数であり、かつ前縁および後縁が、半導体を導電性にするために費やされる時間および第1の光パルスによって生成された自由キャリアの再結合時間だけに依存する、数ピコ秒程度の期間を有する電気パルスが、このようにして得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振幅Vおよび期間Δtの電気蒸発パルスを、電位Vにされたサンプルに印加するための手段を有する断層アトムプローブであって、これらの手段が、
− 初期電位Vにされ、かつ前記電気パルスを前記サンプルに印加するように構成および配置された電極と、
− 振幅Vのパルスを生成するために必要な電圧を発生できる電圧発生装置であって、開または閉にすることができる電気接続部によって前記電極に接続される電圧発生装置と、
− 電圧ステップVを前記電極に印加するために所与の時間τに前記電気接続部を閉にするための手段であって、これらの手段が、前記電極の近くで、前記発生装置と前記電極との間の前記電気接続部に配置された半導体材料のチップと、波長λの光パルスを前記半導体チップに放射する第1の光源と、を含み、前記チップが、それが波長λの光パルスで照射された場合に導電性になって前記電気接続部を閉じ、導電時間が、印加された前記光パルスの期間の関数である手段と、
− 前記電気接続部を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅(−V)の電圧ステップを前記電極に印加して、前記電極を前記電位Vにするための手段であって、前記電圧ステップが、τとほぼ等しい時間τ’に印加されるように構成された手段と、
を含むことを特徴とする、断層アトムプローブ。
【請求項2】
前記回路を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅−Vの電圧ステップを前記電極に印加するための前記手段が、前記発生装置を前記チップに接続する、特性インピーダンスZを備えた伝送線であって、Zに等しいインピーダンスによって前記電極の下流で終端される伝送線からなることを特徴とする、請求項1に記載の断層アトムプローブ。
【請求項3】
前記伝送線の長さLが、問題の前記時間間隔Δtの値によって決定され、この時間間隔が、生成された前記電気パルスの期間に等しいことを特徴とする、請求項2に記載の断層アトムプローブ。
【請求項4】
前記回路を閉じた後で、時間Δtの終わりに、振幅−Vの電圧ステップを前記電極に印加するための前記手段が、波長λの光パルスを前記半導体チップ上に放射する第2の光源であって、前記チップが、それが波長λの光パルスで照射された場合に絶縁性になり、前記電気接続部を開く第2の光源からなることを特徴とする、請求項1に記載の断層アトムプローブ。
【請求項5】
波長λの光パルスの放射と、波長λの光パルスの放射との間の前記時間間隔Δtが、生成される前記電気パルスの期間を決定することを特徴とする、請求項4に記載の断層アトムプローブ。
【請求項6】
前記電気パルスが生成される前記電極が、前記蒸発が予想される前記サンプル端部に面して位置することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の断層アトムプローブ。
【請求項7】
前記電気パルスが生成される前記電極が、前記サンプル自体からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の断層アトムプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−509560(P2012−509560A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536801(P2011−536801)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063346
【国際公開番号】WO2010/057721
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511124079)
【出願人】(511124091)
【Fターム(参考)】