説明

高靭性非調質圧延鋼材及びその製造方法

熱処理段階を省略しても、成分系中のMnの含量及び冷却条件を制御してCの拡散を抑制し、これにより、圧延鋼材の内部組織に不完全パーライト組織を確保することにより、鋼材の靭性を向上させた圧延鋼材、上記圧延鋼材を伸線した伸線材及びその製造方法を提供する。本発明の圧延鋼材は、重量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.1〜0.2%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.035%以下、S:0.040%以下、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含み、圧延鋼材の微細組織は厚さが150nm以下のセメンタイトを含むパーライトとフェライトから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用鋼として用いられることができる圧延鋼材及び伸線材に関し、熱処理段階を省略してもMnの含量と冷却条件を制御して圧延鋼材の微細組織内に不完全パーライト組織を確保した靭性に優れた圧延鋼材及び伸線材に関する。また、本発明は、上記圧延鋼材及び伸線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
殆どの構造用鋼は、熱間加工後に再加熱、焼入れ、焼戻しをして強度と靭性を高めて用いる調質鋼(Quenched and Tempered Steel)である。これに反し、非調質鋼材(Non−Heat Treated Steel)は、熱間加工後に熱処理をしない鋼で、熱処理(調質処理)した材質と殆ど類似した靭性と強度が得られる鋼のことである。熱処理をすることなく用いる鋼の名称として非調質鋼材(Non−Heat Treated Steel)ともいい、微量の合金を添加して材質を作る鋼の名称としてマイクロ合金鋼材(Micro−Alloyed Steel)ともいう。以下、本発明では、上記特性を有する鋼を非調質鋼材と称する。
【0003】
一般に、線材製品は、次のような段階により最終製品として製造される。線材製品の最終製品は、圧延材→冷間伸線→球状化熱処理→冷間伸線→冷間鍛造→急冷及び焼戻し→製品の順に製造される。しかしながら、非調質鋼材は、熱間圧延材→冷間伸線→冷間鍛造→製品の順に製造されて、熱処理工程を省略した経済的製品として非調質鋼材を生産することができると共に、最終急冷及び焼戻し段階も行わないため、熱処理による欠陥、即ち、熱処理歪みを発生しないで直進性が確保されて多くの製品に適用されている。
【0004】
しかしながら、熱処理工程が省略され持続的な冷間加工が与えられるため、工程が進行するほど、製品の強度は上昇するが、靭性は持続的に下落するようになる。したがって、国内外の線材製造業者は、非調質鋼材の靭性を改善した高靭性型非調質鋼材の製造に技術を集中している。このような非調質鋼材を製造する方法としては、析出物を用いて鋼材の結晶粒を微細化させるか、又は合金元素を添加して複合微細組織を確保する方法等がある。
【0005】
日本国特許公開第1995−054040号公報は、重量%で、C:0.1〜0.2%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜2.0%、Cr:0.05〜0.3%、Mo:0.1%以下、V:0.05〜0.2%、Nb:0.005〜0.03%及び残部Feからなる合金鋼を熱間圧延した後、冷却過程において800〜600℃の間で60秒以内で合金鋼を冷却し、450〜600℃で加熱するか、又は継続して600〜450℃の間で20分間以上維持した後に合金鋼を冷却し、その後、冷間加工を行って、抗張力750〜950MPaの非調質鋼線材を提供することができる方法を提案している。しかし、この方法では、制御圧延という過程により製品を熱間圧延し、高価な成分のCr、Mo及びV等を添加するため非経済的である。
【0006】
また、日本国特許公開第1998−008209号公報は、冷間加工性及び熱間加工後の強度に優れた非調質鋼材及びその製造方法及び非調質鋼を用いた鍛造部材の製造方法に関し、C、Si、Mn、Cr、V、P、O、S、Te、Pb、Bi及びCaの含量を制御した鋼において、フェライト相の体積率が40%以上であり、硬度が90HRB以下である、冷間加工性に優れた非調質鋼に関する。詳細には、最終加工温度が800〜950℃となるように熱間圧延した後すぐに、毎分120℃以下の冷却速度でA1点以下の温度まで連続冷却する方法、及び熱間圧延鋼材を800〜950℃で10分以上加熱した後に空気中で放冷する方法、また、上記鋼材に冷間加工又は600℃以下の温度で温間加工をし予備成形体を製造し、この予備成形体を1000℃〜1250℃の温度で熱間鍛造した後に、空気中で放冷したことにより、硬度20〜35HRBの構造部材を製造する方法に関する。しかし、この技術は、通常用いない元素を含む特定鋼に限定し、冷間鍛造用に適用されるものではない。
【0007】
また、日本国特許公開第2006−118014号公報は、冷間加工性に優れ、また、伸線の減面率が高い加工を行った場合にも熱処理後の結晶粒粗大化が抑制される、ボルト等の製造に適したはだ焼鋼(case−hardened steel)の製造方法を提供する。この方法では、重量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.5%以下(0%除外)、Mn:0.3〜1.0%、P:0.03%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Cr:0.3〜1.5%、Al:0.02〜0.1%、N:0.005〜0.02%、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む鋼材を用い、700〜850℃の温度で熱間仕上げ圧延又は熱間仕上げ鍛造を行った後、0.5℃/sec以下の冷却速度で600℃まで冷却を行い、室温まで放冷して伸線の減面率を20%未満に抑制して、高靭性非調質線材を製造する方法を提案している。上記技術は、高価のCrを用いるため非経済的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特許公開第1995−054040号公報
【特許文献2】日本国特許公開第1998−008209号公報
【特許文献3】日本国特許公開第2006−118014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、圧延鋼材、伸線材及びその製造方法であって、熱処理段階を省略しても成分系中のMnの含量及び冷却条件を制御して炭素の拡散を抑制し、これにより、圧延鋼材に不完全パーライト組織を確保することにより、靭性に優れた圧延鋼材、伸線材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一実施形態として、重量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.1〜0.2%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.035%以下、S:0.040%以下、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含み、微細組織はパーライトとフェライトから構成される高靭性非調質圧延鋼材を提供する。
【0011】
上記圧延鋼材の微細組織は、パーライト40〜60%と残部フェライトから構成されることが好ましい。
【0012】
上記パーライトは、厚さが150nm以下のセメンタイトを含むことが好ましい。
【0013】
上記パーライト内に含まれるセメンタイトの縦横比(幅:厚さ)が30:1以下であることが好ましい。
【0014】
上記パーライト内に含まれるセメンタイトは、不連続的な形態を有することが好ましい。
【0015】
上記パーライトは、不完全パーライト(de−generated pearlite)であることが好ましい。
【0016】
上記圧延鋼材の引張強度は650〜750MPa、断面減少率(RA)は60〜70%であることが好ましい。
【0017】
本発明は、他の実施形態として、上記の圧延鋼材を冷間伸線した伸線材であって、上記伸線材の引張強度が800〜900MPaである伸線材を提供する。
【0018】
本発明は、他の実施形態として、重量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.1〜0.2%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.035%以下、S:0.040%以下、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含むビレット(billet)をAe3+150℃〜Ae3+250℃の範囲で加熱する段階と、上記加熱されたビレットをAe3+50℃〜Ae3+100℃の範囲まで1次冷却する段階と、上記冷却されたビレットをAe3+50℃〜Ae3+100℃で圧延して圧延鋼材を製造する段階と、上記圧延鋼材を600℃以下まで2次冷却する段階と、を含む高靭性非調質圧延鋼材の製造方法を提供する。
【0019】
上記加熱段階において、上記ビレットの加熱は30分〜1時間30分間行われることが好ましい。
【0020】
上記1次冷却段階において、冷却速度は5〜15℃/sの範囲であることが好ましい。
【0021】
上記2次冷却段階において、冷却速度は0.5〜1.5℃/sの範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明は、他の実施形態として、上記の圧延鋼材を冷間伸線する段階を含む高靭性非調質伸線材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態によれば、高価の合金元素の添加なしにMnの含量を高くし、冷却速度を制御して圧延鋼材及び伸線材の微細組織中に不完全パーライトを生成することにより、熱処理を省略しても優れた靭性及び冷間鍛造性を確保することができる、非調質圧延鋼材及び伸線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】発明例1の微細組織を示すSEM写真である。
【図2】通常のパーライト及びフェライトの微細組織を示すSEM写真である。
【図3】Mnの含量が本発明で限定する範囲を超えた比較例9の微細組織を示すSEM写真である。
【図4】比較例1の微細組織を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
非調質圧延鋼材は、熱間圧延鋼材の製造後に球状化熱処理及び急冷(quenching)及び焼戻し(tempering)等の熱処理過程を与えないため、経済性に優れる。特に、本発明では、高価な合金元素を添加しなくても低価のMnの添加と共に適切な空冷の方法を用いて、高靭性を確保することができる方法を提案する。
【0026】
本発明は、非調質圧延鋼材、伸線材及びその製造方法に関し、Mnの含量を従来の非調質鋼材でのMnの含量より多く添加し、上記Mnの含量によるC拡散抑制効果が最もよく表れることができるように冷却速度を制御した高靭性非調質圧延鋼材、伸線材及びその製造方法に関する。上記のような方法により圧延鋼材内部に既存のパーライトとは相違する不完全パーライトが存在するようになり、これを用いて製品の靭性(又は衝撃靭性)を向上させることができる。
【0027】
本発明において、圧延鋼材はビレット(billet)を圧延した後の材料を意味し、伸線材は冷間伸線した後の材料を意味する。
【0028】
不完全パーライト(de−generated pearlite)は、通常のパーライトとは異なり、フェライト及びセメンタイトの混合相でありながらも層状構造を有さず、不連続的で薄いセメンタイトを含む。靭性低下の原因である層状のセメンタイトの代わりに、不完全層状のセメンタイトを形成して、衝撃靭性を増大させることができる。
【0029】
一般に、強度と衝撃靭性は反比例する傾向を示し、本発明の圧延鋼材、伸線材は上記のような不完全パーライトによって強度と衝撃靭性とを同時に増加させることができる。
【0030】
以下、本発明の圧延鋼材及び伸線材の成分系及び組成範囲に関してより詳細に説明する。
【0031】
C(炭素):0.15〜0.30重量%
Cは、圧延鋼材の強度を向上させることができる元素である。Cの含量が0.15重量%未満の場合は、熱間圧延後に圧延鋼材の引張強度を十分に確保することができない。これに反し、Cの含量が0.30重量%を超える場合は、フェライト及びパーライトの微細組織形成の傾向性が強くなるため、必要以上の強度を確保するようになって、靭性が悪くなる。したがって、上記Cの含量は0.15〜0.30重量%に限定することが好ましい。
【0032】
Si(珪素):0.1〜0.2重量%
Siの含量が0.1重量%未満の場合は、熱間圧延鋼材と最終製品に要求される強度水準に到達することができないという問題点がある。Siの含量が0.2重量%を超える場合は、冷間引抜及び鍛造工程中に加工硬化現象が急激に起こるため加工性が落ちる。したがって、上記Siの含量は0.1〜0.2重量%に限定することが好ましい。
【0033】
Mn(マンガン):1.8〜3.0重量%
Mnは、マトリックス内に置換型固溶体を形成する固溶強化元素であり、これにより、靭性を低下させず且つ強度を確保することができる有用な元素である。本発明では、通常の非調質鋼材に比べてMnの含量を高くすることを特徴とする。Mnの含量が1.8重量%未満の場合は、Mnの偏析による偏析帯の影響は殆どないが、固溶強化による強度確保及び靭性の効果は期待することが困難である。Mnの含量が3.0重量%を超える場合は、固溶強化の効果よりは、Mn偏析によって製品特性に有害な影響を及ぼす。
【0034】
鋼の凝固時、偏析機構に応じてマクロ偏析とミクロ偏析が起こることが容易であり、Mn偏析は他の元素に比べて相対的に低い拡散係数によって偏析帯を助長し、これによる硬化能向上は中心部マルテンサイトを生成する主原因となる。上記で列挙した原因によって、中心部マルテンサイトが発生する。この場合、引張強度は非常に高くなり、靭性は急激に減少するようになる。
【0035】
P(燐):0.035重量%以下
Pは、製造時に不可避に含有される元素であり、結晶粒界に偏析されて靭性を低下させる主要原因であるため、できる限り低く制御することが好ましい。理論上、Pの含量を0%に制限することが可能であるが、製造工程上、必然的に添加せざるを得ない。上限を管理することが重要であり、上記Pの含量の上限は0.035重量%に限定することが好ましい。
【0036】
S(硫黄):0.040重量%以下
Sは、製造時に不可避に含有される元素であり、低融点元素に粒界偏析されて靭性を低下させ硫化物を形成させて、遅延破壊抵抗性及び応力弛緩特性に有害な影響を及ぼすため、できる限り低く制御することが好ましく、理論上、Sの含量を0%に制限することが可能であるが、製造工程上、必然的に添加せざるを得ない。上限を管理することが重要であり、上記Sの含量の上限は0.040重量%に限定することが好ましい。
【0037】
本発明において、圧延鋼材の微細組織はパーライトとフェライトであり、パーライト相分率は40〜60%であり残部はフェライトである。上記パーライトは上述した不完全パーライトであり、上記不完全パーライトはセメンタイトとフェライトから構成され、セメンタイトとフェライト間に平行に配列されているが、一般的なパーライトとは異なりセメンタイトは不連続的に構成されている。図1は、実施例のうち発明例1の微細組織を示すSEM写真で、上記図1からも不連続的なセメンタイトの形態を確認することができる。
【0038】
一般に、パーライトは、層間間隔、即ち、ラメラ間隔で組織を定義することができる。本発明でのパーライト(不完全パーライト)は、セメンタイトの厚さ(層間間隔)が150nm以下であり、セメンタイトの平均縦横比(幅:厚さ)は30:1以下であることが好ましい。
【0039】
上記のような成分系及び組成範囲、そして微細組織を有する圧延鋼材に対し、本発明が意図しようとする上記圧延鋼材の引張強度は650〜750MPaの範囲であり、断面減少率(RA)は60〜70%であることが好ましい。また、上記圧延鋼材を冷間伸線した伸線材の引張強度は800〜900MPaであることが好ましい。
【0040】
以下、本発明の圧延鋼材及び伸線材の製造方法に関して詳細に説明する。
【0041】
ビレット加熱:Ae3+150℃〜Ae3+250℃
上記温度範囲でビレットの加熱を行うことにより、オーステナイト単相を維持し、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止することができ、残存する偏析、炭化物及び介在物を効果的に溶解することができる。ビレットの加熱温度がAe3+250℃を超える場合は、オーステナイト結晶粒が非常に粗大になって、冷却後に形成される最終微細組織が粗大化される傾向が強いため、高強度及び高靭性線材を獲得することができない。これに反し、ビレットの加熱温度がAe+150℃未満の場合は、加熱による上記効果が得られない。
【0042】
加熱時間が30分未満の場合は全体温度が均一にならないという問題があり、加熱時間が1時間30分を超える場合はオーステナイト結晶粒が粗大になり生産性が顕著に減少する。
【0043】
冷却(1次):Ae3+50℃〜Ae3+100℃まで5〜15℃/sで冷却
上記冷却速度は熱間圧延前の冷却段階において微細組織の変態を最小化する目的で制限したものである。熱間圧延前の冷却速度が5℃/s未満の場合は、生産性が減少し、空冷を維持するためには追加の装置が必要である。また、加熱時間を長時間維持した場合のように熱間圧延完了後に圧延鋼材の強度と靭性が低下することがある。これに反し、冷却速度が15℃/sを超える場合は、圧延前ビレットが有する変態の駆動力が増加して圧延中に新たな微細組織が出現する可能性が高くなり、圧延温度を低い温度に再設定しなければならないという深刻な問題をもたらすようになる。
【0044】
圧延:Ae3+50℃〜Ae3+100℃
e3+50℃〜Ae3+100℃の範囲で圧延する場合、圧延中に変形による微細組織の出現が抑制され、再結晶が発生せずサイジング圧延のみが可能である。圧延温度がAe3+50℃未満の場合は、圧延温度が動的再結晶温度に近接して本発明が意図しようとする微細組織を獲得することが困難であり、一般軟質のフェライトが確保される可能性が非常に高い。これに反し、圧延温度がAe3+100℃を超える場合は、冷却後再度加熱しなければならないという問題が発生する。
【0045】
冷却(2次):0.5〜1.5℃/sで600℃以下まで冷却
上記冷却速度は、Mn添加によってCの拡散が阻止され不完全パーライトが非常に効果的に生成されることができる冷却速度である。冷却速度が0.5℃/s未満の場合は、冷却速度が遅すぎて層状又は不完全パーライトが生成されず、球状化形態を有するセメンタイトが生成されて、強度が急激に減少するようになる。この場合、靭性が非常に高くなって、他の製品には効果的に適用することもできるが、本発明で意図しようとするものではない。しかしながら、冷却速度が1.5℃/sを超える場合は、Mn添加による硬化能向上によってフェライト/パーライト変態が遅延されて、マルテンサイト/ベイナイトのような低温組織が発生することがある。
【0046】
上記冷却段階(2次)の後に通常の冷間伸線工程を経て伸線材を製造することができる。
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0048】
下記表1に示す鋼種1から9を用いて下記表2に示される製造条件により圧延鋼材を製造した。鋼種1〜3、鋼種8及び9は本発明が制御する成分系及び組成範囲を満足しておらず、鋼種4〜7は本発明が制御する成分系及び組成範囲を満足する。
【0049】
また、各鋼種のAe(℃)を下記表1に示し、上記製造条件により製造された圧延鋼材の引張強度及びV−衝撃靭性を測定して下記表2に示した。
【0050】
そして、発明例1、比較例1及び比較例7の微細組織のSEM写真を図面に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
比較例1及び3は、圧延後の冷却速度が低いため不完全パーライトが生成されず、球状化形態のセメンタイトが生成されて、強度が減少した。なお、上記比較例1の微細組織写真を図4に示した。上記図4から球状化されたセメンタイトを確認することができた。比較例2、4及び5は、圧延後冷却速度が高くて、低温組織が発生して靭性が悪かった。
【0054】
比較例6は、Cの含量が低いため、圧延後の引張強度を十分に確保することができなかった。比較例7は、Siの含量が低いため、十分な強度を確保することができなかった。比較例8は、Mnの含量が低いため、固溶強化による強度向上が困難であった。比較例9は、Mnの含量が高いため、低温組織が発生して、靭性が急激に減少することを確認することができた。図3から低温組織を確認することができた。比較例10は、Cの含量が高いため、一般的なフェライト及びパーライトの微細組織の形成が強くなって、強度は向上するが、靭性は減少した。
【0055】
これに反し、発明例1から9は、圧延鋼材の引張強度が650〜750MPaの範囲であり、V−衝撃靭性値が221−261Jと示され、引張強度と靭性に優れていることが確認できた。これにより、成分系、組成範囲及び製造条件を制御することで、適切な引張強度及び高靭性を確保することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.1〜0.2%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.035%以下、S:0.040%以下、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含み、微細組織はパーライトとフェライトから構成される、高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項2】
前記圧延鋼材の微細組織はパーライト40〜60%と残部フェライトから構成される、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項3】
前記パーライトは厚さが150nm以下のセメンタイトを含む、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項4】
前記パーライト内に含まれるセメンタイトの縦横比(幅:厚さ)が30:1以下である、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項5】
前記パーライト内に含まれるセメンタイトは不連続的な形態を有する、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項6】
前記パーライトは不完全パーライトである、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項7】
前記圧延鋼材の引張強度は650〜750MPa、断面減少率(RA)は60〜70%である、請求項1に記載の高靭性非調質圧延鋼材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の圧延鋼材を冷間伸線した伸線材であって、前記伸線材の引張強度は800〜900MPaである、高靭性非調質伸線材。
【請求項9】
重量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.1〜0.2%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.035%以下、S:0.040%以下、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含むビレットをAe3+150℃〜Ae3+250℃の範囲で加熱する段階と、
前記加熱されたビレットをAe3+50℃〜Ae3+100℃の範囲まで1次冷却する段階と、
前記冷却されたビレットをAe3+50℃〜Ae3+100℃で圧延して圧延鋼材を製造する段階と、
前記圧延鋼材を600℃以下まで2次冷却する段階と、
を含む、高靭性非調質圧延鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記加熱段階において前記ビレットの加熱は30分〜1時間30分間行われる、請求項9に記載の高靭性非調質圧延鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記1次冷却段階において冷却速度は5〜15℃/sの範囲である、請求項9に記載の高靭性非調質圧延鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記2次冷却段階において冷却速度は0.5〜1.5℃/sの範囲である、請求項9に記載の高靭性非調質圧延鋼材の製造方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の圧延鋼材を冷間伸線する段階を含む、高靭性非調質伸線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−501147(P2013−501147A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523563(P2012−523563)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005117
【国際公開番号】WO2011/016676
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】