説明

高音質抵抗膜及びその製造方法

【課題】オーディオ信号処理回路に最適なTaN膜とTa膜との積層膜を使用して、TCR値が小さく、アンプの出力段の半導体集積回路の抵抗体として使用したときに優れた音質が得られる高音質抵抗膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高音質抵抗膜は、窒化タンタル膜2aとタンタル膜2bとの積層膜2からなり、この積層膜全体として、抵抗値電圧係数VCRが−150乃至+150ppm/Vであり、前記窒化タンタル膜は、半導体装置の製造工程で常温から400℃までの温度で、窒素分圧比を3乃至15%としてスパッタリングにより成膜されたものである。前記スパッタリング時の基板温度をTとし、窒素ガス分圧比をmとしたとき、前記基板温度T及び窒素ガス分圧比mは、(2/165)T+(91/33)≦m≦(1/66)T+(155/33)を満たすことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンプ出力部に使用したときに高音質が得られる高音質抵抗膜及びその製造方法に関し,特に、TCR(抵抗値温度係数)値が小さく、抵抗特性変化が少ないTCR特性が優れたTaN膜とTa膜との積層膜からなる高音質抵抗膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオアンプ等の音響製品において、特に、その出力段の回路に使用される抵抗体の性能が、音質に影響を与えていることは公知である。従来、このアンプの出力段の半導体集積回路には、ポリシリコンの薄膜抵抗体が使用されている。そして、この音質に影響を与える抵抗体の性能としては、TCR値がある。即ち、TCR値は抵抗値温度係数であり、温度変化によりどの程度抵抗値が変化するかという程度を示す特性であり、このTCR値が小さい方が(0に近い方が)、抵抗値が温度により変動せず、高音質が得られる。従来のポリシリコン抵抗体は、25乃至125℃程度の温度範囲で、TCR値が±100ppm/℃程度であり、更に一層の音質改善のために、TCR値を±50ppm/℃程度に小さくすることが望まれている。
【0003】
このTCR値の調整は、従来、抵抗膜をスパッタリングにより形成する際の原料ガスのN分圧比を調節することにより行っている。また、正のTCR特性を有する薄膜抵抗体と、負のTCR特性を有する薄膜抵抗体とを積層することにより、全体で、0に近い良好なTCR特性を得ることも提案されている。
【0004】
TCR値を小さくすることを目的とした窒化タンタル(TaN)薄膜抵抗体としては、特許文献1に開示されたものがある。この従来の窒化タンタル薄膜抵抗体は、窒化タンタル薄膜の上面に、Tiからなる中間膜を介してAuからなる電極膜を形成し、中間膜と電極膜との合成抵抗温度係数を第1の抵抗温度係数とし、窒化タンタル薄膜の抵抗温度係数を第2の抵抗温度係数としたとき、第1と第2の温度係数の和を−10乃至0ppm/℃としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−342705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポリシリコン薄膜抵抗体は、その減圧CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)による成膜時の成膜温度が約600℃程度と高く、Al等の配線用金属材料が溶けてしまうことを回避するため、これらの金属配線の形成後にポリシリコン薄膜抵抗体を形成することはできない。従って、このポリシリコン薄膜抵抗体は、金属配線よりも下層に形成する必要があり、その形成位置はLOCOS(Local Oxidation of Silicon:選択酸化法)酸化膜上に制約される。このため、薄膜抵抗体にポリシリコンを使用すると、トランジスタ領域を避けてLOCOS酸化膜直上に抵抗体を配置するスペースを確保する必要が生じ、チップ面積の縮小が困難である。
【0007】
また、前述の如く、ポリシリコン薄膜抵抗体は、必ずしも、TCR値が十分に低いものではなかった。このため、オーディオアンプ出力段の半導体集積回路にポリシリコン薄膜抵抗体を使用しても、優れた音質を得ることは困難である。
【0008】
一方、TaN薄膜抵抗体は、スパッタリングによる成膜時の成膜温度が約400℃以下と低温であるため、金属配線を形成した後にこのTaN薄膜抵抗体を形成しても、金属配線の溶融は生じない。よって、TaN薄膜抵抗体は、金属配線の上層に形成することができ、金属配線を形成する層間絶縁膜の上に、積み上げることができる。特に、上部配線層側にいくほど、面積占有率が低下するので、TaN抵抗体を形成するスペースを確保しやすくなるため、チップ面積を縮小することができるという利点がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のTaN薄膜抵抗体は、複層(Ti膜+Au膜)金属膜との積層膜として、TaN膜を形成し、複層金属膜のTCR値とTaN膜のTCR値との和としての全体のTCR値を0に近づけている。このような金属膜との積層膜では、金属膜の抵抗値が極めて小さいために抵抗値の制御が困難であり、また、Ti膜及びAu膜の形成コストが高いと共に、複層金属膜及びTaN膜のパターニング工程が複雑であるという問題点がある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、オーディオ信号処理回路に最適なTaN膜とTa膜との積層膜を使用して、TCR値が小さく、アンプの出力段の半導体集積回路の抵抗体として使用したときに優れた音質が得られる高音質抵抗膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る高音質抵抗膜は、窒化タンタル膜とタンタル膜との積層膜からなり、この積層膜全体として、抵抗値電圧係数VCRが−150乃至+150ppm/Vであり、前記窒化タンタル膜は、半導体装置の製造工程で常温から400℃までの温度で、窒素分圧比を3乃至15%としてスパッタリングにより成膜されたものであることを特徴とする。
【0012】
この場合に、前記窒化タンタル膜と前記タンタル膜との積層膜の抵抗値温度係数TCRは、例えば、積層膜全体で、−53乃至+53ppm/℃である。
【0013】
本発明に係る第1の高音質抵抗膜の製造方法は、半導体装置の製造工程において、層間絶縁膜の形成後、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定してタンタル膜を形成し、更に、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至15%として、窒化タンタル膜を前記タンタル膜上に形成することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る第2の高音質抵抗膜の製造方法は、半導体装置の製造工程において、層間絶縁膜の形成後、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至15%として、窒化タンタル膜を形成し、更に、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定してタンタル膜を前記窒化タンタル膜上に形成することを特徴とする。
【0015】
これらの場合に、前記窒化タンタル膜を形成するスパッタリング時の基板温度をTとし、窒素ガス分圧比をmとしたとき、前記基板温度T及び窒素ガス分圧比mは、(2/165)T+(91/33)≦m≦(1/66)T+(155/33)を満たすように、決定することが好ましい。また、前記窒化タンタル膜と前記タンタル膜との積層膜は、積層膜全体として、抵抗値電圧係数VCRが−150乃至+150ppm/Vであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タンタル(Ta)膜を形成した後、このTa膜上に、窒化タンタル(TaN)膜を、窒素ガス分圧比を3乃至15%に調整すると共に、基板温度を常温から400℃の範囲に調整して、スパッタリングにより形成することにより、TaN膜及びTa膜の積層膜のVCRを−150乃至+150ppm/Vに制御することができる。TaN膜を先に形成し、その後にTa膜を形成した場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る抵抗膜を示す断面図である。
【図2】基板温度Tと窒素分圧比との相関関係を示すグラフ図である。
【図3】VCRとTCRとの関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る抵抗膜を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は、TaN(窒化タンタル)膜とTa(タンタル)膜との積層膜を抵抗膜とするが、このTa膜及びTaN膜をスパッタリング法により形成し、このTaN膜のスパッタリング時の窒素ガス分圧比を調整すると共に、更に、スパッタリング温度(基板温度)を調整することにより、積層膜のTCR値を0に近いものに制御する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る高音質抵抗膜が形成された半導体装置を示す断面図である。この半導体装置は、先ず、シリコン基板等の基板1に種々のトランジスタ等を作り込む。このとき、基板1の表面上に、第1層間絶縁膜10が形成され、この第1層間絶縁膜10上に、アルミニウム又は銅等により第1配線層21が形成される。この第1配線層21は、第1層間絶縁膜10上にアルミニウム又は銅の層を通常の膜形成技術により形成した後、この層を、通常のレジストを使用したパターニング方法により所望の配線パターンにパターニングすることにより形成される。そして、これらの第1配線層21を含む第1層間絶縁膜10上に第2層間絶縁膜11を形成し、この第2層間絶縁膜11上に、第2配線層22を形成する。そして、第2配線層22上を含む全面に第3層間絶縁膜12を形成し、この第3層間絶縁膜12上に第3配線層23を形成し、第3配線層23を含む第3層間絶縁膜12上に第4層間絶縁膜13を形成する。そして、この第4層間絶縁膜13上に第4配線層24cを形成する。各配線層は各層間絶縁膜に形成したビアホール内に導電物質を形成することにより設けたビアにより接続される。例えば、第4配線層24cと第2配線層22とはビア4により接続される。即ち、第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13の形成工程において、夫々第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13にこれらの膜を貫通するビアホールを、レジスト膜をマスクとしてウエットエッチング又はドライエッチングにより形成し、その後、アルミニウム等の金属材料をスパッタリングするか、又はCVD(化学的気相成長法)により堆積することにより、この金属材料をビアホール内に埋め込むことにより、ビア4を形成し、このビア4に接続されるように、第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13上に、夫々配線23及び配線24cを形成する。例えば、前記ビアホール内にWをCVDにより堆積し、このWをエッチバックすることによりWプラグを形成し、更にAlをスパッタリングすることにより、ビア及び配線を形成することができる。
【0020】
而して、本実施形態においては、第3層間絶縁膜13を下層絶縁膜13aと上層絶縁膜13bの2層に分けて形成し、下層絶縁膜13aを形成した後、上層絶縁膜13bを形成する前に、下層絶縁膜13a上に、タンタル(Ta)膜2b及び窒化タンタル(TaN)膜2aからなる積層膜2を所定の寸法及び形状になるように、パターン形成する。このTaN膜2a及びTa膜2bの積層膜2は、以下のようにして形成することができる。即ち、下層絶縁膜13a上に積層膜2の形成予定領域が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとし、Taターゲットを使用して、反応ガスをArガスとしてスパッタリングすることにより、Taを全面に堆積し、その後、反応ガスをArガスに窒素ガスを所定の分圧比で添加したものに切り替えてスパッタリングすることにより、TaNを全面に堆積する。その後、レジストを除去することにより、レジスト上のTa膜及びTaN膜をリフトオフすることによって、積層膜2を形成することができる。又は、以下の方法によって、積層膜2を形成することもできる。下層絶縁膜13a上の全面にTa膜を上記スパッタリングにより形成し、更にこのTa膜の上にTaN膜を上記スパッタリングにより形成し、このTaN膜上にレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクとして、前記TaN膜及びTa膜をエッチングする。この方法によっても、積層膜2を形成することができる。この窒化タンタル膜2a及びTa膜の積層膜2は、本実施形態の高音質抵抗膜になる。
【0021】
この積層膜2の形成後、積層膜2を含む下層絶縁膜13aの全面に上層絶縁膜13bを形成し、上層絶縁膜13bにTaN膜2aに到達する2個のビアホールを形成する。このビアホールは、ウエットエッチングにより形成することが好ましい。ウエットエッチングの場合は、ドライエッチングに比べて、オーバーエッチングによるビアホール底部のTaN膜2aの削れを抑制することができる。これにより、加工マージンが向上し、TaN膜2aのより一層の薄膜化による高抵抗化が可能となる。
【0022】
そして、これらのビアホールにアルミニウム又は銅等の金属をスパッタリング又はCVDにより埋め込み、ビア3a,3bを形成する。更に、上層絶縁膜13b上に、ビア3a,3bに接続されるようにして、夫々、第4配線層24a,24bを形成する。この第4配線層24a,24bにより、TaN膜2a及びTa膜2bの積層膜2は、アンプの出力段の回路の中に、出力電流が流れる通り道に設けられた薄膜抵抗体として接続される。
【0023】
本実施形態においては、高音質抵抗体としてのTaN膜2a及びTa膜2bの積層膜2を、スパッタリングにより形成し、このTaN膜2aのスパッタリング時の基板温度と、窒素ガス分圧比とを、調節することにより、積層膜2のTCRを制御する。Ta膜2bは金属であるので、TCR値は正(+)である。また、Ta膜2bは金属であるため、抵抗率が小さい。よって、TaN膜2aは、TCR値が負(−)になるように、スパッタリング時の基板温度及び窒素ガス分圧比を調節する。これにより、Ta膜2bのTCR値とTaN膜2aのTCR値とが相殺され、積層膜2の全体のTCR値が0に近いものとなる。Ta膜2bとTaN膜2aとは積層されているので、図1の配線23a,23b間にあらわれる積層膜2の抵抗値は、Ta膜2bとTaN膜2aとの並列接続の合成抵抗値となる。よって、Ta膜2bの抵抗値をR1、TaN膜2aの抵抗値をR2とすると、積層膜2の抵抗値(R1及びR2の合成抵抗値)Rは、R1×R2/(R1+R2)となり、抵抗膜としての使用時に、温度が変化して、抵抗値が相互に反対方向にΔr及び−Δrだけずれた場合、合成抵抗値Rは、R={R1R2+Δr(R2−R1)}/(R1+Δr+R2−Δr)となる。Δr及びR2−R1は、R1及びR2に比して小さいので、合成抵抗Rは(R1R2)/(R1+R2)となり、温度が変化してTa膜2及びTaN膜2aの抵抗値が個別に変化しても、その合成抵抗の抵抗値はほぼ一定値となる(TCR値が0に近い)。よって、Ta膜2bの正(+)のTCRに対して、TaN膜2aのスパッタリング条件(基板温度及び窒素ガス分圧)を調節して、TaN膜2aのTCRを負(−)にすることにより、積層膜2としての全体のTCRを−50乃至+50ppm/℃の範囲に制御することができる。
【0024】
TaN膜2aは、基板温度を常温から400℃までの温度、好ましくは350℃までの温度に設定し、窒素ガス分圧比を3乃至15%、好ましくは3乃至10%に設定して、スパッタリングにより形成する。この温度条件範囲及び窒素ガス分圧比条件範囲の中で、Ta膜2bとの並列接続体しての積層膜2のTCR値が−50〜+50ppm/℃になるように、基板温度及び窒素ガス分圧比を決める。
【0025】
基板温度を上げると、得られたTaN膜2aのTCR値は、より正(+)の方向に変化する。また、窒素ガス分圧比を上げると、得られたTaN膜2aのTCR値は、より負(−)の方向に変化する。この基板温度と窒素ガス分圧比とを、Ta膜2bとの積層膜2のTCR値が0に近い値になるように、バランスをとって決める。
【0026】
本発明においては、積層膜2のTCR値が−50〜+50ppm/℃になるように、基板温度及び窒素ガス分圧比を決める。この基板温度は、室温から400℃までの範囲とし、窒素ガス分圧比は、3乃至15%の範囲として、上記基準に則って窒化タンタル膜形成時の基板温度及び窒素ガス分圧比を決めればよい。この場合に、基板温度が低い場合は,窒素ガス分圧比を比較的低く、基板温度が高い場合は、窒素ガス分圧比を比較的高くすることが好ましい。即ち、基板温度が常温(20℃)の場合は、窒素ガス分圧比は3乃至5%であり、基板温度が350℃の場合は、窒素ガス分圧比は7乃至10%とすることが好ましい。この常温から350℃までの温度範囲の途中においては、窒素ガス分圧比の上限値及び下限値は温度に対して比例配分すればよい。即ち、基板温度をT、このときの好ましい窒素ガス分圧比の下限値をm1、上限値をm2とすると、下記数式1,2が成立する。
【0027】
なお、Ta膜及びTaN膜の成膜条件は、基板温度は常温から350℃の範囲であるが、スパッタリングガスの圧力は、いずれも例えば5mTorrである。このスパッタリングガスの流量は、Ta膜の場合は例えばArガスが75sccm、Nガスが0sccmであり、TaN膜の場合は例えばArガスが67sccm、Nガスが8sccm(Nガス分圧比が10%)である。供給パワーは、いずれも、例えば0.5〜3kWである。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
これらの数式から、下記数式3,4が成立する。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

【0033】
図2は、横軸に基板温度Tをとり、縦軸に窒素ガス分圧比をとって、窒素ガス分圧比の上限m2及び下限m1と、基板温度Tとの関係(数式3,4)を示すグラフ図である。基板温度Tに応じて、m1及びm2を求め、m1〜m2の範囲で、窒素ガス分圧比を選択して、Ta膜2bとの積層膜2のTCRが−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように窒素ガス分圧比を調節するか、又は、図2の線分m2と線分m1との間の領域であって基板温度が20乃至400℃の間の領域において、窒素ガス分圧比を選択し、その上で、基板温度Tを、Ta膜2bとの積層膜2のTCRが−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように調節すればよい。このとき、前述の如く、基板温度Tを上げるとTCRはより正(+)の方向に変化し、基板温度を下げるとTCRはより負(−)の方向に変化するので、この基準に応じて、Ta膜2bとの積層膜2のTCR値を−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように制御することができる。また、例えば、一旦、一方の因子である窒素ガス分圧比又は基板温度を決め、その後、上述のようにして、他方の因子である夫々基板温度又は窒素ガス分圧比を変更して、TaN膜2aのTCR値を調整し、更に、前記一方の因子である窒素ガス分圧比又は基板温度を変更する等、2段階に限らず、3段階以上に分けて、因子を変更することにより、TaN膜2aのTCR値を調整してもよい。
【0034】
結局、スパッタリングにおいて、基板温度がT、窒素ガス分圧比がmであるとしたとき、mはm1≦m≦m2であるべきであるから、数式3,4より、mは下記数式5を満たすことが好ましい。
【0035】
【数5】

【0036】
このようにして、スパッタリングによる成膜時の成膜条件である基板温度T及び窒素ガス分圧比mを、基板温度T及び窒素ガス分圧比mが上記数式5を満たす範囲内で、基板温度を上げるとTCRが正(+)の方向に変化し、窒素ガス分圧比を上げるとTCRが負(−)の方向に変化するという基準に基づいて適宜調整することにより、TaN膜2のTCR値を制御することにより、Ta膜2bとの積層膜2のTCRを所望の範囲−50〜+50ppm/℃に制御することができる。よって、本発明の実施形態においては、アンプの出力電流が、薄膜抵抗体としてのTaN膜2a及びTa膜2bの積層膜2を通過するときの抵抗値は、温度の変化に拘わらず、ほぼ一定である。従って、温度変化に起因するアンプ出力段の出力電流の変化は少なく、スピーカー又はヘッドフォンにより高音質で音楽を聞くことができる。なお、この効果は、スパッタリング温度が350℃を超えて、400℃までの温度範囲において、得ることができる。よって、本発明においては、TaN膜のスパッタリング温度は、常温から400℃とする。
【0037】
そして、本発明においては、TaN膜のスパッタリング温度が高々400℃であるから、アルミニウム配線等を溶融させてしまうことがないため、抵抗体としてのTaN膜2aを、半導体装置製造工程の比較的後期に形成することができ、層間絶縁膜の上層に配置することができる。このため、アルミニウム配線層の上に、TaN膜抵抗膜を配置することができ、チップ面積の縮小化が可能である。また、本発明のTaN膜はスパッタリング温度が低くてもよいので、抵抗体単体ではなく、LSI(大規模集積回路)の中に組み込むことが容易であり、これにより、TCR値が小さい抵抗を具備する回路を容易に得ることができる。
【0038】
更に、本発明においては、Ta膜2bとTaN膜2aとの積層体2により、所望のTCR値を得ている。こうすることにより、積層膜2からなる抵抗膜の厚さを厚くすることができ、信頼性を向上させることができると共に、製造工程において、製造条件の制御が容易になる。
【0039】
而して、TaN膜は、TCR(抵抗の温度特性)とVCR(抵抗の電圧特性)との間に、相関関係をもつ。即ち、本発明者等は、図3に示すように、TCR(x)とVCR(y)との間に、TCRが小さくなれば、それに比例してVCRも小さくなり、y=2.83xという関係式が成立することを、実験的に知見した。但し,TCR及びVCRの単位は、夫々ppm/℃及びppm/Vである。
【0040】
一般のオーディオアンプを含む集積回路においては、その回路中に使用される抵抗膜は印加される電圧に応じて抵抗の絶対値が変化する固有のVCR特性を有している。このようなVCR特性を有する抵抗体を使用したオーディオアンプを含む集積回路においては、オーディオ信号(音量)に応じて、その回路中に流れる電気信号の電圧振幅は大きく変化する。この電圧振幅に対して、回路中に用いられる抵抗値の絶対値が変化すると、最終的にこのアンプから出力されるオーディオ信号は、抵抗値の変化分の歪みが乗った歪んだ音として、再生されることとなる。一方,回路中に使用される抵抗体のVCRが小さければ小さいほど、電気信号の電圧振幅に対する抵抗値の絶対値の変化は小さくなるため、最終的にこのアンプから出力されるオーディオ信号の歪みは小さくなり、アンプのオーディオ特性が良くなる。
【0041】
例えば、電源電圧が6Vで駆動されるオーディオアンプの場合を考えてみると、VCRを仮に150ppm/Vとすれば、抵抗成分による歪み率は、0.09%となる。一般に、このような大音量においてさえ、歪み率が0.1%以下であれば、一般のユーザには十分に小さい歪み率のアンプと考えられるため、このような小さなVCRを有する抵抗体をオーディオアンプに使用することにより、オーディオアンプに要求される歪み率を十分に小さくすることが可能となる。
【0042】
上述のように、150ppm/Vよりも小さなVCR特性を有するTaN膜は、高音質抵抗膜ということができる。これを、図3を使用して、TCRの値に変換すると、53ppm/℃となる。前述のごとく、図2のm1とm2との間の窒素ガス分圧比−基板温度特性を有している場合は、TCRが±50ppm/℃の範囲内であるので、VCRも±150ppm/Vの範囲内になり、高音質のオーディオ用抵抗膜となる。
【0043】
本発明は、上述の実施形態に限らず、種々の変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、TaN膜2aとTa膜2bは、最初にTa膜2bを形成した後、TaN膜2aを形成しており、積層膜2は、下層にTa膜2b、上層にTaN膜2aが形成されたものであったが、最初にTaN膜2aを形成し、その後、Ta膜2bを形成し、下層がTaN膜2a、上層がTa膜2bの積層膜としてもよい。
【0044】
また、このTa膜2b及びTaN膜2aの積層膜2は、上述の実施形態のように、最上層の層間絶縁膜(第4層間絶縁膜13)内に形成する場合に限らず、図4に示すように、第1配線層21の下層の第1層間絶縁膜10内に形成しても良い。この場合に、このTaN膜2にビア3a、3bを介して接続される配線層24a、24bは第1配線層21と同層に形成される。このように、この積層膜2を配置すべき層間絶縁膜は、任意であり、最上層に限らないが、配置位置の選択の余裕度からすると、最上層の層間絶縁膜内が有利である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の高音質抵抗膜は、TaN膜及びTa膜の積層膜で、TCRが極めて小さいので、高い音響特性を有する高音質のアンプの低コストでの製造に有益である。また、本発明の高音質抵抗膜は、その形成のためのスパッタリング温度が低いので、半導体集積回路に、容易に組み込むことができるため、TCR値が小さい抵抗膜を備えた半導体集積回路の製造に有益である。
【符号の説明】
【0046】
1:シリコン基板、2:積層膜、2a:窒化タンタル(TaN)膜、2b:タンタル(Ta)膜、3a、3b、4:ビア、10:第1層間絶縁膜、11:第2層間絶縁膜、12:第3層間絶縁膜、13:第4層間絶縁膜、13a:下層絶縁膜、13b:上層絶縁膜、21:第1配線層、22:第2配線層、23:第3配線層、24a、24b、24c:第4配線層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化タンタル膜とタンタル膜との積層膜からなり、この積層膜全体として、抵抗値電圧係数VCRが−150乃至+150ppm/Vであり、前記窒化タンタル膜は、半導体装置の製造工程で常温から400℃までの温度で、窒素分圧比を3乃至15%としてスパッタリングにより成膜されたものであることを特徴とする高音質抵抗膜。
【請求項2】
前記窒化タンタル膜の抵抗値温度係数TCRが−53乃至+53ppm/℃であることを特徴とする請求項1に記載の高音質抵抗膜。
【請求項3】
半導体装置の製造工程において、層間絶縁膜の形成後、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定してタンタル膜を形成し、更に、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至15%として、窒化タンタル膜を前記タンタル膜上に形成することを特徴とする高音質抵抗膜の製造方法。
【請求項4】
半導体装置の製造工程において、層間絶縁膜の形成後、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至15%として、窒化タンタル膜を形成し、更に、スパッタリングにより、基板温度を常温から400℃までの温度に設定してタンタル膜を前記窒化タンタル膜上に形成することを特徴とする高音質抵抗膜の製造方法。
【請求項5】
前記窒化タンタル膜を形成するスパッタリング時の基板温度をTとし、窒素ガス分圧比をmとしたとき、前記基板温度T及び窒素ガス分圧比mは、(2/165)T+(91/33)≦m≦(1/66)T+(155/33)を満たすように、決定することを特徴とする請求項3又は4に記載の高音質抵抗膜の製造方法。
【請求項6】
前記窒化タンタル膜と前記タンタル膜との積層膜は、積層膜全体として、抵抗値電圧係数VCRが−150乃至+150ppm/Vであることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の高音質抵抗膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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