説明

魚のスクーチカ症治療方法及び予防方法

【課題】従来、有効な対策手段がなかった養殖魚のスクーチカ感染症の治療方法及び予防方法を提供すること。
【解決手段】紫外線を遮断した水槽に安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下となるようにそれぞれ添加して魚を薬浴させる。これら三種類の薬剤を組み合わせて使用することにより、極めて効果的にスクーチカ感染症に罹患した魚を治療することができる。また、養殖水中のスクーチカ繊毛虫を殺菌できるため、魚の健康に悪影響を与えることなく、スクーチカ感染症の発生を予防することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクーチカ繊毛虫が寄生することにより発生する魚類のスクーチカ症を、安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩、有機カルボン酸及び過酸化水素を用いて治療及び予防する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海産魚類の養殖技術が発達したため、ヒラメ、マダイ、フグ等の高級魚も養殖対象となっている。このような高級魚の養殖場では、ウイルス、病原性細菌、外部寄生虫による疾病を予防することが、養殖魚の成長を維持し、歩留まりを向上させる上でも重要視される。
【0003】
特に、養殖魚に外部寄生虫が寄生すると、寄生数が少ない段階ではそれほど被害が大きくならないが、繁殖適水温期である5月〜7月になると(水温22℃〜26℃)、卵が孵化して成虫になると共に、産卵も盛んとなり、養殖魚の大量死が発生しやすくなる。
【0004】
また、寄生虫によっては死亡に至らない場合であっても、寄生虫が原因となって養殖魚の体力が減少し、他の細菌性感染に感染しやすくなったり、摂食不良となり、商品価値が失われやすい。
【0005】
養殖魚寄生虫の駆虫方法又は感染予防方法として、例えば、特許文献1には、フェルラ酸と乳酸を組み合わせて飼育水に添加することにより、トリコディナ、ハダムシ又はシュードダクチロギルス等の寄生虫に感染した魚から寄生虫を駆虫しうることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、カカオ豆組成物(ココアバターかカカオ豆の豆殻)を有効成分とする寄生虫抑制剤を投与することにより、海産養殖魚の寄生虫症を抑制及び予防する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、δ−アミノレブリン酸を飼料又は水槽に添加し、病原性微生物及び寄生虫に感染した魚類を治療する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−77000号公報
【特許文献2】特開2006−61107号公報
【特許文献3】特開2001−316255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
寄生虫が原因となる海産魚の感染性疾患のうち、日本各地の種苗生産地や養殖場で、ヒラメ稚魚にスクーチカ繊毛虫による感染症(スクーチカ感染症)が流行している。病原体のスクーチカ繊毛虫は、洋梨形で長さ30〜45μm、長軸に沿って8〜12本の繊毛列があり、尾端に1本の繊毛を備える。スクーチカ繊毛虫に体表や鰭が侵されると体色が白く変化し、びらんや出血が見られる。また、鱗嚢内、真皮下の結合組織、脳にも浸入する。
【0009】
このように、脳に浸入することがスクーチカ繊毛虫の特徴となっており、患部が脳に限定されると、外観症状をほとんど伴わないため、原因を特定できないまま養殖魚が大量死する場合がある。魚への進入経路もわかっておらず、魚体内に深く浸入するため、他の寄生虫病と異なり薬浴による駆虫は期待できない。
【0010】
ここで、特許文献3には、in vivo及びin vivoでスクーチカ繊毛虫の魚体感染を予防する効果が確認されている(段落〔0064〕及び〔0066〕)。そして、スクーチカ感染症に罹患したヒラメ稚魚(重症魚)の水槽にδ−アミノレブリン酸を添加した場合、魚の活力が良くなり、死亡する魚が著しく減少し、スクーチカ繊毛虫が確認されなくなったと記載されているが(段落〔0069〕)、サンプル数等の具体的な数値は開示されていない。
【0011】
このように、スクーチカ感染症については、有効な治療法は未だに開発されていないというのが実情である。また、従来慣用的に使用されてきたホルマリンは、養殖魚に使用することが全面的に禁止されたため、一旦養殖場でスクーチカ感染症が発生すると、養殖魚の大量死は避けることができず、養殖場経営が大打撃を受ける。
【0012】
本発明は、従来、有効な対策手段がなかった養殖魚のスクーチカ感染症の治療方法及び予防方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩、有機カルボン酸及び過酸化水素を養殖用水に添加することにより、スクーチカ感染症に罹患した養殖魚を治療しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
具体的に、本発明は、
魚のスクーチカ感染症治療方法であって、
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下の濃度範囲でそれぞれ含有する薬液に、紫外線を遮断した状態で魚を薬浴させることを特徴とする方法に関する(請求項1)。
【0015】
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩、有機カルボン酸及び過酸化水素を併用することにより、二酸化塩素単独で使用するよりも遥かに低濃度で魚の体内に侵入したスクーチカ繊毛虫をin vivoで死滅させ、魚の生育に悪影響を与えることなくスクーチカ感染症を効果的に治療することができる。
【0016】
また、本発明は、
魚のスクーチカ感染症治療方法であって、
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下の濃度範囲でそれぞれ含有する薬液に、紫外線を遮断した状態で魚を薬浴させることを特徴とする方法に関する(請求項4)。
【0017】
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩、有機カルボン酸及び過酸化水素を併用することにより、二酸化塩素又は亜塩素酸塩単独で使用するよりも遥かに低濃度、かつ、短時間でスクーチカ繊毛虫をin vitroで死滅させることができるため、養殖水として採水する海水中に存在するスクーチカ繊毛虫を殺虫し、水槽内でスクーチカ感染症が発生することも防止することができる。また、水層内でスクーチカ感染症に罹患した魚から、健康な魚への感染拡大も防止することができる。
【0018】
本発明で使用する有機カルボン酸は、酢酸、クエン酸、リンゴ酸又はコハク酸であることが好ましい(請求項2,5)。これらは毒性が無く、しかも弱酸であることから水槽のpHを変化させにくく、魚への悪影響が無いためである。
【0019】
薬浴の時間は、1日4時間以上とすることが好ましい(請求項3,6)。
【発明の効果】
【0020】
本発明の治療方法及び予防方法によって、養殖場におけるスクーチカ感染症を、効果的、かつ、経済的に治療及び予防できる。
【0021】
本発明の上記目的、他の目的、特徴及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【0023】
(予備的試験)
スクーチカ繊毛虫に対するホルマリン、トリクロルホン及び安定化二酸化塩素の殺虫効果について、in vitroで実験を行うことにより確認した。まず、スクーチカ感染症に罹患したヒラメからスクーチカ繊毛虫を採取し、ホモジナイズしたひらめの肉片を加えた人工海水中で24時間室温培養した。培養液中のスクーチカ繊毛虫の濃度は、約30匹/mLであった。
【0024】
シャーレに濾過滅菌した海水で各濃度に稀釈した上記三種類の薬剤を20mL取り、スクーチカ培養液1mLを加えた。そして、スクーチカ繊毛虫の動きを顕微鏡下(倍率40倍)で観察し、完全に動きが停止すれば死んだと判定した。その結果を、表1に示す。なお、ホルマリンはJIS特級試薬、トリクロルホンはバイエル株式会社製マデソン20%、安定化二酸化塩素は助川化学製ビオトーク(二酸化塩素濃度5%)を使用した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1では殺虫効果について、スクーチカ繊毛虫が薬剤添加後3日以内に死んだ場合を「○」、3日以内に死ななかった場合を「×」として表示している。ホルマリン又はトリクロルホンを使用した場合、濃度10ppmとしてもスクーチカ繊毛虫を殺虫することはできなかったが、安定化二酸化塩素を使用した場合には10ppmで3日後にはシャーレ内のスクーチカ繊毛虫をすべて殺虫できた。
【0027】
次に、安定化二酸化塩素の濃度を高くして、短時間でスクーチカ繊毛虫を殺虫できるか確認した。実験方法は、上記と同様である。その結果を、表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
安定化二酸化塩素濃度が高いほど、スクーチカ繊毛虫の殺菌に要する時間は短縮された。しかし、数時間以内で殺虫するためには100ppm以上、特に1時間以内に殺虫するためには数百ppmもの高濃度にする必要が認められた。このため、安定化二酸化塩素を単独で使用するのであれば、魚の飼育に悪影響を与えずにスクーチカ繊毛虫を短時間で殺虫し、スクーチカ感染症を予防することは困難であると考えられた。
【0030】
そこで、スクーチカ繊毛虫の殺虫効果を高めるために、安定化二酸化塩素と、有機カルボン酸の一種であるクエン酸とを併用することを試み、上記と同様に実験した。二酸化塩素とクエン酸の濃度比率は、ここでは10:1とした。その結果を、表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
クエン酸を併用することにより、安定化二酸化塩素濃度を20ppm以上とすれば、1時間以内にスクーチカ繊毛虫をすべて殺虫できた。安定化二酸化塩素とクエン酸の濃度比率を10:0.5〜10:2としても同様の実験結果が得られた。また、有機カルボン酸として酢酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸を使用した場合についても、クエン酸の場合と同様の実験結果が得られた。
【0033】
さらに、スクーチカ繊毛虫の殺虫効果を高めるために、安定化二酸化塩素、クエン酸、過酸化水素の三物質を併用することを試み、上記と同様に実験した。安定化二酸化塩素とクエン酸と過酸化水素の濃度比率は、ここでは100:0.05:5とした。その結果を、表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
クエン酸と過酸化水素を併用することにより、安定化二酸化塩素濃度を0.5ppm以上とすれば、1時間以内にスクーチカ繊毛虫をすべて殺虫できた。安定化二酸化塩素とクエン酸と過酸化水素の濃度比率を100:0.01:1〜100:2:20としても同様の実験結果が得られた。また、有機カルボン酸として酢酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸を使用した場合についても、クエン酸の場合と同様の実験結果が得られた。
【0036】
なお、安定化二酸化塩素の代わりに、亜塩素酸塩の一種である亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を同じ濃度で使用した場合にも、上記と同様の実験結果が得られた。
【0037】
[比較例]
(スクーチカ感染症による養殖場の被害)
ここで、スクーチカ感染症が発生したヒラメ養殖場における稚魚の被害を、図1に示した。この養殖場では体長20cm以下の稚魚2500尾を、表5に示す条件で養殖していた。
【0038】
【表5】

【0039】
稚魚の養殖を開始してから3日後に8匹が斃死し、それらの死体を解剖した結果、スクーチカ繊毛虫が発見され、スクーチカ感染症が原因で斃死したことが確認された。この水槽ではホルマリン等の殺虫剤を使用しなかったため、毎日大量の稚魚が斃死し、養殖開始から39日後には水槽内のヒラメ稚魚すべてが斃死した。
【0040】
このように、一旦スクーチカ感染症が発生すると、その水槽内の稚魚が全滅するのは時間の問題である。
【0041】
[実施例1]
次に、本発明の実施例1として、スクーチカ感染症が発生したヒラメ養殖場において、安定化二酸化塩素、クエン酸及び過酸化水素を養殖水に添加して薬浴を行った。この場合の稚魚斃死数の変化を、図2に示す。比較例と同じ養殖場の別の水槽における実施例であるため、稚魚の種類や養殖条件は比較例と同じである。
【0042】
実施例1では、養殖開始当日に12匹の斃死が見られた。死体を解剖した結果、スクーチカ繊毛虫が発見され、スクーチカ感染症が原因で斃死したことが確認された。
【0043】
そこで、養殖水に安定化二酸化塩素1ppm、クエン酸0.15ppm、過酸化水素15ppmという濃度比率となるように各薬剤を添加した薬液に、養殖開始当日から12日間、1日3時間稚魚を薬浴させた。このとき、水槽は完全な暗室として紫外線を完全に遮断した状態とした。また、換水率は通常通りとした。
【0044】
次に、13日目〜16日目の4日間は換水を中止し、上記濃度の薬液に連続して稚魚を薬浴させた。
【0045】
次に、17日目〜28日目までの12日間は換水率を通常通りとし、上記濃度の薬液に1日3時間稚魚を薬浴させた。
【0046】
図2から明らかなように、17日目〜28日目にかけては斃死する稚魚数が急激に減少し、養殖開始から30日目にはスクーチカ感染症による稚魚の斃死数がゼロとなり、従来は稚魚が全滅するしかなかった水槽内で、スクーチカ感染症を完全に治療することができた。
【0047】
また、その後、1日4時間の薬浴を7日間継続したところ、水槽内でスクーチカ感染症による斃死は認められなかった。
【0048】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2として、実施例1と同様にスクーチカ感染症が発生したヒラメ養殖場において、安定化二酸化塩素、クエン酸及び過酸化水素を養殖水に添加して薬浴を行った。この場合の稚魚斃死数の変化を、図3に示す。比較例及び実施例1と同じ養殖場の別の水槽における実施例であるため、稚魚の種類や養殖条件は比較例及び実施例1と同じである。
【0049】
実施例2では、養殖開始当日に9匹の斃死が見られた。死体を解剖した結果、スクーチカ繊毛虫が発見され、スクーチカ感染症が原因で斃死したことが確認された。
【0050】
そこで、実施例1と同様、養殖水に安定化二酸化塩素1ppm、クエン酸0.15ppm、過酸化水素15ppmという濃度比率となるように各薬剤を添加した薬液に、養殖開始当日から12日間、1日3時間稚魚を薬浴させた。このとき、水槽は完全な暗室として紫外線を完全に遮断した状態とした。また、換水率は通常通りとした。
【0051】
次に、13日目〜16日目の4日間は換水を中止し、上記濃度の薬液に連続して稚魚を薬浴させた。
【0052】
次に、17日目〜28日目までの12日間は換水率を通常通りとし、上記濃度の薬液に1日3時間稚魚を薬浴させた。
【0053】
図3から明らかなように、実施例2では19日目以降、斃死する稚魚数が極めて急激に減少し、養殖開始から27日目には5匹となった。そして、30日目にはスクーチカ感染症による稚魚の斃死数がゼロとなり、従来は稚魚が全滅するしかなかった水槽内で、スクーチカ感染症を完全に治療することができた。
【0054】
また、その後、1日4時間の薬浴を7日間継続したところ、水槽内でスクーチカ感染症による斃死は認められなかった。
【0055】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3として、スクーチカ感染症が発生したヒラメ養殖場であって、ホルマリン及びトリクロルホンをすでに殺菌剤として使用したが、治療効果が認められなかった水槽に対して、安定化二酸化塩素、クエン酸及び過酸化水素を養殖水に添加して薬浴を行った。この養殖場では体長15cm以下の稚魚49900尾を、表6に示す条件で10基の水槽内で養殖していた。
【0056】
【表6】

【0057】
この養殖場における稚魚斃死数の変化を、図4に示す。実施例3では、ヒラメ稚魚が斃死し、死因がスクーチカ感染症であることが確認された後、実施例1及び実施例2とは異なり、まず殺菌剤としてホルマリン濃度250ppmに調整した薬液中(養殖水にホルマリンを添加した)で稚魚を1日1時間薬浴させた(9/12〜9/14日の3日間)。しかし、この間も稚魚の斃死数は増加した。
【0058】
次に、安定化二酸化塩素濃度10ppmに調整した薬液中で稚魚を1日4時間薬浴させた(9/15〜9/18日の4日間)。しかし、この間も稚魚の斃死数は減少しなかった。
【0059】
その後、9/19〜9/22にかけて薬浴を中断したところ斃死数は急増し、1日数百匹にまで達した。このため、再び250ppmに調整した薬液中で稚魚を1日1時間薬浴させた(9/22〜9/24の3日間)。その結果、一時的に斃死数が減少したが、すぐに1日の斃死数が千尾近くにまで増加した。
【0060】
このため、ホルマリン濃度250ppmに調整した薬液中で稚魚を1日1時間薬浴させ(9/28〜9/30の3日間)、さらにその後ホルマリン濃度350ppmに調整した薬液中で稚魚を1日0.5時間薬浴させた(10/1〜10/3の3日間)。その結果、10/3の時点で1日の斃死数は400尾以下にまで減少した。なお、10/2と10/3には、不良個体を選別して処分した。
【0061】
ホルマリン濃度350ppmという高濃度の薬浴を長期間継続することは稚魚の健康に悪影響を与えるおそれがあるため、10/4〜10/9の6日間はホルマリン薬浴に代えて、安定化二酸化塩素20ppm及びトリクロルホン0.5ppmに濃度調整した薬液(養殖水に安定化二酸化塩素及びトリクロルホンを添加した)中で、稚魚を1日4時間薬浴させた。10/5には、不良個体を選別して処分した(10/2、10/3、10/5の3回で合計3000尾を処分)。ところが、この6日間の斃死数は、10/3よりも増加した。
【0062】
そこで、ホルマリン濃度300ppmに調整した薬液中で稚魚を1日2時間薬浴させた(10/9〜10/11までの3日間)。しかし、斃死数は500尾程度で推移し、減少する気配は認められなかった。
【0063】
次に、稚魚の健康を考慮して、10/11〜10/13の3日間は安定化二酸化塩素10ppm及びトリクロルホン0.5ppmに濃度調整した薬液中で、稚魚を1日5時間薬浴させた。その結果、10/12に一時的に斃死数が減少したが、10/13には斃死数が増加した。
【0064】
このように、10/13までの時点で、ホルマリン、安定化二酸化塩素及びトリクロルホンという三種類の薬剤を使用したが、スクーチカ感染症を治療することはできず、毎日大量の稚魚が斃死し続けるという状況を改善することはできなかった。
【0065】
そこで、10/13以降は安定化二酸化塩素1ppm、クエン酸0.15ppm、過酸化水素15ppmという濃度比率となるように各薬剤を添加した薬液(養殖水に薬剤を添加した)に稚魚を薬浴させた。薬浴時間は、表7に示す通りである。なお、水槽は完全な暗室として紫外線を完全に遮断した状態とした。
【0066】
【表7】

【0067】
安定化二酸化塩素1ppm、クエン酸0.15ppm、過酸化水素15ppmの薬液による薬浴を開始した翌日の10/14日には、前日よりも斃死数が100尾以上減少した。また、10/16と10/23の二日間は薬浴を行わなかったが、斃死数は経時的に減少し、10/22以降は1日100尾未満となった。そして、11/3にはスクーチカ感染症による稚魚の斃死数がゼロとなった。
【0068】
また、その後、1日4時間の薬浴を7日間継続したところ、水槽内でスクーチカ感染症による斃死は認められなかった。
【0069】
以上説明したように、本発明のスクーチカ症治療方法及び予防方法は、ホルマリンや有機リン系殺虫剤では対処不可能であった養殖場で発生したスクーチカ感染症に対して、非常に有効である。また、毒性の低い薬剤を組み合わせて使用するため、稚魚の健康上の問題、及び食用に供した場合の人体に対する健康上の問題もない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のスクーチカ症治療方法及び予防方法は、魚の養殖分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】比較例の養殖場における稚魚の斃死数の推移を示すグラフである。
【図2】実施例1の養殖場における稚魚の斃死数の推移を示すグラフである。
【図3】実施例2の養殖場における稚魚の斃死数の推移を示すグラフである。
【図4】実施例3の養殖場における稚魚の斃死数の推移を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚のスクーチカ感染症治療方法であって、
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下の濃度範囲でそれぞれ含有する薬液に、紫外線を遮断した状態で魚を薬浴させることを特徴とする方法。
【請求項2】
有機カルボン酸が酢酸、クエン酸、リンゴ酸又はコハク酸である請求項1に記載のスクーチカ感染症治療方法。
【請求項3】
薬浴の時間が1日4時間以上である請求項1又は2に記載のスクーチカ感染症治療方法。
【請求項4】
魚のスクーチカ感染症予防方法であって、
安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下の濃度範囲でそれぞれ含有する薬液に、紫外線を遮断した状態で魚を薬浴させることを特徴とする方法。
【請求項5】
有機カルボン酸が酢酸、クエン酸、リンゴ酸又はコハク酸である請求項4に記載のスクーチカ感染症予防方法。
【請求項6】
薬浴の時間が1日4時間以上である請求項4又は5に記載のスクーチカ感染症予防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−44862(P2008−44862A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219612(P2006−219612)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【特許番号】特許第3882939号(P3882939)
【特許公報発行日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(397057692)助川化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】