説明

魚肉すり身入りドーナツ

【課題】イーストドーナツと同様の食味上の特徴を有し、栄養価の高いドーナツ、および高度の熟練や多大な労力を要することなく安定的な生産が可能である、該ドーナツの製造方法を提供する。
【解決手段】白身魚のすり身をドーナツ生地の原材料に添加することにより、イースト発酵を行わなくてもイーストドーナツと同様の食感および食味上の特徴を有するドーナツが得られる。厳密な発酵条件の調整や複雑な製造工程が不要になるため、高度な熟練や多大な労力を要することなく、一定の品質のドーナツを安定的に製造することが可能になる。魚肉由来の良質なタンパク質を含有し、揚げる際の油の吸収量が少ないため、より栄養のバランスが取れており、ビタミン、ミネラル源の添加によりさらに改善を図ることが可能である。魚臭さは、香料と豆乳の添加により抑制することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉すり身を含有する新規なドーナツに関する。
【背景技術】
【0002】
イーストドーナツは、小麦粉、デンプン質、塩、砂糖、膨張剤およびイースト等に、水等を加え混捏後、イースト発酵させて膨らませた生地を所定の形状に成形し、油で揚げることにより製造される。
【0003】
このようにして得られるイーストドーナツは、ソフトでしっとりとした食感を有すると共に、揚げ油の吸収量が少ないため油っぽさがないという食味上の特徴を有する。仕上がり品質を大きく左右するのがイースト発酵であり、これを適切に行わないと、食感の非常に悪化したパサパサした舌触りの悪いものしか得られない。
【0004】
イーストドーナツの製造上重要な工程であるにもかかわらず、イースト発酵を適切に行うためには、一次発酵、分割、丸め、ベンチタイム、成形、最終発酵(ホイロ)等の複雑な工程と多大な時間を要する。さらに、生地の状態、気候等に応じて温度、pH等の発酵条件を厳密に調整する必要があることから、イーストドーナツの製造には高度の熟練と多大な労力が必要とされる。
【0005】
また、糖質、脂質等の栄養素の過剰摂取に起因する生活習慣病の増加が社会問題になっており、これらの栄養素の過剰摂取の抑制およびバランスの取れた栄養摂取を可能にする食品の開発が近年盛んに行われている。こうした生活習慣病の増加傾向は、低年齢層においても広がりを見せつつあり、菓子等の低年齢層向けの嗜好品においても、栄養バランスの改善に関する要求は高まりつつある。
【0006】
たとえば、特開平11‐32659号公報(特許文献1)においては、魚肉すり身を配合することにより、魚肉由来の良質なタンパク質を豊富に含む栄養価の高いパンに関する発明が開示されている。
【特許文献1】特開平11‐32659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高度の熟練を要することなく安定的な生産が可能であり、イーストドーナツと同様の食味上の特徴を有し、かつ栄養価の高いドーナツおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、イーストに代えて魚肉すり身をドーナツ生地に添加すると、発酵等の工程を経ることなく、適度な多孔度を有し、イーストドーナツと同様のしっとり感を有するドーナツを、容易かつ安定的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本出願に係る第1の発明は、魚肉すり身を含有し、かつイーストを含有しないことを特徴とするドーナツに関するものである。魚肉すり身を添加することで、イースト発酵を行うことなくイーストドーナツと同様の食感、テクスチャーを実現することを可能にし、さらに魚肉由来の良質のタンパク質や風味を有することが、本発明の大きな特徴の一つである。
【0010】
魚肉すり身は、そのまま原材料に添加してもよいが、練り製品の製造に際して行われるような塩ずりを行ったものを添加してもよい。塩ずりを行うことにより、塩溶性タンパク質であるアクトミオシンが溶出、水和する。その結果、魚肉すり身は均質なペースト状を呈し、他の原材料との混和性が向上することにより、ドーナツの仕上がりが向上する。
【0011】
魚肉すり身の配合量が多くなると、魚臭さが強くなり風味を損なうおそれがあるが、本発明者らは、原材料にさらに豆乳を添加することで魚臭さを抑えることができることを併せて見出した。
【0012】
また、ビタミン、ミネラル等の他の栄養素の強化や風味の付与のために、原材料に、野菜汁、野菜粉末、魚の骨の粉末、ビタミン類および雑穀類から選択される少なくとも1つの成分をさらに添加してもよい。
【0013】
本出願に係る第2の発明は、魚肉すり身に、少なくとも水および小麦粉を加えて混捏する工程を有することを特徴とする、魚肉すり身入りドーナツの製造方法に関するものである。発酵工程が不要になるため、製造工程が簡素化されると共に、製造に際し高度の熟練を要しなくなる。その結果、作業性および生産性が向上し、安定的に高品質のドーナツを製造することが可能になる。また、ドーナツの仕上がりを向上させるために、魚肉すり身を塩ずりする工程をさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のイーストドーナツよりも簡便な製造工程により、イーストドーナツと同様の食感および食味上の特徴を有するドーナツを製造することが可能になる。得られたドーナツは、魚肉由来の良質のタンパク質を含んでおり、揚げ工程における油の吸収量が少ないため、肥満や生活習慣病の原因となる脂質の過剰摂取を抑制できる等、栄養バランスの改善を図ることが可能である。さらに必要に応じてビタミン、ミネラル等の栄養分を調整、強化することにより、栄養バランスのさらなる改善、強化を図ることも可能である。
【0015】
また、魚肉すり身の添加量や調味料の添加量を適宜加減することにより、ドーナツの食感と魚の風味を併せ持つ新規なドーナツを提供することが可能になる。これにより、ドーナツの新規需要の喚起や、魚嫌いの子供が魚に馴染むための契機となることが期待される。
【0016】
さらに、本発明によれば、上記のような特徴を有するドーナツを、簡易な工程により安定的に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、より詳細に説明する。
【0018】
原材料に添加する魚肉すり身は、好ましくは白身魚を原料魚とするものである。白身魚の具体例としては、スケソウダラ、ホキ、キンメダイ、イトヨリダイ、タチウオ、スズキ等が挙げられる。これらの原料魚から、頭、内臓を除去、骨、皮を除去し、さらに小骨等を裏漉し除去したものをすり身として使用する。市販の冷凍すり身を使用してもよい。
【0019】
魚肉すり身の添加量は、好ましくは、全ての原材料に対して10〜40重量%の範囲内である。10重量%よりも少ないと魚肉すり身添加の効果が得られず、40重量%より多いと、生地の膨らみが悪くなり、しっとりとした食感が出せなくなる。
【0020】
上に述べたように、魚肉すり身の塩ずりを行い、塩溶性タンパク質であるアクトミオシンを溶出、水和させ、均質なペースト状とした後に原材料に添加してもよい。塩ずりは、魚肉すり身に対して1.5〜3重量%の食塩を少しずつ添加し、さらに水を加えて所定時間混合することにより行う。さらに必要に応じて、保水剤、甘味料、調味料、澱粉等の添加剤を添加してもよい。混合は、フードプロセッサー等の任意の装置により行うことができる。
【0021】
次いで、魚肉すり身に水、小麦粉、糖類、膨張剤を添加し、混捏することで生地を調製する。これらの原材料を添加する順番に特に制限はないが、魚肉すり身にまず水を加えて混合し、ある程度柔らかくしてからその他の原材料を添加するのが、作業性の観点からは好ましい。さらに、魚臭さを消すために、さらに豆乳を添加するのが好ましい。豆乳の好適な添加量は、魚肉すり身に対して3〜20重量%である。3重量%より少ないと十分な効果を得ることができず、20重量%より多くなると、豆乳の青臭さが際立ち、風味を損ねる。
【0022】
小麦粉は、ドーナツの製造に使用可能なものであれば特に制限はなく、例としては、強力粉、中力粉、薄力粉等が挙げられる。またはこれらの混合物であってもよい。あるいは、大麦粉、ライ麦粉、米粉等のその他の穀粉との混合物であってもよい。また、小麦粉は未処理のものであってもよく、α処理、またはその他の物理的、化学的処理を行ったものであってもよい。
【0023】
糖類は、ドーナツの製造に使用可能なものであれば特に制限はなく、砂糖、ブドウ等、果糖、乳糖、水飴、異性化糖、またはこれらの混合物が例として挙げられる。
【0024】
膨張剤としては、通常ベーキングパウダーが使用される。
【0025】
その他、必要に応じて、ドーナツの製造に使用される任意の添加物をさらに添加することもできる。その他の添加物の具体例としては、バター、マーガリン、ショートニング等の油脂、バニラエッセンス等の香料、全卵、卵白、卵黄等の卵、牛乳、脱脂粉乳等の乳製品等が挙げられる。
【0026】
これらの原材料および添加物の量は、生地の柔らかさ、得られるドーナツの食感や風味等に応じて適宜調節される。
【0027】
また、栄養バランスの改善、ビタミン、ミネラル類の強化、または風味や色合いの付与を目的として、野菜汁、野菜粉末、魚の骨の粉末、ビタミン類および雑穀類から選択される少なくとも1つの成分をさらに添加することもできる。これらの添加物の種類については特に制限はなく、添加量については、得られるドーナツの食感、風味、色合い等に応じて適宜調節される。なお、魚の骨の粉末は、得られるドーナツの食感を損なわないよう、十分に小さく粉砕されていることが望ましい。
【0028】
上に述べたように、魚肉すり身を添加することにより、イーストドーナツと同様の食感および食味上の特徴を有するドーナツを、イースト発酵を行うことなく得ることができるが、さらにソフトな食感を得たい場合等には、必要に応じて魚肉すり身の添加とイースト発酵を併せて行ってもよい。使用されるイーストとしては、イーストドーナツの製造に使用可能なものであれば特に制限はない。
【0029】
原材料の混捏は、ミキサーその他の任意の装置を用いて行うことができる。
【0030】
得られた生地を所定の形状に成形した後、油で揚げてドーナツを得る。使用する油の種類、油温および揚げ時間は、適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の特徴をさらに明らかにするために、実施例に基づいて詳細に説明する。
(実施例1:ドーナツの製造例1)
白身魚すり身10kgに水7.5kgおよびそれぞれ適量の保水剤(トレハロース)、水飴、馬鈴薯澱粉、アミノ酸調味料をを加え、食塩0.2kgを少量ずつ添加しながらフードプロセッサーで混合することにより塩ずりを行った。こうして得られた白身魚肉すり身10kg(30.67重量%)をミキサーに入れ、調製豆乳2kg(6.13重量%)、水5.5kg(16.87重量%)、バニラエッセンス2gを添加後混合した。次いで小麦粉9.5kg(29.0重量%)、砂糖4.4kg(13.5重量%)およびショートニング0.32kg(1重量%)を添加し、1分間混合した。混合を一旦停止し、ベーキングパウダー0.92kg(2.82重量%)を添加後さらに30秒間混合した。こうして得られた生地をドーナツ型で成形し、自動フライヤー(ネット式)を使用して、油温175℃で4分20秒間揚げることにより、魚肉すり身入りドーナツを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉すり身を含有し、かつイーストを含有しないことを
特徴とするドーナツ。
【請求項2】
前記請求項1に記載のドーナツにおいて、
魚肉すり身が塩ずりしたものであることを
特徴とするドーナツ。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載のドーナツにおいて、
前記魚肉すり身を、全ての原材料に対して10〜40重量%含有することを
特徴とするドーナツ。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載のドーナツにおいて、
原材料にさらに豆乳を含むことを
特徴とするドーナツ。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載のドーナツにおいて、
原材料に、野菜汁、野菜粉末、魚の骨の粉末、DHA、EPA、ビタミン類および雑穀類から選択される少なくとも1つの成分をさらに含むことを
特徴とするドーナツ。
【請求項6】
魚肉すり身に、少なくとも水および小麦粉を加えて混捏する工程を有することを
特徴とする魚肉すり身入りドーナツの製造方法。
【請求項7】
前記請求項6に記載の魚肉すり身入りドーナツの製造方法において、
魚肉すり身を塩ずりする工程をさらに有することを
特徴とする魚肉すり身入りドーナツの製造方法。

【公開番号】特開2007−236229(P2007−236229A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60329(P2006−60329)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(506042210)野中蒲鉾株式会社 (1)
【出願人】(506077485)株式会社アミコ (1)
【出願人】(000164689)熊本製粉株式会社 (17)
【Fターム(参考)】