説明

魚類寄生虫の駆虫方法及び感染予防方法

【課題】
養殖魚介類及び観賞魚にとって有害な魚類寄生虫を、薬剤による方法に頼らず、自然界に広く存在する成分や食用の天然物などを利用して駆虫又は感染予防する。
【課題を解決するための手段】
養殖魚介類及び観賞魚に寄生する寄生虫の駆虫又は感染予防するために、フェルラ酸と乳酸を組み合わせて使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚介類及び観賞魚にとって有害な魚類寄生虫を、自然界に広く存在する成分や食用の天然物などを利用して駆虫又は感染予防するものである。更に詳しくは、米糠のような植物やその種子を由来とする化合物であるフェルラ酸と食品添加物である乳酸を使用して、魚類寄生虫を駆虫又は感染予防するものである。
【背景技術】
【0002】
養殖経営における疾病対策は、成長を維持し、歩留まりを高めるうえで重要である。とくに魚類寄生虫が養殖魚に寄生すると、直接斃死に至ることはもちろんであるが、寄生虫により魚の体力が減退し、細菌性疾病やウイルス病などに感染しやすくなることはよく知られている。また、斃死に至らないまでも摂餌不良となり、成長を重視する養殖経営にとっては多大な損害を及ぼす。
【0003】
観賞魚にあっても寄生虫に感染すると外観を損なうばかりでなく、魚が衰弱しやがて死に至る。
【0004】
これまで魚類寄生虫の駆虫には、抗寄生虫剤などの水産用医薬品が用いられてきたが、こうした医薬品は高価なうえ、対象となる寄生虫も限られているなど使用のための制約も多い。
【0005】
近年、寄生虫の駆虫に使用する薬剤に関して、環境への悪影響などが懸念されており、一方では食材としての養殖魚に対し安全性を求める消費者の声も高まっている。
【0006】
こうした背景から薬剤を使用しないで寄生虫を駆虫する方法として、海産魚にあっては淡水浴が、淡水魚にあっては塩水浴が行われているが、十分な効果が得られているとは言えない。
【0007】
魚類寄生虫に効果のある天然生理活性物質に関しても検討が行われており、カプサイシン、オイゲノール、シネオール、シトロネラール、メントール、リナリールアセテートなどが開示されている。
【特許文献1】特開2000−281568号公報
【特許文献2】特開2001―69922号公報 さらに本発明者らは、ジンゲロール類、ショウガオール類及びクルクミンの内一種又は二種以上の成分、又はそれら成分を有するショウガ科植物又はその抽出物を、飼料に添加する、又は抽出物を溶解した飼育水に魚を浸漬することにより、魚類寄生虫の駆虫及び感染予防に効果を有することを見出し特許を出願している。
【特許文献3】特願2004−011951 本発明で用いるフェルラ酸は、植物中に広く存在するが、主に米油に含まれる成分として、抗酸化作用、抗菌作用などが注目されており、食品においても鮮度保持効果、変色防止効果などが研究されている。
【非特許文献1】FOOD Style 21 食品化学新聞社 2003.7 フェルラ酸の魚病に対する効果は、一部の細菌及びカビ類での効果が知られているが、魚類寄生虫の駆虫又は感染予防に使用した例はない。
【特許文献4】特開平11−349410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明において解決しようとする課題は、養殖魚介類及び観賞魚にとって有害な魚類寄
生虫を、薬剤による方法に頼らず、自然界に広く存在する成分や食用の天然物などを利用して駆虫又は感染予防するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、養殖魚介類及び観賞魚に寄生する寄生虫を駆虫又は感染予防するために、フェルラ酸と乳酸を組み合わせて使用することを主な特徴とする。
【0010】
本発明者らは、フェルラ酸を含む飼料を養殖魚に与えると、通常飼育で寄生しやすい魚類寄生虫が減耗することを見出し、これに乳酸を加えるとさらに効果が高まること、またフェルラ酸と乳酸の混合物を含む飼育水に寄生虫に感染した魚を浸漬することによってフェルラ酸の使用量を削減しても即効的に効果が認められることを発見し、本発明を完成した。
【0011】
具体的には、本発明は下記のとおりである。
(1)フェルラ酸と乳酸の混合物を有効成分とする魚類寄生虫駆虫剤及び寄生虫感染予防剤。
(2)フェルラ酸と乳酸の混合物を用いた魚類寄生虫の駆虫方法及び感染予防方法。
(3)(1)の記載物を用いた養魚用配合飼料又は飼料添加物。
(4)(1)の記載物を用いた観賞魚用飼料。
(5)(1)の記載物を用いた養魚用油脂。
(6)(1)の記載物を用いた浸漬液。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、食用の天然物又は自然界に広く存在する成分を利用して、魚類寄生虫の駆虫及び感染予防をおこなうことから、養殖業においては養殖経営の手助けとして、また消費者に対しては安全な食材として養殖魚を提供できる。
【0013】
さらに自然界に広く存在する成分又は食用の天然物を利用しているため、環境にやさしいうえ、薬剤と異なり休薬期間、対象魚種、対象寄生虫など使用に対する制約もない。
【0014】
本発明を用いて、魚類寄生虫の感染を防除することで、2次的に引き起こされる細菌性
疾病なども軽減できることから、抗生物質などの使用量も削減され、薬剤に頼らない養殖が可能となる。
【0015】
本発明は、多様な養殖魚介類及び観賞魚に使用できる。以下に対象魚の例を示すがこれに限定されるものではない。
【0016】
海産魚ではブリ、カンパチ、トラフグ、シマアジ、マダイ、スズキ、ヒラメが、淡水魚ではニジマス、アユ、アマゴ、イワナ、アユ、ウナギ、コイなどがある。
【0017】
さらに、観賞魚では錦鯉、金魚、観賞用海産魚などがある。
【0018】
一方、魚類寄生虫の代表的なものには、繊毛虫類である白点虫(イクチオフチリウス)、トリコディナ、キロドネラ、エピスチリス、クリプトカリオン、扁形動物単生類であるギロダクチルス、シュードダクチロギルス、ベネデニア、ヘテロボツリウム、ネオヘテロボツリウム、ビバギナ、テトラオンクス、ヘテラキシネなどがある。本発明で得られた成分はいずれの寄生虫に対しても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の使用方法には経口投与法と浸漬法がある。経口投与法は、飼料及び油脂などに有効成分を添加し魚の摂餌を通じて寄生虫に作用させるものであり、浸漬法は、魚の生息する飼育水中に有効成分を散布し直接的に寄生虫に作用させるものである。本発明で得られた成分は、経口投与法及び浸漬法のいずれにも有効である。
【0020】
フェルラ酸は単独では水にほとんど溶けないが、有機酸と混合することで水溶けも容易となり浸漬液としての利用が可能となるうえ、経口投与法においてもフェルラ酸の吸収率が向上する。
【0021】
ここで言う有機酸とは、主に食品添加物として用いられる酢酸、乳酸、プロピオン酸、タンニン酸、ソルビン酸などを示すが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明を経口投与法で使用する場合には、フェルラ酸を飼料に対し0.01%〜10%及び乳酸を0.01%〜5%、好ましくはフェルラ酸0.1%〜2%及び乳酸を0.1%〜4%添加する。
【0023】
本発明を浸漬法で使用する場合には、飼育水に対しフェルラ酸0.01ppm〜250ppm及び乳
酸0.01ppm〜500ppm、好ましくはフェルラ酸1ppm〜50ppm及び乳酸1ppm〜300ppmを散布する。
【0024】
本発明は、経口投与法であっても浸漬法であっても、この量に制限されるものではない。
【0025】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
飼育水を用いて、表1に示した成分を含む試験水をシャーレ上で調整した。ファルラ酸は築野食品(株)製を用いた。有機酸には、ソルビン酸、乳酸、酢酸、タンニン酸、プロピオン酸を用いた。
【0027】
扁形動物単生類であるシュードダクチロギルスに感染したウナギ(平均体重200g)の鰓
を切りだし、1枚の鰓に生存するシュードダクチロギルスの数を検鏡により確認した後、試験水に浸漬した。
【0028】
10分後に萎縮して動かなくなった虫体(萎縮個体)を計数し、半数以上が萎縮個体である場合に有効とした。
【0029】
対照区とフェルラ酸単独区及び酢酸とタンニン酸を除く有機酸単独区では萎縮個体は見られなかったが、フェルラ酸と有機酸を併用した試験区ではほとんど全ての虫体が萎縮個体でどの成分においても有効と判断された。
(表1)
シュードダクチロギルスに対するフェルラ酸及び有機酸の生残阻害効果

【実施例2】
【0030】
60リットル水槽に表2に示した成分を混合した飼育水に、繊毛虫類であるトリコディナに感染したアユ(平均体重30g)を各5尾収容した。
【0031】
1時間後に全てのアユをサンプリングし、それぞれの体表をカバーグラスで粘液ごと掻
き取り、トリコディナ寄生虫数(片面)を検鏡により計数した後1尾当たりの平均寄生数を求めた。判定は0〜50個体を±、50〜100個体を+、100〜200個体を++、200個体以上
を+++とした。
【0032】
フェルラ酸単独250ppm、乳酸単独135ppmではトリコディナが生存したが、フェルラ酸30ppmと乳酸135ppmを混合すると虫体は全く観察されず、フェルラ酸と乳酸併用の効果が顕
著に現れた。
(表2)
アユのトリコディナ症に対するフェルラ酸及び乳酸の浸漬効果

【実施例3】
【0033】
扁形動物単生類であるハダムシ(ベネデニア、体長5mm以上)に感染したブリ稚魚(
平均体重150g)を200リットルの飼育水に収容し、飼育水に対しフェルラ酸30ppmと乳酸135ppmとなるよう混合液を添加した。24時間後の体表に残存したハダムシ数及び水槽中に落ちたハダムシ数を計測し、駆虫率を求めた。
【0034】
24時間後の観察で、なにも添加しなかった対照区では虫体の剥離は認められず、乳酸単独区では約半数が剥離したが、混合液を添加した試験区ではほぼ完全に体表より剥離して
水槽内に落ちていた。
(表3)
ブリのハダムシ(ベネデニア)に対するフェルラ酸と乳酸混合物の浸漬効果

試験実施中、対照区及び試験区の魚の遊泳行動に異常は認められなかった。この結果から、フェルラ酸及び乳酸の混合液が海産魚の寄生虫であるハダムシに対しても効果があることが確認された。
【実施例4】
【0035】
扁形動物単生類であるシュードダクチロギルスに感染したウナギ(平均体重100g)を2t水槽に各20尾放養し、フェルラ酸と乳酸を表4に示した割合で富士製粉(株)製ウナギ
用飼料に添加し給餌した。
【0036】
給餌14日目に、全てのウナギを取り上げ飼育成績の指標として飼料効率(%)を以下の式
より算出し、対照区を1とした時の相対値で示した。
【0037】
【数1】


さらに各区のウナギを5尾づつサンプリングし、片方の鰓4枚中に寄生しているシュードダクチロギルスの数を顕微鏡で計数し1尾当たりの平均寄生数を求め、試験開始時を1と
した時の相対値で示した。
(表4)
ウナギのシュードダクチロギルスに対するフェルラ酸と乳酸混合液の飼料添加効果

何も添加しなかった対照区では寄生虫の数が増加し、摂餌不良により飼料効率も大幅に低下した。フェルラ酸及び乳酸の単独添加では、寄生虫数の減少はわずかであったが、摂餌が向上したことから、飼料効率は対照区に比し1.5倍、1.6倍の良好な成績を示した。
【0038】
フェルラ酸と乳酸の混合物を投与した区では、寄生虫数が試験開始時の1/5に減少し、
飼料効率も対照区の1.8倍という最も良好な結果を示し、フェルラ酸と乳酸混合物は飼料
に混合しても効果があることが確認された。
【実施例5】
【0039】
シュードダクチロギルスの初期感染(鰓4枚に1個体から3個体のシュードダクチロギル
スが寄生)が認められるウナギ飼育群(平均体重100g)より、2t水槽に各30尾づつラン
ダムに放養し、フェルラ酸と乳酸を表5に示した割合で添加した富士製粉(株)製ウナギ
用飼料を40日間投与し飼育試験を行った。
【0040】
試験終了時に、実施例4と同様の検討を行い、表5に結果をとりまとめた。
(表5)
ウナギのシュードダクチロギルスに対するフェルラ酸と乳酸の感染予防効果

何も添加しなかった対照区では、試験後半より摂餌不良となり飼料効率が大幅に低下し寄生虫数も増加していた。フェルラ酸単独添加では、寄生虫数は試験開始時と同様であったが、摂餌が安定していたことから、飼料効率は対照区に比し1.45倍の成績を示した。
【0041】
フェルラ酸と乳酸の混合物を投与した区では、フェルラ酸0.5%+乳酸1%の添加であっても寄生虫数が試験開始時の1/3に減少し、飼料効率も対照区の1.6倍を示した。フェルラ酸1%+乳酸2%にあっては、寄生虫の寄生は認められず、飼料効率も対照区の1.65倍という最も良好な結果を示した。これよりフェルラ酸と乳酸の飼料添加効果は、寄生虫の駆虫だけではなく、感染予防(虫体数の増加防止)にも効果があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
養殖魚や観賞魚にとって有害な魚類寄生虫に対して、フェルラ酸と乳酸を組み合わせて使用することにより、駆虫及び感染予防をおこなうことができる。これらの物質は自然界に広く存在し、食用品にも含まれることから、使用する側の養殖家や観賞魚愛好家にとっても安全であり、また養殖魚を食する消費者にとっても安心できる魚を提供できる。さらに、寄生虫の感染を防除することで、2次的に引き起こされる細菌性疾病なども軽減でき
ることから、抗生物質などの使用量も削減され、現在課題となっている養殖魚のトレーサビリティーの問題解決につながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸と乳酸の混合物を有効成分とする魚類寄生虫駆虫剤及び寄生虫感染予防剤。
【請求項2】
フェルラ酸と乳酸の混合物を用いた魚類寄生虫の駆虫方法及び感染予防方法。
【請求項3】
請求項1の記載物を用いた養魚用配合飼料又は飼料添加物。
【請求項4】
請求項1の記載物を用いた観賞魚用飼料。
【請求項5】
請求項1の記載物を用いた養魚用油脂。
【請求項6】
請求項1の記載物を用いた浸漬液。



【公開番号】特開2006−77000(P2006−77000A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230235(P2005−230235)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(391008560)富士製粉株式会社 (1)
【Fターム(参考)】