説明

鱈子加工食品の製造方法

【課題】 卵巣から取り出され、ばらばらの粒状であっても鱈子の風味が薄れることなく維持されると共に、、一般生菌数の増加を抑制し保存性に優れており、また、凍結、融解を繰り返しても鱈子卵粒の好ましい食感が失われ難い鱈子加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】 助宗鱈の卵巣から得られた粒状の卵について洗浄、殺菌処理を施した後に漬け込みを行い、漬け込みの最終段階或は漬け込みの直後にコラーゲンを添加混合し、続いて冷所で熟成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鱈子加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鱈子は、袋状の被膜に覆われたままの卵巣毎塩漬或は唐辛子を加えて塩漬されて流通、供給される代表的な水産加工食品の一つである。助宗鱈(Theragra chalcogramma)の別名にメンタイがあることから鱈子は明太子とも呼ばれる。産卵期より数ヶ月前の卵が固い卵巣が良品とされ、水分含有量が多くなり卵巣内の卵が潰れ易いことなどから従来商品化されなかった産卵期直前の鱈子を用い、卵巣の袋を剥ぎ粒状鱈子とすることで商品化率を高めた鱈子の加工方法の提案がある〔例えば、特許文献1参照〕。
【0003】
特許文献1の加工方法は、助宗鱈の卵巣から成熟卵を取り出し、以って粒状鱈子とした後、1%乃至8%重量の塩分を加えて塩漬けとし、更に10%乃至30%重量のワインを加えて約1時間乃至4時間浸し、必要に応じて食紅、人工保存料を添加し、その後水切りを行なうものである。しかしながら、このような加工方法により得られる鱈子加工食品は、ワイン風味を有するものの、鱈子本来の風味が薄れたものとなってしまう。また、このような鱈子加工食品は、塩分とアルコール分を含み保存性を有し、更に小分け保存も可能な形態となっているものの、製造工程を含め流通段階や消費者に渡った後において凍結、融解が繰り返された場合に、卵膜が破損したり卵外に滲出し潰れるなど鱈子卵粒の好ましい食感が失われてしまうという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−192269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる現状に鑑みてなされた本発明の目的は、卵巣から取り出され粒状(ばらばら状態)であっても鱈子の風味が薄れることがなく、また、凍結、融解を繰り返しても鱈子卵粒の好ましい食感(つぶつぶ感)が失われ難い鱈子加工食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明による鱈子加工食品の製造方法は、助宗鱈の卵巣から得られた粒状の卵について洗浄、殺菌処理を施した後に漬け込みを行い、漬け込みの最終段階或は漬け込みの後にコラーゲンを添加混合し、続いて冷所に静置して熟成させることを特徴とする。
【0007】
このような鱈子加工食品の製造方法において、コラーゲンが魚介類から抽出精製された粉末状のものであることが好ましく、また、熟成させた後の鱈子加工品100重量部に対して、コラーゲンを3重量部以上、10重量部以下含有させるものであることが好適である。そして、前記冷所が、設定温度に対し±3℃以内の変動範囲で調節できる冷蔵庫又は冷蔵室の内部であり、前記設定温度を1℃とすることが好適であり、また、前記熟成は、3時間以上、1週間以内の範囲で行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鱈子加工食品の製造方法によれば、助宗鱈の成熟卵が袋状の卵巣膜に覆われ包まれた保存安定性の高い通常の鱈子の状態ではないにも拘らず、鱈子或は辛子明太子の風味が薄れることなく維持されると共に、一般生菌数の増加を抑制し保存性に優れた鱈子加工食品を得ることができる。また、凍結、融解(解凍)を繰返しても、鱈子卵粒の好ましい食感が失われ難い鱈子加工食品とすることができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態例について、詳細に説明する。この実施形態における鱈子加工食品の製造方法は、助宗鱈(Theragra chalcogramma)の卵粒が袋状の薄い膜に覆われ包まれた状態の卵巣から卵粒を取り出し収集するか、或は卵巣膜が破れて卵巣外に漏れ出した卵粒を収集して使用することができる。一旦漬け込み処理された卵巣から取り出した卵粒を併せて使用しても良い。本実施形態において卵粒は、成熟した状態のものが好ましいが、産卵期より数ヶ月前の卵が固い卵巣から得られる卵粒に限定されるものではなく、産卵期直前の助宗鱈卵巣から得られるものであっても良い。このように収集した卵粒について、まず洗浄、殺菌処理を施す。この洗浄、殺菌処理は、収集した卵粒に付着する異物を除去し、一般生菌数をでき得る限り0に近付け少なくすることができれば良く、必ずしも卵粒を完全殺菌する必要はない。例えば、滅菌済みの生理食塩水で卵粒を洗浄したり、生理食塩水で洗浄しながら、或は洗浄後に紫外線照射を行なうことにより目的を達成することができる。また、消毒用アルコールに相当する70重量%以上の濃度のエタノール液で洗浄しても良いが、この場合には残留エタノールを滅菌水又は滅菌生理食塩水で洗い流すことが望ましい。また、例えば、食塩水や希塩酸などを電気分解して得られる強酸性水(pH1.5〜2.5の次亜塩素酸水溶液)を用いることもできるが、この場合にもエタノール液と同様強酸性水が残留することのないよう充分に滅菌水又は滅菌生理食塩水で洗い流すことが必要である。また、強酸性水を用いる場合にはエタノール液を用いる場合と同様、或はエタノール液より強く卵粒(膜蛋白など)を変性させてしまったり、塩素と反応する場合がある点では、好ましくないが、一方で卵粒の変性により凍結、融解に対して破損耐性が増す場合がある点では好ましい。このような洗浄、殺菌処理を収集した卵粒に初期段階で施すことにより、最終的に得られる鱈子加工食品の品質の均一化を図ることが出来る。
【0010】
上述のように洗浄、殺菌処理を施した後の卵粒について漬け込み処理を行なう。この漬け込み処理は、例えば、食塩、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び岩塩などから一以上選ばれた塩類を卵粒に加えて合わせる塩漬け、また、破砕状及び/又は粉末状の唐辛子を塩類と併せて加え合わせる唐辛子漬けなどによって行なうことができる。塩類や唐辛子の使用量は、卵巣毎の鱈子、辛子明太子の漬け込み処理の場合と同程度とすることができ、特に限定されない。一般的には、卵粒100重量部に対して塩類は0.05乃至15重量部、唐辛子は0.01乃至20重量部である。塩類は0.5乃至10重量部、唐辛子は0.1乃至10重量部が好ましい。この漬け込み処理においては、塩類、唐辛子に加えて、醤油、味噌、アミノ酸、核酸、有機酸、魚介類エキスのような調味料、発酵調味料や、亜硝酸ナトリウムのような発色剤、食紅や紅麹のような着色剤などを用いても良い。調味料、発酵調味料を用いる場合、その添加量は一般的に漬け込み処理物100重量部に対して、0.01重量部乃至5重量部であり、着色剤を用いる場合の添加量は、漬け込み処理物100重量部に対して、0.001重量部乃至0.1重量部である。漬け込み処理は、なりゆき室温条件下にて行なうこともできるが、例えば、5℃乃至25℃の所定温度範囲に制御した温度条件下で行なうことが好ましい。漬け込み処理の時間は、漬け込み材料の使用量、卵粒と漬け込み材料との合わせ条件(混合条件)や温度条件に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、一般的には、0.5時間以上、72時間以内である。1時間以上、48時間以内が好ましく、24時間以内とすることがより好ましい。
【0011】
本実施形態による鱈子加工食品の製造においては、以上のような漬け込み処理の最終段階において、コラーゲンを添加混合する。コラーゲンは、多細胞生物の細胞外マトリックス(extracellular matrix)を構成する主要な蛋白質であり、多数のタイプ(分子種)が存在することが知られている。この実施形態におけるコラーゲンとしては、いずれの多細胞生物の細胞外マトリックスを構成するものであっても使用できるが、脊椎動物の細胞外マトリックスから抽出、精製されたものが好ましい。脊椎動物の真皮、筋肉組織、骨、内臓のなどの結合組織など、脊椎動物生体に最も多く存在するとされるタイプIコラーゲンや、タイプII、タイプIII、タイプV、タイプXI等多くの分子種は3本のポリペプチド鎖からなる3重螺旋構造を有し、会合して繊維を形成する。熱変性などによって可逆的に3重螺旋構造は壊れることが知られている。タイプIVコラーゲン分子は繊維を形成しないが、自己会合能を有し、酸抽出後4℃でゲルを形成することが確認されており、本実施形態では、繊維性のコラーゲン分子種に限定されることなくいずれのタイプのコラーゲンも好適に使用できる。また、抽出、精製段階でゼラチンと称されるべきものに分解されていても、加温、冷却により可逆的に3重螺旋構造を形成してゲル化するものであれば使用でき、ここではコラーゲンと呼ぶものとする。このようなコラーゲンは、粉末状に精製されているものが好ましい。また、哺乳類、鳥類由来のコラーゲンより熱変性温度が低い場合がある点では、魚介類から抽出、精製されたものが好ましく、鮭皮から抽出、精製された粉末状コラーゲンがより好適に使用できる。この実施形態におけるコラーゲンの添加量は、使用するコラーゲンの種類、形態に応じて適宜決定すれば良く、特に限定されないが、最終的に得られる鱈子加工食品について凍結、融解を繰り返したときにその繰返し回数が増えても鱈子卵粒の好ましい食感が失われ難い場合がある点では、卵粒100重量部に対して、コラーゲン1重量部以上とすることが好ましく、3重量部以上がより好ましい。また、添加量が多い場合に鱈子、辛子明太子の風味が薄れることがある点では、15重量部以下とすることが良く、10重量部以下がより好ましく、6重量部以下がさらに好ましい。
【0012】
上述のように漬け込み処理を行なった後、続いて熟成工程を実施する。この熟成工程では、漬け込み処理済みの卵粒が凍結することのない5℃未満の冷所に付け込み処理品を静置することができる。この冷所は、設定温度に対し±3℃以内の変動範囲で調節できる冷蔵庫又は冷蔵室の内部とし設定温度を1℃とすることが好ましい。熟成工程の時間は、特に限定されないが、一般的に0.5時間以上、1週間以内である。添加混合したコラーゲンが、漬け込み処理後の余分の水分や卵粒から滲出させたと考えられる水分を受けて、一旦鱈子加工品全体が水っぽくなるが、この水っぽい状態が改善されて、水切り処理を省略でき、歩留まりを向上する場合がある点では、熟成工程の時間を3時間以上とすることが好ましく、5時間以上がより好ましい。また、本実施形態における熟成工程は、卵巣毎の鱈子、辛子明太子における熟成時間に比して短時間とすることができ、一般生菌数の増加を抑えられる場合がある点では、1週間以内が良く、24時間以内に終了させることが好ましく、18時間以内とすることがより好適である。さらに製造の作業性や効率を高める観点から一晩熟成させることができる。このような熟成工程によって、通常水きり処理は不要となっているが、水切り処理を施しても良く、容器に充填し包装品とすることができる。
また、熟成工程を終えた鱈子加工食品に対してマヨネーズを加えて混合し、鱈子マヨネーズ或は辛子明太子マヨネーズとして容器に充填した包装品とすることもできる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明による鱈子加工食品の製造方法について、実施例を示して具体的に説明するが、これによって本発明を限定するものではない。
【0014】
本実施例による鱈子加工食品の製造方法では、産卵期より数ヶ月前及び産卵期直前の助宗鱈(Theragra chalcogramma)における袋状の薄膜に覆われ包まれた状態の卵巣から卵粒を取り出して収集した。また、卵巣を集める際に卵巣膜が破れ卵巣から漏れ出した卵粒も併せて使用した。これら収集した卵粒について洗浄、殺菌処理を施した。洗浄、殺菌処理は、滅菌済みの生理食塩水を用い、収集した卵粒に付着する異物を洗浄除去した後、pH1.5〜2.5の次亜塩素酸水溶液(電解強酸性水)に0.5時間乃至1時間浸漬し、続いて滅菌済みの生理食塩水で電解強酸性水を洗浄除去することによって行なった。このように洗浄、殺菌処理を施した後の卵粒について漬け込み処理を施した。この実施例における漬け込み処理は、5℃乃至20℃の温度範囲に制御した温度条件下、卵粒100重量部に対して食塩2.5重量部を加え合わせ12時間塩漬けすることによって行なった。調味料としてはグルタミン酸ナトリウム、着色剤として食紅を用い、発色剤は添加しなかった。調味料の添加量は漬け込み処理物100重量部に対して1重量部とし、着色剤は漬け込み処理物100重量部に対して0.005重量部とした。
【0015】
このような漬け込み処理終了後に、漬け込み処理の場合と同様の温度条件でコラーゲンを添加混合した。ここでコラーゲンとしては、鮭皮から抽出、精製された粉末状コラーゲン(井原水産社製)を用い、漬け込み卵粒100重量部に対して、コラーゲン3.3重量部を添加混合した。続いて、熟成工程を施した。この実施例では、1℃に設定され、この設定温度に対し±3℃以内の変動範囲で調節可能な冷蔵室の内部に、漬け込み処理済コラーゲン添加混合品を一晩(約12時間)静置することによって熟成させた。
【0016】
以上のような本実施例の製造方法によって得られた鱈子加工食品は、鱈子の風味が薄れることなく維持されていた。また、凍結、融解を5回繰返しても、鱈子卵粒の好ましい食感が失われておらず、一般生菌数も1桁台であり保存性に優れたものとなっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
助宗鱈の卵巣から得られた粒状の卵について洗浄、殺菌処理を施した後に漬け込みを行い、漬け込みの最終段階或は漬け込みの後にコラーゲンを添加混合し、続いて冷所で熟成させることを特徴とする鱈子加工品の製造方法。
【請求項2】
前記コラーゲンが粉末状のものであることを特徴とする請求項1に記載の鱈子加工品の製造方法。
【請求項3】
前記熟成させた後の鱈子加工品100重量部に対して、前記コラーゲンを3重量部以上、10重量部以下含有させるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鱈子加工品の製造方法。
【請求項4】
前記コラーゲンが魚介類から抽出、精製されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鱈子加工品の製造方法。
【請求項5】
前記冷所が、設定温度に対し±3℃以内の変動範囲で調節できる冷蔵庫又は冷蔵室の内部であり、前記設定温度を1℃としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鱈子加工品の製造方法。
【請求項6】
前記熟成は、3時間以上、1週間以内の範囲で行なうことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鱈子加工品の製造方法。

【公開番号】特開2011−115071(P2011−115071A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273966(P2009−273966)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(393006919)カネシメ松田水産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】