説明

麺類のほぐれ性向上用油脂組成物

【課題】麺類のほぐれ性向上に優れた麺類用油脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)油脂、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする麺類用油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂を基材とする麺類用油脂組成物、およびそれを含有する麺類に関する。
【背景技術】
【0002】
茹で・蒸し麺類は、製造直後は良好なほぐれ性を示すが、時間の経過と共に、麺線表面の糊化された澱粉の粘着性により麺線が互いに結着し、遂には麺線全体が塊状に固結してしまうという欠点を有している。
【0003】
従来、このような麺線の付着防止を目的として、その表面に食用油脂を噴霧することが行われている。しかし油脂を単独で噴霧した場合、油脂が麺線全体に均一に付着せず、むらができるという問題があった。そこで、油脂の付着性を高めるために乳化剤を添加する方法が数多く提案されている。
【0004】
即ち、重合度が2以上のポリグリセリンに、ヨウ素価40以上の脂肪酸をエステル化し、そのエステル化率が30〜80%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする麺類品質改良剤(特許文献1参照)、重合度が2以上のポリグリセリンに、ヨウ素価40以上の脂肪酸をエステル化し、そのエステル化率が30〜80%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする茹で・蒸し麺類のほぐれ改良用油脂組成物(特許文献2参照)、構成脂肪酸のうちオレイン酸含量70%以上、かつ、リノレン酸含量5%以下である食用油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンを含有することを特徴とする麺ほぐれ改良用油脂組成物(特許文献3参照)、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル含有油脂を有効成分とする麺のほぐれ改良剤(特許文献4参照)、などである。しかしながら、これらの技術はいずれも未だ完全に満足し得るものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平07−039332号公報
【特許文献2】特開平07−298847号公報
【特許文献3】特開平11−221033号公報
【特許文献4】特開平09−037728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、麺類のほぐれ性向上に優れた麺類用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意・検討を行った結果、(a)油脂、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする麺類用油脂組成物の開発に成功すると共に、該麺類用油脂組成物が上記の課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次の1〜3からなっている。
1.(a)油脂、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする麺類用油脂組成物。
2.(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする前記1に記載の麺類用油脂組成物。
3.前記1または2に記載の麺類用油脂組成物を含有することを特徴とする麺類。
【発明の効果】
【0009】
本発明になる麺類用油脂組成物を使用することにより、麺線の結着を効果的に防ぐことができる。また本発明になる麺類用油脂組成物は少量でも有効なほぐれ性向上効果を示すことから、麺類の風味を損ねることが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、(a)油脂、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする麺類用油脂組成物に関する。
【0011】
本発明で用いる油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油などの植物油脂や牛脂、ラード、魚油、乳脂などの動物油脂、さらにこれら動植物油脂を分別、水素添加、エステル交換したもの、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられ、好ましくは大豆油、菜種油、コーン油などである。
【0012】
本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造される。
【0013】
上記ポリグリセリンは、通常グリセリンまたはグリシドールあるいはエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。
【0014】
本発明で用いられるポリグリセリンとしては平均重合度が約2〜10程度のもの、例えば、具体的にはジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)またはデカグリセリン(平均重合度10)などが挙げられ、好ましくはジグリセリン、トリグリセリンまたはテトラグリセリン、より好ましくはジグリセリンが挙げられる。
【0015】
上記ジグリセリンとしては、グリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4のジグリセリン組成物、またはグリセリン2分子からなるジグリセリンの含有量が約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約90質量%以上であるジグリセリン組成物が挙げられる。ジグリセリンを高濃度化するための精製法としては、例えば蒸留あるいはカラムクロマトグラフィーなど自体公知の方法が用いられる。
【0016】
上記脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数8〜18の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数18の直鎖の不飽和脂肪酸が挙げられる。例えば、具体的にはオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸の群から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸が挙げられ、好ましくはオレイン酸を約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上含有する脂肪酸または脂肪酸混合物が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例として、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを高濃度に含むジグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。即ち、上記高純度のジグリセリンと脂肪酸を、例えば等モルで、エステル化反応させることにより、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンジ脂肪酸エステル、ジグリセリントリ脂肪酸エステルまたはジグリセリンテトラ脂肪酸エステルなどを含む混合物が得られる。次に、該混合物から自体公知の方法で未反応のジグリセリンなどを除き、さらに、該混合物を高真空蒸留、例えば分子蒸留することにより、留分として、例えばジグリセリンモノ脂肪酸エステルを約70質量%以上含むジグリセリン脂肪酸エステルが得られる。
【0018】
本発明で用いられるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはソルビタン脂肪酸エステルに酸化エチレンを付加重合させることにより製造され、別名(ポリソルベート)と呼称されているものである。それらは、市場において、例えばアトラス パウダー(Atlas Powder)社からトゥイーン(商標登録)という製品名で販売されており、その構成脂肪酸の種類に応じてトゥイーン20(商標登録)、トゥイーン40(商標登録)、トゥイーン60(商標登録)、またはトゥイーン80(商標登録)等がある。
【0019】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の種類、エステル化度、または酸化エチレンの付加重合平均モル数等によってその特性が変化し、上記以外にも多くの製品がある。本発明で用いられるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとして、そのものの風味および水に対する溶解性の点から、トゥイーン40(商標登録)、トゥイーン60(商標登録)、またはそれらの相当品が好ましく用いられる。
【0020】
本発明に係る油脂組成物を製造するための装置としては、特に限定されないが、例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の攪拌・混合槽を用いることができる。攪拌機に装備する攪拌翼の形状はプロペラ型、かい十字型、ファンタービン型、ディスクタービン型またはいかり型等のいずれを用いても良いが、好ましくはプロペラ型である。
【0021】
本発明に係る油脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを、約20〜100℃、好ましくは約50〜70℃にて攪拌下、混合・溶解することにより製造することができる。
【0022】
本発明に係る油脂組成物中には、(a)油脂が約20〜99質量%、好ましくは約40
〜95質量%、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルが約0.1〜80質量%、好ましく
は約5〜50質量%、および(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが約0
.1〜10質量%、好ましくは約0.5〜5質量%の量で混合され、溶解されていること
が好ましい。各成分の含有量は組成物全体が100質量%となるよう選択する。
【0023】
尚、本発明に係る油脂組成物中には、本発明の目的を阻害しない範囲で、グリセリン脂
肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコー
ル脂肪酸エステルまたはレシチン等の食品用乳化剤を加えることができる。ここで、グリ
セリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、グリセリン酢酸エステ
ル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン
酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂
肪酸エステル、またはポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなどが含まれる。またレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチンまたは酵素処理レシチンなどが含まれる。
【0024】
本発明になる麺類用油脂組成物の使用方法に特に制限はない。具体的には、例えば(a)麺生地を混捏する際に該油脂組成物を添加する方法、(b)麺線を茹でる際の茹で液に該油脂組成物を添加する方法、(c)茹で麺および蒸し麺に、該油脂組成物または該油脂組成物を含む水分散液を噴霧する方法、(d)茹で麺および蒸し麺に、該油脂組成物または該油脂組成物を含む水分散液を塗布する方法、(e)茹で麺および蒸し麺を、該油脂組成物または該油脂組成物を含む水分散液に浸漬する方法などが挙げられ、好ましくは茹で麺および蒸し麺に、該油脂組成物または該油脂組成物を含む水分散液を噴霧する方法である。
【0025】
本発明になる麺類用油脂組成物の使用量は、茹で・蒸し麺類の種類あるいは商品の流通形態、保管期間、期待効果の度合いによって異なるが、例えば麺生地に添加する方法では、小麦粉などの穀粉100質量部に対して0.5〜5質量部、好ましくは1〜3質量部である。また該油脂組成物を噴霧または塗布する方法では、その使用量は茹で麺および蒸し麺に対して、0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%である。
【0026】
また該油脂組成物を水分散液として噴霧または塗布する方法では、その濃度が0.5質量%以上、好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは5〜10質量%となるように水分散液を調製し、それを使用すると良い。水分散液の使用量は、その濃度を勘案して適宜調整すると良い。
【0027】
本発明において、麺類とは、小麦粉、そば粉、米紛などの穀紛と水を主原料として、必要であればその他の原材料を混合し、圧延工程により麺帯を作り、麺線に切り出して製麺されるものであり、例えばうどん、きしめん、ひやむぎ、そうめん、そば、中華麺、スパゲッティーなどが挙げられる。これら麺類は乾麺、茹で麺あるいは蒸し麺の形態で販売され、この内、茹で麺あるいは蒸し麺の流通形態としては、低温流通麺(チルド麺)、冷凍流通麺(冷凍麺)あるいは常温流通麺(LL麺)などがあり、そのいずれであってもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。もちろん、本発明が以下に記載された実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0029】
[実施例1〜4、比較例1〜4]油脂組成物の作製
(1)油脂組成物作製用原材料
・菜種油(吉原製油社)
・コーン油(日本食品化工社)
・ジグリセリンモノオレート(製品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社)
・テトラグリセリンモノオレート(製品名:SYグリスターMO-310;阪本薬品工業社)
・デカグリセリンモノオレート(製品名:ポエムJ-0381;理研ビタミン社)
・ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(製品名:Lamesorb SMS20;グルノー社)
・ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート(製品名:NIKKOL TS-30;日光ケミカルズ社)
【0030】
(2)上記原材料を種々の配合割合にて配合して種々の油脂組成物を作製した(実施例1〜4および比較例1〜4)。実施例1〜4にて作製した油脂組成物の配合組成を表1、更に比較例1〜4にて作製した油脂組成物の配合組成を表2に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
(3)実施例1〜4および比較例1〜4の油脂組成物の作製方法
表1および表2に示した原材料の配合割合に基づいて、所定の原材料を300ml容ビーカーに入れ、60℃に加熱し、撹拌機(製品名:スリーワンモーター、型式:FBL−
600、HEIDON社製)を用いて、200rpmにて撹拌しながら配合物を混合・溶
解した。実施例および比較例の処理量は各々が200gになるようにした。
【0034】
[実施例5〜8、比較例5〜8]中華麺の作製と評価
(1)中華麺(生麺)の作製
粉末かんすい6g、精製塩10g、クチナシ黄色素(商品名:リケカラークチナシ−30(顆粒);理研ビタミン社)1gを水320gで溶解し、中力粉(商品名:金すずらん;日清製粉社)1000gに加えて、横型ミキサー(スズキ麺工社)にて低速3分間、中速10分間ミキシングした。出来上がった生地を室温で1時間寝かせた後、製麺機にて複合・圧延した。麺帯の厚みは1.3mmとし、切り刃#20角で切り出した。
【0035】
(2)中華麺(茹で麺)の作製
生麺1kgを沸騰水10Lで1分40秒間茹で、直ちに水洗・水冷をし、水切りした後茹で中華麺220gに前記試料油脂組成物4.5gを均一に噴霧し、軽くほぐした後ポリエチレン製の冷やし中華の容器に充填・密封した。噴霧処理に用いた油脂組成物を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(3)中華麺(茹で麺)の評価
上記で得られた茹で麺を、5℃の冷蔵庫で3日間保存した後、下記表4に示す評価基準に従い10名のパネラーで評価試験を行った。結果は10名の評点の平均値として求め、以下の基準に従って記号化し、表5に示した。
◎:極めて良好 平均値3.5以上
○:良好 平均値2.5〜3.4
△:やや悪い 平均値1.5〜2.4
×:悪い 平均値1.4以下
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
実施例5〜8の中華麺(茹で麺)は比較例5〜8の中華麺(茹で麺)と比較して明らかに優れており、特にほぐれ性において本発明品(実施例1〜4の油脂組成物)の効果が顕著に認められた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に従う麺類用油脂組成物は、生麺、茹で麺および蒸し麺のほぐれ性向上に有効である外、油揚げ麺、ノンフライ麺などの即席麺に使用しても、調理時または喫食時のほぐれ性向上に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)油脂、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする麺類用油脂組成物。
【請求項2】
(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の麺類用油脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の麺類用油脂組成物を含有することを特徴とする麺類。

【公開番号】特開2006−6132(P2006−6132A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184374(P2004−184374)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】