説明

麻痺性藻類毒素を産生するシアノバクテリア分離種の大量取得生産方法

本発明は、麻痺性藻類毒素を産生するシアノバクテリアの分離種を大量に取得生産する方法であって、アルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸を補強したMLA培地に、シアノバクテリアフィラメントを播種する工程;シアノバクテリアを培養する工程;一容量の培地を採取し、取り出した容量分を新鮮な培地で補充する工程;連続様式で培養を維持する工程;およびシアノバクテリアを含む培地を遠心分離する工程;を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノバクテリア(光合成藍藻類)を生産する方法、取り分け、麻痺性毒素などの所望の代謝産物を生成させるために有用な制御条件下、工業的レベルで大量に人工的に処理する方法の開発に関する。本方法は、高効率、高収率、容易さおよび高収益性を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
ネオサキシトキシンおよびサキシトキシンは、アレキサンドリウム・エスピー(Alexandrium sp.)、ピリジニウム・エスピー(Piridinium sp.)およびギムノジニウム・エスピー(Gimnodinium sp.)などの属の双鞭毛藻類種が産生する麻痺性毒物の成分であり、時には、一般に赤潮として知られる有害な藻類の開花により汚染された濾過摂食性二枚貝および肉食性腹足類に存在することがある(非特許文献1)。これらの藻類毒素は海洋性双鞭毛藻類のみならず、淡水性シアノバクテリア(光合成藍藻類)によっても産生される。
【0003】
貝類を麻痺させる藻類毒素を産生し得る文献に記載されたシアノバクテリアは5種類のみであり、そのそれぞれが産生する藻類毒素の量とタイプに関して特徴的な組成をもつ(麻痺性藻類毒素のプロフィール)。
【0004】
シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii):ブラジルにて分離(非特許文献2;非特許文献3)。
【0005】
アファニゾメノン・フロス−アクア(Aphanizomenon flos-aquae):ポルトガルにて分離(非特許文献4)。
アナバエナ・サーシナリス(Anabaena circinalis):オーストラリアにて分離(Lagos, 1999)。
【0006】
リングビヤ・ウォレイ(Lyngbya wollei):北アメリカにて分離(Lagos, 1999)。
アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レム(Aphanizomenon gracile Lemm)(ペレイラ・ピー(Pereira P)LMECYA40:この光合成単細胞藍藻類は、テトラヒドロプリンであるネオサキシトキシンとサキシトキシンとのみを、78ないし82%のネオサキシトキシンと22ないし18%のサキシトキシンの割合で産生するこのタイプの唯一のシアノバクテリアである。
【0007】
本出願にて提案される方法は、麻痺性藻類毒素の簡単なプロフィールを生じるシアノバクテリアの制御条件下に操作する連続的培養である。このプロフィールは培養した種に左右されるものであり、ネオサキシトキシンおよびサキシトキシンまたはゴニャウラトキシン(gonyaulatoxins)2と3を包含する。さらに、本培養方法は、すでに記載されている生産率よりも、藻類湿潤重量あたりのこれらの薬理活性化合物のより高い生産率を可能とする微量栄養素の添加を含む。
【0008】
ネオサキシトキシン、サキシトキシンおよびゴニャウラトキシンはテトラヒドロプリン基本構造を有し、上記のシアノバクテリアにより二次代謝産物として産生される。これらの化合物は、すべてが二次代謝産物として細胞内部に存在するが、培地中にも放出される。この方法において、これらの産物の2つの起源は、細胞ペレットにおけるものと、シアノバクテリアを培養する培地におけるものが記載されている。
【0009】
開放型または自然光照射型反応器によるもの、および閉鎖照射型反応器によるもの(この場合、光は白色光LEDを含む、蛍光灯もしくは同様の手段などの人工的手段により供給する)の双方において、これらシアノバクテリアの大量連続培養は、永続的、また連続的シアノバクテリアの生産を可能とするが、主要化合物であるネオサキシトキシンの工業的レベルでの生産の場合には、これらのシアノバクテリアから厳密に精製する必要がある。しかし、培養するシアノバクテリアおよびその培養条件によっては、ネオサキシトキシンが後で精製されるばかりでなく、サキシトキシンおよび他のサキシトキシン類似体、例えば、ゴニャウラトキシンなども精製され得る。これらの化合物はすべて麻痺性藻類毒素の群に属するものである。
【0010】
高シアノバクテリア収率を伴う連続的工業生産方法は、これまでに実施されたことはなかった。これまで、特徴的な、かつ特異的な藻類毒プロフィールをもつシアノバクテリアの人工的手法の開発については何ら記載されていない;例えば、特異的な組成物は、ネオサキシトキシンおよびサキシトキシンのみをそれぞれ予め定義された5対1の比率で含むか、または他の麻痺性藻類毒素を含まずにゴニャウラトキシンのみを含んでいる。
【0011】
もう一つの有益な特徴は、本発明に記載する選択された培養条件と手法を用いたときに得られる藻類毒素の非常に高い生産性であるが、このことからシアノバクテリアは、藻類毒素、取り分け、アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムの場合のネオサキシトキシンの最良の起源と定義し得る。ネオサキシトキシンは、大量生産すべき主要な成分であり、また最も興味のある成分である。
【0012】
シアノバクテリアこの種、アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムは、サキシトキシンおよび主たるネオサキシトキシンの生産株であって、ポルトガルの貯水池クラト(Crato)湖から採取され、LMECYA 41として単離分類されたものであり、最初はその形態を考慮して、また後にはその16S rRNA遺伝子配列を考慮して、アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムと同定された(非特許文献5)。
【0013】
当初、この菌株は貯水池の粗水サンプルから採取されたが、このサンプルは高い優先度でアファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムを含み、2番目に優先であった種は、当初のサンプルに見出された種の総質量の32%ないし40%であった。後には、研究室で、クランプ(小型の無菌単離リング)により採取した小滴のクローニングにより、個々に、繰り返し連続的に細胞糸を洗浄・単離するために、簡便な常套の手法が用いられた;すべては無菌の培地にて、倒立顕微鏡を用いて観察し、単一のトラコーマ(trachoma)を得て、これを5ミリリットルの培地を容れた10−ミリリットルの無菌フラスコに移した。この単糸シアノバクテリアの培養(単藻類培養)物は25℃で2ないし4週間、引き続く生産に適する発育状態に達するまで増殖させた。この当初の分離株から、この単糸シアノバクテリアの増大と生産を、必要とされる連続的複製を実施することにより開始し、その際、ガイドとして常にフィラメント数を維持して用い、常に指数増殖期とした。該単藻類培養のこの増殖発育期に際して、該菌株は16:8時間の明暗サイクル下に維持した。フィラメントはルゴール染色により、細胞を計数するセジウイック・ラフターとパルマー−マロニー(Sedgewick Rafter and Palmer-Maloney)により計測し、それによって培養の発育を制御した。
【0014】
シアノバクテリアを単離して純粋な培養物を得るこの方法は、上記の麻痺性藻類毒素を産生し得るシアノバクテリアのいずれにも適用し得る。
純粋な培養物が得られた場合、これを本発明によるシアノバクテリアの大量生産の種菌として使用する。
【0015】
制御条件下で麻痺性藻類毒素を産生し得るシアノバクテリアを大量に生産する本発明の利点は以下のとおりである:
・麻痺性藻類毒素を産生し得るシアノバクテリアを制御条件下で連続的永続的に生産。
・高価な栄養素を含まず、光のコントロールを必要とするのみであり、このことは、シアノバクテリアの扱いが比較的容易であることを意味し、培地が極めて基本的なものであるため、生産コストが安い。
・環境条件およびその変化に関わらず、麻痺性藻類毒素(サキシトキシン、ネオサキシトキシンおよびゴニャウラトキシン)の継続的な起源を提供すること。
・従来達成されなかった、またこれまでに工業的方法として記載されたことのない極めて好適なコスト−生産−収率の関係。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Lagos, N. (1998) Microalgal blooms: a global issue with negative impact in Chile(微小藻類開花:チリにおける有害な衝撃的世界的問題). Biol. Res. 31: 375-386
【非特許文献2】Lagos, N., Onodera, H., Zagatto, P.A., Andrinolo, D., Azevedo, S.M.F.Q., and Oshima, Y., 1999, The first evidence of paralytic shellfish toxins in the freshwater cyanobacterium Cylindrospermopsis raciborskii, isolated from Brazil (ブラジルにおいて分離された淡水性シアノバクテリア、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ中の麻痺性貝類毒素の最初の証明). TOXICON, 37: 1359-1373
【非特許文献3】Molica, R., Onodera, H., Garcia, C., Rivas, M., Andrinolo, D., Nascimento, S., Meguro, H., Oshima, Y., Azevedo, S., and Lagos, N., 2002, Toxin in the freshwater cyanobacterium Cylindrospermopsis raciborskii, isolated from Tabocas reservoir in Caruaru, Pernambuco, Brazil(カルアル、パーマンブコ、ブラジルにおいてタボカス貯水池から分離された淡水性シアノバクテリア、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ中の毒素), Phycologia, 41 (6): 606-611
【非特許文献4】Pereira, P., Onodera, H., Andrinolo, D., Franca, S., Araujo, F., Lagos, N., and Oshima, Y., 2000, Paralytic shellfish toxins in the freshwater cyanobacteria Aphanizomenon flos-aquae, isolated from Montargil reservoir, Portugal (ポルトガル、モンタルギル貯水池から分離された淡水性シアノバクテリア、アファニゾメノン・フロス−アクアの麻痺性貝類毒素). Toxicon, 38: 1689-1702
【非特許文献5】Paulo Pereira, et al., 2001, 第5回毒性シアノバクテリアに関する国際会議、2001年7月15〜20日、オーストラリア、クイーンズランド
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の概略の目的は、サキシトキシン、ネオサキシトキシンおよび/またはゴニャウラトキシンなど、主として麻痺性藻類毒素を産生するシアノバクテリアを、制御条件下、低コストで、大量的連続的に工業的規模で生産することである。
【0018】
本発明の具体的な目的は、低コスト、商業的に競合し得るコストでシアノバクテリア単一培養物の最適化生産手法を開発することである。
本発明のさらなる具体的な目的は、商業的には入手し得ず、数種の病状に対して臨床治療法として応用し得る高い付加価値の化合物の起源として、永続的にシアノバクテリア菌株を使用する連続的な工業的手法を達成することである。
【0019】
本発明のさらなる具体的な目的は、主としてネオサキシトキシンを産生し、サキシトキシンの比率は小さなものとすること(1/5のサキシトキシン)、または主たる主要な成分として主にゴニャウラトキシン2/3を産生することを目的とするこのシアノバクテリア菌株の連続的な培養を達成することである。
本発明のさらなる具体的な目的は、シアノバクテリア細胞あたりのネオサキシトキシンおよび/またはゴニャウラトキシンの高生産を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本出願においては、連続培養においてシアノバクテリアを大量に取得し生産する方法が提供される。本発明において連続的に培養し得るシアノバクテリアの例は、以下のとおりである:
− シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ、アファニゾメノン・フロス−アクア;
− アファニゾメノン(Aph)イッサツチェンコイ(Usacev)プロスキナ−ラブレンコ(Aphanizomenon(Aph) issatschenkoi (Usacev) Proskina-Lavrenco);
− アナバエナ・サーシナリス、リングビヤ・ウォレイ、およびアファニゾメノン・グラシル(Lemm)レム。
【0021】
麻痺性藻類毒素を産生するシアノバクテリアについての知識は、公共の健康問題に関係するものであるが、これらの藻類毒素による貝の汚染は、藻類毒素産生双鞭毛藻類の開花期に関係して、赤潮が存在する領域、すなわち、藻類毒素産生双鞭毛藻類の開花が現れる領域の公共の健康および貝類缶詰工業に深刻な衝撃を与える(Lagos 1998)。
【0022】
これらのシアノバクテリア種が初めて記載されたときは、解剖学と古典的分類学上の特徴に従ってのみこれらは特徴付けられた。これらの種は当初それらが産生する化合物に従っては研究されず、または特性化されなかったが、産生された藻類毒素の研究が為されたとき、その目的は毒性レベルおよび公共の健康の問題を理解し、解決することであった。しかし、本出願が提出されるまで、麻痺性藻類毒素の継続的な絶えることのないシアノバクテリアまたはシアノバクテリアの培養物に由来する麻痺性藻類毒素(すべてサキシトキシン類似体)の大量生産については何の提案もなかった。
【0023】
本出願においては、連続的培養においてシアノバクテリアを大量に取得し、生産する方法が提供され、その方法では(Aph)グラシル(Lemm)レムの培養を一例として挙げている。しかし、連続的培養法は先に言及したシアノバクテリア属、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ、アファニゾメノン・フロス−アクア、アファニゾメノン(Aph)イッサツチェンコイ(ウサセブ)プロスキナ−ラブレンコ(Aphanizomenon(Aph) issatschenkoi (Usacev) Proskina-Lavrenco)、アナバエナ・サーシナリス、リングビヤ・ウォレイ、およびアファニゾメノン・グラシル(Lemm)レムなどに適用し得る。
【0024】
これらの分離シアノバクテリアを入手できたことが、継続的研究の発展と本大量生産方法の発明を可能とした。
シアノバクテリアを培養し成長させるためには、一連の開放型または閉鎖型の反応器が必要とされ、直接の照射が反応器のすべてを被う必要がある。
培養には新鮮な水、無機塩類および少量の微量栄養素を必要とするだけであり、それらのすべてが低コスト、かつ容易に調製し得るものである。
【0025】
別の好適な実施態様は暗期のない永続的明サイクルであるが、シアノバクテリアは光を必要とし、かつ指数増殖期に常に最大の成長に達する光合成生物であるため、そのことがこの大量培養法の技術革新を構成する。これと関連して、異なる時間の処理計画による明暗サイクルが、それが自然光のサイクルであったとしても、この連続培養の成長の際に使用し得ることは、価値ある顕著な成果である。本出願に記載する方法のもう一つの技術的革新は、指数増殖期において、また藻類毒素産生の永続的状態において、培養を永続的に維持することであり、これは各反応器における培養の定量的成長に依存的に、選択的定量的収穫を実施することにより達成される。
【0026】
シアノバクテリアの培養には、培養を最良の状態に維持するための無菌培地を必要とする;しかし、これらの培養では、哺乳動物細胞などの真核細胞培養の場合のように極端な無菌条件を必要とはしない。
【0027】
これらのシアノバクテリアは汚染に対して強く抵抗し、それらの生育要件が最少であり、従って本発明に使用する培地が他の微生物の生育にとってはあまりに“貧弱”であるために、これらの光合成生物のみが生長できる自然選択培地となる。
これらシアノバクテリアの成長にとって最適な温度範囲は、中央チリ(アフリカからテムコ)などの地中海性気候における環境温度変化の通常の変動範囲で構成される。
【0028】
シアノバクテリアが生育してきた場合、使用に適した容量、例えば、シアノバクテリアが産生する代謝産物の精製に適する容量を取り出し、細胞培養から取り出したその容量を等容量の無菌培地を添加することにより復元する。適時計測するフィラメント数に応じて、所定の生育が達成された段階で、さらに適当な容量のシアノバクテリアを収集し、常に培地の同じ最終容量が維持されるように、収穫した細胞容量を等量の補充容量と置き換える。
この方法において、培養したシアノバクテリアの系は、シアノバクテリア生産のための連続起源として得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明においては、連続培養においてシアノバクテリアを大量に取得し生産する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】連続光照射下の本発明の培地(メチオニン、アルギニンおよびアラントイン酸で修飾したMLA培地)、および明暗サイクルによる未修飾培地(単純MLA培地)を使用する培養1日あたりのフィラメントの生産。
【発明を実施するための形態】
【0031】
工業的レベルで麻痺性藻類毒素を産生し得るシアノバクテリアの工業的規模での培養を開始するためには、シリンドロスペルモプシス(Cylindrospermopsis sp.)、アファニゾメノン・エスピー(Aphanizomenon sp.)、アナバエナ(Anabaena sp.)、およびリングビヤ(Lyngbya sp.)などから選択し得る分離特性化したシアノバクテリアが必要となる。
【0032】
シアノバクテリアの培養は、特に選択された種を考慮して、永続的な光照射下、適当な通気攪拌反応器にて実施する。光は人工的な光、例えば、蛍光管からの照射光でよい。
シアノバクテリアの再生産を考慮した培地は、蒸留水、無機塩類および微量栄養素を含み、すべて無菌状態である。
【0033】
培地はシアノバクテリア培養用のMLA×40培地(MLA培地、クシロ(CSIRO)マリン・リサーチ、クシロ・マイクロアルゲ・リサーチ・センター、ホバート、オーストラリア)(microalgae@marine.csiro.au)に基づき調製する;本培地はとりわけ以下の成分から構成される:MgSO×7HO、NaNO、KHPO、HBO、HSeO、ビオチン、ビタミンB12およびチアミンHCl、EDTA−Na、塩化鉄(III)六水和物、カルバミン酸ナトリウムおよび塩化マンガン水和物、NaHCO、CaCl×2HO、CuSO×5HO、ZnSO×7HO、CoCl×6HO、NaMoO×2HO。さらに、本発明の培地はアルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸を含有する。
下記の表に、本発明方法にとって有用な濃度範囲を上記の成分について提示する。
【0034】
【表1】



【0035】
さらに、該培地はその最終組成において、2ないし3.5mMのアルギニン、1ないし2.2mMのメチオニンおよび0.7ないし1.3mMのアラントイン酸を含有する。
培地の調製は、別途調製し、濾過またはオートクレーブにより滅菌したストック溶液を使用して実施する。
【0036】
シアノバクテリア増殖用のオーストラリア連邦科学産業研究機構からのMLA培地は既知であるが、本発明に記載の完全培地は、当該培地に見出されず、またはシアノバクテリアの培養に関する他のいずれの文献にも見出されない無機塩類、微量栄養素およびビタミン類を考慮に入れている。
【0037】
培地を調製した後、本発明の培地3リットルに対して2000万ないし4000万のフィラメント範囲でシアノバクテリアを播種する。
培養条件はとして蛍光管による一定光照射を検討する。制御温度は15ないし35℃の制御温度、好ましくは20ないし35℃の範囲で、最適には22±2℃とする。
【0038】
取り分け、培養に使用する菌株の細胞分裂周期に左右されるが、シアノバクテリアを処理する反応器総容積の20ないし40%の容量を取り出し、この容量を新しい等容量の培地と置き換えることが可能である。例えば、分裂周期が1日あたり0.33であるならば、培養容量の1/3を取り出し、それを等容量の新鮮な培地と1日ないし2日ごとに置き換えることができる。
【0039】
シアノバクテリアの収穫時期を決定するために、フィラメントの計測を介して増殖を観察し、シアノバクテリアの取り出しを実施する各時点で、等容量の培地と取り替えることを考慮する。
【0040】
菌株アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レム LMECYA40について記載した刊行物はすでに存在するが、この刊行物に記載された培地は本発明に記載する修飾MLA培地とは全く異なるものである。シアノバクテリア培養の基礎としてMLA培地の使用が記載されたのは、これが最初である。本発明のシアノバクテリアの培養を適合させるために、MLA培地にアルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸などの成分を加えて修飾した;驚くべきことに、化合物はすべて藻類毒素であるサキシトキシン、ネオサキシトキシンおよびゴニャウラトキシンの産生を非常に促進することが証明された。
【0041】
第一工程において、本発明方法は、250ml容量の小型フラスコ中、16:8時間の明暗サイクル、22±2℃に制御された温度で培養した2000万ないし4000万の範囲の多数のフィラメントの接種材料(inoculum)を形成することからなる。
得られたイノキュラムを反応器に移し、これを無菌の孤立条件に維持する。
【0042】
本発明方法の培養温度は、20〜25℃の間で制御する。例えば、アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムを生産しようとする場合、この菌株は15ないし30℃の範囲、最適には22±2℃で好適に培養されることを考慮しなければならない。
【0043】
アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レム細胞は、すでに既知の分裂周期0.33/日を有する。このことはこの培養が3日で細胞量を2倍にすることを意味する。このことは1日ごとないし最大2日ごとに各3リットル容量の反応器から1リットルの培養物の取得を可能とする。
【0044】
細胞培養物から取り出した分量は1リットルの滅菌培地を加えて回復させる。翌日または翌々日、フィラメントの計数量に従って、さらに1リットルのシアノバクテリア培養物を取得でき、常時、培地の総容量を3リットルに維持する。
【0045】
本方法では、培養したシアノバクテリアの系がシアノバクテリアの絶え間のない生産のための連続的起源として得られる。シアノバクテリアを含む培地の収集は、簡便には2日ごとに実施し得、それによって多数のフィラメントを得る。最大の生産条件下に、4日間を越える収穫期間をとることは好都合とは言えない;その理由は、培養中のフィラメントが増大すると、培養が変質し、藻類毒素の産生が低下するからである。
【0046】
細胞ペレットはフィラメント形成シアノバクテリアに相当する。これらのフィラメントは20個ないし100個の細胞を、さらにはフィラメントに結合した細胞を有する。そのような理由で、それらを糸状シアノバクテリアと称する。シアノバクテリアが“健常”であり、良好に増殖する場合、それらはそこで細胞分裂を受けるために、フィラメントを形成する。この糸状特性は、それが正のシアノバクテリア生育を制御するものであるため、増殖のコントロールとして使用する。フィラメントを形成する能力は、培地が汚染されて感染が起こった場合に、シアノバクテリアがフィラメントを形成しないため、培地汚染のより良好なコントロールを可能とする。
【0047】
細胞ペレットは、個々の細胞が非常に小さく、計測困難であり、健常な培地には存在しないため、倒立顕微鏡下で定量されるフィラメントから構成される。
さらに、無細胞培地はペレットを得るために使用される遠心分離工程の上清として収集する。この遠心分離は、簡便には10,000gにて20分間実施する。藻類毒素はこの上清に可溶性種としても存在する。
【0048】
この上清は第二の藻類毒素源である。良好な培養条件において、健常なフィラメントを含み、汚染がなく、また永続的指数増殖期にあるとき、傾向としてそれはペレットフラクションにて得られる総含量の5%未満となる。
【0049】
本発明に記載された生産性は、文献( Paulo Pereira et al., 2001; 第5回毒性シアノバクテリアに関する国際会議、2001年7月15〜20日、オーストラリア、クイーンズランド)に記載された生産性よりも60倍ないし125倍高い。
【0050】
当該菌株は他の栄養素および微量栄養素と共に、明暗サイクルの16:8時間を維持しながら、常套の条件下(本発明で開発され、使用された反応器ではなしに)、他の温度で培養した。確かに、本発明では、新規の連続的培養方法のみならず、新規の構造基盤を用いる手法からなる大量の工業的生産について記載する;本発明は全体としてこれまでに記載され、または証明されたことのない高い収率による驚くほどの効果をもつ画期的な提案をする。
【0051】
上記の解説書は多くの明細事項を含むが、これらの明細事項は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、実際に好適である本発明の様式の一部の説明にすぎないとすべきである。
【0052】
開発された試験的な工業的方法は、麻痺性藻類毒素(ネオサキシトキシン、サキシトキシンまたはゴニャウラトキシン)を産生し得るシアノバクテリアを1日あたり200リットル収集することを可能とする200個の反応器からなる連続培養である。
【実施例】
【0053】
実施例1
培地の調製
培地を調製するために、微量栄養素、無機塩類およびビタミン類のより濃縮したストック溶液を調製する。すべての溶液は蒸留水で調製する。
ビタミンストック溶液(溶液A)は以下の表の指示に従って調製する:
【0054】
【表2】



【0055】
換言すると、ビオチン1mgを蒸留水10mlに溶かした。同様に、1mgのビタミンB12を蒸留水10mlに溶かした。これら2種の溶液それぞれから0.05mlを採り、10mgのチアミンHClと混合し、蒸留水で最終容量100mlとした。
【0056】
微量栄養素ストック溶液(溶液B)はCuSO・5HO(1g/l)、ZnSO・7HO(2.2g/l)、CoCl・6HO(1g/l)、NaMoO・2HO(0.6g/l)の初期溶液から調製した。下記の表に示す溶液800mlに、各初期溶液10mlを加えた。
【0057】
【表3】



【0058】
最後に、蒸留水で容積を1リットルとして、1リットルの微量栄養素ストック溶液(溶液B)を得た。
【0059】
40倍に濃縮したMLA培地ストック溶液250mlを調製するために、以下の表の各成分について示した容量を蒸留水130mlに加えた:
【0060】
【表4】



【0061】
最後に、1リットルのMLA培地を調製し、0.22マイクロメーターの膜で濾過して滅菌するために、以下の分量を混合する:
【0062】
【表5】



【0063】
121℃、15分間のオートクレーブ滅菌による場合、以下に示した量を用いて、HClまたは他の適当な酸によりpH7.5〜8.0に調整する。
【0064】
【表6】

【0065】
最終成分の濃度は以下の表に示したとおりである:
【0066】
【表7】



【0067】
NaHCOおよびCaCl・2HOは、その濃度が培地に使用する滅菌方法(濾過またはオートクレーブ)に依存するので、必要に応じて添加しなければならない。
溶液はすべて1ヶ月を越えない期間、冷蔵保存し得る。
【0068】
最後に、本発明の培地を調製するために、アルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸を加えて、最終濃度を2.8mMアルギニン、1.7mMメチオニンおよび1mMアラントイン酸とした。
添加成分の最終混合物は本発明の結果を得るための決定因子であり、当該成分は上記MLA培地(クシロ・マリン・リサーチ)の一部ではない。
【0069】
実施例2
アファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムの培養
実施例1に記載の培地3リットルを容れた各反応器に、3500万個のアファニゾメノン(Aph)グラシル(Lemm)レムのフィラメントを播種した。反応器を22℃±2℃の制御温度に保ち、蛍光管で永続的に照射した。培養が指数期に達したところで、総反応器容積の1/3を採取し(1リットル)、新鮮な培地1リットルと置き換えた。前者の培養は1日あたり0.33倍の倍増時間を示した。
次いで、シアノバクテリアを含む培地を10,000gで20分間遠心分離した。
【0070】
本発明にて得られる収率は、フィラメントの存在(多くの個々の細胞の会合)が、培養の質と細胞の永続的再生産および発育の指標であるため、通常、フィラメント数の相関的要素として表される。フィラメントの豊富な培養は“健常な”培養であり、永続的な発育である。細胞ペレットはフィラメントのペレットであり、藻類毒素の精製はそこから開始する。
【0071】
【表8】



【0072】
各バッチの細胞ペレットは、反応器から各日に収穫した培養物1リットルから得られた容量である。これはまた1日おきにも実施し、より大量のフィラメントを獲得することができる。これらの最大生産条件下、培養の劣化と藻類毒素生産の低下を回避するために、4日以上あけることなく収穫を実施することが好ましい。
【0073】
実施例3
単純な(未修飾)MLA培地と本発明の修飾MLA培地との培養の比較:
図1は単純な(未修飾)MLA培地におけるアファニゾメノン・グラシルの培養と、本発明の修飾MLA培地におけるアファニゾメノン・グラシルの培養との間の差を示す。最終濃度として、2.8mMアルギニン、1.7mMメチオニンおよび1mMアラントイン酸を含む本発明の修飾培地が、単純な(未修飾)MLA培地による培養よりも格段にすぐれていることは容易に理解することができる。
【0074】
表9は上清中の異なる藻類毒素の濃度およびそのシアノバクテリアフィラメントの収量を示す。表はまた本発明方法による培地1mlあたりのフィラメント濃度を示す。
【0075】
【表9】



【0076】
表10は異なる藻類毒素生産バッチを示す。フィラメントあたりの藻類毒素の平均収率は、本発明の増殖条件下に修飾MLA培地を用いた場合に、先行技術のこれまでの状況を代表する単純な(未修飾)MLA培地での培養と比較して、より高いことが明瞭に認められる。
【0077】
【表10】



【0078】
これらの実験で得られた収量は、修飾MLA培地中(表9)で培養したシアノバクテリアあたりの純粋な藻類毒素(ネオサキシトキシンおよびサキシトキシン)の産生量が、連続通気なしの明(日中)暗(夜)サイクルで、通常の条件(単純なMLA培地)で培養した場合の、また先行技術の条件で小型培養フラスコ中において記載された場合のシアノバクテリアフィラメントの産生量と比較して(表10)、驚くほどのものであり、また予想外のものであることを示す。
【0079】
本明細書に記載の実施例においては、シアノバクテリアが常時指数増殖期にあり、1日24時間の永続的光照射と、シアノバクテリアの永続的な収集下にあって、各収穫期に収集される分量と同等の分量の新規の栄養素を加えることにより、シアノバクテリアを永続的に増殖させることからなる。
表10に示すように、本発明方法は既知の方法よりも約25倍も高い良好な収率を達成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻痺性藻類毒素を産生するシアノバクテリアの分離種を大量に取得生産する方法であって、
a.アルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸を補強したMLA培地3リットルごとに、2000万ないし4000万個のシアノバクテリアフィラメントを播種する工程;
b.当該培地中、15ないし35℃の温度で自然光または人工光照射下においてシアノバクテリアを培養する工程;
c.1日ないし3日ごとに総容量の20ないし40%の範囲の容量の培地を採取し、取り出した容量分を新鮮な培地で補充する工程;
d.連続様式で培養を維持する工程;および
e.c)にて採取したシアノバクテリアを含む培地を、5,000ないし15,000×gの範囲の相対遠心力で5ないし30分間、好ましくは10,000×gで10分間遠心分離する工程;
を含む方法。
【請求項2】
シアノバクテリア種が、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ、アファニゾメノン・フロス−アクア、アファニゾメノン(Aph)イッサツチェンコイ(ウサセブ)プロスキナ−ラブレンコ、アナバエナ・サーシナリス、リングビヤ・ウォレイ、およびアファニゾメノン・グラシル(Lemm)レムおよびこれら同属種からなる群より選択される請求項1に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項3】
培養温度が15ないし25℃の範囲、好ましくは22±2℃である請求項1および2に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項4】
該光照射が人工的であり、光サイクルが連続的である請求項1に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項5】
該MLA培地が、MgSO・7HO、NaNO、KHPO、HBO、HSeO、ビオチン、ビタミンB12、チアミンHCl、CuSO・5HO、ZnSO・7HO、CoCl・6HO、NaMoO・2HO、NaEDTA、FeCl・6HO、NaHCO、MnCl・HOを含み、アルギニン、メチオニンおよびアラントイン酸を補強したものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項6】
該培地が、2ないし3.5mMアルギニン、1ないし2.2mMメチオニンおよび0.7ないし1.3mMアラントイン酸を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項7】
該培地の最終アルギニン濃度が2.8mMである請求項6に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項8】
該培地の最終メチオニン濃度が1.7mMである請求項6に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。
【請求項9】
該培地の最終アラントイン酸濃度が1.0mMである請求項6に記載のシアノバクテリア種の単培養物を大量に取得生産する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−521212(P2012−521212A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501445(P2012−501445)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051188
【国際公開番号】WO2010/109387
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511228632)
【Fターム(参考)】