説明

黄色蛍光体及びその製造方法

【課題】常温での発光強度(輝度)が高いとともに、高温に曝された場合でも発光強度(輝度)の劣化が少ない蛍光体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオール化合物と、Siアルコキシド化合物及び/又はGeアルコキシド化合物を、酸触媒の存在下、混合及び加熱して水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物を得るSi・Ge水溶化工程(1)と、アルカリ金属から選択される少なくとも一種である第1元素、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種である第2元素、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種である第3元素を含む水溶液と、前記水溶性Si化合物及び/又は前記水溶性Ge化合物とを混合する原料水溶液調製工程(2)と、前記原料水溶液を加熱するゲル化工程(3)などを含む黄色蛍光体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色蛍光体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白色LEDは、紫外から青色の領域の光(波長が380〜500nm程度)を放出するLEDチップと、該LEDチップから放出される光で励起されて発光する蛍光体とを組み合わせて構成されるものであり、その組み合わせによって様々な色温度の白色を実現することができる。
【0003】
白色LEDに用いることのできる蛍光体、すなわち、紫外から青色の領域の光によって励起され発光する蛍光体は既に知られている。白色LED用の蛍光体として、例えば特許文献1にはY3Al512:Ce(YAG:Ce)が開示されており、特許文献2、3にはLi2SrSiO4:Euが示されている。
【0004】
特許文献3に開示されているLi2SrSiO4:Euで表される蛍光体は、青色LEDから放出される青色光を効率よく吸収し、570nm付近に発光ピークを有するブロードな黄色発光を示すと共に、高温に曝された状態でも発光強度(輝度)の低下が少ないという性質を持つことが知られている。また、特許文献1に開示されるYAG:Ce等の蛍光体は、約1500℃という高温で焼成することによって製造されるのに対して、Li2SrSiO4:Euは800〜900℃という低温で焼成可能であり、生産コストの面で非常に有利である。
【0005】
ところで、蛍光体を製造する方法としては、大きく分けて固相反応法と液相反応法があり、中でも液相反応法で蛍光体前駆体を製造すると、蛍光体の構成元素を均一に分散できるため、蛍光体の高輝度化に有利であることが知られている。液相反応法として、具体的には(i)金属イオン溶液のpHを変化させて水酸化物を析出させる方法、(ii)炭酸ガスや炭酸水素アンモニウムを添加することによって不溶性の炭酸塩を析出させて前駆体を調製する共沈法、(iii)金属アルコキシドを加水分解して前駆体を得るゾルゲル法、(iv)金属イオン含有溶液中の金属イオンを錯体化させ、加熱することでポリマー化し、有機成分を大気焼成によって除去することで均一な前駆体を調製する錯体重合法、などが挙げられる(特許文献4〜7)。また、Li2SrSiO4:Euと異なる組成の酸化物蛍光体の製造方法であるが、近年では、水溶性珪素化合物(WSS)を利用して、結晶性が良く高輝度である蛍光体を製造する方法も提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−242513号公報
【特許文献2】国際公開第03/80763号パンフレット
【特許文献3】特開2006-237113号公報
【特許文献4】特公昭49−006040号公報
【特許文献5】特開平06−115934号公報
【特許文献6】特開平11−314905号公報
【特許文献7】特開2007−332016号公報
【特許文献8】特開2010−189583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来提案されてきた方法で製造されるLi2SrSiO4:Euの発光強度(輝度)は、常温及び高温に曝された場合のいずれにおいても、未だ十分ではなかった。そこで、本発明は常温での発光強度(輝度)が高いとともに、高温に曝された場合でも十分な発光強度(輝度)を示す(すなわち、高温での発光強度低下が少ない)蛍光体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明は、ポリオール化合物と、Siアルコキシド化合物及び/又はGeアルコキシド化合物を、酸触媒の存在下、混合及び加熱して水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物を得るSi・Ge水溶化工程(1)と、アルカリ金属から選択される少なくとも一種である第1元素、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種である第2元素、及び、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種である第3元素を含む水溶液と、前記水溶性Si化合物及び/又は前記水溶性Ge化合物とを混合する原料水溶液調製工程(2)と、前記原料水溶液を加熱するゲル化工程(3)と、前記工程(3)で得られたゲル化物を熱処理して、蛍光体の前駆体粉末を得る前駆体形成工程(4)と、前記前駆体粉末を還元性雰囲気で焼成する工程(5)を含むことを特徴とする黄色蛍光体の製造方法である。
【0009】
本発明において黄色蛍光体とは、発光スペクトルのピーク波長が560〜590nm程度である蛍光体を意味する。
【0010】
前記Si・Ge水溶化工程(1)において、Siアルコキシド化合物及びGeアルコキシド化合物の合計に対するポリオール化合物のモル比は、0.5〜5.0であることが好ましい。また、前記原料水溶液調製工程(2)において、水溶性Si化合物中のSiと水溶性Ge化合物中のGeの合計に対する、第1元素、第2元素及び第3元素の合計のモル比は、1.0〜10.0であることも好ましい。
【0011】
本発明の製造方法において、前記Siアルコキシド化合物がテトラケイ酸アルキルであることや、前記ポリオール化合物がアルカンポリオールであることや、前記Si・Ge水溶化工程(1)における酸触媒は塩酸であることなどが好ましい。
【0012】
前記Si・Ge水溶化工程(1)における加熱温度は50〜100℃であることが好ましく、また前記ゲル化工程(3)では加熱温度が60〜300℃であることが好ましい。前記前駆体形成工程(4)における熱処理温度は、200〜900℃であることが好ましく、また前記前駆体形成工程(4)において、熱処理回数が2回以上であることも好ましい。前記焼成工程(5)では、焼成温度が700〜1000℃であることが好ましい。
上記黄色蛍光体は、組成式:M12a(M2bc)M3d4で表されることが好ましく、前記組成式においてM1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、M2は、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種、M3は、Si及びGeから選択される少なくとも一種、Lは、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種であり、aは、0.9以上、1.5以下、bは、0.8以上、1.2以下、cは、0.005以上、0.2以下、dは、0.8以上、1.2以下である。
【0013】
上記組成式において、(i)M1はLiであり、且つM3はSiであること、(ii)aが0.9以上、1.1以下であること、(iii)b+c=1であり、且つd=1であること、(iv)M2は、Srのみであるか、SrとBa、又はSrとCaであることがより好ましい。
【0014】
本発明は、上記した製造方法によって得られる黄色蛍光体や、該黄色蛍光体を用いた発光装置、及び白色LEDも包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、蛍光体の構成元素をその前駆体中で高度に均一分散できる。よって本発明の製造方法によって得られる蛍光体は常温での発光強度(輝度)及び高温に曝された後の発光強度(輝度)が高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で製造する黄色蛍光体は、組成式:M12a(M2bc)M3d4で表される。前記式中、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、M2は、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種、M3は、Si及びGeから選択される少なくとも一種、Lは、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種である。また、aは、0.9以上、1.5以下、bは、0.8以上、1.2以下、cは、0.005以上、0.2以下、dは、0.8以上、1.2以下である。
【0017】
1は、好ましくはLi、Na、及びKから選ばれる少なくとも一種であり、より好ましくはLiである。
2は、Srのみであることが好ましく、またSrとBaであること、或いはSrとCaであることも好ましい。
3は、好ましくはSiであり、この場合、M1はLiであることがより好ましい。
Lは発光イオンとして賦活される元素であり、少なくともEuを含むことが好ましい(すなわち、LはEuのみであるか、EuとEu以外のL元素の一種以上との組み合わせであることが好ましい)。LはEuのみであることがより好ましく、この場合、Euが少なくとも2価のEuを含むことが好ましい。
【0018】
前記aの下限は、好ましくは0.95である。またaの上限は、好ましくは1.2であり、より好ましくは1.1、さらに好ましくは1.05である。
前記bの下限は、好ましくは0.9であり、より好ましくは0.95である。bの上限は好ましくは1.1であり、より好ましくは1.05、さらに好ましくは1.0である。
前記cの下限は、好ましくは0.01であり、より好ましくは0.015である。cの上限は、好ましくは0.1であり、より好ましくは0.05である。
前記dの値は、b+cの値と同一又は異なって、その下限は好ましくは0.9であり、より好ましくは0.95である。また、dの上限は、好ましくは1.1であり、より好ましくは1.05であり、さらに好ましくは1.0である。特に好ましいのは、b+c=1であり、且つd=1である。
【0019】
aとb+cの比(a/(b+c))、aとdの比(a/d)、b+cとdの比((b+c)/d)は、同一又は異なって、例えば、0.9〜1.1、好ましくは0.95〜1.05である。上記組成式において、a、b+c、dの値がいずれも1±0.03(特に1)であることも好ましい。
【0020】
また、上記黄色蛍光体は、少なくともLi、Sr、Eu及びSiを含有し、結晶系が六方晶又は三方晶であることが好ましい。蛍光体の結晶系が六方晶及び三方晶以外であると、蛍光体の黄色発光が白色LED用として適切(発光スペクトルのピーク波長が560〜590nm)ではない場合がある。
【0021】
本発明の黄色蛍光体は、原料(後述する金属ハロゲン化物、反応促進剤等)に由来するハロゲン元素(すなわちF、Cl、BrおよびIの1種以上)を含有していても良く、その合計含有量は、原料中に含有されるハロゲン元素の合計に対して同量以下であれば良く、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。
【0022】
次に、本発明の黄色蛍光体の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、工程(1)〜(5)を含有する。工程(1)では、蛍光体を構成する元素のうち、Si及び/又はGeの水溶性化合物を形成させる。工程(2)では工程(1)で形成した前記水溶性化合物と、それとは別に調製されたSi及びGe以外の蛍光体構成元素を含む水溶液とを互いに混合して原料水溶液を調製する。工程(3)では、工程(2)で得られた前記原料水溶液を加熱してゲル化物を生成し、この工程(3)でSi及び/又はGeの水溶性化合物のゲル化物の網の中に、Si及びGe以外の蛍光体構成元素を取り込むことができる。工程(4)では、前記ゲル化物を熱処理して、ゲル化物の溶媒及び有機成分を除去した前駆体粉末を得る。工程(5)では、該前駆体粉末を焼成して蛍光体を得ることができる。以下、それぞれの工程について詳述する。
【0023】
工程(1)は、Si及び/又はGeの水溶化工程(以下、「Si・Ge水溶化工程」と呼ぶ。)であり、ポリオール化合物と、Siアルコキシド化合物及び/又はGeアルコキシド化合物を、酸触媒の存在下、混合及び加熱して水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物を得る。工程(1)で水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物を形成させることによって、後の工程(4)において、構成元素が均一に分散した前駆体を得ることができ、その結果、最終的に得られる蛍光体の組成が均一となる。
【0024】
Siアルコキシド化合物はテトラケイ酸アルキルであることが好ましく、テトラケイ酸メチル(TMOS)、テトラケイ酸エチル(TEOS)などのテトラケイ酸C1-4アルキルが含まれ、特にテトラケイ酸エチルが好ましい。Geアルコキシド化合物は、テトラアルキルゲルマンであることが好ましく、テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウムなどのテトラC1-4アルキルゲルマンが含まれる。これらアルコキシド化合物は、Siアルコキシド化合物のみであることが好ましい。
【0025】
ポリオール化合物としては、例えばアルカンポリオール(アルカンジオール、アルカントリオールなど)が挙げられる。前記ポリオール化合物は、好ましくはアルカンジオールであり、より好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールであり、さらに好ましくはプロピレングリコールである。
【0026】
Si・Ge水溶化工程(1)における酸触媒としては、スルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を用いることができ、塩酸を用いることが好ましい。
【0027】
Si・Ge水溶化工程(1)において、Siアルコキシド化合物及びGeアルコキシド化合物の合計に対するポリオール化合物のモル比は、0.5〜5.0であることが好ましい。このようにすることによって、水溶性Si化合物及び水溶性Ge化合物を十分に生成させることができる。前記モル比は、より好ましくは1.0〜4.5であり、さらに好ましくは1.0〜4.0(特に2.0〜4.0)である。
【0028】
Si・Ge水溶化工程(1)における加熱温度は、例えば50〜100℃であり、好ましくは60〜80℃であり、より好ましくは65〜75℃である。加熱時間は、例えば0.1〜10時間であり、好ましくは0.1〜5時間であり、より好ましくは0.5〜3時間である。また、Si・Ge水溶化工程(1)における加熱は、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0029】
工程(2)は、Si・Ge水溶化工程(1)で得られた前記水溶性化合物と、Si及びGe以外の蛍光体構成元素を含む水溶液とを混合する原料水溶液調製工程である。Si及びGe以外の蛍光体構成元素を含む水溶液とは、具体的には、アルカリ金属から選択される少なくとも一種である第1元素、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種である第2元素、及び、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種である第3元素を含む水溶液である。前記第1元素、第2元素、第3元素はそれぞれ、前記した蛍光体の組成式におけるM1、M2、Lに相当する。第1元素、第2元素及び第3元素を含む水溶液としては、これら金属元素の塩の水溶液を用いることが好ましく、より好ましくは硝酸塩水溶液、炭酸塩水溶液、ハロゲン化物水溶液である。
【0030】
原料水溶液調製工程(2)において、水溶性Si化合物中のSiと水溶性Ge化合物中のGeの合計に対する、第1元素、第2元素及び第3元素の合計のモル比は、1.0〜10.0であることが好ましい。このようにすることによって、最終的に得られる蛍光体が、上記した組成式で表されるものとなる。前記モル比は、より好ましくは1.5〜7.0であり、さらに好ましくは2.0〜5.0である。
【0031】
原料水溶液調製工程(2)では、水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物に対して、第1乃至第3元素を含む水溶液を加えることが好ましい。このようにすることによって、水溶性Si化合物及び水溶性Ge化合物が部分的に加水分解反応を起こすことを抑制できる。また原料水溶液の調製は、撹拌しながら行うことが好ましい。原料水溶液調製工程(2)における混合温度は、例えば10〜40℃であり、好ましくは15〜35℃である。また混合時間(撹拌時間)は、0.5〜5時間が好ましく、より好ましくは1〜3時間である。
【0032】
工程(3)は、前記原料水溶液を加熱してゲル化する工程であり、Si及び/又はGeの水溶性化合物をゲル化すれば、このゲル化物の網の中に前記第1乃至第3元素を取り込むことができる。ゲル化工程(3)における加熱温度は、60〜300℃が好ましく、作業性の観点から70〜200℃がより好ましく、安全性を考慮すれば80〜150℃がさらに好ましい。また、ゲル化工程(3)における加熱時間は、6〜48時間が好ましく、より好ましくは12〜24時間である。ゲル化工程(3)での加熱は、原料水溶液の成分の揮発(例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の揮発)を防ぐため、密閉して行うことが好ましい。
【0033】
工程(4)は、ゲル化工程(3)で得られたゲル化物を熱処理して、蛍光体の前駆体粉末を得る前駆体形成工程である。前駆体形成工程(4)における熱処理によって、ゲル化物の溶媒及び有機成分を除去することができる。前駆体形成工程(4)における熱処理温度は200〜900℃が好ましく、より好ましくは300〜800℃、さらに好ましくは350〜750℃である。前駆体形成工程(4)における熱処理時間は、1〜24時間が好ましく、より好ましくは6〜12時間であり、さらに好ましくは8〜10時間である。前駆体形成工程(4)において、原料の飛散を防ぐため、熱処理時の昇温速度を制御することが好ましく、0.5〜2℃/分程度が好ましい。前駆体形成工程(4)の熱処理の雰囲気及び圧力は、ゲル化物中の溶媒及び有機成分を除去可能であれば特に限定されない。熱処理雰囲気は、例えば大気中、酸素雰囲気、0体積%超100体積%未満の酸素と不活性ガス(窒素、アルゴンなど)との混合ガス雰囲気などの、酸化性ガス雰囲気とすることができる。熱処理時の圧力は例えば常圧、又は減圧とすることができる。
【0034】
また、前駆体形成工程(4)において、ゲル化物が多量の溶媒を含んでいる場合には、各溶媒の沸点付近の温度で保持する熱処理を行ってから、さらに温度を上げて熱処理を行うなど、2回以上の熱処理を行うこともできる。このように複数回の熱処理を行う場合には、各回の熱処理条件(温度、時間など)がそれぞれ上述した範囲となることが好ましい。
【0035】
工程(5)では、前駆体形成工程(4)で得た前駆体粉末を焼成して、蛍光体を生成する。焼成工程(5)における焼成雰囲気は、還元性ガス雰囲気であることが好ましく、例えば、0.1〜10体積%(特に2〜7体積%)の水素と不活性ガス(窒素、アルゴンなどであり、好ましくは窒素)との混合ガス、アンモニア等が挙げられ、好ましくは5体積%の水素と窒素との混合ガスである。焼成工程(5)における焼成温度は、例えば700〜1000℃(好ましくは750〜950℃)であり、焼成時間は、例えば1〜100時間(好ましくは10〜50時間)である。
【0036】
焼成工程(5)での焼成時に前駆体粉末に適量の炭素を添加して焼成しても良く、特に強い還元性雰囲気で焼成する場合に有効である。
【0037】
焼成工程(5)での焼成時に、反応促進剤を添加すれば、得られる蛍光体の発光強度(輝度)をより高くすることができる。反応促進剤としては、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、ハロゲン化アンモニウム、ホウ素の酸化物(B23)、ホウ素のオキソ酸(H3BO3)などを用いることができる。前記アルカリ金属ハロゲン化物は、好ましくはアルカリ金属のフッ化物またはアルカリ金属の塩化物であり、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、NaCl、KClなどである。前記アルカリ金属炭酸塩は、例えば、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3である。前記アルカリ金属炭酸水素塩は、例えば、NaHCO3である。前記ハロゲン化アンモニウムは、例えば、NH4Cl、NH4Iである。
【0038】
前駆体形成工程(4)で得られた前駆体粉末、及び焼成工程(5)で得られた蛍光体は、粉砕したり、洗浄、分級したりしても良い。粉砕には、例えばボールミルやジェットミルなどを用いることができる。
【0039】
本発明は、上記した黄色蛍光体を用いた発光装置(例えば白色LED)も包含する。白色LEDは、紫外から青色の光(波長が380〜500nm程度)を放出する発光素子(LEDチップ)と、蛍光体から構成される。この白色LEDは、例えば、特開平11−31845号公報、特開2002−226846号公報等に開示の方法によって製造することができる。すなわち前記発光素子を、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの透光性樹脂で封止し、その表面を蛍光体で覆うことで白色LEDを製造できる。蛍光体の量を適宜設定すれば、白色LEDが所望の白色を発光するようになる。
【0040】
前記蛍光体としては、本発明の黄色蛍光体を単独で用いても良いし、他の蛍光体と併用しても良い。他の蛍光体としては、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Ca)(Al,Ga)24:Eu、BaMgAl1017:(Eu,Mn)、BaAl1219:(Eu,Mn)、(Ba,Sr,Ca)S:(Eu,Mn)、YBO3:(Ce,Tb)、Y23:Eu、Y22S:Eu、YVO4:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、SrY24:Eu、Ca−Al−Si−O−N:Eu、(Ba,Sr,Ca)Si222:Eu、β−サイアロン、CaSc24:Ce、Li−(Ca,Mg)−Ln−Al−O−N:Eu(ただし、LnはEu以外の希土類金属元素を表す)などが挙げられる。
【0041】
波長380nm〜550nmの光を発する発光素子としては、紫外LEDチップ、青色LEDチップなどが挙げられ、これらLEDチップには発光層としてGaN、IniGa1-iN(0<i<1)、IniAljGa1-i-jN(0<i<1、0<j<1、i+j<1)などの層を有する半導体が用いられる。発光層の組成を変化させることにより、発光波長を変化させることができる。
【0042】
蛍光体は、白色LED以外の発光装置、例えば、蛍光体励起源が真空紫外線である発光装置(例えば、PDP);蛍光体励起源が紫外線である発光装置(例えば、液晶ディスプレイ用バックライト、三波長形蛍光ランプ);蛍光体励起源が電子線である発光装置(例えば、CRTやFED)などにも使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
なお以下の実施例で得られる蛍光体の発光強度は、蛍光分光測定装置(日本分光株式会社製FP−6500)を用いて決定した。蛍光体のX線回折(XRD)測定には、X線回折装置(リガク製RINT2000)を用いた。
【0045】
実施例1
テトラ珪酸エチル(多摩化学工業(株)、高純度正珪酸エチル)及びプロピレングリコールを、1:4のモル比で混合し、酸触媒として塩酸(関東化学(株))を数滴加えた。得られた混合液を攪拌しながら75℃に加熱し、30分間保持して水溶性Si化合物を得た。得られた水溶性Si化合物と、硝酸リチウム、硝酸ストロンチウム、硝酸ユウロピウムの水溶液を、Li:Sr:Eu:Siの原子比が2.0:0.98:0.02:1.0となるように混合し、1時間攪拌して原料水溶液を得た。前記原料水溶液を容器に入れて密封し、100℃で12時間加熱してゲル化させた。得られたゲル化物を大気中、450℃で10時間熱処理して粉末を得た(450℃までの昇温速度は1℃/分)。得られた粉末を、さらに750℃で10時間熱処理して、粉末中に残留した有機物を分解して蛍光体の前駆体粉末を得た。該前駆体粉末を、5体積%のH2を含有するN2雰囲気中、800℃で24時間保持して焼成し、その後室温まで徐冷して組成式がLi2(Sr0.98Eu0.02)SiO4で表される化合物を含有する蛍光体を得た。得られた蛍光体の室温(25℃)での発光強度は304(後記する参考例1で得られた蛍光体の室温での発光強度を100とした時の値。参考例2〜4についても同じ。)であり、発光スペクトルのピーク波長は571nmであった。また、得られた蛍光体の発光強度を100℃で測定したところ、100℃での発光強度は、室温での発光強度に対して90.2%であった。
【0046】
参考例1 錯体重合法
硝酸リチウム(関東化学株式会社製、純度2N5)、硝酸ストロンチウム(関東化学株式会社製、純度3N)、硝酸ユウロピウム(関東化学株式会社製、純度3N5)をそれぞれ水に溶解し、0.1M硝酸リチウム水溶液、0.1M硝酸ストロンチウム水溶液、0.1M硝酸ユウロピウム水溶液を得た。前記した各水溶液と二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製、純度4N)を、Li:Sr:Eu:Siの原子比が2.0:0.98:0.02:1.0となるように混合し、無水クエン酸(和光純薬工業株式会社製、純度特級)を上記金属元素(Li、Sr、Eu及びSi)の合計に対してモル比で4倍量添加した後、80℃で2時間攪拌することで各金属元素のクエン酸錯体を形成させた。
【0047】
続いて、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)をクエン酸と等mol量添加し、120℃で3時間攪拌して前記クエン酸錯体を重合させた。重合によって得られたポリマーを電気炉にて大気中800℃、12時間焼成することで有機物を分解し均一な蛍光体前駆体を得た。得られた蛍光体前駆体をN2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃の温度で24時間保持して焼成し、その後室温まで徐冷して組成式がLi2(Sr0.98Eu0.02)SiO4で表される化合物を含有する蛍光体を得た。得られた蛍光体の室温(25℃)での発光強度を100とした。発光スペクトルのピーク波長は571nmであった。また、得られた蛍光体の発光強度を100℃で測定したところ、100℃での発光強度は、室温(25℃)での発光強度に対して87.6%であった。
【0048】
参考例2 炭酸塩共沈法1
硝酸ストロンチウム(関東化学株式会社製、純度3N)、硝酸ユウロピウム(関東化学株式会社製、純度3N5)をそれぞれ水に溶解し、0.1M硝酸ストロンチウム水溶液及び0.1M硝酸ユウロピウム水溶液を得た。得られた各水溶液をSr:Euの原子比が0.98:0.02となるように混合し、金属硝酸塩混合水溶液(溶液(i))を得た。次に炭酸水素アンモニウム(関東化学株式会社製)を水に溶解し、0.1M炭酸水素アンモニウム水溶液を調整した(溶液(ii))。さらに二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度4N)を純水に分散したスラリーを調整し、アンモニア水を用いてpH10とした(溶液(iii))。
【0049】
続いて、Sr:Eu:Siの原子比が0.98:0.02:1.0となるように、上記溶液(iii)を攪拌しながら、溶液(iii)に対して溶液(i)、(ii)を滴下し、さらに溶液のpHを一定に保つためアンモニア水を同時に滴下して、金属元素を炭酸塩として共沈させた。共沈させた蛍光体原料(炭酸塩)を乾燥し、炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が2.0:0.98:0.02:1.0となるように混合し、前駆体を得た。得られた前駆体を大気中、500℃で12時間焼成した。焼成により得られた粉末を5体積%のH2とN2との混合ガス雰囲気中、800℃の温度で24時間保持して焼成し、その後室温まで徐冷して組成式がLi2(Sr0.98Eu0.02)SiO4で表される化合物を含有する蛍光体を得た。得られた蛍光体の室温(25℃)での発光強度は130であり、発光スペクトルのピーク波長は570nmであった。また、得られた蛍光体の発光強度を100℃で測定したところ、100℃での発光強度は、室温(25℃)での発光強度に対して86.3%であった。
【0050】
参考例3 炭酸塩共沈法2
塩化ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度2N以上)、塩化ユウロピウム(関東化学株式会社製、純度3N5)をそれぞれ水に溶解し、0.1M塩化ストロンチウム水溶液、及び0.1M塩化ユウロピウム水溶液を得た。得られた各水溶液をSr:Euの原子比が0.98:0.02となるように混合し、金属塩化物混合水溶液(溶液(i))を得た。次に炭酸水素アンモニウム(関東化学株式会社製)を水に溶解し、0.1M炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した(溶液(ii))。さらに二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度4N)を純水に分散したスラリーを調整し、アンモニア水を用いてpH10とした(溶液(iii))。
【0051】
続いて、Sr:Eu:Siの原子比が0.98:0.02:1.0となるように、上記溶液(iii)を攪拌しながら、溶液(iii)に対して溶液(i)、(ii)を滴下し、さらに溶液のpHを一定に保つためアンモニア水を同時に滴下して、金属元素を炭酸塩として共沈させた。共沈させた蛍光体原料(炭酸塩)を乾燥し、炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が2.0:0.98:0.02:1.0となるように混合し、前駆体を得た。得られた前駆体を大気中、500℃で12時間焼成した。焼成により得られた粉末を5体積%のH2とN2との混合ガス雰囲気中、800℃で24時間保持して焼成し、その後室温まで徐冷して組成式がLi2(Sr0.98Eu0.02)SiO4で表される化合物を含有する蛍光体を得た。得られた蛍光体の室温(25℃)での発光強度は200であり、発光スペクトルのピーク波長は570nmであった。また、得られた蛍光体の発光強度を100℃で測定したところ、100℃での発光強度は、室温(25℃)での発光強度に対して86.7%であった。
【0052】
参考例4
水酸化リチウム(和光純薬工業株式会社製、特級)、水酸化ストロンチウム(和光純薬工業株式会社製、鹿特級)、塩化ユウロピウム(関東化学株式会社製、純度3N5)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度4N)の各原料をLi:Sr:Eu:Siのモル比が2.0:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、これらを純水に加え、攪拌して白濁液を得た。得られた白濁液を2時間攪拌し、110℃で乾燥して前駆体を得た。得られた前駆体粉末を大気中、500℃で12時間焼成した。焼成により得られた粉末を5体積%のH2とN2との混合ガス雰囲気中、800℃で24時間保持して焼成し、その後室温まで徐冷して組成式がLi2(Sr0.98Eu0.02)SiO4で表される化合物を含有する蛍光体を得た。得られた蛍光体の室温(25℃)での発光強度は132であり、発光スペクトルのピーク波長は570nmであった。また、得られた蛍光体の発光強度を100℃で測定したところ、100℃での発光強度は、室温(25℃)での発光強度に対して87.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の黄色蛍光体は、発光強度(輝度)が高く、且つ高温に曝された後の発光強度(輝度)の劣化も少ないため、発光装置(特に白色LED)用の蛍光体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール化合物と、Siアルコキシド化合物及び/又はGeアルコキシド化合物を、酸触媒の存在下、混合及び加熱して水溶性Si化合物及び/又は水溶性Ge化合物を得るSi・Ge水溶化工程(1)と、
アルカリ金属から選択される少なくとも一種である第1元素、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種である第2元素、及び、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種である第3元素を含む水溶液と、前記水溶性Si化合物及び/又は前記水溶性Ge化合物とを混合する原料水溶液調製工程(2)と、
前記原料水溶液を加熱するゲル化工程(3)と、
前記工程(3)で得られたゲル化物を熱処理して、蛍光体の前駆体粉末を得る前駆体形成工程(4)と、
前記前駆体粉末を還元性雰囲気で焼成する工程(5)を含むことを特徴とする黄色蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記Si・Ge水溶化工程(1)において、Siアルコキシド化合物及びGeアルコキシド化合物の合計に対するポリオール化合物のモル比は、0.5〜5.0である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Siアルコキシド化合物は、テトラケイ酸アルキルである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオール化合物は、アルカンポリオールである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記Si・Ge水溶化工程(1)における酸触媒は塩酸である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記Si・Ge水溶化工程(1)における加熱温度は50〜100℃である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料水溶液調製工程(2)において、水溶性Si化合物中のSiと水溶性Ge化合物中のGeの合計に対する、第1元素、第2元素及び第3元素の合計のモル比は、1.0〜10.0である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ゲル化工程(3)における加熱温度は、60〜300℃である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体形成工程(4)における熱処理温度は、200〜900℃である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体形成工程(4)において、熱処理回数が2回以上である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程(5)において、焼成温度は700〜1000℃である請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
黄色蛍光体が、組成式:M12a(M2bc)M3d4で表される請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
但し、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、
2は、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種、
3は、Si及びGeから選択される少なくとも一種、
Lは、希土類元素、Bi及びMnから選択される少なくとも一種であり、
aは、0.9以上、1.5以下、
bは、0.8以上、1.2以下、
cは、0.005以上、0.2以下、
dは、0.8以上、1.2以下である。
【請求項13】
1はLiであり、M3はSiである請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
aが0.9以上、1.1以下である請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
b+c=1、d=1である請求項12〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
2は、Srのみであるか、SrとBa、又はSrとCaである請求項12〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法によって得られる黄色蛍光体。
【請求項18】
請求項17に記載の黄色蛍光体を用いた発光装置。
【請求項19】
請求項17に記載の黄色蛍光体を用いた白色LED。

【公開番号】特開2012−177031(P2012−177031A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40538(P2011−40538)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】