説明

黒原着複合ステープル繊維及びその製造方法

【課題】複合繊維を構成する成分間の剥離・割繊が不織布製造工程において実質上生じず、後の水流噴射処理によって初めて生ずる黒原着複合ステープル繊維を提供する。
【解決手段】高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)の両方、もしくはどちらか一方にカーボンブラックを含有し、かつ(A)と(B)とが繊維横断面において交互に配置された貼り合せ型の以下をすべて満足する複合ステープル繊維。(1)(B)は(A)によって完全に被覆されており(B)と被覆部以外の(A)は実質的に扁平形状を呈すること(2)(B)の長辺方向の先端部は形状が円弧状で繊維表面から内側0.05〜1.5μmに位置すること(3)(A)と(B)の質量比が9/1〜1/9であること(4)(A)及び(B)の短辺方向の厚さ(D)がそれぞれ3μm以下であり両成分の長辺方向の長さ(L)と短辺方向の厚さ(D)との比(L/D)がそれぞれ2以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な着色効果を発現し、かつ不織布製造工程において複合繊維を構成する成分間の剥離・割繊が実質上生じず、後の水流噴射処理等の物理的分割処理によって初めて複合成分間での剥離、割繊が生ずる黒原着複合ステープル繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単繊維繊度が0.1dtex以下の極細繊維を製造するためには、糸切れが起こり易くなることから、従来より複合紡糸手段が用いられている。極細繊維を形成するための複合繊維の断面形態は、(1)二成分が高度に分割相互配列した多層型複合繊維や花弁型複合繊維などの複合形態と、(2)一成分が他成分中に高度に分散した海島型複合繊維とがある。前者の複合繊維においては、その成分相互の剥離によって鋭利な縁のある極細繊維や、異型の極細繊維が形成され、それぞれの形態を利用した種々の用途展開がなされている。
【0003】
このような複合繊維としては、主としてナイロン6とポリエチレンテレフタレート(PET)との複合繊維の例が多いが、その両成分を剥離・分割して極細繊維を得るためには、(1)ベンジルアルコールのような薬液でナイロン成分を収縮させて、その力で相互に分離させる方法、(2)アルカリ水溶液でPETを一部溶解させて相互に分離する方法、(3)何度も湿熱処理と乾燥処理を繰り返して剥離する方法、(4)物理的に擦過したり、もんだりして強制的に分離させる方法、および(5)これらの組合せがある。
【0004】
上記した複合繊維を黒色糸とする際にはカーボンブラック等の着色剤を使用し、後加工で糸を染めるという工程を追加して製造を行っていた。これらの処理を行う際には染色工程を追加する必要があり、その問題点として工程の複雑化および、多量の薬剤とエネルギーの使用、また染色排水処理が必要になる等製造コストのアップ及び、環境への影響についても配慮する必要があった。また、染めるという作業では、繊維の結晶部分には染料分子が進入することができなかったため、非晶部分にのみ染料分子が進入し着色していた。そのため、色落ちしやすい又はより均一に着色できない等の問題点があった。
【0005】
これらの対策として、上記した複合繊維にカーボンブラックを含有させる方法も種々検討されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。これらカーボンブラックを含有させた複合繊維からは十分な着色効果を有する極細繊維が得られることが開示されている。
【0006】
しかし、これら特許文献1、2のカーボンブラックを含有させた複合繊維は、濃色効果は得られるが、それらの複合繊維を抽出あるいは分割剥離により細繊度化した場合、断面形状に由来してギラツキや色むらが目立ちやすいなどの問題があった。
【0007】
更に、これら特許文献1、2のカーボンブラックを含有させた複合繊維を原料として不織布や紡績糸を製造する際に、カード工程で複合繊維の各成分間で剥離が生じ、繊度が細化され、ネップが発生するという問題があった。また、繊維を交絡するためにニードルパンチを行うと、損傷により剥離が生じ、単繊維が交絡されにくく、不織布の剥離強度が向上しないという問題点があった。その対策として、従来貼り合せ型の複合繊維が提案されていたがこの形状の複合繊維において、カーボンブラックを含有させた方法はいまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−088562号公報
【特許文献2】特開2008−184725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、十分な着色効果を発現し、かつ不織布製造工程において複合繊維を構成する成分間の剥離・割繊が実質上生じず、後の水流噴射処理等の物理的分割処理によって初めて複合成分間での剥離、割繊が生ずる黒原着複合ステープル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)からなる複合繊維において、重合体成分(A)及び(B)の両方もしくはどちらか一方にカーボンブラックが所定量含有し、さらに両成分のポリマーを用いて溶融紡糸された貼り合せ型の複合形態を有する複合繊維が十分な着色効果を発現し、かつ不織布製造工程において複合繊維を構成する成分間の剥離・割繊が実質上生じず、後の水流噴射処理等の物理的分割処理によって初めて複合成分間での剥離、割繊が生じることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は 高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)の両方、もしくはどちらか一方に平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックが0.1〜10質量%含有し、かつ高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)とが繊維横断面において交互に配置された貼り合せ型の複合形態を有するステープル繊維であって、以下(1)〜(4)をすべて満足する複合ステープル繊維である。
(1)高分子重合体成分(B)は高分子重合体成分(A)によって完全に被覆されており、かつ高分子重合体成分(B)と被覆部以外の高分子重合体成分(A)は実質的に扁平形状を呈すること、
(2)高分子重合体成分(B)の長辺方向の先端部は横断面における形状が円弧状で、繊維表面から内側0.05〜1.5μmに位置すること、
(3)高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)の質量比が90/10〜10/90であること、
(4)前記繊維横断面において、高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)の短辺方向の厚さ(D)がそれぞれ3μm以下であり、高分子重合体成分(A)、(B)両成分における長辺方向の長さ(L)と短辺方向の厚さ(D)との比(L/D)がそれぞれ2以上であること。
【0012】
さらに本発明は、好ましくは高分子重合体成分(A)がポリエステルであり、高分子重合体成分(B)が繊維形成性のポリオレフィン系重合体またはポリアミド系重合体である上記の複合ステープル繊維である。
【0013】
そして本発明は上記の複合ステープル繊維を20質量%以上含む繊維構造体であって、該複合ステープル繊維の高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)との界面が少なくとも一部剥離して、高分子重合体成分(A)の長辺方向の端部に横断面における形状が突起状の鋭角なエッジ構造が形成され、かつ不織布を構成する繊維同士が絡合されてなる繊維構造体であり、好ましくは前記繊維構造体が乾式不織布または湿式不織布である繊維構造体であり、より好ましくは織物または編物と交絡一体化されてなる繊維構造体であり、さらにはワイパー材あるいは人工皮革用の基布である繊維構造体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、着色性に優れた複合ステープル繊維を得ることができ、さらに該繊維を割繊化することにより扁平な単糸を得ることができ、そして該繊維を含む織物、編物、不織布等にした場合には表面積の大きな極細繊維構造体を得ることができ、該極細繊維構造体は吸音性の面でも優れた効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の複合ステープル繊維は、高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)とが繊維横断面において交互に配置された貼り合せ型の複合形態を有するステープル繊維であり、例えば図1に示すように高分子重合体成分(B)が完全に高分子重合体成分(A)に覆われ、繊維横断面の外周全体に高分子重合体成分(A)が存在していることが重要である。高分子重合体成分(A)によって高分子重合体成分(B)が覆われていない場合には、例えば不織布製造工程等におけるカード処理やニードルパンチ処理において、繊維の長手方向に複合成分の界面で剥離・割繊が生じてしまう。
【0016】
本発明の複合ステープル繊維において、高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)の質量比は90/10〜10/90とする必要があり、85/15〜15/85とすることが好ましい。高分子重合体成分(B)の質量比が10%未満の場合には、紡糸パック内で成分(A)と成分(B)とを交互に配列させ目的とする断面を形成することが困難となり、高分子重合体成分(B)のみにカーボンブラックを添加した場合には着色効果が発現しない。逆に高分子重合体成分(B)の質量比が90%を超える場合、高分子重合体成分(A)の量が少ないために目的とする断面が得られにくくなると同時に、繊維表面全体を覆うことが困難となる。
【0017】
また本発明において、高分子重合体成分(B)と被覆部以外の高分子重合体成分(A)は繊維横断面で見て実質的に扁平形状を呈しており、しかも繊維横断面において、高分子重合体成分(B)の長辺方向の先端部は横断面における形状が円弧状で、繊維表面から内側0.05〜1.5μmに位置することが重要である。高分子重合体成分(B)の長辺方向の先端部が0.05μmより薄い場合には、カード工程やニードルパンチ工程において被覆部が擦過されて高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)とが剥離・割繊してしまい、不織布の製造工程性が悪くなる。一方、1.5μmを超えると、カード工程やニードルパンチ工程では剥離・割繊は十分に阻止できるが、後の水流絡合処理などによって剥離・割繊させて極細化する際に割繊しにくくなる。
【0018】
本発明においては、複合ステープル繊維を含む不織布などの繊維構造体に水流絡合等の物理的手段で割繊処理を施すことによって、高分子重合体成分(A)からなる極細繊維と高分子重合体成分(B)からなる極細繊維が形成されるが、例えばワイパーとした場合の性能や人工皮革とした場合の風合いや発色性を考慮すると、高分子重合体成分(A)、(B)とも扁平断面となっていることが重要である。
例えば、本発明の複合ステープル繊維を用いて高品質の人工皮革を得るにあたり、スエード調やヌバック調などの起毛品では、短繊維の太さが細いほど手触り感が良好であり、具体的には0.1dtexよりも細い繊維、すなわち繊維径約3μmよりも細い繊維を使用することが好ましい。したがって、複合ステープル繊維を分割処理後の高分子重合体成分(A)と(B)のそれぞれからなる極細扁平繊維の単繊維は、図2及び図3に示した短辺方向の厚さ(D)が3μm以下であることが重要である。3μmより厚い場合は、手触り感が悪くなる場合がある。
【0019】
さらに本発明の繊維は、発色性が良好であることが重要であり、そのためには図2及び図3に示した、分割後に形成された扁平極細繊維の長辺方向の長さ(L)と短辺方向の厚さ(D)との比(L/D)がそれぞれ2以上であることが重要である。
さらに分割後の扁平極細繊維の短辺方向の厚さ(D)が薄いほど手触り感が良好で、L/Dも高い方が染色による発色性もよいが、厚さ(D)が薄くて繊度が小さくなりすぎても発色性が向上しなくなる。そこで、手触り感がよく、発色性を良くするためには分割後の各扁平極細繊維の単繊維繊度は0.02dtex以上であることが好ましい。単繊維繊度の上限は極細繊維としての効果を発揮できる範囲であればよく、特に限定されないが、0.6dtex以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の複合ステープル繊維の分割・割繊は、主に高圧水流処理、バフィングなどの物理的手段によって行われるが、この分割・割繊は、横断面における高分子重合体成分(B)の長辺方向の両先端の略円弧状になっている頂点、即ち高分子重合体成分(A)からなる被覆部の最も薄い箇所から発生しやすい。そして割繊によって形成される高分子重合体成分(A)の断面は、図2に示すようにアルファベットの大文字の「I」の字のような形態を呈しており、その長辺方向のそれぞれの両端部には先細形状を有する2個の突起構造が長辺方向とほぼ直交(60〜120°)する方向に伸びて形成されている。この先細状の突起構造は、高分子重合体成分(A)からなる被覆部の厚さが最も薄い箇所で割繊された被覆の残部に由来する構造である。
【0021】
本発明においては、この先細状の突起構造が鋭角エッジとして機能し、例えばワイパーとした場合に鋭角エッジ構造によって形成された高分子重合体成分(A)からなる扁平極細繊維と高分子重合体成分(B)からなる扁平極細繊維との繊維間空隙に汚れが取り込まれることでさらに拭き取り性が向上するものである。
【0022】
さらに本発明の複合ステープル繊維において、高分子重合体成分(A)および高分子重合体成分(B)の両方もしくはどちらか一方に平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックを0.1〜10質量%含有することが重要である。カーボンブラックの平均1次粒径が5nm未満の場合は充分な濃色性が得られないという問題があり、50nmを超えると場合はカーボンブラックが均一に分散されず、色むらが発現するという問題がある。またカーボンブラックの含有量が0.1質量%未満の場合、十分な「色合い」や「ツヤ」を呈することが困難となり、逆に10質量%を超えると紡糸性の悪化や繊維強度の低下が生じる。繊維の耐光性を向上させる点からはカーボンブラックの含有量は1〜10質量%であることが好ましい。この範囲であると、カーボンブラックが紫外線を吸収しポリマーの劣化を防ぐ効果があり、経時的な強度低下を防止できる相乗的な効果を発現することができる。
【0023】
次に本発明の複合ステープル繊維の製造方法について以下説明する。
本発明においては、高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)とをそれぞれ別々の溶融押出機で溶融し、これを常法により交互に配列させた状態で紡糸口金に導き吐出させるものであるが、特に紡糸パックの内部において高分子重合体成分(B)と紡糸パック内の壁面とが接触する部分において、高分子重合体成分(B)の表面張力によりその端部が丸みをおび、その隙間へ高分子重合体成分(A)が流れ込むことにより、高分子重合体成分(A)によって繊維断面の外周全体が被覆された形態の本発明の複合ステープル繊維が得られるものである。
紡糸口金から吐出された後は、従来公知の複合紡糸繊維の製造技術により、延伸、捲縮、乾燥、カットなどの工程を経て本発明の複合ステープル繊維とすることができる。
【0024】
本発明においては、次のような高分子重合体の中から、その目的、用途に応じて高分子重合体成分(A)と(B)を選ぶことができる。その例としてはポリエチレンテレフタレート系やポリブチレンテレフタレート系などのポリエステル系重合体、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系重合体、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系重合体、その他ポリスチレン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、エチレンービニルアルコール系重合体などを挙げることができ、各成分には1種類、または2種類以上が用いられる。
【0025】
ポリエチレンテレフタレート系重合体およびポリブチレンテレフタレート系重合体は、必要に応じて他のジカルボン酸成分、オキシカルボン酸成分、他のジオール成分の1種または2種以上を共重合単位として有していても良い。その場合には他のカルボン酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸またはそれらのエステル形成誘導体;5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)などの金属スルホネート基含有カルボン酸誘導体;シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体を挙げることができる。またオキシカルボン酸成分の例としては、p−オキシ安息香酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸またはそれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。ジオール成分としてはジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール;1,4ビス(βーオキシエトキシ)ベンゼン、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコールなどを挙げることができる。
【0026】
本発明の複合ステープル繊維の複合断面構造としては、用途、性能に応じて多層型、中空多層型、花弁型、中空花弁型にすることができるが、ワイピング用途及び人工皮革用途においては、高分子重合体成分(A)と(B)とが交互に積層した多層型の貼り合せ型複合断面形態の繊維とすることが好ましい。また、丸型断面に限らず異型断面繊維であっても差し支えない。
【0027】
本発明の複合ステープル繊維の単繊維繊度は特に限定されず、例えば0.5〜30dtexの範囲で用途に応じて任意に選ぶことができる。またカット長もその用途により1〜20mmの範囲で任意に選ぶことができる。
【0028】
さらに本発明の複合ステープル繊維には、必要に応じて各種添加剤を配合し使用することができる。例えば触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤、光沢改良剤、制電剤、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤、無機微粒子などが含まれていてもよい。また添加剤の配合は高分子重合体成分(A)、(B)どちらか一方であっても良いし、または両方であってもよい。
【0029】
次に本発明の複合ステープル繊維を含む繊維構造体の製造方法について説明する。基本的には用途毎に求められる物性に応じて各種の最適な製造方法を採用すればよいが、例えば複合ステープル繊維を20質量%以上と他の繊維とからなる原綿を用い、これをカード処理して得られるウェブをウォータージェットにて割繊、絡合させることによって繊維構造体を得ることができる。また複合ステープル繊維を20質量%以上用いてカード処理してできたウェブを、ニードルパンチ処理して絡合させた後にバフィングなどの物理的方法により割繊させて繊維構造体を得ることもできる。
【0030】
また本発明の複合ステープル繊維を20質量%以上含む紙料を用いて抄造することによってシート状繊維構造体を得、これをウォータージェットによって割繊、絡合させることによって繊維構造体を得ることができ、さらにシート状繊維構造体をニードルパンチ処理して絡合させた後に、バフィングなどの物理的方法により割繊させて繊維集合体を得ることもできる。また、複合ステープル繊維をあらかじめ物理的方法により割繊させた紙料を20質量%以上用いて抄造することによっても繊維構造物を製造することができる。
【0031】
繊維構造物の複合ステープル繊維含有量が20質量%未満の場合には、分割後の高分子重合体成分(A)からなる極細扁平繊維の鋭角エッジ断面による効果が発現しにくく、例えばワイパーとしての拭き取り性能が十分ではなく、またシート状構造物の場合、扁平断面による光沢が現れにくくなる。
【0032】
本発明の複合ステープル繊維と混ぜて使用する他の繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維などの合成繊維、またパルプ、絹、麻などの天然繊維を選ぶことができる。また、2種類以上の繊維を用いてもよい。
【0033】
本発明においては、さらに複合ステープル繊維を含む各種の繊維構造物を織物、編物、などの他の繊維構造体に積層・交絡させることもできる。また交絡された後の繊維構造物に対して物理的処理を施して複合ステープル繊維を割繊させることもできる。
【0034】
本発明は、複合ステープル繊維の割繊処理方法として、水流絡合処理やバフィング処理などを採用した場合に最大の効果を発現するものであるが、高分子重合体成分(A)がポリエステルである場合はアルカリ減量処理で分割処理を行うことを妨げるものではない。
【0035】
上記繊維構造体は、種々の用途に使用することができ、例えば繊維構造体をそのままで、または必要に応じて繊維構造体に各種の樹脂を含浸させてワイパーとして使用することもできる。
【0036】
さらには、繊維構造体を目的に応じた方法により加工して、人工皮革を得ることが可能である。例えばカード処理、ニードルパンチ処理後に水酸化ナトリウム水溶液によるアルカリ減量などの化学的な処理方法によって割繊させて得られる繊維構造体にポリウレタン樹脂を含浸させて人工皮革を得ることもできる。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。
【0038】
[繊度の測定方法]
30mmにカットした単糸30本のサンプルを5set準備し、各サンプル(5set)の重量をそれぞれ測定する(計2回実施する)。
繊度(dtex)=重量(g)/(本数30本×繊維長30mm)×10000m
【0039】
[断面形状の判定]
マイクロスコープを用い断面形状を観察し、判定する。
○ : 成分(B)が成分(A)によって完全に被覆されており、また成分(B)と被覆部以外の成分(A)が実質的に偏平形状をしている。
△ : 成分(B)と被覆部以外の成分(A)が実質的に偏平形状をしているものの、成分(B)が成分(A)によって完全に被覆されていない。また成分(A)及び成分(B)が一部剥離している。
× : 成分(B)と被覆部以外の成分(A)が偏平形状をいない、またどちらかの成分が消失している。
【0040】
[紡糸性の判定]
下記の基準に基づいて、紡糸性の評価を実施(断糸・捲付の評価は、紡糸を4時間実施した時の結果)。
○ : ノズルからの紡糸後捲き取ることができ、断糸・捲付等のトラブルが発生しない。
△ : ノズルからの紡糸後捲き取ることができるが、断糸・捲付等のトラブルが多発する。
× : ノズルから紡糸できない、または紡糸できても巻き取ることができず、サンプル採取を行うことができない。
【0041】
[色むらの判定]
カーボンブラックの分散性の指標として、色むらがあるかどうかを目視で判定する。
○ : 色むらが無い。
× : 色むらがある。
【0042】
[実施例1〜2]
(1)高分子重合体成分(A)としてポリエチレンテレフタレート(株式会社クラレ製「RB-865」)、高分子重合体成分(B)としてポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y-2005GP」)を用い、高分子重合体成分(A)側のみにカーボンブラック(大日精化工業社製「PESM20216−BLACK20%」)を0.5質量%添加し、高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)の質量比が72/28(実施例1)、70/30(実施例2)の条件にて(紡糸温度300℃)にて紡糸を行った。
(2)結果を表1に示す。紡糸性は良好であり、断面形状、色ムラも問題なく、L値が29(実施例1)、30(実施例2)の原綿を採取することができた。
【0043】
[実施例3〜5]
(1)高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)のポリマー組成および質量比は実施例1と同一の条件とし、高分子重合体成分(A)と(B)へのカーボンブラックの添加濃度をともに0.5質量%(実施例3)、高分子重合体成分(A)と(B)のカーボンブラック濃度をともに1.0質量%(実施例4)、高分子重合体成分(A)と(B)のカーボンブラック濃度をともに5.0質量%(実施例5)とし、実施例1と同じ条件にて紡糸を行った。なお、高分子重合体(B)側のカーボンブラックは、DIC株式会社製「Spundye PGBLACK7280 BLACK30%」を使用した。
(2)結果を表1に示す。紡糸性は良好であり、断面形状、色ムラも問題なく、L値が26(実施例3)、21(実施例4)、15(実施例5)の原綿を採取することができた。
【0044】
[実施例6]
(1)高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)のポリマー組成および質量比は実施例1と同一の条件とし、高分子重合体成分(B)側のみにカーボンブラックを0.5質量%添加し、実施例1と同じ条件にて紡糸を行った。
(2)結果を表1に示す。紡糸性は良好であり、断面形状、色ムラも問題なく、L値が32の原綿を採取することができた。
【0045】
[比較例1]
高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)のポリマー組成および質量比は実施例1と同一の条件とし、高分子重合体成分(A)と(B)へのカーボンブラックの添加濃度をともに15質量%とし、実施例1同じ条件にて紡糸を行ったが、カーボンブラック含有量が多すぎるため断糸が発生し、安定して原綿を採取することができなかった。
【0046】
[比較例2]
実施例1において、高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)の質量比を91/9とし、高分子重合体成分(B)側のみカーボンブラックを1質量%添加し紡糸を行ったところ、ポリプロピレン側の質量比が少なすぎることもあり、繊維の断面形状において一部ポリプロピレンが消失した断面形状となり、L値が36の発色性に乏しい原綿となった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、着色性に優れた複合ステープル繊維を得ることができ、さらに該繊維を割繊化することにより扁平な単糸を得ることができ、そして該繊維を含む織物、編物、不織布等にした場合には表面積の大きな極細繊維構造体を得ることができ、該極細繊維構造体は吸音性の面でも優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のステープル繊維の横断面の一例を示す断面図。
【図2】複合ステープル繊維を分割処理して掲載された高分子重合体成分(A)からなる偏平極細繊維の断面図。
【図3】複合ステープル繊維を分割処理して掲載された高分子重合体成分(B)からなる偏平極細繊維の断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)の両方、もしくはどちらか一方に平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックが0.1〜10質量%含有し、かつ高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)とが繊維横断面において交互に配置された貼り合せ型の複合形態を有するステープル繊維であって、以下(1)〜(4)をすべて満足する複合ステープル繊維。
(1)高分子重合体成分(B)は高分子重合体成分(A)によって完全に被覆されており、かつ高分子重合体成分(B)と被覆部以外の高分子重合体成分(A)は実質的に扁平形状を呈すること、
(2)高分子重合体成分(B)の長辺方向の先端部は横断面における形状が円弧状で、繊維表面から内側0.05〜1.5μmに位置すること、
(3)高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)の質量比が90/10〜10/90であること、
(4)前記繊維横断面において、高分子重合体成分(A)及び高分子重合体成分(B)の短辺方向の厚さ(D)がそれぞれ3μm以下であり、高分子重合体成分(A)、(B)両成分における長辺方向の長さ(L)と短辺方向の厚さ(D)との比(L/D)がそれぞれ2以上であること。
【請求項2】
高分子重合体成分(A)がポリエステルであり、高分子重合体成分(B)が繊維形成性のポリオレフィン系重合体またはポリアミド系重合体である請求項1に記載の複合ステープル繊維。
【請求項3】
請求項1または2記載の複合ステープル繊維を20質量%以上含む繊維構造体であって、該複合ステープル繊維の高分子重合体成分(A)と高分子重合体成分(B)との界面が少なくとも一部剥離して、高分子重合体成分(A)の長辺方向の端部に横断面における形状が突起状の鋭角なエッジ構造が形成され、かつ不織布を構成する繊維同士が絡合されてなる繊維構造体。
【請求項4】
繊維構造体が乾式不織布または湿式不織布である請求項3記載の繊維構造体。
【請求項5】
織物または編物と交絡一体化されてなる請求項3または4記載の繊維構造体。
【請求項6】
ワイパー材である請求項3〜5のいずれか1項記載の繊維構造体。
【請求項7】
人工皮革用の基布である請求項3〜5のいずれか1項記載の繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−208336(P2011−208336A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80002(P2010−80002)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】