説明

黒色インク組成物、インクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物

【課題】色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を得ることができる黒色インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも水と、式(1)で表される着色剤と、式(2)で表される着色剤と、を含有する黒色インク組成物とする。式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤との配合比は、4:1〜7:1であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を得ることができる黒色インク組成物と、当該黒色インク組成物を収容したインクカートリッジ、並びにこれらを用いたインクジェット記録物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や図形を紙などの記録媒体の表面に記録する方法である。インクジェット記録方法としては圧電素子を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインク液滴を断続的に吐出して記録媒体表面に文字や記号を記録する方法や、ノズルヘッドの吐出部分に近い一部でインク液の一部を急速に加熱して泡を発生させ、その泡による体積膨張でインク液滴を断続的に吐出して、記録媒体表面に文字や記号を記録する方法などが実用化されている。
【0003】
インクジェット記録用のインクとしては、安全性や印字特性の面から各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させたものが一般的であるが、万年筆やボールペンの様な筆記具用インク組成物に比較し、より厳密な条件が要求される。
【0004】
特に、黒色インクにあっては、画像のしまりを向上させるため、所謂ベタ部での高発色性が求められる。
このような背景の中で、画像濃度向上の為に様々な試みがなされている(特許文献1〜5参照)。
【0005】
特に、高Duty部においては発色の飽和つまり、打ち込み量がある一定以上になると印刷物の濃度の増加が観察できなくなることがあり、この場合の到達濃度が低いと発色性の低下につながる。この高Duty部における発色の飽和は、特に光沢紙上に記録した場合において顕著である。
この場合、単に色材濃度を高くする方策では殆ど特性改良を実現できないばかりか、インク中の固形部の増大により印字信頼性・目詰まり復帰性が悪化してしまうという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2000-290552号公報
【特許文献2】特開2000-318300号公報
【特許文献3】特開2002-275380号公報
【特許文献4】特開2003-292808号公報
【特許文献5】特開2006-45538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の黒色インク組成物においては、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を実現できていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を得ることができる黒色インク組成物、インクカートリッジ、インクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、少なくとも水と、特定の着色剤と、補色としての特定の着色剤と、を含有する黒色インク組成物により、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
このような特定の2種の着色剤を含有することによる顕著な効果が達成される理由は、明らかではないが、着色剤の浸透挙動に関連するものであると推察される。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕少なくとも水と、下記式(1)で表される着色剤と、下記式(2)で表される着色剤と、を含有することを特徴とする黒色インク組成物
【化1】

(式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜 R3における前記置換基は独立して、OH 、SO3M 、PO32、CO2M 、NO2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。MはLi又はNaを示す。)
【化2】

(式(2)中、MはLi又はNaを示す。);
〔2〕式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤との配合比が、4:1〜7:1である前記〔1〕に記載の黒色インク組成物;
〔3〕式(1)で表される着色剤の固形分濃度が、前記黒色インク組成物の総重量に対して5〜8重量%である前記〔1〕又は〔2〕に記載の黒色インク組成物;
〔4〕ノニオン系界面活性剤を含有する前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の黒色インク組成物;
〔5〕ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である前記〔4〕に記載の黒色インク組成物;
〔6〕ノニオン系界面活性剤を0.1〜5重量%含有する前記〔4〕又は〔5〕に記載の黒色インク組成物;
〔7〕さらに、浸透促進剤を含有する前記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の黒色インク組成物;
〔8〕浸透促進剤がグリコールエーテル類である前記〔7〕に記載の黒色インク組成物;
〔9〕インク組成物調整直後の20℃におけるpHが7.0〜8.5である前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の黒色インク組成物;
〔10〕pH調整剤として、有機酸及び/又は有機塩基を含有する前記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の黒色インク組成物;
〔11〕前記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載された黒色インク組成物を独立に、または他色のインクと一体的に収容してなるインクカートリッジ;
〔12〕前記〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の黒色インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法;
〔13〕圧電素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法である前記〔12〕に記載のインクジェット記録方法;
〔14〕前記〔12〕又は〔13〕に記載されたインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とする記録物;を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の黒色インク組成物、インクカートリッジ、並びにインクジェット記録物の製造方法によれば、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0013】
本発明の黒色インク組成物は、少なくとも水と、下記式(1)で表される着色剤と、下記式(2)で表される着色剤と、を含有する。
【化3】

(式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜 R3における前記置換基は独立して、OH 、SO3M 、PO32、CO2M 、NO2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。MはLi又はNaを示す。)
【化4】

(式(2)中、MはLi又はNaを示す。)
【0014】
上記黒色インク組成物によれば、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れた記録物を得ることができる。
すなわち、式(1)で表される着色剤は、それ自身では色相が完全にニュートラル、すなわち無彩色ではなく、一般に青味を帯びた色相を有する。本発明においては、式(1)で表される着色剤に式(2)で表される着色剤を補色染料として添加することによって、黒色インク組成物の有する色相を調整することができ、記録物の保存安定性(画像保存性)に優れ、十分な発色濃度が得られる。補色染料として他の染料を使用した場合は色相調整は可能ではあるが、発色性の向上効果は得られずさらにはブロンズ現象を併発する場合もある。
【0015】
さらに上記の置換されたアルキル基は、OH 、SO3M 、PO32、及びCO2M基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアルコキシ基は、OH 、SO3M 、PO32、及びCO2Mからなる群から選ばれる1種以上の基で置換されたC1〜4のアルコキシ基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアミノ基は、OH 、SO3M 、PO32、及びCO2Mからなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基からなる群から選ばれることが好ましい。また、上記の置換基されたフェニル基は、OH 、SO3M 、PO32、CO2M、C1〜4のアルキル基、及び置換されたC1〜4のアルキル基からなる群から選ばれる置換基を1つまたは2つ有するフェニル基からなる群から選ばれることが好ましい。
【0016】
上記式(1)で表される着色剤としては、具体的には、以下の式(1−1)〜(1−7)に示すような着色剤が挙げられる。これらの着色剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
【化5】

【化6】

(式(1−1)〜(1−7)中、Mは、Li又はNaを示す。ただし、全てのMがNaとなることはない。)
【0018】
上記式(1)又は(1−1)〜(1−7)で表される化合物は、好ましい方法を用いて適宜合成することができるが、例えば各化合物において3つのアゾ基によって結合されている4つの対応する各構造を有するビルディングブロックをアゾカップリングによって結合することによって合成することができる。
【0019】
式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤との配合比(重量比)は、特に制限されないが、4:1〜7:1であることが好ましい。
式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤のどちらかの配合比が多くなりすぎると、色相がニュートラルでなくなる場合がある。
【0020】
式(1)で表される着色剤の固形分濃度は、上記黒色インク組成物の総重量に対して5〜8重量%であることが好ましい。
このような固形分濃度とすることにより、光沢紙上での発色性と目詰まり性などの信頼性を高いレベルで両立することができる。これは、光沢紙上においては光沢紙表面近傍に残る着色剤のみが発色性を左右するため、固形分濃度を増量することによる発色性向上効果には一定の飽和点があるが、式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤とを組み合わせることにより、当該飽和点を引き上げることが可能となるためである。
【0021】
上記黒色インク組成物は、必要に応じ、界面活性剤、浸透促進剤、その他の添加剤を含んでもよい。
【0022】
(界面活性剤)
上記黒色インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
前記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤が挙げられるが、これらの中でも、ノニオン系界面活性剤が、インクの速やかな定着性(浸透性)を得ると同時に、1ドットの真円度を保つのに効果的な添加剤であるため、好ましい。
【0023】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104(以上、エアープロダクツ社製)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学工業(株)製)等が挙げられる。
黒色インク組成物中における前記ノニオン系界面活性剤の添加量は、0. 1〜5重量%が好ましく、0. 5〜2重量%がより好ましい。黒色インク組成物中における前記ノニオン系界面活性剤の添加量が、0.1重量%以上であれば、記録した場合に、被記録物に対する顕著な浸透性を得ることができ、5重量%以下であれば、画像のにじみを良好なまま保つことができる。
【0024】
(浸透促進剤)
上記黒色インク組成物は、浸透促進剤を含有してもよい。
前記浸透促進剤としては、特に限定されないが、中でもグリコールエーテル類が好ましい。
前記グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
上記黒色インク組成物中の前記浸透促進剤の添加量が3重量%以上であれば、ベタ印刷を行った場合の黒色色材のブリードを防ぐことができ、30重量%以下であれば、これらグリコールエーテル類を油状分離させることなく保つことができる。
【0025】
(その他の添加剤)
上記黒色インク組成物は、pH調整剤を含有してもよい。
前記pH調整剤としては、特に制限されず、種々の化合物を使用することができるが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;アンモニア、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリ−iso−プロパノールアミンなどの有機塩基;アジピン酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸等が挙げられる。前記pH調整剤としては、上記の中でも、有機酸及び/又は有機塩基が好ましい。
特に有機酸と有機塩基とを組み合わせて使用する場合には、無機酸と無機塩基、無機酸と有機塩基、有機酸と無機塩基の組合せよりもpH緩衝能力が大きい。このため、有機酸と有機塩基とを組み合わせて使用した場合には、よりpH変動抑制効果が高く、所望のpHに設定しやすいという効果を奏する。
【0026】
上記黒色インク組成物は、保湿剤を含有してもよい。
前記保湿剤としては、水溶性有機溶媒や糖類等が挙げられるが、保湿効果の点から水溶性有機溶媒が好ましい。
前記水溶性有機溶剤とは、溶質を溶解する能力を持つ媒体を指している。具体的には、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−アルカンジオール等の多価アルコール類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピレンアルコール、n−ブチルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトニルアセトン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類;フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール、グリセリン等が挙げられる。中でも、トリエチレングリコール、グリセリンや1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0027】
上記黒色インク組成物には、酸化防止剤・紫外線吸収剤を添加することができる。
前記酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、特に制限されず、種々の化合物を使用することができるが、例えば、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等が挙げられる。
【0028】
上記黒色インク組成物には、防腐剤・防かび剤を添加することができる。
前記防腐剤・防かび剤としては、特に限定されず、種々の化合物を使用することができるが、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(アーチケミカルズ社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0029】
上記黒色インク組成物に含有される主溶媒は水である。
この水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水などを用いることができる。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0030】
上記黒色インク組成物は、インク組成物調整直後の20℃におけるpHが7.0〜8.5であることが好ましい。より好ましいpHの範囲は、7.5〜8.0である。
前記pHは、必要に応じて、上記pH調整剤を添加して調整することができる。
20℃におけるインク組成物のpHが低すぎると、インクジェットプリンタのプリントヘッドの共析メッキが剥離する場合があり、pHが高すぎると、インク接触部材へのアタック性が強くなったり、インクの安定性の観点で劣る。20℃における黒色インク組成物のpHを上記好適な範囲とすることにより、上記のような弊害がなく、かつ、黒色インク組成物の吐出特性の安定化及び保存安定性の向上が見られる。
【0031】
(インクカートリッジ)
本発明のインクカートリッジは、上記各黒色インク組成物を一体的に、仕切を有する一つの容器(カートリッジ)に収容して得ることもできるし、上記各黒色インク組成物を独立に、別々の容器(カートリッジ)に収容して得ることもできる。
前記容器としては、インクカートリッジとして一般に使用されているものが使用でき、中でもインクジェットプリンタ用インクカートリッジであることが好ましい。
【0032】
(インクジェット記録物の製造方法)
上記黒色インク組成物はペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インクジェット記録用インク組成物としてさらに好適に使用できる。
インクジェット記録物の製造方法としては、上記黒色インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させて記録を行う方法であって、前記液滴の前記記録媒体への打ち込み量が1.5〜2.2mg/cm2である場合において特に効果を奏する。具体例を以下に説明する。
【0033】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0034】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0035】
第三の方法は圧電素子(ピエゾ素子)を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、圧電素子の機械的変形によりインク滴を噴射・記録させる方式である。
【0036】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱起泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0037】
以上のいずれの方式も上記インクジェット記録方法に使用することができ、それぞれの方式のインクジェットカートリッジに充填することができる。
【0038】
(記録媒体)
また、本明細書における記録媒体とは、例えば、紙(ゼロックスP(商品名:富士ゼロックス株式会社製)、Xerox 4024(商品名:Xerox Co.(米国))、写真用紙クリスピア<高光沢>(商品名:セイコーエプソン株式会社製))等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0039】
(記録物)
上記インクジェット記録方法によって記録が行われて、記録物が得られる。
この記録物は、上記黒色インク組成物を用いることにより、色相及び光沢紙上における高Duty部の発色性に優れる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定れるものではない。当業者は、以下に示す実施例のみならず様々な変更を加えて実施するとが可能であり、かかる変更も本特許請求の範囲に包含される。
【0041】
[実施例1〜4及び比較例1〜3]
表1に示す配合割合で各成分を混合して溶解させ、孔径0.8μmのメンブランフィルターにて加圧濾過を行って、実施例1〜4及び比較例1〜3の黒色インク組成物を調製した。表1において、式(1−1)、式(2)の塩は、Li:Na=8:2(重量比)であるものを使用した。
また、式(2)の着色剤に代えて、比較例1ではC.I. Direct Yellow 86を、比較例2ではC.I. Direct Red227を使用して黒色インク組成物を調整した。
【0042】
【表1】

【0043】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜3に記載の黒色インク組成物を、インクジェットプリンタPM−A700(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、これの専用カートリッジ(ブラック)に充填して、1.5〜2.2mg/cm2の打ち込み量になるようにインクジェット専用記録媒体「写真用紙<光沢>:型番KA420PSK(セイコーエプソン株式会社製)、にプリンタドライバ上でモノクロ印刷設定を指定してベタ印字した。
【0044】
《発色性評価》
それぞれの印刷物のOD値を、濃度計(Spectroino:Gretag社製)を用いて測定した。
発色性の判定基準は以下のように定めた。
A:OD値2.3以上
B:OD値1.7以上2.3未満
C:OD値1.1以上1.7未満
D:OD値1.1未満
【0045】
《色相評価》
色相の評価は、目視により、無彩色に近いかどうかを評価した。評価は、最も色相を感じないものを「最も好ましい色相」、ごくわずかに色味が感じられるものを「好ましい色相」とし、赤、緑、青の色が明らかに感じられるものをそれぞれ「赤味」、「緑味」、「青味」と表現した。
【0046】
得られた結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、実施例の黒色インク組成物を用いて記録した場合においては、発色性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と、下記式(1)で表される着色剤と、下記式(2)で表される着色剤と、を含有することを特徴とする黒色インク組成物。
【化1】

(式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜 R3における前記置換基は独立して、OH 、SO3M 、PO32、CO2M 、NO2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。MはLi又はNaを示す。)
【化2】

(式(2)中、MはLi又はNaを示す。)
【請求項2】
式(1)で表される着色剤と式(2)で表される着色剤との配合比が、4:1〜7:1である請求項1に記載の黒色インク組成物。
【請求項3】
式(1)で表される着色剤の固形分濃度が、前記黒色インク組成物の総重量に対して5〜8重量%である請求項1又は2に記載の黒色インク組成物。
【請求項4】
ノニオン系界面活性剤を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の黒色インク組成物。
【請求項5】
ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である請求項4に記載の黒色インク組成物。
【請求項6】
ノニオン系界面活性剤を0.1〜5重量%含有する請求項4又は5に記載の黒色インク組成物。
【請求項7】
さらに、浸透促進剤を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の黒色インク組成物。
【請求項8】
浸透促進剤がグリコールエーテル類である請求項7に記載の黒色インク組成物。
【請求項9】
インク組成物調整直後の20℃におけるpHが7.0〜8.5である請求項1〜8のいずれか一項に記載の黒色インク組成物。
【請求項10】
pH調整剤として、有機酸及び/又は有機塩基を含有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の黒色インク組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載された黒色インク組成物を独立に、または他色のインクと一体的に収容してなるインクカートリッジ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の黒色インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項13】
圧電素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法である請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載されたインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2008−195794(P2008−195794A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30990(P2007−30990)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】