説明

黒色極細繊維、その製造方法及びそれに用いる海島型複合繊維

【課題】実用に耐えうる強度を持ち、濃い黒色を有する極細繊維及び該繊維を低コストで製造する手段を提供する。
【解決手段】島成分として平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックを1〜20重量%含むTg60℃以上の繊維形成性ポリマーを用い、海成分として該島成分よりも易溶解性のポリマーで海成分と島成分との溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0であるポリマーを用いて複合紡糸し、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上である海島型複合繊維とした後、該複合繊維の海成分を溶解除去して、直径10〜1000nm、ファイバーの強度が1.0〜6.0cN/dtex、L値が10〜40の黒色極細繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックにより黒色に着色された極細繊維及びその製造方法、並びに該極細繊維製造用の複合繊維に関するものである。さらに詳しくは、実用に耐えうる強度を持ち、濃色に着色された黒色極細繊維及びその製造方法並びに該極細繊維の製造に用いる海島型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート)は、耐熱性、耐薬品性などに優れており、合成繊維、ビデオやオーディオ用の2軸延伸テープ、そして食品容器としての透明ボトルなどに広く用いられている。合成繊維では、衣料繊維用途、そしてタイヤコードなどの産業資材用途がある。特に衣料繊維用途では、ウオッシュ・アンド・ウェア(W&W)性、形状記憶安定性などに優れるため、大きいシェアを占めている。しかし、ポリエステル繊維は屈折率が非常に高いため、繊維表面での表面反射率が高く、染色性が良好とはいえないという問題点があった。
【0003】
ポリエステルの染色性改良の目的で、ポリエステルポリマーの改質により染色性を向上させる方法は数多く提案されている。その1つに表面反射率を低下させるために、繊維表面に極細凹凸を形成させる技術がある。例えば特許文献1にはポリエステル繊維に粒子径10ミクロン〜150ミクロンのシリカを含有せしめ、後に減量加工で繊維表面に凹凸を形成させる技術が提案されている。しかし、繊維径の非常に小さい極細繊維(微細繊維とも呼ばれる)の場合は、繊維径に比べて粒子径が大きくなることが多く、また、粒径が繊維径よりも小さい場合でも粒子の凝集などによって紡糸工程が不安定となる可能性が高いため、実用性に乏しい。
【0004】
また、繊維が細くなるほど表面積が大きくなるため、濃色の極細繊維を得るためには、染料あるいは顔料の極細繊維に対する含有率を通常繊度の繊維と比べて相当大きくする必要がある。
しかしながら、極細繊維において上記のように染料又は顔料の含有率を増やすと、1dtex以上の繊度を有する繊維と比べて強度が極端に低下し、用途によっては実用に十分耐えられないという問題がある。例えば、島成分のポリエチレンテレフタレートにカーボンブラックを1%添加した海島型複合繊維が特許文献2に提案されているが、この繊維はポリエステル繊維の発色が十分ではなかった。
【0005】
また、特許文献3には、カーボンブラックの含有率が多く濃色性であるにもかかわらず高い強度を有する原着極細繊維として、ナイロン6又はポリエチレンテレフタレートを島成分としポリエチレンを海成分とする海島型複合繊維をポリエチレンの溶媒である熱トルエンで処理して海成分を除去したものが提案されているが、これは島成分の分散に限りがある上、製造コストが高くなるという問題がさけられない。
【0006】
【特許文献1】特公昭45−39055号公報
【特許文献2】特公昭48−11925号公報
【特許文献3】特開2002−146624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その主な目的は、実用に耐えうる強度を持ち、濃い黒色を有する極細繊維並びにそれを低コストで製造する方法を提供することにあり、さらには、このような極細繊維を製造するための海島型複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、海成分及び島成分として特定のポリマーの組合せからなり、且つ海成分と島成分の複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上である海島型複合繊維であって、該島成分に平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックが島成分重量に対して1〜20重量%含有されている海島型複合繊維から海成分を溶解除去することにより、直径10〜1000nmのファイバーの強度が1.0〜6.0cN/dtex、L値が10〜40の実用に耐えうる強度を持ち、且つ、濃い黒色の極細繊維を提供し得ることを見出し本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、以下の黒色極細繊維及びその製造方法、さらには黒色極細繊維製造用の海島型複合繊維が提供される。
(1)ガラス転移点(Tg)が60℃以上の繊維形成性ポリマーを島成分とし、該島成分よりも易溶解性のポリマーを海成分とする海島型複合構造を有し、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上であり、且つ島成分には平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックが島成分重量に対して1〜20重量%含有されている海島型複合繊維から、海成分を溶解除去して得られる、直径10〜1000nmの極細繊維であって、強度が1.0〜6.0cN/dtex、L値が10〜40であることを特徴とする黒色極細繊維。
(2)海島型複合繊維を形成する島成分が、芳香族ポリエステル系ポリマーであることを特徴とする上記(1)の黒色極細繊維。
(3)複合繊維を形成する海成分が、5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)又は(2)の黒色極細繊維。
(4)島成分として平均1次粒径が5〜50nmのカーボンブラックが島成分重量に対して1〜20重量%含有されているガラス転移点(Tg)60℃以上の繊維形成性ポリマーを用い、海成分として該島成分よりも易溶解性のポリマーであって海成分と島成分との溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0であるポリマーを用いて複合紡糸し、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上である海島型複合繊維を形成した後、該複合繊維の海成分を溶解除去して、極細繊維とすることを特徴とする黒色極細繊維の製造方法。
(5)海島型複合繊維を形成する島成分が、芳香族ポリエステル系ポリマーであることを特徴とする上記(4)の黒色極細繊維の製造方法。
(6)複合繊維を形成する海成分として5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを用いることを特徴とする上記(4)又は(5)の黒色極細繊維の製造方法。
(7)複合繊維の海成分を水酸化ナトリウム水溶液で処理して溶解除去することを特徴とする上記(6)の黒色極細繊維の製造方法。
(8) 島成分が平均1次粒径5〜50nmのカーボンブラックを島成分重量に対して1〜20重量%含有するガラス転移点60℃以上の芳香族ポリエステル系ポリマーからなり、海成分が5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートからなり、且つ海成分と島成分の溶融紡糸温度における溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0の範囲にあるポリマーで構成された海島型複合繊維であって、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95であり、且つ島数が100以上であることを特徴とする黒色極細繊維製造用の海島型複合繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の海島型複合繊維の海成分を溶解除去することにより、容易に実用に耐えうる十分な強度のある、濃い黒色の極細繊度の単糸(極細繊維)からなるハイマルチフィラメント糸が提供される。また、本発明の方法によれば、海島型複合繊維から容易にカーボンブラックの分散均一性に優れた黒色極細繊維からなるハイマルチフィラメント糸を、生産性よく且つ低コストで製造することができる。したがって、本発明による黒色極細繊維は、従来さらなる低コスト化、あるいは、さらなる極細化や濃色化が要求されている各種用途分野に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、繊維断面においてマトリックスとなる海成分ポリマー中に極細繊維を構成する島成分ポリマーが多数の島となって繊維軸方向に連続して存在する海島型複合繊維から、極細繊維の単糸からなるハイマルチフィラメント糸が製造される。
【0012】
本発明において海島型複合繊維を構成するポリマーの組合せは、海成分ポリマーの溶解性が島成分ポリマーの溶解性よりも高いことが必要であり、本発明では、特に海成分/島成分の溶解速度比が200以上である組合せが好ましい。かかる溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分の何割かも減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、色むらなどの品位に問題が生じやすくなる。
【0013】
本発明における島成分のポリマーは、繊維形成性の良好なポリマーであって、且つそのガラス転移点(Tg)が60℃以上であることが、本発明の目的を達成する上で重要である。かかるポリマーの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系ポリマーがあげられる。
【0014】
島成分ポリマーのガラス転移点(Tg)が60℃以上であることは、海島両成分の溶融粘度の関係が、後述のごとく海>島成分である場合に特に重要となる。海成分の溶融粘度が高い場合、海成分は島成分よりも固化しやすい傾向にあるが、島成分ポリマーのガラス転移点(Tg)が60℃未満である場合は、溶融紡糸時に海成分が先に固化するために島成分の結晶配向が進まず、その結果、島成分の強度が弱くなり、海島型複合繊維の強度も低くなる。一方、ガラス転移点(Tg)が60℃以上であれば、海成分が固化すると同時に島成分の結晶配向も進むので、島成分の強度が保たれ、海島海島型複合繊維及びそれから得られる極細繊維の強度も保たれることとなる。
【0015】
本発明では、島成分にはカーボンブラックが添加される。添加するカーボンブラックとしては、平均1次粒径が5〜50nmのものを使用する必要がある。カーボンブラックの平均1次粒径が5nm未満の場合は充分な濃色性が得られないという問題があり、50nmを超える場合はカーボンブラックが均一に分散されず、色むらが発現するという問題があるので、本発明の目的を達成し得ない。島成分に含まれるカーボンブラックの量は、島成分重量を基準にして1〜20重量%とすべきである。カーボンブラックの量が1重量%より少ないと有用な濃色の黒色繊維となり難く、20重量%を上回ると紡糸調子が不良となるという問題が生じる。なお、島成分には上記カーボンブラックのほかに、必要に応じて、安定剤、難燃剤などの添加剤を添加しても差し支えない。
【0016】
一方、本発明における海成分ポリマーは、上記の島成分ポリマーに比べて易溶解性のポリマーであれば特に制限されないが、海島断面形成性とアルカリ易溶解性とを両立させるため、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコール(PEG)1〜5重量%とを共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルを用いるのが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から分子量4000〜12000が好ましい。また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が5重量%を超えると、海成分の溶融粘度低下作用が大きくなり、紡糸調子が不良となるために、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明における海島型複合繊維では、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きく、溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0であることが必要であり、特に1.2〜1.8の範囲であることが好ましい。溶融粘度がかかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%以下と少なくなっても、複合繊維断面における個々の島が独立したものとなる。すなわち、島数が100以上のように多くなっても、島同士の一部が接合したり島の大部分が接合することがなく、海島断面形成性が良好である。ところが、この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島同士が接合しやすくなり、一方、2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子低下・強度低下を招きやすい。
【0018】
本発明では、複合繊維断面における島の数は多いほど、カーボンブラック含有島成分を複合繊維断面中に均一に分散できること及び海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなることから好ましく、しかも、得られる極細繊維の細さも顕著となって超極細繊維特有の柔らかさ、滑らかさ、光沢感などを表現することができるので、複合繊維断面における島の数は100以上、好ましくは500以上であることが重要である。ここで島数が100未満の場合には、海成分を溶解除去しても極細繊度の単糸からなるハイマルチフィラメント糸を得ることができず、本発明の目的を達成することができない。ただし、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので1000以下とするのが好ましい。
【0019】
複合繊維断面における島の径は、製品繊維(延伸・熱セット後)の段階で10〜1000nm、好ましくは100〜700nmの範囲とする必要がある。該径が10nm未満の場合には現時点で実際に本発明で使用できるカーボンブラックが存在せず、且つ繊維構造自身が不安定で物性や繊維形態が不安定で好ましくない。一方、1000nmを越える場合には超極細繊維特有の柔らかさや風合いが得られないので好ましくない。また、複合繊維断面内の各島は、その径が均一であるほど海成分を除去して得られる極細繊維からなるハイマルチフィラメント糸の品位や耐久性が向上するので好ましい。
【0020】
さらに、本発明における海島型複合繊維は、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲とすることが必要であり、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、カーボンブラックを含む多数の島成分を海成分中に均一に分散した状態で配置させることが可能となる。また、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40重量%を越える場合には海成分の厚みが大きくなりすぎるためカーボンブラック含有島成分が複合繊維断面で均一に分散されない。一方、海成分の割合が5重量%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、複合繊維断面における島間に接合が発生しやすくなる。
【0021】
以上に説明した本発明の極細繊維製造用の海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと溶融粘度が低く且つ難溶解性で特定のTgをもつポリマーとを、前者が海で後者が島となるように溶融紡糸する。すでに述べたとおり、海成分と島成分の融粘度の関係は重要で、海成分の比率が小さくなって島間の厚みが小さくなると、海成分の溶融粘度が小さい場合には島間の一部の流路を海成分が高速流動するようになり、島間に接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0022】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、多数の島を形成するための中空ピン群や極細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや極細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。好ましく用いられる紡糸口金例を図1及び図2に示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、図1は、中空ピンを海成分樹脂貯め部分に吐出してそれを合流圧縮する方式であり、図2は、中空ピンのかわりに極細孔方式で島を形成する方法である。これらの図1及び図2において、1は分配前島成分ポリマー溜め部分、2は島成分分配用導入孔、3は海成分導入孔、4は分配前海成分ポリマー溜め部分、5は個別の海/島構造(鞘/芯構造)形成部、6は海島全体合流絞であり、このような構造の紡糸口金より海成分と島線成分を溶融吐出することによって、繊維横断面における海成分中に島成分が長さ方向に連続した島となって多数配置された海島型複合繊維が形成される。
【0023】
そして、かかる紡糸口金から吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。より好ましくは1000〜3500m/分である。紡糸速度が400m/分以下では生産性が悪く、6000m/分以上では紡糸安定性が悪いので好ましくない。
【0024】
得られた複合繊維未延伸糸は一旦巻き取り、別途延伸工程にて延伸・熱セットし、所望の強伸度・熱収縮特性などを有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取って所望の強伸度・熱収縮特性などを有する複合繊維とする方法のいずれも適用することが出来る。具体的には、該未延伸糸を60〜190℃、好ましくは75℃〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー120〜220℃、好ましくは130〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると該繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0025】
得られた複合繊維の海成分を溶解除去して極細繊維とするには、海成分ポリマーを溶解除去し得る液体で海成分を選択的に溶解させる方法であればいかなる方法も採用できる。海成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを1〜5重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルである場合は、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度1〜10重量%のアルカリ水溶液中で好ましくは温度80〜105℃にて処理して海成分を溶解除去するのが好ましい。
海成分の溶解除去は、織編物などの布帛の段階で行うのがよいが、糸、紐、綿の段階や二次製品の段階で行っても差し支えない。
【0026】
本発明の海島型複合繊維から海成分を溶解除去して得られる直径10〜1000nmの極細繊維(ファイバー)の強度は1.0〜6.0cN/dtexで、L値が10〜40であることが重要である。直径がこの範囲外或いは強度がこれよりも低いと用途が限定されてしまう。また、L値がこの範囲外では充分な濃色性が得られない場合があるという問題がある。本発明では、とりわけ、繊維直径10〜1000nm、強度1.0〜6.0cN/dtexで、L値が10〜40であって、且つ伸度が15〜60%、乾熱収縮率が5〜15%であるものが好ましい。これらの特性を全て兼ね備えるものは従来の極細繊維の製造方法で得られておらず、本発明の製造方法によって初めて製造し得るものである。
【0027】
以上の如き本発明によれば、濃い黒色の極細繊維で、様々な用途に応用展開可能な十分な強度を持ち、且つ従来にない特徴、例えば繊維の繊度が細くても充分な濃色性を示し、且つ強度が低下しない、などの特性をもつ極細のファイバーを低コストで得ることができる。
【0028】
かかる本発明の黒色極細繊維を少なくとも一部に有する繊維製品は、糸、組み紐状糸、短繊維からなる紡績状糸、織物、編物、フェルト、不織布、人工皮革などの中間製品とすることができる。これらをジャケット、スカート、パンツ、下着などの衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車両内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途に使うことができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、各例中に示す各評価項目は下記の方法で測定した値である。
【0030】
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを、275℃に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持した後、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときの剪断速度と溶融粘度をプロットした。そのプロットをなだらかに繋いで、剪断速度−溶融粘度曲線を作成し、剪断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見積った。なお、島成分はカーボンブラックを含む状態で測定した。
【0031】
(2)ガラス転移点(Tg)
ペレット約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入してTA−instrument社製の示差走査熱量計を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
【0032】
(3)海島型複合繊維の島数及び海成分/島成分の比率
透過型電子顕微鏡TEMで倍率30000倍にて撮影した海島型複合繊維の断面写真を観察し、測定した。
【0033】
(4)海溶解後の極細繊維(ファイバー)の強伸度
海島型複合繊維を用いて重量1g以上の筒編みを作成し、海成分を溶解除去した。その後筒編みをほどき、室温で初期試料長=100mm、引っ張り速度200m/分の条件で荷重−伸長曲線を求めた。繊度はJIS−1015に記載の方法に準拠して測定した。強度は破断時の荷重値を算出した繊度で割った値、伸度は破断時の伸長値から求めた。
【0034】
(5)海溶解後の極細繊維(ファイバー)径
海島型複合繊維を用いて重量1g以上の筒編みを作成し、海成分を溶解除去した後、表面をSEM観察、10点について繊維径測定し、平均値を算出した。
【0035】
(6)明度(L値)
マクベス カラーアイ(Macbeth COLOR―EYE)モデルM―2020PLを使用し、JIS Z 8729−1980に規定された、国際照明委員会(CIE)推奨のL*a*b*系色表示により表される明度L値を測定した。
【0036】
(7)海溶解後布帛の色むら
カーボンブラックの分散性の指標として、色むらがあるかどうか目視で確認し、色むらがあるものを×、色むらがないものを○と判定した。
【0037】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
海島型複合繊維の製造に当り、島成分ポリマー及び海成分ポリマーとして、それぞれ表1に示す各ポリマーのうちから、表2に記載のポリマーの組合せを選び、表2に示す島数の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃で溶融紡糸して、1000m/分の巻取り速度で一旦巻き取った。この際、島成分ポリマーには、表2に示す平均粒径のカーボンブラック(CB)を表2に示す量添加した。その結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
上記のごとく紡糸して得られた複合繊維未延伸糸を、表3記載の延伸温度及び倍率でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。
なお、実施例1〜4、比較例1〜4については、いずれも、得られる延伸糸が44dtex/10filとなるように、紡糸吐出量及び延伸倍率を調整した。
得られた海島型複合繊維及びこれを筒編みにして4%NaOH水溶液で95℃にて30
%減量して海成分を溶解除去した極細繊維の評価結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
実施例1は、PET1と島成分のベースポリマーとし改質PET2海成分として、島:海=70:30の比率で複合紡糸したものである。この海島型複合繊維の1フィラメント当りの島数は800個であり、島成分(PET1)には平均一次粒径が20nmのカーボンブラックを島成分重量に対して8重量%含有させた。得られた海島型複合繊維は、島成分直径が均一な海島断面形成を達成していた。これを表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて30重量%減量して海成分を溶解除去して得たハイマルチフィラメント糸の断面を観察したところ、PET1からなる極細繊維中にカーボンブラックが均一に分散されており、色むらは観察されなかった。海成分除去後のファイバー(極細繊維)のL値は26で、強度は2.9cN/dtex、伸度は21.5%であった。
【0043】
実施例2では、島成分として同じカーボンブラックを島成分重量に対して5%含有させたPET1を使用したこと以外は実施例1と同じ条件で海島型複合繊維を製造した。この繊維も均一な島直径をもつ海島断面形成を達成していた。これを表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて30重量%減量して海成分を溶解除去した後の糸の断面を観察したところ、カーボンブラックが均一に分散されており、色むらは観察されなかった。海成分を除去後のファイバーのL値は29で、強度は3.3cN/dtex、伸度は24.5%であった。
【0044】
実施例3では、PET2と改質PET2をそれぞれ島成分のベースポリマーと海成分とし、島:海=80:20の比率で用いた。複合繊維の1フィラメント当りの島数は500個であり、島成分には、平均一次粒径が25nmのカーボンブラックを島成分重量に対して10重量%含有させた。得られた海島型複合繊維は、均一な島直径をもつ海島断面形成を達成していた。これを表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて20%減量して海成分を溶解除去した後、糸の断面を観察したところ、カーボンブラックが均一に分散されており、色むらは観察されなかった。海成分の減量・除去後のファイバーのL値は20で、強度は2.8cN/dtex、伸度は29.5%であった。
【0045】
実施例4は、PET2を島成分のベースポリマーとしNy−6を海成分として、島:海=80:20の重量比率で複合紡糸したものである。繊維1フィラメント当りの島数は500個であり、島成分には平均一次粒径が15nmのカーボンブラックを島成分重量に対して6重量%含有させた。得られた海島型複合繊維は、均一な島直径をもつ海島断面形成を実現していた。これを表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて20重量%減量して海成分を溶解除去した糸の断面を観察したところ、カーボンブラックが均一に分散されており、色むらは観察されなかった。海成分減量・除去後のファイバーのL値は21で、強度は2.4cN/dtex、伸度は45.8%であった。
【0046】
これに対し、比較例1では、実施例1の海成分ポリマーを変更したために海/島溶融粘度比が0.81となり、島成分の90%以上が互いに接合して個々には存在せず、接合した島の周囲を海成分が取り囲むような断面を形成していた。したがって、海成分をアルカリ減量で除去しても極細繊維群を形成することができなかったために、色むらが観察された。
【0047】
比較例2は、PET1と改質PET2とをそれぞれ島成分のベースポリマーと海成分に50:50の比率で用いたものである。複合繊維1フィラメント当りの島数は1000個であり、島成分として、平均一次粒径が400nmのカーボンブラックを島成分重量に対して0.5重量%含有させた。得られた海島型複合繊維は、均一な島直径をもつ海島断面形成を達成していた。しかし、表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて50%減量して海成分を溶解した糸の断面を観察したところ、ファイバーの単糸径に対するカーボンブラックの粒径が大きすぎるために、カーボンブラックが均一に分散されず、色むらが観察された。また、繊維径が細く、カーボンブラックが不均一分散し且つ添加量が少ないために海減量後のファイバーのL値は42と不十分であった。さらに、海成分が多いために、延伸倍率を上げることができず、海成分減量・除去後のファイバー強度は0.6cN/dtex、伸度は13.5%と低強度であり、実用に耐え難い繊維であった。
【0048】
比較例3は、PTTと改質PET2とをそれぞれ島成分と海成分として、島:海=80:20の比率で用いたものである。複合繊維1フィラメント当りの島数は700個であり、島成分として、平均一次粒径が15nmのカーボンブラックを島成分重量に対して6%含有させた。得られた海島型複合繊維は、均一な島直径をもつ海島断面形成を達成していた。表2記載の延伸温度、延伸倍率でローラー延伸して得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて20重量%減量して海成分を溶解除去した糸の断面を観察したところ、カーボンブラックが均一に分散されており、色むらは観察されなかった。しかし、島成分のベースポリマーのガラス転移点(Tg)が45℃と低いために、強度は0.8cN/dtex、伸度は53.4%と実用に耐えられないほど低い強度を示した。
【0049】
比較例4は、Ny−6を島成分に用いPET2を海成分に用いて80:20の比率で用いたものである。島成分として、平均一次粒径が15nmのカーボンブラックを島成分重量に対して2重量%含有させた。比較例1と同様に、海/島溶融粘度比が0.88であるために、島成分の90%以上が互いに接合して個々には存在せず、接合した島の周囲を海成分が取り囲むような断面を形成していた。したがって、海成分を4%NaOH水溶液によるアルカリ減量で海成分を除去しても極細繊維群を形成することができなかったために、色むらが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の海島型複合繊維によれば、容易にカーボンブラックの均一性に優れた黒色極細繊維からなるハイマルチフィラメント糸を、生産性よく且つ低コストで提供することができる。したがって、従来さらなる低コスト化、あるいは、さらなる極細化且つ濃染化が要求されている各種用途分野に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の海島型複合繊維を溶融紡糸するために用いられる紡糸口金の構造を例示する一概略断面図である。
【図2】本発明の海島型複合繊維を溶融紡糸するために用いられる紡糸口金の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1:分配前島成分ポリマー溜め部分
2:島成分分配用導入孔
3:海成分導入孔
4:分配前海成分ポリマー溜め部分
5:個別海/島=鞘/芯構造形成部
6:海島全体合流絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が60℃以上の繊維形成性ポリマーを島成分とし、該島成分よりも易溶解性のポリマーを海成分とする海島型複合構造を有し、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上であり、且つ島成分には平均1次粒径5〜50nmのカーボンブラックが島成分重量に対して1〜20重量%含有されている海島型複合繊維から、海成分を溶解除去して得られる、直径10〜1000nmの極細繊維であって、強度が1.0〜6.0cN/dtex、L値が10〜40であることを特徴とする黒色極細繊維。
【請求項2】
海島型複合繊維を形成する島成分が、芳香族ポリエステル系ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の黒色極細繊維。
【請求項3】
海島型複合繊維を形成する海成分が、5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の黒色極細繊維。
【請求項4】
島成分として平均1次粒径5〜50nmのカーボンブラックを島成分重量に対して1〜20重量%含有するガラス転移点60℃以上の繊維形成性ポリマーを用い、海成分として該島成分よりも易溶解性のポリマーであって、海成分と島成分との溶融紡糸温度における溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0であるポリマーを用いて、複合紡糸し、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95、島数が100以上である海島型複合繊維を形成した後、該複合繊維の海成分を溶解除去して、極細繊維とすることを特徴とする黒色極細繊維の製造方法。
【請求項5】
海島型複合繊維を形成する島成分が、芳香族ポリエステル系ポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の黒色極細繊維の製造方法。
【請求項6】
複合繊維を形成する海成分として5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを用いることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の黒色極細繊維の製造方法。
【請求項7】
複合繊維の海成分を水酸化ナトリウム水溶液で処理して溶解除去することを特徴とする請求項6に記載の黒色極細繊維の製造方法。
【請求項8】
島成分が平均1次粒径5〜50nmのカーボンブラックを島成分重量に対して1〜20重量%含有するガラス転移点60℃以上の芳香族ポリエステル系ポリマーからなり、海成分が5−ナトリウムスルホン酸を6〜12モル%及び分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを1〜5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートからなり、且つ海成分と島成分の溶融紡糸温度における溶融粘度比(海/島)が1.1〜2.0の範囲にあるポリマーで構成された海島型複合繊維であって、海成分と島成分との複合重量比率(海:島)が40:60〜5:95であり、且つ島数が100以上であることを特徴とする黒色極細繊維製造用の海島型複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88562(P2008−88562A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266859(P2006−266859)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】