説明

黒鉛成形体の製造方法

【課題】成形加圧時の粉噴出しを低減し歩留向上できる黒鉛成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練し粉砕し、粉砕物を作製する工程、その後、該粉砕物と水又はアルコール水溶液を混合し、所定形状に成形する工程を有する、黒鉛成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛成形体の製造方法に関する。特に、その後、成形体を焼成して黒鉛焼成品として用いるのに適した黒鉛成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の黒鉛成形体は、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練し該混合物を10〜30μmの粒径に粉砕した後、該粉砕物と黒鉛化触媒をさらに混合後、冷間プレスにて所定形状に成形し、製造していた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−55139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、粉砕物と黒鉛化触媒の混合物の冷間プレスによる成形において、混合物の粒径は10〜30μmであり、冷間プレス機のパンチと金型のクリアランスは2〜3/100mmと混合物が含有している微粉の粒径より大きく、また混合物を金型に自然落下にて投入する際に粉体内部に空気を巻き込んでしまうことから、パンチにて金型内の粉体を加圧する際に、パンチと金型のクリアランスより粉体が含有する空気及び粒径2〜3/100mm以下の粉体が300g程度噴出してしまい、歩留を悪化させる問題点がある。
そこで、本発明は、上記問題点である成形加圧時の粉噴出しを低減し歩留向上できる黒鉛成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練し粉砕した後、該粉砕物と水又はアルコール水溶液を混合することで、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練し粉砕し、粉砕物を作製する工程、その後、前記粉砕物と水又はアルコール水溶液を混合し、所定形状に成形する工程を有する、黒鉛成形体の製造方法。
(2)アルコール水溶液として、水溶液中のアルコール濃度が2.0重量%以下のアルコール水溶液を用いることを特徴とする上記(1)に記載の黒鉛成形体の製造方法。
(3)水又はアルコール水溶液の使用量が、粉砕物に対して0.5〜5.0重量%であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の黒鉛成形体の製造方法。
(4)アルコール水溶液として、ポリビニルアルコール水溶液を用いることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
(5)所定形状に成形する工程において、冷間プレスを用いて行うことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
(6)粉砕物を作製する工程または所定形状に成形する工程において、さらに黒鉛化触媒を用いることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
(7)黒鉛化触媒を、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダとの合計量に対して20〜40重量%用いることを特徴とする上記(6)に記載の黒鉛成形体の製造方法。
(8)前記該粉砕物と水又はアルコール水溶液の混合前に、前記粉砕物と黒鉛化触媒とを混合し、前記粉砕物と黒鉛化触媒との混合物に、水又はアルコール水溶液を混合することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の黒鉛成形体の製造方法。
(9)前記黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練する際、同時に黒鉛化触媒を混練することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の黒鉛成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の黒鉛成形体の製造方法によれば、混合物粉体内の脱気作用が促進され、また、混合物粉体が吸湿され微粉末が凝集することで、プレスのパンチと金型のクリアランスより細かな粉末が減少することから、成形加圧時に発生するパンチと金型のクリアランスより噴出す空気量が低減でき、それに伴い粉の噴出しも低減でき、歩留が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる黒鉛化可能な骨材としては、黒鉛化できる粉末材料であれば特に制限はなく、例えば、コークス粉末、樹脂の炭化物等が使用できる。黒鉛としては、例えば天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末等が使用できるが粉末状であれば特に制限はない。本発明で用いられる黒鉛化可能なバインダとしては、例えば、タールピッチ等のピッチ、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機系材料などが挙げられ、中でもタールピッチが好ましい。黒鉛化可能なバインダは、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛との合計に対して30〜50重量%用いることが好ましい。
【0008】
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練する方法としては特に制限はないが、黒鉛化可能なバインダの軟化温度以上で混練することが好ましく、その温度は、使用するバインダの種類によって異なるが、80〜350℃の範囲が好ましい。また、該混練物の粉砕方法は特に制限がないが粉砕物の平均粒径が10〜40μmの範囲に粉砕できる粉砕機を用いることが好ましい。粉砕物の大きさとしては、平均粒径が20〜30μmであることが好ましい。
【0009】
本発明で用いられるアルコール水溶液としては、前記粉砕物が適度に吸湿され、所定形状の成形体が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、ポリビニルアルコール水溶液を用いることで、成形品表面に油膜等、粘性の高い膜が形成されず、脱型時に割れの生じない成形品を得ることが出来る。得られた黒鉛成形体を熱処理して用いる場合、熱処理後の黒鉛化成形体の品質の観点からは、熱処理によって昇華可能な残炭量を有するポリビニルアルコール水溶液を使用することが好ましい。
【0010】
水又はアルコール水溶液として、水と水溶液のどちらを用いても同様の効果が得られるが、アルコール水溶液を用いる場合には、水溶液中のアルコール濃度は、2重量%以下であることが好ましい。水溶液中のアルコール濃度が2重量%を超えると成形金型への粉体の付着が起こりやすく、装置のメンテナンス上好ましくない。
【0011】
本発明において用いられる水又はアルコール水溶液の量は、前記粉砕物に対して0.5〜5.0重量%とすることが好ましい。0.5重量%未満であると、混合粉の脱気作用及び微分の凝集化の促進が不十分で、成形加圧時にパンチと金型のクリアランスからの粉の噴出抑制効果が低くなる傾向がある。また、5.0重量%を超えると成形金型への粉体の付着や、関連装置の錆びによる劣化が起こりやすく、装置のメンテナンスを行う場合、好ましくない。
【0012】
前記粉砕物と水又はアルコール水溶液の混合方法は特に制限はないが、水又はアルコール水溶液を均一に混合できかつ、該粉砕物に水分を添加することによりダマのできないよう水又はアルコール水溶液を分散混合できる方法が好ましい。たとえば、前記粉砕物を混合機中で攪拌翼等を用いて混合しながら、水又はアルコール水溶液を、スプレーノズル等を用いて噴霧添加する方法が挙げられる。
【0013】
前記粉砕物と水又はアルコール水溶液との混合物を、所定形状に成形する成形方法としては特に制限はないが、離型性及び成形機のメンテナンスの観点から、冷間プレスを用いることが好ましい。冷間プレスを用いることにより、黒鉛化可能なバインダを軟化させることなく成形を出来るので、脱型が容易で、さらには成形後の金型等へのバインダの付着を防止できる。冷間プレスとしては、冷間油圧プレス又は冷間油圧サーボプレスが好ましい。これらを用いることにより、成形品嵩密度が1.40〜1.55g/cmの範囲で成形できる。また、成形圧力としては、成形品嵩密度1.40〜1.55g/cmの範囲で所定形状に成形する観点から、面圧60〜120N/mmに設定することが好ましい。
黒鉛成形体の形状は、特に制限はないが、得られた黒鉛成形体を熱処理して用いる場合、例えばブロック状、円筒状、塊状等が熱処理時の作業性、炉詰め効率の点で好ましい。また、成形体の大きさに特に制限はないが、こちらも炉詰め効率の点から一片が80mm以上の長さを持つ形状のものが好ましい。
【0014】
本発明の黒鉛成形体の製造方法においては、得られた黒鉛成形体を熱処理して用いる場合、熱処理時の温度低減の観点から、さらに黒鉛化触媒を用いることが好ましい。黒鉛化触媒は、前記黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練工程において添加しても、その後の混合工程において添加してもよい。
例えば、前記黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練工程において、同時に黒鉛化触媒を混練して粉砕した後、該粉砕物と水又はアルコール水溶液を混合してもよいし、前記該粉砕物と水又はアルコール水溶液の混合前に、前記粉砕物と黒鉛化触媒とを混合し、前記該粉砕物と黒鉛化触媒との混合物に、水又はアルコール水溶液を混合してもよい。黒鉛化触媒は、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダとの合計量に対して20〜40重量%用いることが好ましい。黒鉛化触媒の量が黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダとの合計量に対して20重量%未満であると、熱処理時に成形品内黒鉛粒子の発達促進の効果が低く、熱処理温度を高く設定することが必要となる。一方40重量%を超えると熱処理後の黒鉛成形体内に黒鉛化触媒が残存しやすくなる。
【0015】
得られた黒鉛成形体を熱処理して用いる場合、黒鉛成形体の熱処理方法としては、バインダ内の揮発分の炭素化、炭素分以外の物質の昇華を行える方法が好ましい。例えば、熱処理炉を用いて、まず、400〜1000℃の温度範囲でバインダ内の揮発分の炭素化を行い、続けて2000〜3200℃の温度範囲で炭素分以外の物質の昇華を行うことが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の詳細を実施例にて説明する。
実施例1
黒鉛化可能な骨材として、コークス粉末(平均粒径:19μm)を3570g、黒鉛化可能なバインダとして、フレーク状タールピッチを1960g用い、これらを双腕型バッチ式ニーダ(栗本鐵工所製)を用いて、ヒータ温度を400℃に設定して混錬物材料温度が270℃に達するまで混練し、衝撃式粉砕機(増野製作所製24Aローラミル)を用いて、平均粒径25μmに粉砕した後、この粉砕物5530gと、黒鉛化触媒として炭化珪素粉末(平均粒径:20μm)1470gとを、円錐型混合機(ホソカワミクロン社製ナウターミキサー)を用いて室温にて30分混合した後、さらに混合を続行しながら、1.0重量%ポリビニルアルコール(以下、PVAと記載)水溶液を粉砕物に対して3重量%となるように、スプレーノズルを用いて20L/分の条件で15分間噴霧することにより、混合を行い、得られた混合物7000gを油圧成形プレス(三起精工社製7500kNプレス)にて面圧100N/mmで成形を行い、実施例1の黒鉛成形体を得た。
【0017】
実施例2〜5
1〜3重量%PVA水溶液を1〜3重量%に換えて、表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜5の黒鉛成形体を得た。
【0018】
【表1】

【0019】
比較例1〜9
表2に示すとおり、水又はアルコール水溶液(1〜3重量%PVA水溶液)1〜3重量%を用いなかった以外、実施例1と同様にして比較例1の黒鉛成形体を得た。油圧成形プレスの加圧力(面圧)を60N/mmとした以外、比較例1同様にして比較例2の黒鉛成形体を得た。粉砕物の平均粒径が30μmとなるように粉砕した以外、比較例1同様にして比較例3の黒鉛成形体を得た。水又はアルコール水溶液(1〜3重量%PVA水溶液)に換えて、表2に示す添加剤を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4〜9の黒鉛成形体を得た。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例1〜5および比較例1〜9の黒鉛成形体について、評価を行った。油圧プレス成形時の成形品外観(成形品割れ及び亀裂の有無)、成形品嵩密度、加圧時の粉噴出し量、成形歩留及び金型等への付着性を評価の判断要素とし、それぞれの効果について検討した。評価方法を以下に示す。
(1)成形品外観は、成形後の成形品を目視にて判断、割れクラック等がない場合を良好、割れ、クラック等がある場合を不良と記載した。
(2)成形品嵩密度は、ノギスにて寸法測定後、デジタル天秤にて重量を測定し、下記に示す式にて算出した。
成形品嵩密度(g/cm)={幅(mm)×高さ(mm)×長さ(mm)}/重量(g)×1000
(3)加圧時粉噴出し量は、成形後金型周辺に飛散した粉の量を採取し、デジタル天秤にて測定した。
(4)成形粉歩留は、下記に示す式にて算出した。
成形粉歩留(%)=加圧時粉噴出し量(g)/成形前混合物重量(7000g)×100
(5)付着性は、成形後の金型に粉等の付着を目視にて確認、まったく付着してない場合は無、付着はしているが装置のメンテナンスの頻度に問題のない量の場合は、やや有、付着がひどく装置のメンテナンスの頻度増加に繋がる場合を、有と記載した。
以下、評価結果を表3及び表4に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
本発明の製造方法によって得た実施例1〜5の黒鉛成形体は、従来法の製造方法で得た比較例1〜3に比べて成形加圧時の粉噴出し量の低減、歩留向上の効果が見られる。また、成形品外観、成形品嵩密度、金型等への付着性も良好な結果を得られた。また、水又はアルコール以外の添加剤を用いた比較例4〜9については、噴出し量は少なかったものの成形後の脱型時に成形品が割れてしまい、黒鉛成形体を得ることができなかったため、歩留は評価できなかった。
以上のことから明らかのように、本発明での製造方法によると、成形加圧時に粉噴出し量が少なく成形歩留の優れた黒鉛化成形体を得ることができることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練し粉砕し、粉砕物を作製する工程、その後、前記粉砕物と水又はアルコール水溶液を混合し、所定形状に成形する工程を有する、黒鉛成形体の製造方法。
【請求項2】
アルコール水溶液として、水溶液中のアルコール濃度が2.0重量%以下のアルコール水溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項3】
水又はアルコール水溶液の使用量が、粉砕物に対して0.5〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項4】
アルコール水溶液として、ポリビニルアルコール水溶液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項5】
所定形状に成形する工程において、冷間プレスを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項6】
粉砕物を作製する工程または所定形状に成形する工程において、さらに黒鉛化触媒を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項7】
黒鉛化触媒を、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダとの合計量に対して20〜40重量%用いることを特徴とする請求項6に記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項8】
粉砕物と水又はアルコール水溶液の混合前に、前記粉砕物と黒鉛化触媒とを混合し、前記粉砕物と黒鉛化触媒との混合物に、水又はアルコール水溶液を混合することを特徴とする請求項6又は7に記載の黒鉛成形体の製造方法。
【請求項9】
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダを混練する際、同時に黒鉛化触媒を混練することを特徴とする請求項6又は7に記載の黒鉛成形体の製造方法。

【公開番号】特開2009−221073(P2009−221073A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69432(P2008−69432)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】