説明

(−)−ハロフェナートおよびその中間体の立体選択的調製のための方法

本発明は、式(IV)の化合物、ならびに式のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の生成方法および化合物を提供する。式中、R1は式(a)〜(d)からなる群より選択される要素であり;R2はそれぞれ独立して、(C1-C4)アルキル、ハロ、(C1-C4)ハロアルキル、アミノ、(C1-C4)アミノアルキル、アミド、(C1-C4)アミドアルキル、(C1-C4)スルホニルアルキル、(C1-C4)スルファミルアルキル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)ヘテロアルキル、カルボキシ、およびニトロからなる群より選択される要素であり;添え字nは、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;添え字mは、0から3の整数であり;は、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;波線は、R1の結合点を示す。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、(-)-ハロフェナート(4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸)およびその中間体を調製するための立体選択的なプロセスに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年9月23日に出願された米国特許出願第60/720,300号;およびPROCESS FOR THE STEREOSELECTIVE PREPARATION OF (-)-HALOFENATE AND DERIVATIVES THEREOFという表題で2006年9月20日に出願され、まだ出願番号が割り当てられていない米国特許出願(代理人整理番号016325-020510 US)の恩典を主張するものであり、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸(ハロフェン酸)のエステル誘導体およびアミド誘導体はキラル化合物であり、血中脂質の沈着を伴う状態、II型糖尿病および高脂血症を包含する、様々な生理的な状態の改善において有用である(例えば米国特許出願第10/656,567号(特許文献1)および米国特許第6,262,118号(特許文献2)等参照。これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。ハロフェン酸は、カルボニル炭素原子にα位で非対称に置換された炭素原子にただひとつのキラル中心を含み、そのためふたつの鏡像異性体の型が存在する。ハロフェン酸の(-)-鏡像異性体が、(+)-鏡像異性体と比較して、シトクロムP450 2C9阻害能において約20倍活性が低いことが見いだされている。同文献。ハロフェン酸のラセミ体またはその誘導体の投与は、抗凝固薬、抗炎症薬、および該酵素により代謝されるその他の薬物等を包含する、他の薬物との様々な薬物間相互作用の問題を引き起こす可能性がある。同文献。薬物間相互作用の可能性を低減するために、実質的に(+)-鏡像異性体を含んでいないハロフェン酸の(-)-鏡像異性体またはその誘導体を投与することが望ましい。従って、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の鏡像異性的に富化された型またはその誘導体は、薬学的化合物の調製のために有益な化学中間体である。
【0004】
下記に示すように、α-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を製造するための様々な合成経路が文献上で報告されている。残念なことに、多くの場合、公知の合成方法によりこれらの分子を高い鏡像異性体純度および高収率で生産することは困難である。

スキーム1.α-(フェノキシ)フェニル酢酸の合成

【0005】
スキーム1に示されるように、Devineらはキラル補助基としてピロリジン誘導ラクトアミドを用いて立体選択的にα-(フェノキシ)フェニル酢酸を製造することができた(米国特許第5,708,186号(特許文献3)および同第5,856,519号(特許文献4)参照。これらの教示は参照により本明細書に組み入れられる)。しかしながら、該方法もまた、(a)多段階の単離工程、および(b)低い単離収率を包含するいくつかの難点を有している。それ故、例えば(-)-ハロフェナート等のα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体だけでなくα-(フェノキシ)フェニル酢酸を製造するためのより効率的なプロセスが必要である。非常に驚いたことに、本発明はこの必要性およびその他の必要性を満足させている。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第10/656,567号
【特許文献2】米国特許第6,262,118号
【特許文献3】米国特許第5,708,186号
【特許文献4】米国特許第5,856,519号
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、高収率および高い鏡像異性体純度で、置換フェニル酢酸を対応するα-(置換)フェニル酢酸誘導体に確実に変換するために用いることが可能な方法を提供する。
【0008】
そこで、一態様において、本発明は、
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
R2がそれぞれ独立して、(C1-C4)アルキル、ハロ、(C1-C4)ハロアルキル、アミノ、(C1-C4)アミノアルキル、アミド、(C1-C4)アミドアルキル、(C1-C4)スルホニルアルキル、(C1-C4)スルファミルアルキル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)ヘテロアルキル、カルボキシ、およびニトロからなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
添え字mが、0から3の整数であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(I):

の化合物を生産するための方法であって、
(a) 式(II):

の化合物を、適合する溶媒中で、チオニルハライド、無水物、およびチオエステル発生試薬からなる群より選択されるカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;
(b) 工程 (a) の生成物を、適合する溶媒中で、臭素で臭素化する工程;
(c) 工程 (b) の生成物を、適合する溶媒中で、

からなる群より選択されるキラルアルコールでエステル化する工程
を含む方法を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(IV):

の、α-(置換)フェニル酢酸化合物を提供する。
【0010】
本発明のその他の特徴、目的、および利点、ならびにその好ましい態様は、後述の詳細な説明から明確になるであろう。
【0011】
詳細な説明
I. 定義
「アルキル」とは、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素鎖基のことを言い、好ましくは1〜6個の炭素原子を有し、より好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。アルキル基の例示としては、メチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、tert-ブチル、およびペンチル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
「アリール」とは、6〜10個の環炭素原子の一価の単環式または二環式の芳香族炭化水素部分のことを言う。特に明記または指定しない限り、アリール基は、アルキル、ハロアルキル、ニトロ、およびハロから選択される、1個または複数の置換基で置換されていてもよく、好ましくは1個、2個、または3個の置換基で、より好ましくは1個または2個の置換基で置換されていてもよい。より具体的には、アリールという用語としては、フェニル、1-ナフチル、および2-ナフチル等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらはそれぞれ1個または複数の前記の置換基で置換されていてもよい。
【0013】
「キラル」または「キラル中心」とは、4個の異なる置換基を有する炭素原子ことを言う。しかしながら、キラリティーの空極の基準は、鏡像を互いに重ね合わせることができないということである。
【0014】
「CPTA」および「ハロフェン酸」という用語は、本明細書において同じ意味で用いられ、(4-クロロフェニル)(3-トリフルオロメチルフェノキシ)酢酸のことを言う。
【0015】
「鏡像異性混合物」とは、ラセミ混合物を包含する、鏡像異性体が混在するキラル化合物を意味する。好ましくは、鏡像異性混合物とはそれぞれの鏡像異性体が実質的に等量存在するキラル化合物のことを言う。より好ましくは、鏡像異性混合物とは、それぞれの鏡像異性体が等量存在するラセミ混合物のことを言う。
【0016】
「鏡像異性的に富化された」とは、ひとつの鏡像異性体が分離プロセスを施される前よりも多量に存在する組成のことを言う。
【0017】
「鏡像異性体過剰率」または「%ee」とは、第一の鏡像異性体と第二の鏡像異性体との量の差のことを言う。鏡像異性体過剰率は方程式:%ee = (第一の鏡像異性体の割合(%)) - (第二の鏡像異性体の(%))により定義される。従って、組成物が98%の第一の鏡像異性体と2%の第二の鏡像異性体とを含む場合、第一の鏡像異性体の鏡像異性体過剰率は98%−2%または96%である。
【0018】
「ハライド」および「ハロ」という用語は本明細書において同じ意味で用いられ、例えば-CNおよび-SCN等の擬ハロゲン化物だけでなく、F、Cl、Br、およびI等を包含する、ハロゲンのことを言う。
【0019】
「ハロアルキル」とは、本明細書において定義されたアルキル基において、1個または複数の水素原子をハロゲンで置き換えたもののことを言い、例えばトリフルオロメチル等のペルハロアルキル等が挙げられる。
【0020】
「ハロフェナート」とは、2-アセトアミドエチル=4-クロロフェニル-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)アセタート(すなわち、4-クロロ-α-(3-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ベンゼン酢酸, 2-(アセチルアミノ)エチルエステル、または(4-クロロフェニル)(3-トリフルオロメチルフェノキシ)酢酸), 2-(アセチルアミノ)エチルエステル)のことを言う。
【0021】
「ヘテロアルキル」は、1個もしくは複数のへテロ原子または1個もしくは複数のヘテロ原子を含む置換基を含む、分枝状または非分枝状の非環式飽和アルキル部分を意味し、該へテロ原子はO、N、またはSである。ヘテロ原子を含む置換基の例示としては、=0、-ORa、-C(=O)Ra、-NRaRb、-N(Ra)C(=O)Rb、-C(=O)NRaRb、および-S(O)nRa(式中、nは0〜2の整数である)が挙げられる。RaおよびRbはそれぞれ独立して水素、アルキル、ハロアルキル、アリール、またはアラルキルである。ヘテロアルキルの代表例としては、例えばN-アセチル=2-アミノエチル(すなわち、-CH2CH2NHC(=O)CH3)等が挙げられる。
【0022】
「メタル」という用語は、例えばBおよびSi等の典型金属だけでなく、第1族、第2族、および遷移金属を含む。
【0023】
「光学純度」とは、組成物中に存在する特定の鏡像異性体の量のことを言う。例えば、組成物が98%の第一の鏡像異性体と2%の第二の鏡像異性体とを含む場合、第一の鏡像異性体の光学純度は98%である。
【0024】
特に明記しない限り、「フェニル」という用語は、置換されていてもよいフェニル基のことを言う。適したフェニルの置換基は、「アリール」の定義で記載されたものと同一である。同様に、「フェノキシ」という用語は、式-OAraである部分のことを言い、式中Araは本明細書において定義されたフェニルを表す。従って、「α-(フェノキシ)フェニル酢酸」という用語は、置換されていてもよいフェニルおよび置換されていてもよいフェノキシ部分で、2位が置換された酢酸のことを言う。
【0025】
「保護基」とは、分子中の反応基に結合した場合、該反応性を遮蔽、軽減、または抑制する部分のことを言う。保護基の例示は、T.W. GreeneおよびP.G.M. Wutsの Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd edition, John Wiley & Sons, New York, 1999、ならびにHarrison および Harrison らの Compendium of Synthetic Organic Methods, Vols. 1-8 (John Wiley and Sons, 1971-1996)に載っており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。典型的なヒドロキシ保護基としては、アシル基、ベンジルおよびトリチルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、トリアルキルシリルエーテル、ならびにアリルエーテルが挙げられる。典型的なアミノ保護基としては、ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニル(CBZ)、tert-ブトキシカルボニル(Boc)、トリメチルシリル(TMS)、2-トリメチルシリル-エタンスルホニル(SES)、トリチルおよび置換トリチル基、アリルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、ニトロ-ベラトリルオキシカルボニル(NVOC)等が挙げられる。
【0026】
「速度(rate)」という用語は、反応生成物の形成に関する場合、動力学的および/または熱力学的速度のことを言う。
【0027】
本明細書において用いられる、「処理(treating)」、「接触(contacting)」、または「反応(reacting)」という用語は、指示されたおよび/または所望の生成物を生産するために、2種またはそれ以上の試薬を適当な条件下で添加または混合することを言う。当然のことながら、指示されたおよび/または所望の生成物を生成する反応は、必ずしも最初に添加される2種の試薬の組み合わせから直接生じるものである必要はない。すなわち、最終的に指示されたおよび/または所望の生成物の形成につながる、混合物中に生成される中間体が1個または複数存在してもよい。
【0028】
本明細書において用いられる、「前記で定義したもの(those defined above)」および「本明細書において定義されたもの(those defined herein)」という用語は、可変的なものに関する場合、もしあるならば、好ましいもの、より好ましいもの、および最も好ましいものの定義だけでなく、該可変的なものの広い定義が、参照により組み入れられるものである。
【0029】
有機化合物の多くは光学活性形態で存在する。すなわち、それらは平面偏光の面を回転させる能力を有する。光学活性化合物の記載において、接頭辞RおよびSが該分子のキラル中心についての絶対立体配置を示すために用いられる。接頭辞「d」および「l」または(+)および(-)は、化合物による平面偏光の面の回転の様子を指定するために用いられ、(-)または(l)は化合物が「左旋性の」であることを意味し、(+)または(d)は化合物が「右旋性の」であることを意味する。絶対立体化学のための命名と鏡像異性体の回転の間には何の相関関係もない。所与の化学構造について、「立体異性体」と呼ばれるこれらの化合物は、それらが他方の鏡像であること以外は全く同じである。また具体的な立体異性体を「鏡像異性体」とも言うことができ、このような異性体の混合物は多くの場合「鏡像異性」混合物または「ラセミ」混合物と呼ばれる。例えば、Streitwiesser, A. & Heathcock, C. H., INTRODUCTION TO ORGANIC CHEMISTRY, 2nd Edition, Chapter 7 (MacMillan Publishing Co., U.S.A. 1981)等参照。
【0030】
「実質的にその(+)-立体異性体を含んでいない」、「実質的にその(+)-鏡像異性体を含んでいない」という用語は、本明細書において同じ意味で用いられ、その組成物が、(+)-異性体に対して実質的により大きな比率の(-)-異性体を含有することを意味する。好ましい態様において、「実質的にその(+)立体異性体を含んでいない」という用語は、該組成物の少なくとも90重量%が(-)-異性体であり、10重量%またはそれ未満が(+)-異性体であることを意味する。より好ましい態様において、「実質的にその(+)-立体異性体を含んでいない」という用語は、該組成物が少なくとも99重量%の(-)-異性体および1重量%またはそれ未満の(+)-異性体を含有することを意味する。最も好ましい態様において、「実質的にその(+)-立体異性体を含んでいない」という用語は、該組成物が99重量%を上回る(-)-異性体を含有することを意味する。これらの割合は組成物中の異性体の総量に基づいている。
【0031】
II. 序文
キラル化合物の鏡像異性体は全く同じ化学結合を有しているが、鏡像異性体中の原子の空間的配置が異なっている。従って、多くの場合、キラルな薬物の一方の鏡像異性体が、他方の鏡像異性体よりも有意に副作用を軽減しつつ、所望の活性を発揮する。多くの場合、ラセミ体の分割が光学活性の、すなわちキラルな化合物の調製の工業的プロセスにおいて用いられる一方、近年、キラル合成が大きな発展を遂げた。
【0032】
本発明は、α-(ハロ)フェニル酢酸のキラルエステル誘導体の合成法を提供する。α-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を立体選択的に生成するように、α-(ハロ)フェニル酢酸上のキラルエステルが3-トリフルオロメチルフェノールのアルキル化を導く。従って、本発明の方法を用いて生成される化合物は、例えば米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号で開示されたもののようなα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を高収率で生成するのに有用である。特に、本発明の化合物および方法は(-)-ハロフェナートの生成に有用である。
【0033】
III. 立体選択的合成
上述のとおり、以前の(-)-ハロフェナート生成のための立体選択的プロセスは多段階工程を要し、結果としてもたらされる組成物が低収率であるか、または商業的に実現するためには不十分な光学純度のものである。しかしながら、本発明の発明者らは、本明細書において開示されたある一定の条件下で、ほとんど単離工程なしで、十分な光学純度のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を高収率および高い光学純度で生成できることを見出した。類似化合物の臭素による臭素化では高収率な結果を得られておらず、このような高い収率は異例のことである(Harpp ら、J. Org. Chem. 40(23): 3420 (1975) 参照)。このように、一局面において、本発明の方法は、置換フェニル酢酸を活性化し、臭素で臭素化し、さらにエステル化することで、結果としてキラルなα-ハロフェニル酢酸エステル中間体を高収率でもたらすという、本発明の発明者らによる、驚くべき予期しない発見に基づくものである。
【0034】
次いで、この中間体はα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を立体選択的に生成するために用いることができる。特に、本発明の方法はα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体の所望の鏡像異性体を、少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、最も好ましくは少なくとも約70%の収率で提供する。特に、本発明の方法は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の所望の鏡像異性体を、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約97%、最も好ましくは少なくとも約98%の光学純度で提供する。
【0035】
下記のスキーム2に、例えばxivのような、α-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体の立体選択的生成方法のひとつを、おおまかに以下のスキーム2に示す。

スキーム2:経路の概略

【0036】
このように、フェニル酢酸 x を活性化カルボン酸誘導体に変換した後、臭素でハロゲン化することにより、2工程でα-ブロモフェニルアセチルハライド xi を得ることができる。該フェニル酢酸は、好ましくはハロフェニル酢酸、より好ましくは4-ハロ-フェニル酢酸、およびより好ましくは4-クロロ-フェニル酢酸である。
【0037】
本発明で用いるために適したカルボン酸活性化剤の例示としては、例えば塩化チオニル(SOCl2)等のチオニルハライド、例えばトリフルオロ酢酸無水物(TFAA)等の無水物、およびチオエステル発生試薬等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該カルボン酸活性化剤は、好ましくはチオニルハライド、およびより好ましくは塩化チオニルである。それは透明な液体として市販されており、無溶媒でまたは適合する溶媒中で用いてもよい。
【0038】
次いで、酸ハライドを、R1がキラルアルコール補助基であるキラルエステル xiii に変換する。下記の実施例の部分に開示されるキラル補助基を含む、多種多様のキラル補助基を用いることができる。好ましくは、用いられるキラル補助基は、結果としてα-(フェノキシ)フェニル酢酸のひとつのジアステレオマーのみを産生する。鏡像異性的に高く富化されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を得るために、鏡像異性体キラルアルコール補助化合物それ自体が十分な鏡像異性体純度のものであるべきだと認識すべきである。このようにして、例えば、キラル補助基を除去することにより、α位でのひとつの鏡像異性体が容易に産生される。特別な一態様において、キラル補助基は式:

のキラルアルコール化合物である。好ましくは、キラルアルコールは、式:

を有する。
【0039】
例えば水酸化物等の塩基存在下での、適切に置換されたフェノール化合物 xii との、エステル xi の置換反応は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル xiii を与える。該置換反応で用いられる塩基の例示としては、例えば水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物;例えばリチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、および水酸化ナトリウム等のアルコキシド等;例えば水素化リチウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム等の水素化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル xiii の加水分解により、α-(フェノキシ)フェニル酢酸 xiv を得る。用いられ得る加水分解剤の例示としては、例えば水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物;例えばリチウムヒドロペルオキシド、カリウムヒドロペルオキシド、ナトリウムヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
下記のスキーム3に、この合成経路をより具体的に示す。

スキーム3:ハロフェン酸の立体選択的合成

例えば、4-クロロフェニル酢酸 1 を塩化チオニルで処理することにより、カルボン酸を活性化することができる。次いで、これを臭素で処理することにより、4-クロロフェニル酢酸=クロリドを形成させることができる。エステル化は、(S)-N,N-テトラメチレンラクトアミド 2 を用いて、簡便に行われる。反応がひとつの反応器中での一回の単離工程のみで簡便に行われるため、この反応順序は特に有益である。水酸化カリウム存在下での、3-トリフルオロメチルフェノール 4 との、エステル 3 の置換反応は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル 5 を与える。水酸化リチウムを用いた、α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル 5 の加水分解により、α-(フェノキシ)フェニル酢酸 6 を得る。このようにして、(4-クロロフェニル)-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)-酢酸、すなわちCPTAは、5工程で、続いてヘプタンから再結晶化することにより約73%の収率で調製することができる。
【0042】
このように一態様において、本発明は、
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
R2がそれぞれ独立して、(C1-C4)アルキル、ハロ、(C1-C4)ハロアルキル、アミノ、(C1-C4)アミノアルキル、アミド、(C1-C4)アミドアルキル、(C1-C4)スルホニルアルキル、(C1-C4)スルファミルアルキル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)ヘテロアルキル、カルボキシ、およびニトロからなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
添え字mが、0から3の整数であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(I):

の化合物を生成する方法を提供する。該方法は、一般的に以下の工程を包含する。
(a) 式(II):

の化合物のカルボン酸を、適合する溶媒中で、カルボン酸活性化剤を用いて活性化する工程;
(a) 式(II):

の化合物を、適合する溶媒中で、チオニルハライド、無水物、およびチオエステル発生試薬からなる群より選択されるカルボン酸活性化剤と接触させる工程;
(b) 工程 (a) の生成物を、適合する溶媒中で、臭素で臭素化する工程;
(c) 工程 (b) の生成物を、適合する溶媒中で、

からなる群より選択されるキラルアルコールでエステル化する工程。
【0043】
本発明の発明者らは、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の調製において用いられる臭素化剤が単離の容易性とプロセスの総収率に有意な効果を与えることを見出した。例えば、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を産生するプロセスにおいて臭素を用いる場合、他のハロゲン化剤を用いるよりも、より高い総収率が得られる。用いられるハロゲン化剤の量は特に重要ではない。用いられる量は、通常は1.00モル当量を上回り、好ましくは約1.5モル当量以上、より好ましくは約1.55モル当量である。
【0044】
該反応は通常、適合する溶媒中で実施される。適合する溶媒は、反応条件に対して不活性な溶媒であり、反応物質を容易に溶解できる溶媒である。上記の反応に適した溶媒は当業者にとって公知である。例えば、カルボン酸活性化、臭素化、およびエステル化反応に適した溶媒としては、例えばハロゲン化アルカン、テトラヒドロフラン、芳香族炭化水素、ジアルキルエーテル、およびこれらの混合物等の非プロトン性溶媒等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい溶媒はハロゲン化アルカンであり、より好ましくは1,2-ジクロロエタンである。
【0045】
一態様において、臭素化のプロセスは反応混合物を約70℃から溶液の沸点、好ましくは約80℃から約85℃の範囲の温度に加熱することを包含する。加熱は反応が完結するまで行われ、通常は約1時間から約24時間、好ましくは約2時間から約18時間の範囲である。より低い温度では、より長い反応時間を要し得る。本発明の方法における該反応または他の反応の進行を、例えばHPLCによって観察し、未反応の出発試薬の量が約1%以下である場合に、反応が完結したと判断できるということは、当業者にとって容易想到なことであろう。
【0046】
臭素はキラルアルコール補助基の添加の前に除去できる。これは反応器に吸引ポンプを接続して、減圧下で臭素を除去することにより成し得る。除去の圧力、速度、および度合いは特に重要ではない。
【0047】
溶液はキラルアルコール補助基を添加する前および/または後に冷却できる。これはエステル化反応の発熱性を考慮するものである。反応溶液の冷却の速度および量は特に重要ではない。一態様において、エステル化反応は反応混合物を約0℃から室温の範囲の温度に冷却することを包含する。反応は完結するまで行われ、通常は約5分間から約60分間の範囲であり、通常は約30分間である。
【0048】
一態様において、この方法はひとつの反応器中で成し得る。別の態様において、最終物である、式(I)の化合物のみが単離される。
【0049】
特に、本発明の方法は、式中、R3がハロアルキルであり、R2がハライドである、式(V):

のα-(フェノキシ)フェニル酢酸の合成における中間体を対象とするものである。特別な一態様において、本発明の方法は式Iの、または好ましくは、R2がクロロである式Vの、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の合成を対象とするものである。別の態様において、本発明の方法は式Iの、または好ましくは、R3が好ましくはトリフルオロメチルである式Vの、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の分解を対象とするものである。さらに本発明の別の態様において、該方法は、R2がClでありかつR3がCF3である式Vの化合物、例えばハロフェン酸の立体選択的合成を対象とするものである。
【0050】
特別な一態様において、
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合に1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合に2であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(IV):

のα-(置換)フェニル酢酸化合物が、キラル補助基を用いて合成される。上記の式IおよびIVの化合物では、R1

であるものが特に好ましい。
【0051】
予期せずに、
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(IV):

のα-(置換)フェニル酢酸化合物が、高い立体選択性および高収率で生成される。経済的に望ましいため、本発明の方法は、所望の鏡像異性体を少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、および最も好ましくは少なくとも約75%の収率で提供する。
【0052】
一態様において、該化合物は、式中、破線および太い線が化合物の相対立体化学を示す、

からなる群より選択される。別の態様において、該化合物は、式中、破線および太い線が化合物の絶対立体化学を示す、

からなる群から選択される。
【0053】
本発明の方法は、ハロフェン酸の(-)-鏡像異性体の富化に関して論じるものであるが、同時に、本発明の方法はまた(+)-鏡像異性体を富化させることにも適用可能であることに注意すべきである。本発明の方法は本質的に、キラル補助基の鏡像異性的富化および反応の立体選択性に基づいて、(-)-鏡像異性体に富んだ化合物を提供する。(+)-鏡像異性体の使用は、キラルアルコール補助基の反対の鏡像異性体を使用することによって容易に達成される。例えば、(+)-鏡像異性体は(R)-N,N-テトラメチレンラクトアミドを使用することによって産生できる。
【0054】
キラル補助基は、上述の変換工程から回収され、再使用/再生利用できる。従って、本発明のプロセスは再生利用型の手法に容易に適用しやすい。
【0055】
IV. キラルアルコール補助基の合成
キラルアルコール補助基 2 のひとつの生成方法を下記のスキーム4に示す。

スキーム4: キラル補助基の合成

【0056】
乳酸エステル 7 の、過剰の適当な環状アミンとの反応は、キラル補助基 2 を与える。エステルの当量に対して過剰の環状アミンを用いることにより、変換は高くなり、ラセミ化の量は最小限に抑えられる。例えば、ピロリジン 8(すなわち、式中R6が一緒になって五員環を形成したもの)は、ピロリジンが乳酸エステルにとって良い溶媒であり反応が無溶媒で簡便に行われるため、特に有益である。この方法において、(S)-N,N-テトラメチレンラクトアミドを1工程で約95%の収率で調製することができる。
【0057】
V. 鏡像異性的に富化したα-(フェノキシ)フェニル酢酸の有用性
鏡像異性的に純粋なα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物は、様々な薬学的に活性な化合物の調製に有用な中間体であり、米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に開示されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を含む。従って、本発明の別の局面は、式中、R3がアルキルまたはハロアルキルであり、R2がハロであり、R7がヘテロアルキル、好ましくはN-アセチル 2-アミノエチル(すなわち、式-CH2CH2NHC(=O)CH3の部分)である、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物 式Vから、式

のα-(フェノキシ)フェニルアセタート化合物をエナンチオ選択的に生成する方法を提供する。該方法は、上述の式Vのα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の立体選択的合成、および鏡像異性的に富化したα-(フェノキシ)フェニル酢酸のカルボン酸活性化試薬との反応を包含する。適したカルボン酸活性化試薬としては、チオニルハライド(例えば、塩化チオニル)、無水物(例えば、TFAA)、チオエステル発生試薬、および当業者にとって公知であるその他のカルボン酸活性試薬が挙げられる。
【0058】
次いで、活性化したα-(フェノキシ)フェニル酢酸を、式(R7-O)wMの化合物、例えばN-アセチルエタノールアミン誘導体と反応させることにより、鏡像異性的に富化した、式中R7が上記と同義であり、Mが水素または金属、例えばNa、K、Li、Ca、Mg、Cs等であり、添え字wがMの酸化状態である、式VIのα-(フェノキシ)フェニルアセタート化合物を生成する。本発明の発明者らは、活性化された酸と式(R7-O)wMの化合物の間の反応がいかなる有意なラセミ化をも起こすことなく、行うことができることを発見した。
【0059】
本発明の付加的な目的、利点、および新規な特徴は、これらに限定するものではないが、後述の実施例を試すことで当業者に明確になるであろう。
【0060】
実施例
試薬と実験準備
特に明記しない限り、試薬および溶媒はAldrich ChemicalまたはFisher Scientificから購入した。操作は陽窒素雰囲気下で実施した。循環加熱冷却システムに接続したCamileプロセスコントロールコンピュータを、ジャケット付きの直線的な壁で囲まれた底部ドレイン付きガラス反応器(jacketed straight-walled bottom-drain glass reactors)内のジャケット温度を調整するために使用した。特に明記しない限り、溶媒は15から25 torrで、40℃までの浴温で、Buchiロータリーエバポレーターを使用して除去した。固体試料は、真空オーブン中、40℃、15から25 torrで乾燥させた。Cenco HYVAC真空ポンプを、真空蒸留のために1 torr未満の真空状態を供給するために使用した。水分量は、Metrohm 756 KF CoulometerおよびHYDRANAL Coulomat AG 試薬を使用したカール・フィッシャー分析により測定した。融点は、Mettler Toledo FP62融点装置を使用して測定した。pHは、校正したOrion Model 290A pH計を使用して測定した。プロトンと13C NMRスペクトルは、Bruker Avance 300 MHz分光計で記録した。
【0061】
移動相に溶解した10 μLの試料を(R,R)WHELK-O 1.5 μm 250 × 4.6 mm カラム(Regis Technologies)上に注入し、95/5/0.4(v/v/v)のヘキサン/2-プロパノール/酢酸を用いて流速1.0 mL/分で溶離させることにより、キラルHPLC分析をλ=240 nmで行った。
【0062】
移動相に溶解した5 μLの試料をPhenomenex LUNA 5 μm C18(2) 250 × 4.6 mm カラム上に25℃で注入することにより、アキラルHPLC分析をλ=220 nmで行った。66 vol% 水/34 vol% アセトニトリル/0.1 vol% トリフルオロ酢酸で始まり、26 vol% 水/74 vol% アセトニトリル/0.1 vol% トリフルオロ酢酸に20分間で直線的に増やす、流速1.5 mL/分のグラジエントを使用した。
【0063】
例えばハロフェナート等のエステルの酸性溶液の分析には、注入溶媒としてアセトニトリルを使用した。測定時、ハロフェナートの生成物の濃度は、外部標準法および2.5 mg/mL以下の試料濃度でのアキラル分析手順を用いて、HPLCアッセイによって評価した。
【0064】
実施例 1:キラルアルコール補助基の合成
(S)-N,N-テトラメチレンラクトアミド (2)
0℃でピロリジン(120 g, 1.69 mol; 2 eq.)を(S)-(-)-乳酸エチル100g(0.847 mol)に滴下し、室温で3日間攪拌した。過剰のピロリジンおよび生じたエタノールを真空で除去した後、油状残渣を蒸留(104℃, 2 mmHg)により精製し、(S)-N,N-テトラメチレンラクトアミド (2) 113 g(93%)を淡黄色オイルとして得た。

【0065】
実施例 2:(-)-ハロフェナート (6) の調製
化合物 (3) の調製
オイルバスに浸して、滴下漏斗およびコンデンサーを取り付けた、2Lの3つ口フラスコで空気さらした状態のものに、無水1,2-ジクロロエタン500mL、4-クロロフェニル酢酸(174.04 g 98%, 1.0 mol (Acros))を一度に、DMF(0.40 mL, ca. 0.5 mol%)を一度に、および塩化チオニル(95 mL, 1.3 mol, 1.3 eq.)を、約1分間かけて添加した。得られた混合物を15分間かけて70℃(オイルバスの温度)に加熱した。加熱(約40〜45℃)後、およそ5分でガスが激しく発生し始めた。激しいガスの発生がゆっくりとなって安定し、その後ガスの発生は止まった。70℃で2時間攪拌した後、臭素(80 mL, ca. 249 g, 1.55 mol; 1.55 eq.)を、得られた淡黄色の溶液に(65℃で)約1分間かけて添加し、褐色溶液を得た。反応物を80℃から85℃(オイルバスの温度)で、終夜攪拌(約18時間)し、次いで室温まで冷却した。このα-ブロモ酸クロリド溶液を室温で保存し、さらなる精製をせずに次のエステル形成工程に用いた。
【0066】
上記で調製した未精製の酸クロリド(138 g, 〜0.138 mol)の1,2-ジクロロエタン溶液を、1,2-ジクロロエタン100 mLで希釈した。溶液の残量が約100mLになるまで真空で留去することにより、過剰の臭素を除去した。次いで酸クロリド溶液を、(S)-N,N-テトラメチレンラクトアミド(20.1 g, 0.140 mol)およびトリエチルアミン(14.78 g, 0.147 mol)の1,2-ジクロロエタン100 mLの溶液に、0℃で滴下した。得られた褐色混合物を1時間かけて室温まで温めた。反応混合物を水(100 mL)でクエンチし、有機層を分離し、10% Na2S2O3 100 mL、次いで飽和NaHCO3(100 mL)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、次いで真空で濃縮して、未精製の生成物45.8 gを褐色オイルとして得た。これはさらなる精製をせずに次の工程に用いた。
【0067】
化合物 (6) の調製
α,α,α-トリフルオロ-m-クレゾール(3.3 g; 0.0204 mol)の無水THF(20 mL)溶液に、室温で、リチウムtert-ブトキシド(1.0 M THF溶液20 mL; 0.02 mol)を滴下した。得られたリチウムフェノキシド溶液を、臭化物 3(未精製物、7.5 g; 0.02 mol)のTHF 40 mL溶液に-5℃で滴下した。-5℃で1時間攪拌した後、過酸化水素(Fisher 30%; 105 mL, 0.4 mol)およびLiOH・H2O(21g, 0.05 mol)を水(50 mL)に予め混合した溶液を、室温で20分間かけて添加した。反応物を0〜4℃で1時間攪拌し、飽和亜硫酸水素ナトリウム液(150 mL)でクエンチして、次いで1N HClを添加して、溶液のpH値を約2に調整した。THFを真空で留去し、次いで反応混合物をEtOAc(100 mL)で希釈した。有機層を水および食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮して未精製の酸7gを得た。未精製の酸をヘプタンで結晶化し、白色固体4.6gを得た。キラルHPLC分析 96.5:3.5 鏡像異性体。
【0068】
ハロフェン酸の調製は、上記で列挙した他のキラル補助基を用いて、同様の条件で行うことができる。
【0069】
実施例 3:ハロフェナート (6) の別の調製
α,α,α-トリフルオロ-m-クレゾール(6.71g; 0.041 mol)の無水THF(20 mL)とトルエン(30 mL)の溶液に、室温で、水酸化リチウム水和物(1.68 g, 40 mmol)を添加した。1時間後に溶媒を除去し、残渣を無水THF(30 mL)30 mLに溶解した。得られたリチウムフェノキシド溶液を、臭化物 3(未精製物、14.9 g; 0.04 mol)およびNaI(0.3g)のTHF 100 mL溶液に室温で攪拌しながら滴下し、-5℃で1時間、さらに-5℃から0℃で3時間。1H NMRは臭化物 3の消失を示した。
【0070】
過酸化水素(Fisher 30%; 209 mL, 0.8 mol)を、水酸化リチウム(4.2 g, 0.09 mol)の水(100 mL)の溶液に添加し、混合物を室温で20分間攪拌した。次いで、該溶液を、ラクトアミド 4の冷THF溶液に、0℃でゆっくり添加した。反応物を0〜4℃で1時間攪拌し、1N HClでクエンチしてpH値を2に調整した。THFを真空で留去し、次いで反応混合物をEtOAc(150 mL)で希釈した。有機層を水、飽和Na2S2O3および食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮して未精製の酸を得た。未精製の酸をヘプタンで結晶化し、白色固体8.4 gを得た。(キラルHPLCにより、99:1 の鏡像異性体が測定された)。
【0071】
本明細書において記載された実施例および態様は、単に例証を目的とするものであること、およびこれらを踏まえた様々な修正または変更が当業者に示唆され、これらは本願の精神および権限ならびに添付の請求項の範囲に包含されるものであることが理解される。本明細書において引用した全ての公開物、特許、および特許出願は、全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
R2がそれぞれ独立して、(C1-C4)アルキル、ハロ、(C1-C4)ハロアルキル、アミノ、(C1-C4)アミノアルキル、アミド、(C1-C4)アミドアルキル、(C1-C4)スルホニルアルキル、(C1-C4)スルファミルアルキル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)ヘテロアルキル、カルボキシ、およびニトロからなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
添え字mが、0から3の整数であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(I):

の化合物を調製するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 式(II):

の化合物を、適合する溶媒中で、チオニルハライド、無水物、およびチオエステル発生試薬からなる群より選択されるカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;
(b) 工程 (a) の生成物を、適合する溶媒中で、臭素で臭素化する工程;
(c) 工程 (b) の生成物を、式(I)の化合物を立体選択的に生成するために適合する溶媒中で、

からなる群より選択されるキラルアルコールでエステル化する工程。
【請求項2】
R1

である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(II)の化合物が4-クロロフェニル酢酸である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
カルボニル活性化剤がチオニルハライドである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
カルボニル活性化剤が塩化チオニルである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
臭素が式(II)の化合物のほぼ少なくとも約モル当量の濃度で存在する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶媒がハロゲン化アルカン溶媒である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶媒が1,2-ジクロロエタンである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
条件が、少なくとも約70℃の温度で臭素化が行われることを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)の前に減圧下で過剰の臭素を除去することをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ひとつの反応器中で実施される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式(I)の化合物のみが単離される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
式中、
R1が、

からなる群より選択される要素であり;
添え字nが、R1が式(a)または(b)を有する場合は1であり、R1が式(c)または(d)を有する場合は2であり;
が、ひとつの立体異性の配置において富む炭素を示し;かつ
波線が、R1の結合点を示す、
式(IV):

の化合物。
【請求項14】
式中、破線および太い線が化合物の相対立体化学を示す、式:

を有する群から選択される化合物。
【請求項15】
式中、破線および太い線が化合物の絶対立体化学を示す、式:

を有する群から選択される化合物。
【請求項16】
鏡像異性体過剰率が少なくとも約95%である、請求項14または15の化合物を含む組成物。

【公表番号】特表2009−515817(P2009−515817A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532404(P2008−532404)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/036928
【国際公開番号】WO2007/038243
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(504214280)メタボレックス インコーポレーティッド (21)
【Fターム(参考)】