説明

(メタ)アクリル酸の製造法

【課題】本発明は、急冷法と蒸留法とを併用することにより、従来の有機溶剤または水を用いた(メタ)アクリル酸の回収方法で得られる(メタ)アクリル酸溶液より高い(メタ)アクリル酸の濃度を有する(メタ)アクリル酸溶液として(メタ)アクリル酸を回収し、精製工程におけるエネルギー効率を高め、かつ経済性に富む(メタ)アクリル酸の製造法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレインよりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応原料を接触気相酸化反応させて得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する装置であって、前記(メタ)アクリル酸含有混合ガスを下記の急冷塔に循環される(メタ)アクリル酸水溶液により凝縮させる急冷塔であって、急冷塔の塔底で得られた(メタ)アクリル酸水溶液を排出するラインと、前記得られる(メタ)アクリル酸水溶液の一部を急冷塔上部に循環させるラインと、を含む急冷塔と、急冷塔において未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔の塔頂から排出して下記の蒸留塔に送るラインと、前記未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガス中の水分含有不純物成分を塔底加熱により蒸留し、分離する蒸留塔と、蒸留塔の塔底で得られる(メタ)アクリル酸溶液を蒸留塔から後工程に送るラインと、を含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸の回収装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル酸の製造法に係り、より詳細には、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレインよりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応原料を接触気相酸化反応させて得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する工程を採用した(メタ)アクリル酸の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の工業的な(メタ)アクリル酸の製造法では、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び/または(メタ)アクロレインを水蒸気の存在下で固相不均一酸化触媒を用いて部分酸化することにより(メタ)アクリル酸を得る。かような酸化法により(メタ)アクリル酸を得る場合、(メタ)アクリル酸の他に水や未反応のプロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレイン、酢酸、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、マレイン酸、プロピオン酸、フルフラールなどの不純物が副生する。このような副生不純物を含む(メタ)アクリル酸含有混合ガスは、一般に、吸収溶剤に接触させて(メタ)アクリル酸溶液として集めた後、蒸溜などの方法により溶剤を分離し、次いで軽質物及び重質物成分を選別分離し、精製する。
【0003】
従来の(メタ)アクリル酸を含有するガスから(メタ)アクリル酸を吸収溶剤により回収する方法としては、有機溶剤を用いる方法(米国特許第3,932,500及び6,498,272)と、水または水溶液を溶剤として用いる方法(日本特公昭51−25602及び日本特開平9−157213)とに大別できる。このような回収方法の先行技術では、いずれもアクリル酸含有ガスからアクリル酸が効率よく得られる方法を開示しており、方法によって回収される溶液中のアクリル酸の濃度に差をみせている。
【0004】
米国特許第3,932,500号では、高い沸点の疎水性有機溶剤を用いてアクリル酸含有反応生成ガスからアクリル酸を吸収し、吸収された溶液からアクリル酸を回収して溶剤を吸収塔に再循環させる技術が提案されている。この工程では、吸収塔の塔底のアクリル酸の濃度が6ないし15重量%と比較的に低い濃度を有し、吸収溶液に含まれる水は約5重量%であり、吸収塔から流出されるガス中のアクリル酸は約1%のアクリル酸の濃度損失を示す。吸収塔の塔頂におけるアクリル酸の損失(〜1%)は工程の経済性につながるだけに、損失無しに後工程へアクリル酸を導いていくことは重要である。また、大規模の生産量を有する工程ほど損失分に対する経済的な負担は高まらざるを得ない。アクリル酸の吸収度をさらに高めるためには、吸収のための溶剤の流量を増す必要がある。しかし、この場合、吸収塔の塔底で得られる溶液中のアクリル酸の濃度が下がり、この結果、後工程において分離処理すべきアクリル酸以外の溶剤の流量が増えてしまい、効率的ではない。
【0005】
日本特公昭51−25602号公報では、アクリル酸反応生成ガスを水により吸収し、吸収塔から排出される窒素及び酸素、水分の一部を反応器に戻し、接触酸化反応に必要なガスの濃度を調整するのに再利用する技術が提案されている(図4参照)。この方法では、吸収塔において水によりアクリル酸を集めるため、反応器に必要な水分の循環供給が可能であるという長所がある。また、吸収塔の塔底におけるアクリル酸の濃度は40ないし80重量%であるが、通常は60ないし70重量%である。吸収塔の塔頂から排出されるアクリル酸の損失は、上述した有機溶剤による吸収法に比べて低い値を示す。
【0006】
また他の回収方法として、アクリル酸を含む溶液を急冷してアクリル酸を回収する方法を、上述した水または水溶液、或いは有機溶剤を用いてアクリル酸を吸収する方法と併用する方法(ヨーロッパ特許9,545、米国特許4,554,054及び6,498,272)が挙げられる。例えば、接触気相酸化反応により得られる150ないし200℃の高温のアクリル酸含有ガスを60ないし150℃のアクリル酸含有溶液で急冷し、凝縮していない気体は排出されて、次の段階で溶剤を用いて吸収することで回収する方法である。ヨーロッパ特許9,545では、アクリル酸含有ガスを第1次急冷させた後に水で吸収する方法において、分離型で順次的な回収方法及び一体化した回収方法を提案しており、前記回収装置の塔底におけるアクリル酸水溶液中のアクリル酸の濃度は、60重量%程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,932,500号明細書
【特許文献2】米国特許第6,498,272号明細書
【特許文献3】特公昭51−25602号公報
【特許文献4】特開平9−157213号公報
【特許文献5】米国特許第3,932,500号明細書
【特許文献6】特公昭51−25602号公報
【特許文献7】欧州特許第9,545号明細書
【特許文献8】米国特許第4,554,054号明細書
【特許文献9】米国特許第6,498,272明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
接触気相酸化反応により得られた生成ガスからの(メタ)アクリル酸の回収率を高めつつ、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液として回収する方法では、以降の精製工程で処理すべき副生物及び不純物の量を低減させ、工程の経済性を高めることができる。最近の一般の(メタ)アクリル酸の精製工程が蒸留を用いる方法であることを勘案するに、エネルギーの消耗が大きい蒸留工程における副生物及び不純物の量を低減させることは、工程の経済性の評価の面で重要な部分を占める。従って、本発明は、(メタ)アクリル酸の濃度を極大化する回収方法を提供することを目的とする。
【0009】
一方、急冷法では、比較的に高い濃度の(メタ)アクリル酸が得られるが、急冷温度によって回収される(メタ)アクリル酸溶液の濃度が変わり、溶剤を用いた吸収法に比べ回収される(メタ)アクリル酸の量が非常に少量であるという短所がある。また、急冷法だけでは回収し切ることが困難であるため、吸収法との併用を強いられ、急冷法で得た高濃度の(メタ)アクリル酸溶液が吸収法で得た比較的に低濃度の溶液と混じり合うため、得られたアクリル酸溶液の濃度面でその効果が半減する。
【0010】
従って、本発明は、急冷法と蒸留法とを併用することにより、従来の有機溶剤または水を用いた(メタ)アクリル酸の回収方法で得られる(メタ)アクリル酸溶液より高い(メタ)アクリル酸の濃度を有する(メタ)アクリル酸溶液として(メタ)アクリル酸を回収し、精製工程におけるエネルギー効率を高め、かつ経済性に富む(メタ)アクリル酸の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレインよりなる群から選ばれた少なくとも1種の反応原料を接触気相酸化反応させて得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する工程を含む(メタ)アクリル酸の製造法において、前記回収工程は、前記(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔に供給し、急冷塔において凝縮させてその塔底で(メタ)アクリル酸水溶液を得る段階であって、前記得られる(メタ)アクリル酸水溶液の一部を急冷塔に循環させて(メタ)アクリル酸含有混合ガスを凝縮するのに用いる第1段階と、急冷塔において未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔から排出して蒸留塔に送る第2段階と、蒸留塔において塔底加熱により前記未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガス中の水分含有不純物成分が蒸気となって塔内を上昇して塔頂へ到達し、排出される第3段階と、を含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造法を提供する。
【0012】
また、本発明は、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレインよりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応原料を接触気相酸化反応させて得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する装置であって、前記(メタ)アクリル酸含有混合ガスを下記の急冷塔に循環される(メタ)アクリル酸水溶液により凝縮させる急冷塔であって、急冷塔の塔底で得られた(メタ)アクリル酸水溶液を排出するラインと、前記得られる(メタ)アクリル酸水溶液の一部を急冷塔上部に循環させるラインと、を含む急冷塔と、急冷塔において未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔の塔頂から排出して下記の蒸留塔に送るラインと、前記未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガス中の水分含有不純物成分を塔底加熱により蒸留し、分離する蒸留塔と、蒸留塔の塔底で得られる(メタ)アクリル酸溶液を蒸留塔から後工程に送るラインと、を含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸の回収装置を提供する。
【0013】
本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造法は、接触気相酸化反応により得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する工程後に、水の分離工程、軽質物及び重質物の分離工程、2量体の分解工程などをさらに含みうる。
【発明の効果】
【0014】
以上で説明した本発明によれば、急冷法と塔底加熱による蒸留法とを併用することにより、従来の有機溶剤または水を用いた(メタ)アクリル酸の回収方法で得た(メタ)アクリル酸溶液に比べ、より高い(メタ)アクリル酸濃度を有する(メタ)アクリル酸溶液としての(メタ)アクリル酸を回収し、以降の精製工程における(メタ)アクリル酸の分離に要されるエネルギー、設備の節減により効率的でかつ経済的に(メタ)アクリル酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態による概略工程図である。
【図2】蒸留塔における(メタ)アクリル酸の濃度を高めるための本発明の変形例を示 す工程図である。
【図3】急冷塔で得られた(メタ)アクリル酸水溶液から(メタ)アクロレインを除去するための本発明のまた他の変形例を示す工程図である。
【図4】従来の吸収塔を含む(メタ)アクリル酸の回収工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による(メタ)アクリル酸の製造法について詳述する。
【0017】
<プロパン、プロピレン、イソブチレン及び/または(メタ)アクロレインの接触気相酸化反応工程(a)>
プロパン、プロピレン、イソブチレン及び/または(メタ)アクロレインを水蒸気の存在下で酸素、空気などの分子状酸素含有ガスと接触しつつ触媒酸化させると、(メタ)アクリル酸含有反応生成ガスが得られる。
【0018】
通常の酸化反応は、2段階で行われる。第1段階における触媒としては、プロピレン、イソブチレンを含む原料ガスを気相酸化し、主として(メタ)アクロレインが生成可能なものを使用し、第2段階における触媒としては、(メタ)アクロレインを含む原料ガスを気相酸化し、主として(メタ)アクリル酸を生成するものを使用する。公知の触媒は、第1段階においては鉄、モリブデン及びビスマスを含有する酸化物であり、第2段階においてはバナジウムを必須成分とするものである。酸化反応の温度は、通常、200〜400℃の範囲である。
【0019】
プロパンからアクリル酸を製造する場合は、プロパンをプロピレンに、プロピレンをアクロレインに、そしてアクロレインをアクリル酸に反応させる。なお、プロパンからアクロレインに直接的に酸化させる方法もある。
【0020】
<急冷塔工程(b)>
これは、前記(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔(A)にライン(1)により供給し、これを急冷塔において迅速な循環と冷却により凝縮させ、急冷塔の塔底から(メタ)アクリル酸水溶液をライン(2)によって得る工程であって、このようにして得られる(メタ)アクリル酸水溶液の一部を急冷塔上部に循環させ、(メタ)アクリル酸含有混合ガスを凝縮するのに使用する。
【0021】
この(メタ)アクリル酸含有混合ガスは、酸化反応により副産物として生成される水だけでなく、反応器に原料とともに導入される水分などにより多量の水蒸気を含むため、この(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔において凝縮させれば、温度、圧力条件によって熱力学的な特性に基づいてその一部が(メタ)アクリル酸水溶液となり、残りはそのまま急冷塔から抜け出る。このようにして得られた(メタ)アクリル酸水溶液の一部を冷却させながら急冷塔に循環させて急冷塔からの排ガスの温度を調節し、(メタ)アクリル酸含有混合ガスを冷却し、凝縮するのに使用することが好ましい。このとき、急冷塔の温度を高めれば、ガスに含まれている水が少量凝縮され、相対的に大量の水が蒸発できることから高い(メタ)アクリル酸濃度の水溶液が得られる一方、温度が低ければ、大量の水が共に凝縮され、少量の水が蒸発することから低い(メタ)アクリル酸濃度を有する水溶液が得られる。
【0022】
急冷塔に導入される(メタ)アクリル酸含有混合ガスは160〜200℃の高温であるために急冷塔の温度が上がることがある。このため、急冷塔の温度を保持するために急冷塔に循環される(メタ)アクリル酸水溶液を熱交換により冷却させることが好ましい。
【0023】
急冷塔の凝縮液の温度は65〜80℃に保持し、好ましくは、70〜78℃に保持する。なお、その温度が65℃未満であれば、冷却負荷が大きくてなって水が水蒸気として蒸発され難く、その温度が80℃を超えれば、(メタ)アクリル酸の重合問題が生じうる。
【0024】
反応副産物及び不純物として得られる物質のうち(メタ)アクロレインの残在は極めて重要である。プロピレンまたはイソブチレン酸化反応の第1段階の反応において主に生成される(メタ)アクロレインは重合能に極めて優れているため、それが微量存在しているとしても、以降の加熱による蒸溜工程中に重合され易く、これがライン詰まりを引き起こしうる。従って、急冷塔の塔底で得られる(メタ)アクリル酸水溶液は、ストリッピングなどの方法により(メタ)アクロレインだけでなく、低沸点の残余不純物を除去することが好ましい。急冷塔をできる限り高い温度にて運転することにより(メタ)アクロレインの濃度をさらに低く保持できるが、上述したように、(メタ)アクリル酸が得られ難くなるという不都合がある。70℃の運転条件下で得られる急冷塔の塔底での(メタ)アクリル酸水溶液中の(メタ)アクロレインは、約400ppmのレベルであり、ストリッピングなどの方法により完全に除去することができる。ストリッピングにより処理する場合、塔頂から得られる(メタ)アクロレイン及び水分、未反応原料物質及び副産物ガスなどの低沸点不純物などは、急冷塔の塔頂または蒸留塔のガス入口に循環させ、最終的には蒸留塔の塔頂からシステムの外部に排出することができる。
【0025】
<蒸留工程(c)>
急冷塔内で未凝縮の残りの(メタ)アクリル酸、水及び窒素などの不活性ガスなどの混合ガスが急冷塔の塔頂から蒸留塔Bに送られ、この蒸留塔では、塔底加熱により前記未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガス中の(メタ)アクリル酸以外の不純物と未凝縮成分が蒸気となって塔内を上昇して塔頂へ到達し、そこから排出する。蒸留塔の塔底から供給される熱により未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガスに含まれていた水が(メタ)アクリル酸に比べて相対的に蒸気圧が高いことから先に蒸発し、この結果、蒸留塔の塔底で得られる(メタ)アクリル酸水溶液の濃度が高くなる。
【0026】
急冷塔と吸収塔とを併用する従来の技術では、本発明の蒸留塔とは異なって、吸収塔における水の蒸留のための別の加熱工程が設けられていない。
【0027】
蒸留塔における塔底加熱は、蒸留塔の塔底におけるケトル(kettle)形態やサイフォン形態の直接加熱方法と外部からの間接的加熱方法(例えば、熱交換器またはリボイラー)により行うことができる。
【0028】
供給される熱量に応じて蒸留塔の塔底温度が決められるが、68ないし85℃に保持すればよく、好ましくは、70℃以上、より好ましくは、72〜78℃で運転する。(メタ)アクリル酸の重合を抑えるために導入される分子状酸素及び抑制剤で所定の効果は得られるものの、温度が上がれば、(メタ)アクリル酸2量体及び多量体の形成が避けられないため、適宜の温度を選定し運転する必要があり、前記温度は、実験により得られた結果に基づく。使用可能な重合禁止剤は、蒸留塔の成分により水溶性でなければならないため、水に溶解するものであればいずれも使用可能であるが、一般に知られて使用されているハイドロキノンであればよい。
【0029】
通常、水及び有機溶剤と反応生成ガスとを向流接触させる吸収法で(メタ)アクリル酸を回収する場合、得られる溶液中の(メタ)アクリル酸の濃度が、水の場合は40〜70重量%、有機溶剤の場合は10〜35重量%であるのに対し、本発明のように急冷塔および塔底加熱を有する蒸留塔より得られた水溶液の混合物から得られる(メタ)アクリル酸の濃度は、75〜90重量%である。より詳しくは、(メタ)アクリル酸75〜90重量%、酢酸1〜4重量%、各種の高沸点不純物0.2〜0.7重量%、及び水8〜20重量%であって、非常に高い濃度の(メタ)アクリル酸水溶液としての(メタ)アクリル酸が回収できる。本発明のように、(メタ)アクリル酸水溶液中の(メタ)アクリル酸の濃度が高い場合は、後工程で処理すべき不純物の水の量が格段に少なくなることからその処理に要されるエネルギーの節減につながり、精製工程において用いる方法の選択肢を増すことができる。例えば、(メタ)アクリル酸水溶液中の水の濃度が低い場合は、蒸留などの通常の方法よりは、結晶化を通じた(メタ)アクリル酸の直接的な回収が可能であり、膜分離を用いたエネルギーの消耗が極めて低い工程が選択可能となる。
【0030】
一方、蒸留塔の塔底での加熱により(メタ)アクリル酸に比して沸点の低い水を蒸発させることで塔底の水溶液中の(メタ)アクリル酸の濃度を高める過程において、水との化学的親和度が非常によい(メタ)アクリル酸が、水と共に蒸留塔の塔頂から排出され、(メタ)アクリル酸の損失につながることが見込まれる。水と共に排出される(メタ)アクリル酸の量が多ければ、(メタ)アクリル酸含有反応生成ガスからの(メタ)アクリル酸の高い回収率は望めない。かかる(メタ)アクリル酸の排出損失分を低減するためには、十分な気−液接触を通じて蒸留塔の塔頂に上昇する気相の(メタ)アクリル酸を、物質伝達により蒸留塔の塔頂から供給され塔底に向かって移動する液相水により下降させることで塔底から水溶液状態の(メタ)アクリル酸を得ることが好ましい。蒸留塔の塔頂から液を供給することなく、塔底から上昇流にて未凝縮ガスが通過する状態で蒸留塔の塔底加熱だけでは気−液接触形成による物質伝達が不可能である。従って、蒸留塔の構成のための還流として少量の水を蒸留塔の塔頂から供給し、蒸留が可能な向流気液接触を作ることが好ましい。また、特公昭51−25602号で提案されたように、蒸留塔の塔頂から排出される未凝縮成分ガスである窒素、酸素、未反応プロピレン、イソブチレン、及び(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸と水分が反応器に再循環されて再使用され、このうち、窒素と水分は特に重要な成分である。商業生産工程における大量供給される窒素の再循環は必須である。また、水分は、接触酸化反応に必要な成分の1種であって、水蒸気状態での反応器への供給をワンパス(one pass)で構成すれば、経済性が低下する。従って、再循環流から相当量の水分供給が行われることで省エネルギー化が可能である。この場合、必要とする水を給水源から供給することで蒸留塔の塔頂からの排ガス中の水分を15〜30体積%に合わせることが好ましい。不足分の水を給水源から供給し、蒸留塔の塔底から加えられる熱により蒸留塔内を上昇させることで塔頂の水分補充が行われる。
蒸留塔の塔頂から供給する水は、実質的に反応器に戻って水分を合わせる役割を果たすが、その量に制限はある。なぜならば、エネルギー収支に照らしてみて、蒸留塔の塔頂に供給された水分が気化するのに必要な熱量は、蒸留塔の塔底のリボイラーから得られ、これは、結局ところ、供給するスチームの消耗につながる。従って、スチームの消耗を低減するためには、適宜の量の水分を供給する必要がある。本発明者らが鋭意研究の結果、適宜の水分は、蒸留塔の塔頂からの排ガス中の15ないし30体積%の範囲、好ましくは、19ないし25体積%の範囲にあるように運転することが経済的であることを見出した。前記水分の組成に合わせるためには、蒸留塔の塔頂温度は55〜68℃であることが好ましい。
【0031】
蒸留塔の塔底及び急冷塔の塔底から得られる水溶液中の水分は、以降の水分離工程を経ることで回収され、これにより回収される水の一部は廃水処理され、一部は前記蒸留塔に再循環され再使用される。蒸留塔の塔頂に供給される水分は、新鮮な工程水と再循環の水との和が前記水分体積%の範囲内にあるようにして運転することが好ましい。
【0032】
蒸留塔の塔底温度を75℃に保持して運転した結果、排出される水分の量によって変わりはあったものの、塔頂温度は60〜68℃であり、このとき、排ガス中の水分濃度は20〜25体積%、アクリル酸濃度は0.5〜0.9体積%であった。
【0033】
蒸留塔としては、公知のプレート塔(plate tower)、ぬれ壁塔(wetted-wall tower)、パッキング塔(packing tower)などが使用可能であるが、通常、好ましくは、プレート塔やパッキング塔を使用し、最も好ましくは、パッキング塔を使用する。
【0034】
十分な気−液接触のためには、効率よい充填物を使用することが好ましい。十分な接触のための充填物(packing)として各種の充填物を使用することができ、非制限的な例としては、ガーゼ充填物またはMellapakのようなシートタイプの充填物、Flexigridのような格子充填物、ラシッヒ(Raschig)リング、ポール(Pall)リング、カスケード・ミニ・リング(cascade mini ring)のような任意の充填物などが挙げられ、物質移動及び蒸留塔の塔底と塔頂間の発生圧力差などを考慮して選ぶことが好ましい。本発明者らが鋭意研究の結果、構造化充填物(structured packing)を使用することが最もよいことが分かった。
【0035】
蒸留塔の塔底の(メタ)アクリル酸水溶液は、主として(メタ)アクリル酸、水、及び一部の副生不純物(例えば、酢酸)からなり、その組成は、塔底温度によって大きく変わる。蒸留塔の塔底温度を前記温度範囲のような条件にして運転する場合、ライン詰まりのようなトラブルを起こし易い(メタ)アクロレインのほぼ大半が蒸留塔の塔頂から排出可能である。蒸留塔の塔底の(メタ)アクリル酸水溶液中の(メタ)アクロレインの濃度は、蒸留塔の塔底温度75℃の条件で100ppm以下であり、この場合、急冷塔の塔底水溶液のストリッパでの処理といった低沸点物質の処理過程が省略可能である。運転条件の変化によって弾力的な運転を試みるために、分析により得られる(メタ)アクロレインの濃度に基づいて選択的にストリッパを使用するか、または省略することも可能である。
【0036】
急冷塔の塔底水溶液をストリッパで処理した水溶液と蒸留塔の塔底から得られた水溶液を、以降の(メタ)アクリル酸の精製工程、例えば水の分離、軽質物及び重質物の分離、熱分解工程を施すことで当該水溶液から(メタ)アクリル酸製品が得られ、これらの精製工程では、通常の方法を用いればよい。
【実施例】
【0037】
以下、添付した図面に基づき、本発明の具体例について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例を示す図であって、接触気相酸化反応により得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する装置を示す概略図である。
【0038】
まず、プロパン、プロピレン、イソブチレン及び/または(メタ)アクロレインを分子状の酸素により気相触媒酸化させて得られた反応生成ガスをライン1を介して急冷塔(A)に流入させる。急冷塔の塔底液は、強制循環方式で熱交換器において温度を下げて急冷塔の塔頂に戻す過程を経て高温の反応生成ガスを冷却させる。急冷塔の塔底に滞留している(メタ)アクリル酸水溶液をライン2を介して後工程の(メタ)アクリル酸の分離、精製部に送る。後工程においては、必要に応じて、(メタ)アクロレイン及びアルデヒド類などの低沸点の不純物をストリッピングにより留去することができ、蒸溜及び結晶化、膜分離などの(メタ)アクリル酸の分離、精製工程に利用可能なものであれば、何れも採用可能である。
【0039】
急冷塔において未凝縮の残りの(メタ)アクリル酸を含むガスは、蒸留塔Bにライン3を介して送られる。蒸留塔の塔頂においては、反応器水分調節用水がライン6を介して供給され、蒸留塔から排出される不活性の未凝縮ガス混合物は、ライン4を介して反応器に循環されるか、あるいは、廃ガス処理装置WGCISに送られる。
【0040】
蒸留塔の塔底においては、リボイラーを介して熱を供給することで水分を蒸留塔の塔頂から排出させることにより(メタ)アクリル酸水溶液の濃度を高める。このようにして得られた(メタ)アクリル酸水溶液は、ライン5を介して排出され、以降の(メタ)アクリル酸の精製工程に送られ、処理される。
【0041】
図2は、蒸留塔における水の蒸発を強めることで(メタ)アクリル酸水溶液中の(メタ)アクリル酸の濃度を高めるための応用例であって、蒸留塔の塔底から流出する(メタ)アクリル酸水溶液を、一部は塔底から排出し、一部は熱を供給することで蒸留塔の任意の位置に循環供給する方法を示している。
【0042】
図3は、急冷塔で得た(メタ)アクリル酸水溶液から(メタ)アクロレインのような低沸点物質を除去するための装置Cを配設し処理する方法を示している。処理装置Cからの排出流は、ライン7を介して急冷塔の塔頂に循環し、ライン8を介してシステムの外部に排出される。
【0043】
各図における例は個別的な方法の例示に過ぎず、これらの方法を組み合わせて実施してもよい。以下、実施例を挙げて本発明を一層詳細に説明するが、本発明の範囲が下記の実施例により限定されることではない。
【0044】
〔比較例1〕
分子状の酸素含有ガスを用いたプロピレンの気相触媒酸化により得られた反応生成ガスから、図4に示すような通常の吸収塔に導入し、水を用いてアクリル酸を吸収、捕集した。反応生成ガスの組成は、窒素+酸素の未凝縮成分が70.5重量%、未反応のプロピレン+プロパンが1.5重量%、二酸化炭素+一酸化炭素が2.8重量%、水が9.5重量%、アクリル酸が14.5重量%、そしてその他の凝縮成分が残余重量%であった。
【0045】
吸収塔装置としては、内径が200mmであるトレイカラムを使用し、酸化反応器の出口のラインに取り付けられた熱交換器により反応生成ガスを170℃に冷却して吸収塔の塔底に供給した。塔底のアクリル酸含有溶液を下から5段目にラインを介して循環させ、ライン上には循環液を冷却する熱交換器を取り付けた。カラムは何れも25段よりなり、塔頂からは温度55℃の水を供給し、塔頂の温度60℃、圧力1050mmHOにして吸収塔を運転した。吸収塔の上段部には、アクリル酸の吸収のために反応生成ガス中のアクリル酸対比70重量%にて水を供給した。このようにして集めた塔底のアクリル酸水溶液中の組成は、アクリル酸濃度が61.8重量%、塔頂から流出されるガス中のアクリル酸の損失分が1.8体積%、水分が18.4体積%であった。
【0046】
〔実施例1〕
比較例1に示すものと同じ組成のアクリル酸反応生成ガスを用いて実施した。急冷塔としては、直径が300mm、SUSリングで満たした高さ80mmのドラムを使用し、塔底液の一部をラインに回して塔頂に循環させ、ラインには熱交換器を取り付け、塔底液の温度を72℃にして運転した。急冷塔の塔頂から流出されるガスの組成は、窒素+酸素82.5重量%、アクリル酸12.5重量%、水9.8重量%、残部は不純物であり、温度は61.5℃であった。急冷塔からの流出ガスは、断熱されたラインを介して蒸留塔に導かれ、蒸留塔装置としては、比較例1に示すものと同様の直径200mm、高さ1350mmのガーゼパッキングが充填された充填カラムを使用した。蒸留塔の塔頂には、55℃の水を、実験を進めながら採集し分析した塔頂からの排出ガス中の水分組成が24体積%になるように調節して供給した。また、蒸留塔の塔頂温度65℃、圧力1050mmHOになるようにした。蒸留塔の塔底には、3リットルの大きさのフラスコを取り付け、これに熱を供給することで塔底からの流出液の温度が75℃になるようにした。急冷塔の塔底から得た水溶液中のアクリル酸の組成は79.2重量%、蒸留塔の塔底から得た水溶液中のアクリル酸の組成は72重量%であり、蒸留塔の塔頂からの排出ガス中のアクリル酸は0.9体積%であった。
【0047】
〔実施例2〕
蒸留塔の塔底のフラスコからアクリル酸水溶液をポンプで吸い出して熱交換器で80℃に加熱した後、該液の75重量%を蒸留塔の塔底から50cmの高さで積み上げたカスケード・ミニ・リング(cascade mini ring)層上に循環させることを除いては、実施例1と同条件で実施した。蒸留塔の塔頂温度は66℃、排ガス中のアクリル酸の濃度は1.1体積%であり、蒸留塔の塔底からのアクリル酸水溶液中のアクリル酸濃度は75重量%であった。
【符号の説明】
【0048】
A:急冷塔
B:蒸留塔
C:ストリッパ
1:反応生成ガスの供給ライン
2:急冷塔底液の流出ライン
3:急冷塔の未凝縮ガスの流出ライン
4:蒸留塔の排ガスライン
5:蒸留塔底液の流出ライン
6:反応器の水分調節用給水ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン、プロピレン、イソブチレン及び(メタ)アクロレインよりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応原料を接触気相酸化反応させて得られた(メタ)アクリル酸含有混合ガスから(メタ)アクリル酸を(メタ)アクリル酸水溶液として回収する装置であって、
前記(メタ)アクリル酸含有混合ガスを下記の急冷塔に再循環される(メタ)アクリル酸水溶液により凝縮させる急冷塔であって、急冷塔の塔底で得られた(メタ)アクリル酸水溶液を排出するラインと、前記得られる(メタ)アクリル酸水溶液の一部を急冷塔上部に再循環させるラインと、を含む急冷塔と、
急冷塔において未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガスを急冷塔の塔頂から排出して下記の蒸留塔に送るラインと、
前記未凝縮の(メタ)アクリル酸含有混合ガス中の水分含有不純物成分を塔底加熱により蒸留し、分離する蒸留塔と、
蒸留塔の塔底で得られる(メタ)アクリル酸水溶液を蒸留塔から後工程に送るラインと、
を含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−105776(P2011−105776A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45767(P2011−45767)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【分割の表示】特願2006−553067(P2006−553067)の分割
【原出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】