説明

(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造方法

【課題】(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩を、工業的規模でかつ安全に製造する方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程(A)〜(E)を包含することを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールまたはその塩酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の合成中間体として有用な(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールは医薬品の合成中間体として有用であり、例えば、この化合物を用いて合成される医薬品が特許文献1に記載されている。
(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールについて、種々の製法が提案されている。例えば、ラセミ2−アミノ−1−シクロペンタノールまたはその誘導体を、酵素を使用して不斉アシル化することにより、光学分割する方法(特許文献2および非特許文献1)、ラセミ2−アミノ−1−シクロペンタノールの誘導体を、光学分割剤を用いて光学分割する方法(非特許文献2および3)などが提案されている。また、不斉合成によって(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを製造する方法が提案されている(特許文献3)。
【0003】
しかしながら、特許文献2および非特許文献1に記載の方法は、原料の製造が煩雑であり、また生成物の光学純度が十分でないのでカラムクロマトグラフィー等により精製する必要があり、従って、工業的な方法とはいえない。
非特許文献2および3に記載の方法は、高価な光学活性ジベンゾイル酒石酸を使用しており、また、光学分割した結晶の光学純度が低く、従って、工業的な方法とはいえない。
特許文献3に記載の方法は、シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを、高価な光学活性BINAPとチタン化合物との存在下にて反応させる方法であるが、転換率、光学純度とも十分でなく、従って、工業的な方法とはいい難い。
【0004】
さらに、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造方法として、シクロペンテンから2−ブロモシクロペンタノールを経由して製造する方法(非特許文献4)や、シクロペンテンオキサイドから製造する方法(非特許文献2)が知られている。
しかしながら、非特許文献4に記載の方法は、シクロペンテンをジエチルエーテル−水溶媒中でN−ブロモスクシンイミド(NBS)を用いて2−ブロモシクロペンタノールとし、ついでアミン誘導体と反応させる方法であるが、収率が低く、従って、工業的な方法とはいい難い。
非特許文献2に記載の方法について、シクロペンテンオキサイドの製造方法としては、シクロペンテンをm−クロル過安息香酸で酸化する方法や、スルホラン、N−メチルピロリドンなどの高沸点極性溶媒中、多塩基性カルボン酸無水物と50%以上の高濃度過酸化水素とにより酸化する方法(特許文献4)などが知られているが、高価な試薬あるいは高濃度の過酸化水素水を使用するため、工業的な方法でなく、また安全防災上の懸念がある。
このため、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩を工業的規模でかつ安全に製造する方法が望まれている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第7074923号
【特許文献2】米国特許第6214608号
【特許文献3】特開2003−206266号公報
【特許文献4】米国特許第4590286号
【非特許文献1】テトラへドロン アシメトリー(Tetrahedron Asymmetry)8,18,3153〜2319,1997
【非特許文献2】カナディアン ジャーナル オブ ケミストリー(Can.J.Chem)1977,55,4180〜4183
【非特許文献3】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem)2006,71,2320〜2331
【非特許文献4】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem)1993,58,4662〜4672
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを工業的規模でかつ安全に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを工業的規模でかつ安全に製造し得る方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1)ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含することを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造方法。
(2)ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸と反応させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を得る工程、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩にアルカリを作用させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化して(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを得る工程を包含する上記(1)に記載の製造方法。
(3)アルカリが水酸化カリウムである上記(2)に記載の製造方法。
(4)R−(−)−マンデル酸をラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1モルに対して0.5〜0.7モルの割合で使用する上記(2)または(3)に記載の製造方法。
(5)シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)シクロペンテンより、無水フタル酸と過酸化水素水とを用いてシクロペンテンオキサイドを得る工程、シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する上記(5)に記載の製造方法。
(7)シクロペンテンより、o−ジクロロベンゼン中、炭酸カリウムの存在下で無水フタル酸と約35%濃度の過酸化水素水とを用いてシクロペンテンオキサイドを得る工程、シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する上記(6)に記載の製造方法。
(8)ベンジルアミンをシクロペンテンオキサイド1モルに対して0.9〜1.05モルの割合で使用する上記(5)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法により得られる(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素とを反応させることを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩の製造方法。
(10)(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素との反応を、2−プロパノール中または2−プロパノールとトルエンとの混合溶媒中で行う上記(9)に記載の製造方法。
【0009】
本発明はまた、以下を含む。
(11)以下の工程(I)および(II)を包含することを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールまたはその塩酸塩の製造方法:
(I)ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割する工程、および
(II)(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中または2−プロパノールとトルエンとの混合溶媒中、脱ベンジル化する工程。
(12)工程(I)において、R−(−)−マンデル酸をラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1モルに対して0.5〜0.7倍モル量使用することを特徴とする上記(11)記載の製造方法。
(13)工程(I)において、2−プロパノールをラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1重量部に対して4〜6倍容量使用することを特徴とする上記(11)または(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)トルエンと2−プロパノールとの混合溶媒中、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素とを反応させる工程をさらに包含することを特徴とする上記(11)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(15)トルエンと2−プロパノールとの混合溶媒中のトルエンの比率が60〜10容量%であることを特徴とする上記(14)に記載の製造方法。
(16)シクロペンテンオキサイド1モルに対し、0.9〜1.05倍モル量のベンジルアミンを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程をさらに包含することを特徴とする上記(11)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(17)シクロペンテンを、o−ジクロロベンゼン中、炭酸カリウムの存在下で無水フタル酸と約35%濃度の過酸化水素水とを用いて酸化してシクロペンテンオキサイドを得る工程をさらに包含することを特徴とする上記(16)に記載の製造方法。
(18)以下の工程(A)〜(E)を包含することを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールまたはその塩酸塩の製造方法:
(A)シクロペンテンを、o−ジクロロベンゼン中、炭酸カリウムの存在下で無水フタル酸と約35%濃度の過酸化水素水とを用いて酸化してシクロペンテンオキサイドを得る工程、
(B)シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、
(C)ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール中、R−(−)−マンデル酸と反応させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を得る工程、
(D)(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩にアルカリを作用させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および
(E)(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化して(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを得る工程。
(19)工程(D)において、アルカリとして水酸化カリウムを使用することを特徴とする上記(18)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩を、工業的規模でかつ安全に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、以下に説明する工程(I)および工程(II)を含み、より具体的には、以下に説明する工程(A)から工程(E)を含む。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
上記スキーム中、(R)MAはR−(−)−マンデル酸を表す。
以下、各工程を具体的に説明する。
工程(I)(光学分割工程)は、工程(C)および工程(D)に対応し、工程(II)(脱ベンジル化工程)は、工程(E)に対応する。
【0015】
工程(A):シクロペンテンオキサイドの製造工程
シクロペンテンを、無水フタル酸と過酸化水素水とを用いて酸化することにより、シクロペンテンオキサイドが得られる。この酸化反応は、無水フタル酸と過酸化水素との反応によって生成する過酸化物(パーオキシカルボン酸)が酸化剤として作用すると考えられ、これが反応系内に多く蓄積しないよう、シクロペンテンと無水フタル酸とを含む溶媒中に過酸化水素水を滴下しつつ行うことが、安全防災上好ましい。原料のシクロペンテン、無水フタル酸および過酸化水素水は市販品を使用することができる。無水フタル酸の使用量は、シクロペンテン1モルに対し、通常1.1〜3.5モル、好ましくは1.2〜2.0モルの割合である。無水フタル酸の使用量が1.1倍(モル)未満であると、反応が遅くなり、また収率が低下し、3.5倍(モル)を超えると、使用量に見合う効果がなく、また反応液の攪拌性が悪くなる虞がある。過酸化水素水は、市販の約35%濃度のものを使用することが安全防災上好ましい。過酸化水素水の使用量(過酸化水素換算量として)は、シクロペンテン1モルに対し、通常1.05〜2.0モル、好ましくは1.1〜1.5モルの割合である。過酸化水素水の使用量が1.05倍(モル)未満であると収率が低下し、2.0倍(モル)を超えると反応系内に過酸化水素が多く残存し、安全防災上好ましくなく、また過剰の過酸化物(パーオキシカルボン酸)を分解させる試薬が多く必要となり経済的でない。この酸化反応は通常不活性溶媒中で行われ、溶媒としては、o−ジクロロベンゼン、モノクロロベンゼン、トルエン、酢酸エチル、酢酸メチルおよびこれらの混合溶媒が挙げられるが、反応液の攪拌性、経済性および安全防災上の観点からo−ジクロロベンゼンが好ましい。溶媒の使用量は、シクロペンテン1gに対して通常5〜22mL、好ましくは7〜12mLの割合である。
【0016】
また、上記酸化反応は、1,2−シクロペンタンジオールの副生を抑制するという観点から、炭酸カリウムの存在下で行うことが好ましい。炭酸カリウムの使用量は、シクロペンテン1モルに対して、通常0.01〜0.5モル、好ましくは0.05〜0.2モルの割合である。炭酸カリウムの使用量が0.01倍(モル)未満であると、反応が遅くなり、また1,2−シクロペンタンジオールが多く副生し、0.5倍(モル)を超えると過酸化水素の分解や副生物が多くなる虞がある。
【0017】
反応温度は、通常20〜38℃、好ましくは25〜35℃の範囲内である。反応温度が20℃未満であると反応が遅くなり、38℃を超えると安全防災上に懸念がある。反応時間は、反応基質および溶媒の使用量、反応温度等にもよるが、通常2〜12時間である。反応の進行は、ガスクロマトグラフィーで確認することができる。
【0018】
反応の後処理は、例えば、次の通りである。まず、反応系内に残存する過酸化物を、亜硫酸塩などの還元剤を加えて分解する。この過酸化物の分解は、通常0〜10℃で行う。過酸化物の分解は、ヨードでんぷん紙で確認することができる。ついで、目的生成物であるシクロペンテンオキサイドを含む反応液は、アルカリで洗浄する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、通常5〜20%濃度の水溶液を使用する。アルカリは、反応液のpHが9〜10の範囲になるまで加える。pHが9未満であると、フタル酸や過酸化物が目的生成物に混入する虞があり、pHが10を超えると、シクロペンテンオキサイドが分解する虞がある。ついで、有機層を分離し、水で洗浄する。
このようにして得られたシクロペンテンオキサイドを含む溶液は、そのまま次のベンジルアミンとの反応に供することができるが、蒸留によってシクロペンテンオキサイドを簡便に単離することができる。蒸留する場合、最初に原料を含む留分が留出し、次いでシクロペンテンオキサイドが留出し、最後に溶媒が残る。蒸留は、単蒸留または精留のいずれの蒸留法でもよい。
【0019】
工程(B):ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールの製造工程
シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させることにより、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールが得られる。この反応は、通常不活性溶媒中で行われる。溶媒としては、通常水が用いられるが、水とo−ジクロロベンゼンとの混合溶媒(重量比1:1程度)を用いてもよい。溶媒の使用量は、シクロペンテンオキサイド1gに対して通常2〜10mLの割合である。ベンジルアミンの使用量は、シクロペンテンオキサイド1モルに対して、通常0.9〜1.05モル、好ましくは1.0〜1.01モルの割合である。ベンジルアミンの使用量が0.9倍(モル)未満の場合は、反応が遅延する虞があり、1.05倍(モル)を超えると、ベンジルアミンが残存する。反応温度は、通常90〜110℃、好ましくは95〜110℃である。反応時間は、反応基質および溶媒の使用量、反応温度等にもよるが、通常2〜24時間である。反応の進行はHPLCで確認することができる。
【0020】
反応の後処理は、例えば、次の通りである。反応終了後、反応液を40〜50℃に冷却し、有機層を分液する。水層は、o−ジクロロベンゼン、トルエン等の有機溶媒で抽出する。得られた抽出液を先の有機層と合わせ、減圧濃縮して粗ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールが得られる。得られた粗ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールは、そのまま光学分割に供してもよいが、再結晶または蒸留によって精製してもよい。なお、光学分割におけるR−(−)−マンデル酸の使用量の観点から、未反応のベンジルアミンの含有量がラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールに対して2重量%を超える場合は、再結晶または蒸留によって精製してベンジルアミンの含有量を2重量%以下とすることが好ましい。
【0021】
工程(C):(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩の製造工程
ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸と反応させることにより、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩が得られる。本工程において、2−プロパノール溶媒とは、2−プロパノールを主成分とする溶媒をいい、通常、2−プロパノールを80重量%以上含む溶媒をいう。例えば、2−プロパノール溶媒として、2−プロパノール単独、または2−プロパノールとo−ジクロロベンゼンとの混合溶媒(重量比9:1程度)が使用される。溶媒の使用量は、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1gに対して、通常4〜6mLの割合、好ましくは4.5〜5.5mLの割合である。溶媒の使用量が4mL/1g未満の場合、反応液の攪拌が十分に行えず、かつ光学純度が低下する虞があり、6mL/1gを超える場合、収率が低下する虞がある。R−(−)−マンデル酸の使用量は、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1モルに対して、通常0.5〜0.7モル、好ましくは0.55〜0.65モルの割合である。R−(−)−マンデル酸の使用量が0.5倍(モル)未満の場合は、収率が低下する虞があり、0.7倍(モル)を超えると光学純度が低下する虞がある。
【0022】
上記反応は、例えば、溶媒中にR−(−)−マンデル酸を溶解してからラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを加えて行ってもよく、またその逆の添加方法で行ってもよく、あるいは同時に両者を加えて行ってもよい。
また、上記反応は、通常加熱しつつ行う。反応基質の量および純度、溶媒の量等にもよるが、通常20〜80℃でR−(−)−マンデル酸を溶解し、その後60〜65℃で保温する。不溶物がある場合は濾過してもよい。生成した(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩は通常50〜60℃で結晶化するが、結晶の析出が見られない場合は種晶を加えてもよい。形成したスラリー液は、通常50〜53℃で1〜3時間攪拌し、次いで徐冷して、10〜12℃の温度で熟成する。熟成の時間は通常2〜20時間である。熟成後、結晶は濾取し、5〜10℃に冷却した2−プロパノールで洗浄する。得られた(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩は、湿潤状態で次の工程(D)に供してもよく、あるいは乾燥した後に供してもよい。
【0023】
なお、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を高純度にする必要がある場合は、再結晶を行う。再結晶の溶媒としては、2−プロパノールが好ましい。再結晶溶媒の使用量は、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩1gに対して、通常7〜14mLの割合、好ましくは7.5〜8.5mLの割合である。(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩は、通常76〜80℃で再結晶溶媒中に溶解する。得られた溶液を冷却すると、通常70〜73℃で結晶化が始まる。結晶化が開始した温度で1〜2時間攪拌し、その後冷却する。通常3〜8時間かけて10℃まで冷却し、10〜12℃で2〜16時間攪拌して熟成する。熟成後、結晶を濾取し、5〜15℃に冷却した2−プロパノール((1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩1gに対して1〜3mLの割合の量)で洗浄する。
【0024】
工程(D):(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールの製造工程
(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩にアルカリを作用させることにより、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールが得られる(すなわち、塩から(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを遊離させる)。この反応は、有機溶媒と(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩との混合物にアルカリを添加すること、有機溶媒とアルカリとの混合物に(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を添加すること等によって行うことができる。有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられ、トルエンが好ましい。有機溶媒の使用量は、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩1gに対して、通常0.8〜6mLの割合、好ましくは0.9〜5mLの割合である。アルカリとしては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、操作性の観点から水酸化カリウムが好ましい。アルカリは水溶液として用いることが好ましい。水溶液の濃度は、通常10〜20%の範囲内である。アルカリの使用量は、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩が有機溶媒中に完全に溶解して溶液となり得る量であればよく、通常(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩1モルに対して1.0モル以上、好ましくは1.05モル以上の割合である。
【0025】
上記反応は、通常20〜30℃の範囲内で行われる。反応の後処理は、例えば、次の通りである。反応終了後、反応液を30〜40℃に昇温し、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを含む有機層を分液し、水で洗浄する。得られた有機層を濃縮することにより、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールが結晶として得られる。また、得られた有機層を、濃縮することなくそのまま脱ベンジル化に供してもよい。
【0026】
上記工程(C)および工程(D)を行うことにより、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得ることができる。
【0027】
工程(E):(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造工程
(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化することにより、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールが得られる。この脱ベンジル化反応は、通常、触媒存在下、不活性溶媒中、水素圧下で行われる。溶媒としては、例えば、メタノール、2−プロパノールなどのアルコール類、トルエン等の炭化水素類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、およびこれらの混合溶媒が挙げられるが、2−プロパノール、トルエンと2−プロパノール若しくはメタノールとの混合溶媒が好ましい。溶媒の使用量は、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1gに対して、通常2〜5mLの割合、好ましくは3〜4mLの割合である。触媒としては、Pd炭素、Pt炭素、スポンジニッケルなどが挙げられ、経済的観点からPd炭素が好ましい。Pd炭素としては、例えば、5%Pd炭素(Pd/C)、10%Pd炭素などが挙げられる。触媒の使用量は、例えばPd炭素を使用する場合、金属換算量として(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1重量部に対して、通常0.0005〜0.005重量部、好ましくは0.001〜0.0025重量部である。触媒の使用量が0.0005倍(重量)よりも少ないと、還元速度が低下し、0.005倍(重量)よりも多いと、量に見合った効果がなく、経済的でない。水素圧は、通常、常圧〜1MPaであり、好ましくは常圧〜0.5MPaである。反応温度は、通常室温〜70℃、好ましくは50〜60℃の範囲内である。反応時間は、反応基質、溶媒および触媒の使用量、反応温度、水素圧等にもよるが、通常1〜24時間である。反応の完了は、水素の吸収量やHPLCにより確認することができる。反応の後処理は、通常触媒を濾過することにより行う。得られた濾液を濃縮することにより、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法により得られる(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールは、塩化水素と反応させることにより塩酸塩に導くことができる。その工程を以下、工程(F)としてより詳細に説明する。
【0029】
工程(F):(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩の製造
(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素とを通常不活性溶媒中で反応させることにより、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩が得られる。溶媒としては、例えば、2−プロパノールおよび2−プロパノールとトルエンとの混合溶媒が挙げられ、2−プロパノールとトルエンとの混合溶媒の場合、その混合比は、2−プロパノール:トルエン=90:10〜40:60が好ましい。溶媒の使用量は、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール1gに対して、通常3〜8mLの割合、好ましくは4〜5mLの割合である。塩化水素は、気体として反応溶液に直接導入してもよく、あるいは、溶液、例えば2−プロパノール溶液として反応溶液に滴下してもよい。塩化水素の溶液を使用する場合、その溶媒量は、生成した塩酸塩が結晶化して反応溶液中に析出し得る量であればよい。塩化水素の使用量は、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール1モルに対して、通常1.0〜1.1モル、好ましくは1.01〜1.07モルの割合である。塩化水素の使用量が1.0倍(モル)よりも少ないと収率が低下し、1.1倍(モル)よりも多いと経済的でない。反応温度は、通常0〜30℃、好ましくは15〜25℃の範囲内である。反応時間は、反応基質および溶媒の使用量、反応温度等にもよるが、通常10〜120分である。
【0030】
上記反応によって生成した塩酸塩は、結晶化して反応溶液中に析出し、スラリーが形成される。形成したスラリーは、通常約20℃の温度で1〜2時間熟成し、次いで15〜10℃に冷却する。冷却後、結晶を濾取して、目的の(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩が得られる。
【0031】
(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩の光学純度は、3,5−ジニトロベンゾイルクロライドで誘導体に導いた後、CHIRALPAK AS−RHカラムを用いたキラルLCにて分析することができる。
【実施例】
【0032】
次に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
300mlの4つ口フラスコにo−ジクロロベンゼン(70mL)、無水フタル酸(17.77g、0.12mol)、炭酸カリウム(1.38g、0.01mol)およびシクロペンテン(6.81g、0.10mol)を仕込み、35℃付近に温度調整した。これに35%過酸化水素水(10.69g、0.11mol)を内温約35℃に保ちながら約8時間かけて滴下した後、同温度で2時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロペンテンオキサイドの生成率は93.3%、副生1,2−シクロペンタンジオールの生成率は3.5%であった。反応液を5℃まで冷却し、15%亜硫酸ナトリウム水溶液(12.6g、0.015mol)を滴下して過剰の過酸化物を分解した。15%水酸化ナトリウム水溶液(87.91g、0.235mol)を加えて反応液のpHを9〜10に調整した。水道水(30mL)を加えて攪拌した後、分液により有機層を分けた。水層をo−ジクロロベンゼン(15mL)で抽出した後、得られたo−ジクロロベンゼン抽出液を先の有機層と合わせて減圧濃縮し、シクロペンテンオキサイド(6.82g;シクロペンテンに対する収率は81.1%(GC−ES法))を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.29〜1.43(m,1H),1.51〜1.61(m,3H),1.99〜2.04(m,2H),3.46(s,2H)
【0034】
実施例2
300mlの4つ口フラスコにo−ジクロロベンゼン(52.5mL)、酢酸メチル(17.5ml)、無水フタル酸(18.52g、0.125mol)、炭酸カリウム(1.38g、0.01mol)およびシクロペンテン(6.81g、0.10mol)を仕込み、35℃付近に温度調整した。これに35%過酸化水素水(10.69g、0.11mol)を内温約35℃に保ちながら約8時間かけて滴下した後、同温度で2時間攪拌した。反応1時間目の生成率をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロペンテンオキサイドは95.1%、副生1,2−シクロペンタンジオールは3.1%であった。実施例1と同様に処理し、シクロペンテンオキサイドを得た。シクロペンテンに対する収率は86.4%であった。
【0035】
比較例1
300mlの4つ口フラスコにo−ジクロロベンゼン(52.5mL)、酢酸メチル(17.5ml)、無水フタル酸(29.62g、0.2mol)およびシクロペンテン(6.81g、0.10mol)を仕込み、35℃付近に温度調整した。これに35%過酸化水素水(14.53g、0.15mol)を内温約35℃に保ちながら約8時間かけて滴下した後、同温度で2時間攪拌した。反応1時間目の生成率をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロペンテンオキサイドは64.2%、副生1,2−シクロペンタンジオールは35.8%であった。
【0036】
実施例3
1000mlの4つ口フラスコに水道水(390mL)、シクロペンテンオキサイド(100.0g、1.19mol)およびベンジルアミン(128.66g、1.20mol)を仕込み、90〜100℃の温度で8時間攪拌した。反応液を45℃まで冷却した後静置して、有機層と水層とを分離した。水層にトルエン(200mL)を加えて攪拌し、静置後分液して水層を除去した。トルエン抽出液を先の有機層と合わせてロータリーエバポレーターにより濃縮し、黄色のオイル(231.88g)を得た。得られたオイルを液体クロマトグラフィーで分析したところ、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールが214.0g含まれていた。シクロペンテンオキサイドに対する収率は94.0%であった。
H−NMR(CDCl)δ:1.29〜1.38(m,1H),1.49〜1.57(m,1H),1.62〜1.77(m,2H),1.94〜2.08(m,2H),2.87〜2.92(q,1H),3.74〜3.86(q,2H),3.88〜3.92(q,1H),7.22〜7.34(m,5H)
【0037】
実施例4
200mLの4つ口フラスコに2−プロパノール(50mL)および実施例3で得られた粗ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール(10.86g、純分10.0g、0.052mol、LC定量値)を仕込み、これにR−(−)−マンデル酸(4.77g、0.032mol)を加えて加熱すると70℃で溶解した。この溶液を60℃まで冷却した時点で(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩の種晶を接種し、さらに約50℃まで冷却すると結晶が析出した。形成したスラリー液を1時間攪拌した後、4時間かけて約10℃まで冷却し、同温度で12時間攪拌した。結晶を濾取し、約10℃に冷却した2−プロパノール(20mL)で洗浄し、減圧下に乾燥して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩の白色粗結晶(8.01g、収率44.6%)を得た。得られた粗結晶の光学純度を以下に記載する方法により測定したところ、91.16%eeであった。
次に、200mLの4つ口フラスコに得られた粗結晶(8.01g)と2−プロパノール(64mL)とを加えて加熱すると78℃で溶解した。得られた溶液を70℃まで冷却すると結晶が析出した。形成したスラリー液を1時間保温攪拌した後10℃まで冷却し、同温度で3時間攪拌した。結晶を濾取し、10℃に冷却した2−プロパノールで洗浄後、減圧下に乾燥して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩の白色結晶(7.24g、収率90.39%)を得た。得られた結晶の光学純度を以下に記載する方法により測定したところ、99.52%eeであった。
H−NMR(DMSO−d)δ:1.39〜1.58(m,4H),1.77〜1.94(m,2H),2.95〜3.00(m,2H),3.98(s,2H),4.03〜4.07(q,1H),4.69(s,1H),7.17〜7.43(m,10H)
【0038】
[光学純度の測定法]
サンプル調製法:(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩(約10mg)に15%水酸化カリウム水溶液(1mL)とトルエン(1mL)とを加え、よくかき混ぜた後静置し、有機層と水層とに分離する。有機層(0.2mL)をHPLC用2−プロパノール(1mL)に溶解し、検体溶液とする。
HPLC条件:
カラム:Chiralpak AS−H 4.6mmφ×25cm
移動相:0.1%ジエチルアミン−ヘキサン/0.1%ジエチルアミン−2−プロパノール=95/5
流 速:1.0mL/min
波 長:254nm
注入量:5μL
温 度:40℃
保持時間:(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール:12.9min
(1S,2S)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール:9.4min
【0039】
実施例5
R−(−)−マンデル酸を5.56g(0.0365mol)使用したこと以外は実施例4と同様にして(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を得た。粗結晶の収率は55.62%、光学純度は74.53%eeであり、再結晶後の結晶の収率は69.97%、光学純度は98.76%eeであった。
【0040】
実施例6
R−(−)−マンデル酸を4.38g(0.0288mol)使用したこと以外は実施例4と同様にして(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を得た。粗結晶の収率は42.6%、光学純度は91.0%eeであり、再結晶後の結晶の収率は86.6%、光学純度は99.65%eeであった。
【0041】
実施例7
500mLの4つ口フラスコにトルエン(300mL)および(1R,2R)−2−N−(ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩(75.11g、0.219mol)を仕込み、これに15%水酸化カリウム水溶液(85.88g、0.229mol)を加え、35℃付近で1R,2R)−2−N−(ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩の結晶が完全に溶解するまで攪拌した。反応液を静置した後、分液して水層を除去した。有機層に水道水(150mL)を加えて35℃付近で攪拌洗浄し、静置分液して水層を除去した。有機層をロータリーエバポレーターで濃縮し、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールの白色結晶(37.02g)を得た。(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩に対する収率は88.5%であった。
H−NMR(CDCl)δ:1.29〜1.39(m,1H),1.49〜1.57(m,1H),1.62〜1.77(m,2H),1.94〜2.08(m,2H),2.86〜2.92(q,1H),3.74〜3.86(q,2H),3.88〜3.92(q,1H),7.23〜7.34(m,5H)
【0042】
尚、15%水酸化カリウム水溶液の代わりに15%水酸化ナトリウム水溶液を使用したこと以外は実施例7と同様の操作を行ったところ、有機層および水層ともに飴状の結晶析出が見られ、分液操作はスムーズではなかった。
【0043】
実施例8
200mLの4つ口フラスコにトルエン(19mL)、2−プロパノール(56mL)、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール(18.51g、96.77mmol)および10%Pd/C(0.85g、50%ウエット品)を仕込み、水素雰囲気下、60℃で17.5時間反応させた。反応液を室温まで冷却し、触媒を濾過し、2−プロパノール(20mL)で洗浄した。濾液と洗液とを合わせて減圧下に濃縮し、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの白色結晶(9.64g)を得た。(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールに対する収率は98.48%であった。
H−NMR(CDCl)δ:1.26〜1.37(m,1H),1.49〜1.59(m,1H),1.60〜1.78(m,2H),1.94〜2.04(m,2H),2.38(br,3H),2.99〜3.04(q,1H),3.70〜3.75(q,1H)
【0044】
実施例9
100mLの4つ口フラスコにトルエン(24mL)、2−プロパノール(5mL)および(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール(9.64g、9.53mmol)を仕込み、これに20℃付近で20.65%塩化水素/2−プロパノール溶液(17.67g、10.00mmol)を1時間かけて滴下した。得られたスラリー液を同温度で1時間攪拌した後、10℃まで冷却した。1時間保温攪拌の後、析出した結晶を濾取し、2−プロパノール(13mL)で洗浄し、減圧下に乾燥して(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩の白色結晶(12.03g)を得た。(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールに対する収率は96.3%であった。
H−NMR(DMSO−d)δ:1.43〜1.69(m,4H),1.87〜2.03(m,2H),3.09〜3.14(q,1H),3.98〜4.04(m,1H),5.22〜5.23(d,1H),8.26(s,3H)
【0045】
実施例10
100mLの4つ口フラスコにトルエン(20mL)、2−プロパノール(10mL)および(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール(10.12g、10.0mmol)を仕込み、これに20℃付近で20.65%塩化水素/2−プロパノール溶液(18.54g、10.5mmol)を30分かけて滴下した。得られたスラリー液を同温度で1時間攪拌した後、10℃まで冷却した。1時間保温攪拌の後、析出した結晶を濾取し、2−プロパノール(13mL)で洗浄し、減圧下に乾燥して(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩の白色結晶(12.57g)を得た。(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールに対する収率は91.35%であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩を工業的規模でかつ安全に製造する方法を提供することができる。得られる(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールおよびその塩酸塩は、医薬品の合成中間体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含することを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールの製造方法。
【請求項2】
ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸と反応させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩を得る工程、(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール R−(−)−マンデル酸塩にアルカリを作用させて(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化して(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールを得る工程を包含する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリが水酸化カリウムである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
R−(−)−マンデル酸をラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノール1モルに対して0.5〜0.7モルの割合で使用する請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
シクロペンテンより、無水フタル酸と過酸化水素水とを用いてシクロペンテンオキサイドを得る工程、シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
シクロペンテンより、o−ジクロロベンゼン中、炭酸カリウムの存在下で無水フタル酸と約35%濃度の過酸化水素水とを用いてシクロペンテンオキサイドを得る工程、シクロペンテンオキサイドとベンジルアミンとを反応させてラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、ラセミ2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを、2−プロパノール溶媒中、R−(−)−マンデル酸を用いて光学分割して(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを得る工程、および(1R,2R)−2−(N−ベンジルアミノ)−1−シクロペンタノールを脱ベンジル化する工程を包含する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ベンジルアミンをシクロペンテンオキサイド1モルに対して0.9〜1.05モルの割合で使用する請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られる(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素とを反応させることを特徴とする(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノール塩酸塩の製造方法。
【請求項10】
(1R,2R)−2−アミノ−1−シクロペンタノールと塩化水素との反応を、2−プロパノール中または2−プロパノールとトルエンとの混合溶媒中で行う請求項9に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−169204(P2008−169204A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319909(P2007−319909)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】