説明

(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの結晶形とその製造方法

【課題】(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの医薬品としての使用環境で安定な結晶形の製造方法を提供する。また、医薬品の固形製剤として、速やかな溶出を可能とする(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの特定の結晶形とその製造方法を提供する。
【解決手段】水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させた後、5〜70℃で結晶化させ、得られた結晶を50℃以下で乾燥させることを特徴とする下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する結晶の製造方法。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの結晶多形及びその製造方法に関し、糖尿病治療薬の有効成分として有用な化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式で表される(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトール((1S)-1,5anhydro1-[5-(4-ethoxybenzyl)2methoxy4-methylphenyl]1thioD-glucitol)は水和物であり、血糖降下作用を有し、糖尿病治療薬の有効成分として有用な化合物である。WO2006/073197号国際公開公報には、該化合物がシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)で精製することによって無色粉末として得られ、その融点は155.0〜157.0℃であるとの記載がある(特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
【特許文献1】WO2006/073197号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、公知の化合物である(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールについて種々の検討を行った結果、該化合物にはいくつかの結晶多形、水和物及び溶媒和物の存在することが明らかとなった。したがって、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの医薬品の有効成分に適した結晶形を工業的に安定に供給することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの医薬品としての使用環境で安定な結晶形の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、医薬品の有効成分として固形製剤に配合した場合に、速やかな溶出を可能とする(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの特定の結晶形とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、公知の化合物である(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールについて鋭意研究を重ねた結果、該化合物には種々の結晶多形、水和物及び溶媒和物が存在し、また、前記特許文献1に記載された該化合物の融点(155.0〜157.0℃)がA形結晶の融解に起因するものであるという知見を得た。そして、該化合物にはA形結晶の他に、B形結晶(エタノール−水混液からの再結晶により得られ、加温によってD形結晶に、吸湿によってA形結晶に転移する)、C形結晶(エタノール溶媒和物、融点約162℃)、D形結晶(B形結晶が加温により転移した結晶形)が存在し、A形結晶が安定な結晶形であること、D形結晶が溶解度の高い結晶形であることを見出した。
【0009】
かかる知見を基に完成した本発明の態様は、水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させた後、5〜100℃で結晶化させ、得られた結晶を50℃以下で乾燥させることを特徴とする下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する結晶(A形結晶)の製造方法である。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。
【0010】
本発明の他の態様は、水又は水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを5〜30℃において懸濁させた後、50℃以下で乾燥させることを特徴とする下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する結晶(A形結晶)の製造方法である。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。
【0011】
本発明の他の態様は、下記(a)〜(b)の物性の少なくとも1つ有する、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの結晶(D形結晶)である。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、4.4度、8.5度及び11.4度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1246cm-1、1092cm-1、1052cm-1及び773cm-1にある;及び
(c)融点が160〜165℃である。
【0012】
本発明の他の態様は、エタノールと水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させた後、結晶化させ、65℃以上で乾燥させることを特徴とする前記D形結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのA形結晶は室温付近の温度で安定な結晶形であり、さらに、粉砕、圧縮等の製剤操作によっても結晶形の転移を起こさないため、取り扱いやすく、有用な医薬品原料となりうることが確認された。
【0014】
また、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのD形結晶は他の結晶形と比較して高い溶解度を有していることから、良好な体内動態を発揮する可能性があり、やはり有用な医薬品原料となりうることが確認された。そして、D形結晶は高温で乾燥することによって調製されるが、得られたD形結晶は室温付近の温度でも長期間安定であることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのA形結晶は次の(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。
【0016】
A形結晶の粉末X線回折パターンは図1に、赤外吸収スペクトル(KBr法)は図2に、示差熱分析/熱質量測定カーブは図3に示した通りである。
【0017】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのA形結晶は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールが水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に溶解している溶液からの結晶化により得られる。
【0018】
再結晶前の原料の(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールとしては、D形結晶などのA形結晶以外の結晶形、溶媒和物及び不定形粉末が挙げられる。
【0019】
溶媒和物としてはエタノール溶媒和物の存在が確認されている。不定形粉末としては、例えばアモルファスのものが挙げられる。
【0020】
該溶液からの再結晶によりA形結晶を得る際の、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの該溶液への溶解及び該溶液からの結晶化は通常の方法で行えばよい。例えば、水と混和する性質を有する有機溶媒と水からなる混合液に、A形結晶ではない(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの結晶等を加熱溶解させた後、冷却する方法が用いられる。
【0021】
水と混和する性質を有する有機溶媒としては、エタノール等の低級アルコール、酢酸エチル、アセトンなどが挙げられる。
【0022】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させる濃度は0.5〜50質量%、好ましくは2〜20質量%である。
【0023】
A形結晶の結晶化は、通常5〜100℃、好ましくは5〜60℃で行う。
【0024】
析出したA形結晶は、溶液からろ過、遠心分離などにより溶媒と分離した後に乾燥する。乾燥は通常50℃以下、好ましくは20〜45℃で行う。
【0025】
また、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのA形結晶は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールが‘水’又は‘水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液’に懸濁している場合の結晶転移により得られる。
【0026】
結晶転移前の原料の(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールとしては、D形結晶などのA形結晶以外の結晶形、溶媒和物及び不定形粉末が挙げられる。
【0027】
溶媒和物としてはエタノール溶媒和物の存在が確認されている。不定形粉末としては、例えばアモルファスのものが挙げられる。
【0028】
‘水’又は‘水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液’(以下、適宜に「溶媒」という。)は、懸濁する温度での(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの溶解度が5質量%以下、好ましくは0.5質量%以下となるように水と有機溶媒との配合比を調製することが好ましい。
【0029】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを懸濁する濃度は懸濁液に対し、0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0030】
懸濁温度は、通常40℃以下であり、好ましくは5〜30℃である。
【0031】
懸濁する時間は、溶媒の種類、温度、使用原料の結晶形、その他の条件により必ずしも一定しないが、懸濁液中にA形結晶を種晶として加えることにより転移の時間を短縮することが可能である。転移の終点は懸濁液より一部結晶をろ取し、この結晶の粉末X線回折パターンまたは赤外吸収スペクトルなどを測定することにより確認することができる。
【0032】
以上のようにして得られたA形結晶は、分散(懸濁)液中からろ過、遠心分離などにより溶媒と分離した後に乾燥する。乾燥温度は、通常50℃以下、好ましくは20〜45℃である。
【0033】
前記何れの方法によるも、乾燥する時間は、乾燥温度、使用原料の結晶形、粒子径、その他の条件により必ずしも一定しないが、転移の終点は一部乾燥結晶を取り、この結晶の粉末X線回折パターンまたは赤外吸収スペクトルなどを測定することにより確認することができる。
【0034】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのB形結晶は次の(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、4.0度、9.4度及び13.1度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2978cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1052cm-1及び774cm-1にある;並びに
(c)融点が160〜165℃である。
【0035】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのB形結晶は、A形結晶等のエタノールと水との混合液からの再結晶により得られる。
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのC形結晶は次の(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.7度、4.2度、11.6度及び18.1度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1092cm-1、1050cm-1及び774cm-1 にある;並びに
(c)融点が159〜165℃である。
【0036】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのC形結晶は、エタノール溶媒和物であり、A形結晶等のエタノールからの再結晶により得られる。
【0037】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのD形結晶は次の(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、4.4度、8.5度及び11.4度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1246cm-1、1092cm-1、1052cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が160〜165℃である。
【0038】
D形結晶の粉末X線回折パターンは図4に、赤外吸収スペクトル(KBr法)は図5に、示差熱分析/熱質量測定カーブは図6に示した通りである。
【0039】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールのD形結晶はエタノールと水との混合溶媒で再結晶し、65℃以上、好ましくは80℃以上で乾燥することによって得られる。
【0040】
再結晶前の原料の(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールとしては、A形結晶などのD形結晶以外の結晶形、溶媒和物、不定形粉末などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0041】
溶媒和物としてはエタノール溶媒和物の存在が確認されており、不定形粉末としては、たとえばアモルファスのものが挙げられる。
【0042】
D形結晶を得る際の、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの溶解及び結晶化は通常の方法で行えばよい。エタノール−水混液に加熱溶解後、冷却する方法が用いられる。
【0043】
エタノールと水との混合溶媒における混合比は適宜に変更することができる。
【0044】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させる濃度は0.5〜50質量%、好ましくは2〜20質量%である。
【0045】
D形結晶を得るために必要なB形結晶の結晶化は、通常5〜40℃で行われる。
【0046】
析出したB形結晶は、溶液からろ過、遠心分離などにより溶媒と分離した後に乾燥してD形結晶とする。乾燥温度は通常65℃以上、好ましくは80℃以上である。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0048】
実施例1
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトール 704gをメタノール4Lに50℃で溶解した後、撹拌しながらメタノール1Lおよび水3Lを加えて10℃に温度を下げて結晶を得た。本結晶をろ取した後に、40℃で温風乾燥し、結晶448gを得た。この結晶の粉末X線回折パターン及び赤外吸収スペクトルを測定したところ、A形結晶であった。
【0049】
実施例2
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトール D形結晶0.13gを水10mL中に懸濁させ、室温で3日間振とうした。この振とう後の懸濁液をろ過し、結晶を得た後に、室温で減圧乾燥し、結晶を得た。この結晶の粉末X線回折パターンを測定したところ、A形結晶であった。
【0050】
実施例3
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトール 2.0gをエタノール−水混液に50℃で溶解した後、撹拌しながら水を加えて0℃に温度を下げて結晶を得た。該結晶をろ取した後に、130℃で乾燥したものの粉末X線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、D形結晶であった。
【0051】
試験例1
A形結晶、約0.2gをガラス瓶に量りとり、開栓状態で相対湿度75%(25℃)において保存した。保存6カ月後の結晶形を粉末X線回折で確認した結果、A形結晶には変化がなかった。
【0052】
試験例2
A形結晶、約0.2gをガラス瓶に量りとり密栓後、40℃及び65℃において保存した。それぞれ保存後6カ月及び1カ月で、結晶形を粉末X線回折により確認した。その結果、結晶形に変化はなかった。
【0053】
試験例3
A形結晶 100mgを6mm径の臼に充填後、同じ径の杵を装着したオートグラフ(商品名;島津製作所)で、圧縮圧5,000N(ニュートン)で5分間、圧縮を行った。圧縮後の結晶形を粉末X線回折で確認した結果、A形結晶には変化がなかった。
【0054】
試験例4
A形結晶をピンミル(回転数:13000[rpm]、ファインインパクトミル100UPZ−II(商品名;ホソカワミクロン)を用いて粉砕した。粉砕後の結晶形を粉末X線回折で確認した結果、A形結晶には変化がなかった。
【0055】
試験例5
D形結晶、約20mgをガラス瓶に量りとり、開栓状態で相対湿度75%(25℃)に保存した。保存1カ月後の結晶形を粉末X線回折で確認した結果、D形結晶には変化がなかった。
【0056】
試験例6
D形結晶、約20mgをガラス瓶に量りとり密栓後、40℃及び65℃に保存した。いずれも保存後1カ月で、結晶形を粉末X線回折により確認した。その結果、結晶形に変化はなかった。
【0057】
試験例7
A形結晶とD形結晶それぞれ過剰量を水10mLに加え、速やかに振とうした。振とう後の溶解量をHPLCにより測定し、溶解度を測定した。本試験は25℃で実施した。その結果、A形結晶の溶解度は約65μg/mLであったのに対し、D形結晶の溶解度は約110μg/mLと2倍近い溶解度であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの安定な結晶形
(A形結晶)の製造方法を提供すること可能となり、また、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの速やかな溶出を可能とする特定の結晶形(D形結晶)及びその製造方法を提供することが可能となったことから、糖尿病関連疾患における新しいタイプの薬剤の開発が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】A形結晶の粉末X線回折パターンを示す。
【図2】A形結晶の赤外吸収スペクトル(KBr法)を示す。
【図3】A形結晶の示差熱分析/熱質量測定カーブを示す。
【図4】D形結晶の粉末X線回折パターンを示す。
【図5】D形結晶の赤外吸収スペクトル(KBr法)を示す。
【図6】D形結晶の示差熱分析/熱質量測定カーブを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させた後、5〜100℃で結晶化させ、得られた結晶を50℃以下で乾燥させることを特徴とする下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する結晶の製造方法。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。
【請求項2】
水又は水と混和する性質を有する有機溶媒と水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを5〜30℃において懸濁させた後、50℃以下で乾燥させることを特徴とする下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する結晶の製造方法。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、9.6度、11.1度及び15.5度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1244cm-1、1091cm-1、1053cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が156〜160℃である。
【請求項3】
下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールの結晶。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=3.2度、4.4度、8.5度及び11.4度にピークを有する;
(b)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が2977cm-1、1510cm-1、1246cm-1、1092cm-1、1052cm-1及び773cm-1にある;並びに
(c)融点が160〜165℃である。
【請求項4】
エタノールと水との混合液に、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[5−(4−エトキシベンジル)−2−メトキシ−4−メチルフェニル]−1−チオ−D−グルシトールを溶解させた後、結晶化させ、65℃以上で乾燥させることを特徴とする請求項3記載の結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−107997(P2009−107997A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283982(P2007−283982)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】