説明

1−ヘキセンの製造方法

【課題】 エチレンを三量化する反応において、取り扱いが容易で、かつ高活性な触媒系を用い、しかも高選択的に1−ヘキセンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、溶媒として脂肪族炭化水素を用い、さらに内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物及び非共役トリエン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を、仕込み溶液の0.01〜50容量%の割合で反応系に添加する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エチレンの三量化による1−ヘキセンの製造方法に関する。本発明で得られる1−ヘキセンは、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)の原料コモノマーや可塑剤原料として極めて有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】エチレンを三量化する反応において、クロム触媒を用い1−ヘキセンを製造することは公知である。例えば、米国特許第3347840号明細書及び特開昭62−265237号公報には、クロム化合物、アルミノキサンとジメトキシエタン等のエ−テル化合物類からなる触媒系が、又特開平6−239920号公報には、クロム化合物、ピロール含有化合物、金属アルキルからなる触媒系が開示されている。
【0003】一方、先に本発明者らは、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなる取り扱いの容易なオレフィンの低重合触媒、及びそれを用いたオレフィンの低重合反応を提案した。この方法に従えば、オレフィンの低重合反応、特にエチレンの三量化反応により、1−ヘキセンを高活性で得ることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】一般に、クロム触媒を用いるエチレンの三量化反応においては、三量化反応終了時に廃クロム触媒の処理を必要とするが、主触媒金属であるクロムは構造によっては極めて毒性が強い化合物を作る。それ故、安全性の面から、クロム金属の使用量をできるだけ少なくする必要がある。しかしながら、米国特許第3347840号明細書及び特開昭62−265237号公報に記載の方法では、触媒活性が十分でなく、クロム金属を大量に用いなければならないという問題があった。また、特開平6−239920号公報に記載の方法は、触媒活性を著しく改善しており、クロム金属の使用量を抑制する点では優れている。しかしながら、触媒の一成分であるピロ−ルは、着色して劣化しやすい等、保存安定性に乏しく不安定な化合物であるため、取り扱いが難しく、工業的な触媒としてはまだ十分なものではなかった。
【0005】本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的はエチレンを三量化する反応において、取り扱いが容易で、かつ高活性な触媒系を用い、しかも高選択的に1−ヘキセンを製造する方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、クロム化合物、アルキル金属化合物及び安定性の高い取り扱いの容易なイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、溶媒として脂肪族炭化水素を用い、さらに特定のオレフィン、ジエン又はトリエン化合物を特定の範囲の量で反応系に添加すると高選択率で、しかも極めて高い純度で1−ヘキセンを得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち本発明は、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、溶媒として脂肪族炭化水素を用い、さらに内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物及び非共役トリエン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を、仕込み溶液の0.01〜50容量%の割合で反応系に添加することを特徴とする1−ヘキセンの製造方法に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】次に、本発明について更に詳しく説明する。
【0009】本発明において、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒が用いられる。本発明において使用されるイミド化合物は、イミド構造を有する化合物であればいかなる化合物でもよく、例えば、マレイミド、1−クロロエテン−1,2−ジカルボキシイミド、1−ブロモエテン−1,2−ジカルボキシイミド、1−フルオロエテン−1,2−ジカルボキシイミド、1−トリフルオロメチルエテン−1,2−ジカルボキシイミド、1,2−ジクロロエテン−1,2−ジカルボキシイミド、シトラコンイミド、2−ブテン−2,3−ジカルボキシイミド、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボキシイミド、スクシンイミド、α,α−ジメチル−β−メチルスクシンイミド、α−メチル−α−プロピルスクシンイミド、グルタルイミド、3,3−ジメチルグルタルイミド、ベメグリド、フタルイミド、3,4,5,6−テトラクロロフタルイミド、1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド、1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、1,2,3,4−テトラヒドロフタルイミド、3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド、1,8−ナフタルイミド、2,3−ナフタレンジカルボキシイミド、シクロヘキシイミド、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨ−ドスクシンイミド、N−(メトキシカルボニル)マレイミド、N−(ヒドロキシ)マレイミド、N−(カルバモイル)マレイミド等のイミド類が挙げられる。
【0010】さらに、N−(トリメチルシリル)マレイミド、N−(トリメチルシリル)コハクイミド、N−(トリメチルシリル)シトラコンイミド、N−(トリメチルシリル)−2−ブテン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(トリメチルシリル)−1−シクロペンテン−1,2−ジカルボキシイミド、N−(トリメチルシリル)−3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド、N−(トリメチルシリル)スクシンイミド、N−(トリエチルシリル)マレイミド、N−(トリ−n−プロピルシリル)マレイミド、N−(トリ−n−ブチルシリル)マレイミド、N−(トリ−n−ヘキシルシリル)マレイミド、N−(トリベンジルシリル)マレイミド、N−(n−ブチルジメチルシリル)マレイミド、N−(t−ブチルジメチルシリル)マレイミド、N−(ジメチルゼキシルシリル)マレイミド、N−(n−オクチルジメチルシリル)マレイミド、N−(n−オクタデシルジメチルシリル)マレイミド、N−(ベンジルジメチルシリル)マレイミド、N−(メチルジブチルシリル)マレイミド、N−(フェニルジメチルシリル)マレイミド、N−(p−メトキシフェニルジメチルシリル)マレイミド、N−(p−トルイルジメチルシリル)マレイミド、N−(トリフェニルシリル)マレイミド、N−(トリブチルチン)マレイミド、N−(トリオクチルチン)マレイミド、N−(ジイソブチルアルミニウム)マレイミド、N−(ジエチルアルミニウム)マレイミド、水銀マレイミド、銀マレイミド、カルシウムマレイミド、カリウムマレイミド、ナトリウムマレイミド、リチウムマレイミド等の金属イミド類が挙げられる。これらのうち活性の面から下記一般式(1)
【0011】
【化2】


【0012】(式中、dは1〜4の整数である。Mは水素、又は周期律表第IA、IIA、IB、IIB、IIIB若しくはIVB族の置換基含有又は無置換の金属元素を表す。R,R2はそれぞれ水素、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子、アリ−ル基、又はR1,R2が炭素−炭素結合により結合した環状置換基からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示されるイミド化合物が好ましく用いられる。より好ましくはマレイミド、N−(トリメチルシリル)マレイミドやN−(トリブチルチン)マレイミドが用いられる。また、前記イミド化合物はそれぞれ単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0013】ここで、金属イミドとは、イミドから誘導される金属イミド、あるいはこれらの混合物であり、具体的にはイミドとIA族、IIA族、IB族、IIB族、IIIB族及びIVB族から選択される金属との反応により得られるイミド化合物である。この金属イミド化合物の合成法は、特に限定するものではなく、公知の方法で合成できる。例えば、IA及びIIA族金属のイミド化合物は、リチウム、ブチルリチウム、ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、臭化メチルマグネシウム、塩化ブチルマグネシウム等のIA及びIIA族金属化合物とイミド化合物を反応させることで合成できる。又、IB及びIIB金属のイミド化合物は、硝酸銀、塩化銀、塩化水銀等のIB及びIIB金属化合物とイミド化合物をアルカリの存在下で反応させることで合成できる。IIIB及びIVB族金属のイミド化合物は、トリメチルシリルクロリド、トリブチルシリルクロリド、トリブチルチンクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のIIIB及びIVB族の金属塩化物とイミド化合物をアルカリの存在下で反応させたり、前記のIIIB及びIVB族の金属塩化物とIA、IIA、IB、IIB族の金属イミド化合物を反応させたり、又、トリブチルチンヒドリド、トリイソブチルアルミニウムヒドリド等のIIIB及びIVB族の金属ヒドリドとイミド化合物を反応させることで合成できる。具体的には、Polymer Journal,24,679(1992)によれば、N−(トリアルキルシリル)マレイミドは、マレイミド又は銀マレイミドとトリアルキルシリルクロリドを3級アミン化合物存在下で反応させ、次いで蒸留または再結晶して合成される。また、Journalof Organic Chemistry,39,21(1974)によれば、銀マレイミドは、マレイミドと硝酸銀をエタノ−ル/ジメチルスルホキシド中で苛性ソ−ダ存在下で反応させて合成される。
【0014】イミド化合物の使用量は、通常クロム化合物1モルに対して0.1〜1,000当量であり、好ましくは0.5〜500当量、より好ましくは1〜300当量である。イミド化合物の使用量がクロム化合物1モルに対して0.1当量未満の場合は低重合反応活性が十分得られず、多量のポリマーを副生する。一方、使用量がクロム化合物1モルに対して1,000当量を越える場合には触媒活性が低下する傾向にあり経済的に好ましくない。
【0015】本発明で使用されるクロム化合物としては、特に制限するものではないが、例えば、下記一般式(2)
CrAmn (2)
(式中、mは1〜6の整数であり、nは0〜4の整数である。またAは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アレーン、アルコキシ基、カルボキシレート基、β−ジケトナート基、β−ケトエステル基及びアミド基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、硝酸基、硫酸基、過塩素酸基、カルボニル並びに酸素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表し、Bは窒素含有化合物、リン含有化合物、ヒ素含有化合物、アンチモン含有化合物、酸素含有化合物及び硫黄含有化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物が好適なものとして用いられる。
【0016】上記一般式(2)において、炭素数1〜20のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、アリル基、ネオペンチル基、シクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基又はトリメチルシリルメチル基等が挙げられる。炭素数6〜20のアリ−ル基としては、特に限定するものではないが、例えば、フェニル基又はトルイル基等が挙げられる。炭素数6〜20のアレーンとしては、特に限定するものではないが、例えば、ベンゼン、エチルベンゼン又はヘキサメチルベンゼン等が挙げられる。炭素数1〜20のアルコキシ基としては、特に限定するものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ステアリルオキシ基又はフェノキシ基等が挙げられる。炭素数1〜20のカルボキシレ−ト基としては、特に限定するものではないが、例えば、アセテート基、プロピオネート基、ブチレート基、ネオペンタノエート基、2ーエチルヘキサノエート基、オキシ−2−エチルヘキサノエート基、イソオクタネ−ト基、ジクロロエチルヘキサノエート基、ラウレート基、ステアレート基、オレエ−ト基、ベンゾエート基、又はナフテネート基等が挙げられる。炭素数1〜20のβ−ジケトナート基としては、特に限定するものではないが、例えば、アセチルアセトナート基、トリフルオロアセチルアセトナート基、ヘキサフルオロアセチルアセトナート基、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート基、1,3−ブタンジオナート基、2−メチル−1,3−ブタンジオナート基、ベンゾイルアセトナート基等が挙げられる。炭素数1〜20のβ−ケトエステル基としては、特に限定するものではないが、例えば、アセチルアセテ−ト基等が挙げられる。アミド基としては、特に限定するものではないが、例えば、ジメチルアミド基又はジシクロヘキシルアミド基が挙げられる。ハロゲン原子としては、特に限定するものではないが、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が挙げられる。
【0017】上記一般式(2)において、窒素含有化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アミン、ピリジン、アミド、又はニトリル等が挙げられる。リン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ホスフィン、ホスファイト、又はホスフィンオキシド等が挙げられる。酸素含有化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、水、無水カルボン酸、エステル、エーテル、アルコール又はケトン等であり、硫黄含有化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、二硫化炭素、スルフォン、チオフェン、又はスルフィド等が挙げられる。
【0018】上記一般式(2)で示されるクロム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、クロム(II)ジメチル、クロム(III)トリメチル、クロム(IV)テトラメチル、クロム(III)トリス(η−アリル)、二クロム(II)テトラキス(η−アリル)、クロム(IV)テトラキス(ネオペンチル)、クロム(IV)テトラキス(トリメチルシリルメチル)、クロム(II)ビス(シクロペンタジエニル)、クロム(II)ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)、クロム(III)トリス(π−アリル)、クロム(IV)テトラキス(π−アリル)、クロム(II)ジフェニル、クロム(0)ビス(ベンゼン)、クロム(II)ジフェニル(ベンゼン)、クロム(0)ビス(エチルベンゼン)、クロム(0)ビス(ヘキサメチルベンゼン)、クロム(I)シクロペンタジエニル(ベンゼン)、クロム(IV)テトラメトキシド、クロム(IV)テトラエトキシド、クロム(IV)テトラプロポキシド、クロム(IV)テトラブトキシド、クロム(IV)テトラヘキシルオキシド、クロム(IV)テトラステアリルオキシド、クロム(IV)テトラフェノキシド、クロム(II)ビス(アセテート)、クロム(III)トリス(アセテート)、クロム(II)ビス(プロピオネート)、クロム(III)トリス(プロピオネート)、クロム(III)トリス(ブチレート)、クロム(II)ビス(2−エチルヘキサノエート)、クロム(III)トリス(2ーエチルヘキサノエート)、クロム(II)ビス(イソオクタネ−ト)、クロム(III)トリス(イソオクタネ−ト)、クロム(III)トリス(オキシ−2−エチルヘキサノエート)、クロム(III)トリス(ジクロロエチルヘキサノエート)、クロム(III)トリス(ネオペンタノエート)、クロム(II)ビス(ネオペンタノエート)、クロム(III)トリス(ラウレート)、クロム(II)ビス(ラウレート)、クロム(III)トリス(ステアレート)、クロム(II)ビス(ステアレート)、クロム(III)トリス(オレエート)、クロム(II)ビス(オレエート)、クロム(III)トリス(ベンゾエート)、クロム(II)ビス(ナフテネート)、クロム(III)トリス(ナフテネート)、クロム(II)オキザレート、クロム(II)ビス(アセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(アセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(トリフルオロアセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)、クロム(III)トリス(1,3−ブタンジオナート)、クロム(III)トリス(2−メチル−1,3−ブタンジオナート)、クロム(III)トリス(ベンゾイルアセトナート)、クロム(III)トリス(アセチルアセテート)、クロム(III)トリス(ジメチルアミド)、クロム(III)トリス(ジシクロヘキシルアミド)、フッ化第一クロム、フッ化第二クロム、塩化第一クロム、塩化第二クロム、臭化第一クロム、臭化第二クロム、ヨウ化第一クロム、ヨウ化第二クロム、塩化クロミル、過塩素酸クロム、二塩化ヒドロキシクロム、硝酸クロム、硫酸クロム等が挙げられる。
【0019】さらに、トリクロロトリアニリンクロム(III)、ジクロロビス(ピリジン)クロム(II)、ジクロロビス(4−エチルピリジン)クロム(II)、トリクロロトリピリジンクロム(III)、トリクロロトリス(4−イソプロピルピリジン)クロム(III)、トリクロロトリス(4−エチルピリジン)クロム(III)、トリクロロトリス(4−フェニルピリジン)クロム(III)、トリクロロ(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)クロム(III)、ジクロロジニトロシルビス(4−エチルピリジン)クロム(II)、ジクロロジニトロシルビス(トリフェニルホスフィンオキシド)クロム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィンオキシド)クロム(II)、トリクロロトリス(トリフェニルホスフィン)クロム(III)、トリクロロビス(トリブチルホスフィン)クロム(III)ダイマー、トリクロロトリス(ブチルアセテート)クロム(III)、トリクロロトリス(エチルアセテート)クロム(III)、トリクロロトリス(テトラヒドロフラン)クロム(III)、トリクロロトリス(ジオキサン)クロム(III)、トリクロロトリス(iso−プロパノール)クロム(III)、トリクロロトリス(2−エチルヘキサノール)クロム(III)、トリフェニルトリス(テトラヒドロフラン)クロム(III)、クロム(III)トリス(アセテ−ト)無水酢酸付加物、ヒドリドトリカルボニル(η−シクロペンタジエニル)クロム(III)等が挙げられる。
【0020】これらのうち取り扱いやすさ及び安定性の面から、カルボキシレート基を有するクロムカルボキシレ−ト化合物及びβ−ジケトナート基を有するクロムβ−ジケトナート化合物が好ましく用いられる。より好ましくは、クロム(III)トリス(2−エチルヘキサノエート)、クロム(III)トリス(ナフテネート)、クロム(III)トリス(アセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(トリフルオロアセチルアセトナート)、クロム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)が用いられる。また、上記クロム化合物はそれぞれ単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0021】本発明において使用されるアルキル金属化合物は、特に限定するものではないが、例えば、下記一般式(3)
pMXq (3)
(式中、pは0<p≦3であり、qは0≦q<3であって、しかもp+qは1〜3である。Mはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ボロン又はアルミニウムを表し、Rは炭素数1〜10のアルキル基より選ばれた少なくとも1種以上を表し、Xは水素原子、アルコキシ基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物、又はアルミノキサンが好適なものとして挙げられる。
【0022】上記一般式(3)において、炭素数1〜10のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基、又はオクチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、特に限定するものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、又はフェノキシ基等が挙げられる。アリール基としては、特に限定するものではないが、例えば、フェニル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、特に限定するものではないが、例えば、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素が挙げられる。
【0023】なお、上記一般式(3)において、MがAlで、pとqがそれぞれ1.5のとき、AlR1.51.5となる。このような化合物は、理論的には存在しないが、通常、慣用的にAl233のセスキ体として表現されており、これらの化合物も本発明に含まれる。
【0024】上記一般式(3)で示されるアルキル金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ジエチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、エチルクロロマグネシウム、エチルブロモマグネシウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、ジメチルエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジシクロヘキシルフェニルアルミニウム、エチルアルミニウムエトキシクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジシクロヘキシルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド等が挙げられる。
【0025】本発明において使用されるアルミノキサンとは、前記のアルキルアルミニウム化合物と水とを一定範囲内の量比で反応させて得られる加水分解生成物である。アルキルアルミニウム化合物を加水分解する方法については、特に限定するものではなく、公知の方法で合成できる。例えば、(1)アルキルアルミニウム化合物そのまま、又は有機溶媒への希釈溶液に水を接触させる方法、(2)アルキルアルミニウム化合物と塩化マグネシウム・6水塩、硫酸鉄・7水塩、硫酸銅・5水塩等の金属塩の結晶水と反応させる方法、等が採られる。具体的には、前記特開昭62−265237号公報や特開昭62−148491号公報に開示されている。加水分解を行う際のアルキルアルミニウム化合物と水とのモル比は通常1:0.4〜1:1.2、好ましくは1:0.5〜1:1.0である。
【0026】これらのアルキル金属化合物のうち入手の容易さ及び活性の面からトリエチルアルミニウムやトリイソブチルアルミニウムが好ましく用いられる。これらのアルキル金属化合物は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。アルキル金属化合物の使用量は、通常クロム化合物1モルに対して0.1〜10,000当量であり、好ましくは3〜3,000当量、より好ましくは10〜2,000当量である。
【0027】本発明のクロム触媒は、前記のクロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物を原料として、溶媒中で接触させることにより調製できる。接触方法は特に制限されないが、例えば、三量化反応原料であるエチレンの存在下にクロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物を接触させて触媒を調製し、接触と同時に三量化反応を開始する方法(以下、同時触媒調製法と称する)、またはクロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物を前もって接触させて触媒を調製した後、エチレンと接触させて三量化反応を行う方法(以下、事前触媒調製法と称する)が採られる。具体的には、同時触媒調製法の場合は、(1)クロム化合物、アルキル金属化合物、イミド化合物及びエチレンをそれぞれ同時に独立に反応系に導入する、(2)アルキル金属化合物を含む溶液にクロム化合物、イミド化合物及びエチレンを導入する、(3)クロム化合物、イミド化合物を含む溶液にアルキル金属化合物及びエチレンを導入する、(4)アルキル金属化合物及びイミド化合物を含む溶液にクロム化合物及びエチレンを導入する、(5)クロム化合物を含む溶液にアルキル金属化合物、イミド化合物及びエチレンを導入する、といった方法により触媒を調製することができる。又、事前触媒調製法の場合は、(1)クロム化合物及びイミド化合物を含む溶液にアルキル金属化合物を導入する、(2)アルキル金属化合物及びイミド化合物を含む溶液にクロム化合物を導入する、(3)アルキル金属化合物を含む溶液にクロム化合物及びイミド化合物を導入する、(4)クロム化合物を含む溶液にイミド化合物とアルキル金属化合物を導入する、という方法により触媒を調製することができる。なお、これらの原料の混合順序は特に制限はされない。
【0028】この触媒系を調製する際の、クロム化合物の濃度は特に制限されないが、通常溶媒1リットルあたり、0.001マイクロモル〜100ミリモル、好ましくは0.01マイクロモル〜10ミリモルの濃度で使用される。またここで用いられる溶媒は脂肪族炭化水素であり、特に制限するものではないが、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等の飽和脂肪族炭化水素類、及び塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等の塩素化脂肪族炭化水素類が挙げられる。また反応原料のオレフィンそのもの、あるいは反応生成物、例えば、ブテン、1−ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン等の不飽和脂肪族炭化水素類を溶媒として用いることもできる。これらのうち活性や入手の面から、飽和脂肪族炭化水素類が好ましく、さらに好ましくはシクロヘキサンやヘプタンが用いられる。これらの溶媒はそれぞれ単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。ここで、触媒調製時の触媒濃度をコントロ−ルする目的で、必要に応じて濃縮や希釈しても差し支えない。
【0029】また、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物を接触させる際の温度は通常−100〜250℃、好ましくは0〜200℃である。触媒系の調製時間は特に制限されず、通常0分〜24時間、好ましくは0分〜2時間である。なお、触媒調製のすべての操作は、空気と水分を避けて行なうことが望ましい。また、触媒調製原料および溶媒は十分に乾燥しておくことが好ましい。
【0030】本発明によれば、上記の如く調整されたクロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなる触媒系に、更に一般式R’iM’jX’kで示されるハロゲン化物を添加し、クロム触媒として供される。ハロゲン化物の共存により触媒活性の向上やポリマーの副生を抑制する等の効果が認められる。
【0031】本発明において使用されるハロゲン化物は、特に限定するものではないが、例えば、下記一般式(4)
R’iM’jX’k (4)
(式中、iは0〜4の整数であり、jは0〜1の整数であり、またkは1〜4の整数である。R’は水素又は炭素数1〜20の炭化水素を表し、M’は周期律表第IA、IIA、VIII、IIB、IIIB、IVB若しくはVB族の元素を表し、X’はハロゲン原子より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物が好適なものとして挙げられる。
【0032】一般式(4)のハロゲン化物としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、ブチルクロリド、アミルクロリド、ヘキシルクロリド、ヘプチルクロリド、オクチルクロリド、ノニルクロリド、デシルクロリド、ラウリルクロリド、メチルブロミド、プロピルブロミド、ブチルブロミド、アミルブロミド、ヘキシルブロミド、エチルヘキシルブロミド、ノニルブロミド、セチルブロミド、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジクロロブテン、シクロヘキシルブロミド、クロロホルム、四塩化炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化ケイ素、四塩化ゲルマニウム、四臭化ゲルマニウム、塩化第一すず、塩化第二すず、ヨウ化すず、三塩化リン、五塩化リン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、三臭化アンチモン、三ふっ化アンチモン、五ふっ化アンチモン、ジメチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムアイオダイド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムアイオダイド、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジアイオダイド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド、ジヘキシルアルミニウムクロリド、ジシクロヘキシルアルミニウムクロリド、ジオクチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、ジメチルシリルジクロリド、メチルシリルトリクロリド、フェニルシリルトリクロリド、ジフェニルシリルジクロリド、メチルジクロロシラン、トリブチルチンクロリド、ジブチルチンジクロリド、ブチルチントリクロリド、トリフェニルチンクロリド、ジフェニルチンジクロリド、フェニルチントリクロリドが挙げられる。これらのうち取扱い易さや経済性の面から塩素化物が好ましく用いられ、より好ましくはジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、塩化第二すず、四塩化ゲルマニウム、五塩化アンチモンが用いられる。これらのハロゲン化物は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0033】ハロゲン化物の添加時期は、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒の調製時に添加してもよいし、またエチレンの三量化反応系に直接添加してもよい。またこのハロゲン化物の使用量は、通常クロム化合物1モルに対して0.2〜5,000当量であり、好ましくは0.5〜2,000当量、より好ましくは1〜1,000当量である。
【0034】本発明によれば、上記の如く調製されたクロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなる触媒系に、更にルイス酸を添加し、オレフィンの低重合触媒として供される。ルイス酸の共存により触媒活性の向上の効果が認められる。
【0035】本発明において使用されるルイス酸は、特に限定するものではないが、例えば、下記一般式(5)
M(Ar)l (5)
(式中、lは2〜4の整数であり、Mは周期律表第IIB、IIIB又はIVB族の元素を表し、Arはアリール基より選ばれた少なくとも一種以上を表す)で示される化合物が好適なものとして挙げられる。
【0036】一般式(5)のルイス酸としては、例えば、トリス(2−フルオロフェニル)ボロン、トリス(3−フルオロフェニル)ボロン、トリス(4−フルオロフェニル)ボロン、トリス(2,4−ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(2,5−ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(2,6−ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(2,4,5−トリフルオロフェニル)ボロン、トリス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、ビス(ペンタフルオロフェニル)亜鉛、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ゲルマニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)スズ、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ボロン等が挙げられる。これらのうち入手の容易さおよび活性の面からトリス(ペンタフルオロフェニル)ボロンが好ましく用いられる。これらのルイス酸は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。また、上記のハロゲン化物と混合して用いることも可能である。
【0037】ルイス酸の添加時期は、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなる触媒の調製時に添加してもよいし、また低重合反応系に直接添加してもよい。またこのルイス酸の使用量は、通常クロム化合物1モルに対して0.1〜2,000当量であり、好ましくは0.5〜1,500当量、より好ましくは1〜1,000当量である。ルイス酸の使用量がクロム化合物1モルに対して0.1当量未満の場合は低重合反応活性が十分得られない。一方、使用量がクロム化合物1モルに対して2,000当量を越える場合には触媒活性が増加せず経済的に好ましくない。
【0038】本発明によれば、クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物が反応系に添加される。
【0039】上記の内部オレフィン化合物としては、特に制限するものではないが、例えば、2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテンが挙げられる。また、非共役ジエン化合物としては、特に制限するものではないが、例えば、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,6−オクタジエン等の鎖状非共役ジエン類、1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、4−ビニルシクロヘキセン等の環状非共役ジエン類が挙げられる。又、非共役トリエン化合物としては、特に制限するものではないが、例えば、1,5,9−デカトリエン等の鎖状非共役トリエン類、1,5,9−シクロドデカトリエン等の環状非共役トリエン類が挙げられる。これらのうち入手の面や経済性の面から、非共役ジエン化合物が好ましく、より好ましくは1,5−シクロオクタジエンが用いられる。また、上記内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物はそれぞれ単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0040】内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物の添加時期は、特に制限するものではないが、クロム触媒の調製時にあらかじめ添加しておいてもよいし、またエチレンの三量化反応系に直接添加してもよい。ここで、前記の事前触媒調製法による触媒の調製段階で内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物を添加すると触媒活性が著しく低下する場合があり、事前触媒調製法においては内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物の添加はエチレンの三量化反応系に直接添加することが好ましい。また内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物の使用量は、仕込み溶液の0.01〜50容量%、好ましくは0.05〜20容量%、さらに好ましくは0.1〜10容量%である。内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物の使用量が仕込み溶液の50容量%より多い場合は触媒活性が低下する傾向にあり経済的に好ましくない。ここで、仕込み溶液とはエチレンの三量化反応時における三量化反応液、即ち溶媒として用いられる脂肪族炭化水素と本発明で用いられる内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物等の溶液の合計量を表す。
【0041】このようにして調製されたクロム触媒を用いてエチレンの三量化反応を行なう。本発明においてクロム触媒の使用量は特に制限されないが、通常、前記溶媒で希釈し、三量化反応液1リットルあたり、クロム化合物が0.001マイクロモル〜100ミリモル、好ましくは0.01マイクロモル〜10ミリモルの濃度で使用される。これより小さい触媒濃度では十分な活性が得られず、逆にこれより大きい触媒濃度では、触媒活性が増加せず経済的でない。
【0042】本発明における三量化反応の温度は、通常−100〜250℃であるが、好ましくは0〜200℃である。反応圧力は、三量化反応系がエチレン雰囲気であれば、特に制限されないが、通常、絶対圧で0〜3,000kg/cm2であり、好ましくは0〜300kg/cm2である。また、反応時間は温度や圧力に左右され、一概に決めることはできないが、通常5秒〜6時間である。また、エチレンは、前記の圧力を保つように連続的に供給してもよいし、反応開始時に前記圧力で封入して反応させてもよい。原料ガスであるエチレンには、反応に不活性なガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等が含まれても何ら差し支えない。なお、三量化反応のすべての操作は、空気と水分を避けて行うことが望ましい。また、エチレンは十分に乾燥しておくことが好ましい。
【0043】本反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれでも実施できる。三量化反応終了後、反応液に例えば、水、アルコール、水酸化ナトリウム水溶液等の重合失活剤を添加して反応を停止させる。失活した廃クロム触媒は公知の脱灰処理方法、例えば、水またはアルカリ水溶液による抽出等で除去した後、生成した1−ヘキセンは、公知の抽出法や蒸留法により反応液より分離される。また、副生するポリマーは、反応液出口で公知の遠心分離法や生成1−ヘキセンの蒸留分離の際の残渣として分離除去される。
【0044】
【実施例】以下に、本発明を実施例を用いて更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の概要を示すもので、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1温度計、触媒フィード管及び撹拌装置を備えた内容積300mlのステンレス製耐圧反応容器を90℃で加熱真空乾燥したのち窒素ガスで十分置換した。0.885mmol/Lのクロム(III)トリス(2−エチルヘキサノエート)/シクロヘキサン溶液1.1ml、0.60mmol/Lのマレイミド/シクロヘキサン溶液100mlおよび乾燥した1,5−シクロオクタジエン6.1mlを反応容器胴側に仕込み、エチレンで十分置換した。一方、触媒フィード管に0.188mol/Lのトリエチルアルミニウム/シクロヘキサン溶液2.3ml、73.9mmol/Lのジエチルアルミニウムクロリド/シクロヘキサン溶液2.2mlを仕込んだ。
【0045】反応容器を120℃に加熱し、撹拌速度を1,000rpmに調整後、触媒フィード管にエチレンを導入し、エチレン圧によりトリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロリドの混合溶液が反応容器胴側に導入され、エチレンの三量化反応を開始した。反応容器内の絶対圧力を40kg/cm2となるようにエチレンガスを吹き込み、以後、前記圧力を維持するように導入し続け、これらの反応条件を保った状態で30分反応を行なった。30分後、反応容器中に水酸化ナトリウム水溶液を窒素で圧入することによって触媒を失活させて反応を停止した。
【0046】反応容器を室温まで冷却し、次いで脱圧した。反応液及び回収した気体中に含まれる生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。また、反応液に含まれる固体分をろ紙を用いてろ別し、これを風乾後、減圧下で乾燥(1mmHg、100℃)してその重量を測定した。結果を表1に示す。
【0047】実施例21,5−シクロオクタジエンを0.11mlに変えたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0048】実施例31,5−シクロオクタジエンを1.2mlに変え、さらに反応温度を150℃に変えたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
実施例4反応圧力を60kg/cm2に変えて、さらに0.182mol/Lのトリエチルアルミニウム/シクロヘキサン溶液を1.2mlに変えたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0049】実施例51,5−シクロオクタジエンの代わりに、1,5−ヘキサジエンを1.2ml用いたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0050】実施例61,5−シクロオクタジエンの代わりに、シクロヘキセンを5.1ml用いたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0051】実施例71,5−シクロオクタジエンの代わりに、1,4−シクロヘキサジエンを4.7ml用いたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0052】実施例81,5−シクロオクタジエンの代わりに、1,4−シクロドデカトリエンを9.1ml用いたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0053】実施例9100mlシュレンク管にマレイミドを5.8mg(60μmol)を秤取り、乾燥シクロヘキサン100mlに溶解させ、0.885mmol/Lのクロム(III)トリス(2−エチルヘキサノエ−ト)/シクロヘキサン溶液1.1ml、を入れ混合した。0.188mol/Lのトリエチルアルミニウム/シクロヘキサン溶液2.3ml、73.9mmol/Lのジエチルアルミニウムクロリド/シクロヘキサン溶液2.2mlを加え、室温で1時間撹拌して、触媒溶液を調製した。
【0054】温度計、触媒フィード管及び撹拌装置を備えた内容積300mlのステンレス製耐圧反応容器を90℃で加熱真空乾燥したのち窒素ガスで十分置換した。前記の触媒溶液を全量容器に仕込み、さらに1,5−シクロオクタジエン1.2mlを添加した。撹拌速度を1,000rpmに調整し、反応容器を120℃に加熱後、反応容器内の絶対圧力を40kg/cm2となるようにエチレンガスを吹き込みエチレンの三量化反応を開始した。以後、前記圧力を維持するように導入し続け、これらの反応条件を保った状態で30分反応を行なった。30分後、反応容器中に水酸化ナトリウム水溶液を窒素で圧入することによって触媒を失活させて反応を停止した。
【0055】反応容器を室温まで冷却し、次いで脱圧した。反応液及び回収した気体中に含まれる生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。また、反応液に含まれる固体分をろ紙を用いてろ別し、これを風乾後、減圧下で乾燥(1mmHg、100℃)してその重量を測定した。結果を表2に示す。
【0056】実施例10温度計、触媒フィード管及び撹拌装置を備えた内容積300mlのステンレス製耐圧反応容器を90℃で加熱真空乾燥したのち窒素ガスで十分置換した。0.189mol/Lのトリエチルアルミニウム/シクロヘキサン溶液3.2mlと乾燥したシクロヘキサン25mlを反応容器胴側に仕込み、エチレンで十分置換した。一方、触媒フィード管に9.80mmol/Lのクロム(III)トリス(2−エチルヘキサノエート)/シクロヘキサン溶液2.1mlおよび0.750mmol/Lのマレイミド/シクロヘキサン溶液80ml及び乾燥した1,5−シクロオクタジエン6.1mlを仕込んだ。
【0057】反応容器を80℃に加熱し、撹拌速度を1,000rpmに調整後、触媒フィード管にエチレンを導入し、エチレン圧によりクロム化合物とマレイミドの混合溶液が反応容器胴側に導入され、エチレンの三量化反応を開始した。反応容器内の絶対圧力を40kg/cm2となるようにエチレンガスを吹き込み、以後、前記圧力を維持するように導入し続け、これらの反応条件を保った状態で30分反応を行なった。30分後、反応容器中に水酸化ナトリウム水溶液を窒素で圧入することによって触媒を失活させて反応を停止した。
【0058】反応容器を室温まで冷却し、次いで脱圧した。反応液及び回収した気体中に含まれる生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。また、反応液に含まれる固体分をろ紙を用いてろ別し、これを風乾後、減圧下で乾燥(1mmHg、100℃)してその重量を測定した。結果を表2に示す。
【0059】比較例11,5−シクロオクタジエンを添加しなかったこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表2に示す。
【0060】比較例21,5−シクロオクタジエンを添加せず、また反応温度を150℃に変えたこと以外、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表2に示す。
【0061】比較例31,5−シクロオクタジエンを添加しなかったこと以外、実施例10と同様にして反応を行なった。結果を表2に示す。
【0062】
【表1】


【0063】
【表2】


【0064】
【発明の効果】本発明によれば、クロム化合物、アルキル金属化合物及び安定性の高い取り扱いの容易なイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物、若しくは非共役トリエン化合物を反応系に添加すると高活性かつ高選択的に、しかも極めて高い純度で1−ヘキセンを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】クロム化合物、アルキル金属化合物及びイミド化合物からなるクロム触媒の存在下にエチレンを三量化する反応において、溶媒として脂肪族炭化水素を用い、さらに内部オレフィン化合物、非共役ジエン化合物及び非共役トリエン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を、仕込み溶液の0.01〜50容量%の割合で反応系に添加することを特徴とする1−ヘキセンの製造方法。
【請求項2】イミド化合物が下記一般式(1)
【化1】


(式中、dは1〜4の整数である。Mは水素、又は周期律表第IA、IIA、IB、IIB、IIIB若しくはIVB族の置換基含有又は無置換の金属元素を表す。R,R2はそれぞれ水素、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子、アリ−ル基、又はR1,R2が炭素−炭素結合により結合した環状置換基からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項3】クロム化合物が下記一般式(2)
CrAmn (2)
(式中、mは1〜6の整数であり、nは0〜4の整数である。またAは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アレーン、アルコキシ基、カルボキシレート基、β−ジケトナート基、β−ケトエステル基及びアミド基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、硝酸基、硫酸基、過塩素酸基、カルボニル並びに酸素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表し、Bは窒素含有化合物、リン含有化合物、ヒ素含有化合物、アンチモン含有化合物、酸素含有化合物及び硫黄含有化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項4】アルキル金属化合物が下記一般式(3)
pMXq (3)
(式中、pは0<p≦3であり、qは0≦q<3であって、しかもp+qは1〜3である。Mはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ボロン又はアルミニウムを表し、Rは炭素数1〜10のアルキル基より選ばれた少なくとも1種以上を表し、Xは水素原子、アルコキシ基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示される化合物、又はアルミノキサンであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項5】請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のクロム触媒に更に下記一般式(4)
R’iM’jX’k (4)
(式中、iは0〜4の整数であり、jは0〜1の整数であり、またkは1〜4の整数である。R’は水素又は炭素数1〜20の炭化水素を表し、M’は周期律表第IA、IIA、VIII、IIB、IIIB、IVB若しくはVB族の元素を表し、X’はハロゲン原子より選ばれた少なくとも1種以上を表す)で示されるハロゲン化物が含まれることを特徴とする1−ヘキセンの製造方法。

【公開番号】特開平9−268134
【公開日】平成9年(1997)10月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−80038
【出願日】平成8年(1996)4月2日
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)