説明

1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法

【解決手段】Rh含有化合物の存在下で、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、式(1)


(R’及びR”はメチル基又はエチル基、aは0,1又は2)
で表されるビニル基含有アルコキシシラン化合物を加えて、反応させる式(2)


(R’、R”及びaは上述と同じ)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。
【効果】本発明にて得られる1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、無機粉末の表面処理剤、シリコーンオイル等の変性剤、シリコーンシーラントの原料、シランカップリング剤の原料等、各種合成用の中間体等として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉末の表面処理剤、シリコーンオイル等の変性剤、シリコーンシーラントの原料、シランカップリング剤の原料、各種合成用の中間体等として、様々な産業分野において有用である1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを高収率かつ高選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製法は、従来よりいくつかの手段が知られているが、いずれの手段にも問題点があった。
例えば、特開昭62−207383号公報(特許文献1)、米国特許第4772675号明細書(特許文献2)、特開平1−197509号公報(特許文献3)、特開平6−172536号公報(特許文献4)、特開平6−166810号公報(特許文献5)、特開平7−70551号公報(特許文献6)、特開平9−12709号公報(特許文献7)、特開平9−309889号公報(特許文献8)、特開2000−256374号公報(特許文献9)、特開2001−348429号公報(特許文献10)等においては、様々な条件にて反応触媒として白金化合物の存在下で、ビニル基含有アルコキシシラン化合物と1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとを反応させることにより、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを合成する方法が記載されている。より具体的には、特開昭62−207383号公報(特許文献1)では、ビニル基含有アルコキシシラン化合物であるビニルトリメトキシシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(ビニルトリメトキシシランの1モルに対して2倍モル量)及び白金触媒を、反応器に全量一括で仕込んで混合して反応させることにより、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンである1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを得る方法が記載されている。なお、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを合成するには、ビニル基含有アルコキシシラン化合物の1モルに対して、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの理論的な必要量は1倍モルであるが、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンはビニル基と付加反応可能な部位(H−Si基)を1分子に2箇所有する化学構造であるため、その両方にビニル基含有アルコキシシラン化合物が付加してしまう副生物ができやすいことが問題であった。この問題を軽減するために、特開昭62−207383号公報(特許文献1)では、ビニル基含有アルコキシシラン化合物の1モルに対して、2〜4倍モルもの大過剰量の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを反応に使用することが推奨されており、1〜2倍モルでは上記の副生物量が増加して、収率が大きく低下することが示されている。
【0003】
しかし、このように推奨されている配合条件であっても、未だ収率は非常に低くて問題であった。例えば、上記の特開昭62−207383号公報(特許文献1)に記載されている具体例では、ビニルトリメトキシシラン/1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン=1/2(モル比)で反応を行っているが、1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの収率はビニルトリメトキシシランに対しては80%程度、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに対してはわずかに40%程度に過ぎなかった。また、ビニル基含有アルコキシシラン化合物に対して1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを大過剰に使用するという手段は、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに掛かる費用を増大させ、かつ単位容積当たりの収率も低くならざるを得ないため、明らかに経済的に不利な方法である。以上より、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造に関しては、ビニル基含有アルコキシシラン化合物の1モルに対して、大過剰の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを使用しなくてもよい配合条件で、かつ従来手段よりも更に高収率が達成できる製造方法が求められていた。
【0004】
このような状況に対して、Crivello et al.;Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry ,Vol.31,3121−32(1993)の3122ページ(非特許文献1)には、反応触媒としてのRhCl(PPh33の存在下で、当モルのビニル基含有アルコキシシラン化合物(例:ビニルトリメトキシシラン)と1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを反応させることにより、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを白金触媒存在下での製造方法に比べて、より高い収率で製造する方法が記載されている。より具体的には、反応容器に、ポリマーに担持されたRhCl(PPh33と当モルの1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとビニルトリメトキシシラン及びトルエンを全量一括で仕込み、80℃に加熱して16時間反応し、次いで、トルエンと過剰の原料を除去した後、蒸留することによって、収率85.6%で1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを得る方法が記載されている。だが、この方法はビニル基含有アルコキシシラン化合物の1モルに対して、大過剰量の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを使用しなくてもよいという利点はあるものの、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの収率については未だ不十分であり、更に高収率が達成できる製造方法が求められていた。
【0005】
なお、上記文献の具体例においては、得られた1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、CH2=CH−Si基にH−Si基が付加する際に生じる2種の異性体(−Si(CH22Si−なる結合を有する化合物1−[2−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(β付加体と以後称する)及び−SiCH(CH3)Si−なる結合を有する化合物1−[1−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(α付加体と以後称する))の混合物となること及び上記の具体例においては異性体の混合比率(異性体比=α付加体/β付加体)は1/2(33/67)であることが記載されている。なお、白金触媒存在下での反応においても、例えば特開平6−172536号公報(特許文献4)には、得られた1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは−Si(CH22Si−なる結合を有する化合物1−[2−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(β付加体)だけではなく、その異性体である−SiCH(CH3)Si−なる結合を有する化合物1−[1−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(α付加体)も生成し、その混合物となること及び異性体比=α付加体/β付加体は1/2(33/67)であることが記載されている。
【0006】
アルコキシシリル基の加水分解速度は、アルコキシシリル基に結合するアルキル置換基が嵩高いほど、反応時の立体障害が大きくなるため、遅くなることが知られている。よって、アルコキシシリル基に1級炭素が結合したβ付加体に比較し、2級炭素が結合したα付加体の方が加水分解速度は遅くなってしまう。本化合物が使用される応用分野においては加水分解速度は速いことが好ましく、よって異性体のα付加体の量がより少ない(高選択的な)製造方法が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−207383号公報
【特許文献2】米国特許第4772675号明細書
【特許文献3】特開平1−197509号公報
【特許文献4】特開平6−172536号公報
【特許文献5】特開平6−166810号公報
【特許文献6】特開平7−70551号公報
【特許文献7】特開平9−12709号公報
【特許文献8】特開平9−309889号公報
【特許文献9】特開2000−256374号公報
【特許文献10】特開2001−348429号公報
【非特許文献1】Crivello et al.;Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry ,Vol.31,3121−32(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高収率かつ高選択的に、下記一般式(2)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R’及びR”はメチル基又はエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。また、aは0,1又は2である。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、Rh含有化合物の存在下で、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、下記一般式(1)
【化2】

(式中、R’及びR”はメチル基又はエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。また、aは0,1又は2である。)
で表されるビニル基含有アルコキシシラン化合物を加えて、反応させることにより、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを高収率かつ高選択的に製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、Rh含有化合物の存在下で、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、下記一般式(1)
【化4】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
で表されるビニル基含有アルコキシシラン化合物を加えて、反応させることにより、下記一般式(2)
【化5】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを製造する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、下記一般式(2)
【化6】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが、高収率かつ高選択率で得られる製造方法を提供する。
本発明の製造方法にて得られる1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、シロキサン鎖の一方の端にSi−H結合を有し、もう一方の端にアルコキシシリル基を有するため、ビニル基やアリル基等のオレフィン性有機基を有する各種の化合物やポリマー類と白金触媒等の存在下で付加反応することによって化学的に結合し、それらに(アルコキシシリル)エチル基を有するシロキサン構造を導入できる。アルコキシシリル基は加水分解縮合反応によって、ガラスや金属といった無機化合物の表面とシロキサン結合を形成して化学的に結合したり、変性を行ったポリマーの主鎖間を架橋したりする機能を有するため、同化合物は無機粉末の表面処理剤、シリコーンオイル等の変性剤、シリコーンシーラントの原料、シランカップリング剤の原料等に有用である。また、同化合物は各種合成用の中間体等としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法において、原料として使用する1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、公知の化合物であり、工業的規模で大量に入手可能である。
また、もう一方の原料である下記一般式(1)
【化7】

(式中、R’及びR”はメチル基又はエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。また、aは0,1又は2である。)
で表されるビニル基含有アルコキシシラン化合物も、公知の化合物であり、公知の方法により製造することができ、工業的な規模で安価かつ大量に入手可能である。なお、工業的な規模で安価かつ大量に入手できる点から、特に好ましくは、R’はメチル基、R”はメチル基又はエチル基、aは0又は1がよい。また、一般式(1)の化合物は、具体的には以下の構造のものが例として挙げられるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【0015】
【化8】

【0016】
本発明における一般式(1)のビニル基含有アルコキシシラン化合物と1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのモル比(ビニル基含有アルコキシシラン化合物/1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)は、0.8〜1.2、特に0.9〜1.1の範囲がよい。モル比が0.8未満、即ち、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが多い場合には、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが未反応で多く残存することになり、経済的に不利となる場合がある。一方、モル比が1.2を超える場合、即ちビニル基含有アルコキシシラン化合物が多い場合、生成した一般式(2)の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、更にもう一分子の一般式(1)のビニル基含有アルコキシシラン化合物が付加した下記一般式(3)の副生物(ビス付加体と以後称する)が生成し、収率が低下する傾向となる。
【0017】
【化9】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
【0018】
本発明における反応触媒は、Rh含有化合物である。種々のRh化合物を反応触媒として選択できるが、好ましくは付加反応を最後までより安定に進行させるためには、特に反応温度が60℃未満の場合、一般的にH−Si基とビニル基との付加反応を阻害させる可能性があるリン原子含有化合物を配位子として含まないものがよく、特に好ましくはハロゲン化ロジウム又は1,5−シクロオクタジエンを配位子として含有するものがよい。Rh含有化合物は、具体的には、以下のものが挙げられるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
RhCl3・xH2
RhCl3
RhBr3・2H2
RhBr3
RhI3
Rh6(CO)16
Rh4(CO)12
[RhCl(CO)22
Rh(acac)3 (acac=アセチルアセトナート)
[Rh(acac)22
Rh(acac)(CO)2
(NH43[RhCl6]・xH2
[Rh(NH35Cl]Cl2
[Rh(C715COO)22
[Rh(CF3COO)22
[Rh(C242(acac)]
[Rh(C2422
[RhCl(C81422
[RhCl(C78)]2
(CH355Rh(CO)2
[(CH355RhCl22
Rh(C2823Cl3・3H2
[RhCl(cod)]2 (cod=1,5−シクロオクタジエン)
[RhOH(cod)]2
[Rh(cod)2(acac)]
[Rh(cod)(acac)]
Rh(cod)2BF4
Rh(cod)2SO3CF3
RhCl(PPh33 (PPh3=トリフェニルホスフィン)
[Rh(acac)(CO)(PPh33
trans−[RhH(CO)(PPh33
【0019】
Rh含有化合物の添加量は、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの1モルに対して、Rh原子が0.1×10-6〜0.1モル、特に1×10-6〜0.01モルの範囲が好ましい。0.1×10-6モル未満では触媒効果が乏しい場合があり、0.1モルを超えると経済的に不利な場合がある。
【0020】
本発明においては、Rh含有化合物の存在下で、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、ビニル基含有アルコキシシラン化合物を加えることを特徴とする。なお、ビニル基含有アルコキシシラン化合物を加える前に、Rh含有化合物を1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンと混合する方法は、一般的に粉体のRh含有化合物と液状の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを混合させる方法の他に、作業上の取り扱い性を向上させる目的で、又は反応開始時の触媒活性を向上させる目的で、粉体のRh含有化合物を有機溶媒又は有機溶媒と少量の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとの任意の組み合わせの混合物に予め溶かして触媒溶液としたものと、予め仕込んでおいた1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとを混合させる方法を選択しても構わない。
【0021】
使用可能な有機溶媒としては、好ましくはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、デカリン、テトラリン等の芳香族系炭化水素類やヘキサン、イソオクタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、パラフィン等の脂肪族系炭化水素類、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、シクロヘキサノン等の非プロトン性極性溶剤類、ジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニル基含有シロキサン類等が挙げられる。
【0022】
本発明においては,1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに対し、ビニル基含有アルコキシシラン化合物を添加することが必要である。この場合、Rh含有化合物の存在下であっても、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとビニル基含有アルコキシシラン化合物を全量一括で仕込んで反応させると、反応性が低下したり、副生物が多い等の現象により収率が低くなる問題の他、異性体比=α付加体/β付加体が高くなる(α付加体が多くなる)問題が発生して好ましくない結果となる。また、ビニル基含有アルコキシシラン化合物に1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを加えて反応させると、前記一般式(3)の副生物(ビス付加体)が多くなる問題が発生し、好ましくない結果となる。
【0023】
また、反応温度は、0℃以上150℃以下、特に0℃以上60℃未満がよい。反応温度が0℃より低いと、反応速度が遅くなって反応終了までに時間がかかり、経済的に不利になる場合がある。一方、150℃より高いと副生物量が増加して収率が低下したり、異性体比=α付加体/β付加体が高くなる(α付加体が増加する)場合がある。なお、反応温度が0℃以上60℃未満だと、副生物の発生量が更に減少して、収率が更に増加したり、異性体比=α付加体/β付加体がより低くなる(α付加体がより減少する)といったより好ましい結果が得られる。
【0024】
ここで、一般式(2)の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの2種の異性体であるそれぞれの構造について、α付加体は以下一般式(4)、β付加体は以下一般式(5)で示される。
【0025】
【化10】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
【化11】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
【0026】
本発明の製造方法によれば、従来製法に比べて格段にα付加体が低減して、β付加体が高選択的に得られ、異性体比=α付加体/β付加体は25以下/75以上となる。また、好ましくは反応温度を0℃以上60℃未満とすることにより、α付加体が更に低減して、β付加体はより高選択的に得られ、異性体比=α付加体/β付加体は20以下/80以上となる。
【0027】
また、本発明において、反応溶媒は本質的に必須の物質ではないが、反応系の均一性を向上させる、反応系の容積を増加させて撹拌性を向上させる、反応系の温度を制御する等の必要に応じて使用しても構わない。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、デカリン、テトラリン等の芳香族系炭化水素類、ヘキサン、イソオクタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、パラフィン等の脂肪族系炭化水素類、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、シクロヘキサノン等の非プロトン性極性溶剤類、ヘキサメチルジシロキサン等のシロキサン等を単独又は複数の組み合わせで用いることができる。1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとRh含有化合物を混合する時に共に混合したり、ビニル基含有アルコキシシラン化合物と混合して1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとRh含有化合物の混合物に滴下することも構わない。
【0028】
本発明の製造方法では、反応時の圧力は、常圧又は加圧のいずれの条件でも実施でき、特に制限はないが、一般的には、大気圧条件で十分である。
【0029】
本発明の製造方法における反応系の雰囲気は、加水分解性のアルコキシシリル基を含有する化合物を取り扱うことから水分の混入は本質的に好ましくなく、不活性ガスの雰囲気とすることにより、実質的に水分を含まない条件がより好ましい。また、引火性化合物を取り扱うことより、防災上の観点からも、反応系は不活性ガスの雰囲気が好ましい。なお、具体的な不活性ガスの例としては、窒素又はアルゴン等が挙げられる。
【0030】
本発明の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに対しビニル基含有アルコキシシラン化合物を添加する際の反応時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間で十分である。0.1時間より短いと単位時間当たりの反応熱量が大量になるため、反応系の温度が急上昇して危険となる場合があり、100時間より長いと経済的に不利になる場合がある。
【0031】
本発明の製造方法により得られる下記一般式(2)
【化12】

(式中、R’、R”及びaは上述と同じ。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、具体的には以下のものが挙げられるが、本発明はこれら例示に限定されるものではない。なお、この構造式は、2種の異性体の混合物であることを表すものであり、2種の異性体(α付加体及びβ付加体)の構造は前記した一般式(4)及び(5)に準拠するものであり、その異性体比も前記に準拠したものとなる。
【0032】
【化13】

【0033】
本発明の製造方法により得られる1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンは、13kPa以下、特に7kPa以下の減圧条件で、通常の蒸留操作を行うことによって、高純度に精製することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例、比較例及び参考例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
還流冷却管、撹拌機、滴下ろうと及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った四口フラスコ中に、窒素シールした状態にて、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン 134.3g(1モル)及びRhCl3・3H2O 0.026g(0.1ミリモル)を仕込んで混合物とした。次いで、60〜70℃に昇温後、同温度範囲を維持管理しながら撹拌しつつ、ビニルトリメトキシシラン 148.2g(1モル、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンと当モル)を滴下ろうとより上記混合物に滴下していった。6〜7時間の滴下終了後、そのまま60〜70℃を維持しつつ、1〜2時間熟成したところ、反応は完結した。減圧蒸留時の生成物の沸点は、92〜95℃(1.3kPa)であり、得られた生成物の1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの収率は93%であった。また、生成物はガスクロマトグラフィーの分析により、2種類の異性体(α付加体:1−[1−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとβ付加体:1−[2−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)の混合物であることが確認され、異性体比=α付加体/β付加体は18/82であった。
【0036】
[実施例2]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、[RhCl(cod)]2 0.025g(0.05ミリモル、codは1,5−シクロオクタジエンの意味である)を使用する以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、得られた生成物の収率は90%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は18/82であった。
【0037】
[実施例3]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、RhCl(PPh33 0.093g(0.1ミリモル)を触媒として使用する以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、得られた生成物の収率は90%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は18/82であった。
【0038】
[比較例1]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、公知のKarstedt白金触媒 2.0g(Pt 1wt%、0.1ミリモルのPtを含有)を触媒として使用する以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、ビニルトリメトキシランの滴下に11時間かけて、2時間熟成すると、反応は完結した。得られた生成物の収率は64%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は30/70であった。
【0039】
[比較例2]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、公知のSpeier白金触媒 2.0g(Pt 1wt%、0.1ミリモルのPtを含有)を触媒として使用する以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、ビニルトリメトキシランの滴下に10時間かけて、3時間熟成すると、反応は完結した。得られた生成物の収率は64%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は30/70であった。
【0040】
[比較例3]
1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの134.3g(1モル)を、179.0g(1.333モル)とする以外は比較例1と同様に反応を行ったところ、ビニルトリメトキシランの滴下に17時間かけて、2時間熟成すると、反応は完結した。得られた生成物の収率は72%(対ビニルトリメトキシシラン)及び54%(対1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は28/72であった。
【0041】
[比較例4]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、cis−PtCl2(PPh32 0.079g(0.1ミリモル)を触媒として使用する以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、ビニルトリメトキシランの滴下を約100g行った時点で、未反応のビニルトリメトキシシランが反応混合物中に大量に蓄積して、反応が失活していることが確認されたため、反応を中止した。
【0042】
比較例1〜4は、反応触媒が白金化合物であると反応方法を同様にしても、非常に低収率であり、かつα付加体の量が多い結果となることを示すものである。
【0043】
[実施例4]
反応温度を40〜50℃で実施すること以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、得られた生成物の収率は94%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は15/85であった。
【0044】
[実施例5]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、[RhCl(cod)]2 0.025g(0.05ミリモル)を使用する以外は実施例4と同様に反応を行ったところ、得られた生成物の収率は95%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は15/85であった。
【0045】
[参考例1]
RhCl3・3H2O 0.026gの代わりに、RhCl(PPh33 0.093g(0.1ミリモル)を使用すること以外は、実施例4と同様に反応を行ったところ、ビニルトリメトキシランの滴下を約70g行った時点で、未反応のビニルトリメトキシシランが反応混合物中に大量に蓄積して、反応が失活していることが確認されたため、反応を中止した。
Rh化合物として、好ましくは付加反応を最後までより安定に進行させるためには、反応温度60℃未満の場合、一般的にH−Si基とビニル基との付加反応を阻害させる可能性があるリン原子含有化合物を配位子として含まないものがよく、特に好ましくはハロゲン化ロジウム又は1,5−シクロオクタジエンを配位子として含有するものがよいことを示すものである。
【0046】
[比較例5]
還流冷却管、撹拌機及び滴下ろうとを備えて窒素置換を十分に行った四口フラスコ中に、窒素シールした状態にて、RhCl3・3H2O 0.5mg(0.002ミリモル)を仕込んだ。次いで、反応器を40〜50℃に昇温後、同温度範囲を維持管理しながら撹拌しつつ、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン 2.7g(0.02モル)及びビニルトリメトキシシラン 3.0g(0.02モル、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンと当モル)の混合物を滴下ろうとより、一括で投入し、3者の混合物を反応させた。約12時間の熟成の後、得られた生成物の収率は61%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は30/70であった。
【0047】
[比較例6]
RhCl3・3H2O 0.5mgの代わりに、RhCl(PPh33 1.9mg(0.002ミリモル)を使用する以外は比較例5と同様に反応を行ったところ、熟成4時間目に得られた生成物の収率は75%であった。また、異性体比=α付加体/β付加体は26/74であった。
【0048】
比較例5〜6は、Rh含有化合物の存在下であっても、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとビニル基含有アルコキシシラン化合物を全量一括で反応させると、反応性が低下したり、副生物が多い等の現象により収率が低くなる問題や、異性体比=α付加体/β付加体が高くなる(α付加体が多くなる)問題が発生して好ましくない結果となることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rh含有化合物の存在下で、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンに、
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R’及びR”はメチル基又はエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。また、aは0,1又は2である。)
で表されるビニル基含有アルコキシシラン化合物を加えて、反応させることを特徴とする下記一般式(2)
【化2】

(式中、R’及びR”はメチル基又はエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。また、aは0,1又は2である。)
で表される1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。
【請求項2】
反応温度が、0℃以上60℃未満の範囲であることを特徴とする請求項1記載の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。
【請求項3】
Rh含有化合物が、リン原子含有化合物を配位子として含まないことを特徴とする請求項1又は2記載の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。
【請求項4】
Rh含有化合物が、ハロゲン化ロジウム又は1,5−シクロオクタジエンを配位子として含有することを特徴とする請求項1又は2記載の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。
【請求項5】
ビニル基含有アルコキシシラン化合物がビニルトリメトキシシランであり、1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが1−(トリメトキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の1−(アルコキシシリル)エチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの製造方法。

【公開番号】特開2007−77136(P2007−77136A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212968(P2006−212968)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】