説明

1細胞レベルでのT細胞抗原レセプター遺伝子の解析・同定方法

【課題】1個のヒトT細胞抗原レセプター(TCR)遺伝子を効率よく解析・同定する技術や、1個のT細胞に由来するヒトTCRを発現する形質転換ヒトT細胞等を提供すること。
【解決手段】樹状細胞ワクチンの投与を受けたメラノーマ患者において増幅されているgp100209−217ペプチドに対するTCRを産生すると考えられるCTL細胞を、FITC標識抗CD8抗体及びPE標識gp100−HLA-A2テトラマーにより二重染色し、マイクロメッシュデバイス等を用いて、二重染色されたCTL細胞を1細胞ずつ分取して、分離された1個のヒトCTL細胞から全RNAを抽出した後、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子を解析・同定する。同定されたTCR遺伝子を発現ベクターに組み込み、ナイーブT細胞を形質転換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子の解析・同定方法や、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターの調製方法や、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターがナイーブT細胞に導入され、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性黒色腫は、インターロイキン2などを用いた免疫療法が比較的有効な癌であるが(例えば、非特許文献1参照)、生体内における抗腫瘍効果には、腫瘍細胞に反応する細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T lymphocyte:CTL)が重要であることが示されている(例えば、非特許文献2参照)。免疫療法後、腫瘍反応性T細胞が活性化され、T細胞上のT細胞レセプター(T cell receptor:TCR)が、HLA(ヒト白血球抗原)分子によって腫瘍細胞表面に提示される腫瘍細胞タンパク質が分解されてできたペプチド(腫瘍抗原)を認識し、腫瘍細胞を傷害する。更に各種サイトカインを分泌し、マクロファージ等の他の免疫細胞をも誘導活性化し、生体内で腫瘍拒絶を起こすと考えられている。腫瘍反応性T細胞には自己腫瘍細胞のみならず、HLAを共有する他の患者からの腫瘍細胞にも反応するような共通腫瘍抗原を認識する場合と、自己腫瘍細胞しか反応しない固有抗原を認識する場合がある。
【0003】
ヒト腫瘍細胞に対する免疫応答機構を解明して、新しい免疫療法を開発するためには、これらの腫瘍反応性T細胞が認識する腫瘍抗原を同定することが重要である。腫瘍反応性T細胞が樹立されている場合には、その反応性を利用した機能的cDNA発現クローニング法を用い、悪性黒色腫抗原の単離が可能である。例えば、転移メラノーマ患者からの腫瘍反応性CTLと、HLA−A2を発現する腫瘍細胞株とを用いて、メラノーマの予防、診断及び治療に用いることができる悪性黒色腫抗原を単離することが可能であり(例えば、特許文献1参照)、その一つMART1は同様な方法によって単離、同定されたものである。現在までに代表的なものとして、上記MART1やgp100のような色素細胞(メラノサイト)組織特異的タンパク質、各種腫瘍と正常組織では精巣に発現が認められるMAGE、BAGE、GAGE、NY−ESO−I等のCT抗原(Cancer-Testis抗原)、腫瘍細胞の遺伝子異常により産生されるβカテニン、CDK4(cyclin dependent kinase 4)、p15、GnT−V等の変異ペプチド抗原が単離されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
また、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)感染症は、通常の免疫状態である健常人ではあまり問題にはならないが、特に臓器移植後など免疫低下状態では、重篤な間質性肺炎などの合併症を起こしうる深刻な疾患である。現在、抗ウイルス剤の投与によりCMV感染症の臨床症状は緩和されるが、根治対策となり得る抗ウイルス剤は現在のところまだ知られていない。これまでに主にCMVpp65タンパク由来のHLA−A2拘束性のエピトープに関する研究が行われており、CMVpp65495−503ペプチドを用いた特異的CTL細胞の誘導やテトラマ―試薬を用いたCTLクローンの評価が行われている。しかし、進行がん患者でのCMVに対するCTL細胞の誘導反応に関して、それほど多くの知見は得られておらず、CMV感染症に特異的なCTL細胞のTCLβ鎖遺伝子については何ら知られていない。
【0005】
T細胞はTCRによりMHC分子/抗原ペプチド複合体を認識して、抗原提示細胞(antigen presenting cell;APC)などの標的細胞に結合するが、CTLはMHCクラスI分子/抗原ペプチドの複合体のみに結合し(MHCクラスI拘束性)、ヘルパーT(Th)細胞はMHCクラスII分子/抗原ペプチドの複合体のみしか結合できない(MHCクラスII拘束性)とされている。また、MHCクラスI分子はほとんどの有核細胞に発現しているが、MHCクラスII分子はB細胞,マクロファージ,クッパー細胞,活性化T4リンパ球など異物の排除や感染防御に関係する特別な機能をもった細胞でしか発現していない。このためTh細胞はMHCクラスII分子を発現した樹状細胞やB細胞、活性化T細胞などとは結合できるが、これら以外の腫瘍細胞やウイルス感染細胞などには直接結合することができない。しかし遺伝子操作によってMHCクラスI拘束性とされるCTL由来のTCR遺伝子を導入したMHCクラスII拘束性とされるCD4陽性CD8陰性T細胞が、対応抗原をパルスしたAPCとCD8非依存的に反応して活性化されることができ、対応抗原に結合できるTCRを発現していることが示された。また、非特異的な抗腫瘍活性をもつ末梢血リンパ球に腫瘍抗原特異的CTL由来のTCR遺伝子を導入することにより、特異的に腫瘍を傷害することができることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0006】
他方、T細胞表面に存在する膜表面タンパク質であり、抗原認識を担うTCRには、α鎖・β鎖から成るヘテロ二量体とγ鎖・δ鎖から成るヘテロ二量体の二種類が同定されている。TCR遺伝子は、免疫グロブリン遺伝子と同様に、可変領域(V:variable)、多様性領域(D:diversity)、結合領域(J:joining)からなり分子の多様性を生じるVドメインと、細胞外定常領域、膜貫通領域、細胞内領域を含む定常領域(C:constant)からなるCドメインにより構成されている。これらのアミノ酸配列はT細胞ごとに異なっていることから、TCRは抗原認識分子であると同時に個々のT細胞の目印にもなっている。このTCRの多様性は後天的なTCR遺伝子の再構成によって生みだされており、TCRβ,δ鎖はV−D−Jを、TCRα,γ鎖はV−Jを再構成することが知られている。
【0007】
T細胞の初期分化は、B細胞と同様にTCRのα鎖及びβ鎖遺伝子の再構成と密接に関わっている。TCRβ鎖遺伝子の再構成はDN−T細胞(double negative:CD4)の段階で開始され、β鎖遺伝子の再構成に成功した細胞はβ鎖タンパク質と代替α鎖(preTα)の複合体、つまりプレT細胞レセプターを細胞表面に発現する。そして、CD4及びCD8分子の発現が誘導され、DP−T細胞(double positive:CD4++)へと移行し、DPとなったT細胞は、次にTCRのα鎖遺伝子の再構成に成功した細胞のみが、TCRを表面に発現できることが知られている。
【0008】
TCRβ鎖の遺伝子構成に関しては、ヒトゲノム遺伝子配列情報データベースによれば、TCRβ鎖の遺伝子は約30種類の亜族(遺伝子自体は約70種)からなるV遺伝子、2種類のD遺伝子、14種類のJ遺伝子、2種類のC遺伝子によって構成され、Vβ中に2つの可変領域(CDR1、CDR2)が存在することも知られている。これらの中からVβ、Dβ、Jβが各1つずつ選ばれて結合し、TCRβ鎖をコードするDNAが構成されている。この際、Vβ−Dβ−Jβの結合部にはランダムな塩基の挿入や欠失が起こり、無限に近い多様性が生みだされている。このVβ−Dβ−Jβの結合部位は、CDR3(相補性決定領域3:third complementarity determining region)、結合部(junctional)領域と呼ばれ、TCRの中で最も多型性に富む部分であり、塩基の挿入・欠失が起こるため、各遺伝子構成が同じであっても連結部分も含めて同一配列になることは極めて稀である。
【0009】
【特許文献1】特表平10−505481号公報
【非特許文献1】JAMA 271, 907, 1994
【非特許文献2】Microbiol.Immunol. 42, 803, 1998
【非特許文献3】Immunol Res 16, 313, 1997
【非特許文献4】J.Immunol.,171:3287-3295, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、がんや自己免疫疾患という病態での免疫細胞の異常クローンが注目されているが、免疫のダイナミックな順応メカニズムを考えれば、個々の細胞の機能的性格が異なることは容易に想像できる。免疫応答の観点からしてもTCRや抗体遺伝子の変異も最初は1個の細胞から始まる現象であり、免疫細胞の機能研究においては、1細胞レベルでの研究はもはや避けては通れない時代である。特に、がんという病態下での個々の免疫細胞の動態については、未だ詳細な検討はなされておらず、新しい治療を考える上で重要な研究課題となりうる。本発明の課題は、1個のT細胞由来のmRNAの遺伝子解析を将来的な研究開発の目的と位置づけ、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子を効率よく解析・同定する技術や、1個のT細胞に由来するヒトT細胞抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
TCR分子が、T細胞を介する免疫応答および免疫機構に重要な役割を果たしていることから、これら免疫応答および免疫機構の解析には、個々のTCR分子を得ることが必要である。しかし、膜表面タンパク質を細胞から精製すると、1010個の細胞からせいぜい10μg程度しか得られない。しかも、TCRの多様性により、一種類のTCRを分取するためには、それぞれのTCRを持つT細胞株を樹立し、その各々からTCRを単離することが必須となる。しかし、T細胞のTCRレパートリーは1010種類にも及んでおり、1010種のT細胞株を樹立することは、実質的に極めて困難である。
【0012】
本発明者らは、転移性メラノーマの症例を対象にHLA−A2又はA24ペプチドカクテルにて処理をした樹状細胞ワクチンの臨床試験を実施している。今回、HLA−A2拘束性をもつgp100209−217ペプチド(以下、gp100ペプチドということがある)にて処理した樹状細胞ワクチン投与を受けたメラノーマ患者由来のT細胞を用いて1細胞レベルでのメラノーマgp100ペプチド特異的なTCRについて解析・同定を行った。すなわち、樹状細胞ワクチンの投与を受けたメラノーマ患者において増幅されているgp100ペプチドに対するTCRを産生すると考えられるCTL細胞を、FITC標識抗CD8抗体及びPE標識gp100−HLA-A2テトラマー(gp100ペプチドとHLA-A2の複合体を4個連結し、さらにPE標識したもの)により二重染色し、複数の微細孔を有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いて、二重染色されたCTL細胞を1細胞ずつ分取して、分離された1個のヒトCTL細胞から全RNAを抽出した後、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子を解析・同定することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、[1]以下の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の工程を順次備えたことを特徴とする、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子の解析・同定方法
(A)細胞障害性T細胞又はヘルパーT細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープに対する免疫応答が確認されているヒトから得られる末梢血単核球を採取する工程;
(B)標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープと、前記標識物質とは異なる標識物質により標識された、ヒトT細胞を認識しうる抗体とにより、末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程;
(C)標識物質により二重標識されたT細胞を1細胞ずつ分取する工程;
(D)1細胞から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する工程;
(E)合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプターに特異的なプライマー対を用いたPCR反応を行い、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する工程;
(F)増幅された遺伝子断片の塩基配列を解析・決定する工程;
や、[2]末梢血単核球を採取する工程において、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られる末梢血単核球を採取することを特徴とする上記[1]に記載の解析・同定方法に関する。
【0014】
また本発明は、[3]末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープとして、がん特異的抗原ペプチド、ヒト組織適合性抗原(HLA)タンパク、及び標識物質からなる複合体を用いることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の解析・同定方法や、[4]末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、ヒトT細胞を認識しうる抗体として、抗CD8抗体又は抗CD4抗体を用いることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の解析・同定方法や、[5]T細胞を1細胞ずつ分取する工程において、1細胞を捕捉することが可能な微細孔を複数有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の解析・同定方法や、[6]以下の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(G)の工程を順次備えたことを特徴とする、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターの調製方法
(A)細胞障害性T細胞又はヘルパーT細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープに対する免疫応答が確認されているヒトから得られる末梢血単核球を採取する工程;
(B)標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープと、前記標識物質とは異なる標識物質により標識された、ヒトT細胞を認識しうる抗体とにより、末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程;
(C)標識物質により二重標識されたT細胞を1細胞ずつ分取する工程;
(D)1細胞から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する工程;
(E)合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプターに特異的なプライマー対を用いたPCR反応を行い、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する工程;
(G)増幅された遺伝子断片を、発現ベクターに組み込む工程;
に関する。
【0015】
さらに本発明は、[7]末梢血単核球を採取する工程において、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られる末梢血単核球を採取することを特徴とする上記[6]記載の調製方法や、[8]末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープとして、がん特異的抗原ペプチド、ヒト組織適合性抗原(HLA)タンパク、及び標識物質からなる複合体を用いることを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の調製方法や、[9]末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、ヒトT細胞を認識しうる抗体として、抗CD8抗体又は抗CD4抗体を用いることを特徴とする上記[6]〜[8]のいずれか記載の調製方法や、[10]T細胞を1細胞ずつ分取する工程において、1細胞を捕捉することが可能な微細孔を複数有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いることを特徴とする上記[6]〜[9]のいずれか記載の調製方法や、[11]上記[6]〜[10]のいずれか記載の調製方法により得られる組換えベクターや、[12]上記[6]〜[10]のいずれか記載の調製方法により得られる組換えベクターがナイーブT細胞に導入され、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、腫瘍免疫学的観点から見ると従来不可能とされてきた1個のT細胞レベルでの機能的なTCRを解析・同定することができ、免疫応答のモニタリングが可能となるため、画期的な基盤技術の開発につながる可能性が高い。その上、特異的な免疫エピトープや腫瘍抗原に対するTCRを網羅的に解析・同定することが可能となるため、今後のがんのテーラーメイド医療や診断も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子の解析・同定方法としては、以下に示す工程(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)を順次備えた方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明の1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターの調製方法としては、以下に示す工程(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(G)を順次備えた方法であれば特に制限されるものではないが、組換えベクターの調製方法においても、工程(E)と(G)の間に工程(F)を設けることが好ましい。
(A)CTL又はTh細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープに対する免疫応答が確認されているヒトから得られる末梢血単核球を採取する工程;
(B)標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープと、前記標識物質とは異なる標識物質により標識された、ヒトT細胞を認識しうる抗体とにより、末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程;
(C)標識物質により二重標識されたT細胞を1細胞ずつ分取する工程;
(D)1細胞から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する工程;
(E)合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプターに特異的なプライマー対を用いたPCR反応を行い、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する工程;
(F)増幅された遺伝子断片の塩基配列を解析・決定する工程;
(G)増幅された遺伝子断片を、発現ベクターに組み込む工程;
【0018】
上記工程(A)におけるCTLが認識する特異抗原若しくは抗原エピトープとしては、MHCクラスI分子に捕捉されて細胞表面に、がん特異的抗原ペプチドやウイルス感染をうけた細胞で増殖したウイルス粒子の断片化されたウイルス特異的抗原ペプチド等を表出しうるものであれば特に制限されず、また、Th細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープとしては、MHCクラスII分子に捕捉され、マクロファージやクッパー細胞などの細胞表面に、体内に侵入した細菌、体内に取り込まれた食物アレルゲン等の異物抗原が細胞内のプロテアーゼなどの酵素で小さなペプチド断片へと切断処理された抗原ペプチドを表出しうるものであれば特に制限されない。
【0019】
また、上記工程(A)においては、これらCTL又はTh細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープを特異的に認識するT細胞を増やしておくことが特に重要である。例えば、MHCクラスI分子に捕捉されるがん特異的抗原ペプチド、好ましくはHLA−A24又はHLA−A2拘束性のがん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られる末梢血を用いることにより、がん特異的抗原ペプチドを特異的に認識するTCR産生CTLを増やしておくことができる。かかるHLA−A2拘束性のがん特異的抗原ペプチドとして、メラノーマ細胞特異的抗原gp100由来のgp100209−217ペプチドを挙げることができる。通常がん患者より樹状細胞ワクチンを製造する場合には、末梢血より成分採血装置にて採取した単球細胞をサイトカインとともに7日間培養し、その後gp100を含むペプチドカクテル(各ペプチドあたり25μg/mL)とKLH(25μg/mL)にて処理を行い、最終的に樹状細胞ワクチンが得られる。現在進行中の第II相試験では、1〜5×10個の樹状細胞をまず4回投与し、明らかな有害事象がなければ最大10回まで樹状細胞ワクチンの投与を行うものである。樹状細胞ワクチンを投与したがん患者から得られる末梢血単核球に、gp100ペプチドにて処理した樹状細胞及びT2細胞(HLA−A0201遺伝子を発現している)を用いて複数回刺激を行うことが、gp100ペプチドを特異的に認識するTCRをもつCTL細胞をあらかじめ増やしておく上で好ましい。この工程(A)において、目的とするTCR産生CTLを、全T細胞中の10%以上、好ましくは20%、より好ましくは40%以上とすることがきわめて重要である。すなわち、この工程(A)を、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られ、目的とするTCR産生CTLを、全T細胞中の10%以上、好ましくは20%、より好ましくは40%以上含む末梢血単核球を採取する工程とすることがきわめて重要である。
【0020】
上記工程(B)における標識物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)などの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール、アクリジニウム誘導体などの化学発光物質、ビオチン、マグネットビーズを挙げることができる。標識物質による標識化は常法で行うことができ、例えばMolecular Cloning, Third Edition,ColdSpring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる。また、工程(B)におけるヒトT細胞を認識しうる抗体としては、CTLを認識しうる抗ヒトCD8抗体を、Th細胞を認識しうる抗ヒトCD4抗体や抗ヒトCD28抗体をそれぞれ好適に例示することができる。例えば、工程(B)において、標識物質により標識されたがん特異的抗原ペプチドとして、PE標識がん特異的抗原ペプチド−HLA-A2テトラマーを用い、異なる標識物質により標識されたヒトT細胞を認識しうる抗体として、FITC標識抗ヒトCD8抗体を用いる場合など、がん抗原特異的TCR産生CTLの細胞膜結合型TCRが脱落しない条件で標識化を行うことが好ましい。
【0021】
これまでの検討でヒト末梢血に含まれるT細胞は、全細胞の約20〜30%、CD8が陽性である細胞障害性T(CTL)細胞は、その内の約20%と考えられ、全細胞の5%しか存在しない。この中でさらにgp100を認識するTCRをもつCTL細胞はさらに少数であり(全細胞の0.01−0.05%)、通常の方法では検出することが困難と考えられる。しかし、本発明では、前記工程(A)において、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンにより免疫され、すでに抗体価の増加したがん患者のT細胞を用いるため、微少の細胞の検出が可能となる。このように、本発明においては、あらかじめがん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンが投与された患者から得られる末梢血単核球を採取する工程(A)が、きわめて重要である。
【0022】
上記工程(C)において、標識物質により二重標識された、がん特異的抗原ペプチドを認識するTCRを細胞膜上に発現するT細胞を、1細胞ずつ分取する。T細胞を1細胞ずつ分取するには、使用した標識物質の種類に応じて適切な手法が用いられる。例えば、標識物質として蛍光物質を使用した場合に、その形状的特徴により1細胞を捕捉することが可能な微細孔を複数有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いることができる(実施例参照)。このマイクロ流路デバイスにより、T細胞を簡便且つ多数同時に分取することができる。また、該マイクロ流路デバイスを用いることにより、細胞以外の粒子物質などの夾雑物による影響を回避することができ、より高感度な解析・同定法を提供することができる。このマイクロ流路デバイスにおいては、上記基板に設けられた各微細孔にT細胞がそれぞれ捕捉される。
【0023】
上記基板としては、例えば、本発明者が既に開発した微生物分離装置(特開2007−89566号公報参照)の構成要素として用いたマイクロチップを、本発明における細胞分離用として利用することが可能である。
ここで、上記微細孔の孔径は、分取すべき細胞の大きさに応じて適宜選定されればよく、効率良く捕捉するために、開口部の直径は1〜3μが好ましい。
該微細孔に目的の細胞を捕捉させるための手段としては、例えば上記特開2007−89566号公報に開示される試料水吸引手段等を、本発明における細胞捕捉用として利用することが可能である。
また、上記基板の材質は、bPET(black polyethylene terephthalate)で、上記微細孔の加工方法としては、微生物分離装置用マイクロチップにおいて使用した方法がいずれも適用可能である。bPETは自家蛍光が少ないことから、細胞の蛍光観察時におけるバックグラウンドが少なく、細胞を鮮明に観察することができる点で他の材料より優れている。また、上記加工方法によってbPET基板に形成された微細孔の孔径、形状は、例えばステンレス基板を含む金属基板材料よりも均一であり、その結果、効率的な細胞の補足が行える。
【0024】
更に、該基板は、細胞の損傷を少なくする目的で(細胞ローディングを容易にするために)、例えば10%Pluronic F-127(Invitrogen社)等の界面活性剤等により表面処理を施すこともできる。
また、標識物質として蛍光物質を使用した場合に、蛍光を指標としたフローサイトメトリー(シングルセルソーター)によって、1細胞ずつ分取することもできる。フローサイトメトリーによれば効率的かつ高精度の細胞分離が可能となる。また、標識物質としてビオチンを採用した場合においてもアビジンとの結合反応を利用して1細胞ずつ分取することができる。マグネットビーズを採用した場合にも同様に、磁石を用いた良好な分離が可能である。さらに、マイクロマニピュレーターを用いて1細胞ずつ分取することもできる。
【0025】
上記工程(D)においては、1細胞ずつ分取した1個のがん抗原特異的TCR産生CTLから、全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する。全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法(例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.参照)に従って実施することができる。
【0026】
上記工程(E)においては、合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子に特異的なプライマー対を用いたPCR反応により、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する。ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子に特異的なプライマー対としては、ヒトT細胞抗原レセプターのα鎖遺伝子、β鎖遺伝子、γ鎖遺伝子又はδ鎖遺伝子の各配列に特異的なプライマー対であれば特に制限されないが、例えば、ヒトT細胞抗原レセプターβ鎖遺伝子に特異的なプライマー対としては、配列番号2に示されるV領域の配列と、配列番号3に示されるC領域の配列とからなるプライマー対を挙げることができる(図5参照)。増幅された遺伝子断片の塩基配列が、上記工程(F)において常法により解析・決定される。
【0027】
上記工程(E)で増幅された遺伝子断片を用いて、1個のT細胞由来の抗原レセプター遺伝子を調製することができる。例えば、ヒトTCRα鎖遺伝子に特異的なプライマー対を用いたPCR反応により、ヒトTCRα鎖遺伝子を調製することができ、ヒトTCRβ鎖遺伝子に特異的なプライマー対を用いたPCR反応により、ヒトTCRβ鎖遺伝子を調製することができる。また、ヒトTCRγ鎖遺伝子に特異的なプライマー対を用いたPCR反応により、ヒトTCRγ鎖遺伝子を調製することができ、ヒトTCRδ鎖遺伝子に特異的なプライマー対を用いたPCR反応により、ヒトTCRδ鎖遺伝子を調製することができる。これら調製されたヒトTCR遺伝子をサブクローニングして増幅させることもできる。なお、ゲノムDNAを鋳型にする場合、エクソンが離れているため効果的な増幅が期待できない。
【0028】
上記工程(G)において、工程(E)において増幅された遺伝子断片である、ヒトTCRα鎖遺伝子,ヒトTCRβ鎖遺伝子,ヒトTCRγ鎖遺伝子又はヒトTCRδ鎖遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させ、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞を製造することができる。発現ベクターとしては、TCR遺伝子の発現に適したものであれば特に制限されないが、動物細胞において発現しうるものが好ましい。本発明の組換えベクターは、TCR遺伝子を発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、TCR遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列の他、選択マーカー遺伝子を導入しておくこともできる。発現ベクターへのTCR抗体遺伝子の導入は、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる)により行うことができる。
【0029】
上記動物細胞用の発現ベクターとして、例えば、pCR2.1−TA(Invitrogen社製)、pEGFP-C1(Clontech社製)、pGBT−9(Clontech社製)、pcDNAI(フナコシ社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pcDNAI/AmP(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307, 1987)、pAGE210等のプラスミドベクターや、非分列細胞を含む全ての細胞(血球系以外)での一過性発現に用いられるアデノウイルスベクター(Science, 252, 431-434, 1991)や、分裂細胞での長期発現に用いられるレトロウイルスベクター(Microbiology and Immunology, 158, 1-23, 1992)や、非病原性、非分裂細胞にも導入可能で、長期発現に用いられるアデノ随伴ウイルスベクター(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 158, 97-129, 1992)の他、SV40ウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター等のウイルスベクターを例示することができる。動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。
【0030】
上記ヒトTCRα鎖遺伝子とヒトTCRβ鎖遺伝子、又はヒトTCRγ鎖遺伝子とヒトTCRδ鎖遺伝子は、通常、それぞれ別の発現ベクターに挿入され、これら2つの組換えベクターで宿主となるナイーブT細胞を共形質転換し、同一細胞内でTCRα鎖とTCRβ鎖、又はTCRγ鎖とTCRδ鎖を発現させることが好ましい。組換えベクターによりナイーブT細胞を形質転換する方法としては、リポフェクチン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等を例示することができる。このようにして、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞を製造することができる。
【0031】
上記本発明の組換えベクターがインビトロで導入されたナイーブT細胞は、養子免疫療法等を適用しうる疾患(組換えベクターに組み込まれたTCRβ鎖遺伝子にコードされるTCRβ鎖タンパク質が特異性を示す抗原ペプチドを特異的に発現する疾患)に対する治療用組成物として有用である。特に、前記組換えベクターに組み込まれた本発明のTCRβ鎖遺伝子の塩基配列が、配列番号4で表される塩基配列(gp100ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)、配列番号5及び6で表される塩基配列(MAGE1−A24ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)、配列番号7で表される塩基配列(MAGE3−A24ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)、配列番号8で表される塩基配列(MART1−A2ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)からなる場合は、ナイーブT細胞は、養子免疫療法等に好適に用いることができるメラノーマ治療用組成物として有用であり、該組換えベクターに組み込まれた本発明のTCRβ鎖遺伝子の塩基配列が、配列番号9〜11(CMVpp65−A24ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)、配列番号12で表される塩基配列(CMVpp65−A2ペプチド特異的TCRβ鎖遺伝子)からなる場合は、ナイーブT細胞は、養子免疫療法等に好適に用いることができるCMV感染症治療用組成物として有用である。
【0032】
養子免疫療法等免疫治療剤に用いる場合は、形質転換ヒトT細胞クローンを精製することが好ましく、その手法としては、リン酸緩衝液等に混合して遠心する方法、分離剤を用いた比重遠心法などを用いることができる。メラノーマやCMV感染症等の疾患治療用組成物の投与量は、1回あたり形質転換ヒトT細胞として10〜1012個の細胞が好ましい。投与形態としては、注射剤、点滴剤等の液体が好ましく、形質転換ヒトT細胞をヒト血清アルブミンが0.01〜5%となるように添加した生理食塩液に分散した注射剤又は点滴剤がより好ましい。投与方法としては、静脈への点滴又は静脈、動脈、局所等への注射が好ましい。投与する液量は、投与方法、投与する場所等に異なるが、50〜500ccとするのが好ましく、この液量に前記の形質転換リンパ球が含まれるようにするのが好ましい。投与頻度は1回/日〜1回/月とするのが好ましく、投与回数は少なくとも1回、好ましくは5回以上とすることができる。
【0033】
本発明の1個のヒトT細胞由来のTCR遺伝子の解析・同定方法によって、がん患者のがん特異的TCRの遺伝子を解析・同定することにより、患者個人の体内で産生されているがん抗原特異的TCRの種類の全体像に関する情報を得ることができる。また、本発明の1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターの調製方法を利用して、上記のようにがん抗原特異的TCRを膜表面に発現する形質転換ヒトT細胞を大量に得ることができ、テイラーメイド的な患者個人の診断や治療が可能となる。
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
[末梢血単核球の採取]
メラノーマ細胞特異的抗原ペプチドgp100を用いたワクチン治療を受けた転移性メラノーマ患者から末梢血単核球を採取した。転移性メラノーマ患者に、HLA−A2拘束性gp100209−217ペプチドにより処理された樹状細胞ワクチンを4回投与し、免疫応答反応を確認した。gp100209−217ペプチドのアミノ酸配列を配列番号1に示す。この患者由来の末梢血から、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)を採取し、以下の実験に用いた。
【実施例2】
【0036】
[gp100−A2テトラマー染色結果]
樹状細胞ワクチン投与を受けたHLA−A2陽性の患者由来の末梢血単核球を、gp100209−217ペプチドにて処理した樹状細胞及びT2−A2細胞(T2細胞にHLA−A0201遺伝子を導入し発現させたもの)を用いて4回刺激を行った。T2−A2細胞は、ATCC(cat.CRL-1992)から入手した。その後、FITC標識抗CD8+抗体及びPE標識gp100−HLA-A2テトラマーにより染色を行った。PE標識gp100−HLA-A2テトラマー(ベックマンコールター社製)は医学生物研究所(MBL)から入手した。結果を図1に示す。その結果、CD8+/gp100−HLA-A2テトラマー+の細胞障害性Tリンパ球(CTL)細胞は、全体の44.3%まで増幅を認めた。これに対して、対照のCD8+/Flu−MP−A2テトラマー陽性細胞は、0.04%であった。
【実施例3】
【0037】
[TCR抗体レパトワスクリーニング結果]
Ex vivoにて増幅されたgp100−HLA-A2テトラマー陽性CTL細胞のTCRレパトワの使用頻度をTCRに対するモノクローナル抗体パネルを用いて解析した。結果を表1に示す。この結果TCRVβ12(IMGTによる新しい TRBV の名称)(Wei* らによる旧名称;TCRVβ8)に対する抗体で染色される細胞の有意な増加(36.6%)が認められた。(*参考文献:Immunogenetics 40:27-36, 1994)
【0038】
【表1】

【実施例4】
【0039】
[マイクロ流路デバイスの構築]
マイクロ流路(深さ;1mm,幅;1mm)作製のための鋳型を、CAD−CAMM(computer-aided design-computer aided modeling machineシステム;PNC−300,ローランド株式会社製)を用いて、厚さ3mmのPMMA(polymethylmethacrylate) の基板を切削することにより作製した。この鋳型を超音波洗浄した後に乾燥させ、PDMS(poly-dimethylsiloxisane、シルガード184;ダウコーニング社製) を主剤と硬化剤を10:1で混合し、鋳型に注入後、減圧下において脱気した。また、基板と接着するPDMS部位は主剤と硬化剤を50:1で配合したものを使用した。このPDMSを85℃で20分間以上加熱することにより硬化させた。これらの表面に20秒間プラズマ処理を行い、プラズマ処理後すぐに張り合わせることでPDMSを接着した。また、流路の入口と出口にはシリコンチューブ(内径1mm×外径3mm)を接続した。基板を加工するための基板として厚さ38μmの黒色のbPET(black polyethylene terephthalate) 基板を使用した。各微細孔は反すり鉢状をしており、孔径が小さい側の直径が2μmになるように設計した。さらにこれらの中心間距離を60μmとして、25×50の合計1250孔をアレイ状に配した。この設計を基にクロムを蒸着したガラス基板によりフォトマスクを作製した。このマスクを用いて、エキシマレーザー微細加工機 (Optec Micro-Master System,Optec社) により波長248nm、周波数150Hzのレーザーを用いて、bPET基板に貫通孔を加工した。このbPET基板を直径10mmの貫通孔をあけたスライドガラスにエポキシ接着剤を用いて接着した。最終的に、PDMSによりbPET基板を挟み込み、マイクロ流路デバイスの構築を行った。
【実施例5】
【0040】
[FITC標識抗CD8抗体+/PE標識gp100−HLA-A2テトラマー+CTL細胞の染色およびソーティング結果]
PE標識gp100−HLA-A2テトラマーを用いたMACSソーティング後のCTL細胞(純度99.8%)は、ほとんどがTCRVβ12レパトワを認識するモノクローナル抗体(MoAb)により陽性に染色された。結果を図2に示す。このためPCR増幅用のプライマーとして、TCRVβ12を特異的に認識する配列を使用した。また、図3に示すように、CD8+/gp100−HLA-A2テトラマー陽性のCTL細胞を、セルソーターにより選別し、25個のマイクロウェルを持った基板上に1個の細胞ごとに採取した。
【実施例6】
【0041】
[bPET基板上での二重染色CTL細胞の蛍光顕微鏡による確認]
マイクロ流路デバイスを用いた二重染色CTL細胞の個別分離は下記の要領で行った。はじめに、上述のデバイス流路表面にプラズマ処理を20秒間施し、流路内に10%pluronic F−127を導入して2時間インキュベーションすることで、流路への非特異吸着を抑制するための表面処理をした。次に、CTLマーカーであるCD8と、gp100ペプチドへの抗原レセプターとをともに発現している細胞のみを単離する目的で、FITC標識抗CD8抗体+/PE標識gp100−HLA-A2−テトラマーで二重染色したCTL細胞懸濁液を流路に導入し、2.0kPaで減圧吸引を行うことで、細胞をbPET基板上へトラップした。蛍光顕微鏡(BX−51;Olympus社製) を用いて、bPET基板上の細胞を観察した。得られた画像をマージさせることで、FITCおよびPEの両方に染色されたCTLを確認した。結果を図4に示す。
【実施例7】
【0042】
[1個のCTL細胞からのmRNA抽出]
FITC標識抗CD8抗体/PE標識gp100−HLA-A2テトラマーにより二重染色された(マージ画像にて黄色に見える細胞)細胞を採取した。bPET基板上にトラップした細胞をセルトラムvario(eppendorf 社)の先端にトランスファーチップ(内径;20μm)を接続したマイクロマイピュレーターを用いて1細胞ごとに分取し、細胞はミニトレイ (Nalge NuncInternational社製)に回収し、顕微鏡観察により、細胞が1個存在することを確認した。各ウェル中にLysis bufferを加え、ピペッティングすることで細胞を溶解した。その後、μMACSmRNA Isolation Kit (Miltenyi Biotec社製) を用いてmRNAの抽出を行った。抽出操作は、標準プロトコールに従って行った。また、この他に希釈により調整した10細胞,1000細胞からも同様にmRNAの抽出を行った。
【実施例8】
【0043】
[がん抗原特異的TCRをターゲットとしたRT−PCR反応]
1細胞,10細胞,1000細胞からそれぞれ抽出したmRNAを用いて、ガン抗原特異的レセプター遺伝子(約950bp)をターゲットとしたRT−PCRを行った。使用したPCRプライマーは、配列番号2に示されるTCRβ鎖V領域に特異的な配列TRBV12b(TCRV・8に対するMoAbにより認識される)及び配列番号3に示されるTCRβ鎖C領域に特異的な配列TRBC2を使用した(図5)。50℃で30分、99℃で5分、5℃で5分でのRT反応の後、94℃で2分と94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分を55サイクルのPCR反応により増幅を行った。また、同様に、ヒトGAPDH(226bp)を94℃で2分と94℃で30秒,60℃で30秒,72℃で30秒を40サイクルのPCR反応により増幅した。その後、アガロースゲル電気泳動を行うことで1個のT細胞からのmRNA抽出及びPCR増幅の評価を行った。
【実施例9】
【0044】
[PCR産物の抽出・精製]
得られたPCR反応液を、1.5%のアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチヂウムブロマイド染色によりバンドを確認した。図6に示すように、1細胞の5サンプルのうち2サンプルにおいて、ターゲットとした950bpのがん抗原特異的レセプター遺伝子断片の増幅が確認された。PCR反応物は、シリカゲル粒子(QIAEX II(R) Gel Extraction Kit;QIAGEN社製)及びDNA抽出用カラム(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGE社製)を用いてゲルから抽出・精製した。
【0045】
まず、増幅バンド部分のゲルを切り出し、1.5mLサンプルチューブに移し、切り出したゲルを秤量した。1mg=1μLと換算し、3倍量のバッファーQX1(QIAEX IITM Gel Extraction Kit;QIAGE社製)及び17.2μLのQIAEXIISuspension(QIAEX IITM Gel Extraction Kit;QIAGEN社製)を加えた。Vortexにてよく混和してから、予め50℃に設定しておいたヒートブロック上に置き、2分ごとにVortexにかけ、合計10分間処理した。次いで、室温中10000×gで1分間遠心を行い、上清を取り除いた。再度、沈殿に500μLのバッファーQX1を加えた後、vortexにて混和し、室温中10000×gで1分間遠心を行った。上清を取り除き、予めエタノールを加えておいた500μLのバッファーPE(QIAEX IITM Gel Extraction Kit;QIAGE社製)を沈殿に加えてからvortexにて混和し、室温中10000×gで1分間遠心後、上清を取り除いた。再度、500μLのバッファーPEを沈殿に加えてからvortexにて混和し、室温中10000×gで1分間遠心を行い、上清を取り除いた。サンプルチューブをクリーンベンチ内で蓋を開けたまま15分間置き、沈殿を乾燥させた。沈殿に20μLのバッファーEB(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGEN社製)を加えてvortexにて混和し、室温に5分間置いた。室温・10000×gで1分間遠心を行い、上清を別の1.5mLサンプルチューブに回収し、沈殿に再び20μLのバッファーEBを加えた。Vortexにて混和した後、室温に5分間置き、室温・10000×gで1分間遠心を行い、先に回収した上清に加えた。
【0046】
計40μLの回収液に対して、300μLのバッファーERC(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGE社製)を加え、vortexにて混和した。混和溶液が黄色であることを確認し、2mLcollection tube(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGEN社製) にセットしたMinElute column(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGEN社製)の中に全量をアプライし、室温・10000×gで1分間遠心を行った。流出液を廃棄してから、カラムを再びcollection tubeに戻し、予めエタノールを加えておいた750μLのバッファーPE(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGEN社製)を加え、室温・10000×gで1分間遠心を行った。流出液を廃棄してから、カラムを再度collection tubeに戻し、室温・22000×gで1分間遠心を行った。カラムの淵についている液滴をマイクロピペットで取り除き、カラムを新しい1.5mLサンプルチューブにセットした。10μLのバッファーEB(MinEluteTM Reaction Cleanup Kit;QIAGEN社製)を加え、室温で1分間静置した後、室温・10000×gで1分間遠心を行い、精製されたDNA断片を回収した。
【実施例10】
【0047】
[pCR2.1-TA プラスミドベクターへの挿入]
実施例9で得られたPCR断片を、pCR2.1-TA プラスミドベクターに挿入することによりプラスミドDNAを作製した。4μLのDNA断片、1μLのSalt Solution(TOPO TA Cloning(R) Kit pCR2.1TOPO Vector;Invitrogen社製)及び1μLのTOPO(R)Vector(TOPO TA Cloning(R) Kit pCR2.1 TOPOVector;Invitrogen社製)を氷上で混和した。室温で5分間反応させた後、再び氷上に戻しTransformationに使用した。
【実施例11】
【0048】
[DH5αコンピテントセルへのプラスミドDNAの導入]
DH5αコンピテントセル(Competent high DH5α;TOYOBO社製)を氷上で融解し、20μLずつ別のサンプルチューブに分注した。実施例10で調製した反応液を2μLずつ加え、チップの先で穏やかに混和した。氷上に30分間置いた後、ヒートブロックを用いて42℃で30秒間処理をした。再び、氷上に2分間置き冷却した後、250μLのSOC培地を加え、37℃で1時間振盪培養を行った。振盪培養を行っている間に、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT固形培地に0.1M IPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside;SIGMA社製)及び0.1M X−Gal(5-Bromo-4-chloro-3-indolyl β-D-galactopyranoside;SIGMA社製)を50μLずつ塗付した。作製した固形培地に培養したサンプル100μLを播き、37℃で一晩培養した。
【実施例12】
【0049】
[青白選択及びコロニーPCR法によるスクリーニング]
実施例11で作製したプレートにコロニーが出現していることを確認した後、4℃に5時間静置した。白いコロニーをマークしてからチップの先を使って軽くつつき、50μLの滅菌水の入った96ウェルプレートに入れて軽くゆすいだ。サーマルサイクラーを用いて95℃で5分間処理をした後に、軽く遠心を行い、2μLを新しいプレートのウェルに入れた。続いて、1μLの10x PCR bufferII(Mg)、0.8μLの2.5mM dNTP Mix、6.11μLのdHO、0.05μLのLA−Taqポリメラーゼ(TaKaRa LA-Taq(R) Hot Start version;タカラバイオ社製)、0.02μLの100μM M13 フォワードプライマー、及び0.02μLの100μM M13 リバースプライマーを加え、プレートを軽く遠心した。サーマルサイクラーGeneAmp(R) PCR System9700を用いて、94℃で1分間の熱変性の後、94℃で10秒、50℃で10秒、及び68℃で2分間の反応を35サイクル繰り返す反応条件でのPCR反応を行った。1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動により、各PCR反応液のPCR産物の大きさを確認し、1.0kbの大きさのバンドが確認されたクローンを選択した。
【実施例13】
【0050】
[ポジティブクローンの液体培養とプラスミドDNAの抽出]
実施例12により、ベクターへのPCR増幅断片の挿入が確認されたコロニーを選び、3.5mLの50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地中で、37℃で一晩振盪培養を行った。培養したサンプル1.8mLを2mLサンプルチューブに入れ、1000×gで10分間遠心した。上清を廃棄し、沈殿に対して250μLのバッファーA1(NucleoSpin(R) Multi-8 Plasmid;MACHEREY-NAGEL社製)を加えvortexして混和した。続いて、250μLのバッファー A2を加え転倒混和してから室温で5分間置き、細胞を溶解させた。350μLのバッファー A3を加え転倒混和し、4℃下14000×gで10分間遠心をした。上清をNucleoVac vacuum manifoldにセットしたNucleoSipn(R) Plasmid Binding Stripsに移した。400mbarで1分間吸引して溶液をsilica membraneを透過させ、DNAを結合させた。600mLのバッファーAWを加え400mbarで1分間吸引して溶液を透過させた後、900mLのバッファーA4を加えて、400mbarで1分間吸引して溶液を透過させ、silica membraneを洗浄した。再度、900mLのバッファーA4を加えて、400mbarで1分間吸引して溶液を透過させ、silica membraneを洗浄した。600mbarで15分間吸引し、silica membraneを乾燥させた。NucleoVac vacuum manifoldに回収用のNucleoSipn(R) MN Tube Stripsを付け替え、membraneに120μLのバッファーAEを加え1分間置き、400mbarで1分間吸引してプラスミドDNAを回収した。回収したプラスミドDNA液3μLに、1μLの10×H バッファー、5μLのdHO、及び1μLのEcoRI(TOYOBO社製)加え、37℃で1時間処理した。1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動により、酵素反応液中のDNA消化断片を確認し、各プラスミドサンプルについて吸光度を測定してDNA濃度を算出し、100μg/μLのプラスミドDNA希釈液を調製した。
【実施例14】
【0051】
[Cycle Sequencing法による塩基配列の決定]
氷上に置いた96ウェルプレートに実施例13で調製したDNA希釈液を1クローンにつき2ウェルずつ、それぞれ6μLずつ加えた。続いて、各ウェルに、3μLの5×Sequencing Buffer (BigDye(R)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit;Applied Biosystems社製)、2μLのCycle Sequencing Mix (BigDye(R)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit;Applied Biosystems社製)、8μLのdHO、1μLの3.2μM プライマーを加え、軽く遠心した。
【0052】
各クローンは、M13 リバースプライマー及びM13 フォワードプライマーの2つのプライマーを用いてそれぞれサイクルシークエンシング反応を行った。サーマルサイクラーGeneAmp(R) PCR System9700を用いて、94℃で1分間の熱変性の後、94℃で10秒、50℃で5秒、及び68℃で4分間の反応を25サイクル繰り返す反応条件でのサイクルシークエンシング反応を行った。反応が終わるまでに、MultiScreenTMHV-plate(MultiScreen(R) HV-plate;MILLIPORE社製)のウェルにSephadex G-50(SephadexTMG-50 Superfine;GE Healthcare社製)、及び滅菌水300μLを加え、室温で2時間静置した。十分に水和させた後、室温中1100×gで5分間遠心して、流出液を廃棄した。MultiscreenTMHV-plateに新しい96ウェルプレート(ASSAY PLATE 96 well round bottom;IWAKI社製)を付け替え、反応液全量を各ウェルにアプライし、室温中1100×gで5分間遠心してサンプルを回収した。
【0053】
精製されたサンプルを全量シークエンサー用の96ウェルプレート(MicroAmp(R) Optical 96- well Reaction Plate;Applied Biosystems社製)に移し、さらに元のウェルに滅菌水17.2μLを加え、ウェルを洗いながら全量を同一のサンプルに加えた。x3130/Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いて、各サンプルに付いて8クローンずつ配列を読み、得られた配列のMultiple alignment解析を行った。クローン間で差があった塩基については、その塩基を有するクローンが多いほうを正しい配列であるとし、各サンプルの塩基配列を決定した。
【0054】
泳動ゲルから増幅されたTCR遺伝子のバンドを切り出し、上記のように最終的なDNA配列データを得た。今回2種類のバンドからクローニングに成功した4クローン(TRB1−1,3−1,5−1,6−1)のTCRβ鎖の遺伝子配列は、すでにbulkのCD8+/gp100−HLA-A2テトラマー陽性CTL細胞から得られている遺伝子配列(M8−gp100)と完全に一致を認めた。2クローン(TRB5−1,6−1)のTCRβ鎖の遺伝子配列データ(配列番号4)をM8−gp100のTCRβ鎖の遺伝子配列データ(配列番号4)と並べて図7に、M8−gp100のTCRβ鎖の遺伝子配列データ(配列番号4)を図8に示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】樹状細胞ワクチン投与を受けたHLA−A2陽性の患者由来の末梢血単核球を、gp100209−217ペプチドにて処理した樹状細胞及びT2−A2細胞(T2細胞にHLA−A0201遺伝子を導入し発現させたもの)を用いて4回刺激を行った後、FITC標識抗CD8+抗体及びPE標識gp100−HLA-A2テトラマーにより染色を行った結果を示す図である。
【図2】PE標識gp100−HLA-A2テトラマーを用いたMACSソーティング後のCTL細胞を、TCRVβ12レパトワを認識するモノクローナル抗体で染色した結果を示す図である。
【図3】CD8+/gp100−HLA-A2テトラマー陽性のCTLのソーティングプロフィールを示す図である。
【図4】bPET基板上に捕獲されたFITC標識抗CD8抗体+/PE標識gp100−HLA-A2−テトラマーでCTL細胞を染色した結果を示す図である。
【図5】RT−PCRに用いた、TCRβ鎖V領域に特異的なプライマー配列TRBV12b及びTCRβ鎖C領域に特異的なプライマー配列TRBC2を示す図である。
【図6】TCRβ鎖V領域に特異的なPCRプライマーを用いた、HLA−A2拘束性gp100209−217ペプチド特異的CTL細胞のTCRβ鎖遺伝子の増幅結果を示す図である。
【図7】1個のCTLから得られたTCRβ鎖の遺伝子配列データ(TRB5−1,6−1)と、bulkのCD8+/gp100−HLA-A2テトラマー陽性CTL細胞から得られている遺伝子配列データ(M8−gp100)が完全に一致することを示す図である。
【図8】bulkのCD8+/gp100−HLA-A2テトラマー陽性CTL細胞から得られている遺伝子配列データ(M8−gp100)のV領域,D領域,J領域及びCを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の工程を順次備えたことを特徴とする、1個のヒトT細胞の抗原レセプター遺伝子の解析・同定方法。
(A)細胞障害性T細胞又はヘルパーT細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープに対する免疫応答が確認されているヒトから得られる末梢血単核球を採取する工程;
(B)標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープと、前記標識物質とは異なる標識物質により標識された、ヒトT細胞を認識しうる抗体とにより、末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程;
(C)標識物質により二重標識されたT細胞を1細胞ずつ分取する工程;
(D)1細胞から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する工程;
(E)合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプターに特異的なプライマー対を用いたPCR反応を行い、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する工程;
(F)増幅された遺伝子断片の塩基配列を解析・決定する工程;
【請求項2】
末梢血単核球を採取する工程において、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られる末梢血単核球を採取することを特徴とする請求項1に記載の解析・同定方法。
【請求項3】
末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープとして、がん特異的抗原ペプチド、ヒト組織適合性抗原(HLA)タンパク、及び標識物質からなる複合体を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の解析・同定方法。
【請求項4】
末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、ヒトT細胞を認識しうる抗体として、抗CD8抗体又は抗CD4抗体を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の解析・同定方法。
【請求項5】
T細胞を1細胞ずつ分取する工程において、1細胞を捕捉することが可能な微細孔を複数有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の解析・同定方法。
【請求項6】
以下の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(G)の工程を順次備えたことを特徴とする、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現しうる組換えベクターの調製方法。
(A)細胞障害性T細胞又はヘルパーT細胞が認識する特異抗原若しくは抗原エピトープに対する免疫応答が確認されているヒトから得られる末梢血単核球を採取する工程;
(B)標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープと、前記標識物質とは異なる標識物質により標識された、ヒトT細胞を認識しうる抗体とにより、末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程;
(C)標識物質により二重標識されたT細胞を1細胞ずつ分取する工程;
(D)1細胞から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成する工程;
(E)合成したcDNAを鋳型として、ヒトT細胞抗原レセプターに特異的なプライマー対を用いたPCR反応を行い、ヒトT細胞抗原レセプター遺伝子断片を増幅する工程;
(G)増幅された遺伝子断片を、発現ベクターに組み込む工程;
【請求項7】
末梢血単核球を採取する工程において、がん特異的抗原ペプチドで処理された樹状細胞ワクチンの投与により、該がん特異的抗原ペプチドに対する免疫応答が確認されているがん患者から得られる末梢血単核球を採取することを特徴とする請求項6記載の調製方法。
【請求項8】
末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、標識物質により標識された前記特異抗原若しくは抗原エピトープとして、がん特異的抗原ペプチド、ヒト組織適合性抗原(HLA)タンパク、及び標識物質からなる複合体を用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の調製方法。
【請求項9】
末梢血単核球中のT細胞を二重標識する工程において、ヒトT細胞を認識しうる抗体として、抗CD8抗体又は抗CD4抗体を用いることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の調製方法。
【請求項10】
T細胞を1細胞ずつ分取する工程において、1細胞を捕捉することが可能な微細孔を複数有する基板を備えたマイクロ流路デバイスを用いることを特徴とする請求項6〜9のいずれか記載の調製方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか記載の調製方法により得られる組換えベクター。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれか記載の調製方法により得られる組換えベクターがナイーブT細胞に導入され、1個のヒトT細胞に由来する抗原レセプターを発現する形質転換ヒトT細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−11236(P2009−11236A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176683(P2007−176683)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】