説明

1,2−ジアミノシクロヘキサンおよび化学的方法

開示されるのは、1,2−芳香族ジアミンから1,2−脂環式ジアミンの調製法である。一つの態様では、この方法は担持ロジウム触媒、アンモニアおよびトリアルキルアミンの存在下で極性のプロトン性溶媒に含まれる1,2−フェニレンジアミンと水素との反応により1,2−ジアミノシクロヘキサンを作成する方法、および全体的転換および選択性を強化する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2008年11月18日に出願した米国特許仮出願第61/115,577号の出願日の利益を主張し、その全内容は引用により本明細書に編入する。
【0002】
発明の分野
本明細書の開示は、担持ロジウム触媒の存在下、アンモニアおよびトリアルキルアミンを含有する水中で芳香族ジアミンを水素化することにより、1,2−フェニレンジアミン(o−フェニレンジアミン:OPD)の対応する脂環式化合物である1,2−ジアミノシクロヘキサン(DCH)への水素化工程を使用する化学変換法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
Litvinおよび共同研究者は、非特許文献1で担持RuおよびRh触媒の存在下、種々の溶媒中、120℃、1175psiaで1,3−および1,4−フェニレンジアミンを水素化した。
【0004】
特許文献1は、担持ルテニウム触媒の存在下およびアンモニアの添加無しに水中、50〜150℃、500〜2000psigで芳香族ビス−メチルアミンの水素化法に関する。
【0005】
特許文献2は、芳香族アミンを環水素化化合物へ転換するために、触媒がカッパアルミナ支持体上のロジウムである触媒的水素化法に関する。
【0006】
特許文献3は、空気または酸素前処理化ルテニウム触媒の存在下で、芳香族ジアミンの水素化による脂環式ジアミンの調製法に関する。
【0007】
特許文献4、5/23/83、日本化薬株式会社は、水中で担持ロジウム触媒の使用により、そしてリン酸ナトリウムまたはカリウムおよびアンモニア、二級アルキルアミンまたは三級アルキルアミンの存在下で対応する芳香族ジアミンから脂肪族ジアミンを生産するための水素化法に関する。
【0008】
工業的に有用な収量および転換を提供するために、低から中圧で操作する1,2−ジアミノシクロヘキサンの改善された合成法を提供することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,181,680号明細書
【特許文献2】米国特許第5,360,934号明細書
【特許文献3】米国特許第5,981,801号明細書
【特許文献4】日本国特許第59216852号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Izvestiya Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya,4,pp.854−857,April,1973
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要約
本発明は、1,2−脂環式ジアミンの作成法を提供し、この方法は三級アルキルアミン、アンモニア、およびRu、Rh、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる不均一触媒の存在下で、極性のプロトン性溶媒中、1,2−芳香族ジアミンを水素と接触させることを含んでなる。
【0012】
一つの態様では、極性のプロトン性溶媒は構造ROHを有することができ、ここでRは水素またはアルキル基である。アルキル基は1〜6個の炭素を有することができる。
【0013】
適切な三級アルキルアミンには、アルキル基が1〜20個の炭素原子を有するトリアルキルアミンを含む。例にはトリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびトリブチルアミンがある。1つの態様では、トリアルキルアミンはトリエチルアミンである。
【0014】
一つの態様では、不均一触媒はRuおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる。
【0015】
別の態様では、Ru、Rh、PdおよびPtの総重量は、該不均一触媒の1〜10重量パーセントを構成し、例えば該不均一触媒の3〜5重量パーセントを構成する。適切な触媒の支持体にはアミン溶媒に対して実質的に不活性となる不均一触媒反応の分野における当業者に知られている支持体を含む。例には炭素、アルミナおよびチタニアがある。アミン溶媒に対して実質的に不活性である微孔質材料も使用できる。そのような材料の例にはゼオライトおよび層状(layered)支持体がある。
【0016】
不均一触媒はRu、Rh、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含んでなることができる。この態様では、Ru、Rh、PdおよびPtの総重量は、不均一触媒の50重量パーセントより多く、例えば70重量パーセント以上を構成することができる。別の態様では、不均一触媒は本質的に該酸化物からなる。
【0017】
上記態様の工程はさらに、水素と約120゜〜約200℃の温度で、そして約1000〜約2500psigの圧で接触させることを含んでなる。
【0018】
一つの態様では、本発明は1,2−ジアミノシクロヘキサンの作成法を含み、この方法は極性のプロトン性溶媒に含まれる1,2−フェニレンジアミンを、三級アルキルアミン、アンモニアおよび担持ロジウム触媒の存在下で水素と接触させることを含んでなり、ここで該極性のプロトン性溶媒は水、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0019】
本発明の態様には、フィードと水素を約120゜〜約200℃の温度で、そして約1000〜約2500のポンド/平方インチゲージ(psig)のゲージ圧で接触させることを含む。[1ポンド/平方インチゲージとして報告される圧(psig)は、1大気圧に対する。1ポンド/平方インチ=6.895キロパスカル。1大気圧は101.325キロパスカルに等しく、そして1大気圧は約14.7ポンド/平方インチ絶対(psia)または約0ポンド/平方インチゲージ(psig)である]。
【0020】
一つの態様では、この方法は担持ロジウム触媒を使用する。別の有用な金属触媒には ルテニウムを含んでもよい。一つの態様では、ロジウム触媒は炭素に担持され、そして約1〜約10重量パーセントのロジウムを含む。別の有用な触媒支持体にはアルミナを含むことができる。
【0021】
別の態様では担持ロジウム触媒は約3〜約5重量パーセントのロジウムを含むことができる。
【0022】
本明細書の開示は、全体的な転換および選択性が改善され、そして工程の操作圧が下がるような方法に対する強化を提供するので、より好ましい全体的な経済性が提供される。
【0023】
態様の詳細な説明
【0024】
【化1】

【0025】
芳香族ジアミン出発材料は1,2−フェニレンジアミン(o−フェニレンジアミン、OPD)である。
【0026】
水素化法は液相で、典型的には溶媒または溶媒混合物の存在下で行うことができる。極性のプロトン性溶媒には水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、およびそれらの混合物がある。反応の経費および取り扱いの容易さの点から、プロトン性溶媒として水を使用する事が都合良く有利となる。
【0027】
水素化は主として撹拌された、バッチ式のスラリー操作で、約120゜〜約200℃の温度、そして約1000〜約2500psigの圧で行うことができる。
【0028】
有用な触媒にはアルミナ、チタニア、ゼオライトまたは炭素に担持されたロジウムがあり、一般には約1〜約10重量パーセントのロジウム、例えば約3〜約5重量パーセントのロジウムを含有する。一つの態様では、支持体は炭素である。
【0029】
有用なゼオライトは、1,2−フェニレンジアミンを1,2−ジアミノシクロヘキサンに転換するための反応条件下、アミンの存在下で実質的に不活性である不均一触媒反応の分野における当業者に知られているようなゼオライトである。そのような反応条件には、水素、アンモニア、1,2−フェニルジアミンおよび極性のプロトン性溶媒と、約120゜〜約200℃の温度で、そして約1000〜約2500psigの圧での接触を含むことができる。
【0030】
天然または合成のゼオライトは、結晶中に明確な孔と溝を持つ三次元ネットワークの開放構造を有するケイ酸水素アルミニウムの一種であるが(結晶アルミノケイ酸塩としても知られている)、本発明の方法で不均一酸触媒として使用することができる。ゼオライトの粒子サイズは約0.5ミクロン未満、例えば約0.1ミクロン未満、または約0.05ミクロン未満であることができる。有用なゼオライトの例には、フォージャサイト(欧州特許出願公開第492807号明細書に記載されている)、ゼオライトY、ゼオライト ベータ(米国特許第3,308,069号明細書に記載されている)、ZSM−5(米国特許第3,702,886号明細書に記載されている)、MCM−22(米国特許第4,954,325号明細書に記載されている)、MCM−36(米国特許第5,250,277号明細書に記載されている)、MCM−49(米国特許第5,236,575号明細
書に記載されている)、MCM−56(米国特許第5,362,697号明細書に記載されている)、PSH−3(米国特許第4,439,409号明細書に記載されている)、SSZ−25(米国特許第4,826,667号明細書に記載されている)等がある。
【0031】
他の酸化物は、それらがアミンの存在下、本明細書に記載する反応条件で不活性であるという条件で触媒支持体として有用となり得る。例えば硫酸塩をドープした二酸化ジルコニウムの調製が米国特許第5,149,862号明細書に開示されている。適切な酸化支持体の例には二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化鉄(III)、酸化アルミニウム、酸化スズ(IV)、二酸化シリコン、酸化亜鉛またはこれら酸化物の混合物も含むことができる。
【0032】
一つの態様では、アンモニア(NH)および三級アルキルアミン、例えばトリエチルアミンの両方が反応混合物に加えられる。これら成分の量は、出発材料の転換を増し、そしてDCHへの選択性を改善する目的で合理的な量で試行錯誤を行って調整することができる。アンモニアは、出発のo−フェニレンジアミン(OPD)に対して約3〜約15モル当量で加えることができる。三級アルキルアミン(例えばトリエチルアミン)は、出発のOPDに対して約0.002〜約0.01モル当量で加えることができる。
【0033】
次いで反応混合物は、当業者に知られている手段に従い、濾過を用いて処理して触媒を除去し、続いて蒸留して精製されたDCH生成物を単離することができる。
【実施例】
【0034】
反応生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して行う。適切なGCデバイスの例には、例えば米国95051−7201、カリフォルニア州、サンタクラーラ;5301 スティーブンス クリーク ブルヴァールのAgilent Technologies社、ライフサイエンス アンド ケミカルアナリシスグループから入社可能なAgilent6890N GC(または現在同等のAgilent7890A GCシステム)がある。
【0035】
一例では、21.6グラムのOPD、1.0グラムのトリエチルアミン、34グラムのアンモニア(NH)、3.3グラムのESCAT(商標)30(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェンのBASF AGの包括部門であるニュージャージー州、イセリンのBASF Catalystsからの5重量%Rh/CP 97炭素粉末触媒)、および30ミリリットルの脱イオン水の混合物を、300立方センチメートル容量のオートクレーブに入れ、室温で1000psigに水素で加圧し、次いで2時間、125℃に加熱して2000psigの最終圧にした。反応生成物をGCにより分析した。これらの生成物は:73.2重量% 1,2−ジアミノシクロヘキサン(DCH)、9.2重量%の2−アミノシクロヘキサノール、3.6重量%のOPD、4.6重量%のフェナジン、2.9重量%のシクロヘキシルアミンおよび3.9重量%のより高い沸騰物質。
【0036】
比較例では、27.0グラムのOPD、0.25グラムのナトリウムメトキシド、2.7グラムの5重量%Ru/Alおよび76ミリリットルのジオキサンの混合物を300立方センチメートル容量のオートクレーブに入れ、室温で800psigに水素で加圧し、次いで4時間、150℃に加熱して1200psigの最終圧にした。反応生成物は冷却後にオートクレーブからジオキサンで取り出し、そしてGCにより分析した。生成物は未反応OPDであり、ジアミノシクロヘキサンへの転換は観察されない。
【0037】
前記開示は本発明がどのように使用され、そして応用できるかを説明する具体的態様の記載を構成する。そのような態様は単なる例である。本発明はその広い観点から、さらに以下の請求の範囲で定義される。ここに使用するこれら請求の範囲および用語は、記載す
る発明の変形と解釈されるべきである。これらの請求の範囲はそのような変形に限定されずに、本明細書に開示する中に意味される本発明の全範囲を網羅すると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三級アルキルアミン、アンモニアおよびRu、Rh、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる不均一触媒の存在下、極性のプロトン性溶媒中で1,2−芳香族ジアミンと水素を接触させることを含んでなる1,2−脂環式ジアミンの作成法。
【請求項2】
上記極性のプロトン性溶媒が構造ROH、ここでRは水素またはアルキル基である、を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記アルキル基が1〜6個の炭素を有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記三級アルキルアミンが、アルキル基が1〜20個の炭素原子を有するトリアルキルアミンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記三級アルキルアミンがトリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびトリブチルアミンからなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記三級アルキルアミンがトリエチルアミンである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記不均一触媒がRuおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
Ru、Rh、PdおよびPtの総重量が上記不均一触媒の1〜10重量パーセントを構成する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
Ru、Rh、PdおよびPtの総重量が上記不均一触媒の3〜5重量パーセントを構成する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記不均一触媒がRu、Rh、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記不均一触媒が本質的に上記酸化物からなる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記不均一触媒が、1,2−芳香族ジアミンを脂環式ジアミンに転換させる反応条件下でアミンに対して実質的に不活性である支持体を含んでなる請求項8に記載の方法。
【請求項13】
上記不均一触媒が、アルミナ、チタニア、ゼオライトおよび微孔質層状材料からなる群から選択される少なくとも1種の支持体を含んでなる請求項8に記載の方法。
【請求項14】
さらに約120゜〜約200℃の温度で、そして約1000〜約2500psigの圧で水素と接触させることを含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
1,2−ジアミノシクロヘキサンの作成法であって、
三級アルキルアミン、アンモニアおよび担持ロジウム触媒の存在下で、極性のプロトン性溶媒に含まれる1,2−フェニレンジアミンを水素と接触させることを含んでなり、ここで該極性のプロトン性溶媒が水、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびそれらの混合物からなる群から選択される上記作成法。
【請求項16】
さらに約120゜〜約200℃の温度で、そして約1000〜約2500psigの圧
で水素と接触させることを含んでなる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記担持ロジウム触媒が炭素担持ロジウムを含んでなり、そして上記担持ロジウム触媒が約1〜約10重量パーセントのロジウムを含む請求項15に記載の方法。
【請求項18】
上記担持ロジウム触媒が約3〜約5重量パーセントのロジウムを含む請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2012−509260(P2012−509260A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536389(P2011−536389)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/063227
【国際公開番号】WO2010/059420
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】