説明

1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法

【課題】1,3−シクロヘキサンジオン化合物から対応する1,3−シクロヘキサジエン化合物を、高純度に、かつ工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】


一般式(1)で示される1,3−シクロヘキサンジオン化合物を水素化アルミニウム錯化合物を用いて還元する工程と、前記工程で得られた還元生成物を水中でのpKaが0〜3である無機酸存在下で脱水する工程とを具備する、一般式(2)で示される1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、1,3−シクロヘキサンジオン化合物から1,3−シクロヘキサジエン化合物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−シクロヘキサジエン化合物は、医薬、農薬、ファインケミカルズ原料、情報電子材料用原料等として有用な化合物である。
【0003】
従来の1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法としては、対応するシクロヘキセノン化合物を原料とする方法が知られており、例えば、シクロヘキセノンをトシルヒドラジンでトシルヒドラゾンとした後、エチルエーテル溶媒下、等モルのメチルリチウムで処理する方法(非特許文献1)や、セリウム塩存在下の水素化ホウ素ナトリウムによる還元反応の後、ヘキサメチルリン酸トリアミド存在下、メチルトリフェノキシホスホニウムヨージドを用いて脱離反応を行う方法等が知られている(非特許文献2)。
【0004】
これらの方法は、原料のシクロヘキセノン化合物が汎用に流通しておらず高価であること、爆発が懸念されるヒドラジン化合物を使用すること、高価で発火性を有するメチルリチウムを使用すること、発がん性が指摘されているヘキサメチルリン酸トリアミドを使用すること等の問題を有しており、工業的な製造方法として適用するには不十分であった。
【0005】
シクロヘキセノン以外を出発原料とする方法としては、例えば、工業原料であるジメドンを使用して、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンを製造する方法が知られている(非特許文献3)。
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society、第90巻、p.4762(1968年)
【非特許文献2】Synthesis、第2巻、p.108(1976年)
【非特許文献3】Organometallics、第6巻、p.1947(1987年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献3の製造方法は、ジメドンをリチウムアルミニウムハイドライドにて還元して5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサンジオールとした後、硫酸存在下で130℃に加熱して脱水反応を行うことにより、目的の5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンを得るものである。
【0007】
しかしながら、非特許文献3に、「目的物はエーテルとの混合物として取得できる」と記載されているように、この製造方法は、高純度で目的物を得るのには適しておらず、工業的に製造するための方法としては満足のゆくものではなかった。また、酸化性が強く、強酸性である硫酸を大量に使用するという点からも、工業的製造方法として望ましくなかった。さらに、本発明者らの追試によると、この製造方法では、目的の5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの他、沸点がほとんど同一である、3,3−ジメチル−1−シクロヘキセンおよび4,4−ジメチル−1−シクロヘキセンが相当量副成してしまい、目的物の単離が困難になってしまうことが明らかとなった(比較例参照)。
【0008】
本発明は上記知見に鑑みなされたものであり、本発明は、1,3−シクロヘキサンジオン化合物から対応する1,3−シクロヘキサジエン化合物を、高純度に、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,1,3−シクロヘキサンジオン化合物を原料とした1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法について、1,3−シクロヘキサンジオン化合物の還元方法および該工程で得られた還元生成物の酸存在下での脱水方法を種々検討した結果、特定の試薬を用いることで目的物を高純度に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示される1,3−シクロヘキサンジオン化合物を水素化アルミニウム錯化合物を用いて還元する工程と、前記工程で得られた還元生成物を水中でのpKaが0〜3である無機酸存在下で脱水する工程とを具備することを特徴とする、一般式(2)で示される1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0011】
【化1】

(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0012】
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0013】
この発明によれば、高純度に、かつ工業的に有利に、1,3−シクロヘキサジエン化合物を製造する方法を提供することができる。
【0014】
本発明において、水素化アルミニウム錯化合物は、下記一般式(3)または一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化3】

(式(3)および(4)中、Xは、ナトリウム原子またはリチウム原子を示し、Yは、それぞれ独立して、アルキル基またはアルコキシアルキル基を示す。)
【0016】
このようにすることによって、還元生成物中の、1,3−シクロヘキサジエンの前駆体となる化合物の選択率を向上させることができる。
【0017】
また、本発明において、無機酸がリン酸であることも好ましい。
【0018】
このようにすることによって、目的のシクロヘキサジエン化合物をより高純度で得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、高純度に1,3−シクロヘキサジエン化合物を製造することができる。目的物を製造するのに必要な工程は、操作が簡単な2つの工程のみであり、また、入手しやすい原料および試薬を用いていることから、安価に、しかも効率よく製造することができる。さらに、試薬や反応として比較的安全性が高いものを使用することから、工業的製造方法として適している。
【0020】
本発明のこのような作用および利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法は、下記一般式(1)で示される1,3−シクロヘキサンジオン化合物を原料とするものである。
【0022】
【化4】

【0023】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表し、式(1)で表される1,3−シクロヘキサンジオン化合物としては、例えば、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサンジオン(ジメドン)、5−メチル−5−エチル−1,3−シクロヘキサンジオン、5,5−ジエチル−1,3−シクロヘキサンジオン、5−メチル−5−プロピル−1,3−シクロヘキサンジオン、5−エチル−5−プロピル−1,3−シクロヘキサンジオン、5,5−ジプロピル−1,3−シクロヘキサンジオン等が挙げられる。これら1,3−シクロヘキサンジオン化合物は、市販品として入手することもできるが、容易に合成することもでき、例えば、下記式(5)で示される3,3−ジアルキル−5−オキソヘキサン酸を酸性条件下、縮合・環化することによって製造することができる(Journal of the American Chemical Society、第77巻、p.6656(1955年)等)。
【0024】
【化5】

(式(5)中、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0025】
本発明の製造方法は、上記1,3−シクロヘキサンジオン化合物を還元する工程と、該還元工程で得られた還元生成物を脱水する工程とを具備するものである。以下、各工程について説明する。
【0026】
<還元工程>
本発明の製造方法においては、原料の1,3−シクロヘキサンジオン化合物は、まず、水素化アルミニウム錯化合物を用いて還元される。水素化アルミニウム錯化合物としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化ジエチルアルミニウムリチウム、水素化トリ−t−ブチルアルミニウムリチウム、水素化ジ−iso−ブチルアルミニウムおよび下記一般式(3)または(4)で表される水素化アルミニウム錯化合物が挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
式(3)および(4)中、Xは、ナトリウム原子またはリチウム原子を示し、Yは、それぞれ独立して、アルキル基またはアルコキシアルキル基を示す。アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基が挙げられ、このうち好ましくはメチル基、エチル基またはt−ブチル基が挙げられ、より好ましくはエチル基が挙げられる。また、アルコキシアルキル基として具体的には、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、プロポキシメチル基、プロポキシエチル基、プロポキシプロピル基、プロポキシブチル基、ブトキシメチル基、ブトキシエチル基、ブトキシプロピル基、ブトキシブチル基等が挙げられ、このうち好ましくはメトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、またはエトキシエチル基が挙げられ、より好ましくはメトキシエチル基が挙げられる。
【0029】
一般式(3)で表される還元剤の具体例としては、ジヒドロビス(2−メトキシメトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−メトキシプロポキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−メトキシブトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−エトキシメトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−エトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−エトキシプロポキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−エトキシブトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−プロポキシメトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−プロポキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−プロポキシプロポキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−プロポキシブトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−ブトキシメトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−ブトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−ブトキシプロポキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−ブトキシブトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−メトキシメトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−メトキシプロポキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−メトキシブトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−エトキシメトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−エトキシエトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−エトキシプロポキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−エトキシブトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−プロポキシメトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−プロポキシエトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−プロポキシプロポキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−プロポキシブトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−ブトキシメトキシ)アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−ブトキシエトキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−ブトキシプロポキシ)アルミニウムリチウム、ジヒドロビス(2−ブトキシブトキシ)アルミニウムリチウム等が挙げられる。
【0030】
一般式(4)で表される還元剤の具体例としては、モノヒドロトリメトキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリエトキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリ−n−プロポキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリ−iso−プロポキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリ−n−ブトキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリ−iso−ブトキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリ−t−ブトキシアルミニウムナトリウム、モノヒドロトリメトキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリエトキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリ−n−プロポキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリ−iso−プロポキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリ−n−ブトキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリ−iso−ブトキシアルミニウムリチウム、モノヒドロトリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム等が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法に使用する水素化アルミニウム錯化合物としては、これら例示した化合物の中でも、特に、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムが好ましく、ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムが最も好ましい。これら好ましい水素化アルミニウム錯化合物を使用することによって、還元生成物中の、1,3−シクロヘキサジエンの前駆体となる化合物の選択率を向上させることができる。
【0032】
原料の1,3−シクロヘキサンジオン化合物に対する水素化アルミニウム錯化合物の使用量は、通常0.1〜20モルの範囲であり、0.3〜10モルの範囲が好ましい。特に、0.5〜5モルの範囲で用いることが、経済的見地からみて好ましい。
【0033】
1,3−シクロヘキサンジオン化合物の還元反応に使用する溶媒は、1,3−シクロヘキサンジオン化合物を溶解し、還元反応を妨げないようなものであれば特に制限はなく、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類や、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類があげられる。これら溶媒は予め脱水等の前処理をすることなくそのまま使用することが可能である。
【0034】
還元反応は、室温以下でも十分に進行するが、より反応速度を向上させるために、加熱下で実施してもよい。反応温度は0〜200℃、好ましくは20〜150℃の範囲である。反応は空気中で実施してもよく、また窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施してもよい。反応時間は反応温度にもよるが、通常0.1〜200時間、好ましくは0.5〜50時間の範囲である。
【0035】
還元反応終了後、反応液に塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸水溶液を加えて未反応の水素化アルミニウム錯化合物を中和分解した後、必要に応じて溶媒を濃縮除去し、粗還元化合物を得る。かかる粗還元生成物は更なる精製操作なしで次工程の脱水反応に供することが可能である。
【0036】
還元工程によって得られる還元生成物は、5,5−ジアルキル−2−シクロヘキセン−1−オールを主成分とし、その他、3,3−ジアルキルシクロヘキサン−1−オール、5,5−ジアルキルシクロヘキサン−1,3−ジオール、5,5−ジアルキル−3−シクロヘキセン−1−オール、3,3−ジアルキルシクロヘキサノン、5,5−ジアルキル−3−ヒドロキシ−シクロヘキサノン等を含む混合物である。
【0037】
<脱水工程>
上記粗還元生成物は、引き続き水中でのpKaが0〜3である無機酸存在下で脱水される。ここで、pKaとは、水溶液中での酸の解離平衡式
HA+HO→H+A(HA:ブレンステッド酸、A:HAの共役塩基)
において、酸解離定数Kaを、
Ka=[H][A]/[HA]([ ]は各成分の濃度を表す)
と定義したときの、Kaの対数の逆数値であり、pKa=−logKaである。
【0038】
水溶液中でpKaが0〜3である無機酸としては、例えば、リン酸(HPO)、亜リン酸(HPO)、次亜リン酸(HPO)、硝酸(HNO)、亜硫酸(HSO)、ヨウ素酸(HIO)等が挙げられる。これらの中で、リン酸(HPO)、亜リン酸(HPO)、硝酸(HNO3、)またはこれらの2種以上の混合物が、コストや性能の点から好ましい。さらに、目的のシクロヘキサジエン化合物が高純度で得られることから、リン酸(HPO)が特に好ましい。
【0039】
pKaが0より小さいと、還元生成物中の3,3−ジアルキルシクロヘキサン−1−オール等からの脱水生成物である、3,3−ジアルキルシクロヘキセンおよび4,4−ジアルキルシクロヘキセンが副成しやすい。かかる副生物は、目的シクロヘキサジエン化合物と沸点等の物性が類似しており、以後の工程での精製操作で分離できず、目的物の純度を著しく低下させることになり好ましくない。また、pKaが3より大きいと、原料の転化速度が遅く、主として経済的な理由で好ましくない。
【0040】
脱水反応におけるこれら無機酸の添加量は、1,3−シクロヘキサンジオンの還元生成物100質量部に対して0.001〜100質量部程度であり、より高い選択性を得るためには、1〜50質量部が好適である。
【0041】
本製造方法における脱水の操作としては、特に限定されず、公知または周知の製造方法により実施できるが、脱水反応装置を用いて行うのが好ましい。脱水反応装置としては、例えば、流通式反応器、バッチ式反応器等が挙げられる。バッチ式反応器を用いて反応を行う場合は、反応生成物を蒸留等により抜き出しながら行うことが望ましい。すなわち、反応器中に1,3−シクロヘキサンジオンの還元生成物を断続的または連続的に供給するとともに、該反応器中の生成物および水を留出させながら脱水反応を行う、反応蒸留を行うことが好ましい。
【0042】
脱水工程においては、溶媒は使用してもしなくてもよく、溶媒を使用する場合には、酸性条件下で安定なものであればいかなるものでもよいが、原料化合物や目的化合物との分離が容易である溶媒が好ましい。かかる溶媒を例示すると、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、デカン、ドデカン、パラフィン等の飽和炭化水素;ジフェニルエーテル、ジオクチルエーテル、液状のパーフルオロアルキルポリエーテル(例えば、旭硝子社「アフルード」、パーフルオロポリエーテル(ダイキン社製「デムナム(登録商標)」、ソルベイソレクシス社製「フォンブリン(登録商標)」、「ガルデン(登録商標)」)等のエーテル類;などが挙げられる。
【0043】
なお、脱水反応を反応蒸留で実施する場合、溶媒は反応を行う温度が高温であり、また反応系が反応留出型であることから、反応中の操作として常圧下で使用できるものが好ましく、さらに、高純度で目的物を得るという観点からは、目的物の留出分中に含まれない程度の目的物との沸点差があることが好ましい。反応条件の点および容積効率の点からは、無溶媒で脱水反応を実施することが最も好ましい。
【0044】
本発明の脱水反応の反応温度は、原料である1,3−シクロヘキサンジオン化合物および使用する無機酸により異なるため一概に規定できないが、50〜300℃が好ましく、70〜200℃が特に好ましい。反応は大気圧〜減圧下で行うことができる。生成物を反応系からより早く留出させるためには減圧下での反応が好適であるが、大気圧下でも十分な結果が得られため、反応をより容易に行いたい場合には、大気圧下で反応を行ってもよい。
【0045】
上記還元工程および脱水工程を経ることによって、下記一般式(2)で表される1,3−シクロヘキサジエン化合物が合成される。ここで、一般式(2)におけるRおよびRは、原料として用いた一般式(1)で表される1,3−シクロヘキサンジオン化合物におけるRおよびRとそれぞれ同じ置換基である。
【0046】
【化7】

脱水反応によって得られる反応生成物には、副生物である3,3−ジアルキルシクロヘキセンおよび4,4−ジアルキルシクロヘキセンが微量存在するものの、一般式(2)で表される1,3−シクロヘキサジエン化合物を十分な高純度で得ることができる。脱水反応終了後の有機層から水層の分離は、分液、デカンテーション、乾燥、濾過等の一般的な精製操作を組み合わせることにより実施可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で求めた収率および転化率は、ガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析を用いた内部標準法による定量分析、または単離質量を基準とし、下式により求めた値である。
収率(%)=100×(目的物のモル数)/(仕込んだ原料のモル数)
転化率(%)=100×(仕込んだ原料のモル数−未反応原料のモル数)/(仕込んだ原料のモル数)
【0048】
(実施例1)
冷却管、温度計およびスターラーを付した100mlの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、ジメドン10g(71.4mmol)およびジエチルエーテル90mlを仕込み、攪拌下0℃に冷却した。この溶液に、水素化アルミニウムリチウム2.01g(53.0mmol)を10分かけて添加し、15℃に昇温、2時間攪拌を継続した。さらに水素化アルミニウムリチウム0.84g(22.1mmol)を徐々に加えた後、加温し、還流下2時間撹拌を続けた。反応液を0℃付近まで温度を下げて4mlの水、15mlの1N水酸化ナトリウム水溶液、および10mlの水の順番で反応液をクエンチした。反応液は一旦濾過し、エーテル層を水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、無水硫酸マグネシウムを濾過し、減圧下、ジエチルエーテルを除去することにより、無色透明粘稠状液体として6.42gの還元生成物を得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィーによって定量分析した結果、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール49.6%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール21.6%、5,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジオール2.8%、5,5−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−オール1.4%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン3.5%、5,5−ジメチル−3−ヒドロキシシクロヘキサノン1.5%であり、原料ジメドンの転化率は100%であった。
【0049】
上記還元生成物を蒸留装置に仕込み、85%リン酸水溶液1.64ml(リン酸質量:2.54g)を加え、激しく攪拌しながら徐々に昇温し、常圧にて反応蒸留を実施した。111℃までの留分(第1留分)および112〜120℃までの留分(第2留分)を捕集し、これらから水を除いた後、秤量、ガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析によって分析した。結果、第1留(2.90g)には目的5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン98.1%(純度)、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.8%(純度)、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.5%(純度)が生成しており、第2留(0.48g)には目的5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン95.4%(純度)、3,3−ジメチルシクロヘキセン2%(純度)、4,4−ジメチルシクロヘキセン1.2%(純度)が生成していた。得られた留分中の5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの収率は43%(純度97.7%)であった。また、蒸留残査を分析したところ、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン2%、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.9%、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.6%、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール4.0%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール17.6%、5,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジオール1.5%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン3.0%が残留していた。
【0050】
(実施例2)
冷却管、温度計およびスターラーを付した1Lの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、ジメドン10.5g(75mmol)およびテトラヒドロフラン210mlを仕込み、攪拌下60℃に昇温した。ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70%トルエン溶液86.7g(300mmol)を、滴下ロートを用いて30分かけて添加した後、60℃で4時間反応させた。次いで、反応溶液を氷冷しながら1N塩酸水溶液300mlを徐々に添加し、析出した塩をセライトで濾過した。酢酸エチル150mlを用いて塩を洗浄し、濾液を分液した。有機層を飽和食塩水200ml、飽和重曹水200ml、飽和食塩水200mlで1回ずつ洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することにより、ジメドンの還元生成物を無色透明粘稠状液体として8.7g得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィーによって定量分析した結果、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール59.1%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール7.7%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン3.7%であり、原料ジメドンの転化率は89%であった。
【0051】
上記還元生成物を蒸留装置に仕込み、85%リン酸水溶液2.21ml(リン酸質量:3.44g)を加え、激しく攪拌しながら徐々に昇温し、常圧にて反応蒸留を実施した。112℃までの留分を捕集し水を除いた後、秤量、ガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析によって分析した。結果、本留分(4.11g)には目的5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン98.3%(純度)、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.5%(純度)、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.3%(純度)が生成しており、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの収率は50%であった。また、蒸留残査を分析したところ、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン4%、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.2%、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.2%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール5%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン2.5%およびジメドン8.8%が残留していた。
【0052】
(実施例3)
冷却管、温度計およびメカニカルスターラーを付した1Lの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、ジメドン24g(171mmol)およびテトラヒドロフラン500mlを仕込み、攪拌下60℃に昇温した。ジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70%トルエン溶液188.6g(654mmol)を滴下ロートを用いて3時間かけて添加した後、74℃で6時間反応させた。次いで、反応溶液を氷冷しながら6N塩酸水溶液170mlを徐々に添加し、次いで、析出した塩をセライト10gで濾過した。酢酸エチル150mlを用いて塩を洗浄し、濾液を分液した。有機層を飽和食塩水200ml、飽和重曹水200ml、飽和食塩水200mlで1回ずつ洗浄して無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、その後溶媒を留去して、ジメドンの還元生成物を無色透明粘稠状液体として20.9gを得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィーによって定量分析した結果、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール51.1%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール5.3%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン2.9%であり、原料ジメドンの転化率は86%であった。
【0053】
上記粗生成物10gを蒸留装置に仕込み、35%硝酸水溶液11.3ml(硝酸質量:3.95g)を加え、激しく攪拌しながら徐々に昇温し、常圧にて反応蒸留を実施した。105〜109℃までの留分を捕集し水を除いた後、秤量、ガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析によって分析した。結果、本留分(3.51g)には目的5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン94.7%(純度)3,3−ジメチルシクロヘキセン2.5%(純度)4,4−ジメチルシクロヘキセン1.8%(純度)が生成しており、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの収率は38%であった。
【0054】
(実施例4)
実施例3により得られた還元粗生成物10.5gを蒸留装置に仕込み、50%亜リン酸水溶液8.28g(亜リン酸質量:4.14g)を加え、激しく攪拌しながら徐々に昇温し、常圧にて反応蒸留を実施した。105〜113℃までの留分を捕集し水を除いた後、秤量、ガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析によって分析した。結果、本留分(3.88g)には目的5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン97.5%(純度)、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.6%(純度)、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.4%(純度)が生成しており、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの収率は41%であった。また、蒸留残査を分析したところ、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン3.2%、3,3−ジメチルシクロヘキセン0.1%、4,4−ジメチルシクロヘキセン0.1%、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール6.1%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール3.5%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン2.2%およびジメドン11%が残留していた。
【0055】
(比較例:非特許文献3に記載の製造方法による5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの合成)
冷却管、温度計およびスターラーを付した100mlの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、ジメドン10g(71.4mmol)およびジエチルエーテル60mlを仕込み、攪拌下0℃に冷却した。この溶液に、水素化アルミニウムリチウム2.56g(67.4mmol)を20分かけて添加し、25℃に昇温、2時間攪拌を継続した。さらに水素化アルミニウムリチウム1.54g(40.0mmol)を徐々に加えた後、加温し、還流下2時間撹拌を続けた。反応液を0℃付近まで温度を下げ、4mlの水、4mlの15%水酸化ナトリウム水溶液および12mlの水の順番で反応液をクエンチした。濾過後、エーテル層を水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過および減圧下ジエチルエーテルを除去することにより、無色透明粘稠状液体として還元生成物を6.24g得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィーによって定量分析した結果、5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オール46.1%、3,3−ジメチルシクロヘキサン−1−オール25.5%、5,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジオール3.8%、5,5−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−オール2%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン6.5%、5,5−ジメチル−3−ヒドロキシシクロヘキサノン0.2%であり、原料ジメドンの転化率は100%であった。
【0056】
上記粗生成物を蒸留装置に仕込み、9M硫酸水溶液2ml(18mmol)を加え、激しく攪拌しながら130℃まで昇温し、1.5時間攪拌を継続した。97℃以下の留分をあわせ、ジエチルエーテル10mlに溶解し、10%炭酸水素ナトリウム水溶液および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、室温での減圧濃縮によってジエチルエーテルを約5ml除去し、残留物を再度蒸留装置に仕込んだ。これを常圧から100mmHgの減圧下にて45℃から98℃まで加温し、幾つかの蒸留留分を得た。これら留分をガスクロマトグラフィーおよび核磁気共鳴分析によって分析した結果、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン40.5%、3,3−ジメチルシクロヘキセン10.8%、4,4−ジメチルシクロヘキセン9.2%、3,3−ジメチルシクロヘキサノン2.8%が生成しており、さらに、留分中のジエチルエーテルは32質量%であった。また、各留分中の目的の5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンの純度は最大で63%であった。
【0057】
実施例1〜4で得られた5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエンは、比較例で得られたものと比較して純度が30%以上も高く、本発明の製造方法は、従来の製造方法と比較して、高純度で目的物を得ることができる製造方法であることが分かる。
【0058】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される1,3−シクロヘキサンジオン化合物を水素化アルミニウム錯化合物を用いて還元する工程と、前記工程で得られた還元生成物を水中でのpKaが0〜3である無機酸存在下で脱水する工程とを具備することを特徴とする、一般式(2)で示される1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法。
【化1】

(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、同じでも異なってもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記水素化アルミニウム錯化合物が、下記一般式(3)または一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法。
【化3】

(式(3)および(4)中、Xは、ナトリウム原子またはリチウム原子を示し、Yは、それぞれ独立して、アルキル基またはアルコキシアルキル基を示す。)
【請求項3】
前記無機酸がリン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の1,3−シクロヘキサジエン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−24605(P2008−24605A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196031(P2006−196031)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】