説明

1,4−ジアルキル−2,3−ジオール−1,4−ブタンジオンの製造方法

本発明は、アルキルグリオキサールとα−ヒドロキシケトンとの酸性アルドール縮合による、1,4−ジアルキル−2,3−ジオール−1,4−ブタンジオンの化合物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、有機的合成の分野に、より詳述すれば、反応式(1)による、アルキルグリオキサール(II)とアセトール誘導体(III)とのアルドール縮合によって式(I)の化合物を製造する方法に関し、その際、前記縮合は、特定の酸条件によって促進される:
反応式1:本発明によるグリオキサールとアセトールとのアルドール縮合
【化1】

[式中、R1は直鎖又は分枝鎖のC1〜C5のアルキル基を示す]。
【0002】
従来技術
式(I)の化合物は、以下において定義するように、より複雑な骨格を有する化合物、例えば4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン(Firmenich SA社の商標Furaneol(登録商標)として公知である)の構成のための出発材料として有用であってよい。
【0003】
式(I)の化合物の種々の製造方法は、例えば、酒石酸から出発する3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンの多工程合成に関するBriggs et al、J.Chem.Soc.Perkin.Trans.I、1985、795、又は毒性があり及び高価なKClO3/OsO4系で高価な2,5−ジメチルフランを酸化することによる3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンの合成に関するBassignani et al、J.Org.Chem.、1978、43、4245において報告されている。化合物(I)を合成するための別の報告されている方法は、種々の方法(例えば、Buechi et al、J.Org.Chem.、1973、38、123を参照)により促進されるグリオキサールの還元二量化である。
【0004】
近年、F.Naefら(WO 2006/048795号)は、アルキルグリオキサールとアセトール誘導体とのアルドール縮合による製造方法を報告しており、その際この方法は、特定の触媒、例えばZn(AcO)2の強制的な存在を要求している。その報告された方法は、比較的低い収率、及び触媒としての金属塩の強制的な使用の、並びに非常に長い反応時間の欠点がある。
【0005】
前記の製造方法は、一般的に、極めて長く、かつ高価であり、又は最終産物の精製及び廃棄物処理の問題を含む重金属の使用を要求する。さらに、しばしば収率が低い。
【0006】
従って、未だ、より環境に優しく、より直接的又は早く、及びよい収率を提供する製造方法の必要性がある。
【0007】
発明の説明
前記の問題を解決するため、及び式(I)の化合物の代替的な製造方法も提供するために、本発明は、単一工程における、及び良好な収率を有する化合物(I)の合成を目的とした方法に関する。
【0008】
本発明の方法は、より詳述すれば、従来技術のアルドール法に反して金属塩の強制的な存在を要求しない、酸性条件下でのアルキルグリオキサール(II)とアセトール誘導体(III)とのアルドール縮合に関する。
【0009】
従って、本発明の方法は、式(I)
【化2】

[式中、それぞれのR1は、同時に又は互いに独立して、直鎖又は分枝鎖のC1〜C5アルキル基を示す]で示される化合物の、水性反応媒体中での、式(II)
【化3】

[式中、R1は、上記の定義と同様の意味を有する]で示されるグリオキサールと、
式(III)
【化4】

[式中、R1は、上記の定義と同様の意味を有する]で示されるα−ヒドロキシケトンとのアルドール縮合による製造に関し、その際、前記方法は、前記の水性反応媒体が、pH0〜6を有し、かつ該方法が、50℃から還流温度までの温度で実施されることを特徴とする。
【0010】
本発明の方法は、金属触媒を要求せず、かつ従って、かかる化合物の不在下で実施されうる。特に、WO 2006/048795号において記載されているような、FeX3又はMX2[式中、Mは、Zn2+、Mg2+、Cu2+、Fe2+又はCa2+であり、かつXは、C1〜C7のカルボキシレート、ハロゲン化物、又は式[R2COCHCOR2-のアセチルアセトネート誘導体であり、その際R2は、C1〜C3のアルキル基又はフェニル基を示す]で示される触媒を要求しない。本発明の特定の実施態様によって、前記方法は、式M(X)n[式中、nは、2又は3であり、Xは、前記で定義されたものであり、かつMは、遷移金属又はアルカリ土類金属である]で示される触媒のいかなる有効量も有さなくてよい。
【0011】
前記のように、該方法は、特定のpH範囲内の水性反応媒体、すなわち弱酸性から強酸性の媒体で実施される。
【0012】
本発明の一実施態様によって、本発明の方法は、有利には、0〜4.6の、有利には0.0〜3.0の、又は0.5〜2.3でさえのpHを有する反応媒体中で実施される。
【0013】
前記pHを、反応媒体中に酸又は塩基を添加することによって所望の値に設定することができ、かかる場合において、一度固定された媒体のpHは、反応中に所望の範囲内で変化してよい。酸の混合物を、使用してもよい。代わりに、媒体のpHは、緩衝液を使用することによって反応の間、調整及び維持されうる。
【0014】
本明細書で、水並びに化合物(II)及び(III)からなる水性反応媒体は、それ自体既に酸性であり、かつ従って、いくつかの場合において、酸を添加して、水性反応媒体を酸性化することは必要でなくてよく、しかし、むしろ、塩基を添加して、所望の値までpHを上げることが必要であってよいことに注意することも有用である。
【0015】
あらゆるタイプの酸、すなわち有機、無機、又は酸性樹脂が、使用されうる。かかる酸は、当業者によく知られている。典型的な例として、以下を挙げてよい:HCl、H2SO4、H3PO4、C1〜C7のスルホン酸(例えば、MeC64SO3H、MeSO3H、CF3SO3H)、C1〜C7のカルボン酸(例えば、C65COOH、CH3COCOOH、CH3COOH、C25COOH)、及び酸性樹脂、例えばメタクリルベースの又はスチレンベースのマトリックスを支持するカルボン酸又はスルホン酸(例えば、商標名Dowex(登録商標)50×8、又はAmberlite(登録商標)ICR 50のもとに公知である)。
【0016】
本発明の特定の一実施態様によって、前記酸は、前記のようなカルボン酸誘導体である。
【0017】
塩基として、pHを調整するため、又は緩衝液を製造するために、典型的なアルカリ水酸化物、例えばNaOHもしくはKOH、又はアルカリ炭酸塩又は重炭酸塩、例えばNa2CO3もしくはNaHCO3が使用されてよい。
【0018】
明瞭化のために、"水性反応媒体"に関して、本明細書では、反応が起こる媒体を意味する。従って、該水性反応媒体は、
− 水及び場合により完全に混和性の溶剤、
− 適量の少なくとも1つの酸もしくは塩基、又はそれらの混合物、例えば緩衝液、
− 式(II)及び(III)、並びに場合により(I)の化合物
を含み、又は有利には、それらからなる。
【0019】
本発明の特定の一実施態様によって、前記水性反応媒体は、少なくとも10%の水、有利には少なくとも15%の水、又は20%〜60%の水でさえも含んでいて良く、その際、その割合は、それ自体の質量に関する。前記の完全に混和性の溶剤は、0%〜100%の範囲の量で存在してよく、その際、その割合は、それ自体の質量に関する。かかる溶剤の典型的な例は、テトラヒドロフラン(THF)、又は低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、もしくはプロパノールである。
【0020】
本発明の特定の一実施態様によって、双方のR1基は、同一の意味を有する。 他の一実施態様によって、双方のR1基は、メチル基を示し、従ってグリオキサール(II)は、メチルグリオキサールであり、アセトール(III)は、アセトール(すなわち1−ヒドロキシ−2−プロパノン)であり、かつジヒドロキシ−ジオン(I)は、3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンである。
【0021】
アセトール誘導体(III)が本発明の方法において使用されてよい量は、典型的に、グリオキサールに対して、0.5〜20モル当量である。特定の一実施態様によって、前記量は、グリオキサールに対して、2〜10モル当量の範囲であってよい。
【0022】
本発明の方法が実施されうる温度は、50℃〜120℃、より有利には65℃〜95℃である。必要であれば、前記反応は、前記の範囲のより高い温度で反応するように、圧力の存在下で実施されてもよい。
【0023】
前記のように、式(I)の化合物は、フラノン誘導体の製造のための、及び特に、R1及びR2が双方ともメチル基である場合に、フレーバー成分4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンの製造のための高価な中間体でありうる。
【0024】
従って、本発明の他の目的は、以下の工程:
− 本発明に記載されている方法による、前記で定義されている化合物(I)を製造する工程、
− 前記化合物(I)を環化する工程
を含む、式(IV)
【化5】

のフラノンの製造方法である。
【0025】
前記の環化工程は、当業者に公知のあらゆる方法によって実施されうる。例えば、Buchi et al. J.Org.Chem、1973、123によって、又はUS2002/0111500号におけるSelinov et al.によって、又はBriggs et al. J.Chem.Soc. Perkin Trans.l、1985、795によって一度記載されているような緩衝液の存在下での環化方法を挙げてよい。
【0026】
実施例
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明され、その際、温度は摂氏度で示され、かつ略記は、当業者の通常の意味を有する。
【0027】
実施例1
実験手順
水中でメチルグリオキサール43質量%(2.00g、11.9mmol)、ヒドロキシ−アセトン(4.42g、59.7mmol)、及び水中で酢酸(1.43g、23.8mmol)(0.9ml)の溶液を、16時間、70℃で撹拌した(反応媒体のpHは、約2.0であった)。反応の最後に、反応混合物を、減圧下で濃縮して、粗製3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオン2.1gを得た(国際標準に対するGCによって測定された純度56%)。粗製3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンを、減圧下で蒸留して、淡黄色の固体として、3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンを得た(1.56g、純度74%、収率66%)。
【0028】
得られた生成物は、Buechi et al、J. Org. Chem.、1973,38、123において記載されているものと同様の、1H−NMRスペクトルを有した。
【0029】
上記と同様の実験手順に従って、本発明による種々の他の実験を実施した。
【0030】
結果を、表1において要約する。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、それぞれのR1は、同時に又は互いに独立して、直鎖又は分枝鎖のC1〜C5のアルキル基を示す]で示される化合物の、水性反応媒体中での、式(II)
【化2】

[式中、R1は、上記の定義と同様の意味を有する]で示されるグリオキサールと、
式(III)
【化3】

[式中、R1は、上記の定義と同様の意味を有する]で示されるα−ヒドロキシケトンとのアルドール縮合による製造方法であって、該方法は、前記の水性反応媒体が0〜6を含むpH有し、かつ該方法を50℃から還流温度までを含む温度で実施するが、式FeX3又はMX2[式中、Mは、Zn2+、Mg2+、Cu2+、Fe2+又はCa2+であり、かつXは、C1〜C7のカルボキシレート、ハロゲン化物、又は式[R2COCHCOR2-のアセチルアセトネート誘導体であり、その際R2が、C1〜C3のアルキル基又はフェニル基を示す]で示される触媒の存在を除くことを特徴とする方法。
【請求項2】
式M(X)n[式中、nは、2又は3であり、Xは、請求項1において定義されたものであり、かつMは、遷移金属又はアルカリ土類金属である]で示される触媒のいかなる有効量も有さないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の水性反応媒体が、0〜4.6を含むpHを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記の方法を、65℃〜95℃を含む温度で実施することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記の水性反応媒体のpHが、pHを調整するために、適量の少なくとも1つの酸もしくは塩基、又はそれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記の酸が、HCl、H2SO4、H3PO4、C1〜C7のスルホン酸(例えば、MeC64SO3H、MeSO3H、CF3SO3H)、C1〜C7のカルボン酸(例えば、C65COOH、CH3COCOOH、CH3COOH、C25COOH)、及びカルボン酸又はスルホン酸の樹脂であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の塩基が、アルカリ水酸化物又はアルカリ炭酸塩もしくは重炭酸塩であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
それぞれのR1が、メチル基を示すことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
− 請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法による、請求項1から8までのいずれか1項で定義された化合物(I)の製造、
− 該化合物(I)の環化
を含む、式(IV)
【化4】

のフラノンの製造方法。

【公表番号】特表2010−527991(P2010−527991A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508939(P2010−508939)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051678
【国際公開番号】WO2008/142592
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】