説明

1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の製造法

【課題】代謝性骨疾患予防治療剤の提供。
【解決手段】1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸又はその塩を有効成分として含有する代謝性骨疾患予防治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(1,4-Dihydroxy-2-naphthoic acid或いは1,4-Dihydroxy-2-naphthalene carboxylic acid或いは略してDHNAと呼ぶこともある)の工業的製法、及びこの化合物を含有する腸内フローラの改善、乳糖不耐症の腹部不快症状の改善、代謝性骨疾患予防治療に有用な医薬及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの母乳栄養児と人工栄養児の腸内フローラの比較研究から、ビフィズス菌が人の健康に有用であることが示唆されてきた。現在では、各種消化管疾病等や老化に伴いビフィズス菌が有意に低下することと、腸内ビフィズス菌の増殖を促進することが発癌抑制、腸内腐敗の抑制、感染症の防止等に有効であることが確認されてきている。したがって、腸内のビフィズス菌を選択的に増殖させることは、健康維持や各種成人病等の予防・治療の観点から極めて重要であるといえる。
【0003】
有用なビフィズス菌を増殖促進せしめる物質、いわゆるビフィズス因子については、従来よりいくつかの物質が研究され、報告されている。例えば、母乳中に含まれるN−アセチルグルコサミン(非特許文献1)、ペプチド関連物質(非特許文献2、3)、人参抽出物(非特許文献4、5)、糖関連物質(非特許文献6)等がある。
しかしながら、これらビフィズス菌の増殖促進物質の調製は、いずれも煩雑であり、ビフィズス菌のみを選択的に増殖させるという作用においても十分とは言えない点があった。
【0004】
そこで、本発明者等はビフィズス菌の増殖を選択的に促進する化合物について研究を重ねた結果、ある種のナフトキノン誘導体及びナフタレン誘導体が各種ビフィズス菌(Bifidobacterium longum, B.breve, B.adolescentis, B.bifidum, B.infantis, B.animalis, B.pseudolongum等)に対して強い増殖促進活性を有することを見出した。また、これら既知の化合物のほかに新たなビフィズス菌増殖促進物質についても明らかにしており、その物質は、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属菌により菌体内外に産生する高活性のビフィズス菌増殖促進物質で、従来未知の新規物質である2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノンであることを確認した(特許文献1)。さらに、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン等が骨粗鬆症等の代謝性骨疾患の予防治療薬として有用であることも見出した(特許文献2)。
【0005】
一方、DHNAは、染料、顔料及び感光材料として工業材料として有用であることが知られており、これまでにも有機化学合成法により種々の合成法が開発されてきた(特許文献3、4、5等)。しかし、これまでの合成法は、有機溶媒中高温高圧下での反応あるいは、触媒などとして飲食用には適さない試薬等を用いる必要があった。これらの方法で製造されたDHNAから製造に用いた溶媒や試薬を完全に除去することは困難であり、従来の製造方法で得られたDHNAを飲食品や医薬に用いることは考えられていなかった。
【特許文献1】特開平8-98677号公報
【特許文献2】国際公開第01/28547号パンフレット
【特許文献3】特開昭57-128655号公報
【特許文献4】特開昭59-186942号公報
【特許文献5】特開昭60-104037号公報
【非特許文献1】Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,90,219(1955)
【非特許文献2】Am.J.Clin.Nutr.,32,1428(1974)
【非特許文献3】Agric.Biol.Chem.,48,2159(1984)
【非特許文献4】日農化誌,55,499(1981)
【非特許文献5】Chem.Pharm.Bull.,(Tokyo)14,1191(1966)
【非特許文献6】東北福祉大紀要,10,313(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ビフィズス菌に特異的な増殖促進作用を示す各種化合物についてさらに検討した結果、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)がプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属菌により菌体内外に大量に産生されることを見出すと共に、この培養物から採取した1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸含有組成物、又は1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸もしくはその塩が、牛乳不耐症の牛乳の摂取時にみられる腹部不快症状を低減する作用を有すること、さらには骨芽細胞の分化と機能発現を促進し、破骨細胞の形成を抑制することから代謝性骨疾患の予防治療に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の塩としては、薬学的又は食品学的に許容できる塩が挙げられ、代表的な塩には、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、乳酸塩、クエン酸塩などが含まれるが、これらは例示であって、本発明はこれらの塩に限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を産生する微生物を培養し、培養物中に1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を産生させ、これを採取することを特徴とする1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の製造法を提供するものである。
また、本発明は、上記の製造法により得られた1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸含有組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記の製造法により得られた1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸含有組成物、又は1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸もしくはその塩を有効成分として含有する腹部不快症状改善用飲食品、腹部不快症状改善剤、整腸剤、代謝性骨疾患予防治療用飲食品又は代謝性骨疾患予防治療剤を提供するものである。
また、本発明は、上記の製造法により得られた1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸含有組成物、又は1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸もしくはその塩の、腹部不快症状改善用飲食品、腹部不快症状改善剤、整腸剤、代謝性骨疾患予防治療用飲食品又は代謝性骨疾患予防治療剤の製造のための使用を提供するものである。
【0008】
さらに本発明は、上記の製造法により得られた1,4−ジヒドロキシ−2−エナフトエ酸含有組成物、又は1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸もしくはその塩の有効量を投与することを特徴とする腹部不快症状の処置方法、整腸方法又は代謝性骨疾患の処置方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るDHNAの工業的製法は、微生物に由来することから、安全性に優れており、DHNAを高濃度に含む本組成物を経口摂取することで、腸内フローラの改善はもとより、牛乳の摂取時にみられる腹部不快症状の改善及び代謝性骨疾患の予防治療にも利用することができる。また、毒性がないことから、長期間摂取することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)を産生する菌の属の例としては、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、エンテロバクター(Enterobacter)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、バチルス(Bacillus)等があげられる。これらの微生物の多くは、従来より飲食品及び医薬品の製造に用いられてきたものであり、DHNAを含有する飲食品及び医薬品を製造する上でこれらの菌を用いることは好ましい。プロピオン酸菌としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・トエニー(P. thoenii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニシ(P. acidipropionici)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニー(P. jensenii)などのチーズ用の菌、プロピオニバクテリウム・アビダム(P. avidum)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)、プロピオニバクテリウム・リンホフィラム(P. lymphophilum)、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(P. granulosam)などが挙げられる。また、バチルス属の菌としてはバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)などが挙げられる。本発明に使用する微生物としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒが好適であり、例えばP. freudenreichii IFO 12424、あるいはP. freudenreichii ATCC 6207が挙げられる。
【0011】
本発明により、DHNAを製造するには、まずDHNAを産生する能力を有する菌株を、通常の微生物が増殖し得る栄養源を含む培地で好気的又は嫌気的に培養する。栄養源としては従来から微生物の培養に用いられている公知のものが使用できる。特に、脱脂粉乳培地、トリプチケース、フィトン、酵母エキス及びグルコースからなる培地の他、ホエイ粉、或いはそのプロテアーゼ処理物、或いはホエイ蛋白質濃縮物、その処理物及び乳清ミネラルのラクターゼ処理物を主成分とする培地が好適に用いられるが、本発明においては、培地の蛋白源として脱脂粉乳のプロテアーゼ処理物を用いることが最も望ましく、その際、培養時の添加物として、酵母エキス、乳糖の少なくともひとつを使用することで、培養液のDHNA産生量を増大させることができる。また、培養時の添加物として、乳糖の他、グルコース又は乳糖のラクターゼ処理物も使用できるが、脱脂粉乳のプロテアーゼ処理物を培地の主原料に使用した場合には、糖質として乳糖が最も好ましい。以下に、培地原料に脱脂粉乳のプロテアーゼ処理物を用いた場合の培地調製法の一例を示す。
【0012】
脱脂粉乳を10%(w/v)の濃度になるように水で溶解し、プロテアーゼでタンパク質を分解する。使用量は、脱脂粉乳量に対し、0.25%(w/w)とする。分解は、47℃、pH6.8で6時間行い、分解中のpH調整には炭酸カリウム水溶液を用いる。最終的な培地濃度として脱脂粉乳濃度を10%(w/v)に調整し、最後に、酵母エキスを脱脂粉乳量に対し、1〜10%(w/w)、好適には3〜7%(w/w)添加する。
【0013】
培養方法としては、公知の各種好気的、嫌気的培養方法を用いることができるが、液体培地による好気又は嫌気培養法が大量生産の上から最も好ましい。培養温度は約20〜40℃、培地のpHは中性〜微酸性(好ましくはpH5.5-7.5)の条件下で培養する。液体培養では、培養開始後約1〜5日経過すると培地及び菌体中にDHNAが蓄積される。培養中に乳糖を添加することによりDHNAの産生量は増加する。培養を停止し、直ちにその培養物よりDHNAの採取に供することも可能であるが、好ましくは、培養液を冷却(3〜20℃、より好ましくは約10℃)し、保存(好ましくは2〜4週間程度)することによりDHNAをさらに蓄積させることができる。
【0014】
次に、DHNAの採取方法について説明する。得られた培養物を吸着クロマトグラフィーに付すのが好ましい。吸着剤としては、活性炭や合成吸着剤(例えばダイアイオンHP−20、三菱化学(株)製)などの逆相系の吸着剤を広く使用することができる。まず、吸着剤をカラムに充填し、0.5%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液で洗浄する。次いで、得られた培養物をカラムに添加し(通過液をpassとした)、さらに0.5%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液で水溶性画分を除去する。その後、0.5%(w/v)量アスコルビン酸ナトリウムを添加したエタノールで溶出し、このエタノール溶出画分を濃縮することで、DHNAを高濃度に含む組成物を得ることができる。さらに、精製を行い、純粋なDHAN又はその塩を得ることができる。尚、カラムからのDHNAの溶出液としてエタノールの代わりにメタノールを用いてもよい。
【0015】
DHNAの塩としては、薬学的又は食品学的に許容できる塩が挙げられ、代表的な塩には、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、乳酸塩、クエン酸塩などが含まれるが、これらは例示であって、本発明はこれらの塩に限定されない。
DHNAは、DHNA産生菌の培養物中(菌体内及び/又は外)に含有されているので、吸着クロマトグラフィーを適用せずに培養物それ自体をロータリーエバポレーター等を使用し、濃縮することによってDHNAを高濃度に含有する組成物を得ることができる。また、通常の遠心分離法によって培養物から菌体を分離し得られた上清を濃縮することも好ましい。こうして得られた組成物は、利用する形態にあわせ、液状のまま用いてもよいし、粉末状に加工することもできる。
【0016】
牛乳を飲んだ後に腹痛や腹鳴、下痢などの腹部不快症状をおこすものを牛乳不耐症と呼ぶが、この中の大部分は牛乳中等の乳糖を摂取したことによって起こる乳糖不耐症に相当する。そして、その原因の多くの場合、小腸ラクターゼ活性の欠乏又は減少によっている。本発明に係る組成物又はDHNAもしくはその塩は、牛乳の摂取時にみられる腹部不快症状を低減する作用を有し、さらには骨芽細胞の分化と機能発現を促進する作用、破骨細胞の形成抑制作用を有し、骨粗鬆症等の代謝性骨疾患の予防治療に有用である。飲食品又は医薬品いずれの形態でも利用することができ、例えば、医薬として直接投与することにより、或いは特定保健用食品等の特別用途食品、栄養機能食品として直接摂取することにより、あるいはまた、各種食品(牛乳、発酵乳、ヨーグルトその他)に添加しておきこれを摂取することによって、腸内フローラの改善や牛乳の摂取時等にみられる腹部不快症状を低減し、また代謝性骨疾患を予防治療することができる。
【0017】
本発明に係る組成物、又はDHNAもしくはその塩を医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
この製剤をヒトに適用する場合、経口投与するのが好ましい。有効成分であるDHNAの治療有効量は治療される各患者の年齢及び条件によって変動するが、一般にDHNAとして、ヒト体重1kgあたり1日量0.03〜3μg、より好ましくは0.1〜1μg経口投与する。
【0018】
本発明に係る組成物、又はDHNAもしくはその塩は、経口投与によって腸内フローラの改善や牛乳の摂取時にみられる腹部不快症状を低減する、代謝性骨疾患を予防又は治療するという所期の目的を達成しうるので、飲食品として使用することができる。そのためには、DHNAを高濃度に含む本発明組成物又はDHNAもしくはその塩を各種補助剤や他の飲食品を用いて、ドリンク、錠剤、その他各種の飲食品にしたり、飲食品に直接添加する等、各種の方法を利用することができる。このように飲食品にすることで、長期間に亘って摂取することが可能であるため、通常の飲食品の他、特定保健用食品等の特別用途食品、栄養機能食品として市販に供することができる。
【実施例】
【0019】
以下、試験例、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0020】
試験例1 DHNA産生菌のスクリーニング
培養条件
脱脂粉乳培地(後記する実施例1に記載)にそれぞれ下記供試菌を摂取し、37℃で18〜72時間、ガスパック法にて嫌気培養した。
(A)Propionibacterium freudenreichii IFO 12424 (培養時間:72時間)
(B)Propionibacterium acidipropionicii IFO 12425 (72時間)
(C)Propionibacterium jensenii IFO 12427 (72時間)
(D)Lactococcus lactis ATCC 10697 (24時間)
(E)Leuconostoc mesenteroides JCM 9700 (24時間)
(F)Lactobacillus acidophilus ATCC 4357 (18時間)
(G)Lactobacillus plantarum IFO 12006 (18時間)
(H)Lactobacillus rhamnosus JCM 1136 (18時間)
(I)Lactobacillus casei ATCC 7469 (18時間)
(J)Bifidobacterium longum ATCC 15707 (18時間)
(K)Bifidobacterium bifidum ATCC 11146 (18時間)
(L)Bifidobacterium adolescentis ATCC 15703 (18時間)
(M)Bifidobacterium breve ATCC 15700 (18時間)
【0021】
DHNA分析条件(HPLC分析)
カラム:C18、充填剤粒径3μm、内径4.6mm、長さ150mm
(C18:インタクト(株)のCadenza CD-C18)
溶離液:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸=10:20:200:0.1(5%アンモニア水でpH 7.0に調整)
流速:1.5mL/min
注入量:20μl
検出器:UV254nm
【0022】
HPLCサンプル調製法
各培養液10mlに0.1%(w/v)のアスコルビン酸ナトリウムを添加後、pH7.0に調整し、水で全量を20mlにした後、そのうち3mlを等量のメタノールと混合して、3000rpmで10分間遠心分離し、その上清液を0.45μmのフィルターでろ過した。
【0023】
DHNAの定量
HPLCサンプル中のDHNA量は、予め求めた市販のDHNA(和光純薬(株)製)標品の保持時間(13分付近)、及びHPLCのピーク面積とDHNA濃度との関係(検量線)をもとに算出した。
【0024】
その結果、DHNAはプロピオニバクテリウム(A)〜(C)から3.0μg/ml以上検出された。ラクトコッカス(D)、ロイコノストック(E)からは微量に検出されたものの、ラクトバチルス(F)〜(I)、ビフィドバクテリウム(J)〜(M)からは検出することができなかった。すなわち、プロピオニバクテリウムは、本発明に使用しうるDHNA産生菌として望ましいことが確認された(表1)。Bacillus subtilisについても同培地を用い、好気的に培養したところ、培養物にはDHNAが含有されていることが確かめられた。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1 DHNA含有組成物の製造法
脱脂粉乳を10%(w/v)の濃度になるように水で溶解した脱脂粉乳培地(脱脂粉乳の10重量%還元液)にビール酵母エキス(アサヒビール(株)製)を0.1%(w/v)添加した液50Lを容量5Lの三角フラスコ20本に分注し、121℃、7分間オートクレーブで滅菌した。これらの培地にプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)IFO 12424株の賦活培養液60mlをそれぞれ接種し、37℃で72時間、窒素雰囲気下、嫌気培養したところ、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を3μg/ml含有する組成物(50L)が得られた。なお、前記賦活培養液は、TPYG培地(トリプチケース(BBL) 8g、フィトンペプトン(BBL) 3g、ビール酵母エキス5g、L−システイン塩酸塩 0.5g、グルコース 20g、K2HPO4 2g、KH2PO4 3g、MgCl2・6H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 10mg、H2O 1000ml、pH6.5)に2%(w/v)のプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)を接種し、37℃で72時間ガスパック法にて嫌気培養することで得る。
【0027】
実施例2 DHNA高濃度含有組成物の製造法
脱脂粉乳を10〜20%(w/w)の濃度になるように水で溶解し、プロテアーゼ[アマノA](アマノ製薬(社)製)を脱脂粉乳量の0.25%(w/w)添加し、47℃で6時間酵素分解した。この間、炭酸カリウム水溶液でpH6.8に保持した。85℃、5分間加熱して酵素を失活させた後、脱脂粉乳量が10%(w/w)となるよう水でメスアップした。ビール酵母エキス(アサヒビール(社)製)を脱脂粉乳の5%(w/w)量添加した後、2L容量のファーメンターに1.5Kg分注し、121℃、7分間オートクレーブで滅菌した。ファーメンター中に窒素ガスを上面通気で流し、撹拌は150rpmで行い、培地温度を33℃に調整した。培地温度が33℃に安定したら、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)ET−3株(平成13年8月9日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))にFERMBP−8115として寄託されている)の凍結濃縮スターターを培地に対し0.05%(w/w)接種し、培養を開始した。途中、培養開始72時間後と96時間後に、培養液に対し、2%(w/w)量の乳糖と、1.3%(w/w)量の乳糖を添加した。33℃で120時間、40%(w/w)炭酸カリウム水溶液でpH6.45に保ちながら窒素雰囲気下で嫌気培養したところ、この時点で、培養液中に30μg/mlのDHNAが産生された。なお、培養開始120時間後のアルカリ消費量は培養液1.5kgに対し、131gであった。さらに、この培養液にアスコルビン酸ナトリウムを培養液の0.5%(w/w)量添加し、炭酸カリウム水溶液でpHを8.0に調整後、10℃まで冷却した。これを10℃で2週間保存した結果、培養液中のDHNAの含量は、40μg/mlまで増加した。凍結濃縮スターターは、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)ET-3株の賦活培養液(上記脱脂粉乳のプロテアーゼ処理物を主成分とする培養液で33℃で48時間窒素雰囲気下で嫌気培養する)を、培地(脱脂粉乳のプロテアーゼ処理物を主成分とする培養液)に対して2%(w/w)量接種し、33℃で72時間培養し、培養終了後、培地を回収して遠心分離し、菌体を20倍程度に濃縮した。その後、適量を滅菌した容器に分注し、−80℃以下で凍結し、−80℃で保存したものを使用した。
【0028】
実施例3 実施例1で得られた組成物のカラムクロマトグラフィーによる濃縮
ダイアイオンHP−20(4L)をカラムに充填し、0.5%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液で洗浄後、実施例1で得られた組成物40Kgをカラムに添加した。次に0.5%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液8Lで水溶性画分を除去後、エタノール12Lを流してDHNAを溶出させた。溶出液にはさらに0.5%(w/v)量アスコルビン酸ナトリウムを添加した。本エタノール画分をエバポレーターで濃縮し、DHNAを115mgを含む10gの本発明組成物を得た。
【0029】
実施例4 実施例1で得られた組成物のロータリーエバポレーターによる濃縮
実施例1で得られた組成物5Kgに0.5%(w/w)量アスコルビン酸ナトリウムを添加し、ロータリーエバポレーターにて5倍に濃縮したところ、1Kg中にDHNAを15mg含む本発明組成物が得られた。
【0030】
実施例1〜3の組成物の製造には、チーズの製造に用いられているプロピオン酸菌を用いているため、実施例1〜3で得られた本発明品をそのまま飲食品として用いることができる。
【0031】
実施例5 DHNAの精製
実施例2で得られた濃縮物をpH4.5に調整した0.5%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液1Lに溶解し、酢酸エチル1Lで3回抽出した。酢酸エチル層をあわせて、無水硫酸ナトリウム200gで脱水後減圧下濃縮した。濃縮物をメタノール80mLに溶解後、その4mLをC18カラムで精製した。保持時間21分から31分のDHNA溶出画分に25%(w/v)となるようにアスコルビン酸ナトリウムを加えた後、減圧下濃縮した。この濃縮物800mLを酢酸エチル300mLで2回抽出し、無水硫酸ナトリウム50gで脱水後減圧下濃縮した。得られた最終精製物を500MHz 1H-NMRにて構造を解析したところDHNAであると同定した。最終的に培養液40LからDHNA 115mgが得られた。
【0032】
カラム:Capcell Pak C18 SG120, φ50×500mm, Lot.930210 (資生堂(株)製)
移動層:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸=20:40:200:0.1(5%アンモニア水でpH 7.0に調整)
温度:室温
流速:100mL/min
注入量:4mL
検出器:UV254nm
<最終精製物のNMRデータ>
1H-NMR (500MHz, MeOH-d4):δ8.39 (1H, d, J=8.3Hz), 8.23 (1H, d, J=8.3Hz), 7.69 (1H, dd, J=8.3, 6.9Hz), 7.60 (1H, dd, J=8.3, 6.9Hz), 7.23 (1H, s)
【0033】
実施例6 急性毒性試験
マウス5匹(5週齢:ICRを購入後、7日間訓化)を用いて実施例2記載のDHNA含有組成物の急性毒性試験を実施した。1日当たり78.3mg/kg(DHNAは、0.9(≒115×(78.3/(10×1000)))mg/kg)を最高投与量として5日間連続投与し、14日間観察したが、死亡は認められず、体重、行動、臓器の解剖所見を調べたが何れも異常がないことを確認した。
【0034】
実施例7 DHNAを含有する本発明組成物を配合した食品の調製法(タブレットの調製)
実施例1で得られた組成物10Kgを品温50℃で24時間凍結乾燥し、凍結乾燥粉1Kgを得た。次に同粉末をブドウ糖80%(w/w)と乾燥コーンスターチ10%(w/w)、粉末パラチニット7%(w/w)、クエン酸3%(w/w)から成るタブレット基剤に40%(w/w)配合し、0.5g毎に打錠した。
【0035】
実施例8 DHNAを含有する本発明組成物を配合した食品の調製法(乳飲料の調製1)
生乳10Kgにアスコルビン酸ナトリウム15g及びDHNAを含有する実施例2より得られた組成物125mgを添加し、これを均質化した後に130℃で2秒間殺菌し、100ml毎に容器に充填した。
【0036】
実施例9 DHNAを含有する本発明組成物を配合した食品の調製法(乳飲料の調製2)
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)ET−3株(FERM P-18454)をホエイ粉のプロテアーゼ処理物を主原料とする培地(10重量%ホエイ粉還元液をプロテアーゼ(天野製薬(株)製:アマノA)で2時間タンパク分解(50℃、pH7.0)した溶液にビール酵母エキス(アサヒビール製)を0.1%(w/v)添加した液50Lをジャーファーメンターに供し、121℃、7分間滅菌した)に、賦活培養液60mlを接種し、35℃、pH6.0で90時間、嫌気培養後、0.5%(w/v)のアスコルビン酸ナトリウムを添加することで得られた本発明組成物177.5mlを、生乳9822.5mlに添加し、これを均質化した後に130℃で2秒間殺菌し、100ml毎に容器に充填した(DHNA含量11μg/100ml)。
前記賦活培養液は、培養温度35℃以外は、実施例1と同様の方法で得る。
【0037】
実施例10 乳飲料摂取時にみられる腹部不快症状の本発明品による影響1
試験飲料として実施例8で調製した乳飲料を用い、対照飲料として発酵前の培地を用いて同様に調製した乳飲料を用いた。被験者は、牛乳摂取による呼気中水素ガス濃度の測定を行い、小腸のβ-ガラクトシダーゼ活性が低く乳糖不耐症と考えられるヒトを選定した。具体的には、対照飲料400mlによるラクトース負荷試験を行い、呼気中の水素濃度が飲料摂取から6時間までに約20ppm以上増加した15名(男性7名、女性8名、平均年齢28.07±3.41才)を被験者とした。
【0038】
被験者は、試験前日22時から試験当日17時まで水以外の飲食をしないように制限した。試験当日10時に対照飲料400mlを経口摂取し、経時的に17時までアンケートによる腹部症状の記入(30分毎)と呼気の採取(1時間毎)を行った。試験飲料の投与は、1週間後に対照飲料の投与と同じ要領にて実施した。なお、被験者には飲料の種類についての事前の告知は一切行わなかった。
【0039】
呼気は1L容のコック付テドラ−バッグ(ジーエルサイエンス(株))にて採取し、水素ガスの分析はガスクロマトグラフィー(GC-8A、島津製作所(株))にて行った。分析条件は、カラム:モレキュラーシーブ5A(3mm×2m)、オーブン温度:40℃、キャリアガス:アルゴン、検出器:熱伝導度型検出器(TCD:Thermal Conductivity Detector)とした。
アンケート用紙を各被験者に配布し、30分毎に腹部症状について自己記入方式で調査した。腹部膨満感は、「接取直後に比較して非常におなかが張る」を4、「摂取直後に比較しておなかが張る」を3、「接取直後に比較して少しおなかが張る」を2、「摂取直後に比較して変わらない」を1として数値化し、摂取30分後から6時間までの値を累積した。また、その他の腹部症状として下痢、腹痛、鼓腸(ゴロゴロなる)があった際にはアンケート用紙に併記させた。
【0040】
乳飲料摂取から6時間後までの腹部症状を調べたところ、対照飲料摂取において腹部膨満感の累積値が17.93±4.83であったのが、試験飲料では15.93±3.65と有意(wilcoxon検定、p<0.05)に減少した(図1)。また、摂取6時間後までに被験者が膨満感を訴えた回数を観察したところ、対照飲料摂取において3.47±3.11であったものが、試験飲料において2.47±2.90と減少傾向(p=0.108)であった(図2)。同様に、鼓腸(ゴロゴロ感)を訴えた回数も対照飲料摂取において2.87±2.75であったものが、試験飲料において1.47±2.10と有意(p<0.05)に減少した(図3)。その他の腹部症状では、対照飲料摂取では下痢を呈する被験者が2名いたが、試験飲料摂取では下痢を訴える被験者がいなかったほか、対照飲料摂取で腹部不快症状がなかった被験者が2名であったのに対し、試験飲料摂取では6名に増加した(表2)。
【0041】
また、呼気水素濃度の最大上昇量を求めたところ、対照飲料摂取での最大呼気水素濃度上昇量の平均値は42.9±13.7ppmであった。一方、試験飲料摂取後の最大呼気水素濃度上昇量の平均値は34.7±17.6ppmとなり、対照飲料摂取に比較して減少傾向(wilcoxon検定、p=0.051)であった(表2)。
【0042】


【表2】

【0043】
実施例11 乳飲料摂取時にみられる腹部不快症状の本発明による影響2
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)IFO 12424株を実施例9と同様の方法で培養し得られた培養物5Kgをさらにエバポレーターで5倍濃縮したところ、1Kg中DHNAを45mg含む組成物が得られた。得られた組成物35.5gに生乳10kg、アスコルビン酸ナトリウム15gを用いて調製した乳飲料で実施例10と同様の実験を行ったところ、本発明組成物を含有する乳飲料の摂取により、実施例10とほぼ同様の結果が得られ、乳飲料摂取時にみられる腹部不快症状が改善されることが確認された。
【0044】
実施例12 DHNAの骨芽細胞石灰化能促進効果
骨折手術時に得られた20歳男性の長管骨骨膜より樹立した培養ヒト骨芽細胞(SaM−1)を使用した。このSaM-1細胞は骨芽細胞の特徴をすべて保持していた(Koshihara, Y. et al.: In Vitro Cell. Dev. Biol., 25: 37-43, 1989)。SaM-1は、2mMのα−グリセロリン酸存在下で、1α,25(OH)23の濃度に依存して石灰化を促進することが知られている(Koshihara, Y. et al.: Biochem. Biophys. Res. commun., 145: 651-657,1987)。
18PDL(population doubling level)のSaM-1を12穴プレートに播き、コンフルエントになるまで培養した。つぎに石灰化促進剤である、α−グリセロリン酸を2mMになるように添加した。この培養系に、10-7M〜10-5MのDHNAを添加し32日間培養した。対照には溶媒のDMSOを培養液の0.1%になるように加えた。培地はそれぞれの試験物質を含む培地で1日おきに交換した。石灰化度はヒドロキシアパタイトの構成成分であるCa量で表した。
【0045】
細胞外マトリックス中のCaは、o-cresolphthalein complexone 法(OCPC法)(Gitleman, H. J.: Anal. Biochem., 18: 520-531,1967)に基づいたキット(カルシウムCテストワコー)により定量した。
培養終了後Hank's液にて細胞を洗浄した。冷5%過塩素酸 0.5mL/ウエル を加えて、4℃で15分間振盪抽出した。抽出液25μLと緩衝液2.5mLを混合後、発色液(OCPC0.4mg/mL、8−キノリノール含有)250μLを加えて攪拌し、5分後にその反応液を吸光度計(570nm)にて測定した(図4)。図4から、DHNAは、濃度に依存して石灰化を促進することが確認された。
【0046】
実施例13 FK−506誘発骨粗鬆症モデル動物に対するDHNAの効果
免疫抑制剤として知られるFK−506を動物に投与する事により骨粗鬆症様の病態を引き起こすことが知られている(J. Hard Tissue Biology, 103-107, 10(2), 2001)が、これは、骨芽細胞上に発現されるRANKL(破骨細胞分化因子)の発現亢進により破骨細胞形成が進み、骨吸収優位となって骨粗鬆症病態を呈することが示唆されている。8週齢のICR雄性マウスにFK−506を1mg/kgで10週間連続腹腔内投与した。この間、餌(CRF-1、オリエンタル酵母社製)は自由摂取とし、DHNAを毎日75μg/kgを1%DMSO(ジメチルスルホキシド)水溶液に懸濁させて経口投与した。その結果、DHNA投与群は、コントロール群(FK506(+))に比べて有意に骨密度が高く、FK506投与による骨密度の低下が抑制されていることが明らかとなった(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】DHNAを高濃度に含有する本発明組成物を配合した乳飲料摂取から6時間後までに感じた腹部の膨満感の強さを示すグラフである。
【図2】DHNAを高濃度に含有する本発明組成物を配合した乳飲料摂取から6時間後までに腹部の膨満感を訴えた回数を示すグラフである。
【図3】DHNAを高濃度に含有する本発明組成物を配合した乳飲料摂取から6時間後までに感じた鼓腸(ゴロゴロ感)を訴えた回数を示すグラフである。
【図4】DHNAの骨芽細胞石灰化能促進効果を示すグラフである。
【図5】DHNAの骨密度低下抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸又はその塩を有効成分として含有する代謝性骨疾患予防治療剤。
【請求項2】
1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸又はその塩が、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を産生する微生物を培養し、培養物中に1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を産生させ、これを採取することにより得られたものである請求項1記載の代謝性骨疾患予防剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−284449(P2007−284449A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193081(P2007−193081)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【分割の表示】特願2003−521851(P2003−521851)の分割
【原出願日】平成14年8月6日(2002.8.6)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】