説明

1,4−ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法

【課題】簡単な反応で低コスト大量生産可能なベンゼン環側鎖フッ素化方法を開示する。
【解決手段】1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法であって、以下の工程(反応II):(a)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン、触媒、非プロトン性極性溶媒、およびアルカリ金属フッ化物を混合して、反応混合物を形成する工程;(b)反応混合物を加熱する工程;および(c)得られた物を精製して、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを得る工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン交換反応のための方法に関し、より詳しくは、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの、簡単で高収率な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路技術の進歩に伴い、半導体部品は小型化および高速化に向けて設計される。チップの有限領域上にできるだけ多くの部品を配置するため、即ち、チップ上の部品の集積をアップグレードするため、2以上の金属相互接続層を要して、部品と外部環境との間のシグナルを伝送し、従って、相互接続を成すに充分な面積を提供し得る。従って、内部部品と外部環境との間の伝送速度は、ゲートのスイッチング速度よりむしろ、相互接続キャパシタンス、即ちRC遅延によって測定される。低誘電率の材料を使用することによりRC遅延を緩和し得るので、現在、多くの研究が低誘電率の材料の開発に関心を寄せている。
【0003】
現在、フッ素を含有する有機高分子は、その誘電率が低く、現在の半導体技術の工程に容易に使用されることから、幅広く用いられている。一般的に、有機材料の誘電率を低下させる方法は、物理的方法および化学的方法に分類し得る。物理的方法の場合、薄膜の厚さを増して誘電率を下げる。化学的方法に関しては、以下の通り、2つの一般的な方法がある。第一は、分子中のフッ素の量を増やすことであるが、フッ素原子を化学的方法によって分子のモノマー中に導入してフッ素量を増し、それにより、原子または分子充填密度を増す。第二は、自由体積を増やすことであり、容量の大きい原子または分子基を高分子膜中に導入して原子または分子充填密度を減じ、その結果誘電率が低下する。
【0004】
フッ素を含有する芳香族化合物のポリマーは、一般に、透明性、耐熱性および耐化学性、撥水性、低誘電率、低反射率等の、有利な特徴を有することから、ベイリー(Bailey)ら(J. Fluor. Chem., 1987年, 37巻: 1-14頁)は、4個のフッ素原子で置換したベンゼン環およびフッ素でも置換した側鎖を有する芳香族化合物の製造方法を開示している。具体的には、この方法では、p-キシレンのベンゼン環および側鎖を錯体金属フッ化物によってフッ素化する。フッ素化は、以下に記載した反応(I)の通り実施する。
【化1】

しかし、この方法自体、以下に記載する短所を有する:(1)CsFおよびCoF等の錯体金属フッ化物は非常に高価である;(2)ベンゼン環および側鎖水素のフッ素化は、高温条件下(360℃)で実施する必要がある;(3)気相フッ素化反応で実施するため、複雑な装置が必要である;および(4)種々の過剰な副生物により、精製が困難である。
【0005】
集積回路の製造技術は徐々にアップグレードしていることから、産業用のさらに誘電率の低い誘電材料の需要があり、産業競争力を高めるため、コストは相応であることが求められる。従って、簡単な反応で大量生産に使用し得る、低誘電率高分子のフッ素含有モノマーの製造方法を如何にして提供するかは、解決が待たれる現在の問題となっている。本発明は、簡単な反応で大量生産されるという前記の目的を達成する、1,4-ビス(ブロモジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの重要な前駆体である1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の欠点に鑑み、本発明は、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法を提供する。この方法により、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造コストを減じ、その工程を簡素化し得る。反応は、以下の反応(II)に示す、典型的なハロゲン置換である。
【化2】

【0007】
本発明は、以下の工程:
(a)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン、触媒、非プロトン性極性溶媒、およびアルカリ金属フッ化物を混合して、反応混合物を形成する工程;
(b)反応混合物を加熱して、反応を実施する工程;および
(c)反応混合物を精製して、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを得る工程
を含む、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法を提供する。
【0008】
本発明の方法では、工程(a)の各反応物質は、あらゆる順序で添加し得る。本発明の好ましい様相では、工程(a)は、以下の工程:
(a1)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン、触媒、および非プロトン性極性溶媒を反応器中で混合して、混合物を形成する工程;
(a2)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンが溶解するまで、混合物を過熱する工程;および
(a3)アルカリ金属フッ化物を混合物に添加して、反応混合物を形成する工程
を含み得る。
【0009】
本発明の方法では、工程(b)の反応時間は1〜48時間の範囲内であり得る。工程(b)の反応時間が2時間未満では、反応収率が比較的低い。工程(b)の反応時間が24時間を超える場合、反応収率は劇的には増加しない。従って、工程(b)の反応時間は、好ましくは2〜24時間の範囲である。
【0010】
本発明の方法では、工程(b)の反応温度は40〜120℃の範囲内であり得る。工程(b)の反応温度が50℃未満では、反応は遅くなる。工程(b)の反応温度が110℃を超えると、反応においてゴム化が容易に起こり得る。従って、工程(b)の反応温度は、好ましくは50〜110℃の範囲内である。
【0011】
本発明の方法では、触媒は相間移動触媒に属し得る。好ましくは、触媒は、第四アンモニウム塩、第四ホスホニウム塩、およびクラウンエーテルよりなる群から選択される少なくとも一つであり得る。
【0012】
本発明の方法では、一般的な第四アンモニウム塩を全て使用し得る。第四アンモニウム塩は、以下の式(III)で表される構造を有する:
【化3】

式中、XはCl、Br、またはIであり;R1、R2、R3、およびR4はアルキル基、アリール基またはそれらの組み合わせである。これらのアルキル基は、好ましくは、C1〜C8アルキル基である。これらのアリール基は、好ましくは、フェニル基またはベンジル基である。例えば、(CH3)4NCl、(C4H9)4NBr、C8H17(CH3)3NBr、C6H5(CH3)3NCl等であり、中でも塩化テトラメチルアンモニウム((CH3)4NCl)が最適である。
【0013】
本発明の方法では、一般的な第四ホスホニウム塩を全て使用し得る。第四ホスホニウム塩は、以下の式(IV)で表される構造を有する:
【化4】

式中、XはCl、Br、またはIであり;R1、R2、R3、およびR4はアルキル基、アリール基またはそれらの組み合わせである。これらのアルキル基は、好ましくは、C1〜C8アルキル基である。これらのアリール基は、好ましくは、フェニル基またはベンジル基である。例えば、 (Ph)4PBr, (C4H9)4PBr, (Ph)4PCl等であり、中でも臭化テトラフェニルホスホニウム((Ph)4PBr)が最適である。
【0014】
本発明の方法では、一般的なクラウンエーテルは全て使用し得る。例えば、12-クラウン-4-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、および18-クラウン-6-エーテルであり、中でも18-クラウン-6-エーテルが好ましい。
【0015】
本発明の方法では、一般的な非プロトン性極性溶媒は全て使用し得る。例えば、アセトニトリル、スルホラン、またはN,N-ジメチルホルムアミドであり、中でもアセトニトリルが好ましい。
【0016】
本発明の方法では、一般的なアルカリ金属フッ化物は全て使用し得る。例えば、LiF、NaF、KFおよびCsFであり、中でもKFまたはCsFが好ましい。
【0017】
本発明の方法では、アルカリ金属フッ化物のモル数は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンのモル数より1倍〜16倍の範囲内で大きく、好ましくは4〜8倍の範囲内である。
【0018】
本発明の方法では、触媒の量は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの1〜40重量%の範囲内であり、好ましくは4〜12重量%の範囲内である。
【0019】
本発明の方法では、工程(c)における精製は、反応混合物を濾過、抽出、蒸留、または昇華すること、またはそれらの組み合わせを含み得、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの精製には、昇華が最適である。
【0020】
本発明の他の目的、利点、および新規な特徴は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
[実施例1]
150mLの反応フラスコに、凝縮器および磁気加熱板/撹拌器を取り付けた。20g(0.063モル)の1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)、2gの18-クラウン-6-エーテル、および40mLのアセトニトリルを反応フラスコに加えた。温度が80℃に達し、上記の有機化合物が全て溶解するまで、油浴を加熱板/撹拌器によって加熱した。続いて、反応フラスコに60g(0.39モル)のCsFを加えた後、油浴の温度を100℃に上げた。6時間の反応を実施した後、生成物を分析したところ、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの転化率は92%以上に達した。粗生成物を濾過、抽出、蒸留、および昇華し、12gの純粋な1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを得た。得られた収率は76%であった。
【0022】
本実施例で得られた生成物は、化学分析により、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンであることが確認された。化学分析のデータを以下に記載する。
(a)質量スペクトル分析:M+ 250
(b)1H NMR (テトラメチルシラン、TMS):
ケミカルシフト 6.91ppm t、J=53.8
(c)19F NMR (CFCl3):
ケミカルシフト 143.3 ppm s (芳香族F)
115.8 ppm d, J= 53.8 (脂肪族F)
積分比(芳香族F/脂肪族F)=1/1
【0023】
[実施例2]
150mLの反応フラスコに、凝縮器および磁気加熱板/撹拌器を取り付けた。30g(0.095モル)の1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)、45gのKF、45.8gのスルホラン、および3gの臭化テトラフェニルホスホニウムを反応フラスコに加えた。加熱板/撹拌器を作動させ、油浴を125〜130℃の温度に設定して、48時間反応を行った。生成物の昇華を避け、反応フラスコがあふれ出さないよう、凝縮器の排出口をストッパーでふさぐこともできた。反応が完了した後、反応混合物を室温まで冷却した。続いて、反応混合物を濾過して、濾過固形物を得た。濾過固形物をCH2Cl2で洗浄し、減圧蒸留して、CH2Cl2および1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼン (DFMTFB)を得た。1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンは昇華し得、凝縮器で凝縮するので、粗生成物をCH2Cl2で洗浄して、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを回収した。CH2Cl2を除去した後、6.51gの1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを得たが、得られた収率は27.2%であった。
【0024】
本実施例で得られた生成物は、化学分析により、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンであることが確認された。化学分析のデータを以下に記載する。
(a)質量スペクトル分析:M+ 250
(b)1H NMR (テトラメチルシラン、TMS):
ケミカルシフト 6.92ppm t、J=53.8
(c)19F NMR (CFCl3):
ケミカルシフト 143.3 ppm s (芳香族F)
115.8 ppm d, J= 53.8 (脂肪族F)
積分比(芳香族F/脂肪族F)=1/1
【0025】
[実施例3〜10]
5.00g(0.063モル)の1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)、0.50gの臭化テトラフェニルホスホニウム(PTC(Br))、8.50gのKF、および30gのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を反応フラスコに加えた。油浴を120℃に加熱し、撹拌器で撹拌して、17時間、反応を行った。生成物をガスクロマトグラフィー(GC)で分析して、化合物4F/2F/DCMTFB=20.7/47.2/22.1(GC面積%)を得た。化合物4F(式(1))、3F(式(2))、2F(式(3))、1F(式(4))およびDCMTFB(式(5))をそれぞれ以下の式(1)〜(5)で表す。
【化5】

【0026】
実施例4〜10の方法は全て、実施例3と同様の方法で実施した。実施例3〜10の反応物質の量、反応条件、およびGCの結果は全て、表1に記載した通りである。
【0027】
本発明の好ましい態様に関して説明したが、以下に特許請求した通りの本発明の範囲を逸脱することなく、多数の他の可能な改変または変化がなされ得ることを理解すべきである。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン、触媒、非プロトン性極性溶媒、およびアルカリ金属フッ化物を混合して、反応混合物を形成する工程;
(b)反応混合物を加熱して、反応を実施する工程;および
(c)反応混合物を精製して、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンを得る工程
を含む、1,4-ビス(ジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、工程(a)が、以下の工程:
(a1)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン、触媒、および非プロトン性極性溶媒を反応器中で混合して、混合物を形成する工程;
(a2)1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンが溶解するまで、混合物を過熱する工程;および
(a3)アルカリ金属フッ化物を混合物に添加して、反応混合物を形成する工程
を含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、工程(b)の反応時間が1〜48時間の範囲内である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、工程(b)の反応温度が40〜160℃の範囲内である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、触媒が、第四アンモニウム塩、第四ホスホニウム塩、およびクラウンエーテルよりなる群から選択される少なくとも一つである、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、第四アンモニウム塩が塩化テトラメチルアンモニウムである、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、第四ホスホニウム塩が、臭化テトラフェニルホスホニウムである、方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、クラウンエーテルが18-クラウン-6-エーテルである、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、非プロトン性極性溶媒が、アセトニトリル、スルホラン、またはN,N-ジメチルホルムアミドである、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、アルカリ金属フッ化物がKFまたはCsFである、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、アルカリ金属フッ化物のモル数が、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンのモル数より1倍〜16倍の範囲内で大きい、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、触媒の量が、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの1〜40重量%の範囲内である、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、工程(c)における精製が、反応混合物を濾過、抽出、蒸留、および昇華することである、方法。

【公開番号】特開2010−150214(P2010−150214A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−332178(P2008−332178)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509004044)ユアン シン マテリアルズ テクノロジー コーポレイション (4)
【出願人】(509002431)チュン シャン インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー アーマメンツ ビューロー エムエヌディー (4)
【Fターム(参考)】