説明

1,4−ブタンジオールの製造方法

【課題】THF製造用原料として優れた高品質の1,4BGを安定的に製造するための工業的に有利な1,4−ブタンジオールの製造方法を提供する。
【解決手段】1,4−ブタンジオールを70.0重量%以上、99.4重量%未満含有するpH7.01以上の粗1,4−ブタンジオールを酸と接触させ、得られる粗1,4−ブタンジオール含有液を蒸留することによりpH5.5以上6.99以下の精製1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,4−ブタンジオールの製造方法に関する。より詳細には、粗1,4−ブタンジール含有組成物から、より高品質で高純度の1,4−ブタンジオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ブタンジオール(以下、「1,4BG」と略記することがある)は工業用溶剤、あるいは、様々な用途や誘導体の原料として使用される極めて有用な物質であることが知られている。具体的に、例えば、1,4BGを原料として得られるテトラヒドロフランは、一般的には溶剤として使用されるが、ポリエーテルポリオール(具体的には、ポリテトラメチレンエーテルグリコール)の原料としても使用される。また、1,4BGはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを製造する際の原料モノマーとしても使用される。
【0003】
1,4BGを工業的に製造する各種方法は従来から開発されており、例えば、ブタジエンを原料として、原料ブタジエン、酢酸及び酸素を用いてアセトキシ化反応を行って中間体であるジアセトキシブテンを得て、そのジアセトキシブテンを水添、加水分解することで1,4−ブタンジオールを製造する方法(特開昭52−7909号公報)、マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料として、それらを水素化して1,4−ブタンジオールを含む粗水素化生成物を得る方法(特許公報2930141号公報)、アセチレンを原料してホルムアルデヒド水溶液と接触させて得られるブチンジオールを水素化して1,4BGを製造する方法(特公昭62−4174号公報)などが挙げられる。
【0004】
これらの方法によって製造されるものは、主成分として1,4BGを含む混合物であるが、1,4BG以外にも未反応の原料や反応工程の途中の処理で混入する不純物や副生物などを多く含む粗製の1,4BGであり、製品1,4BGとして使用するには純度や品質の観点から十分ではないため、粗製の1,4BGから高品質の1,4BGを得るために、例えば、特開昭58−121228号公報には、粗製の1,4BG中に含まれる着色物質またはその前駆体並びに水を、低圧下の蒸留とフラッシュ蒸留の2段階の工程によって除去する方法が記載されている。また、特公昭62−54778号公報には、副生物を抑制するために、1,4BGを製造する原料に塩基性の成分を含むように処理したものを反応させて粗1,4BGを製造して、更に1,4BGを精製することで、高い収率で品質の良い1,4BGを得ることが記載されている。
【0005】
一方、特表2006−503050号公報には、ヘテロポリ酸触媒を用いて1,4BGを含有する反応混合物からテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある)を製造する際に、1,4BGを含有する反応混合物中の塩基性窒素成分を1ppm未満とすれば、触媒の寿命が高くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−7909号公報
【特許文献2】特許第2930141号公報
【特許文献3】特公昭62−4174号公報
【特許文献4】特開昭58−121228号公報
【特許文献5】特公昭62−54778号公報
【特許文献6】特表2006−503050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献に記載のように、粗製の1,4BGを蒸留したり、塩基性物質で処理したりすることで、純度の高い高品質の製品1,4BGを得ることが出来るが、製品1,4BGのpHが高くなることがあった。そして、そのpHが高い製品1,4BGをTHF製造用原料として用いると、THF製造時の酸触媒を劣化させるという問題があり、特表2006−503050号公報には、1,4BGのpHを高くする要因の一つである塩基性窒素成分を1ppm未満にすれば、触媒の寿命が延びることが記載されているが、具体的な塩基性窒素成分が制御された1,4BGを得ることや1,4BGのpHを制御することについては記載されていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、従来の製法によって製造された粗1,4BGから、THF製造用原料として優れた高品質の1,4BGを安定的に製造するための工業的に有利な1,4−ブタンジオールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、pH7.5以上の粗1,4BGは酸と接触させ、その後蒸留することで窒素含有化合物の量を低減し、pH上昇を回避して、1,4−ブタンジオール製造における品質悪化を回避できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下の[1]〜[6]を要旨とする。
[1]1,4−ブタンジオールを70.0重量%以上、99.4重量%未満含有するpH7.01以上の粗1,4−ブタンジオールを酸と接触させ、得られる粗1,4−ブタンジオール含有液を蒸留することによりpH5.5以上6.99以下の精製1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。
[2]前記粗1,4−ブタンジオール含有液を蒸留する前に、予めガンマブチロラクトンよりも沸点が低い化合物を粗1,4−ブタンジオールから分離する工程を更に有することを特徴とする[1]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
[3]前記粗1,4−ブタンジオールが下記式(1)で示される中心骨格を有する窒素含有化合物を、窒素原子換算量で3重量ppm以上、50重量ppm以下含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
(上記式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていても良い。また、RとR、RとR、RとRはそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。)
[4]前記式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基、又はアミノ基であることを特徴とする[3]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
[5]前記粗1,4−ブタンジオールが水分を0.1重量%以上25重量%以下含有する
ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
[6]前記粗1,4−ブタンジオールがガンマブチロラクトンを100重量ppm以上、5重量%以下含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塩基成分を用いる1,4−ブタンジオールを製造する方法において、pH上昇による品質悪化を回避して安定に運転を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明で使用する粗1,4BGは、従来から公知である製法で得ることが可能である。例えば、原料ブタジエン、酢酸及び酸素を用いてアセトキシ化反応を行って中間体であるジアセトキシブテンを得て、そのジアセトキシブテンを水添、加水分解することで得る粗1,4BG、マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料として、それらを水素化して得られる粗1,4BG、アセチレンを原料してホルムアルデヒド水溶液と接触させて得られるブチンジオールを水素化して得られる粗1,4BG、プロピレンの酸化を経由して得られる粗1,4BG、発酵法により得たコハク酸を水添した粗1,4BG、糖などのバイオマスから直接発酵により得た粗1,4BGなどである。これら粗1,4BG中には、1,4BGが主成分として含まれており、70.0重量%以上であり、好ましくは、80重量%以上、更に好ましくは、90重量%以上である。この数値が大きくなるほど、蒸留などの粗1,4BGの精製工程の負荷が軽減される傾向にある。また、一方、粗1,4BG中の1,4BGの濃度としては、99.4重量%未満、好ましくは99.3重量%未満、更に好ましくは99.2重量%未満である。この数値が小さくなるほど、粗1,4BGを生成する反応器及び蒸留など分離工程の負荷が軽減される傾向にある。尚、粗1,4BGは上述の各製法での反応器出口の液をそのまま用いても差し支えないが、通常は後工程の負荷を軽減するためにも、反応器出口液から蒸留などいくつかの精製工程を経由して得られるものを用いてもよい。
【0014】
本発明の粗1,4BGのpHは7.01以上であるが、上述の各種製法で直接得られる粗1,4BGがpH7.01以上のものを選択取得して使用してもよいが、得られる粗1,4BGに塩基成分を添加したり、固体塩基と接触させたりして得られるものを用いてもよい。中でも、上述の各種製法で得られる粗1,4BGを、その中に含まれる不純物を除去するために陰イオン交換樹脂などの固体塩基分と接触させて得られるpH7.01以上の粗1,4BGを使用することが好ましい。
【0015】
本発明では使用する粗1、4−ブタンジオールのpHは7.01以上であり、塩基成分により、pH7.01以上とすることが可能である。塩基成分はナトリウム、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属類、アルカリ土類金属類でもよいが、好ましくは窒素含有化合物である。特に沸点が100℃以上、300℃以下の窒素含有化合物を含むことが好ましく、更に好ましくは沸点150℃以上、250℃以下の窒素含有化合物である。
【0016】
本発明の粗1,4−ブタンジオール中に含まれる窒素含有化合物は、下記式(1)で示される中心骨格を有することが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
なお、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていても良い。また、R〜Rは同一でも異なっていてもよいが、R〜Rが全て水素原子である場合は除く。
【0019】
また、R〜Rは、THF製造時などの触媒の劣化の影響が大きいという観点から、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基又はアミノ基であることが好ましい。この場合、R〜Rは同一でも異なっていてもよいが、R〜Rが全て水素原子である場合は除く。
アルキル基としては、鎖状(直鎖又は分岐)アルキル基又は環状アルキル基であり、鎖状アルキル基の場合は、通常、炭素原子数1〜20であり、好ましくは1〜12であり、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。また、環状アルキル基の場合、通常、炭素原子数3〜20であり、好ましくは4〜11である。その具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等である。アルキル基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0020】
アルケニル基としては、鎖状(直鎖又は分岐)アルケニル基又は環状アルケニル基であり、鎖状アルケニル基の場合は、通常、炭素原子数1〜20であり、好ましくは1〜12であり、その具体例としては、例えばエテニル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等などが挙げられる。また、環状アルキル基の場合、通常、炭素原子数3〜20であり、好ましくは4〜11である。その具体例としては、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等である。アルケニル基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0021】
アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、メシチル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、イソキサゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、チエニル基、チオフェニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、ピロリル基、ピラニル基、フリル基、フラザニル基、イミダゾリ
ジニル基、イソキノリル基、イソインドリル基、インドリル基、キノリル基、ピリドチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、ベンゾフラニル基、イミダゾピリジニル基、トリアゾピリジニル基、プリニル基等が挙げられ、炭素数が通常5〜20であり、好ましくは5〜12であり、酸素、窒素、硫黄等を含有するヘテロアリール基を含む。アリール基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアシル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリーロキシ基、炭素数7〜12のアルキルアリール基、炭素数7〜12のアルキルアリーロキシ基、炭素数7〜12のアリールアルキル基、炭素数7〜12のアリールアルコキシ基、ヒドロキシ基、などが挙げられる。また、この置換基中に更に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。具体例としては、フェニル基、ベンジル基、メシチル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−アミノフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基などである。
【0022】
アシル基としては、通常、炭素原子数1〜20であり、好ましくは1〜10である。その具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル 基、ブチリル基、イソブチ
リル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、 モノクロロアセチル基、トリク
ロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、フタロイル基などが挙げられる。アシル基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0023】
アルコキシ基としては、通常、炭素原子数1〜20であり、好ましくは1〜12である。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、などが挙げられる。アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0024】
アミノ基としては、通常、炭素原子数0〜20であり、好ましくは0〜12である。その具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ジフェニルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基などが挙げられる。アミノ基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基など
が挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0025】
アルキルチオ基としては、通常、炭素原子数1〜20であり、好ましくは1〜12である。その具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基などが挙げられる。アルキルチオ基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0026】
アリールチオ基としては、通常、炭素原子数6〜20であり、好ましくは6〜12である。その具体例としては、フェニルチオ基、トリルチオ基などが挙げられる。アリールチオ基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく特に限定されないが、例えば、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、スルフィド基などが挙げられ、通常、分子量が200程度以下のものを用いる。また、この置換基中に、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子が含まれているものであってもよい。
【0027】
また、RとR、RとR、RとRはそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。
式(1)で示される中心骨格を有する窒素含有化合物の具体的な化合物としては、THF製造時などの触媒の劣化の影響が大きいという観点から窒素含有化合物の塩基性が高いものが好ましく、例えば、オクチルアミン、ノニルアミン、1−アミノデカン、アニリン、フェネチルアミン等の1級アミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルアニリン等の2級アミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の3級アミン、1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン等のジアミン、N−ブチルピロール、N−ブチル−2,3−ジヒドロピロール、N−ブチルピロリジン、2,3−ジヒドロ−1H−インドール等の5員環アミン、4−アミノメチルピペリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、4−アミノ−5,6−ジヒドロ−2−メチルピリミジン、2,3,5,6−テトラメチルピラジン、3,6−ジメチルピリ
ダジン等の6員環アミンなどが好ましく、更に酸素原子を含むものとしては、4−アミノブタノール、2−アミノブタノール等の鎖状アミノアルコール、2−エチルモルホリン、N−メトキシカルボニルモルホリン、プロリノール、3−ヒドロキシピペリジン、4−ヒドロキシピペリジン、テトラヒドロフルフリルアミン、3−アミノテトラヒドロピラン等の環状アミンが好ましい。更に好ましくは、プロリノール、3−ヒドロキシピペリジン、4−アミノブタノール、テトラヒドロフルフリルアミンなどのアミノアルコール又は環状構造を持つアミンである。
【0028】
また、本発明の粗1,4−ブタンジオールに含まれる窒素含有化合物は一種類であっても二種類以上あってもよい。これらの濃度もpH7.01以上であれば任意であるが、好ましくは3重量ppm以上、1重量%以下、特に好ましくは5重量ppm以上、1000重量ppm以下である。
本発明で使用する粗1,4−ブタンジオールはpH7.01以上を必須としている。pHは好ましくは7.01以上、13以下が好ましい。より好ましくはpH7.1以上、pH11以下である。pH7.01未満の場合には、本発明によるpH低減の効果がほとんど得ることはできない。pHが高すぎた場合には、本発明で使用する酸量が増大し、また蒸留塔も長大な設備となってしまい、費用が甚大なものとなってしまう。
【0029】
粗1,4BGは1,4−ブタンジオールを主成分とするが、水分を0.1重量%以上含むことが好ましく、更に好ましくは0.3重量%以上である。この値が大きくなるほど、陰イオン交換樹脂などの固体塩基と接触させた場合に塩基分の溶出を加速してpH上昇を促進する傾向にある。一方、粗1,4BG中の水分濃度は、25重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以下である。この値が小さくなるほど、塩基分の溶出を低減して、本発明で示すpH低減工程の負荷を低減できる傾向にある。なお、この水分は粗1,4−ブタンジオール製造時に使用される溶媒や、粗1,4BG製造用の原料となる酢酸エステル類などで加水分解した際に発生する水分が混入する残分であってもよい。
【0030】
また、粗1,4BG中のガンマブチロラクトンを100重量ppm以上、5重量%以下含むことが好ましく、より好ましくは200重量ppm以上、3重量%以下であり、特に好ましくは500重量ppm以上、2重量%以下である。また、ガンマブチロラクトンの濃度が高すぎた場合には、蒸留塔の分離負荷が増大してしまう。ガンマブチロラクトンは1,4−ブタンジオールと分離可能な成分であるが、塩基条件下で加水分解されることで4−ヒドロキシ酪酸及びその塩を形成する。この4−ヒドロキシ酪酸及びその塩は、蒸留塔などの1,4−ブタンジオールの精製工程で再度ガンマブチロラクトンと水を形成することがあり、水分混入など1,4−ブタンジオールの純度低下を起こすことがある。精製1,4BGのpHを6.9以下とすることでガンマブチロラクトンの加水分解は大幅に低減することが可能である。粗1,4BG中には水分、ガンマブチロラクトン以外にも各種成分を含有することが可能である。1,4−ブタンジオールの酢酸エステル類、テトラヒドロフラン、ジヒドロフラン、酢酸などの有機酸類、ジブチレングリコールなどの1,4−ブタンジオール由来のオリゴマー類などを含有していても差し支えない。
【0031】
本発明では酸類の使用が必須である。有機酸、無機酸、固体酸など各種酸を使用可能であるが、好ましくは有機酸と固体酸であり、特にpKaが4以下の酸の使用が好ましい。具体的には、スルホン酸を有する陽イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸、有機スルホン酸であり、特に好ましくは陽イオン交換樹脂、パラトルエンスルホン酸である。酸を添加あるいは接触させる設備は特に限定されるものではなく、陽イオン交換樹脂などの固体酸を充填した固定床設備、固体触媒を用いた懸濁床設備、原料に溶解可能な均一系酸触媒を用いた槽型、あるいは管型の設備を使用することができる。酸の添加あるいは接触温度は任意であるが、好ましくは0℃以上、200℃以下であり、更に好ましくは20℃以上、150℃以下であり、特に好ましくは35℃以上、80℃以下である。酸の添加あるいは接触時の温度が低すぎた場合には、pH低減の効果を得ることができず、温度が高すぎた場合には、テトラヒドロフランなどの軽沸点副生物の生成が甚大なものとなってしまう。酸との共存、接触に必要な時間は1分以上、100時間以下が好ましく、更に好ましくは5分以上、10時間以下である。特に好ましくは、10分以上、1時間以下である。酸との共存あるいは接触時間が短すぎた場合には、pH低減の効果が少なくなってしまう。また、長すぎた場合には設備が長大なものとなってしまう。酸の添加量は粗1,4BGに対して通常100重量%以下、1重量ppm以上であり、好ましくは50重量%以下、100重量ppm以上であり、特に好ましくは30重量%以下、1000重量ppm以上である。また、陽イオン交換樹脂のような固体酸を固定床反応器に充填して、粗1,4BGを流通させる場合には、固体酸の容量に対して、1,4BGの単位時間当たりの流量を10000hr−1以下、0.01hr−1以上が好ましく、更に好ましくは1000hr−1以下、0.1hr−1以上であり、特に好ましくは、500hr−1以下、1hr−1以上である。
【0032】
酸接触後の1,4BG含有液はpH7.01以上の粗1,4BGと同様に、1,4−ブタンジオールを主成分として70重量%以上含有する液である。また、粗1,4BGに比べpHが低減しているものである。1,4BG含有液のpHの範囲は、通常3以上、6.
99以下であり、好ましくは4以上、6.8以下である。更に好ましくは、4.5以上、6.5以下である。このpHが低すぎると、酸の使用量が過大であり、続く蒸留工程での分離負荷が増大してしまう。また、このpHが高すぎると、酸との接触が不十分であり、蒸留を実施しても塩基分を除去できない可能性が高い。
【0033】
本発明では1,4BGを主成分として70重量%以上含有するpH7.01以上の液を酸と接触させた後の蒸留精製を必須としている。酸接触だけではpH改善効果は不十分であり、酸接触後に蒸留により留出して精製することで、pH改善を充分に行うことができる。本蒸留には充填塔、棚段塔などの蒸留塔を使用可能である。充填塔、棚段塔などの段数は任意であるが、通常理論段として1段以上、100段以下が好ましく、特に好ましくは2段以上、20段以下である。これ以上の段数では塔が大きくなりすぎ、設備建設のための経済性が悪化してしまう。また、側留として1,4BGを留出させることも好ましい。側留の抜き出し位置は任意であるが、該液の蒸留塔への導入段よりも上部であることが好ましい。塔頂からは水分、及び1,4BGよりも軽沸成分を留出させることが好ましい。蒸留の際の圧力は常圧あるいは減圧条件下が好ましく、更に好ましくは絶対圧として0.01kPa以上、760kPa以下が好ましく、特に好ましくは0.1kPa以上、400kPa以下である。圧力が高すぎると塔底の温度が高くなりすぎて1,4BGの分解が進行してしまう。また、圧力が低すぎた場合には設備が非常に高価なものとなってしまう。本発明での蒸留塔の塔底内液の温度は80℃以上、230℃以下が好ましく、特に好ましくは100℃以上、180℃以下である。塔底の温度が高くなりすぎると、1,4BGの分解が進行してしまう。塔底の温度が低すぎると、塔内圧力を大きく減圧にする必要があり、蒸留設備が非常に高価なものとなってしまう。
【0034】
本発明で得られる精製1,4BGはpH5.5以上、6.99以下の1,4BGを主成分として含有する液である。また、本発明で得られる精製1,4BGは、粗1,4BGよりも窒素含有化合物の濃度が低いものである。具体的には、0.01重量ppm以上、5重量ppm以下であり、より好ましくは0.1重量ppm以上、3重量ppm以下であり、特に好ましくは0.2重量ppm以上、1重量ppm以下である。この濃度を更に低くするには、蒸留時の還流比増などが必要となり、コストの悪化原因となる。1,4BGの純度は70重量%以上であり、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは99重量%以上、99.99重量%以下である。
【0035】
本発明で得られたpHを低減した1,4BGは酸触媒の存在下で変換される誘導品である、テトラヒドロフラン、ポリエステルの原料として有用である。また、1,4BGの脱水素によるガンマブチロラクトン製造時の原料としても有用である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、水分の分析は三菱化学アナリテック社製微量水分測定装置CA−21型でカールフィッシャー法を用いて行った。
テトラヒドロフランの分析は島津社製ガスクロマトグラフィーGC−2014、Agilent Technologies社製カラムDB−1により行い、面積百分率により算出した。尚、100重量%から水分濃度を差し引いた値を算出し、残る重量%分をガスクロマトグラフィーの各成分の面積百分率により計算した。
【0037】
pHの測定には東亜ディーケーケー株式会社製pHメータ− HM−25G、電極GS
T−5721Cを用いて実施した。pHは、試料10.0gをpH7.0に調整した、イソプロピルアルコールと水を容量比10対6で混合した中性溶剤60ccに溶解し、1、4−ブタンジオール水溶液として、25℃で測定した。
窒素含有化合物の窒素原子換算の濃度(以下、「窒素濃度」)の測定は、試料をアルゴン・酸素雰囲気内で燃焼させ、発生した燃焼ガスを燃焼・減圧化学発光法を用いた微量窒素計(三菱化学アナリテック社製、TN−10型)により行った。
【0038】
<製造例1>
粗1,4BGの調製
温水を流通させて加熱できるジャケット付きの容積500ccのガラス製クラマトグラフ管に、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン製、WA20)を300cc充填し、このガラス製クロマトグラフ管にガンマブチロラクトンを0.10重量%含む市販の1,4−ブタンジオールを215g/hr(210cc/hr)で流通させた。空間速度は0.70h−1であった。この際、陰イオン交換樹脂と市販の1,4BGとの接触温度は55℃、圧力は常圧であった。
【0039】
流通後に得られた粗1,4BGのpHを測定した結果、pHは7.80、水分濃度は0.36重量%、粗1,4BG中の1,4BGの濃度は99.18重量%、ガンマブチロラクトンの濃度は0.10重量%であった。尚、窒素濃度は12重量ppmであった。
<実施例1>
ガラス製の200ccフラスコに、製造例1で得られた粗1,4BG100g、陽イオン交換樹脂(ダイヤイオン製、PK216LH)を30cc(23.5g)仕込み(1,4BGに対して23.5重量%)、オイルバスを使用してフラスコ内の温度を40℃まで加熱した。フラスコ内の液を1時間撹拌し、液温度が40℃に安定した後、ろ紙を用いてフラスコ内の内液から陽イオン交換樹脂をろ別分離した。バッチ形式ではあるが、空間速度を求めると0.30h−1であった。ここで得られた粗1,4BG含有液のpHは4.98、水分の濃度は0.73重量%、1,4BGの濃度は98.74重量%であった。
【0040】
留出のためのガラス製の冷却管を設置したガラス製の200ccフラスコに、上記操作で得た粗1,4BG含有液111.0gを仕込み、圧力0.2kPa、フラスコ内温度102℃にて単蒸留を実施した。その結果、58.5gの精製1,4BGを留出液として得た。フラスコ内に残った残液は51.7gであった。留出液である精製1,4BGのpHは6.13であり、1,4BGの濃度は99.18重量%であり、水分濃度は1.76重量%であり、ガンマブチロラクトンの濃度は0.14重量%であった。尚、窒素濃度は0.13重量ppmであった。
【0041】
<実施例2>
実施例1において、粗1,4BG含有液を予め粗1,4BG含有液からガンマブチロラクトンを含む軽沸点成分を分離した後に単蒸留した以外は全て同様に実施した。分離した液のpHは5.52であり、水分を5.66重量%、ガンマブチロラクトン0.44重量%含有していた。1,4−ブタンジオールの濃度は93.23重量%であった。留出液である精製1,4BGの1,4BGの濃度は99.44重量%、pHは6.38であり、水分は302.9重量ppm、ガンマブチロラクトン含有濃度は0.02重量%であった。尚、窒素濃度は0.10重量ppmであった。
【0042】
<比較例1>
実施例1において、製造例1で得た粗1,4BGを陽イオン交換樹脂と接触することなく、そのまま単蒸留した以外は全て同様に実施した。1,4−ブタンジオールのpHは6.88であり、水分含有濃度は0.79重量%であり、ガンマブチロラクトン含有濃度は0.15重量%であった。この際、1,4ブタンジオールの純度は99.28重量%であ
った。尚、留出液の窒素濃度は6.09重量ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールを70.0重量%以上、99.4重量%未満含有するpH7.01以上の粗1,4−ブタンジオールを酸と接触させ、得られる粗1,4−ブタンジオール含有液を蒸留することによりpH5.5以上6.99以下の精製1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記粗1,4−ブタンジオール含有液を蒸留する前に、予めガンマブチロラクトンよりも沸点が低い化合物を粗1,4−ブタンジオールから分離する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記粗1,4−ブタンジオールが下記式(1)で示される中心骨格を有する窒素含有化合物を、窒素原子換算量で3重量ppm以上、50重量ppm以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【化1】

(上記式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていても良い。また、RとR、RとR、RとRはそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。)
【請求項4】
前記式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基、又はアミノ基であることを特徴とする請求項3に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項5】
前記粗1,4−ブタンジオールが水分を0.1重量%以上25重量%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項6】
前記粗1,4−ブタンジオールがガンマブチロラクトンを100重量ppm以上、5重量%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。

【公開番号】特開2013−32341(P2013−32341A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144393(P2012−144393)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】