説明

1,5−ジアミノナフタレンの製造方法

【課題】異性体の1,8−ジアミノ体を副生せず、かつ中間体として比較的不安定なニトロイミン/ニトロエナミンを経由することなく1,5−ジアミノナフタレンを工業的に有利に製造する新規な方法を提供すること。
【解決手段】5−ニトロ−1−テトラロンのハロゲン化、脱ハロゲン化水素を行なうことにより多量の貴金属触媒を使用することなく芳香族し、次いで還元、アミノ化することにより1,5−ジアミノナフタレンを工業的に有利に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,5−ジアミノナフタレンの製造方法に関する。1,5−ジアミノナフタレンは種々の合成樹脂の原料となる化合物として有用であり、特に該化合物より得られる1,5−ナフタレンジイソシアネートは優れた物性を示すポリウレタンの原料モノマーとして極めて有用であり、工業的に非常に重要な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来から1,5−ジアミノナフタレンは、ナフタレンをジニトロ化してジニトロナフタレンとし、その後ニトロ基をアミノ基に還元して製造されている。しかし、ナフタレンのジニトロ化反応では目的とする1,5−ジニトロ体以外に1,8−ジニトロ体が多量に生成する。例えば、反応中に生成した水を共沸混合物として蒸留除去しながらナフタレンをニトロ化する方法が開示されているが、1,5−ジニトロ体の収率が30%であるのに対し、1,8−ジニトロ体の収率は65%となり、1,5−ジニトロ体の2倍以上の1,8−ジニトロ体が生成する(特許文献1)。1,8−ジニトロ体は染料などの原料としての用途がある化合物ではあるが、1,8−体の需要が少ない場合には、1,5−体の生産量も連動するため必要量の1,5−ジアミノナフタレンを製造することが困難になる。
【0003】
かかる欠点を克服する方法として、オルトニトロトルエンとアクリロニトリルを反応させて4−(2−ニトロフェニル)ブチロニトリルとした後これを環化して得られるニトロイミンおよび/またはニトロエナミンを芳香族化して5−ニトロ−1−ナフチルアミンまたは5−ニトロソ−1−ナフチルアミンを得た後、これを水素化して1,5−ジアミノナフタレンを製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかし、この方法においては、中間体として比較的不安定なニトロイミン/ニトロエナミンを経由する点で有利な方法とはいえない。
【0005】
また、ニトロイミン/ニトロエナミンを経由しない製造方法として5−置換−1−テトラロンを脱水素してナフトール化合物とした後、水酸基のアミノ化を行なう方法が提案されている(特許文献3)。しかしこの方法ではナフトール化合物を得る際に高価な貴金属触媒を多量に使用する必要がある。
【特許文献1】特開昭51−070757号公報
【特許文献2】US2002/0103401号公報
【特許文献3】US2004/0143137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、1,5−ジアミノナフタレンの工業的に有利な製造方法を提供することにある。また、本発明の別の課題は、該1,5−ジアミノナフタレンを製造するための中間体に適した新規な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化を行なう際に、2位のハロゲン化及び脱ハロゲン化水素を行なうことで中間体である5−ニトロナフトール類を工業的に有利に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1) 5−ニトロ−1−テトラロンの2位に少なくとも1つハロゲン原子を有する化合物を脱ハロゲン化水素し、次いで還元して5−アミノ−1−ナフトールを得た後、さらに水酸基のアミノ化を行なう工程を含む1,5−ナフタレンジアミンの製造方法。
(2) 5−ニトロ−1−テトラロンの2位に少なくとも1つハロゲン原子を有する化合物が、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロン、2−ブロム−5−ニトロ−1−テトラロン、2−ヨード−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジブロム−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジヨード−5−ニトロ−1−テトラロンからなる群から選択される少なくとも1種である(1)記載の方法。
(3) 2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンを脱ハロゲン化水素して2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールを製造し、次いで該2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールを還元して5−アミノ−1−ナフトールを得た後、さらに水酸基のアミノ化を行なう工程を含む(1)記載の方法。
(4) 脱ハロゲン化水素を行なう際に塩基を添加することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン。
(6) 2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトール。
(7) 5−ニトロ−1−テトラロンを次亜塩素酸塩により塩素化を行なうことを特徴とする2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの製造方法。
(8) 塩素化を行なう際に、pHを7から12の範囲に保ちながら反応を行うことを特徴とする(7)記載の方法。
(9) 2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの脱塩化水素を行なうことを特徴とする2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多量の貴金属触媒を用いることなく5−ニトロ−1−テトラロンから5−ニトロ−1−ナフトール類を製造することにより、ポリウレタンの原料モノマー等として有用な1,5−ジアミノナフタレンを工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する5−ニトロ−1−テトラロンを得る方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、5−ニトロ−1−テトラロンを得る方法としては、α−テトラロンのニトロ化を行なう方法、1−ニトロテトラリンを酢酸中で三酸化クロムを作用させて酸化する方法、オルトニトロトルエンとアクリロニトリルを反応させて4−(2−ニトロフェニル)ブチロニトリルとした後これを環化して得られるニトロイミンおよび/またはニトロエナミンを加水分解して5−ニトロ−1−テトラロンに変換する方法、オルトニトロトルエンとアクリル酸エステルを反応させて4−(2−ニトロフェニル)ブタン酸エステルとした後これを環化する方法等により得ることができる。
【0011】
本発明における1,5−ジアミノナフタレンを製造するプロセスとして好ましい態様は、以下の通りである。
(1) 5−ニトロ−1−テトラロンのハロゲン化を行ない、2−ハロ−5−ニトロ−1−テトラロン又は2,2−ジハロ−5−ニトロ−1−テトラロンを製造し、
(2) 得られた2−ハロ−5−ニトロ−1−テトラロン又は2,2−ジハロ−5−ニトロ−1−テトラロンの脱ハロゲン化水素を行ない5−ニトロ−1−ナフトール又は2−ハロ−5−ニトロ−1−ナフトールとし、
(3) 5−ニトロ−1−ナフトール又は2−ハロ−5−ニトロ−1−ナフトールの還元を行なって5−アミノ−1−ナフトールを得た後に水酸基のアミノ化を行って1,5−ジアミノナフタレンを製造する。
【0012】
以下、各工程について説明する。
[5−ニトロ−1−テトラロンのハロゲン化]
第一工程では5−ニトロ−1−テトラロンのハロゲン化を行ない2−ハロ−5−ニトロ−1−テトラロン又は2,2−ジハロ−5−ニトロ−1−テトラロンを製造する。この工程では脂環族ケトン類をハロゲン化する公知の方法を使用することができ、例えば、5−ニトロ−1−テトラロンにハロゲン化剤を接触させることにより行うことができる。
【0013】
ハロゲン化剤としては、例えば塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸及び次亜塩素酸塩類、次亜臭素酸および次亜臭素酸塩類などが使用できる。使用量は、原料に対し1モル倍から5モル倍程度が好ましく、より好ましくは1モル倍から2.1モル倍である。
【0014】
反応の方法は、例えばハロゲン化剤として塩素、臭素、ヨウ素を用いる場合、ハロゲン化を受けにくい溶媒に5−ニトロ−1−テトラロンを溶解した後、ハロゲン化剤を装入する方法が挙げられる。
反応で用いる溶媒としては、例えば、水;ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒;メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸などの有機酸;DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)などの極性溶媒などが挙げられる。用いられる溶媒の量は特に制限されないが、容積効率及び攪拌効率を考慮すると原料に対し1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍である。
【0015】
ハロゲン化剤として次亜塩素酸、次亜塩素酸塩類、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩類等(以下、これらを総称して次亜ハロゲン酸塩類という。)を用いる場合には、次亜ハロゲン酸塩類の水溶液中に5−ニトロ−1−テトラロンを装入するのが好ましい。
これらのハロゲン化剤を用いた場合にはハロゲン化剤の量が1モル倍以下でも2,2−ジハロ−5−ニトロ−1−テトラロンが主生成物として得られるが、以降の工程を実施する上で何ら問題はない。水溶液のpHを7から12の範囲に保持するのが反応速度、副反応の抑制の点から好ましく、さらに好ましくはpH9から11の範囲である。
反応温度は0℃から100℃が好ましく、より好ましくは20℃から80℃である。
反応圧力は大気圧から1MPaが好ましく、より好ましくは大気圧から0.5MPaである。
【0016】
[5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化]
第二工程では2−ハロ−5−ニトロ−1−テトラロンまたは2,2−ジハロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化を行ない5−ニトロ−1−ナフトール又は2−ハロ−5−ニトロ−1−ナフトールを製造する。この工程では、該ハロゲン化ニトロテトラロン類を加熱して脱ハロゲン化水素することにより芳香族化を行なうが、その際に、酸又は塩基を触媒として添加することが好ましく、塩基を添加することがより好ましい。
【0017】
塩基触媒としては、無機塩基、有機塩基のいずれも用いることができるが、有機塩基を用いるのが好ましく、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンなどの三級アミン類を用いるのがより好ましい。三級アミンとハロゲン化水素の塩を用いることが最も好ましい。これにより反応活性を上げ、副反応を抑制することができる。使用量は原料に対し10モル%から200モル%程度が好ましく、より好ましくは50モル%から150モル%である。
【0018】
反応方法は、ハロゲン化ニトロテトラロンを溶媒に溶解して液相で反応を行なうのが好ましい。液相反応で用いる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸などの有機酸;DMFなどの極性溶媒などが挙げられるが、反応に必要な温度を維持できる点でキシレン、トリメチルベンゼンなどの炭化水素系溶媒が好ましい。用いられる溶媒の量は特に制限されないが、容積効率及び攪拌効率の点で原料に対し1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍である。
【0019】
反応温度は20℃から200℃が好ましく、より好ましくは20℃から150℃である。反応圧力は大気圧から1MPaが好ましく、より好ましくは大気圧から0.5MPaである。
【0020】
[ニトロ基等の還元反応]
第三工程では脱ハロゲン化水素によって得られた5−ニトロ−1−ナフトールまたは2−ハロ−5−ニトロ−1−ナフトールの還元により5−アミノ−1−ナフトールを製造する。
この工程ではニトロ基の還元によりアミノ基を生成する公知の方法を用いることができる。通常、溶媒を使用し貴金属触媒の存在下水素で還元する方法により行うことができる。貴金属触媒としては一般的に水添触媒として用いられているものが使用でき、例えばラネーNi、ラネーCoなどのラネー金属類、Pd/C、Pd/アルミナ、Pt/C、Pt/アルミナ等の担体上に担持された白金族の触媒などが使用できる。使用量は原料に対し金属換算で0.001質量%から1質量%程度が好ましく、より好ましくは0.01質量%から0.5質量%である。
【0021】
2−ハロ−5−ニトロ−1−ナフトールを還元する場合には、ニトロ基が還元されてアミノ基に変換されると同時に、2位のハロゲン原子も水素原子に置換される。この際、反応を速やかに進行させるために塩基触媒を添加することが好ましい。塩基触媒は無機塩基、有機塩基のいずれを使用しても問題なく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、ピリジンなどを用いることができる。添加量は原料に対し10モル%から200モル%が好ましく、より好ましくは80モル%から150モル%である。
【0022】
液相反応で用いる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸などの有機酸;DMFなどの極性溶媒などが挙げられる。用いられる溶媒の量は特に制限されないが、容積効率及び攪拌効率の点から原料に対し1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍である。
【0023】
反応温度は20℃から100℃が好ましく、より好ましくは20℃から60℃である。反応圧力は大気圧から5MPaが好ましく、より好ましくは大気圧から1MPaである。
【0024】
[5−アミノ−1−ナフトールのアミノ化反応]
第四工程では5−アミノ−1−ナフトールのアミノ化により1,5−ジアミノナフタレンを製造する。
水酸基のアミノ化反応は5−アミノ−1−ナフトールをアンモニアと接触させることにより行なわれ、使用されるアンモニアの量は原料に対し1〜100モル倍が好ましく、より好ましくは1〜50モル倍である。
【0025】
亜硫酸水素塩または亜硫酸塩水溶液の存在下で行なうと収率よくアミノ化を行なうことができる。用いられる亜硫酸水素塩または亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。なかでも亜硫酸水素アンモニウム又は亜硫酸アンモニウムが好ましい。また、塩化亜鉛、ヨウ素、塩化カルシウム、スルファニル酸、硫酸などの存在下で行なってもよい。亜硫酸水素塩または亜硫酸塩の使用量は、原料に対し0.1〜150モル%が好ましく、より好ましくは1〜100モル%である。
【0026】
反応は、通常、圧力容器を用い水溶液中で行なわれるが、反応を阻害しない範囲で水と混和する溶媒と混合してもよいし、水と混和しない溶媒を用いて二相系で反応を行なうこともできる。用いられる溶媒の量は特に制限されないが、容積効率及び攪拌効率の点から原料に対し1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍である。
【0027】
反応温度は20℃から300℃が好ましく、より好ましくは50℃から200℃であり、反応圧力は大気圧から10MPaが好ましく、より好ましくは大気圧から5MPaである。
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(5−ニトロ−1−テトラロンの臭素化)
5−ニトロ−1−テトラロン5.0g(0.0262モル)と1,2−ジクロロエタン(EDC)50gを四つ口フラスコ中に装入し、EDC10gに溶解した臭素4.2g(0.0262モル)を室温で3時間かけて滴下し反応させた。反応後、減圧下で溶媒を留去し、淡黄色固体の2−ブロモ−5−ニトロ−1−テトラロン7.1g(収率100%)を得た。
【実施例2】
【0029】
(塩素による5−ニトロ−1−テトラロンの塩素化)
5−ニトロ−1−テトラロン10.0g(0.0523モル)とEDC100gを四つ口フラスコ中に装入し、20℃に冷却しながら塩素5.0g(0.0704モル)を1時間かけて吹込み反応させた。反応後、減圧下で溶媒を留去し、89.9質量%の2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロン(収率95.2モル%)と4.4質量%の2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン(収率4.0モル%)を含む黄白色固体12.5gを得た。
【実施例3】
【0030】
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液による5−ニトロ−1−テトラロンの塩素化)
5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液89.3g(0.06モル)に5−ニトロ−1−テトラロン5.74g(0.03モル)を装入し、25℃〜30℃で8時間反応させた。反応時のpHは12.6から13.0であった。反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンは検出されず、2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが87.2%(HPLCのピーク面積)、保持時間1.8minの不明ピークが11.9%(HPLCのピーク面積)検出された。該反応マスを36%塩酸でpH7に中和し、濾過、乾燥して黄白色粉体の2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン5.12g(収率65.6モル%)を得た。
【0031】
HPLC分析条件
カラム:YMC−312A(ODS)
移動相:アセトニトリル:水:PIC=1800:1200:6
(PIC=10%テトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液)
10%リン酸でpH6.1に調整
流速 :1.2ml/min
検出波長:254nm
恒温層:40℃
【実施例4】
【0032】
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液による5−ニトロ−1−テトラロンの塩素化)
5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液163.8g(0.11モル)に36%塩酸を装入してpH10に調整した後、50℃に昇温して5−ニトロ−1−テトラロン9.56g(0.05モル)を装入した。36%塩酸を滴下してpHを10から10.5の範囲に保ちながら3時間反応させ、反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンは検出されず、2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが97.4%(HPLCのピーク面積)、その他の不明ピークが2.6%(HPLCのピーク面積)検出された。該反応マスを36%塩酸でpH7に中和し、濾過、乾燥して黄白色粉体の2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン12.32g(収率94.7モル%)を得た。
【0033】
得られた2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンのIRスペクトルを測定したところ、1712cm−1と1718cm−1にカルボニル基の吸収帯、1523cm−1と1344cm−1にニトロ基の吸収帯を観測した。
【0034】
またH−NMR及び13C−NMRスペクトルは次のように帰属された。
【0035】
【化1】

【0036】
H−NMRスペクトル
a:3.0 b:3.5 c:7.6 d:8.2 e:8.5
13C−NMRスペクトル
1:24.8 2:41.8 3:84.5 4:128.2 5:130.3
6:130.6 7:134.9 8:136.6 9:148.7 10:182.5
(単位:ppm)
【実施例5】
【0037】
(2−ブロモ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
2−ブロモ−5−ニトロ−1−テトラロン1.3g(0.0068モル)とトルエン15g及びトリエチルアミン0.69g(0.0068モル)を四つ口フラスコ中に装入し、110℃で14時間反応させた。反応マスをガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ2−ブロモ−5−ニトロ−1−テトラロンが10.7%(GCのピーク面積)残存し、5−ニトロ−1−ナフトールが63.7%(GCのピーク面積)、5−ニトロ−1−テトラロンが20.2%(GCのピーク面積)生成していることを確認した。
【0038】
ガスクロマトグラフィー分析条件
カラム:DB−1 0.32mm×30m
カラム温度:40℃から5℃/minで300℃まで昇温
インジェクション温度 :200℃
検出器温度:230℃
【実施例6】
【0039】
(2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン6.5g(0.025モル)とキシレン50g及びトリブチルアミン4.68g(0.025モル)を四つ口フラスコ中に装入し、130℃で8時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールが89.1モル%、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが5.5モル%生成していることを確認した。
【実施例7】
【0040】
(2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン6.5g(0.025モル)とキシレン50g及びトリオクチルアミン9.30g(0.026モル)を四つ口フラスコ中に装入し、130℃で13時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールが87.7モル%、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが7.1モル%生成していることを確認した。
【実施例8】
【0041】
(2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
塩基としてモノオクチルアミン3.39g(0.026モル)を使用した以外は実施例7と同様にして130℃で7時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが22.3モル%残存し2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールが41.2モル%、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが14.5モル%生成していることを確認した。
【実施例9】
【0042】
(2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
塩基としてジオクチルアミン6.34g(0.026モル)を使用した以外は実施例7と同様にして130℃で8時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが6.4モル%残存し2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールが77.2モル%、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが6.2モル%生成していることを確認した。
【実施例10】
【0043】
(2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン6.5g(0.025モル)とキシレン50g及びトリブチルアミン4.68g(0.025モル)を四つ口フラスコ中に装入し、塩化水素ガス0.92g(0.025モル)を吹き込んで造塩した後130℃で9時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールが99.7モル%生成し、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンは生成していないことを確認した。
【0044】
反応マスを冷却し、水50gを装入してトリブチルアミン塩酸塩を抽出すると黄褐色結晶が析出した。これを濾別し、減圧下60℃で乾燥した後IPA(イソプロピルアルコール)で再結晶して黄色の精2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールを得た。
得られた2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールのIRスペクトルを測定したところ3432cm−1にOH基の吸収帯が、1528cm−1と1344cm−1にニトロ基の吸収帯が観測された。
【0045】
またH−NMR及び13C−NMRスペクトルは次のように帰属された。
【0046】
【化2】

【0047】
H−NMRスペクトル
a:6.2 b:7.6 c:8.1 d:8.3 e:8.6
13C−NMRスペクトル
1:115.3 2:116.2 3:124.5 4:124.7 5:124.9
6:125.6 7:128.7 8:129.4 9:146.5 10:147.4
(単位:ppm)
【実施例11】
【0048】
(2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの芳香族化)
2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロン5.64g(0.025モル)とキシレン50g及びトリブチルアミン4.68g(0.025モル)を四つ口フラスコ中に装入し、塩化水素ガス0.92g(0.025モル)を吹き込んで造塩した後130℃で7時間反応させた。反応マスをHPLCで分析したところ2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロンが71.9モル%残存し、5−ニトロ−1−ナフトールが22.5モル%生成していることを確認した。
【実施例12】
【0049】
(2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールの水添)
2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトール5.59g(0.025モル)とメタノール50g、トリエチルアミン2.53g(0.025モル)、5%Pd/C(50wt%含水品)0.348gをオートクレーブに装入し、水素圧力0.1MPa、反応温度50℃で3時間反応させた。反応後触媒を濾別し、反応マスをHPLCで分析したところ5−アミノ−1−ナフトールが98.8モル%、2−クロロ−5−アミノ−1−ナフトールが1.2モル%生成していることを確認した。
【実施例13】
【0050】
(2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールの水添)
2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトール5.59g(0.025モル)とメタノール50g、5%Pd/C(50wt%含水品)0.348gをオートクレーブに装入し、水素圧力0.1MPa、反応温度50℃で6時間反応させた。反応後触媒を濾別し、反応マスをHPLCで分析したところ5−アミノ−1−ナフトールが64.2モル%、2−クロロ−5−アミノ−1−ナフトールが19.3モル%生成していることを確認した。
【実施例14】
【0051】
(5−アミノ−1−ナフトールのアミノ化)
5−アミノ−1−ナフトール8.38g(純度95%、0.05モル)と50%亜硫酸水素アンモニウム10.2g(0.05モル)及び28%アンモニア水30.4g(0.5モル)及び水23.0gをオートクレーブに装入し、150℃で2時間反応させた。冷却後濾過、乾燥して黒褐色結晶7.48gを得た。結晶の組成は1,5−ジアミノナフタレン94.0質量%(収率88.9モル%)、5−アミノ−1−ナフトール0.7質量%(0.7モル%)であった。また濾液中には5−アミノ−1−ナフトールが3.1モル%、1,5−ジアミノナフタレンが1.9モル%検出された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によればウレタン原料として工業的に非常に利用価値の高い1,5−ジアミノナフタレンを異性体を副生することなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンのIRチャートである。
【図2】2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンのH−NMRチャートである。
【図3】2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの13C−NMRチャートである。
【図4】2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールのIRチャートである。
【図5】2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールのH−NMRチャートである。
【図6】2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールの13C−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ニトロ−1−テトラロンの2位に少なくとも1つハロゲン原子を有する化合物を脱ハロゲン化水素し、次いで還元して5−アミノ−1−ナフトールを得た後、さらに水酸基のアミノ化を行なう工程を含む1,5−ジアミノナフタレンの製造方法。
【請求項2】
5−ニトロ−1−テトラロンの2位に少なくとも1つハロゲン原子を有する化合物が、2−クロロ−5−ニトロ−1−テトラロン、2−ブロム−5−ニトロ−1−テトラロン、2−ヨード−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジブロム−5−ニトロ−1−テトラロン、2,2−ジヨード−5−ニトロ−1−テトラロンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の方法。
【請求項3】
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンを脱ハロゲン化水素して2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールを製造し、次いで該2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールを還元して5−アミノ−1−ナフトールを得た後、さらに水酸基のアミノ化を行なう工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
脱ハロゲン化水素を行なう際に塩基を添加することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロン。
【請求項6】
2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトール。
【請求項7】
5−ニトロ−1−テトラロンを次亜塩素酸塩により塩素化を行なうことを特徴とする2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの製造方法。
【請求項8】
塩素化を行なう際に、pHを7から12の範囲に保ちながら反応を行うことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
2,2−ジクロロ−5−ニトロ−1−テトラロンの脱塩化水素を行なうことを特徴とする2−クロロ−5−ニトロ−1−ナフトールの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143611(P2006−143611A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332820(P2004−332820)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】