説明

11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法

【課題】11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で簡便に高純度かつ収率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液を水溶性有機溶媒に添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物を脱塩する脱塩工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命分子として、核酸(DNA)及びタンパク質に加え、糖鎖が注目されている。
膜タンパク質や細胞外などに存在する糖鎖は、細胞間の認識及び相互作用に関わる働きを有すると考えられている。そして、細胞間の認識や相互作用における変化が、癌、慢性疾患、感染症、及び老化などを引き起こす原因であると考えられている。
例えば、癌化した細胞においては、糖鎖に構造変化が起こっていることが知られている。また、インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスなどは、特定の糖鎖を認識し結合することにより、細胞に侵入し感染することが知られている。
【0003】
糖鎖の多くは、生体内において糖タンパク質及び糖脂質として存在し、細胞間の認識及び相互作用などにより生理機能を担うと考えられている。
生体内における糖鎖は多様な構造を有するだけでなく、存在量も微量であり、タンパク質などと結合して存在することも多いことから、一般にその精製は数多くの工程を経る必要があることが多く、糖鎖の抽出・精製操作は難しいことが知られている。
【0004】
近年の糖化学分野における研究の進展に伴い、酵母型糖鎖を持つ糖タンパク質の糖鎖をヒト型糖鎖に置換する酵素の研究が加速しており、高い効率で酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換できるようになってきている。当該方法によれば、動物細胞を用いてヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質を製造するのに比べて、低コストで糖タンパク質を製造できる可能性がある。
例えば、酵母に発現させたエリスロポエチンの酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換することにより、ヒト型糖鎖を持つエリスロポエチンを製造することができることになる。
斯かる方法により、これまでの動物細胞を用いた方法による製造コストと比較すれば、ヒト型糖鎖を持つエリスロポエチンを安価で大量供給することができる。また、糖鎖構造が均一であることから、医薬品としての品質が保持されることになる。上述のように、抗体医薬や生理活性タンパク質を製造する上で、ヒト型糖鎖を供給し、酵母に発現させた糖タンパク質の酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換する方法は、非常に有効な方法であると考えられている。
【0005】
しかしながら、大量のヒト型糖鎖を供給する方法は確立されていないので、当該方法の確立が望まれている。
近年、ヒト型糖鎖の供給源として卵黄が注目されている。卵黄には主にヒト型糖鎖と同じ、2本鎖の複合型糖鎖が含まれているため、当該糖鎖を効率よく大量に抽出することができれば、卵黄を供給源としてヒト型糖鎖を供給することができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、鶏卵由来脱脂卵黄(粉末)から11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを調製することが開示されている。
また、非特許文献1には、鶏卵の可溶画分より抽出される糖鎖ペプチド(SGP:シアリルグリコペプチド)が得られることが開示されている。このSGPは、ヒト型糖鎖である、11個の糖残基からなる複合型糖鎖の還元末端に、アミノ酸6残基からなるペプチド鎖のペプチド残基が結合した化合物である。
さらに、特許文献2には、シアル酸類含有オリゴ糖を、鳥類卵脱脂卵黄から水もしくは塩溶液で抽出することにより製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第96/02255号パンフレット
【特許文献2】特開平8−99988号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Akira Seko, Mamoru Koketsu, Masakazu Nishizono, Yuko Enoki, Hisham R. Ibrahim, Lekh Raj Juneja, Mujo Kim, Takehiko Yamamoto, Biochimica et Biophysica Acta, 1997, Vol.1335, p.23-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された方法で調製される11糖シアリルオリゴ糖ペプチドは純度が91%であり、当該方法が純粋な糖鎖ペプチドを単離している方法であるとは言い難い(特許文献1の製造例13)。また、特許文献1に開示された方法では、鶏卵由来脱脂卵黄(粉末)から水で抽出、逆浸透膜により濃縮、陰イオン交換樹脂に吸着させた後、脱塩してNaCl水溶液による溶出を行い、濃縮し、更なる脱塩工程を経ることが必要となる。さらに、特許文献1においては、脱脂卵黄50kgからモノシアリルオリゴ糖ペプチド及びダイシアリルオリゴ糖ペプチドをそれぞれ5.6g、13.8g得たと報告されている様に収率も十分ではない。
【0010】
また、非特許文献1に開示された方法では、5種類のカラムクロマトによる精製を経るため大量処理には不向きであり、しかも、鶏卵1個から11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドを約8mgしか得ることが開示されているに過ぎない。
さらに、特許文献2に開示された方法は、限外ろ過を用いたシアル酸含有オリゴ糖を工業的に製造する方法であり、当該方法において、酵素処理により、シアル酸が1残基以上オリゴ糖に共有結合しかつアミノ酸を含まない低分子性のオリゴ糖鎖を遊離させている。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で簡便に高純度かつ収率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(1)鳥類卵脱脂卵黄からの糖ペプチドの抽出工程、(2)水溶性有機溶媒での糖ペプチドの沈殿工程、及び(3)脱塩工程を行う製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液を水溶性有機溶媒に添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物を脱塩する脱塩工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
[2]
前記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5からなる、アルコール、エーテル、ニトリル、ケトン、アミド、及びスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5からなるアルコールを含有する、[1]に記載の製造方法。
[4]
前記アルコールが、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールからなる群から選択される、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]
前記脱塩工程が、前記沈殿物を樹脂へ保持し、次いで、水により洗浄する工程である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記樹脂が、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂である、[5]に記載の製造方法。
[7]
前記逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂が、化学結合型シリカゲル樹脂である、[6]に記載の製造方法。
[8]
前記化学結合型シリカゲル樹脂が、ジメチルオクタデシル、オクタデシル、ジメチルオクチル、オクチル、ブチル、エチル、メチル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル基からなる群から選択される基と化学結合しているシリカで構成される樹脂である、[7]に記載の製造方法。
[9]
前記脱塩工程が、さらに有機溶媒水溶液により11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを溶出する工程を含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
前記有機溶媒水溶液が、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、[9]に記載の製造方法。
[11]
前記有機溶媒水溶液の濃度が0.1〜20%(v/v)である、[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12]
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液をエタノールに添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物をODS樹脂で脱塩する脱塩工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
[13]
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液をエタノールに添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物をODS樹脂へ保持し、水により洗浄し、次いで、有機溶媒水溶液で溶出する工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
[14]
前記11糖シアリルオリゴ糖ペプチドが下記式1で表される糖ペプチドである、[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
式1:
【化1】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業的規模で簡便に高純度かつ収率よく11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図2】実施例1において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのH−NMRチャートを示す。
【図3】実施例1においてODS樹脂を用いた溶出を再度行って製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図4】実施例2において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図5】実施例4において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図6】実施例5において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図7】実施例6において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図8】実施例7において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図9】実施例8において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施の形態の11糖シアリルオリゴ糖ペプチド(以下、単に、「糖ペプチド」と記載する場合がある。)の製造方法は、鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液を水溶性有機溶媒に添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物を脱塩する脱塩工程を含む。
【0018】
本実施の形態において、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドとは、11個の糖残基からなる複合型糖鎖の還元末端にアミノ酸6残基からなるペプチド鎖が結合している糖ペプチドを意味する。
11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの11糖残基部分は、非還元末端に2つのシアリル基を有する糖部分である。
11糖シアリルオリゴ糖ペプチドとしては、下記式1で表される糖ペプチドが挙げられる。
【0019】
式1:
【化2】

【0020】
上記式1で表される糖ペプチドにおいては、糖鎖部分が、Lys−Val−Ala−Asn−Lys−ThrのAsn残基に結合している(配列番号1)。
本実施の形態において、Lys、Val、Ala、Asn、及びThrは、アミノ酸の3文字表記であり、それぞれ、リジン、バリン、アラニン、アスパラギン、及びスレオニンを意味する。
アミノ酸としては、L−アミノ酸であっても、D−アミノ酸であってもよく、ラセミ体などを含め、L−アミノ酸とD−アミノ酸の任意の比率の混合物であってもよいが、L−アミノ酸であることが好ましい。また、各アミノ酸は、各アミノ酸と等価な誘導体であってもよい。
【0021】
本実施の形態の製造方法により、鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で、かつ、簡便に、また、好ましくは安価に、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを製造することができる。
また、本実施の形態の好ましい態様において、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを、工業的規模で簡便な工程により、93%以上の高純度で、かつ収率よく製造することができる。
【0022】
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程とは、鳥類卵脱脂卵黄を、水又は塩溶液に懸濁し、糖ペプチドの混合物などを抽出して、糖ペプチドの粗精製物である抽出液を得る工程である。
鳥類卵脱脂卵黄としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の脱脂卵黄や、鳥類卵から調製した脱脂卵黄が挙げられる。
鳥類卵としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、カモ、ダチョウ、及びハトなどの卵が挙げられ、卵黄内に含まれる糖ペプチドの量が多いので、ニワトリの卵である鶏卵などが好ましい。
鳥類卵脱脂卵黄は、鳥類卵の全卵又は卵黄を、有機溶媒により脱脂処理することにより得ることができる。
鳥類卵としては、生の卵であってもよく、乾燥して得られる卵の乾燥粉末であってもよく、鶏卵卵黄及び鶏卵卵黄粉末などを用いることが好ましい。
【0023】
脱脂処理する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、鳥類卵に有機溶媒を添加して、沈殿物と有機溶媒層を分離する方法などが挙げられる。
脱脂処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールなどが挙げられ、有機溶媒として、1種の溶媒を用いてもよく、2種の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
脱脂処理において、鳥類卵に添加する有機溶媒の量として、特に限定されるものではないが、鳥類卵に対して、質量で、1〜5倍の有機溶媒を用いることにより脱脂処理を行うことができる。
脱脂処理は、特に限定されるものではないが、0〜25℃の温度で行うことができる。
【0024】
鳥類卵に有機溶媒を添加した後、有機溶媒と鳥類卵とをよく撹拌することにより、有機溶媒により鳥類卵に含まれる脂分を除去することができる。
有機溶媒と沈殿物とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
有機溶媒を用いた脱脂処理は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましい。
【0025】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加して、鳥類卵脱脂卵黄から糖ペプチドを抽出する方法は、特に限定されるものではない。抽出工程において用いられる塩溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化ナトリウム水溶液及びリン酸緩衝液などが挙げられ、塩溶液として、1種の塩溶液を用いてもよく、2種以上の塩溶液の混合塩溶液を用いてもよい。
塩溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、0.0001〜2.0%(w/v)である。鳥類卵脱脂卵黄に添加する水又は塩溶液の量として、特に限定されるものではないが、鳥類卵脱脂卵黄に対して、質量で、0.1〜50倍の水又は塩溶液を用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。
糖ペプチドの抽出は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0026】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加した後、鳥類卵脱脂卵黄と水又は塩溶液とをよく撹拌することにより、水又は塩溶液により鳥類卵脱脂卵黄に含まれる糖ペプチドを抽出することができる。
水又は塩溶液で抽出した糖ペプチドを含有する抽出液と、鳥類卵脱脂卵黄とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
水又は塩溶液を用いた抽出処理は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましく、2〜4回行うことがより好ましい。
抽出工程は、水を用いて行うことが好ましい。
【0027】
糖ペプチドの抽出液を水溶性有機溶媒に添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程とは、抽出工程で得られた、糖ペプチドを含有する抽出液を水溶性有機溶媒に添加することにより、糖ペプチドの抽出液を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖ペプチドを沈殿物として得る工程である。沈殿工程においては、抽出液に水溶性有機溶媒を添加することで、粗精製物として、沈殿物を沈殿させてもよい。
本実施の形態において、水溶性有機溶媒とは、水と相溶性を有する有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水と相溶性を有する炭素数1〜5からなる有機溶媒などが挙げられる。
炭素数1〜5からなるとは、溶媒分子中の炭素数が1〜5であることを意味する。
該溶媒として、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系、アセトニトリル等のニトリル系、アセトン等のケトン系、ジメチルホルムアミド等のアミド系、及びジメチルスルホキシド等のスルホキシド系からなる群から選択される溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒として、1種の溶媒を用いてもよく、2種以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
水溶性有機溶媒としては、炭素数1〜5からなるアルコールであることが好ましく、沈殿工程において、水溶性有機溶媒がアルコールである場合、該沈殿工程は、糖ペプチドの抽出液をアルコールに添加して糖ペプチドを沈殿させる工程(以下、「アルコール沈殿工程」と記載する場合がある。)であり、抽出工程で得られた、糖ペプチドを含有する抽出液をアルコールに添加することにより、糖ペプチドの抽出液を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖ペプチドを沈殿物として得るアルコール沈殿工程である。
【0028】
以下、沈殿工程をアルコール沈殿工程として説明するが、アルコール以外の水溶性有機溶媒、好ましくは炭素数1〜5からなる水溶性有機溶媒を用いた沈殿工程においても、アルコール沈殿工程と同様に実施することができる。用いる水溶性有機溶媒量や沈殿させる際の溶媒温度などの条件は、溶媒ごとに適宜選択することができ特に限定されるものではない。アルコール沈殿工程について以下に例示するが、該アルコール沈殿工程と同様にして、沈殿工程における溶媒量や溶媒温度などの条件を設定することができる。
【0029】
アルコール沈殿工程に用いられるアルコールの量として、特に限定されるものではないが、抽出液に対して、質量で、2〜20倍のアルコールを用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。またアルコール沈殿工程に用いられるアルコールとしては、炭素数1〜5個のアルコールが好ましく、炭素数1〜3個のアルコールがより好ましい。炭素数1〜3個のアルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール(イソプロパノール)を挙げることができ、メタノールおよびエタノールが好ましく、中でもエタノールが好ましい。医療用用途あるいは医薬用用途として糖ペプチドを用いる場合には、アルコール沈殿工程に用いられるアルコールはエタノールを用いることが好ましい。
本実施の形態において、アルコール沈殿工程において用いるアルコールとしては、1種のアルコールを用いてもよく、2種以上のアルコールの混合溶媒を用いてもよく、アルコールと他の溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
アルコール溶媒が混合物である場合、例えば、メタノール又は2−プロパノールをエタノールに対し0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。また、エタノールに対しアセトン、アセトニトリル又はジエチルエーテルを0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。
【0030】
糖ペプチドの抽出は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0031】
アルコール沈殿工程で用いる、先の抽出工程により得られた糖ペプチドの抽出液は、沈殿工程の前に、抽出液をろ過することで、清澄な抽出液とすることもでき、また、減圧濃縮などにより濃縮して得られる抽出液の濃縮液を用いてもよい。
【0032】
アルコール沈殿工程において、糖ペプチドを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよく、4〜25℃で静置することで分離してもよい。
得られた糖ペプチドを、水又は塩溶液に溶解し、再度アルコール沈殿工程を行うことにより、より精製された糖ペプチドを得ることができる。アルコールに対し糖ペプチドは溶解しないので、アルコール沈殿工程は不純物除去のために必要に応じて繰り返すことができる。アルコール沈殿工程を繰り返し行うことにより、より精製された糖ペプチドを得ることができ、糖ペプチドの沈殿は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましく、2〜4回行うことがより好ましい。
【0033】
糖ペプチドの沈殿物を脱塩する脱塩工程とは、沈殿工程で得られた糖ペプチドを含有する粗精製物としての沈殿物から塩を除去する工程である。
脱塩工程としては、脱塩方法として知られた種々の公知の方法で行うことができ特に限定されるものではない。脱塩工程は、特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、イオン交換膜、ゲルろ過、透析膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜などを用いて脱塩することが可能である。脱塩工程としては、例えば、沈殿工程で得られた沈殿物を樹脂へ保持させ、次いで、水により洗浄することにより脱塩することもできる。
また、本実施の形態においては、上述した抽出工程と沈殿工程を行うことにより得られる沈殿物を脱塩することにより、工業的規模で簡便に11糖シアリルオリゴ糖を製造することができる。
特許文献1に記載されるような従来の方法においては、鶏卵由来脱脂卵黄(粉末)から水で抽出、逆浸透膜により濃縮、陰イオン交換樹脂に吸着させた後、脱塩してNaCl水溶液による溶出を行い、濃縮し、再度、脱塩工程を行う必要があり、工業的規模で行うには簡便な方法であるとは言えない。
【0034】
沈殿物の樹脂への保持は、吸着、担持など公知の結合様式を利用した保持方法により、沈殿物を樹脂へ保持させることができる。また、沈殿物は、水で洗浄する際に、沈殿物が洗浄液と共に流出しない程度に、保持されていればよい。
樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂等が挙げられ、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂とは、シリカゲル系、ポリマー系を代表とする樹脂を意味し、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ(スチレン/ジビニルベンゼン)ポリマーゲル樹脂、ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂、ポリヒドロキシメタクリレート樹脂、スチレンビニルベンゼン共重合体樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、化学結合型シリカゲル樹脂などが挙げられる。
化学結合型シリカゲル樹脂とは、特に限定されるものではないが、例えば、多孔性シリカゲルにジメチルオクタデシルクロロシランの様なシランカップリング剤を反応させて製造する樹脂などが挙げられ、シリカゲルに対し、同様の手法で異なるシリル化剤を用いることで、ジメチルオクタデシル、オクタデシル(C18)、トリメチルオクタデシル、ジメチルオクチル、オクチル(C8)、ブチル、エチル、メチル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル基からなる群から選択される基を化学結合することで得られる樹脂等が挙げられる。あるいは炭素数22のドコシル(C20)基及び炭素数30のトリアコンチル(C30)基を結合して得られる樹脂であってもよい。
本実施の形態において、好ましい化学結合型シリカゲル樹脂として、シリカゲルを基材として、オクタデシル基が担持された、オクタデシル基結合シリカゲル樹脂(ODS樹脂)が挙げられる。
【0035】
脱塩工程は、脱塩した後に樹脂に保持されている糖ペプチド(11糖シアリルオリゴ糖ペプチド)を、有機溶媒水溶液により溶出する工程を含むことが好ましく、脱塩工程において脱塩した後に、有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する溶出工程を行うことにより11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を向上させることができる。より好ましい態様においては、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を93%以上とすることができる。例えば、再度、脱塩工程(溶出工程)を繰り返すことで糖ペプチドの純度をさらに向上させることができる。糖ペプチドの純度を向上させることは、例えばEndo−Mの様な糖転移酵素を用いて、本実施の形態において得られた糖ペプチドの糖鎖部分を他の糖鎖あるいは糖鎖誘導体へ転移反応を行う場合(ペプチド鎖中の糖鎖へ転移する場合も含む)には、不純物による妨害反応が減少し、目的の転移反応の反応効率が向上するのでより好ましい。
溶出工程に用いる有機溶媒は、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有し、有機溶媒水溶液の濃度が、有機溶媒の水溶液中での濃度として、0.1〜20%(v/v)であることが好ましい。
【0036】
脱塩工程又は溶出工程は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0037】
脱塩工程としては、樹脂を用いた脱塩工程以外にも、分離膜を用いることにより沈殿工程で得られた沈殿物から脱塩することが可能である。
斯かる脱塩工程としては、例えば、限外ろ過膜又は逆浸透膜を用いることで沈殿物の脱塩を行うことができる。
脱塩工程に用いる膜としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、芳香族ポリアミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコールを構成基材とする平膜又は中空糸膜、スパイラル膜又はチューブラー膜等が挙げられる。該膜として、さらにはイオン交換樹脂、イオン交換膜、ゲルろ過、透析膜、限外ろ過膜あるいは逆浸透膜で脱塩することも可能である。
【0038】
本実施の形態において、糖ペプチドを精製する方法としては、公知のペプチド、糖質、又は糖ペプチド等の精製方法を用いることができるが、特に限定されるものではないが、例えば、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーなどが挙げられる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカを基材としてオクタデシル、オクチル、フェニル、シアノプロピル、メチルなどを充填剤表面に固定化したものが挙げられ、その中でODS樹脂などが挙げられる。
【0039】
ODS樹脂などのシリカゲル樹脂充填剤を用いたカラムクロマトグラフィーによる精製方法においては、沈殿により得られた糖ペプチド中に含まれる塩を脱塩する工程を含んでいてもよく、有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程を含んでいてもよい。
糖ペプチドを添加して保持させたシリカゲル樹脂に対し、質量で、1〜50倍の水を用いて樹脂を洗浄することにより糖ペプチドの脱塩を行うことができる。
【0040】
脱塩を行った後に、有機溶媒水溶液により溶出することにより糖ペプチドを得ることができる。より好ましい態様においては、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を93%以上とすることができる。
糖ペプチドを添加して、糖ペプチドを保持させたODS樹脂などのシリカゲル樹脂に対し、質量で、樹脂の1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いて樹脂から溶出させることにより糖ペプチドを得ることができる。
【0041】
有機溶媒水溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒の水溶液などが挙げられる。
有機溶媒水溶液としてはアセトニトリルが好ましく、特にアセトニトリル水溶液で溶出工程を実施することで、不純物の1つである末端シアル酸が部分的に切断された糖ペプチドと、所望の糖ペプチドとの溶出工程における分離の純度向上が著しく、93%以上の純度で糖ペプチドを得ることができる。
有機溶媒水溶液の濃度は0.1〜20%(v/v)であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20%(v/v)であり、さらに好ましくは10%(v/v)以下、よりさらに好ましくは5%(v/v)以下である。有機溶媒水溶液の濃度は、0.5〜3%(v/v)が好ましい。
【0042】
特許文献1に記載されるような従来の方法においては、樹脂からの溶出操作において、例えば、陰イオン交換樹脂などを用いた場合には樹脂に吸着させた後、塩溶液または酸性溶液による溶出操作が必要となる。ところが、酸性溶液で溶出する場合、末端シアル酸が糖ペプチドから脱離することも考えられることから好ましくない。また、塩溶液での溶出の場合は溶出液からの脱塩処理を再度行う必要が生じ、大量製造においては工程数の増加となる。本実施の形態においては、溶出工程において好ましくは有機溶媒水溶液にて溶出することにより、溶出液の脱塩操作を必要としないため工程数を減少させることができるので大量製造に適する。また、本実施の形態における方法では、溶出液の濃縮時のpH変化も起こらず糖ペプチドの糖鎖部分の分解もこれまで開示された方法に比べて少ない点で有利である。
有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程においては、水から徐々に、溶出液としての有機溶媒水溶液にグラジエントをかけて溶出を行ってもよい。
【0043】
溶出された糖ペプチドは、有機溶媒水溶液の減圧濃縮及び乾燥などにより粉末状の糖ペプチドとして得ることができる。
本実施の形態において、得られた糖ペプチドは、再度アルコール沈殿工程を行ってさらに精製してもよい。また、ODS樹脂などのシリカゲル樹脂に対し、再度糖ペプチドを吸着させ、質量で、樹脂の1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いて再度樹脂から溶出させることにより、より高純度(98%以上)の糖ペプチドを得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0045】
[HPLC分析]
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm)を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;2%→17%(15min)、CHCN in 0.1%TFA solution
流速;0.3mL/min
UV;214nm
【0046】
H−NMR測定]
O 0.4mLに試料 2mgを溶解して、JEOL製JNM−600(600MHz)でH−NMRを測定した。
【0047】
[LC/MS測定]
以下の測定条件でLC/MS測定を行った。用いたLC及びMSのシステムは以下のとおりである。
LC:アジレント製1100シリーズ
カラム:Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm)
カラム温度:40℃
流速;0.2mL/min
UV:262nm
グラジエント;40%→100%(30min)、CHCN in 0.05%Formic acid solution
MS:サーモエレクトロン製LCQ
イオン化:ESI
モード:Positive
【0048】
[実施例1]
鶏卵卵黄10個にエタノール350mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄150gを得た。
得られた上記脱脂卵黄150gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、100mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール700mLに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド1.58gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド1.5gを水5mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで117mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLC及びH−NMRによる測定結果をそれぞれ図1及び2に示す。HPLCによる純度では95%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
得られた糖ペプチド10mgを1mM重曹水−アセトン(2/3:体積比)1.5mL溶媒中でFmoc−OSu(N−(9−Fluorenylmethoxycarbonyloxy)succinimide(ペプチド研究所製)と反応することでFmoc基を導入した反応生成物10mgを得た。反応生成物についてLC/MS測定を行った。その結果、糖ペプチドの3個のアミノ基に3個のFmoc基が導入された推定分子量3530.6の化合物が生成していることが確認され、糖ペプチドが上記式1であることが分かった。
【0049】
さらにODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gをガラスカラムに充填し、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。上記で得られた糖ペプチド50mgを水1mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを再度溶出した。溶出液を凍結乾燥することで30mgの糖ペプチドを得た。得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図3に示す。HPLCによる純度は99%であった。
【0050】
[実施例2]
鶏卵卵黄50個にアセトン1.1Lを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで15分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール700mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を2回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄500gを得た。
得られた上記脱脂卵黄500gに水600mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで15分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水400mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、400mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール2Lに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで15分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド9.0gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)50gをガラスカラムに充填し、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド9.0gを水80mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水200mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで389mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図4に示す。HPLCによる純度は96%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0051】
[実施例3]
鶏卵卵黄粉末(キューピータマゴ製)30gにアセトン100mLを添加し、よく撹拌後、デカンテーションにより上清を除去した。再度アセトン50mLを添加し、よく撹拌後、デカンテーションにより上清を除去する操作を2度繰り返した。
アセトン洗浄後、エタノール50mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた上記沈殿物にエタノール50mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去することで、沈殿物として脱脂卵黄40gを得た。
得られた上記脱脂卵黄40gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、50mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール300mLに注加し、生じた沈殿物を遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。ここで生じた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加し、遠心分離して粗精製糖ペプチド297mgを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド297mgを水2mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで10mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0052】
[実施例4]
鶏卵卵黄30個にメタノール800mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にメタノール600mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄450gを得た。
得られた上記脱脂卵黄450gに水500mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水500mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、300mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液を変性アルコール(メタノール変性エタノール、1%メタノール含有エタノール)2Lに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、再度メタノール変性エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド4.5gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)50gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド4.5gを水20mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで285mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図5に示す。HPLCによる純度は93%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0053】
[実施例5]
鶏卵卵黄20個にイソプロパノール550mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にイソプロパノール300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄300gを得た。
得られた上記脱脂卵黄300gに水300mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、700mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液を変性アルコール(メタノール変性エタノール、1%メタノール含有エタノール)3Lに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、メタノール−エタノール混合液(メタノール:エタノール=3:7、体積比)に注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド3.3gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)50gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド3.3gを水20mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで186mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図6に示す。HPLCによる純度は94%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0054】
[実施例6]
鶏卵卵黄20個にアセトン500mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にアセトン300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄300gを得た。
得られた上記脱脂卵黄300gに水300mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、500mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液を変性アルコール(2−プロパノール変性エタノール、1%2−プロパノール含有エタノール)2Lに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、メタノール変性エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド3.1gを得た。
化学結合型シリカゲル樹脂としてLicroprep RP−8(メルク製)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド1.5gを水20mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂をそのまま水で溶出した。塩に続く溶出液を凍結乾燥することで80mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図7に示す。HPLCによる純度は94%であった。得られた糖ペプチドは東京化成製の標品との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0055】
[実施例7]
脱脂卵黄粉(キューピー製)400gに水1Lを添加し、よく撹拌した。6,500rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水400mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した全ての上清をグラスフィルター(Whatman製、GF/B)にて濾過後、500mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール2.5Lに注加し、生じた沈殿物を、6,500rpmで20分遠心分離することで回収した。得られた沈殿物を水500mLに溶解し、エタノール2.5Lに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた最終沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド3.2gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)150gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド3.2gを水100mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水400mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで424mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図8に示す。HPLCによる純度は96%であった。HPLC条件は、カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm))を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。グラジエント;2%→17%(15min)→90%(20min)、CHCN in 0.1%TFA溶液、流速;0.3mL/min、検出UV;214nm。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式1で表される構造であることが分かった。
【0056】
[実施例8]
鶏卵卵黄10個にエタノール350mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄160gを得た。
得られた上記脱脂卵黄160gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルター(Whatman製、GF/B)にて濾過後、150mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール750mLに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水100mLに溶解し、再度エタノール700mLに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド1.7gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)50gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド1.7gを水10mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、4%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで120mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図9に示す。HPLC分析において、標品(東京化成製)と溶出時間の一致するピークの純度は91%であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で簡便に高純度かつ収率よく製造する方法を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0058】
配列番号1は、シアリルオリゴ糖部分が、Asn残基に結合したLys−Val−Ala−Asn−Lys−Thrのペプチド配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液を水溶性有機溶媒に添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物を脱塩する脱塩工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5からなる、アルコール、エーテル、ニトリル、ケトン、アミド、及びスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5からなるアルコールを含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールからなる群から選択される、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱塩工程が、前記沈殿物を樹脂へ保持し、次いで、水により洗浄する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂が、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂が、化学結合型シリカゲル樹脂である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記化学結合型シリカゲル樹脂が、ジメチルオクタデシル、オクタデシル、ジメチルオクチル、オクチル、ブチル、エチル、メチル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル基からなる群から選択される基と化学結合しているシリカで構成される樹脂である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記脱塩工程が、さらに有機溶媒水溶液により11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを溶出する工程を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒水溶液が、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒水溶液の濃度が0.1〜20%(v/v)である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液をエタノールに添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物をODS樹脂で脱塩する脱塩工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
【請求項13】
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチドの抽出液を得る抽出工程、前記抽出液をエタノールに添加して糖ペプチドを沈殿させる沈殿工程、及び沈殿物をODS樹脂へ保持し、水により洗浄し、次いで、有機溶媒水溶液で溶出する工程を含む、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの製造方法。
【請求項14】
前記11糖シアリルオリゴ糖ペプチドが下記式1で表される糖ペプチドである、請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
式1:
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−162762(P2011−162762A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198213(P2010−198213)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】