説明

2α位に置換基を有するビタミンD誘導体

【課題】2α位に置換基を有する新規なビタミンD誘導体の提供.
【解決手段】17位側鎖は1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数3〜17の飽和脂肪族炭化水素基,2α位はカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基,1位は水素原子又は水酸基で置換されたビタミンD誘導体.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,2α位に置換基を有するビタミンD誘導体に関する.より詳細には,2α位に,末端が,COOR(ここでRは,水素原子,又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す),SOR(ここでRは,水素原子,又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す),あるいはCNで置換されたアルキル基を有するビタミンD誘導体に関する.
【背景技術】
【0002】
近年,ビタミンD誘導体が様々な生理活性を有することが明らかとなった.活性型ビタミンDの一種である1α,25-ジヒドロキシビタミンDは,カルシウム代謝調節作用,腫瘍細胞の増殖抑制作用や分化誘導作用,免疫調節作用など広範な生理活性を示す.
しかしながら,1α,25-ジヒドロキシビタミンDをはじめとする活性型ビタミンDのなかには,投与量あるいは投与方法によって高カルシウム血症を引き起こすという欠点を有する化合物も存在する.このようなビタミンD誘導体は抗腫瘍剤,抗リュウマチ剤等への適用は困難である.したがって,これらビタミンDの作用の分離を目的として,数多くのビタミンD誘導体が合成され,その生理活性が検討されている.
【0003】
活性型ビタミンD(即ち,1α,25-ジヒドロキシビタミンD)のA環部分に2α-メチル基を導入するとビタミンD受容体(VDR)結合能が上昇することが判明している.2α位に置換基を有するビタミンD誘導体としては,特許文献1に記載の2α位に水酸基,ハロゲン原子,シアノ基,低級アルコキシ基,アミノ基,アシルアミノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を有するビタミンD誘導体,あるいは特許文献2に記載の2α位にヒドロキシ基で置換されていてもよい直鎖または分岐鎖状の低級アルコキシ基を有するビタミンD誘導体などが知られている.これらの2α位に置換基を有するビタミンD誘導体のなかのあるものは,生体内カルシウムの調節作用,腫瘍細胞などに対する分化誘導作用などの生理活性を有し,医薬,例えば骨粗鬆症,もしくは骨軟化症などのカルシウム代謝異常に基づく疾患の治療薬,又は抗腫瘍剤として有用であることが示されている.
【0004】
また,2β位に置換基を有するビタミンD誘導体としては,特許文献3に記載の2β位にアミノ基,又は水酸基,ハロゲン原子,シアノ基もしくはアシルアミノ基で置換されていてもよい炭素数1〜7の低級アルコキシ基を有するビタミンD誘導体が知られる.これらの2β位に置換基を有するビタミンD誘導体のなかでも,2β-(3-ヒドロキシプロポキシ)-1α,25-ジヒドロキシビタミンDは有用な医薬として開発が進められる一方,その代謝産物の研究も行われている.代謝産物の候補として,特許文献4には,2β-(3-ヒドロキシプロポキシ)-1α,25-ジヒドロキシビタミンDの2β位の3-ヒドロキシプロポキシ基の末端がカルボン酸のメチルエステル体に変換された化合物が記載されている.
【0005】
活性型ビタミンD(即ち,1α,25-ジヒドロキシビタミンD)がビタミンD受容体に結合するとき,1α位水酸基が受容体結合部に存在するアルギニン残基を認識する.しかしながら,ビタミンD誘導体のVDR結合に必須とされる1α位水酸基の機能に代わる置換基として,2α位に,末端が,カルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,あるいはシアノ基で置換されたアルキル基を有するビタミンD誘導体の合成とその生理活性についてはこれまでに報告されていない.発明者らが非特許文献1にて発表した,2α位がカルボン酸あるいはそのエステル体で置換されたビタミンD誘導体,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシ-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニル-3,25-ジオールが記載されているのみである.

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO01/016099
【特許文献2】WO01/062723
【特許文献3】特公平6-23185
【特許文献4】WO99/52863
【特許文献5】WO94/14766
【特許文献6】WO95/27697
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本薬学会第128年会要旨集2,第156ページ(2008)
【非特許文献2】Bioorg.Med.Chem.8(1),123(2000)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.114(5),1924(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題の一つは,ビタミンD誘導体のVDR結合に必須とされる1α位水酸基の機能に代わる置換基として,2α位に,末端が,カルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,あるいはシアノ基で置換されたアルキル基を有する新規なビタミンD誘導体を提供することである.
本発明のもう一つ別の課題は,上記した,2α位に,末端が,カルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,あるいはシアノ基で置換されたアルキル基を有する新規なビタミンD誘導体を合成するのに有用な新規な合成中間体を提供することである.
本発明のさらに別の課題は,上記した本発明によるビタミンD誘導体を有効成分として含む医薬を提供することである.
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果,3-ブテン-1-オールを出発原料とし,Sharpless不斉ジオール化反応を用いて,ビタミンD誘導体3位に相当する水酸基を立体選択的に導入し,種々の変換の後に得られたA環部前駆体を,別途合成したCD環部化合物とパラジウム触媒を用いてカップリングして,目的とする2α位に,末端が,カルボン酸またはエステル体で置換されたアルキル基を有するビタミンD誘導体を合成することに成功し,また,該ビタミンD誘導体がビタミンD受容体に対する親和性を有し,医薬として有用であることを見いだし,本発明を提供するに至った.
【発明の効果】
【0010】
即ち,本発明の第1の側面によれば,一般式(I):
【化1】

(式中,Rは1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表す)で示されるビタミンD誘導体が提供される.
【0011】
こうしたビタミンD誘導体のなかでも,一般式(II):
【化2】

あるいは,一般式(III):
【化3】

で表されるものが好ましい.
【0012】
一般式(I),(II),(III)において,Rは好ましくはカルボキシメチル基,メトキシカルボニルメチル基,シアノメチル基,カルボキシエチル基,メトキシカルボニルエチル基,シアノエチル基である.
一般式(I),(II),(III)において,Rは好ましくは1個の水酸基または保護された水酸基で置換されている炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表し,特に好ましくは,4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基である.
一般式(I),(II),(III)において,Rは好ましくは水素原子,水酸基,1個の水酸基または保護された水酸基で置換されている炭素数1〜3の飽和脂肪族炭化水素基を表し,特に好ましくは,水素原子である.
【0013】
本発明の特に好ましい化合物は,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノエチル-3,25-ジオールである.
【0014】
本発明の第2の側面によれば,一般式(IV):
【化4】

(式中,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表し,Rは水素原子もしくは水酸基の保護基を表す)で示される化合物が提供される.この化合物は一般式(I)で示されるビタミンD誘導体の合成に有用な中間体化合物である.
一般式(IV)において,特に好ましくは,Rはカルボキシメチル基,メトキシカルボニルメチル基,シアノメチル基,カルボキシエチル基,メトキシカルボニルエチル基,シアノエチル基である.
【0015】
本発明の第3の側面によれば,上記した一般式(I)で示されるビタミンD誘導体を有効成分として含む医薬品組成物(例えば,カルシウム代謝異常に基づく疾患の治療剤,抗腫瘍剤または免疫調節剤)が提供される.

【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に,本発明の一般式(I)で示されるビタミンD誘導体およびそれを含む医薬品組成物の実施態様および実施方法についてより詳細に説明する.
【0017】
一般式(I)において,Rは1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表す.
本明細書において,飽和脂肪族炭化水素基とは,一般的に直鎖または分岐鎖状のアルキル基を示し,例えばメチル基,エチル基,n-プロピル基,i-プロピル基,n-ブチル基,s-ブチル基,i-ブチル基,t-ブチル基のほか,ペンチル基,へキシル基,へプチル基,オクチル基,ノニル基,デカニル基等が挙げられ,好ましくは3-メチルブチル基,3-エチルペンチル基,4-メチルペンチル基,3-(n-プロピル)へキシル基,4-エチルへキシル基,5-メチルへキシル基,6-メチルへプチル基,5-エチルへプチル基,4-(n-プロピルへプチル基)などが挙げられる.
好ましくは,5-メチルへキシル基,4-エチルへキシル基,4-メチルペンチル基などがRとして挙げられる.
【0018】
また,水酸基で置換されていてもよい飽和脂肪族炭化水素基とは,前記の飽和炭素水素基の任意の水素原子が1以上の水酸基で置換されていてもよい基を意味する.
においては,置換している水酸基の数は,0,1,2,または3であり,好ましくは1または2であり,さらに好ましくは1である.水酸基で置換されている飽和脂肪族炭化水素基の具体的例としては,2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル基,3-ヒドロキシ-2-メチルプロピル基,2,3-ジヒドロキシ-2-メチルプロピル基,2-エチル-2-ヒドロキシブチル基,2-エチル-3-ヒドロキシブチル基,2-エチル-2,3-ジヒドロキシブチル基,2-ヒドロキシ-2-(n-プロピル)ペンチル基,3-ヒドロキシ-2-(n-プロピル)ペンチル基,2,3-ジヒドロキシ-2-(n-プロピル)ペンチル基,2-ヒドロキシ-3-メチルブチル基,3-ヒドロキシ-3-メチルブチル基,4-ヒドロキシ-3-メチルブチル基,2,3-ジヒドロキシ-3-メチルブチル基,2,4-ジヒドロキシ-3-メチルブチル基,3,3-ジヒドロキシ-3-メチルブチル基,3-エチル-2-ヒドロキシペンチル基,3-エチル-3-ヒドロキシペンチル基,3-エチル-4-ヒドロキシペンチル基,3-エチル-2,3-ジヒドロキシペンチル基,3-エチル-2,4-ジヒドロキシペンチル基,3-エチル-3,4-ジヒドロキシペンチル基,2-ヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,3-ヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,4-ヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,2,3-ジヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,2,4-ジヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,3,4-ジヒドロキシ-3-(n-プロピル)へキシル基,3-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基,4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基,5-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基,3,4-ジヒドロキシ-4-メチルペンチル基,3,5-ジヒドロキシ-4-メチルペンチル基,4,5-ジヒドロキシ-4-メチルペンチル基,4-エチル-3-ヒドロキシへキシル基,4-エチル-4-ヒドロキシへキシル基,4-エチル-5-ヒドロキシへキシル基,4-エチル-3,4-ジヒドロキシへキシル基,4-エチル-3,5-ジヒドロキシへキシル基,4-エチル-4,5-ジヒドロキシへキシル基,3-ヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,4-ヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,5-ヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,3,4-ジヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,3,5-ジヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,4,5-ジヒドロキシ-4-(n-プロピル)へプチル基,4-ヒドロキシ-5-メチルへキシル基,5-ヒドロキシ-5-メチルへキシル基,6-ヒドロキシ-5-メチルへキシル基,4,5-ジヒドロキシ-5-メチルへキシル基,4,6-ジヒドロキシ-5-メチルへキシル基,5,6-ジヒドロキシ-5-メチルへキシル基,4,5-ジヒドロキシ-5-メチルへキシル基,5-エチル-4-ヒドロキシへプチル基,5-エチル-5-ヒドロキシへプチル基,5-エチル-6-ヒドロキシへプチル基,5-エチル-4,5-ジヒドロキシへプチル基,5-エチル-4,6-ジヒドロキシへプチル基,4-ヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,5-ヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,6-ヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,4,5-ジヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,4,6-ジヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,5,6-ジヒドロキシ-5-(n-プロピル)オクチル基,5-ヒドロキシ-6-メチルへプチル基,6-ヒドロキシ-6-メチルへプチル基,7-ヒドロキシ-6-メチルへプチル基,5,6-ジヒドロキシ-6-メチルへプチル基,5,7-ジヒドロキシ-6-メチルへプチル基,6,7-ジヒドロキシ-6-メチルへプチル基,6-エチル-5-ヒドロキシオクチル基,6-エチル-6-ヒドロキシオクチル基,6-エチル-7-ヒドロキシオクチル基,6-エチル-5,6-ジヒドロキシオクチル基,6-エチル-5,7-ジヒドロキシオクチル基,6-エチル-6,7-ジヒドロキシオクチル基,5-ヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基,6-ヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基,7-ヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基,5,6-ジヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基,5,7-ジヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基,6,7-ジヒドロキシ-6-(n-プロピル)ノニル基等の飽和脂肪族炭化水素基等が挙げられる.
【0019】
一般式(I),(II),(III)のRにおける水酸基の保護基としては,アシル基,置換シリル基,置換アルキル基などが挙げられ,好ましくはアシル基,置換シリル基である.
【0020】
アシル基とは置換されたカルボニル基を意味し,ここでいうカルボニル基の置換基とは,水素原子,置換基を有してもいてよい低級アルキル基,置換基を有していてもよいアリール基,置換基を有していてもよい低級アルキルオキシ基,置換基を有していてもよいアリールオキシ基,置換基を有していてもよいアルキルオキシ基等を意味する.アシル基は,好ましくはホルミル基,低級アルキルカルボニル基,置換基を有していてもよいフェニルアルキルオキシカルボニル基などを示し,さらに好ましくはホルミル基,アセチル基,プロピオニル基,ブチリル基,ピバロイル基,ベンゾイル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,t-ブトキシカルボニル基,ベンジルオキシカルボニル基等を示す.
【0021】
置換シリル基とは,1以上の置換基を有していてもよい低級アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基などで置換されたシリル基を意味し,好ましくは3置換されたシリル基を示す.置換シリル基の好ましい例としては,トリメチルシリル基,トリエチルシリル基,トリイソプロピルシリル基,t-ブチルジフェニルシリル基,t-ブチルジメチル基などが挙げられる.
【0022】
置換アルキル基とは1以上の置換基で置換されているアルキル基を示し,ここで置換基の好ましい例としては,置換基を有していてもよいアルキルオキシ基や置換基を有していてもよいアリール基が挙げられ,特に置換基を有していてもよいアルキルオキシ基が挙げられる.アルキルオキシ基などの置換基を有していてもよいアルキルオキシ基で置換された置換アルキル基としては,例えばメトキシメチル基,2-メトキシエトキシメチル基の他にテトラヒドロピラン-2-イル基などが挙げられる.また置換基の例としては,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,アミノ基,水酸基,アルキル基,アルキルオキシ基,アシルオキシ基,スルホニル基等が挙げられる.
【0023】
一般式(I),(II),(III)において,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表す.
【0024】
における飽和脂肪族炭化水素基としては,上述のように,直鎖あるいは分岐状のアルキル基が挙げられるが,炭素数1〜10であることが好ましい.さらに好ましくは,炭素数1〜6,特に好ましくは炭素数1〜4である.
における置換されていてもよいカルボン酸のエステル体COORのRとしては,水素原子,メチル基,エチル基,n-プロピル基,及びi-プロピル基等が挙げられる.なかでも,水素原子,及びメチル基が特に好ましい.
における置換されていてもよいスルホン酸のエステル体SOのRとしては,水素原子,メチル基,エチル基,n-プロピル基,及びi-プロピル基等が挙げられる.なかでも,水素原子,及びi-プロピル基が特に好ましい.
【0025】
具体的には,Rにおける置換基の例としては,カルボキシル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,n-プロポキシカルボニル基,i-プロポキシカルボニル基, スルホキシル基,メトキシスルホニル基,エトキシスルホニル基,n-プロポキシスルホニル基,i-プロポキシスルホニル基, 及びシアノ基が挙げられ,なかでもカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,及びシアノ基が好ましく,カルボキシル基,メトキシカルボニル基,及びシアノ基が特に好ましい.
【0026】
代表的には,好ましいRとしては,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたメタン-1,1-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたエタン-1,2-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたプロパン-1,3-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたブタン-1,4-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたペンタン-1,5-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたヘキサン-1,6-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたヘプタン-1,7-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたオクタン-1,8-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたノナン-1,9-ジイル基,末端がカルボキシル基,メトキシカルボニル基,スルホキシル基,i-プロポキシスルホニル基,もしくはシアノ基で置換されたデカン-1,10-ジイル基が挙げられる.なかでも,カルボキシメチル基,メトキシカルボニルメチル基,シアノメチル基,カルボキシエチル基,メトキシカルボニルエチル基,シアノエチル基,カルボキシプロピル基,メトキシカルボニルプロピル基,シアノプロピル基,カルボキシブチル基,メトキシカルボニルブチル基,シアノブチル基が特に好ましく,カルボキシメチル基,メトキシカルボニルメチル基,シアノメチル基,カルボキシエチル基,メトキシカルボニルエチル基,シアノエチル基がさらに好ましい.
【0027】
一般式(I),(II),(III)において,Rは水素原子,水酸基,ヒドロキシメチル基,ヒドロキシエチル基,ヒドロキシプロピル基のいずれかであることが好ましい.なかでも,水素原子または水酸基であることが特に好ましい.
【0028】
本発明の一般式(I)の化合物において,1位の置換基,3位の水酸基,並びに2位の低級アルキル基の立体配置はR配置,S配置の何れの化合物も本発明に包含される.
【0029】
本発明の一般式(I)の化合物のうち,特に好ましい具体的化合物としては,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノエチル-3,25-ジオールである.
【0030】
一般式(IV)で表される化合物の定義において,R及びRの定義は上記一般式(I)の定義と同一であり,好ましい基として挙げられるものも上記一般式(I)のR及びRと同一である.
【0031】
における水酸基の保護基としては,アシル基,置換シリル基,置換アルキル基などが挙げられ,好ましくはアシル基,置換シリル基である.
【0032】
アシル基とは置換されたカルボニル基を意味し,ここでいうカルボニル基の置換基とは,水素原子,置換基を有してもいてよい低級アルキル基,置換基を有していてもよいアリール基,置換基を有していてもよい低級アルキルオキシ基,置換基を有していてもよいアリールオキシ基,置換基を有していてもよいアルキルオキシ基等を意味する.アシル基は,好ましくはホルミル基,低級アルキルカルボニル基,置換基を有していてもよいフェニルアルキルオキシカルボニル基などを示し,さらに好ましくはホルミル基,アセチル基,プロピオニル基,ブチリル基,ピバロイル基,ベンゾイル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,t-ブトキシカルボニル基,ベンジルオキシカルボニル基等を示す.
【0033】
置換シリル基とは,1以上の置換基を有していてもよい低級アルキル基または置換基を有していてもよいアリール基などで置換されたシリル基を意味し,好ましくは3置換されたシリル基を示す.置換シリル基の好ましい例としては,トリメチルシリル基,トリエチルシリル基,トリイソプロピルシリル基,t-ブチルジフェニルシリル基,t-ブチルジメチル基などが挙げられる.
【0034】
置換アルキル基とは1以上の置換基で置換されているアルキル基を示し,ここで置換基の好ましい例としては,置換基を有していてもよいアルキルオキシ基や置換基を有していてもよいアリール基が挙げられ,特に置換基を有していてもよいアルキルオキシ基が挙げられる.アルキルオキシ基などの置換基を有していてもよいアルキルオキシ基で置換された置換アルキル基としては,例えばメトキシメチル基,2-メトキシエトキシメチル基の他にテトラヒドロピラン-2-イル基などが挙げられる.また置換基の例としては,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,アミノ基,水酸基,アルキル基,アルキルオキシ基,アシルオキシ基,スルホニル基等が挙げられる.
【0035】
本発明の一般式(I)のビタミンD誘導体は新規化合物であり,その合成法は何ら限定されないが,例えば,下記の実施例及び参考例に示すように,ビタミンD誘導体のA環部分とCD環部分とを別途に合成または入手し,それらをカップリングさせる方法を挙げることができる.
【0036】
ビタミンD誘導体のCD環部分の化合物は公知である.あるいは,公知のCD環部化合物から出発して側鎖を適宜修飾して所望のCD環部化合物を得ることができる.あるいはまた,対応する側鎖を有する公知のビタミンD誘導体から得ることもできる.
【0037】
このような公知のビタミンD誘導体としては,例えば,特許文献5または特許文献6などに記載のビタミンD誘導体を挙げることができる.
【0038】
即ち,このようなビタミンD誘導体の水酸基を保護基で保護した後,オゾン分解し,次いで,NaBH還元することにより8位に水酸基を有するアルコール化合物を得ることができる.これを適当な酸化剤で酸化することにより8位にオキソ基を有するケトン化合物を得,さらに8位のオキソ基をブロモメチレン基に変換することにより所望の側鎖を有するCD環部化合物を得ることができる.
【0039】
本発明の一般式(I)の化合物を合成するのに有用なA環部化合物である一般式(IV)の化合物もまた新規化合物であり,本発明の一側面を形成する.2α位に置換基を有するA環部化合物は,下記に実施例及び参考例に述べる方法で3-ブテン-1-オール等を出発物質として合成することができるが,特にこれに限定されるものではない.なお,下記の実施例に述べる化合物以外の化合物を合成する場合も,対応する出発物質を用いて同様に合成できる.
【0040】
以下,一般式(IV)の化合物の合成法について説明する.
先ず,出発物質として3-ブテン-1-オールを使用し,非特許文献2に記載の方法で合成した(S)-2-[2-(4-メトキシフェノキシ)エチル]オキシランに,保護したエチニル基を導入する.ビタミンD化合物において3位に相当する第二級水酸基を保護した後,第一級水酸基の保護基を除去する.次いで,この第一級水酸基を酸化し,カルボン酸のメチルエステルと導く.ビタミンD化合物において3位に相当する第二級水酸基の保護基を除去して,アリル基を立体選択的に導入する.保護基を適宜導入することで,2α位にメトキシカルボニル基を有する所望のA環部化合物を得ることができる.
【0041】
この2α位にメトキシカルボニル基を有するA環部化合物を重要な中間体化合物として,2α位に,末端がカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を有するビタミンD誘導体のA環部化合物を合成することができる.例えば,2α位に相当するメトキシカルボニル基を還元してヒドロキシメチル基へ変換し,得られた第一級水酸基にシアノ基を導入してシアノメチル基に変換する.シアノ基を還元してアルデヒドに導き,メトキシカルボニル基から一炭素増炭したメトキシカルボニルメチル基を有するA環部化合物を得ることができる.上記の一連の反応を繰り返すことにより,所望の炭素数の2α位に置換基を有するビタミンD誘導体のA環部化合物を合成できる.
【0042】
A環化合物とCD環化合物のカップリング反応は,公知の常法により行うことができる.即ち,各々上記方法で得られるA環部分との結合点にブロモメチレン基を有するCD環化合物と,片方の末端に三重結合を有し他方の末端に二重結合を有するA環部前駆体化合物とをパラジウム触媒(例えばPd(PPh)と一緒に,好適な溶媒中で反応させることでカップリングさせることができる.
【0043】
カップリング反応後,薄層クロマトグラフィーなどの常法により生成物を精製し,さらに水酸基の保護基を除去することで目的とする2α位に置換基を有するビタミンD誘導体を得ることができる.
【0044】
本発明の化合物は,製薬上許容しうる担体,賦型剤,崩壊剤,潤沢剤,結合剤,荒涼,着色剤等とともに,適当な剤型に製剤化して用いるのが好ましく,そのような剤型としては,錠剤,顆粒剤,細粒剤,カプセル剤,散剤,注射剤,溶液剤,懸濁剤,乳剤,経皮吸収剤,座剤等が挙げられる.
【0045】
本発明の化合物の投与経路は特に限定されず,経口投与でも非経口投与(静脈内投与,筋肉内投与,腹腔内投与,経皮投与など)でもよい.
本発明の化合物の投与量は,対象疾患,患者の状態,体型,体質,年齢,性別,または投与経路,剤型等により適宜選択することができるが,一般に投与量の下限として,成人1日あたり0.001μg〜0.1μgの範囲,好ましくは0.01μg前後で,投与量の上限としては成人1日あたり100μg〜10000μgの範囲,好ましくは200μg〜1000μgの範囲内で選択でき,1日1〜3回に分けて投与することができる.
【0046】
以下本発明を,実施例及び参考例を用いてより具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例によって限定されることはない.
【実施例】
【0047】
参考例1:2α位に置換基を有するビタミンD誘導体の合成用のA環部化合物の中間体化合物の合成.
参考例1で行った反応スキームを下記に示す.
【0048】
【化5】

【0049】
(1)(R)-6-(t-ブチルジメチルシリル)-1-(4-メトキシフェノキシ)ヘキシ-5-イン-3-オール(化合物3)の合成
t-ブチルジメチルシリルアセチレン(1.8g,12.8mmol)を無水テトラヒドロフラン(5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,n-ブチルリチウム(1.58Mヘキサン溶液,6.3mL,10mmol)を滴下した.反応液をそのままの温度で40分撹拌した.非特許文献2の方法により3-ブテン-1-オール(化合物1)から4工程で合成した(S)-2-[2-(4-メトキシフェノキシ)エチル]オキシラン(化合物2;971mg,5.00mmol)を無水テトラヒドロフラン(5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下-78°Cに冷却した後,上記反応液を10分かけて滴下した.反応液に三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル複合体(781mg,5.5mmol)を滴下し,そのままの温度で40分撹拌した.反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ,酢酸エチル抽出し,有機層を飽和食塩水で洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 5:95→1:3)で精製し,無色油状の化合物3(1.59g,95%)を得た.
【0050】
(2)(R)-3-(ベンジルオキシメトキシ)-6-(t-ブチルジメチルシリル)-1-(4-メトキシフェノキシ)ヘキシ-5-イン(化合物4)の合成
化合物3(2.65g,7.93mmol)とジイソプロピルエチルアミン(4.10g,31.7mmol)を無水ジクロロメタン(30mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,ベンジルオキシメチルクロリド(3.73g,23.8mmol)を滴下した.反応液を室温とし終夜撹拌した.反応液を酢酸エチル(250mL)で希釈し,それをそれぞれ30mLの水,1mol/L塩酸,飽和食塩水で洗浄した.有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 5:95→1:3)で精製し,無色油状の化合物4(3.04g,84%)を得た.
【0051】
(3)(R)-3-(ベンジルオキシメトキシ)-6-(t-ブチルジメチルシリル)ヘキシ-5-イン-1-オール(化合物5)の合成
化合物4(5.14g,11.3mmol)をアセトニトリル(108mL)と水(27mL)に溶解し,0°Cに冷却した後,硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(14.8g,27.1mmol)を加え,反応液を10分撹拌した.反応液に酢酸エチル(300mL)と飽和食塩水(40mL)を加えて有機層を分離した.有機層をそれぞれ40mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液,飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 5:95→1:3)で精製し,無色油状の化合物5(3.45g,88%)を得た.
【0052】
(4)(R)-3-(ベンジルオキシメトキシ)-6-(t-ブチルジメチルシリル)ヘキシ-5-イナール(化合物6)の合成
無水ジメチルスルホキシド(4.1mL,57mmol)を無水ジクロロメタン(5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下-78°Cに冷却した後,オキサリルクロリド(2.5mL,29mmol)を無水ジクロロメタン(5mL)に溶解して滴下した.反応液をそのままの温度で1時間撹拌した.化合物5(4.32g,12.4mmol)を無水ジクロロメタン(20mL)に溶解した溶液に,上記反応液を10分かけて滴下し,反応液をそのままの温度で1時間撹拌した.反応液にトリエチルアミン(15.2mL,109mmol)を滴下し,そのままの温度で2時間,さらに-40°Cに昇温して1時間撹拌した.反応混合物に水(20mL)を加え,ジエチルエーテル抽出し,有機層を飽和食塩水で洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 1:4→1:2)で精製し,無色油状の化合物6(4.07g,95%)を得た.
【0053】
(5)メチル (R)-3-(ベンジルオキシメトキシ)-6-(t-ブチルジメチルシリル)ヘキシ-5-イノエート(化合物7)の合成
化合物6(3.98g,11.5mmol)を無水ジメチルホルムアミド(64mL)に溶解し,無水メタノール(4.5mL)を加える.アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,ピリジニウムジクロメート(25.9g,68.9mmol)を加え,室温にて2時間半撹拌した.反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物7(4.10g,95%)を得た.
【0054】
(6)メチル (R)-6-(t-ブチルジメチルシリル)-3-ヒドロキシヘキシ-5-イノエート(化合物8)の合成
化合物7(3.47g,9.21mmol)を無水ジクロロメタン(90mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,チオフェノール(1.4mL,13.8mmol)を加える.反応液を-78°Cに冷却した後,三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル複合体(2.3mL,18.4mmol)を滴下し,そのままの温度で70分撹拌し,さらに-40°Cに昇温して終夜撹拌した.反応液にリン酸緩衝液(30mL)を加えて,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物8(1.89g,80%)を得た.
【0055】
(7)メチル (2R,3R)-2-アリル-6-(t-ブチルジメチルシリル)-3-ヒドロキシヘキシ-5-イノエート(化合物9)の合成
化合物8(240mg,0.94mmol)を無水テトラヒドロフラン(0.94mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下-78°Cに冷却した後,LiHMDS(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,1.9mL,1.9mmol)を滴下し,そのままの温度で80分撹拌した.反応液に臭化アリル(0.49mL,5.6mmol)を加えて1時間半撹拌し,0℃に昇温して2時間半撹拌した.反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(10mL)を加えて,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:7)で精製し,無色油状の化合物10(173mg,62%)を得た.
【0056】
(8)メチル (2R,3R)-2-アリル-3-ヒドロキシヘキシ-5-イノエート(化合物10)の合成
化合物9(255mg,0.86mmol)をテトラヒドロフラン(5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.95mL,0.95mmol)を加えて,終夜撹拌した.反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(10mL)を加えて,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:4→1:2)で精製し,無色油状の化合物10(147mg,94%)を得た.
【0057】
(9)メチル (2R,3R)-2-アリル-3-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキシ-5-イノエート(化合物11)の合成
化合物10(672mg,3.69mmol)を無水ジクロロメタン(20mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,2,6-ルチジン(1.7mL,7.4mmol)とt-ブチルジメチルシリル トリフルオロメタンスルホネート(1.3mL,5.5mmol)を加えて,30分撹拌した.反応液をジクロロメタン(100mL)で希釈し,水(15mL)で洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物11(1.08g,99%)を得た.
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.05 (3 H, s), 0.09 (3 H, s), 0.87 (9 H, s), 2.00 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.25-2.35 (2 H, m), 2.39 (1 H, ddd, J = 17.0, 4.8, 2.8 Hz), 2.51 (1 H, ddd, J = 17.0, 5.7, 2.8 Hz), 2.85 (1 H, dt, J = 9.6, 4.6 Hz), 3.66 (3 H, s), 4.01 (1 H, q, J = 4.6 Hz), 5.02 (1 H, dd, J= 10.1, 1.2 Hz), 5.07 (1 H, ddd, J = 17.0, 3.0, 1.6 Hz), 5.75 (1 H, ddt, J= 17.0, 10.1, 7.1 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C16H28NaO3Si: 319.1700, found: 319.1696

【実施例1】
【0058】
2α位に置換基を有するビタミンD誘導体の合成用のA環部化合物の合成

実施例1で行った反応スキームを下記に示す.
【0059】
【化6】

【0060】
(1)(2S,3R)-2-アリル-3-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキシ-5-イン-1-オール(化合物12)の合成
化合物11(153mg,0.52mmol)を無水テトラヒドロフラン(1mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,水素化ホウ素リチウム(2.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.78mL,1.6mmol)を加えて,室温まで昇温し終夜撹拌した.反応液に氷水を加えた後,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物11(131mg,95%)を得た.
【0061】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.12 (6 H, s), 0.90 (9 H, s), 1.92 (1 H, m), 2.01 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.21 (1 H, quintet, J = 6.9 Hz), 2.34 (1 H, quintet, J = 6.9 Hz), 2.47 (1 H, ddd, J = 17.0, 5.0, 2.8 Hz), 2.57 (1 H, ddd, J = 17.0, 8.5, 2.7 Hz), 2.65 (1 H, dd, J = 8.2, 3.0 Hz), 3.65 (1 H, ddd, J = 12.6, 8.2, 4.6 Hz), 3.94 (1 H, t, J = 3.0 Hz), 3.99 (1 H, ddd, J = 12.2, 6.4, 3.4 Hz), 5.07 (1 H, d, J = 10.1 Hz), 5.12 (1 H, dq, J = 17.2, 1.6 Hz), 5.83 (1 H, ddt, J = 17.0, 10.1, 7.1 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C15H28NaO2Si: 291.1743, found: 291.1751
【0062】
(2)(3S,4R)-3-アリル-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘプト-6-インニトリル(化合物13)の合成
化合物12(152mg,0.57mmol)を無水ジクロロメタン(3mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,4-ジメチルアミノピリジン(208mg,1.70mmol)と2-メシチレンスルホニルクロリド(248mg,1.13mmol)を加えて,80分撹拌した.反応液をジエチルエーテル(80mL)で希釈し,それぞれ10mLの水,飽和食塩水でそれぞれ洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去した.得られた残渣(323mg)を精製することなく無水ジメチルスルホキシド(3mL)に溶解し,シアン化ナトリウム(84mg,1.71mmol)を加えて,45°Cの油浴上で5時間半撹拌した.反応液を放冷後,ジエチルエーテル(90mL)で希釈し,10mLの水,飽和食塩水でそれぞれ洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物13(151mg,96%)を得た.
【0063】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.10 (3 H, s), 0.11 (3 H, s), 0.90 (9 H, s), 2.04 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.19-2.28 (3 H, m), 2.37-2.52 (4 H, m), 3.85 (1 H, ddd, J = 6.8, 4.8, 3.9 Hz), 5.14 (1 H, d, J = 10.3 Hz), 5.17 (1 H, d, J = 17.3 Hz), 5.75 (1 H, ddt, J = 17.3, 10.3, 6.6 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C16H27NNaOSi: 300.1751, found: 300.1754
【0064】
(3)(3S,4R)-3-アリル-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘプト-6-イナール(化合物14)の合成
化合物13(318mg,1.15mmol)を無水ジクロロメタン(6.5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下-70°Cに冷却した後,水素化ジイソブチルアルミニウム(1.0Mトルエン溶液,1.4mL,1.4mmol)を滴下し,そのままの温度で1時間40分撹拌した.反応液にメタノール(3mL)と飽和塩化アンモニウム水溶液(3mL)を加えた後,ジエチルエーテル(50mL)で希釈してセライト濾過した.水層を酢酸エチルで抽出し,あわせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去した.得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物14(310mg,96%)を得た.
【0065】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.071 (3 H, s), 0.079 (3 H, s), 0.89 (9 H, s), 2.02 (1 H, t, J= 2.8 Hz), 2.10 (1 H, quintet, J = 7.6 Hz), 2.25 (1 H, quintet, J = 6.6 Hz), 2.31-2.56 (5 H, m), 3.87 (1 H, ddd, J= 8.3, 5.3, 3.2 Hz), 5.05-5.10 (2 H, m), 5.75 (1 H, ddt, J = 17.2, 9.8, 6.9 Hz), 9.79 (1 H, dd, J = 2.5, 1.8 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C16H28NaO2Si: 303.1751, found: 303.1742
【0066】
(4)メチル (3S,4R)-3-アリル-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘプト-6-イノエート(化合物15)の合成
化合物14(28mg,0.10mmol)を無水ジメチルホルムアミド(0.6mL)に溶解し,無水メタノール(0.04mL)を加える.アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,ピリジニウムジクロメート(225mg,0.60mmol)を加え,室温にて5時間撹拌した.反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物15(26mg,84%)を得た.
【0067】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.06 (3 H, s), 0.07 (3 H, s), 0.87 (9 H, s), 1.99 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.05 (1 H, m), 2.22 (1 H, dd, J= 15.3, 7.3 Hz), 2.28-2.36 (3 H, m), 2.44 (1 H, dd, J = 15.5, 5.0 Hz), 3.65 (3 H, s), 3.87 (1 H, dt, J = 3.0, 6.4 Hz), 5.00-5.07 (2 H, m), 5.74 (1 H, ddt, J = 17.1, 10.1, 6.9 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C17H30NaO3Si: 333.1856, found: 333.1875
【0068】
(5)(3S,4R)-3-アリル-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ヘプト-6-イン-1-オール(化合物16)の合成
化合物15(142mg,0.46mmol)を無水テトラヒドロフラン(1.5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,水素化ホウ素リチウム(2.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.64mL,1.3mmol)を加えて,室温まで昇温し終夜撹拌した.反応液に氷水を加えた後,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物16(102mg,78%)を得た.
【0069】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.10 (3 H, s), 0.11 (3 H, s), 0.91 (9 H, s), 1.69 (2 H, dd, J = 11.7, 6.0 Hz), 1.99 (1 H, t, J = 2.7 Hz), 2.02 (1 H, m), 2.16 (2 H, m), 2.39 (1 H, ddd, J = 16.7, 5.7, 2.7 Hz), 2.40 (1 H, m), 2.50 (1 H, ddd, J = 16.7, 8.4, 2.7 Hz), 3.60 (1 H, m), 3.70 (1 H, m), 3.91 (1 H, ddd, J = 8.5, 5.8, 3.0 Hz), 5.05 (1 H, d, J = 10.1 Hz), 5.07 (1 H, d, J = 17.0 Hz), 5.77 (1 H, ddt, J = 17.0, 10.1, 7.1 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C16H30NaO2Si: 305.1907, found: 305.1894
【0070】
(6)(4R,5R)-4-アリル-5-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)オクト-7-インニトリル(化合物17)の合成
化合物16(321mg,1.14mmol)を無水ジクロロメタン(6mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,4-ジメチルアミノピリジン(418mg,3.42mmol)と2-メシチレンスルホニルクロリド(499mg,2.28mmol)を加えて,4時間撹拌した.反応液をジエチルエーテル(100mL)で希釈し,それぞれ10mLの水,飽和食塩水でそれぞれ洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去した.得られた残渣(694mg)を精製することなく無水ジメチルスルホキシド(6mL)に溶解し,シアン化ナトリウム(279mg,5.70mmol)を加えて,50°Cの油浴上で2時間撹拌した.反応液を放冷後,ジエチルエーテル(80mL)で希釈し,飽和食塩水で洗浄した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 1:9→1:4)で精製し,無色油状の化合物17(279mg,84%)を得た.
【0071】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.07 (3 H, s), 0.08 (3 H, s), 0.88 (9 H, s), 1.68 (1 H, m), 1.85 (1 H, m), 1.90 (1 H, m), 2.02 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.06 (1 H, quintet, J = 7.1 Hz), 2.30-2.52 (4 H, m), 3.86 (1 H, ddd, J = 8.5, 5.8, 3.2 Hz), 5.08 (1 H, d, J = 10.8 Hz), 5.09 (1 H, d, J = 16.5 Hz), 5.76 (1 H, m)
HRMS (ESI) calcd. for C17H29NNaOSi: 314.1911, found: 314.1904
【0072】
(7)(4R,5R)-4-アリル-5-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)オクト-7-イナール(化合物18)の合成
化合物13(229mg,0.78mmol)を無水ジクロロメタン(5mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下-78°Cに冷却した後,水素化ジイソブチルアルミニウム(1.0Mトルエン溶液,0.94mL,0.94mmol)を滴下し,そのままの温度で2時間半撹拌した.反応液にメタノール(2mL)と飽和塩化アンモニウム水溶液(2mL)を加えた後,ジエチルエーテル(50mL)で希釈してセライト濾過した.水層を酢酸エチルで抽出し,あわせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去した.得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物18(223mg,93%)を得た.
【0073】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.06 (3 H, s), 0.08 (3 H, s), 0.88 (9 H, s), 1.60 (1 H, m), 1.78 (2 H, m), 1.98 (1 H, t, J = 2.8 Hz), 2.03 (1 H, quintet, J = 7.6 Hz), 2.20 (1 H, quintet, J = 7.6 Hz), 2.37 (2 H, m), 2.51 (2 H, m), 3.86 (1 H, dt, J = 2.7, 6.4 Hz), 5.05 (1 H, d, J = 10.1 Hz), 5.06 (1 H, d, J = 17.0 Hz), 5.75 (1 H, ddt, J = 17.0, 10.1, 6.9 Hz), 9.77 (1 H, m)
HRMS (ESI) calcd. for C17H30NaO2Si: 317.1907, found: 317.1896
【0074】
(8)メチル (4R,5R)-4-アリル-5-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)オクト-7-イノエート(化合物19)の合成
化合物18(223mg,0.76mmol)を無水ジメチルホルムアミド(4.6mL)に溶解し,無水メタノール(0.3mL)を加える.アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,ピリジニウムジクロメート(1.71g,4.54mmol)を加え,室温にて5時間40分撹拌した.反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:9)で精製し,無色油状の化合物19(198mg,80%)を得た.
【0075】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS) d 0.06 (3 H, s), 0.08 (3 H, s), 0.89 (9 H, s), 1.61 (1 H, m), 1.75 (2 H, m), 1.97 (1 H, t, J = 2.5 Hz), 2.02 (1 H, quintet, J = 6.9 Hz), 2.20 (1 H, quintet, J = 6.9 Hz), 2.35 (2 H, m), 2.43 (2 H, m), 3.67 (3 H, s), 3.86 (1 H, dt, J = 2.8, 6.6 Hz), 5.03 (1 H, dd, J = 10.1, 1.6 Hz), 5.06 (1 H, dd, J = 17.0, 1.6 Hz), 5.76 (1 H, ddt, J = 17.0, 10.1, 7.1 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C18H32NaO3Si: 347.2013, found: 347.1991
【0076】
参考例2:2α位に置換基を有するビタミンD誘導体の合成
参考例2で行った反応スキームを下記に示す.
【0077】
【化7】

【0078】
(1)(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニル-3,25-ジオール(化合物21)の合成
化合物11(32mg,0.11mmol)と非特許文献3の方法により合成した化合物20(69mg,0.19mmol)をトルエン(4.5mL)とトリエチルアミン(1.5mL)に溶解し,テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(62mg,0.054mmol)を加えて,アルゴン雰囲気下130°Cの油浴上で50分撹拌した.反応液を放冷後,ペンタンで希釈し,シリカゲルパッドを用いて濾過した.溶媒を減圧溜去して得られた残渣(150mg)を精製することなくテトラヒドロフラン(1mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.13mL,0.13mmol)を滴下した.そのままの温度で40分撹拌し,室温に昇温して2時間半撹拌した.テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.065mL,0.065mmol)を追加し,さらに1時間15分撹拌した.反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(5mL)を加えて,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:4→1:2)で精製し,無色油状の化合物21(28mg,55%)を得た.
【0079】
1H NMR (400 MHz, CDCl3-D2O, TMS) d 0.53 (3 H, s), 0.93 (3 H, d, J = 6.4 Hz), 1.21 (6 H, s), 2.27 (2 H, m), 2.53 (1 H, m), 2.62 (1 H, m), 2.81 (1 H, m), 3.74 (3 H, s), 3.98 (1 H, dt, J = 4.6, 9.8 Hz), 4.89 (1 H, s), 5.11 (1 H, s), 5.97 (1 H, d, J= 11.2 Hz), 6.26 (1 H, d, J = 11.2 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C29H46NaO4: 481.3288, found: 481.3296
【0080】
(2)(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシ-3,25-ジオール(化合物22)の合成
化合物21(12mg,26μmol)をメタノール(1mL)に溶解し0°Cに冷却した後,1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(78μL)を滴下し,そのままの温度で1時間半撹拌した.反応液を室温に昇温し7時間撹拌後,1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(26μL)を追加しさらに1時間半撹拌した.反応液に水(1mL)と飽和食塩水(1mL)を加えた後,メタノールを減圧溜去した.残渣を0°Cに冷却し,水(2mL)と酢酸(124μL)を加えて中和し,酢酸エチルで抽出した.有機層を飽和食塩水で洗浄,硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して,無色結晶の化合物22(12mg,q.y.)を得た.さらにクロロホルムを用いて再結晶した.
【0081】
1H NMR (400 MHz, CDCl3-D2O, TMS) d 0.53 (3 H, s), 0.93 (3 H, d, J = 6.4 Hz), 1.21 (6 H, s), 2.31 (2 H, m), 2.57 (1 H, m), 2.67 (1 H, m), 2.82 (1 H, m), 3.51 (1 H, br.s), 3.99 (1 H, dt, J = 4.3, 9.8 Hz), 4.91 (1 H, s), 5.14 (1 H, s), 5.98 (1 H, d, J = 11.2 Hz), 6.27 (1 H, d, J= 11.4 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C28H44NaO4: 467.3132, found: 467.3098

【実施例2】
【0082】
2α位に置換基を有するビタミンD誘導体の合成

実施例2で行った反応スキームを下記に示す.
【0083】
【化8】

【0084】
(1)(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルメチル-3,25-ジオール(化合物23)の合成
化合物19(79mg,0.25mmol)と非特許文献3の方法により合成した化合物20(100mg,0.28mmol)をトルエン(10mL)とトリエチルアミン(3.5mL)に溶解し,テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(87mg,0.075mmol)を加えて,アルゴン雰囲気下130°Cの油浴上で1時間35分撹拌した.反応液を放冷後,ジエチルエーテルで希釈し,シリカゲルパッドを用いて濾過した.溶媒を減圧溜去して得られた残渣(145mg)を精製することなくテトラヒドロフラン(1mL)に溶解し,アルゴン雰囲気下0°Cに冷却した後,テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.5mL,0.5mmol)を滴下した.そのままの温度で70分撹拌し,室温に昇温して7時間撹拌した.反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(5mL)を加えて,ジクロロメタン抽出した.得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸メチル/ヘキサン 1:2)で精製し,無色油状の化合物23(64mg,54%)を得た.
【0085】
1H NMR (400 MHz, CDCl3-D2O, TMS) d 0.53 (3 H, s), 0.93 (3 H, d, J = 6.4 Hz), 1.06 (1 H, m), 1.21 (6 H, s), 2.27 (1 H, m), 2.30 (1 H, dd, J = 15.4, 6.9 Hz), 2.43 (1 H, dd, J = 13.3, 4.1 Hz), 2.61 (2 H, m), 2.81 (1 H, m), 3.51 (1 H, dd, J = 4.2, 9.4 Hz), 3.70 (3 H, s), 4.85 (1 H, s), 5.05 (1 H, s), 5.99 (1 H, d, J= 11.2 Hz), 6.23 (1 H, d, J = 11.2 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C30H48NaO4: 495.3445, found: 495.3466
【0086】
(2)(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシメチル-3,25-ジオール(化合物24)の合成
化合物23(3mg,6μmol)をメタノール(0.5mL)に溶解し0°Cに冷却した後,1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(19μL)を滴下し,反応液を室温に昇温し6時間10分撹拌後,1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(19μL)を追加しさらに2時間50分撹拌した.さらに1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(38μL)を追加し終夜撹拌した.反応液に水(0.5mL)と飽和食塩水(0.5mL)を加えた後,メタノールを減圧溜去した.残渣を0°Cに冷却し,水(1mL)と酢酸(5μL)を加えて中和し,酢酸エチルで抽出した.有機層を飽和食塩水で洗浄,硫酸ナトリウムで乾燥し,濾過後,溶媒を減圧溜去して,無色油状の化合物24(3mg,q.y.)を得た.
【0087】
1H NMR (400 MHz, CDCl3-D2O, TMS) d 0.53 (3 H, s), 0.93 (3 H, d, J = 6.2 Hz), 1.21 (6 H, s), 2.29 (1 H, m), 2.33 (1 H, dd, J = 15.8, 6.2 Hz), 2.47 (1 H, dd, J = 13.0, 3.4 Hz), 2.60 (1 H, 1 H, dd, J= 12.8, 4.1 Hz), 2.66 (1 H, 1 H, dd, J= 15.8, 6.0 Hz), 2.81 (1 H, m), 3.55 (1 H, dd, J = 3.9, 9.2 Hz), 4.85 (1 H, s), 5.07 (1 H, s), 5.98 (1 H, d, J = 11.2 Hz), 6.23 (1 H, d, J = 11.2 Hz)
HRMS (ESI) calcd. for C29H46NaO4: 481.3288, found: 481.3302
【0088】
試験例1:ビタミンDレセプター(VDR)への結合実験
ウシ胸腺1α,25-ジヒドロキシビタミンD受容体をヤマサ醤油株式会社から購入し,1アンプルを0.05Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)70mLに溶解した.各種濃度の1α,25-ジヒドロキシビタミンD,25-ヒドロキシビタミンD,比較化合物21〜22,または本発明化合物23〜24のメタノール溶液50μLとレセプター溶液500μLとを室温で1時間インキュベーションした後,[H]-1α,25-ジヒドロキシビタミンDを最終濃度0.1nMとなるように加えて4℃で一晩インキュベーションした.結合と非結合の[H]-1α,25-ジヒドロキシビタミンDは,デキストラン被覆チャコールで4℃30分間処理して遠心分離し(3000rpm,10分間),上清500μLを液シンカクテル9.5mL(ACS-II)と混合し,放射活性を測定した.
【0089】
比較化合物21〜22及び化合物本発明化合物23〜24のVDRへの結合能は,50%結合阻害濃度を25-ヒドロキシビタミンDを1としたときの比で表し評価した.結果を表1に示す.
【0090】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の一般式(I)(II)(III)で表されるビタミンD誘導体はいずれも新規化合物であり,1位水酸基の代替としてこれまでにない官能基を持つことから, 医薬として有用である可能性がある.また,本発明の化合物は,活性型ビタミンD(即ち,1α,25-ジヒドロキシビタミンD)の代謝研究において有用な試薬となりうる可能性がある.さらに,本発明の化合物が有する官能基の特長から,pH依存的薬物デリバリーリポソームの医薬組成物として有用である可能性がある.


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中,Rは1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表す)で示されるビタミンD誘導体.
【請求項2】
一般式(II):
【化2】

(式中,Rは1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表す)で示されるビタミンD誘導体.
【請求項3】
一般式(III):
【化3】

(式中,Rは1〜3個の水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜15の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表す)で示されるビタミンD誘導体.
【請求項4】
がカルボキシメチル基,メトキシカルボニルメチル基,シアノメチル基,カルボキシエチル基,メトキシカルボニルエチル基,シアノエチル基のいずれかである,請求項1から3のいずれか1項に記載のビタミンD誘導体.
【請求項5】
が4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基である,請求項1から4のいずれか1項に記載のビタミンD誘導体.
【請求項6】
(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2S,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノメチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-カルボキシエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-メトキシカルボニルエチル-3,25-ジオール,(5Z,7E)-(2R,3R)-9,10-セコ-5,7,10(19)-コレスタトリエン-2-シアノエチル-3,25-ジオールからなる群から選択される化合物である,請求項1記載のビタミンD誘導体.
【請求項7】
一般式(IV):
【化4】

(式中,Rはカルボン酸又はスルホン酸,あるいはこれらの酸のエステル体,シアノ基から選択される同一または異なる1個以上の基で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基を表し,Rは水素原子又は水酸基を表し,Rは水素原子もしくは水酸基の保護基を表す)で示される化合物.
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載のビタミンD誘導体を有効成分として含む医薬品組成物.
【請求項9】
カルシウム代謝異常を伴う疾患の治療剤,抗腫瘍剤または免疫調節剤である,請求項6に記載の医薬組成物.


【公開番号】特開2011−32185(P2011−32185A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178092(P2009−178092)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月5日日本薬学会第129年会要旨集要旨集2 第144ページ
【出願人】(309021423)
【Fターム(参考)】