説明

2−ケトカルボン酸の製造方法

本発明は、一般式R1−CO−COOH [式中、R1は3〜7つの炭素原子を有する分枝アルキル基である]を有する2−ケトカルボン酸、またはそれらの塩の製造方法であって、微生物を培地内で成長させて2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する発酵段階を含む、製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−ケトカルボン酸、特に2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸、および/または2−ケト−3−メチルペンタン酸の、発酵段階を使用した製造方法に関する。
【0002】
2−ケトカルボン酸は薬学において有用な化合物であり、且つ、除草剤および殺菌剤の合成のために使用される。2−ケトカルボン酸は、LDLコレステロール、トリグリセリド、および血漿中の遊離基の水準を低減することが知られている。特に、2−ケトイソ吉草酸は、腎不全の患者のための栄養補助食品として使用される。
【0003】
2−ケトカルボン酸、例えば2−ケトイソバレレートを、化学合成により製造することは、従来技術において公知である。例えば、化学合成による2−ケトイソバレレートの製造は、CrO3を使用してそれぞれの2−ヒドロキシイソ吉草酸エチルエステルを酸化すること、および次に該エステルを鹸化して2−ケトイソバレレートをもたらすことによる、2つの段階で行われる。この方法は、高温、毒性のCrO3、および様々な環境に有害な溶剤の使用という欠点を含む。
【0004】
生合成において、2−ケトカルボン酸は、それぞれのアミノ酸のための直接的な前駆体であり、例えば、2−ケトイソバレレートはアミノ酸バリンの直接的な前駆体である。微生物中で、2−ケトイソバレレートは細胞内で生成され、且つ、培地中に排出される。先行技術において、2−ケト酸は、発酵によるそれぞれのアミノ酸の製造のための前駆体として使用されることが記載されている(GB2161159号; GB2147579号)。
【0005】
文献内で、微生物が2−ケトカルボン酸、例えば2−ケトイソバレレートを生成することが知られているにもかかわらず、これまで、発酵の使用により、2−ケトカルボン酸を高純度で製造し且つ単離するための方法が記載されているのではなく、2−ケトカルボン酸は中間生成物またはアミノ酸の製造のための出発物質(educt)としてのみ言及されていた。
【0006】
問題および解決
本発明の目的は、2−ケトカルボン酸、特に2−ケトイソバレレート、2−ケト−4−メチルペンタン酸、および/または2−ケト−3−メチルペンタン酸の製造方法であって、化学合成の欠点を回避する、製造方法を提供することであった。
【0007】
この課題は、一般式(I) R1−CO−COOH [式中、R1は3〜7つの炭素原子を有する分枝アルキル基である]を有する2−ケトカルボン酸、またはそれらの塩の製造方法であって、以下の段階
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する、発酵段階
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、イオン交換、抽出工程、蒸留工程からなる群から選択される1つまたはそれより多くの段階に供する段階
を含む製造方法によって解決される。
【0008】
本発明の好ましい実施態様において、該工程は以下の段階を含む:
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスをイオン交換に供する段階、
c) 好ましくは、段階b)において得られた溶出液を、イオン交換、抽出または蒸留からなる群から選択される1つまたはそれより多くのさらなる精製段階に供する段階、
d) 好ましくは段階c)で得られた生成物を、さらなる濃縮、沈殿または結晶化段階、またはそれらの組み合わせに供して、且つ、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を得る段階。
【0009】
本発明の好ましい実施態様において、該工程は以下の段階を含む:
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、発酵ブロスの初めのpHシフト(pH1への酸性化)の後、蒸留工程(水の添加を用いて、塔底(sump)が枯渇するまでの蒸気蒸留)のみに供する段階。
【0010】
この実施態様は、イオン交換処理の使用を回避する。驚くべきことに、この段階を用いて、ケト酸を非常に選択的に発酵ブロスから除去でき、且つ、他の有機酸は蒸留塔底に留まっていた。
【0011】
好ましい方法において、2−ケトカルボン酸は、一般式R1−CO−COOH [式中、R1は3、4または5つの炭素原子を有する分枝アルキル基である]を有する化合物、またはそれらの塩である。
【0012】
さらに好ましくは、R1は、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチルからなる群から選択される。なおさらに好ましいR1は、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチルからなる群から選択される。
【0013】
特に好ましい方法において、2−ケトカルボン酸は2−ケトイソ吉草酸またはそれらの塩である。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施態様において、段階a)において得られた培養ブロスは、少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも15g/l、およびさらに好ましくは少なくとも20g/l、および最も好ましくは少なくとも40g/lの2−ケトカルボン酸、好ましくは2−ケトイソ吉草酸またはそれらの塩を含有する。
【0015】
さらにより好ましくは、発酵段階のために使用される微生物は、式(I)の化合物、好ましくは2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸、および2−ケト−3−メチルペンタン酸からなる群から選択される化合物またはそれらの混合物を生成するための改善された能力を有している。
【0016】
好ましくは、発酵段階のために使用される微生物は、2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸および/または2−ケト−3−メチルペンタン酸を生成する能力が向上したコリネバクテリウム、特に好ましくはコリネバクテリウムグルタミクムである。1つまたはそれより多くのタンパク質、例えばトランスアミナーゼB(E.C.2.6.1.42、ilvE−遺伝子により符号化)、バリン−ピルビン酸トランスアミナーゼAvtA(E.C.2.6.1.66、avtA−遺伝子により符号化)、またはアラニントランスアミナーゼ(E.C.2.6.1.2、alaT−遺伝子により符号化)において減少または欠失しているコリネバクテリウム菌株を使用することが特に有用である。さらに、1つまたはそれより多くのタンパク質、例えばピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E.C.1.2.4.1、aceE遺伝子により符号化)、ピルビン酸キノンオキシドレダクターゼ(E.C.1.2.2.2、pqo遺伝子により符号化)、ホスホグルコイソメラーゼ(E.C.5.3.1.9、pgi遺伝子により符号化)のE1サブユニットにおいて減少または欠失しているコリネバクテリウム菌株の使用が有用である。良好な収率を達成するために、コリネバクテリウム菌株は、上述の遺伝子産物のいくつか、全て、または組み合わせにおいて、減少または欠失している。aceEの遺伝子産物は、ピルベートのアセチルCoAへの反応を触媒する。ilvEの遺伝子産物は、2−ケトイソ吉草酸のアミノ酸バリンへのアミノ交換を触媒する(それは1モルのグルタメートを、アミノ交換反応によってアルファ−ケトグルタラートに変換する)。avtAの遺伝子産物は、2−ケトイソ吉草酸のアミノ酸バリンへのアミノ交換を触媒する(それは1モルのアラニンを、アミノ交換反応によってピルベートに変換する)。alaT遺伝子の遺伝子産物は、ピルベートのアラニンへの反応を触媒する。pqoの遺伝子産物は、ピルベートのアセテートへの反応を触媒する。pgiの遺伝子産物は、グルコース−6−ホスフェートからフルクトース−6−ホスフェートへの反応を触媒する。
【0017】
さらには、コリネバクテリウム菌株は、任意の1つまたはそれより多くの、または全ての以下の好ましくは内生遺伝子ilvBN(アセトヒドロキシ酸シンターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.1.3.18)、ilvC(アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼを符号化している遺伝子、E.C.1.1.1.86)およびilvD(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.1.9)を過剰発現することができる。ilvBN、ilvCおよびilvD遺伝子は、ピルベートから2−ケトイソ吉草酸への代謝経路を示す酵素を符号化している。ケトメチルバレレートの生成のために、コリネバクテリウム菌株が、任意の1つまたはそれより多く、または全ての以下の好ましくは内生遺伝子ilvA(トレオニンデヒドラターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.1.16)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼを符号化している遺伝子、E.C.1.1.1.3)、thrB (ホモセリンキナーゼを符号化している遺伝子、E.C.2.7.1.39)、thrC (スレオニンシンターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.3.1)、lysC(アスパルトキナーゼを符号化している遺伝子、E.C.2.7.2.4)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(aat、E.C.2.6.1.1)、アスパルテートセミアルデヒド(semialdehyse)デヒドロゲナーゼ(asd、E.C.1.2.1.11)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc、E.C.6.4.1.1)を過剰発現することもできる。ケトイソカプロエート生成のために、コリネバクテリウム菌株は任意の1つまたはそれより多く、または全ての以下の好ましくは内生遺伝子 leuA(2−イソプロピルマレートシンターゼを符号化している遺伝子 (E.C.2.3.3.13)、leuB(3−イソプロピルマレートデヒドロゲナーゼ、E.C.1.1.1.85)、leuCD(3−イソプロピルマレートデヒドラターゼ、E.C.4.2.1.33)を過剰発現することもできる。
【0018】
特に好ましい実施態様において、菌株コリネバクテリウムは、遺伝子型Δ−aceE、Δ−ilvEを有し、且つ遺伝子ilvBN、ilvCおよびilvDを過剰発現し、且つ、2−ケトイソ吉草酸の製造のために使用される。
【0019】
コリネバクテリウムの他に、他の菌株、酵母、並びに真菌微生物、例えば大腸菌、バシラス属、ブレビバクテリウム属、プセウドモナス属、ストレプトミセス属を、本発明の発酵工程のために使用できる。
【0020】
さらに好ましい実施態様において、培養ブロスをイオン交換段階(b)に適用する前に、細胞および/または細胞破片を培養ブロスから除去する追加的な段階を行い、その際、この除去を好ましくはろ過、遠心分離、沈殿により、または前記方法の組み合わせによる行う。
【0021】
組み換え技術は当業者に公知である。以下の表は、使用された遺伝子のアクセッション番号を包含する。
【0022】
【表1】

【0023】
さらには、細胞および/または細胞破片を培養ブロスから除去した後、且つ、段階b)の前に、イオン交換樹脂または炭を使用することによって予備精製を行ってよい。
【0024】
該方法の好ましい実施態様においては、段階b)においてカチオン樹脂をイオン交換段階のために使用する。この段階は、アミノ酸およびカチオンを除去するために用いられる。好ましくは、カチオン樹脂は、スルホン官能性を有する強酸性交換樹脂、即ち、スルホン酸基を含む樹脂を含む。
【0025】
さらに好ましい実施態様においては、段階c)においてイオン交換のためにアニオン樹脂を使用する。この段階は、2−ケトカルボン酸(2−オキソカルボン酸)以外の酸を除去するために用いられる。好ましくは、アニオン樹脂は、アミン官能性を有する弱塩基性交換樹脂を含む。所望の生成物は、好ましくは、強酸、好ましくは塩酸を用いて、アニオン樹脂から溶出される。さらに好ましくは、アニオン樹脂からの溶出のための前記酸のモル濃度は、0.1N〜4N、さらに好ましくは1N〜3N、および最も好ましくは2.5N〜3Nである。
【0026】
選択的な実施態様においては、段階c)において蒸留、好ましくは蒸気蒸留を実施する。さらに好ましくは、該蒸留を10〜85℃、さらに好ましくは20〜75℃、さらにより好ましくは25〜70℃、および特に好ましくは35〜65℃の温度で実施する。
【0027】
さらに好ましい実施態様においては、蒸留に供された初めの溶液は1〜10、好ましくは1〜2のpHを有する。
【0028】
該蒸留を好ましくは10〜100mbar、さらに好ましくは20〜80mbar、さらにより好ましくは20〜65mbar、および特に好ましくは20〜25mbarの圧力で行う。
【0029】
本発明のさらに好ましい方法においては、沈殿および結晶化段階である段階d)において、2−ケトカルボン酸が、Ca2+、Mg2+、Na+、K+からなる群から選択されるものとの塩として、またはアミノ酸を伴う塩として得られる。特に好ましくは、溶液のpHは5.0〜6.0、好ましくは5.5〜6.0に、好ましくはCaCO3の添加によって設定される。引き続き、該溶液を減圧下で濃縮する。
【0030】
好ましくは、本発明の方法によって達成される、2−ケトカルボン酸またはその塩の純度は、60質量%またはそれより高く、さらに好ましくは80質量%またはそれより高く、最も好ましくは90%またはそれより高い。
【0031】
さらに好ましくは、少なくとも50質量%の2−ケトカルボン酸、好ましくは2−ケトイソバレレートの全体的な収率が達成される。
【0032】
さらに好ましい実施態様において、発酵用の培地は炭素源として再生可能な原料、好ましくはグルコース、サッカロースの群から選択される原料を含有する。
【0033】
本発明は、上述の本発明による方法によって得られる、一般式(I) R1−CO−COOH [式中、R1は3〜7つの炭素原子を有する分枝アルキル基である]を有する2−ケトカルボン酸、またはその塩、好ましくは2−ケトイソ吉草酸またはそれらの塩であって、60質量%より高い、好ましくは80質量%より高い、特に好ましくは90質量%より高い純度を有するものも提供する。
【0034】
実施例
実施例1: 2−ケトイソバレレートの製造 ((i)イオン交換、(ii)蒸留)
遺伝子型Δ−aceE、Δ−ilvEを有し、且つ遺伝子ilvBN、ilvCおよびilvDを過剰発現するコリネバクテリウムグルタミクム菌株を、振盪フラスコ内でLB培地を用い、定常相に達するまで培養した。培地は炭素源および窒素源を含有していた。培養ブロスを遠心分離して細胞および細胞破片を除去した。培養ブロスの上澄みは、pH6.7を有し、且つ、5g/lの2−ケトイソバレレートを含有した。
【0035】
引き続き、その上澄みを強カチオン樹脂(アンバーライト FPC 22Na)上で浸出させて、アミノ酸およびカチオン(主にNa+)を除去した。この段階のために、培養ブロス(上澄み)1000mlあたり350mlの樹脂体積が使用された。その後、該樹脂を1体積のH2Oを用いて洗浄し、そして溶出液留分を、ブリックス0.1未満(水溶液100部あたり(糖として)溶解された固体の、屈折計による濃度測定)に達するまで収集した。
【0036】
ブリックス7を有する溶出液をビュッヒ(Buech)蒸発器にて、60℃の温度および20〜25mbarの圧力で濃縮した。その受領物(receipt)を、もはやさらなる蒸留が生じなくなるまで収集し、且つ、油性の残留物が得られた。その油性の残留物をH2Oと共に添加し、且つ、もはや蒸留が生じなくなるまで濃縮を継続した。この段階を、関連の蒸留受領物が全体的に0.1未満のブリックスを有するまで、何度も繰り返した。
【0037】
引き続き、蒸留からの全ての受領物を貯め、且つ、pH5.5〜6.0に到達するまでCaCO3を添加した。該溶液を1〜5時間、2−ケトイソバレレートの質量あたり2質量%の活性炭を使用して脱色した。その後、該溶液を0.45μmのメンブレンを通してろ過して、炭を除去した。
【0038】
ろ液を、ビュッヒの蒸発器にて40〜45℃の温度および20〜25mbarの圧力で、結晶の懸濁液が得られるまで濃縮した。該懸濁液をゆっくりと20℃まで冷却し、そして20℃で少なくとも1時間後、結晶をガラス製漏斗にてろ過し、そしてH2Oを用いて洗浄した。
【0039】
湿ったケークを真空下、40〜45℃の温度で、一定の質量に到達するまで乾燥し、引き続き、2−ケトイソバレレートのCa2+塩として分析した。HPLCによる分析は、前記2−ケトイソバレレート塩の純度が90質量%より高いことを示した(表1参照)。
【0040】
表1: 実施例1によって得られた2−ケトイソバレレートの純度
【表2】

【0041】
実施例2: 2−ケトイソバレレートの製造 ((i)カチオンイオン交換、(ii)アニオンイオン交換)
遺伝子型Δ−aceE、Δ−ilvEを有し、且つ遺伝子ilvBN、ilvCおよびilvDを過剰発現するコリネバクテリウムグルタミクム菌株を、振盪フラスコ内でLB培地を用い、定常相に達するまで培養した。培地は炭素源および窒素源を含有していた。培養ブロスを遠心分離して細胞および細胞破片を除去した。培養ブロスの上澄みは、pH6.7を有し、且つ、5g/lの2−ケトイソバレレートを含有していた。
【0042】
その後、その上澄みを強カチオン樹脂(アンバーライト FPC 22Na)上で浸出させて、アミノ酸およびカチオン(主にNa+)を除去した。この段階のために、培養ブロス(上澄み)1000mlあたり350mlの樹脂体積が使用された。その後、該樹脂を1体積のH2Oを用いて洗浄し、且つ、溶出液留分を、ブリックス0.1未満に到達するまで収集した。
【0043】
ブリックス7を有する溶出液を、弱アニオン樹脂(アンバーライト IRA−67)にて浸出させて、塩基性の不純物を除去した。この段階のために、培養ブロス(上澄み)1000mlあたり750mlの樹脂体積が使用された。その後、該樹脂を、HCl 2.7Nを用いて溶出し、そして分析が塩化物の出現を示すまで、溶出液留分を収集した。
【0044】
引き続き、塩化物のない留分を貯め、且つ、pH5.5〜6.0に到達するまでCaCO3を添加した。該溶液を1〜5時間、2−ケトイソバレレートの質量あたり2質量%の活性炭を使用して脱色した。その後、該溶液を0.45μmのメンブレンを通してろ過して、炭を除去した。
【0045】
ろ液を、ビュッヒの蒸発器にて40〜45℃の温度および20〜25mbarの圧力で、結晶の懸濁液が得られるまで濃縮した。該懸濁液をゆっくりと20℃まで冷却し、そして20℃で少なくとも1時間後、結晶をガラス製漏斗にてろ過し、そしてH2Oを用いて洗浄した。
【0046】
湿ったケークを真空下、40〜45℃の温度で、一定の質量に到達するまで乾燥させ、引き続き、2−ケトイソバレレートのCa2+塩として分析した。HPLCによる分析は、前記2−ケトイソバレレート塩の純度が85面積%より高いことを示した(表2参照)。
【0047】
表2: 実施例2によって得られた2−ケトイソバレレートの純度
【表3】

【0048】
実施例3
イオン交換処理をしない2−ケトイソバレレートの製造(DSP部)
実施例1および2に従い、コリネバクテリウムグルタミクム菌株を発酵させた。発酵工程が終わったら、培養ブロスの上澄み(270L、pH2.6、40g/lの2−ケトイソバレレートを含有)を、8.2kgのNaOH 50%を用いてpH7.5に調節し、且つ、ブリックス40(105g/lの2−ケトイソバレレート)まで濃縮し(二重ジャケット反応器、70℃、40〜50mbar)、その後29.7kgのH2SO4 30%を用いて、pH<1.0へと酸性化した。
【0049】
酸性化された溶液を、二重ジャケット反応器にて、温度70℃および圧力40〜50mbarで濃縮した。その受領物を、もはやさらなる蒸留が生じなくなるまで収集し、且つ、油性の残留物が得られた。油性の残留物を10LのH2Oと共に添加し、且つ、もはや蒸留が生じなくなるまで濃縮を継続した。この段階を、関連の蒸留受領物が全体的に0.5未満のブリックスを有するまで、何度も繰り返した。
【0050】
引き続き、蒸留からの全ての受領物(230L)を貯め、そして、pH4.5に到達するまで3.5kgのCaCO3を添加した。該溶液を1〜5時間、2−ケトイソバレレートの質量あたり2質量%の活性炭を使用して脱色した。その後、該溶液を、フィルタープレスを通してろ過して、炭を除去した。
【0051】
二重ジャケット反応器にて、生成物温度35〜45℃、且つ圧力40〜50mbarで、結晶の懸濁液が得られるまでろ液を濃縮した。該懸濁液をゆっくりと20℃まで冷却し、そして20℃で少なくとも1時間後、結晶を遠心分離し、そしてH2Oを用いて洗浄した。
【0052】
湿ったケークを真空下、40〜45℃の温度で、一定の質量(5.1kg)に到達するまで乾燥し、引き続き、2−ケトイソバレレートのCa2+塩として分析した。HPLCによる分析は、前記2−ケトイソバレレート塩の純度が99面積%より高いことを示した(表3参照)。
【0053】
表3: この実施例によって得られた2−ケトイソバレレートの純度
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I) R1−CO−COOH [式中、R1は3〜7つの炭素原子を有する分枝アルキル基である]を有する2−ケトカルボン酸またはそれらの塩の製造方法であって、以下の段階
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する、発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、イオン交換、抽出工程、蒸留工程からなる群から選択される1つまたはそれより多くの段階に供する段階、
c) 段階b)において得られた生成物を、さらなる濃縮、沈殿または結晶化、またはそれらの組み合わせに供し、且つ、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を得る段階
を含む製造方法。
【請求項2】
以下の段階:
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する、発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、該発酵ブロスのpHシフトを伴う蒸留工程に供する段階
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の段階:
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する、発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、イオン交換に供する段階
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
段階b)において得られた溶出液を、イオン交換、抽出または蒸留の群から選択される1つまたはそれより多くのさらなる精製段階に供する、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
以下の段階:
a) 微生物を培地中で成長させて、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する培養ブロスを準備する、発酵段階、
b) 段階a)において得られた発酵ブロスを、イオン交換に供する段階、および
c) 段階b)において得られた溶出液を、イオン交換、抽出または蒸留の群から選択される1つまたはそれより多くのさらなる精製段階に供する段階、および
d) 段階c)において得られた生成物を、さらなる濃縮、沈殿または結晶化段階またはそれらの組み合わせに供して、且つ2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を得る段階
を含む、請求項1、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1が3、4または5つの炭素原子を有する分枝アルキル基であり、好ましくはR1がイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチルからなる群から選択され、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチルである、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2−ケトカルボン酸が、2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸、2−ケト−3−メチルペンタン酸、またはそれらの塩である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
段階a)において得られた培養ブロスが、少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも15g/l、およびさらに好ましくは少なくとも20g/l、および最も好ましくは少なくとも40g/lの2−ケトカルボン酸またはそれらの塩を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
発酵段階のために使用される微生物が、式(I)の化合物、好ましくは2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸、および2−ケト−3−メチルペンタン酸からなる群から選択される化合物またはそれらの混合物を生成するための改善された能力を有している、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
発酵段階のために使用される微生物が、コリネバクテリウム、好ましくはコリネバクテリウムグルタミクムである、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
コリネバクテリウム菌株が、以下:
トランスアミナーゼB (E.C.2.6.1.42、ilvE−遺伝子により符号化)、バリン−ピルビン酸トランスアミナーゼ AvtA (E.C.2.6.1.66、avtA−遺伝子により符号化)、アラニントランスアミナーゼ AlaT (E.C.2.6.1.2、alaT−遺伝子により符号化)、
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E.C.1.2.4.1、aceE遺伝子により符号化)、ピルビン酸キノンオキシドレダクターゼ(E.C.1.2.2.2、pqo遺伝子により符号化)およびホスホグルコイソメラーゼ(E.C.5.3.1.9、pgi遺伝子により符号化)のE1サブユニット
を含む群から選択される任意の1つまたはそれより多く、または全てのタンパク質において、欠失または減少されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
コリネバクテリウム菌株において、以下:
アセトヒドロキシ酸シンターゼ 、E.C.4.1.3.18)、ilvC(アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼを符号化している遺伝子、E.C.1.1.1.86)およびilvD(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.1.9)
の群から選択される1つまたはそれより多くの遺伝子が過剰発現し、且つ、2−ケトイソ吉草酸が生成される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
コリネバクテリウム菌株において、以下:
ilvA(トレオニンデヒドラターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.1.16)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼを符号化している遺伝子、E.C.1.1.1.3)、thrB(ホモセリンキナーゼを符号化している遺伝子、E.C.2.7.1.39)、thrC(スレオニンシンターゼを符号化している遺伝子、E.C.4.2.3.1)、lysC(アスパルトキナーゼを符号化している遺伝子、E.C.2.7.2.4)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(aat、E.C.2.6.1.1)、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd、E.C.1.2.1.11)、およびピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc、E.C.6.4.1.1)
の群から選択される1つまたはそれより多くの遺伝子が過剰発現し、且つ、ケトメチルバレレートが生成される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
コリネバクテリウム菌株において、以下:
leuA(2−イソプロピルマレートシンターゼを符号化している遺伝子、E.C.2.3.3.13)、leuB(3−イソプロピルマレートデヒドロゲナーゼ、E.C.1.1.1.85)、およびleuCD(3−イソプロピルマレートデヒドラターゼ、E.C.4.2.1.33)
を含む群から選択される1つまたはそれより多くの遺伝子が過剰発現し、且つ、ケトイソカプロレートを生成する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
培養ブロスをイオン交換段階(b)に適用する前に、細胞および/または細胞破片を培養ブロスから除去する追加的な段階を行い、その際、この除去を好ましくはろ過、遠心分離、または沈殿によって、または前記方法の組み合わせによって行う、請求項1、または3から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞および/または細胞破片を培養ブロスから除去した後、且つ、段階b)の前に、イオン交換樹脂または炭を使用することによって予備精製を行う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
段階b)において、カチオン樹脂を使用することによってイオン交換を行う、請求項1または3から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
段階c)において、イオン交換のためにアニオン樹脂を使用する、請求項1または3から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
段階c)の蒸留が、蒸気蒸留である、請求項1または3から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
蒸留を、10〜100℃、好ましくは20〜75℃、さらに好ましくは25〜70℃、さらにより好ましくは35〜65℃の温度で行う、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
蒸留を、10〜100mbar、好ましくは20〜80mbar、さらに好ましくは20〜65mbar、および特に好ましくは20〜25mbarの圧力で行う、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
沈殿および結晶化段階である段階d)において、2−ケトカルボン酸が、Ca2+、Mg2+、Na+、K+からなる群から選択されるものとの塩として、またはアミノ酸を伴う塩として得られる、請求項1または5から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から7までのいずれか1項において定義された2−ケトカルボン酸またはそれらの塩、好ましくは2−ケトイソ吉草酸、2−ケト−4−メチルペンタン酸または2−ケト−3−メチルペンタン酸またはそれらの塩であって、請求項1から21までのいずれか1項に記載の方法によって得られる、60質量%より高い、好ましくは85質量%より高い、特に好ましくは90質量%より高い純度を有する、2−ケトカルボン酸またはそれらの塩。

【公表番号】特表2012−528577(P2012−528577A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513529(P2012−513529)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056345
【国際公開番号】WO2010/139527
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】