説明

2−シクロペンテン−1−オンの製造方法

一般式(1):


(式中、Xはハロゲン原子を表す)で示される2−ハロゲノシクロペンタノンを、塩基存在下、沸点180〜240℃のアミド系溶剤を含む溶媒中で脱ハロゲン化水素する工程を含む、2−シクロペンテン−1−オンの製造方法であり、この方法によれば、簡便に効率よく目的物である2−シクロペンテン−1−オンを合成し、また、容易に2−シクロペンテン−1−オンを溶媒から蒸留精製することができ、更に、溶媒は減圧濃縮することにより再生使用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、種々の医薬品および機能性材料の原料として有用な2−シクロペンテン−1−オンの改良された製造方法に関する。
【背景技術】
従来、2−ハロゲノシクロペンタノンから2−シクロペンテン−1−オンを製造する方法としては、2−クロロシクロペンタノンをN,N−ジエチルアニリン中で加熱し、脱ハロゲン化水素する方法が知られている(Beilstein,7,49)。しかし、この方法では、低収率でしか2−シクロペンテン−1−オンを得ることができない。また、一般的にα−ハロカルボニル化合物を、N,N−ジメチルホルムアミド中で、酸又はリチウムイオンなどと反応させ脱ハロゲン化水素する方法が、よく知られている。しかし、この方法によって、2−クロロシクロペンタノンを塩酸とN,N−ジメチルホルムアミド中で反応させても、転化率はわずか20%であったことが報告されている(Bull.Soc.Chem.Belg.,89(1980),1046)。更に、これらの脱ハロゲン化水素反応を工業的に行う場合、目的化合物である2−シクロペンテン−1−オンと使用溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの沸点が近いため、目的化合物の分離・精製が困難であり、また大量のハロゲン化物塩を含んだ溶媒の回収使用が困難であるという問題があった。さらに、2−ハロゲノシクロペンタノンを、リチウム塩の存在下でN−アルキルホルムアニリド化合物を溶媒として用いて脱ハロゲン化水素する方法がある(特開2000−178220公報)。しかし、この方法は、多量の極性溶剤が必要であり、溶媒として用いているN−アルキルホルムアニリド化合物が高価で高沸点であるという問題があった。
したがって、本発明は、効率的な、溶媒との分離精製が容易であり、溶媒の再生使用が可能である、工業的に有利な2−シクロペンテン−1−オンの新規製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明(1)は、一般式(1):

(式中、Xはハロゲン原子を表す)で示される2−ハロゲノシクロペンタノンを、塩基存在下、沸点180〜240℃のアミド系溶剤を含む溶媒中で脱ハロゲン化水素する工程を含む、2−シクロペンテン−1−オンの製造方法である。
また、本発明(2)は、該溶媒が、沸点145℃以下の芳香族系溶剤を更に含む、前記発明(1)の製造方法である。
更に、本発明(3)は、該溶媒中における該アミド系溶剤に対する該芳香族系溶剤の重量比が、1:0〜1:4である、前記発明(1)又は(2)の製造方法である。
また、本発明(4)は、該重量比が、1:0.3〜1:3である、前記発明(3)の製造方法である。
更に、本発明(5)は、該芳香族系溶剤が、ベンゼン又はトルエンである、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの製造方法である。
また、本発明(6)は、更にリチウム塩を触媒として用いる、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の製造方法で使用される2−ハロゲノシクロペンタノンは、一般式(1):

で示される。式中、Xはハロゲン原子を表し、好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子の中から選ばれたハロゲン原子であり、より好ましくは塩素原子又は臭素原子であり、最も好ましくは臭素原子である。
2−ハロゲノシクロペンタノンの具体例は、2−クロロシクロペンタノン、2−ブロモシクロペンタノン、2−ヨウ化シクロペンタノンであり、好ましくは2−クロロシクロペンタノン又は2−ブロモシクロペンタノンであり、更に好ましくは2−ブロモシクロペンタノンである。一般式(1)で表される2−ハロゲノシクロペンタノンは、例えば、Organic Synthesis,53(1973),123などに記載されている公知の方法で製造することができる。
本発明の製造方法において使用される溶媒は、沸点180〜240℃のアミド系溶剤を含む溶媒である。
ここで、本願発明で使用されるアミド系溶剤は、一般式(1)で示される2−ハロゲノシクロペンタノン及びリチウム塩に対し適度な溶解性と極性を有していると考えられるので、簡便に効率よく目的物である2−シクロペンテン−1−オンを合成することができる。また、本願発明で使用されるアミド系溶剤は、生成物である2−シクロペンテン−1−オンと沸点が離れているため、2−シクロペンテン−1−オンは容易に溶媒から蒸留精製することができる。更に、本発明で使用されるアミド系溶剤は、温和な条件で蒸留が可能となるため、蒸留による分解及び着色を防ぐことができ、簡便な蒸留によりアミド系溶剤の再生使用が可能となるものである。
本願発明で使用されるアミド系溶剤の具体例は、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジイソプロピルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルピペリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどであり、好ましくは、ホルムアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであり、更に好ましくはN−メチルピロリドンである。これらの2種以上を混合して用いてもよい。
また、本発明で使用される溶媒は、沸点145℃以下の芳香族系溶剤を更に含んでいてもよい。このような芳香族系溶剤も、生成物である2−シクロペンテン−1−オンと沸点が離れているため、2−シクロペンテン−1−オンを容易に溶媒から蒸留精製することができる。また、芳香族系溶剤は水に不溶であるので、反応後の芳香族系溶剤を水で洗浄することにより、溶媒中に含まれるハロゲン化物塩が溶媒から容易に除去され、溶媒の再生使用が可能となる。尚、芳香族系溶剤の存在に何ら関係なく、脱ハロゲン化水素することで、芳香族系溶剤は、本質的には脱ハロゲン化水素に無影響であることを確認している。
本願発明で使用される芳香族系溶剤の具体例は、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、混合キシレンなどであり、好ましくはベンゼン、トルエンであり、更に好ましくはトルエンである。これらの2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いられる溶媒の使用量は、2−ハロゲノシクロペンタノンに対して重量比で1〜10倍量、好ましくは2〜6倍量、更に好ましくは2〜3倍量である。
また、溶媒中の各溶媒比(アミド系溶剤:芳香族系溶剤、重量比)は、1:0〜4、好ましくは1:0.3〜3、更に好ましくは1:0.7〜1.5である。
脱ハロゲン化水素剤として作用する塩基は特に限定されない。塩基を併用することにより、2−ハロゲノシクロペンタノンの脱ハロゲン化水素反応によって生じるハロゲン化水素を中和することができる。例えば、ピリジン、コリジン、ルチジン、酸化マグネシウム、炭酸塩として炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなど、炭酸水素塩として炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、これらを併用してもよい。これらの中では、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸リチウムが好ましく、炭酸リチウムが特に好ましい。
本発明で使用される塩基の量は、原料である2−ハロゲノシクロペンタノン1モル量に対して、炭酸塩などの2塩基酸の場合は、通常0.4〜1.0モル量、好ましくは0.5〜0.8モル量、更に好ましくは0.5〜0.6モル量であり、炭酸水素塩等の1塩基酸の場合は、通常0.8〜2.0モル量、好ましくは1.0〜1.6モル量、更に好ましくは1.0〜1.2モル量である。
本発明に係る製造方法では、触媒を用いてもよい。ここで、触媒としてはリチウム塩が好適である。該リチウム塩は特に限定されないが、通常、無機酸のリチウム塩が用いられる。その具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムなどが挙げられる。好ましくは塩化リチウム、臭化リチウムであり、更に好ましくは臭化リチウムである。これらのリチウム塩は水和物として使用してもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
触媒として用いるリチウム塩の量は、原料である2−ハロゲノシクロペンタノン1重量部に対し、通常0〜0.2重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部、更に好ましくは0.01〜0.05重量部である。
2−ハロゲノシクロペンタノンの脱ハロゲン化水素反応の反応温度は、通常50℃〜150℃、好ましくは70〜120℃、更に好ましくは90〜110℃である。反応時間は、一般に1〜5時間、好ましくは1.5〜4時間、更に好ましくは2〜3時間である。
尚、脱ハロゲン化水素反応は加熱下で行われるが、塩基として炭酸塩または炭酸水素塩を用いる場合、反応は激しい二酸化炭素の発生を伴うので、この際には塩基、触媒、溶媒を入れ、加熱した反応器内に2−ハロゲノシクロペンタノンを滴下する方法を採ることが望ましい。
脱ハロゲン化水素反応が完了した後、反応混合物を減圧濃縮することにより芳香族系溶剤を回収することができる。減圧濃縮は、脱ハロゲン化水素反応が完了した後、直ちに開始することが好ましい。濃縮時の温度は、通常、反応器内温で30〜70℃、好ましくは35〜60℃、更に好ましくは40〜50℃である。圧力は、通常6.7kPa以下、好ましくは5.3kPa以下、更に好ましくは4.0kPa以下である。
減圧濃縮が完了した後、反応混合物を減圧蒸留することによって2−シクロペンテン−1−オンが得られる。減圧蒸留は、減圧濃縮が完了した後、直ちに開始することが好ましい。蒸留時の温度は、通常、反応器内温で60〜120℃、好ましくは65〜115℃、更に好ましくは70〜110℃である。圧力は、通常9.3kPa以下、好ましくは8.0kPa以下、更に好ましくは6.7kPa以下である。
減圧蒸留の後、さらに濃縮し、アミド系溶剤を回収してもよい。濃縮時の温度は、通常、反応器内温で60℃〜90℃、好ましくは65℃〜85℃、更に好ましくは70℃〜80℃である。圧力は、通常2.7kPa以下、好ましくは2.0kPa以下、更に好ましくは1.3kPa以下である。
減圧蒸留で得られた2−シクロペンテン−1−オンは、更に精製してもよい。精製は、例えば、2−シクロペンテン−1−オンにヒドロキノンなどの重合禁止剤を適量添加し、精留塔等を用いて行えばよい。このときの精製の温度や圧力の条件は、上記の蒸留時の条件と同様である。
蒸留することによって2−シクロペンテン−1−オンを容易に分離精製することができる。脱ハロゲン化水素反応によって得られる2−シクロペンテン−1−オンは、医薬品などの製造原料、および機能性材料の製造原料として有用である。
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、これらの例中の部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【実施例1】
2.2重量部のN−メチルピロリドンの溶媒に臭化リチウム−水和物0.01重量部と0.26重量部の炭酸リチウム、0.001重量部のヒドロキノンを加え、釜温度を100℃に加熱した。これに1重量部の2−ブロモシクロペンタノンを1時間かけて滴下した。滴下終了後1時間さらに反応させ、その後系内を6.0〜6.7kPaに減圧し、釜温度140℃以下で留出する2−シクロペンテン−1−オンを収率58%で得た。
【実施例2】
1.1重量部のN−メチルピロリドンと1.1重量部のトルエンの混合溶媒に0.26重量部の炭酸リチウム、0.001重量部のヒドロキノンを加え、釜温度を100℃に加熱した。これに1重量部の2−ブロモシクロペンタノンを1時間かけて滴下した。滴下終了後1時間さらに反応させ、その後系内を6.0〜6.7kPaに減圧し、釜温度70℃以下で濃縮し、トルエン使用量の90%を回収した。濃縮後、系内を6.0〜6.7kPaに減圧し、釜温度140℃以下で留出する2−シクロペンテン−1−オンを収率51%で得た。
【実施例3】
1.1重量部のN−メチルピロリドンと1.1重量部のトルエンの混合溶媒に臭化リチウム−水和物0.01重量部と0.26重量部の炭酸リチウム、0.001重量部のヒドロキノンを加え、釜温度を100℃に加熱した。これに1重量部の2−ブロモシクロペンタノンを1時間かけて滴下した。滴下終了後1時間さらに反応させ、その後系内を6.0〜6.7kPaに減圧し、釜温度70℃以下で濃縮し、トルエン使用量の90%を回収した。濃縮後、系内を6.0〜6.7kPaに減圧し、釜温度140℃以下で留出する2−シクロペンテン−1−オンを収率57%で得た。
【発明の効果】
本発明によれば、簡便に効率よく目的物である2−シクロペンテン−1−オンを合成し、また、容易に2−シクロペンテン−1−オンを溶媒から蒸留精製することができ、更に、溶媒は減圧濃縮することにより再生使用が可能である2−シクロペンテン−1−オンの製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):

(式中、Xはハロゲン原子を表す)で示される2−ハロゲノシクロペンタノンを、塩基存在下、沸点180〜240℃のアミド系溶剤を含む溶媒中で脱ハロゲン化水素する工程を含む、2−シクロペンテン−1−オンの製造方法。
【請求項2】
該溶媒が、更に沸点145℃以下の芳香族系溶剤を含む、請求の範囲第1項記載の製造方法。
【請求項3】
該溶媒中における該アミド系溶剤に対する該芳香族系溶剤の重量比は、1:0〜1:4である、請求の範囲第1項又は第2項記載の製造方法。
【請求項4】
該重量比が、1:0.3〜1:3である、請求の範囲第3項記載の製造方法。
【請求項5】
該芳香族系溶剤が、ベンゼン又はトルエンである、請求の範囲第1項〜第4項のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
更にリチウム塩を触媒として用いる、請求の範囲第1項〜第5項のいずれか一項記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/060845
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564418(P2004−564418)
【国際出願番号】PCT/JP2002/013616
【国際出願日】平成14年12月26日(2002.12.26)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】