説明

2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの製造方法

【課題】高収率、かつ短時間で廃棄物を排出しない2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの新規な製造方法。
【解決手段】式(3)


[R1は、アルキル基、フェニル基を示し、R2は、水素、アルキル基、フェニル基を示す。]で表されるα−ブロモケトンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(4)


で表される2−ヒドロキシアルカノンを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの製造方法に関し、特に、マイクロウエーブを利用することにより、高収率、かつ短時間で合成することができる2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2−ヒドロキシケトンは、有機合成上重要な中間体であり、抗腫瘍剤やフェロモンなどの生物関連物質の構築ブロックとして極めて重要な物質であり、また、1,2−ジケトンは、有機合成上重要な中間体であり、カラメル様香気をもつ香料として用いられる有用な化合物として非常に重要な物質である。
【0003】
そこで、この2−ヒドロキシケトンおよび1,2−ジケトンをより効率的に合成することは非常に有意義なことであると期待される。
【0004】
従来、α−ヨードケトンにアセトン中、トリエチルアミン存在下で光(高圧水銀灯)を照射することにより、相当するα−ヒドロキシケトンを合成することが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
また、α−ヒドロキシケトンの合成には、環境に負荷がかかる金属触媒や有機溶媒を用いて行われる方法がほとんどである(例えば、非特許文献2〜4参照。)。
【非特許文献1】C.A.Horiuchi,A.Takeda,W.Chai,K.Ohwada,S.-J.JiおよびT.Takahashi;TETRAHEDRON LETTERS,44,(2003),p.9307−9311.
【非特許文献2】S.Muthuamy,S.A.Babu,C.GunanathanおよびR.V.Jasra;TETRAHEDRON LETTERS,42,(2001),p.5113−5116.
【非特許文献3】R.M.Moriarty,B.A.BerglundおよびR.Penmasta;TETRAHEDRON LETTERS,33,(1992),p.6055−068.
【非特許文献4】S.Dayan,Y.BareketおよびS.Rozen;TETRAHEDRON,55,(1997),p.3657−3664.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1〜4に記載される製造方法は、いずれも、有機溶媒や金属塩を用いる方法であるため、製造に時間がかかる上に環境汚染につながる廃棄物等が排出され、環境や廃棄物処理のコスト面で問題があった。また、非特許文献1に記載される製造方法では合成が一般的でないヨウ素化合物を原料として用いるというデメリットがあった。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明者らは、今回、α−ヨードケトンよりも合成が一般的なα−ブロモケトンに、媒体として水を用い、マイクロウエーブ(MW)を照射すると、2−ヒドロキシケトンが高収率かつ短時間で得られることを見出した。
【0008】
この発明の目的は、高収率、かつ短時間で廃棄物を排出しない2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、前記課題を解決するために、2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの製造方法、特に、マイクロウエーブを利用する水媒体中2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの製造方法において、以下の構成を有することを特徴とするものである。
【0010】
(i)式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、nは1、2または3を示す。]で表される2−ブロモシクロアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(2)
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、nは前記と同じ意味である。]で表される2−ヒドロキシシクロアルカノンの製造方法。
【0015】
(ii)2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロヘキサノンであり、2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロヘキサノンである前項(i)に記載される2−ヒドロキシシクロアルカノンの製造方法。
【0016】
(iii)2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロヘプタノンであり、2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロヘプタノンであることを特徴とする前項(i)に記載される2−ヒドロキシシクロアルカノンの製造方法。
【0017】
(iv)2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロオクタノンであり、2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロオクタノンであることを特徴とする前項(i)に記載される2−ヒドロキシシクロアルカノンの製造方法。
【0018】
(v)式(3)
【0019】
【化3】

【0020】
[式中、R1は、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基を示し、R2は、水素、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基を示す。]で表される、2−ブロモアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(4)
【0021】
【化4】

【0022】
[式中、R1、R2は前記と同じ意味である。]で表される2−ヒドロキシアルカノンの製造方法。
【0023】
(vi)2−ブロモアルカノンが、4−ブロモ−5−ノナノンであり、2−ヒドロキシアルカノンが、4−ヒドロキシ−5−ノナノンである前項(v)に記載される2−ヒドロキシアルカノンの製造方法。
【0024】
(vii)2−ブロモアルカノンが、2−ブロモアセトフェノンであり、2−ヒドロキシアルカノンが、2−ヒドロキシアセトフェノンである前項(v)に記載される2−ヒドロキシアルカノンの製造方法。
【0025】
(Viii)式(5)
【0026】
【化5】

【0027】
[式中、nは2または3を示す。]で表される、α,α´−ジブロモシクロアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(6)
【0028】
【化6】

【0029】
[式中、nは前記と同じ意味である。]で表される、1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンの製造方法。
【0030】
(ix)α,α´−ジブロモシクロアルカノンが、2,6−ジブロモシクロヘキサノンであり、1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンが、シクロヘキサン−1、2−ジオンである前項(viii)に記載される1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンの製造方法。
【0031】
(x)α,α´−ジブロモシクロアルカノンが、2,7−ジブロモシクロヘプタノンであり、1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンが、シクロヘプタン−1,2−ジオンであることを特徴とする前項(viii)に記載される1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
請求項1〜7に記載される発明の構成によれば、α−ブロモケトンを基質として水媒体中でマイクロウエーブ(MW)を照射することにより、相当する2−ヒドロキシケトンが高収率で得られるという効果を奏する。また、この発明の製造方法は従来の製造方法に比べて高収率かつ短時間で2−ヒドロキシケトンを得ることができるという効果を奏する。さらに、基質と水媒体のみを用いることで反応が進行するため、簡便で環境に優しい製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0033】
請求項8〜10に記載される発明の構成によれば、基質としてα,α´−ジブロモケトンを用いることにより、高収率かつ短時間で相当する1,2−ジケトンを製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、この発明のケトンの製造方法の各構成要件について詳細に説明する。この発明の製造方法によれば、α−ブロモケトンから2−ヒドロキシケトンを、また、α,α´ジブロモケトンから1,2−ジケトンを、マイクロウエーブを利用して製造する。
【0035】
この発明において用いることができるα−ブロモアルカノンおよび2−ヒドロキシケトンの前記式(3)および式(4)中のR1としては、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基を示し、R2は、水素、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基などを示す。
【0036】
前記置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよいメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチルなどのアルキル基、置換されていてもよいシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基、置換されていてもよいメチルチオ、置換されていてもよいフェニル、1−ナフチル、2−ナフチルなどのフェニル基、置換されていてもよい1−ピロリジル、ピペリジン、モルホリノなどの非芳香族複素環基、置換されていてもよい2−フリル、3−フリル、2−チエニル、2−ピリジル、1−ピロリル、1−イミダゾイル、1−ピラゾリルなどの芳香族複素環基、置換されていてもよいメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、ノニルオキシなどのアルコキシル基、置換されていてもよいカルボン酸エステル基、置換されていてもよいアルコキシカルボニル基、置換されていてもよいアセチル、プロピオニル、ブチリル、ベンゾイルなどのアシル基、置換されていてもよいメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、フェニルアミノなどのアミノ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいメトキシ、エトキシ、プロポシキ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシヘキシルオキシなどのヒドロキシル基、エチルチオ、シクロブチルチオ、フェニルチオ、2−ピリジンチオなどのチオール基、カルボニル、エトキシカルボニルなどのエステル化もしくはアミド化されていてもよいカルボキシル基などが挙げられる。
【0037】
この発明において用いることができるα−ブロモアルカノンおよび2−ヒドロキシケトンの前記式(3)および式(4)中のR1およびR2の置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、特に好ましくは炭素数3〜9のアルキル基が挙げられる。
【0038】
該アルキル基の具体例としては、メチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ジクロロメチル基、ヨードメチル基、ブロモメチル基、エチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1,1−ジエチルペンチル基、1,4−ジエチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2.2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルへキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、n−ウンデカニル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基などが挙げられる。
【0039】
この発明において用いることができるα−ブロモアルカノンおよび2−ヒドロキシケトンの前記式(3)および式(4)中のR1およびR2の置換基を有してもよいフェニル基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数6〜14のフェニル基が挙げられ、特に好ましくは炭素数6〜10のフェニル基が挙げられる。
【0040】
該フェニル基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−エチルフェニル基、p−イソプロピルフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、p−クロロフェニル基、p−メトキシフェニル基、p−ブトキシフェニル基などが挙げられる。
【0041】
この発明において用い得る反応温度は、基質の種類などに応じて適当に選択することができるが、好ましくは100〜200℃であり、特に好ましくは105〜160℃である。反応温度がこの範囲外であると高収率かつ短時間で目的のヒドロキシケトンの収率が低下するので好ましくない。
【0042】
この発明において用いうる反応時間は、反応温度及び圧力に応じて定められるが、例えば、約10〜40分が好ましく、15〜30分がさらに好ましい。反応時間がこの範囲でないと収率が低くなるので好ましくない。
【0043】
この発明において用いられマイクロウエーブの出力は、好ましくは100〜300ワット(W)であり、特に好ましくは200ワット(W)である。またその圧力は、好ましくは2〜16バールとすることが好ましく、約15バールとすることが特に好ましい。マイクロウエーブの出力、圧力が上記範囲内でないと高収率で短時間で目的の生成物を得ることができないので好ましくない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げてこの発明の実施態様をさらに具体的に説明するが、この発明はその要旨を超えない限りこの範囲に限定されるものではない。
【0045】
なお、この発明の実施例において使用した基質は市販されているものを用いた。
【0046】
また、この発明の生成物である2−ヒドロキシケトンまたは1,2−ジケトンの構造ならびに物性の測定には下記の測定装置を使用した。
【0047】
IR:FT−IR−230(日本分光製)
NMR:JEOLGSX400(日本電子製)
GC:島津ガスクロマトグラフGC−17A(島津製作所製)
GC−MS:GCMS−QP5050(島津製作所製)
GCL:HP5890(Hewlett Packerd社製)
【0048】
<マイクロウエーブ(MW)の作用>
マイクロウエーブ(以下、「MW」という。)発生装置はCEM DISCOVER(登録商標)を使用した。簡単に述べると、MWは一般的には家庭用電子レンジで使用されている高周波の電磁波であり、迅速で効率的な加熱が可能といわれている。その原理については詳細にはわかっていないが、MWを対象物に当てることで分子同士に摩擦が起きて熱が発生するためであるとされている。しかもこの熱は通常の加熱と違い、分子レベルでの加熱であるという点から前述したように迅速で効率的な加熱が可能であると言えるために、反応効率が増し、反応時間が短縮すると考えられている。
【0049】
<収率の算出方法>
n−ドデカンを内部標準物質として単離した生成物を用いて作成した検量線より算出した。検量線とは、
y軸:(GCにおける単離した生成物のエリア比)/(GCにおけるn−ドデカンのエリア比)
x軸:(実際に用いた単離した生成物の量)/(実際に用いたn−ドデカンの量)
とし、x軸の生成物とn−ドデカンの比率を1:2、1:1、2:1の場合を測定、プロットし、その3点の原点を通る最適直線を引いたものである。
【0050】
反応終了後、内部標準物質のn−ドデカンを加え攪拌後、ガスクロマトグラフィーよりy軸に入れる数値を計算し収率を求めた。
【0051】
<実験方法>
α−ブロモケトン(0.01mol)と水(5ml)とをマイクロウエーブ(MW)専用試験管に入れて密封し、MW発生装置(CEM DISCOVER登録商標)を用いて反応を行う。反応終了後、反応混合物を塩析後、ジエチルエーテルで抽出して、得られた物質をカラムクロマトグラフィーで単離・精製する。単離された化合物はIR、1H−NMR、13C−NMR、GC−MS等の各スペクトルデータを用いて構造を決定した。
【0052】
(実施例1〜8)
<2−ヒドロキシケトンのMWによる合成>
基質にα−ブロモシクロアルカノンを用い、溶媒に水を入れて、MW発生装置・DISCOVERと専用の密封試験管を用い、反応を行った。その結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
反応条件はいくつか条件を検討して行った中で、短時間・高収率で2−ヒドロキシケトンが得られたものを条件とした。
【0055】
表1の補足としてTimeでの記述は、左が「Run time:目標温度になるまでの加熟しつづける時間」を、右が「Hold time:目標温度保持した状態での反応時間」をそれぞれ示している。上記表1からは、MWを利用した反応では収率が7割程度なのに対して、通常の加熱反応ではほとんど反応が進行していないことを示している。しかし基質2、3では、倍の40分の反応時間で加熱反応したところ収率が3割程度まで上昇したことから、数時間反応を行えば完全に反応が進行すると考えられる。
【0056】
なお、この反応は反応温度が低すぎても高すぎても反応収率を下げる要因となり得るので注意が必要である。例えば、基質1を160℃でMW反応を行うと副生成物が多く生成するのに対して、基質3を120℃でMW反応を行うと反応が全く進行しないというのが判明している。それと基質の種類によって、単離した得られた2−ヒドロキシケトンが容易に酸化する場合があるので、冷暗所で保存しているほうが良い。
【0057】
次に、鎖状のα−ブロモアルカノンでも先ほどと同様に反応が進行し、2−ヒドロキシケトンが合成されるかどうかを実験してみた。基質で使用したのは4−ブロモ−5−ノナノンという化合物で、反応の結果を下記表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
MWでの反応条件は基質が消失して、なおかつ副生成物が少ないことを最適とした結果、反応を二回に分けた時が最も収率が高くなることが判明した。ちなみにこの二回の反応を一回にまとめて行うと副生成物と未反応物の比が増えて、収率が落ちるという結果が出た。これは下記<考察>欄にて詳しく考えをまとめているが、長時間のHold timeでは温度が一定に達するために、通常の加熱反応と変わらなくなり、反応進行が遅くなったためと思われる。
【0060】
また上記表2での加熱反応の収率は、先ほどの基質に環状のα−ブロモアルカノンを用いた反応に比べて収率が高いということが言えるが、これは単に反応時間が長いことが原因であると言える。この加熱反応では反応終了時点でMW反応で見られる副生成物が生成されていないために、反応時間は掛かるものの選択的に反応が進行するのではないかと考えられる。
【0061】
(実施例9〜18)
<2−ヒドロキシケトンのMWによる合成>
基質にα−ブロモシクロアルカノンおよび鎖状のα−ブロモアルカノンを用い、反応条件を変えて実験した。その結果を下記表3に示す。
【0062】
【表3】



【0063】
その結果、MWを照射することにより収率が向上することが分かる。
【0064】
MWを利用して、α−ブロモアルカノン(2−ブロモアルカノン)からは2−ヒドロキシケトンが短時間で合成できることが判明した。
【0065】
また、MW反応と加熱反応の収率を比較してみたところ、明らかに収率に違いが確認されたために、MWの寄与によって迅速に反応が進行していることが判明した。
【0066】
(実施例19〜22)
<1,2−ジケトンのMWによる合成>
1,2−ジケトンの合成についても2−ヒドロキシケトンの合成とほぼ同様に行う。基質にα,α’−ジブロモシクロアルカノンを用い、溶媒として水を入れて、MW発生器専用の密封試験管を用い、反応を行った。その結果を下記表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
反応条件はいくつか条件を検討して行った中で、最も高収率で1,2−ジケトンが得られたものを条件とした。MW反応について、基質5では副生成物が見られなかったが、基質6では副生成物が見られた。現在のところはその副生成物の構造の特定は出来てはいないが、MSスペクトルのデータから見てケトンが還元されてシクロオクタンが生成したと考えられる。
【0069】
また加熱反応では上記の実施例1〜18と同様、ほとんど1,2−ジケトンを生成していないことがわかる。しかし、2−ヒドロキシケトンの加熱反応と異なる点があり、それは未反応の基質と等量程度の中間体と思われる物質も生成されているという点である。
【0070】
同様にMWを利用して、α,α’−ジブロモアルカノンからは1,2−ジケトンが短時間で合成できることが判明した。
【0071】
また、MW反応と加熱反応の収率を比較してみたところ、明らかに収率に違いが確認されたために、MWの寄与によって迅速に反応が進行していることが判明した。
【0072】
(実施例23)
<Microwave法を利用する2−ヒドロキシシクロアルカノンの合成>
本反応は、OEM社製のマイクロ波合成装置Discoverを使用。
【0073】
・2−ヒドロキシシクロヘキサノンの合成:
2−ブロモシクロヘキサノン(0.0689mmol、12.2mg)と水(5ml)とを専用試験型反応器(10mlパイレックス(登録商標)ガラス容器)にいれて、密封をする。150℃、15bar、200W(Max)、5min(run time)、20min(hold time)の反応条件下、マイクロ波合成装置Discoverを用いマイクロ波を照射する。反応終了後、反応混合物は30mlのジエチルエーテルで抽出する。このエーテル液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮する。得られた混合物はカラムで精製し、0.0535mmol(6.10mg)の2−ヒドロキシシクロヘキサノンが得られた。単離収率は78%。単離された化合物はIR,1H−NMR、13C−NMR、GC−MS等のスペクトルデータを用いて構造を決定した。
【0074】
・2−ヒドロキシシクロヘプタノンの合成:
2−ブロモシクロヘプタノン(0.05mmol、9.6mg)と水(5ml)とを専用試験型反応器(10mlパイレックス(登録商標)ガラス容器)にいれて、密封をする。150℃、15bar、200W(Max)、5min(run time)、20min(hold time)の反応条件下、マイクロ波合成装置Discoverを用いマイクロ波を照射する。反応終了後、反応混合物は30mlのジエチルエーテルで抽出する。このエーテル液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮する。得られた混合物はカラムで精製し、0.04mmol(5.12mg)の2−ヒドロキシシクロヘプタノンが得られた。単離収率は80%。単離された化合物はIR,1H−NMR、13C−NMR、GC−MS等のスペクトルデータを用いて構造を決定した。
【0075】
・2−ヒドロキシシクロオクタノンの合成:
2−ブロモシクロオクタノン(0.05mmol、10.3mg)と水(5ml)とを専用試験型反応器(10mlパイレックス(登録商標)ガラス容器)にいれて、密封をする。アルゴン存在下、150℃、15bar、200W(Max)、5min(run time)、20min(hold time)の反応条件下、マイクロ波合成装置Discoverを用いてマイクロ波を照射する。反応終了後、反応混合物は30mlのジエチルエーテルで抽出する。このエーテル液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮する。この反応は、66%(0.33mmol、4.09mg)の2−ヒドロキシシクロオクタノンが得られたと同時に、9%(0.045mmol、0.63mg)のシクロオクタン−1,2−ジオンも副生成物として得られた。
【0076】
(実施例24)
<Microwave法によるシクロアルカン−1,2−ジオンの合成>
この反応は、OEM社製のマイクロ波合成装置Discoverを使用する。
【0077】
・シクロヘプタン−1,2−ジオンの合成:
2,7−ジブロモシクロヘプタノン(0.057mmol、15.4mg)と水(5ml)とを専用試験型反応器(10mlパイレックス(登録商標)ガラス容器)にいれて、密封をする。150℃、15bar、200W(Max)、5min(run time)、20min(hold time)の反応条件下、マイクロ波合成装置Discoverを用いてマイクロ波を照射する。反応終了後、反応混合物は30mlのジエチルエーテルで抽出する。このエーテル液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮する。得られた混合物はカラムでカラムで精製し、0.036mmol(4.54mg)のシクロヘプタン−1,2−ジオンが得られた。単離収率は64%。単離された化合物はIR,1H−NMR、13C−NMR、GC−MS等のスペクトルデータを用いて構造を決定した。
【0078】
・シクロヘキサン−1,2−ジオンの合成:
2,6−ジブロモシクロヘキサノン(0.057mmol、14.7mg)と水(5ml)とを専用試験型反応器(10mlパイレックス(登録商標)ガラス容器)にいれて、密封をする。アルゴン存在下、125℃、15bar、200W(Max)、5min(run time)、20min(hold time)の反応条件下で、マイクロ波合成装置Discoverを用いてマイクロ波を照射する。反応終了後、反応混合物は30mlのジエチルエーテルで抽出する。このエーテル液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮する。得られた混合物はカラムで精製し、0.034mmol(3.81mg)のシクロヘキサン−1、2−ジオンが得られた。単離収率は60%。
【0079】
《考察》
以下、この発明における反応機構、副生成物の可能性、収率について考察した。
【0080】
<1,2−ジケトンの反応機構について>
2,5−ジブロモシクロヘキサノンを基質として用いた場合として、1,2−ジケトンの反応機構についての予想を下記式(7)に示す。先に述べた中間体と思われる化合物は、反応機構の中列で見られるヒドロキシル基とブロモ基がついた化合物であると思われる。この根拠はMSスペクトルによる分子量の一致である。
【0081】
【化7】

【0082】
<副生成物の可能性について>
先に述べたように、2−ヒドロキシケトンの合成の際に「無置換の環状の基質」では副生成物がほとんど生成しないのに対して、「置換した環状の基質」や「鎖状の基質」を使用した場合では副生成物が生成されることが分かった。どういう副生成物かは単離が出来ていないために現在のところ判明していないが、MSスペクトルの保持時間の近似と分子量の一致から同位体であると思われる。それでは何故このようなものが生成するかと言うと、おそらく下記に示すようにカルボニル基とヒドロキシル基の位置が相互変換を起こすために、異性体が生成していると予想される。
【0083】
【化8】

【0084】
この予想が正しいとすると、以下のように「無置換の環状の基質」からの目的物と副生成物は同じ化合物となるため、副生成物の生成がほとんどない事が説明できる。
【0085】
【化9】

【0086】
<4−ヒドロキシ−5−ノナノンの収率について>
4−ヒドロキシ−5−ノナノンの収率が、反応を二回に分けた時が最も収率が高くなることに対しての考えをまとめたものである。2回分の時間を1回にまとめて反応を行っても、同じ時間でより高温で反応を行っても収率は下がってしまうという結果になった。
【0087】
一方、反応を二度に分けてやると、二度目も目標温度に達するまでMWを照射して、反応を進行させていくことができる。よって単純なMW照射量からすると、反応を二度に分けるほうがより長くMWを照射されているため、反応がより進行するために収率が増加していると考えられる。よってこの事から、反応を二回に分けたほうが収率が高いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

[式中、nは1、2または3を示す。]で表される2−ブロモシクロアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(2)
【化2】

[式中、nは前記と同じ意味である。]で表される2−ヒドロキシシクロアルカノンを製造することを特徴とする2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項2】
前記2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロヘキサノンであり、前記2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロヘキサノンであることを特徴とする請求項1に記載される2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項3】
前記2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロヘプタノンであり、前記2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロヘプタノンであることを特徴とする請求項1に記載される2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項4】
前記2−ブロモシクロアルカノンが、2−ブロモシクロオクタノンであり、前記2−ヒドロキシシクロアルカノンが、2−ヒドロキシシクロオクタノンであることを特徴とする請求項1に記載される2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項5】
式(3)
【化3】

[式中、R1は、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基を示し、R2は、水素、置換基を有してもよい直鎖状または分岐状のアルキル基あるいは置換基を有してもよいフェニル基を示す。]で表される2−ブロモアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(4)
【化4】

[式中、R1、R2は前記と同じ意味である。]で表される2−ヒドロキシアルカノンを製造することを特徴とする2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項6】
前記2−ブロモアルカノンが、4−ブロモ−5−ノナノンであり、前記2−ヒドロキシアルカノンが、4−ヒドロキシ−5−ノナノンであることを特徴とする請求項5に記載される2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項7】
前記2−ブロモアルカノンが、2−ブロモアセトフェノンであり、前記2−ヒドロキシアルカノンが、2−ヒドロキシアセトフェノンであることを特徴とする請求項5に記載される2−ヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項8】
式(5)
【化5】

[式中、nは2または3を示す。]で表されるα,α´−ジブロモシクロアルカノンに水媒体の存在下でマイクロウエーブを照射することにより、式(6)
【化6】

[式中、nは前記と同じ意味である。]で表される1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンを製造することを特徴とする1,2−ジケトンの製造方法。
【請求項9】
前記α,α´−ジブロモシクロアルカノンが、2,6−ジブロモシクロヘキサノンであり、前記1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンが、シクロヘキサン−1,2−ジオンであることを特徴とする請求項8に記載される1,2−ジケトンの製造方法。
【請求項10】
前記α,α´−ジブロモシクロアルカノンが、2,7−ジブロモシクロヘプタノンであり、前記1,2−シクロアルカン−1,2−ジオンが、シクロヘプタン−1,2−ジオンであることを特徴とする請求項8に記載される1,2−ジケトンの製造方法。

【公開番号】特開2006−306805(P2006−306805A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132861(P2005−132861)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月1日 第37回酸化反応討論会実行委員会事務局発行の「第37回酸化反応討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【Fターム(参考)】