説明

2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物

【課題】抗癌剤や免疫調節剤として用いることが可能な脂質が結合した2−6シアリル6−スルホ糖鎖化合物又はその塩の提供。
【解決手段】脂質部分として、コレスタノール、コレステロール、セラミド、スフィンゴシン又はグリセロールが結合した2−6シアリル6−スルホ糖鎖を有する化合物又はその塩。特に、コレスタノールが結合した下記の化合物又はその塩が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖を有する合成化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
6-硫酸化糖鎖は体内での細胞の移動において重要な役割を演じており、白血球の体内移動やがん細胞の転移において重要な役割を演じている(非特許文献1)。例えば、2-3シアリル6-スルホ糖鎖は癌細胞で合成されていることが知られており、この糖鎖に反応する抗体は癌や非癌疾患の鑑別などに役立つことが知られている(特許文献1、2、非特許文献1)。
一方、2-6シアリル6-スルホ糖鎖は、Bリンパ球による抗体産生の主要な内因性抑制分子であるSiglec-2(CD22)の特異的リガンド糖鎖であることが、合成糖鎖を用いた試験管内研究から知られており(非特許文献2等)、このような糖鎖を有する化合物はBリンパ球に起因する癌などの研究や治療薬の開発に有用であると考えられるが、この2-6シアリル6-スルホ糖鎖を有する合成化合物は今まで知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特許第3809277号
【特許文献2】US2005/0208631
【非特許文献1】J. Biol. Chem., 273: 11225-11233, 1998.
【非特許文献2】PNAS vol.101, 17033-17038 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖を有する合成化合物を提供する。
【課題を解決するための手段及び発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、コレスタノールを基材として用いて糖鎖を結合させて上記化合物を合成することに成功し、本願発明を完成させた。
即ち、本願発明は、下記一般式
Siaα2→6Galβ1→4GlcNHR01β(6-sulfate)1→3Galβ1→4Glc−R02
(式中、Siaαはαシアル酸を表し、Galβはβガラクトースを表し、GlcNHR01βはN-置換又は非置換のβN-グルコサミンを表し、R01はアセチル基又は水素原子を表し、Glcはグルコースを表し、R02は脂質を表し、Siaα2→6GalβはSiaαの2 位とGalβの6 位とが結合することを示し、Galβ1→4GlcNHR01β は、Galβの1 位とGlcNHR01βの4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNHR01βの6 位に硫酸基が付加していることを示し、GlcNHR01β(6-sulfate)1→3GalβはGlcNHR01β(6-sulfate)の1位とGalβの3位とが結合することを示し、Galβ1→4GlcはGalβの1位とGlcの4位とが結合することを示す。)で表される2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物又はその塩である(本明細書において、特に断らない限り、塩であるものを含めて単に「2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物」という。)。
上記において、脂質はコレスタノール、コレステロール、セラミド、スフィンゴシン又はグリセロールであることが好ましい。
【0006】
さらに、本願発明は、下式の何れかで表される2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物であることが好ましい。
【化1】

又は
【化2】

【0007】
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルカリ金属、好ましくはアルカリ金属、より好ましくはカリウム原子又はナトリウム原子を表す。
Acはアセチル基(酢酸残基、CH3CO-)を表す。
式中のChorestanolは下式で表されるコレスタノールから水酸基を除いた残基を表す。
【化3】

また、本願発明の化合物を中間体として、R〜R(水素原子又はアルカリ金属)を任意の一価の置換基で置き換えて得られる化合物は、本願発明を利用して容易に得ることができる。
【0008】
本願発明の2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖を有するオリゴ糖化合物であるという特徴を生かして様々な用途が考えられる。
例えば、2-6シアリル6-スルホ糖鎖が癌などで発現量が増加することが最近に研究で明らかになってきているが、当該糖鎖を検出する抗体を成分とする癌の検査薬において、標準物質として、また当該抗体を確認又はスクリーニングするための試薬として用いることができる。
更に、この2-6シアリル6-スルホ糖鎖には、Bリンパ球の抗体産生抑制分子(negative regulator)であるSiglec-2(CD22)が特異的に結合するため(非特許文献2等)、本願の2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物は、Siglec-2(CD22)の競合的拮抗剤として、例えば、Bリンパ球の抗体産生が係わる疾患等に対して使用しうる免疫調節剤として用いることができる。
【実施例】
【0009】
以下、本願発明の2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
各製造工程の反応式を図1〜5に示す。図中の番号は各化合物の番号を示す。
【0010】
化合物1
N−アセチルノイラミン酸(NeuAc、ナカライテスク社特級試薬)を常法(Chem.Ber., 99, 611(1966)参照)に従いメチルエステル化、アセチル化、及びクロル化することにより化合物1(Metyl(5-acetamide-4,7,8,9-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl chloride)onate)を得た(図4参照)。
【0011】
化合物2
D(+)−グルコサミン塩酸塩(D(+)-Glucosamine hydrochloride、和光純薬1級試薬)を2工程(N-フタロイル化、アセチル化)誘導して得られる化合物A1(1,3,4,6-Tetra-O-acetyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranose))を5工程(Tetrahedoron Lett.,31.1597(1990)参照) (メトキシフェニルグリコシル化、脱アセチル化、4,6位ベンジリデン化、3位ベンジル化、脱ベンジリデン化)誘導し、化合物A2(4-Methoxyphenyl 3-O-Benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranoside)を得た。次いでスズ化後、アリルブロミドにより6位選択的にアリル化を行うことにより、化合物A3(4-Methoxyphenyl 6-O-Allyl-3-O-Benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranoside)へ変換した(図1前半参照)。
一方、1,2,3,4,6-ペンタ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノース(1,2,3,4,6-Penta-O-acetyl-α-D-galactopyranose、和光純薬)から、1位の脱アセチル化、同位のフッ素化を経て、化合物A4(2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-D-galactopyranosyl Fluoride)を合成した。
次いで、化合物A3と化合物A4とをハフノセンジクロリド−銀トリフレート触媒法(Tetrahedron Lett 29:3567-70(1988)参照)により縮合し、2糖性糖鎖化合物A5(4-Methoxyphenyl O-(2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-6-O-allyl-3-O-benzyl-2-deoxy- 2-phthalimido-β-D-glucopyranoside)を合成した。
この2糖性糖鎖化合物A5を常法により、脱アセチル化した後、ガラクトースの6位をトリチル化、その他の水酸基をベンジル化、6位トリチル基の脱保護、そして同6位のレブリノイル化を行い、化合物A6(4-Methoxyphenyl O-(2,3,4-Tri-O-benzyl-6-O-levulinoyl-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-6-O-allyl-3-O-benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranoside)を得た。次いで、1位のメトキシフェニル基を除去し、同位のフッ素化を経て、目的の化合物2(O-(2,3,4-Tri-O-benzyl-6-O-levulinoyl-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-6-O-allyl-3-O-benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranosyl Fluoride)を得た(図1後半参照)。
【0012】
化合物3
ラクトース(和光純薬特級試薬)を常法によりアセチル化して得られた化合物B1(Octa-acetyl-lactose)をトリメチルシリルトリフレート触媒下、β-コレスタノール(β-Cholestanol、東京化成工業)との縮合を行い化合物B2(β-Cholestanyl O-(2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-acetyl-β-D-glucopyranoside)を合成した。
次いで、化合物B2を常法により脱アセチル化、スズ化(Tetrahedron Lett 29:4097-100(1988)参照)後、アリルブロミドにより選択的にガラクトース3位へのアリル化を行い、化合物B3(β-Cholestanyl O-(3-O-Allyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-β-D- glucopyranoside)を合成した。
この化合物B3を、ベンジル化後、イリジウムコンプレックス(Aldrich社製)により脱アリル化を行い、目的とする化合物3(β-Cholestanyl O-(2,4,6-Tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)を得た(図2参照)。
【0013】
化合物4
アルゴンガス雰囲気下、事前に乾燥したモレキュラーシーブス4A(3 g)の入った反応容器に化合物3(353.4 mg, 0.282 mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(5 ml)を加え、室温にて30分間撹拌した。その後、銀トリフレート(505.1 mg, 1.97 mmol)、ハフノセンジクロリド(367.1 mg, 0.967 mmol)を加えて、氷冷下にて30分間攪拌した。反応液を−20℃とし、化合物2(347.1 mg, 0.357 mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(5 ml)を滴下し、190分間攪拌した。氷冷下、反応液を酢酸エチルで希釈後、飽和重曹水を加えて撹拌し、セライト濾過した。濾液を飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過した濾液を減圧下溶媒留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=7:1)にて精製し、化合物4(β-Cholestanyl O-(2,3,4-tri-O-Benzyl-6-O-levulinoyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(6-O-allyl-3-O-benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)(590.4 mg, 95 %)を得た(図3参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0014】
Rf : 0.50 (トルエン:酢酸エチル=4:1)
C137H161O24N MW : 2205.76
500 MHz H-NMR(CDCl3,TMS) δ;
2.125(s, 3 H, OLev) 2.445(t, 2 H, OLev) 2.650-2.683(m, 2 H, OLev)
3.681(d, 1 H, J=9.8 Hz) 4.652(d, 1 H, J=11.2 Hz, benzyl)
4.967(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl) 5.367(d, 1 H, J1,2=8.3 Hz, H-1c)
5.725-5.794(m, 1 H, H-2All)
【0015】
化合物5
化合物4(687.1 mg, 0.312 mmol)のn-ブタノール溶液(80 ml)にエチレンジアミン(40 ml)を加えて110℃にて一晩撹拌した。反応液にキシレンを加えて減圧下溶媒留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=3:1)にて精製し、化合物5(β-Cholestanyl O-(2,3,4-tri-O-Benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(6-O-allyl-2-amino-3-O-benzyl-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)(566.9 mg,92 %)を得た(図3参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0016】
Rf : 0.52 (トルエン:酢酸エチル=2:1)
C124H153O20N MW : 1977.56
500 MHz H-NMR(CDCl3,TMS) δ;
2.836(dd, 1 H, J1,2=7.8 Hz, J2,3=9.8 Hz, H-2c) 4.175(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl)
4.317(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl) 4.901(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl)
5.185(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl) 5.703-5.780(m, 1 H, H-2All)
【0017】
化合物6
化合物5(584.2 mg, 0.295 mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(293.5 mg, 2.40 mmol)ジクロロメタン:アセトニトリル(1:2, 12 ml)に、室温にてトリフルオロメタンスルホン酸アジド(0.665 mmol/ml Dichloromethane sol. 2.66 ml, 1.77 mmol)を滴下し、140分間攪拌した。反応液をトルエンにて希釈した後濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=6:1)にて精製し、化合物6(β-Cholestanyl O-(2,3,4-tri-O-Benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(6-O-allyl-2-azido-3-O-benzyl-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)(550.0 mg, 93 %)を得た(図3参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0018】
Rf : 0.42 (トルエン:酢酸エチル=4:1)
C124H151O20N3 MW : 2003.56
500 MHz H-NMR(CDCl3,TMS) δ;
4.170(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl) 4.312(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl)
4.445(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.571(d, 1 H, J=11.5 Hz, benzyl) 4.593(d, 1 H, J1,2=8.0 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.908(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl) 5.048(d, 1 H, J=10.5 Hz, benzyl)
5.712-5.788(m, 1 H, H-2All)
【0019】
化合物7
アルゴンガス雰囲気下、事前に乾燥したモレキュラーシーブス(4A 3.5 g + 3A 3.5 g)の入った反応容器に、化合物6(400.0 mg, 0.200mmol)のジクロロメタン:アセトニトリル溶液(1:2, 15 ml)を加え、氷冷下、化合物1(2224.1 mg, 4.23 mmol)、塩化第二水銀:シアン化第二水銀(1:1 (mol比), 3160.8 mg, 5.16 mmol)を加え、室温下75時間撹拌した。反応液を氷冷し、酢酸エチルで希釈後、飽和重曹水を加えて撹拌し、セライト濾過した。濾液を飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過した濾液を減圧下溶媒留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:5)、バイオビーズSX−1(Bio-Beads SX-1、BIO RAD)(トルエン)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1.1:1)にて順次精製し、化合物7(β-Cholestanyl O-[Methyl(5-acetamido-4,7,8,9-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(6-O-allyl-2-azido-3-O-benzyl-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)(200.9 mg, 41 %)を得た(図4参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0020】
Rf : 0.21 (トルエン:酢酸エチル=1:1)
C144H178O32N4 MW : 2476.99
500 MHz H-NMR(CDCl3,TMS) δ;
1.877,1.933,2.023,2.057,2.069(s×5, 3 H×5, Ac×5)
2.505(dd, 1 H, J3eq,4=4.6 Hz, J3eq,3ax=12.7 Hz, H-3eeq) 3.551(s, 3 H, COOMe)
4.170(d, 1 H, J=12.0 Hz, benzyl) 4.213(dd, 1 H, J=12.5, 2.7 Hz)
4.318(d, 1 H, J=11.7 Hz, benzyl) 4.598(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.906(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl) 4.953(d, 1 H, J=11.2 Hz, benzyl)
5.058(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl) 5.244-5.276(m, 1 H, H-8e)
5.299(dd, 1 H, J=2.0, 7.8 Hz, H-7e) 5.719-5.795(m, 1 H, H-2All)
【0021】
化合物8
水素ガス雰囲気下にて活性化されたイリジウムコンプレックス[Ig(CoD)(PMePh)2PF6](8.1 mg, 0.0096 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(3 ml)に、アルゴンガス雰囲気下、化合物7(40.6 mg, 0.0164 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(3 ml)を加えて7時間攪拌した。次いで、水(0.6 ml)、ヨウ素(23.4 mg,0.184 mmol)を加えて一晩攪拌した。反応混合液を酢酸エチルで希釈後、チオ硫酸ナトリウム水、飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過した濾液を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:アセトン=2:1)にて精製した。得られた反応混合物をテトラヒドロフラン:水(30:1, 3.1 ml)に溶解し、p-トルエンスルホン酸一水和物(8.5 mg, 0.0447 mmol)を加え、50分間攪拌した。反応液を樹脂(アンバーリストA-21(Rohm and Haas社))にて中和し、濾過後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:アセトン=4:1)にて精製し、化合物8(β-Cholestanyl O-[Methyl(5-acetamido-4,7,8,9-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-azido-3-O-benzyl-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside)(32.0 mg, 80 %)を得た(図4参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0022】
Rf : 0.37 (トルエン:アセトン=3:1)
C141H174O32N4 MW : 2436.92
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD=1:1,TMS) δ;
1.861,1.934,2.019,2.072,2.082(s×5, 3 H×5, Ac×5)
2.616(dd, 1 H, J3eq,3ax=12.7 Hz, J3eq,4=4.6 Hz, H-3eeq) 3.613(s, 3 H, COOMe)
4.209(d, 1 H, J=12.0 Hz, benzyl) 4.253(dd, 1 H, J=9.0, 11.5 Hz)
4.904(d, 1 H, J=11.0 Hz, benzyl) 5.072(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl)
【0023】
化合物9
アルゴンガス雰囲気下、トリエチルアミン硫酸コンプレックス(75.2 mg, 0.415 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(1.5 ml)に化合物8(31.9 mg, 0.0707 mmol)を溶解し、50℃にて45分間攪拌した。反応液をセファデックスLH−20(SephadexTM LH-20、Amersham Biosciences)(クロロホルム:メタノール=1:1)にて精製し、DOWEX(登録商標、ダウケミカル社)(Na+)バッチ及びDOWEX(登録商標)(Na+)カラム(クロロホルム:メタノール:水=5:5:1)にて対カチオンをナトリウムに変換した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=12:1)にて精製し、化合物9(β-Cholestanyl O-[Methyl(5-acetamido-4,7,8,9-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-azido-3-O-benzyl-2-deoxy-6-O-sulfo-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside sodium salt)(29.9 mg, 90 %)を得た(図5参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0024】
Rf : 0.40 (クロロホルム:メタノール=11:1)
C141H173O35N4NaS MW : 2538.97
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD=1:1,TMS) δ;
1.856,1.947,2.012,2.076,2.085(s×5, 3 H×5, Ac×5)
2.612(dd, 1 H, J3eq,4=4.4 Hz, J3eq,3ax=12.5 Hz, H-3eeq) 3.568(s, 3 H, COOMe)
4.188(d, 1 H, J=12.0 Hz, benzyl) 4.248(dd, 1 H, J=2.7, 12.5 Hz)
4.312(bd, 1 H) 4.462(dd, 1 H, J=10.7, 3.9 Hz) 4.894(d, 1 H, J=11.0 Hz, benzyl)
5.278(dd, 1 H, J=2.0, 8.1 Hz, H-7e) 5.313-5.345(m, 1 H, H-8e)
【0025】
化合物10
アルゴンガス雰囲気下、化合物9(29.9 mg, 0.0118 mmol)をテトラヒドロフラン:メタノール(1:1, 4 ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(21.1 mg, 0.391 mmol)を加えて室温にて225分間攪拌した。反応液を約0.5 mlに濃縮し、ジクロロメタン:メタノール:水(5:5:1, 3 ml)を加えて溶解し、一晩攪拌した。さらに反応液に水酸化ナトリウム水溶液(2N, 20μl)を加えて1時間撹拌した。その後反応容器を40℃に加熱し、室温にて85分間撹拌した。反応液をセファデックスLH−20(クロロホルム:メタノール:水=5:5:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:1)にて順次精製し、化合物10(β-Cholestanyl O-[Sodium(5-acetamido-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-azido-3-O-benzyl-2-deoxy-6-O-sulfo-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(2,4,6-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-2,3,6-tri-O-benzyl-β-D-glucopyranoside sodium salt)(29.5 mg, qu.)を得た(図5参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0026】
Rf : 0.13 (クロロホルム:メタノール=3:1)
C132H162O31N4Na2S MW : 2378.78
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD=1:1,TMS) δ;
2.014(s, 3 H, NAc) 2.795(dd, 1 H, J3eq,4=4.6 Hz, J3eq,3ax=12.7 Hz, H-3eeq)
4.054(t, 1 H, J=9.3 Hz) 4.239(d, 1 H, J=9.5 Hz) 4.367(d, 1 H, J=12.0 Hz, benzyl)
4.852(d, 1 H, J=10.5 Hz, benzyl) 4.895(d, 1 H, J=10.7 Hz, benzyl)
4.934(d, 1 H, J=11.0 Hz, benzyl) 4.960(d, 1 H, J=11.5 Hz, benzyl)
4.986(d, 1 H, J=10.5 Hz, benzyl) 5.033(d, 1 H, J=10.5 Hz, benzyl)
【0027】
化合物11
化合物10(17.4 mg, 0.00731 mmol)を酢酸エチル:メタノール:水(14:9:6, 3.1 ml)に溶解し、20%水酸化パラジウム炭素(40.2 mg)を加え、反応系内を水素で置換し、室温にて24時間攪拌した。反応容器に溶媒(酢酸エチル:メタノール:水=14:9:6, 1.0 ml)を加えて、さらに3日間撹拌した。反応混合物をセライト濾過し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣を溶媒(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(0.4 N)を滴下して強塩基性とした後、セファデックスLH−20(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=6:4:1)、セファデックスLH−20(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)にて順次精製し、前記式化1で示される化合物11(β-Cholestanyl O-[Sodium(5-acetamido-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-amino-2-deoxy-6-O-sulfo-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-β-D-glucopyranoside sodium salt)(4.5 mg, 42 %)を得た(図5参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0028】
Rf : 0.31 (クロロホルム:メタノール:水=6:4:1)
C62H104O31N2Na2S MW : 1451.53
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD:D2O=2:3:1,TMS) δ;
2.022(s, 3 H, NAc) 2.743(dd, 1 H, J3eq,4=4.6 Hz, J3eq,3ax=12.5 Hz, H-3eeq)
2.961(bt, 1 H, H-2c) 3.256(dd, 1 H, J=8.1, 9.3 Hz)
4.243(dd, 1 H, J5,6=5.6 Hz, J6,6'=11.2 Hz, H-6c) 4.371(bd, 1 H, H-6'c)
4.402(d, 1 H, J1,2=7.6 Hz, H-1a or H-1b H-1d)
4.446-4.477(m, 2 H, H-1a or H-1b or H-1d) 4.729(bd, H-1c)
【0029】
化合物12
化合物11(3.2 mg, 0.00220mmol)をジクロロメタン:メタノール:水(4:3:0.8, 1.5 ml)に溶解し、氷冷下、トリエチルアミン(15.3μl, 0.110 mmol)、無水酢酸(10.4μl, 0.110 mmol)を加えた後、室温で70分間攪拌した。反応液を再び氷冷し、トリエチルアミン(15.3μl, 0.110 mmol)、無水酢酸(10.4μl, 0.110 mmol)を加えた後、室温で70分間攪拌した。再度反応液を氷冷し、水酸化ナトリウム水溶液(2N, 0.3 ml)、メタノール(0.5 ml)を加えて室温にて5.5時間攪拌した。反応液をセファデックスLH−20(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)、DOWEX(登録商標)(Na+)カラム(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)、セファデックスLH−20(クロロホルム:メタノール:水=2:3:1)にて順次精製し、前記式化2で示される化合物12(β-Cholestanyl O-[Sodium(5-acetamido-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-acetamido-2-deoxy-6-O-sulfo-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-β-D-glucopyranoside sodium salt)(3.1 mg, 94 %)を得た(図5参照)。生成物の分析値(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)を以下に記す。
【0030】
Rf : 0.29 (クロロホルム:メタノール:水=6:4:1)
C64H106O32N2Na2S MW : 1493.57
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD:D2O=2:3:1,TMS) δ;
2.023(s, 3 H, NAc) 2.032(s, 3 H, NAc) 2.710(dd, 1 H, J3eq,4=4.4 Hz, J3eq,3ax=12.0 Hz, H-3eeq)
3.250(dd, 1 H, J=8.1, 9.0 Hz) 4.133(d, 1 H, J=1.7 Hz)
4.244(dd, 1 H, J5,6=5.4 Hz, J6,6'=11.0 Hz, H-6c) 4.376(bd, 1 H, H-6'c)
4.414(d, 2 H, J1,2=7.6 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.450(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.740(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程(その1)を示す図である。Acは酢酸残基、MPはメトキシフェニル基、Phthはフタロイル基、Allはアリル基、Levはレブリノイル基を表す。
【図2】2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程(その2)を示す図である。Bnはベンジル基を表す。
【図3】2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程(その3)を示す図である。
【図4】2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程(その4)を示す図である。NeuAcはN−アセチルノイラミン酸、Meはメチル基を表す。
【図5】2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の製造工程(その5)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
Siaα2→6Galβ1→4GlcNHR01β(6-sulfate)1→3Galβ1→4Glc−R02
(式中、Siaαはαシアル酸を表し、Galβはβガラクトースを表し、GlcNHR01βはN-置換又は非置換のβN-グルコサミンを表し、R01はアセチル基又は水素原子を表し、Glcはグルコースを表し、R02は脂質を表し、Siaα2→6GalβはSiaαの2 位とGalβの6 位とが結合することを示し、Galβ1→4GlcNHR01β は、Galβの1 位とGlcNHR01βの4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNHR01βの6 位に硫酸基が付加していることを示し、GlcNHR01β(6-sulfate)1→3GalβはGlcNHR01β(6-sulfate)の1位とGalβの3位とが結合することを示し、Galβ1→4GlcはGalβの1位とGlcの4位とが結合することを示す。)で表される2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物又はその塩。
【請求項2】
脂質が、コレスタノール、コレステロール、セラミド、スフィンゴシン又はグリセロールである請求項1に記載の2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物又はその塩。
【請求項3】
下記の何れかの化学式で表される請求項1又は2に記載の2−6シアリル6−スルホラクトサミン糖鎖含有化合物又はその塩。
【化1】

又は
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルカリ金属を表し、Acはアセチル基を表し、Cholestanolはコレスタノール残基を表す。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−195667(P2008−195667A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33675(P2007−33675)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月28日 日本癌学会発行の「第65回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】