説明

2つの時計遺伝子発現量を2つの発光酵素活性で測定するトランスジェニックマウス

【課題】2つの時計遺伝子の遺伝子転写活性を、分泌、非分泌発光酵素を用いて同時に計測できるトランスジェニックマウスを作成する。
【解決手段】逆位相を示す2つの時計遺伝子ピリオド1(per1)とBmal1のプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を組み込んでなるトランスジェニックマウスであって、一方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、他方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、前記2つの時計遺伝子の発現を異なる分泌、非分泌ルシフェラーゼでモニター可能であることを特徴とするトランスジェニックマウス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの時計遺伝子の遺伝子転写活性を、分泌、非分泌発光酵素(ルシフェラーゼ)を用いて同時に計測するための遺伝子構築物、該遺伝子構築物を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物、特にトランスジェニックマウス、並びに形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学の分野では、細胞内で起きる遺伝子の転写活性を測定することが一般的に行われ、細胞に与える外来因子の影響の評価、細胞内情報伝達の伝播、或は個々のタンパク群の発現解析等に用いられている。特に体内時計は生体の恒常性を維持する上で大変重要なシステムであり、哺乳類細胞内では複数の時計遺伝子の転写活性が24時間周期で変動し、細胞分裂周期やホルモン分泌周期などと相関することが明らかになりつつある。よって、体内時計を理解した上での治療、或いは投薬が重要となりつつある。
【0003】
例えば、サーカディアン周期に関与することが知られているショウジョウバエピリオド遺伝子に対応するヒト遺伝子およびマウス遺伝子が提供され、このタンパク質およびDNAは、睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、非24時間型睡眠覚醒症候群、不規則型睡眠覚醒障害、時差症候群(いわゆる時差ボケ)等のサーカディアンリズムに関連する疾患の治療、さらに深夜不規則労働者の労務および健康管理、痴呆症の夜間徘徊の予防等に適用可能と考えられている(特許文献1)。
【0004】
よって、細胞内の体内時計を測定・評価する技術の開発が盛んに行われている。従来、時計遺伝子転写活性の測定はウェスタンブロット法やノーザンブロット法等で直接測定するか、或は発光タンパクや蛍光タンパクをレポータ遺伝子として間接的に測定する方法があり、特にホタル発光タンパク遺伝子を用いて発光量から転写活性を定量化することが一般化している。例えば、ピリオド2遺伝子プロモータ及びレポータ遺伝子を含むコンストラクト、該コンストラクトを含む細胞、並びに前記コンストラクトを組み込んだトランスジェニック動物を用いて、体内時計遺伝子の発現又は発現振動を制御する物質のスクリーニング方法が開示されている(特許文献2)。また、光入力経路及び出力経路を含む時計発振機構において重要である新規時計タンパク質BMAL2(Brain-Muscle-Arnt-Like protein 2)、それらをコードする新規時計遺伝子、及びそれらを利用したプロモータ転写活性の促進又は抑制物質のスクリーニング方法等が提供されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、一つの遺伝子発現を測定するのが一般的であり、ピリオド1遺伝子のみ、或いはBmal1遺伝子のみと、一種類の時計遺伝子を一つのレポータ遺伝子によって測定する細胞やトランスジェニックマウスが構築されているが、同時に2つの遺伝子発現を測定するシステムはない。24時間周期を示すピリオド1遺伝子とBmal1遺伝子は逆位相を示すと考えられ、12時間シフトしていると考えられているが、同時に細胞内で測定、直接確かめた例はない。また、その欠損で生物リズムが停止する(非特許文献1)生物時計のリズム発振に必須の時計遺伝子Bmal1発現を,全身の臓器組織で発光酵素により連続モニタリングできるトランスジェニックマウスの報告は一切ない。さらに,トランスジェニックマウスの臓器・組織において、分泌発光酵素により遺伝子発現を連続測定することにより、遺伝子発現に及ぼす薬物スクリーニングを行う技術は開発されていない。
【0006】
特許文献4には、時計遺伝子プロモーターを発光酵素遺伝子と連結し、他のプロモーター/発光酵素遺伝子と組み合わせて哺乳類細胞を形質転換することが記載されているが、2種の時計遺伝子を組み合わせることについては開示されていない。
【特許文献1】WO99/14324
【特許文献2】WO2002/081682
【特許文献3】特開2002−238567
【特許文献4】WO2004/099421
【非特許文献1】Bunger,M.K. et al. Cell 103:1009-1017, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞内の体内時計の振動子として最も基本であり、逆位相を示すピリオド遺伝子とBmal遺伝子の転写活性を、同時、或は限りなく同時期に測定し、定量化できるレポータ遺伝子の構築及び該レポータ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを開発し、体内時計の解析、更には病態の治療,検査及び新薬開発に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は,上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果,ピリオドプロモータ遺伝子にウミホタル由来分泌型発光酵素レポータ遺伝子を、Bmalプロモータ遺伝子にホタル由来分泌型発光酵素レポータ遺伝子を挿入した遺伝子構築体を用いて、同時に簡便且つ定量性良く、2つの遺伝子転写活性を測定することができるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製した。
【0009】
本発明は、以下のトランスジェニック非ヒト哺乳動物、スクリーニング方法、遺伝子構築物及び形質転換体に関する。
1. 逆位相を示す2つの時計遺伝子ピリオド(per)とBmalのプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を組み込んでなるトランスジェニックマウスであって、一方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、他方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、前記2つの時計遺伝子の発現を異なる分泌、非分泌ルシフェラーゼでモニター可能であることを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
2. 2つの前記時計遺伝子のプロモーターが、ピリオド1(per1)とBmal1のプロモーターである項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
3. 非ヒト哺乳動物がマウスである、項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
4. 項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物またはその培養組織もしくは培養細胞に候補化合物を与え、該候補化合物による、2つのルシフェラーゼ発現の影響をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える候補化合物のスクリーニング方法。
5. 項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、生物時計に影響する環境因子を与え、該環境因子による2つのルシフェラーゼ発現の影響をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える環境因子のスクリーニング方法。
6. 項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、生物時計に影響する環境因子と候補化合物を与え、該環境因子の影響に対する候補化合物の効果をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える環境因子に対し望ましい影響を有する化合物をスクリーニングする方法。
7. 逆位相を示す2つの時計遺伝子ピリオド(per)とBmalについて、一方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、他方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、前記2つの時計遺伝子の発現を異なる分泌、非分泌ルシフェラーゼでモニター可能であることを特徴とする遺伝子構築物。
8. 2つの前記時計遺伝子のプロモーターが、ピリオド1(per1)とBmal1のプロモーターである項7に記載の遺伝子構築物。
9. 項7または8に記載の遺伝子構築物を組み込んだ、形質転換体。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、異なる発光基質を用いる分泌、非分泌発光酵素を基盤に、ピリオド遺伝子(per1, per2またはper3)とBmal遺伝子(Bmal1またはBmal2)の転写活性を光測定できるレポータ遺伝子及び本レポータ遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物を構築した。本トランスジェニック非ヒト哺乳動物では各組織および細胞レベルでピリオド遺伝子とBmal遺伝子の転写が同時に測定できる。このため、転写調節への相互作用、連動作用など、同時に多くの情報を引き出すことことにより従来、1つの転写活性の変化情報では判断が容易でなかった現象が明らかとなり、細胞内時計機構の変化を詳細に解析することが可能となる。本トランスジェニック非ヒト哺乳動物の組織培養、灌流培養では、薬物投与と効果判定が的確に容易に行うことができるため、各種病態の治療及び新薬開発への利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の特徴は、分泌ルシフェラーゼと非分泌ルシフェラーゼを使用することにより2種以上の時計遺伝子の転写を同時に測定できる点にあり、これにより時計遺伝子の転写調節への相互作用、連動作用など、時計遺伝子に関して同時に多くの情報を得ることが可能になる。
【0012】
本明細書において、時計遺伝子としては、逆位相を示す2つの時計遺伝子であるピリオドとBmalを使用する。
【0013】
非ヒト哺乳動物としては、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどが挙げられ、ヒト、マウスが特に好ましい。
【0014】
本発明の遺伝子構築物を組み込む形質転換体の宿主は、哺乳動物細胞が例示される。哺乳動物としては、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどが挙げられ、ヒト、マウス、ラットが特に好ましい。
【0015】
ピリオド(per)としては、per1、per2、per3が例示され、これらのいずれかを使用することができる。per1が好ましい。Bmalとしては、Bmal1、Bmal2が使用でき、Bmal1が好ましい。24時間周期を示すピリオド遺伝子(特にper1、per2)とBMAL遺伝子(特にBmal1)は逆位相を示すと考えられ、時計遺伝子の転写調節への相互作用、連動作用などの情報を得るのに好都合である。
【0016】
ルシフェラーゼ遺伝子は、分泌型と非分泌型の2種のルシフェラーゼ遺伝子を使用する。分泌型ルシフェラーゼとして使用されるウミホタル・ルシフェラーゼのルシフェリンは細胞外に分泌されたルシフェラーゼの作用により発光するため、その発光を測定すればよい。またウミホタル・ルシフェラーゼは本来分泌型であるため好都合である。
【0017】
非分泌型ルシフェラーゼのルシフェリンは、細胞内に移行する必要がある。ホタルルシフェリンは良好な細胞内への移行性を有しており、時計遺伝子の発現量を測定するのに有利である。
【0018】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、トランスジェニック動物の製造において通常使用されるような常法(例えば、 実験医学別冊 新遺伝子工学ハンドブック 羊土社発行、第7章トランスジェニックマウスの作成法 第248−253頁 2003を参照)に従って作製することができる。
【0019】
例えば、トランスジェニック非ヒト哺乳動物として、トランスジェニックマウスを例に取り、以下に説明する。マウス以外の非ヒト哺乳動物についても、マウスの場合を参考にして同様に実施することができる。
【0020】
例えばホルモン誘導により過排卵させたメスマウスより卵を採取し、これに本発明の遺伝子構築物をマイクロインジェクションし、偽妊娠マウス卵管に移植することによりファウンダーマウス(本発明トランスジェニックマウスのヘテロ型、即ち一方のみの染色体に本発明の遺伝子構築物を有するマウス)が得られる。これを野生型マウスと交配してヘテロ型トランスジェニックマウスの産仔を得、さらに、ヘテロ型トランスジェニックマウス同士を交配すれば、ホモトランスジェニックマウスを得ることができる。
【0021】
トランスジェニックマウスの作製に使用される遺伝子構築物としては、図1及び配列番号1に記載される遺伝子構築物を使用できる。
【0022】
なお、配列番号1の遺伝子構築物を組み込んだトランスジェニックマウスは、2005年4月22日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに「識別のための表示:PVBF205-4」で寄託してある。
【0023】
本発明のスクリーニング方法は、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物またはその培養組織もしくは培養細胞に種々の候補化合物を投与し、分泌型ないし非分泌型ルシフェラーゼ遺伝子の発現の変化を観察することで実施することができる。
【0024】
例えばトランスジェニック非ヒト哺乳動物に候補化合物、特に薬物候補化合物を投与し、時計遺伝子の発現がその病態がどのように変化するのかを、好ましくはリアルタイムで観察することで、該化合物の効果を精密に調べることができる。
【0025】
或いは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に種々の環境因子(例えば移住空間、光(明暗サイクル)、気温、食餌の時間の変更、時差ぼけ、シフトワークなど)を変化させ、そのときの細胞内の2つの時計遺伝子の転写活性を、例えば分単位の時間分解能で定量することができる。
【0026】
さらに、このような環境因子を変化させながら候補化合物をトランスジェニック非ヒト哺乳動物を投与することで、候補化合物が環境因子の影響をどの程度制御できるかが評価可能である。例えば、環境因子を変化させることにより消化器系、自律神経系などの障害、具体的には時差ぼけやシフトワーク、リズム障害、自律神経系失調の治療薬の開発、薬物スクリーニングに用いることができる。
【0027】
投与される化合物は、タンパク質(ホルモン、抗体、酵素、受容体などを広く含む)、核酸(DNA、RNA)或いはこれらと作用する物質や生理活性物質を広く含む(低分子量及び高分子量の化合物を包含する)ものであり、毒物の効果を確認することも包含される、
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0029】
実施例1
Bmal1プロモータ(8.1kbp)の下流にホタルルシフェラーゼ(FL)cDNAを、Per1プロモータ(6.8kbp)の下流にウミホタルルシフェラーゼ(VL)cDNAを挿入したベクターを作成した(配列番号1)。本遺伝子構築物によれば、Per1プロモータが活性化されれば、ウミホタルルシフェラーゼが合成、細胞外に分泌され、培養液にウミホタルルシフェリンを加えればルシフェリン-ルシフェラーゼ反応によりPer1遺伝子の転写活性を測定できる。一方、Bmal1プロモータが活性化されれば、ホタルルシフェラーゼが合成、細胞内に留まるが、培養液に含まれるホタルルシフェリンは細胞内に移行、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応によりBmal1遺伝子の転写活性を測定できる(図1)。本遺伝子を受精卵にマイクロインジェクションして用い、2種の遺伝子発現を同時にモニタリングするトランスジェニックマウスを作製した。得られたトランスジェニックマウス(PVBF205-4)の受精卵は、2005年4月22日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに「識別のための表示:PVBF205-4」で寄託した。
【0030】
実施例2
作成した尾先端組織のDNAを抽出し、PCR法にてgenotypeを行い、遺伝子配列1が含まれるトランスジェニックマウスを選別した。選ばれた11ライン中、組織発光量の高い3ラインを選択し、交配・飼育、特にライン番号(line no.205-4)を選別した。
LD12:12(6:00-18:00明期)で飼育された4〜20週齢、雌雄のTGマウスを実験に使用した。外来遺伝子が内在の体内時計をかく乱しないことを確認するため、11〜16週齢のトランスジェニックマウスおよび野生型の雄性マウスを各々10匹ずつ、感熱式センサーにて自発行動リズムを測定した。LD12(6:00-18:00明期)下で14日間自発行動量を測定後、恒常暗条件(DD)に移し、DD24日目のCT14と51日目のCT22に30分間光パルスを照射した。その結果、行動周期、パルスによる位相変位ともにトランスジェニック及び野生型には有意差がみられず、本レポータシステムが導入されても体内時計に影響がないことが明らかとなった(表1)。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、各組織を取り出し、それぞれの組織抽出液にホタルおよびウミホタルルシフェリンを加え、ルミノメータで発光を測定した。ウミホタルルシフェラーゼ活性は精巣、脂肪、尾において特に高かった。一方、SCN抽出液における発光リズムは検出できなかったが、in situバイブリダイゼーションによりウミホタルmRNAの発現量にはピリオド1 mRNAとほぼ同位相の発現リズムがみられることが確認できた。これに対し、ホタルルシフェラーゼは測定した全ての臓器で活性がみられた(図2)。よって、本トランスジェニックマウスは2つの遺伝子転写活性を測定できることが明らかとなった。
【0033】
実施例3
本トランスジェニックマウスのBmal1時計遺伝子の転写活性について連続測定を行った。マウスを断頭後、ただちに脳、肝臓を氷冷Hanks’平衡塩溶液中に入れ、マイクロスライサーにて300μmの前額断脳切片を作製し、実体顕微鏡下で視交叉上核(SCN)を切り出した。一方、肝臓組織を用い、ティシューチョッパーにて300μmのスライス切片を作成した。SCN、肝臓のスライスを0.1mMのホタルルシフェリン含有DMEM培地、37℃にて気水界培養(MILLICELL CM φ0.4μm使用)し、ディッシュ型ルミノメータ(ATTO Kronos)にて1分間の発光量を10分間隔で4〜15日間を連続測定した。
【0034】
その結果、同一マウスのSCNと肝臓のBmal1活性は培養初期ではほぼ逆位相であったが、次第に脱同調し、肝臓のサーカディアン周期はSCNに比べて有意に短かった(図3)。本トランスジェニックマウスにより一つの個体内でも、組織特異的に体内時計の転写活性リズムが異なることが明らかとなった。
【0035】
実施例4
本トランスジェニックマウスのPer1時計遺伝子転写活性について、灌流培養系を用いて連続測定を行った。マウス断頭後、直ちに精巣を摘出し、氷冷Hanks’緩衝液中で4分割し、95%酸素、5%炭酸ガスにて飽和したOPTI MEMI 培養液にて灌流培養した。ペリスタポンプにて、20分毎300μLの灌流液を18時間に渡り回収した。回収した各サンプルのうち50μLを用い、100nMウミホタルルシフェリン50μLと反応させ、20秒間の発光量をルミノメーター(ATTO Luminosensor JNRAB2100)にて測定した。発光量は数時間毎の拍動性変動を示した後、持続的に高レベルを示した。(図4)
【0036】
実施例5
本トランスジェニックマウスの精巣の灌流培養系を用い、Per1時計遺伝子転写活性とBmal1時計遺伝子転写活性の同時測定を行った。マウス断頭後、直ちに精巣スライスを作成し、0.1mMホタルルシフェリン含有DMEM培地にてディッシュ型ルミノメーター上で灌流培養を行い、ホタルルシフェラーゼによる発光を1分毎連続測定し、同時に分泌されたウミホタルルシフェラーゼ活性を、15分間隔でフラクションコレクターに回収した培養液を用いて測定した。ホタルおよびウミホタルルシフェラーゼ活性の3日間の同時連続測定結果を図5に示す。Bmal1遺伝子発現をレポートするホタルルシフェラーゼ活性は、測定開始から数時間の間急激に低下した後、低振幅のリズムを示した。一方、同一組織におけるPer1遺伝子発現をレポートするウミホタルルシフェラーゼ活性は、培養直後は低値を示したのち、急上昇し、午前4時にピークを示した後に低下する約24時間周期の変動を示した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、2つの時計遺伝子ピリオド1及びBmal1転写活性を、分泌、非分泌発光酵素を用いて同時に計測できるトランスジェニックマウスを提供する.本トランスジェニックマウスを使用することで、細胞内の2つの時計遺伝子の転写活性を同時に分単位の時間分解能で定量することができる。本トランスジェニックマウスを用いることにより、時差ぼけや明暗サイクルの急激なシフトに伴う、生物時計の反応が高精度で定量できる。
光による生物時計の同調、食餌による消化器系リズムの同調、自律神経系による循環器系の調節等を細胞レベルで検討することが可能となる。リズム障害の治療、時差ぼけやシフトワーク、リズム障害の治療薬の開発、薬物スクリーニングに用いられる。細胞間、組織間のリズム情報伝達機構の解明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】Bmal1プロモータ(8.1kbp)+ホタルルシフェラーゼ(FL)cDNA+Per1プロモータ(6.8kbp)+ウミホタルルシフェラーゼ(VL)cDNAの遺伝子構築物と、細胞内での発現及び発光様式
【図2】Bmal1+Per1レポータ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスにおけるホタルおよびウミホタルルシフェラーゼ活性の組織特異性
【図3】SCN及び肝臓におけるBmal1遺伝子の転写活性の連続測定の一例
【図4】精巣灌流培養におけるPer1遺伝子の転写活性のウミホタルルシフェラーゼ発光による連続測定
【図5】トランスジェニックマウス精巣の灌流培養系を用いたPer1とBmal1遺伝子転写活性の同時連続測定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆位相を示す2つの時計遺伝子ピリオド(per)とBmalのプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を組み込んでなるトランスジェニックマウスであって、一方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、他方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、前記2つの時計遺伝子の発現を異なる分泌、非分泌ルシフェラーゼでモニター可能であることを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
2つの前記時計遺伝子のプロモーターが、ピリオド1(per1)とBmal1のプロモーターである請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物またはその培養組織もしくは培養細胞に候補化合物を与え、該候補化合物による、2つのルシフェラーゼ発現の影響をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える候補化合物のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、生物時計に影響する環境因子を与え、該環境因子による2つのルシフェラーゼ発現の影響をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える環境因子のスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1、2または3に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、生物時計に影響する環境因子と候補化合物を与え、該環境因子の影響に対する候補化合物の効果をモニターすることを特徴とする、時計遺伝子発現に影響を与える環境因子に対し望ましい影響を有する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項7】
逆位相を示す2つの時計遺伝子ピリオド(per)とBmalについて、一方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、他方の時計遺伝子のプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結し、前記2つの時計遺伝子の発現を異なる分泌、非分泌ルシフェラーゼでモニター可能であることを特徴とする遺伝子構築物。
【請求項8】
2つの前記時計遺伝子のプロモーターが、ピリオド1(per1)とBmal1のプロモーターである請求項7に記載の遺伝子構築物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の遺伝子構築物を組み込んだ、形質転換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−304642(P2006−304642A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129245(P2005−129245)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月31日本時間生物学会発行の「時間生物学 Vol.10,No.2(2004)」に発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】