説明

2ワイヤ溶接制御方法

【課題】アーク長を周期的に変化させて溶接する2ワイヤ溶接方法において、高速溶接性を向上させる。
【解決手段】ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期として繰り返して溶接ワイヤ1に通電し、切換信号Stcに同期してアーク長Laを第1アーク長HLaとそれよりも短い第2アーク長LLaとに周期的に切り替えて溶融池2を形成し、フィラーワイヤ6を溶融池2に送給して溶接する2ワイヤ溶接制御方法において、フィラーワイヤ6の送給速度Wsを、第1アーク長HLaのときは第1フィラーワイヤ送給速度LWsに設定し、第2アーク長LLaのときは第1フィラーワイヤ送給速度LWsよりも高速の第2フィラーワイヤ送給速度HWsに設定する。アーク長が短いときのフィラーワイヤの送給速度が高速になるので、溶融池の冷却効果が増大し、高速溶接性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤにパルス波形の溶接電流を通電し、アーク長を低周波で周期的に変化させて溶融池を形成すると共に、フィラーワイヤを溶融池に送給しながら溶接する2ワイヤ溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極(以下、溶接ワイヤという)と母材との間にアークを発生させて溶融池を形成すると共に、その溶融池にフィラーワイヤを送給して溶接する2ワイヤ溶接方法(特許文献1参照)が従来から知られている。この2ワイヤ溶接方法では、溶接ワイヤの溶融金属にフィラーワイヤの溶融金属が加わるために、ワイヤ溶着量が増加し、高速で高効率な溶接が可能となる。特に、2ワイヤ溶接方法によって高速溶接を行うときには、ハンピングビードになるのを防止するために、フィラーワイヤを消耗電極アークよりも後半から溶融池に接触させて送給することが重要である。これは、フィラーワイヤを消耗電極アーク中に送給して溶融すると、溶融池はほとんど冷却されず、かつ、フィラーワイヤによって溶融池後半部の盛り上がりを抑えることもできないためにハンピングビードを抑制する効果はないからである。これに対して、フィラーワイヤをアーク周縁部の溶融池の後半部に接触させて送給し、溶融池の熱によって溶融するようにすれば溶融池が冷却され、かつ、フィラーワイヤによって溶融池後半部の盛り上がりが抑えられてハンピングビードの形成を抑制することができる。したがって、従来技術の2ワイヤ溶接方法では、フィラーワイヤには電流を通電せずに冷たい状態で溶融池と接触させることによって、溶融池を冷却するようにしている。
【0003】
2ワイヤ溶接方法では、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させる方法として、炭酸ガスアーク溶接法、マグ溶接法、ミグ溶接法、パルスアーク溶接法、交流アーク溶接法等の種々な消耗電極式アーク溶接法を使用することができる。また、フィラーワイヤは基本的にワイヤ先端が溶融池と接触しており、溶融池からの熱によって溶融する。したがって、フィラーワイヤと母材との間にはアークは発生していない。本発明では、上記の消耗電極式アーク溶接法として、低周波でアーク長を周期的に変化させるパルスアーク溶接法を使用する場合である。以下、このアーク長変化パルスアーク溶接方法について説明する(特許文献2参照)。
【0004】
パルスアーク溶接において、パルスパラメータ、溶接電圧等を周期的に変化させてアーク長を周期的に変化させることによって、溶融範囲を変化させて図3に示すようなウロコ状の美麗なビード外観を得るアーク長変化パルスアーク溶接方法が慣用されている。また、このアーク長変化パルスアーク溶接では、アーク長の変化によって溶融池を揺動させることができ、ブローホールの発生を抑制することができることが知られている。
【0005】
図4は、従来技術におけるアーク長変化パルスアーク溶接方法を示す波形図である。同図(A)は切換信号STCを示し、同図(B)は溶接電流Iwを示し、同図(C)は溶接電圧Vwを示し、同図(D)はアーク長Laを示す。同図は、フィラーワイヤを送給していない通常の1ワイヤ溶接方法の場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0006】
同図(A)に示すように、切換信号Stcは、予め定めた高パルス期間HT中はHighレベルになり、予め定めた低パルス期間LT中はLowレベルになる。この高パルス期間HTと低パルス期間LTとを合わせた期間が、切換周期Tcとなる。
【0007】
高パルス期間HT中は、同図(B)に示すように、高ピーク期間HTp中の高ピーク電流HIp及び高ベース期間HTb中の高ベース電流HIbから成る高パルス電流群が通電する。この高ピーク期間HTpと高ベース期間HTbとを合わせて高パルス周期HTfになる。したがって、高パルス期間HTは、複数の高パルス周期HTfを含んでいる。そして、この高パルス電流群の通電に対応して、同図(C)に示すように、高ピーク期間HTp中は高ピーク電圧HVpが溶接ワイヤ・母材間に印加し、高ベース期間HTb中は高ベース電圧HVbが印加する。
【0008】
低パルス期間LT中は、同図(B)に示すように、低ピーク期間LTp中の低ピーク電流LIp及び低ベース期間LTb中の低ベース電流LIbから成る低パルス電流群が通電する。この低ピーク期間LTpと低ベース期間LTbとを合わせて低パルス周期LTfになる。したがって、低パルス期間LTは、複数の低パルス周期LTfを含んでいる。そして、この低パルス電流群の通電に対応して、同図(C)に示すように、低ピーク期間LTp中は低ピーク電圧LVpが溶接ワイヤ・母材間に印加し、低ベース期間LTb中は低ベース電圧LVbが印加する。
【0009】
パルスアーク溶接を含む消耗電極式アーク溶接では、良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、溶接電圧Vwがアーク長と略比例関係にあることを利用して、溶接電圧Vwが予め定めた電圧設定値に等しくなるように溶接電源の出力を制御する。同図に示すパルスアーク溶接においても同様に溶接電圧Vwをフィードバック制御して溶接電源の出力を制御する。この場合、フィードバック制御の方法によって、下記の3種類の変調制御方式に区別することができる。
(1)溶接電圧Vwの平均値が電圧設定値と等しくなるようにパルス周期がフィードバック制御される。この場合、ピーク期間、ピーク電流値及びベース電流値がパルスパラメータとなり、予め適正値に設定される。溶接電圧Vwの平均値は、溶接電圧Vwの瞬時値をローパスフィルタ(カットオフ周波数1〜10Hz程度)に通すことによって生成する。この制御方式は、周波数変調制御と呼ばれる。
(2)溶接電圧Vwの平均値が電圧設定値と等しくなるようにピーク期間(パルス幅)がフィードバック制御される。この場合、ピーク電流値、パルス周期及びベース電流値がパルスパラメータとなり、予め適正値に設定される。この制御方式は、パルス幅変調制御と呼ばれる。
(3)溶接電圧Vwのピーク電圧値が電圧設定値と等しくなるようにピーク電流がフィードバック制御される。この場合、ピーク期間、パルス周期及びベース電流値がパルスパラメータとなり、予め適正値に設定される。この制御方式は、ピーク電流変調制御と呼ばれる。
【0010】
上述したように、パルスアーク溶接のアーク長制御では、溶接電圧Vwをフィードバック制御してパルスパラメータの1つを操作量として変化させて溶接電源の出力を制御し、他のパルスパラメータを所定値に設定する。同図においては、上記(1)に示すように、溶接電圧Vwの平均値が電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が変化する。したがって、この場合、ピーク期間、ピーク電流及びベース電流が所定値のパルスパラメータとなる。同図に示すアーク長変化パルスアーク溶接では、高パルス期間HTと低パルス期間LTとで、図示していないが電圧設定値を変化(高電圧設定値と低電圧設定値)させている。さらに、高パルス期間HT中は高ピーク期間HTp、高ピーク電流HIp及び高ベース電流HIbに設定し、低パルス期間LT中は低ピーク期間LTp、低ピーク電流LIp及び低ベース電流LIbに設定して、パルスパラメータを変化させている。この結果、同図(D)に示すように、アーク長Laは、高アーク長(第1アーク長)HLaと低アーク長(第2アーク長)LLaとで周期的に変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−167489号公報
【特許文献2】特開2009−72826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように2ワイヤ溶接方法では、溶接ワイヤ及びフィラーワイヤの2つのワイヤを溶融池に送給するために、ワイヤ溶着量を大きくすることができる。さらに、フィラーワイヤは、溶接ワイヤと母材との間に発生しているアーク中に送給されるのではなく、溶融池の後半部に送給されるために、溶融池を冷却する効果及び溶融池後半部の盛り上がりを押さえる効果を有している。このために、2ワイヤ溶接方法では、高速溶接時においてハンピングビードになることを抑制することができ、良好なビードを形成することができる。この2ワイヤ溶接方法に上述したアーク長変化パルスアーク溶接を使用すると、上記の効果に加えて、ウロコ状の美しいビード外観を形成することができる。
【0013】
アーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法では、アーク長を周期的に変化させているために、切換周期を通した平均的なアーク長が、通常のパルスアーク溶接(アーク長は略一定値)に比べて長くなる。このために、溶融池が高温になり、フィラーワイヤの送給による冷却作用が通常のパルスアーク溶接に比べて小さくなる。この結果、アーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法は、通常パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法に比べて、高速溶接性が劣るという問題があった。
【0014】
そこで、本発明では、アーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法において、高速溶接性を向上させることができる2ワイヤ溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接ワイヤを送給し、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期として繰り返して前記溶接ワイヤに通電し、複数の前記パルス周期を含む予め定めた切換信号に同期してアーク長を第1アーク長とそれよりも短い第2アーク長とに周期的に切り替えて溶融池を形成すると共に、フィラーワイヤを前記溶融池に送給しながら溶接する2ワイヤ溶接制御方法において、
前記フィラーワイヤの送給速度を、前記第1アーク長のときは予め定めた第1フィラーワイヤ送給速度に設定し、前記第2アーク長のときは前記第1フィラーワイヤ送給速度よりも高速の予め定めた第2フィラーワイヤ送給速度に設定する、
ことを特徴とする2ワイヤ溶接制御方法である。
【0016】
請求項2の発明は、前記第1フィラーワイヤ送給速度を0に設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の2ワイヤ溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィラーワイヤの送給速度を、アーク長が長いとき(第1アーク長のとき)は予め定めた第1フィラーワイヤ送給速度に設定し、アーク長が短いとき(第2アーク長のとき)は第1フィラーワイヤ送給速度よりも高速の予め定めた第2フィラーワイヤ送給速度に設定する。このために、アーク長が短くて溶融池への加熱が小さいときに、フィラーワイヤの送給速度が高速になるので、溶融池の冷却効果は増大する。この結果、ハンピングビードの形成が抑制されるので、高速溶接性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る2ワイヤ溶接制御方法を示すタイミングチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る2ワイヤ溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。る
【図3】従来技術におけるアーク長変化パルスアーク溶接方法によるウロコ状のビード外観を示す図である。
【図4】従来技術のアーク長変化パルスアーク溶接方法を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る2ワイヤ溶接制御方法を示すタイミングチャートである。同図(A)は切換信号Stcを示し、同図(B)はパルスパラメータ設定信号Psを示し、同図(C)は電圧設定信号Vsを示し、同図(D)は溶接ワイヤの送給速度設定信号Fsを示し、同図(E)は溶接電流Iwを示し、同図(F)は溶接電圧Vwを示し、同図(G)はアーク長Laを示し、同図(H)はフィラーワイヤの送給速度設定信号Wsを示す。同図は、上述した図4と対応している。同図における2ワイヤ溶接方法では、上述したように、フィラーワイヤはアーク中には送給されずに、溶融池の後半部に短絡状態で送給される。以下、同図を参照して説明する。
【0021】
切換信号Stcは、同図(A)に示すように、予め定めた時刻t1〜t2の低パルス期間LT中はLowレベルになり、予め定めた時刻t2〜t3の高パルス期間HT中はHighレベルになる。これらを合算した切換周期Tcの逆数である切換周波数fcは、0.5〜25Hz程度の範囲に設定される。また、デューティ(100×HT/Tc)は、50±20%程度の範囲で設定される。これらの値は、溶接ワイヤの種類、直径、溶接速度、継手形状等に応じて、ウロコ状ビード外観の様子、ブローホールの削減効果等を考量して実験によって適正値に設定される。
【0022】
同図は溶接電源の出力制御方式(アーク長制御方式)が周波数変調制御の場合であるので、パルスパラメータ設定信号Psは、同図(B)に示すように、低パルス期間LT中は低パルスパラメータ設定値LPsに設定され、高パルス期間HT中は高パルスパラメータ設定値HPsに設定される。同図(C)に示すように、低パルスパラメータ設定値LPsは、図示していないが低ピーク期間LTp、低ピーク電流LIp及び低ベース電流LIbから形成される。同様に、高パルスパラメータ設定値HPsは、高ピーク期間HTp、高ピーク電流HIp及び高ベース電流HIbから形成される。上述したように、パルス幅変調制御の場合にはパルスパラメータは、ピーク電流、パルス周期及びベース電流の組合せとなり、ピーク電流変調制御の場合にはピーク期間、パルス周期及びベース電流の組合せになる。その場合、低パルス周期は周期が長くなり、高パルス周期は周期が短くなる。ここで、同図におけるパルスパラメータの設定値の例を記載すると、以下のようになる。溶接ワイヤの材質が鉄であり、直径が1.2mmの場合である。LTp=1.4ms、LIp=440A、LIb=60A、HTp=1.8ms、HIp=480A、HIb=80Aである。低パルス周期LTf及びHTfは、フィードバック制御によってその値が刻々と変化する。
【0023】
電圧設定信号Vsは、同図(C)に示すように、低パルス期間LT中は低電圧設定値LVsに設定され、高パルス期間HT中は高電圧設定値HVsに設定される。ここで、LVs<Hvsである。この低電圧設定値LVsによって低アーク長(第2アーク長)LLaが決定され、この高電圧設定値HVsによって高アーク長(第1アーク長)HLaが決定される。低アーク長(第2アーク長)LLaが、短絡が少し発生する程度のアーク長(2mm程度)よりも長くなるように、低電圧設定値LVsが設定される。そして、高アーク長(第1アーク長)HLaが、低アーク長LLaよりも2mm以上長くなるように、高電圧設定値HVsが設定される。溶接電圧(平均値又はピーク電圧値)Vwがこの電圧設定信号Vsの値と等しくなるように、周波数変調制御の場合にはパルス周期がフィードバック制御される。また、パルス幅変調制御の場合には、ピーク期間(パルス幅)がフィードバック制御される。ピーク電流変調制御の場合には、ピーク電流がフィードバック制御される。
【0024】
溶接ワイヤの送給速度設定信号Fsは、同図(D)に示すように、予め定めた一定値である。したがって、溶接ワイヤは一定の速度で送給されている。
【0025】
溶接電流Iwは、同図(E)に示すように、低パルス期間LTと高パルス期間HTとでパルスパラメータの値が変化するのでそれに対応して波形が変化する。また、溶接電圧Vwは、同図(F)に示すように、溶接電流Iwの変化に対応してその波形が変化する。さらに、電圧設定信号Vsが変化するので、上述したように、フィードバック制御によってパルス周期も変化する。
【0026】
上記の電圧設定信号Vsの変化に応動してアーク長Laが変化する。アーク長Laは、同図(G)に示すように、低パルス期間LT中は低アーク長(第2アーク長)HLaになり、高パルス期間HT中は高アーク長(第1アーク長)HLaになる。
【0027】
フィラーワイヤ送給速度設定信号Wsは、同図(H)に示すように、低パルス期間LT中は高送給速度設定値HWsに設定されるので第2フィラーワイヤ送給速度になり、高パルス期間HT中は高送給速度設定値HWsに設定されるので第1フィラーワイヤ送給速度になる。HWs>LWsである。これにより、フィラーワイヤの送給速度は、アーク長Laが短い(低アーク長LLa)ときは高速になり、長い(高アーク長HLa)ときは低速になる。
【0028】
従来技術においては、アーク長の周期的な変化とは関係なく、フィラーワイヤの送給速度は一定値であった。アーク長が長い期間中は、アークからの溶融池への加熱が大きくなるために、フィラーワイヤを溶融池後半部に送給したときの冷却効果は小さくなる。他方、アーク長が短い期間中は、アークからの溶融池への加熱が小さくなるために、フィラーワイヤを溶融池後半部に送給したときの冷却効果は大きくなる。上述したように、通常パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法では、アーク長は一定値となる。そして、アーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法におけるアーク長の平均値は、通常パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法よりも相対的に長くなる。これらの結果として、アーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法では、フィラーワイヤの送給による溶融池の冷却効果が減少するために、高速溶接性が低下していた。これに対して、上述した本発明に係るアーク長変化パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法では、アーク長が長い期間中にはフィラーワイヤの送給速度を低速にし、アーク長が短い期間中はフィラーワイヤの送給速度を高速にしている。これにより、アーク長が短くて溶融池への加熱が小さいときに、フィラーワイヤの送給速度が高速になるので、溶融池の冷却効果は増大する。この結果、ハンピングビードの形成が抑制されるので、高速溶接性が向上する。
【0029】
低送給速度設定値LWs(第1フィラーワイヤ送給速度)及び高送給速度設定値HWs(第2フィラーワイヤ送給速度)は、両値の平均値が、通常パルスアーク溶接による2ワイヤ溶接方法のときのフィラーワイヤの送給速度と略同一になるように設定される。そして、低送給速度設定値LWsと高送給速度設定値HWsとの比率は、溶接速度に応じてハンピングビードが発生せずに良好なビードが形成されるように実験によって設定される。このときに、低送給速度設定値LWs=0に設定される場合もある。この場合には、フィラーワイヤは、アーク長が短い期間中のみ送給されることになる。
【0030】
図2は、上述した本発明の実施の形態に係る2ワイヤ溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0031】
電源主回路PMは、3相200V等の賞用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2時整流回路、整流された直流を平滑するリアクトル、電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ない、インバータ回路を駆動する駆動回路から構成される。溶接ワイヤ1は、送給モータFMに結合された送給ロール5によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。フィラーワイヤ6は、フィラーワイヤ送給モータWMに結合されたフィラーワイヤ送給ロール7によってワイヤガイド8内を通って、母材2上に形成される溶融池と短絡した状態で送給される。
【0032】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均値算出回路VAVは、この電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧平均値信号Vavを出力する。
【0033】
切換信号生成回路STCは、予め定めた低パルス期間設定値LTsによって定まる期間中はLowレベルになり、予め定めた高パルス期間設定値HTsによって定まる期間中はHighレベルになる切換信号Stcを出力する。送給速度設定回路FSは、予め定めた定常送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給速度設定信号Fsを送給モータFMに出力する。フィラーワイヤ送給速度設定回路WSは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた高送給速度設定値HWsでフィラーワイヤ6を送給し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた低送給速度設定値LWsでフィラーワイヤ6を送給するためのフィラーワイヤ送給速度設定信号Wsをフィラーワイヤ送給モータWMに出力する。
【0034】
電圧設定回路VSは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた低電圧設定値LVsを電圧設定信号Vsとして出力し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた高電圧設定値HVsを電圧設定信号Vsとして出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vsと上記の電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧/周波数変換回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間だけHighレベルになるトリガ信号である。
【0035】
ピーク期間設定回路TPSは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた低ピーク期間設定値LTpsをピーク期間設定信号Tpsとして出力し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた高ピーク期間設定値HTpsをピーク期間設定信号Tpsとして出力する。ピーク期間タイマ回路TPは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルになると上記のピーク期間設定信号Tpsの値によって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号TpがHighレベルのときがピーク期間となり、Lowレベルのときがベース期間となる。
【0036】
ベース電流設定回路IBSは、予め定めたベース電流設定信号Ibsを出力する。上述した図1ではこのベース電流も変化させていたが、同図においては変化させずに一定値の場合を例示する。もちろん、上記の切換信号Stcに応じて、低ベース電流設定値と高ベース電流設定値とを切り換えるようにしても良い。ピーク電流設定回路IPSは、上記の切換信号StcがLowレベル(低パルス期間)のときは予め定めた低ピーク電流設定値LIpsをピーク電流設定信号Ipsとして出力し、Highレベル(高パルス期間)のときは予め定めた高ピーク電流設定値HIpsをピーク電流設定信号Ipsとして出力する。電流設定制御回路ISCは、上記のピーク期間信号TpがLowレベルのときは上記のベース電流設定信号Ibsを電流設定制御信号Iscとして出力し、Highレベルのときは上記のピーク電流設定信号Ipsを電流設定制御信号Iscとして出力する。
【0037】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定制御信号Iscと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って、上記の電源主回路PM内のインバータ回路が制御されて、図1で上述した低パルス電流群及び高パルス電流群が通電し、フィラーワイヤがアーク長Laに応じた送給速度で送給される。
【0038】
同図は、出力制御が周波数変調制御の場合である。出力制御がパルス幅変調制御の場合には、ピーク期間が電圧誤差増幅信号Evによってフィードバック制御される。そして、パルスパラメータであるピーク電流設定信号、ベース電流設定信号及びパルス周期設定信号が切換信号Stcに応じて切り換えられる。出力制御がピーク電流変調制御の場合には、ピーク電流が電圧誤差増幅信号Evによってフィードバック制御される。そして、パルスパラメータであるピーク期間設定信号、ベース電流設定信号及びパルス周期設定信号が切換信号Stcに応じて切り換えられる。
【0039】
上述した実施の形態によれば、フィラーワイヤの送給速度を、アーク長が長いとき(第1アーク長のとき)は予め定めた第1フィラーワイヤ送給速度に設定し、アーク長が短いとき(第2アーク長のとき)は第1フィラーワイヤ送給速度よりも高速の予め定めた第2フィラーワイヤ送給速度に設定する。このために、アーク長が短くて溶融池への加熱が小さいときに、フィラーワイヤの送給速度が高速になるので、溶融池の冷却効果は増大する。この結果、ハンピングビードの形成が抑制されるので、高速溶接性が向上する。
【符号の説明】
【0040】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
6 フィラーワイヤ
7 フィラーワイヤ送給ロール
8 ワイヤガイド
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
fc 切換周波数
FM 送給モータ
FS 送給速度設定回路
Fs 送給速度設定信号
HIb 高ベース電流
HIp 高ピーク電流
HIps 高ピーク電流設定値
HLa 高アーク長
HPs 高パルスパラメータ設定値
HT 高パルス期間
HTb 高ベース期間
HTf 高パルス周期
HTp 高ピーク期間
HTps 高ピーク期間設定値
HTs 高パルス期間設定値
HVb 高ベース電圧
HVp 高ピーク電圧
HVs 高電圧設定値
HWs 高送給速度設定値
IBS ベース電流設定回路
Ibs ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
IPS ピーク電流設定回路
Ips ピーク電流設定信号
ISC 電流設定制御回路
Isc 電流設定制御信号
Iw 溶接電流
La アーク長
LIb 低ベース電流
LIp 低ピーク電流
LIps 低ピーク電流設定値
LLa 低アーク長
LPs 低パルスパラメータ設定値
LT 低パルス期間
LTb 低ベース期間
LTf 低パルス周期
LTp 低ピーク期間
LTps 低ピーク期間設定値
LTs 低パルス期間設定値
LVb 低ベース電圧
LVp 低ピーク電圧
LVs 低電圧設定値
LWs 低送給速度設定値
PM 電源主回路
Ps パルスパラメータ設定信号
STC 切換信号生成回路
Stc 切換信号
Tc 切換周期
Tf パルス周期信号
TP ピーク期間タイマ回路
Tp ピーク期間信号
TPS ピーク期間設定回路
Tps ピーク期間設定信号
VAV 電圧平均値算出回路
Vav 電圧平均値信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 電圧/周波数変換回路
VS 電圧設定回路
Vs 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM フィラーワイヤ送給モータ
WS フィラーワイヤ送給速度設定回路
Ws フィラーワイヤ送給速度設定信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期として繰り返して前記溶接ワイヤに通電し、複数の前記パルス周期を含む予め定めた切換信号に同期してアーク長を第1アーク長とそれよりも短い第2アーク長とに周期的に切り替えて溶融池を形成すると共に、フィラーワイヤを前記溶融池に送給しながら溶接する2ワイヤ溶接制御方法において、
前記フィラーワイヤの送給速度を、前記第1アーク長のときは予め定めた第1フィラーワイヤ送給速度に設定し、前記第2アーク長のときは前記第1フィラーワイヤ送給速度よりも高速の予め定めた第2フィラーワイヤ送給速度に設定する、
ことを特徴とする2ワイヤ溶接制御方法。
【請求項2】
前記第1フィラーワイヤ送給速度を0に設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の2ワイヤ溶接制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−166247(P2012−166247A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30348(P2011−30348)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】