説明

2型糖尿病診断剤

【課題】 2型糖尿病の診断に供するための診断剤、2型糖尿病の診断用キット、並びに2型糖尿病の予防薬及び/又は治療薬を有する物質のスクリーニング方法、及び該スクリーニングで使用するキットを提供する。
【解決手段】
38種類の遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤が提供される。本発明によって提供される診断剤は、2型糖尿病の発症と関連する遺伝子の発現を白血球細胞において確認するための物であり、本発明において提供される遺伝子は、従来の2型糖尿病の診断に利用可能な遺伝子に代え、あるいはこれらにさらに加えて解析対象とすることで、被験者に対して2型糖尿病又は将来2型糖尿病となり得るとの判定の確度を、より高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病の診断を行うための診断剤、2型糖尿病の診断用キット、並びに2型糖尿病の予防薬及び/又は治療薬を有する物質のスクリーニング方法、及び該スクリーニングで使用するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の患者数は、世界規模で増加の一途をたどっており、2010年には2億人を越えると予想されている。糖尿病はその病因に基づいて大きく1型と2型とに分類されるが、糖尿病の患者のほとんどが2型糖尿病の患者によって占められており、その克服は人類の大きな課題の一つといえる。
【0003】
1型糖尿病は、膵臓ランゲルハンス島が炎症を起こしてβ細胞によるインスリン分泌能が著しく低下するもので、インスリンを補充しなくては生存できないインスリン依存型の病像を呈する。2型糖尿病は、それ以外の原因でインスリンの作用不足が現れて高血糖になるもので、肥満、過食、運動不足、ストレス等の環境因子の関与が大きく、中年以降の比較的高齢の肥満者に発症しやすい。2型糖尿病では、一般的にはインスリン非依存型の病像を呈し、食事療法と運動療法が治療の基本となる。食事療法、運動療法の次の段階として薬物療法が行われ、それでも治療が困難な場合にはインスリン療法が行われる。
【0004】
糖尿病の初発時期には、多飲、多尿、夜尿等の症状が見られるが、これらの初発症状を自覚する患者は少なく、患者の多くは、合併症に伴う症状が現れるまで自覚できないため、糖尿病がいつの間にか発症していて、それを発見した時には合併症が出現しており、治療が極めて困難となる場合が多い。したがって、糖尿病の克服には、早期発見・早期治療が極めて重要であるが、1型糖尿病に比べて2型糖尿病の発症過程は未だ不明な点が多いため、早期発見・早期治療が困難となる場合がある。
【0005】
被験者に対して2型糖尿病と判定する、又は将来2型糖尿病として判定される可能性があると診断することを目的とした、被験者における特定の遺伝子の発現を確認する方法が知られている。この方法では、被験者における1種以上の遺伝子の発現レベルを測定し、被験者における発現レベルと健常人における当該遺伝子の発現レベル(統計的に正常とされる発現レベルを含む)との比較を行い、その発現レベルの差を根拠として判定が行われる。また、被験者における複数の遺伝子の発現レベルを測定し、それらの発現レベルのパターンを根拠として判定が行われる場合もある。この様な方法は、遺伝子の先天的な異常(遺伝子型)を解析するSNPs解析等と本質的に異なるものであって、遺伝因子及び環境因子を加味した被験者の現状を把握できる点で有利である。
【0006】
本発明者らは、上記の判定をサンプリングが容易な組織を利用して行うことを可能にすべく、被験者の血液から採取した白血球における幾つかの特定の遺伝子の発現レベルを指標として2型糖尿病の診断を行うことを特徴とする2型糖尿病の診断方法を開発した(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】再公表特許WO2004/040301号公報
【特許文献2】特開2005−253434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1、特許文献2で開示された2型糖尿病の診断に有用な遺伝子に代わり、あるいは加えて、2型糖尿病の診断に有用な、さらなる遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、2型糖尿病発症モデル動物の白血球における各種の遺伝子発現解析を通じて、2型糖尿病の発症と有意に関連している遺伝子を見いだし、下記の各発明を完成した。
【0009】
(a)下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるヒトタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤。
【0010】
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
(b)下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質の発現量を測定するための、(a)に記載の2型糖尿病診断剤。
【0011】
(c)核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、(a)又は(b)に記載の2型糖尿病診断剤。
【0012】
(d)下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるヒトタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片を含む、2型糖尿病診断用キット。
【0013】
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
(e)核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、(d)に記載のキット。
【0014】
(f)非ヒト動物に候補物質を投与する工程(a)、及び該動物の白血球における下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされる非ヒト動物タンパク質の発現量を測定する工程を含む、2型糖尿病の予防薬及び/又は治療薬のスクリーニング法。
【0015】
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
(g)非ヒト動物が2型糖尿病モデル非ヒト動物である、(f)に記載のスクリーニング方法。
【0016】
(h)前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされる非ヒト動物タンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片を含む、(f)に記載のスクリーニング用キット。
【0017】
(i)核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、(h)に記載のキット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって提供される2型糖尿病診断剤は、既に報告されている2型糖尿病の診断に利用可能な遺伝子に代わる、あるいはこれらにさらに加わる新たな2型糖尿病関連遺伝子を解析対象とすることにより、被験者に対して2型糖尿病又は将来2型糖尿病となり得るとの判定の確度を、より高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、2型糖尿病の診断に利用可能な、下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるヒトタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤に関する。
【0020】
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
本発明における2型糖尿病の診断とは、被験者が現に2型糖尿病を発症していると判定すること、被験者が将来において2型糖尿病を発症する可能性がある(一般的に2型糖尿病の予備軍と称される状態にある)と判定することの、いずれも意味するものである。この診断は、前記(1)〜(38)の遺伝子の発現量、具体的には当該遺伝子からのmRNAの発現量又は当該何れかの遺伝子にコードされるタンパク質の発現量を、特に被験者から採取された白血球を対象にして測定し、健常人の白血球における当該遺伝子の発現量と比較したときの発現量の亢進又は低下を確認することによって行われる。
【0021】
後の実施例で述べるように、前記(1)〜(38)の遺伝子は、2型糖尿病モデル非ヒト動物であるKK-AyTa/Jclマウス(2型糖尿病自然発症マウスであるKK Ta/Jclマウスに肥満遺伝子agoutiを導入したハイブリッドマウス、(株)ホクドーより購入、以下、KK-Ayマウスと表す)を用いた発明者らの実験によって、KK-Ayマウスの4週齢(2型糖尿病発症前)、6週齢(2型糖尿病病体変動期)及び11週齢(2型糖尿病発症後)のいずれの週齢においても、白血球及び肝臓の両方の組織において、コントロールマウス(Balb/cマウス)に対して2倍以上の発現変動を示すことが確認された遺伝子に対応するヒト遺伝子である。特に、前記(1)〜(13)及び(29)〜(31)の16種の遺伝子は絶食負荷をかけたKK-Ayマウスにおいて、また前記(7)、(8)、(10)、(11)、(13)〜(30)及び(32)〜(38)の29種の遺伝子はインスリン負荷をかけたKK-Ayマウスにおいて、それぞれ上記の発現変動が確認されたマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子である。
【0022】
従って、被験者から採取された血液に含まれる白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも一つの遺伝子の発現量(mRNAの発現量及び/又は該遺伝子の何れかにコードされるヒトタンパク質の発現量)を測定し、これを健常人の白血球における当該遺伝子の発現量と比較して、その発現量が一定値以上に亢進或いは低下していることを確認することによって、当該被験者が2型糖尿病を発症しているかどうか、あるいはその被験者が未だ2型糖尿病を発症していない場合でも、将来的に2型糖尿病を発症する可能性があるかどうかを判定することができる。また被験者が既に糖尿病と疑われる初期症状、例えば多飲、多尿、夜尿等の症状を既に示している場合には、本発明によって提供される情報と併せて、2型糖尿病であるとの判定を適切に下すことが可能となる。なお、健常者における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の発現量は、複数の健常者(健常者群)について測定し、その値の分布から正常範囲を設定しておくことが望ましい。特に、健常者群は、複数の健常者を任意に選別して構成することができるが、被験者と同年齢又は同世代である健常者から構成することが好ましい。
【0023】
本発明の2型糖尿病診断剤は、上記の診断方法に使用するためのものであり、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上、好ましくは10種以上、より好ましくは16種類以上、さらに好ましくは29種以上のmRNAの発現量又は当該遺伝子にコードされるヒトタンパク質の発現量を測定するための、前記遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる。特に、絶食負荷を与えた被験者に対する診断剤としては、前記(1)〜(13)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子及び(29)〜(31)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる2型糖尿病診断剤であることが好ましい。また、インスリン負荷を与えた被験者に対する診断剤としては、前記(7)、(8)、(10)、(11)及び(13)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、並びに(29)、(30)及び(32)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる2型糖尿病診断剤であることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の2型糖尿病診断剤は、(3)のS100カルシウム結合タンパク質A10(S100 calcium binding protein A10、Nucleic Acid Res.、2006年 1月データベース登録、Jan. 1:34、D411-4、Accession No. NM_002966.2、以下、S100a10と表す)、(8)のアスパラギン合成酵素(Aspargine synthetase、Accession No. NM_00001673.2、Proc. Natl. Acad. Sci.、2002年、第99巻、第26号、第16899-16903頁以下、Asnsと表す)及び(20)のグリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型(Glycerophosphodiester phosphodiesterase domain containing 3、Proc. Natl. Acad. Sci.、2002年、第99巻、第26号、第16899-16903頁、Accession No. NM_001031718.1、以下Gdpd3と表す)から選ばれる、少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤であることが好ましい。(3)のS100a10は、細胞内カルシウムイオン濃度を制御することで、カルシウム濃度依存的な細胞内小胞輸送を制御する機能が予測されているタンパク質である。(8)のAsnsは、アスパラギン酸、アンモニウム及びATPからアスパラギンを合成する反応を触媒する酵素である。また(20)のGdpd3は、解糖系と糖新生の両経路の中間体であるグリセロアルデヒド3−リン酸代謝酵素関連酵素と予測される。前記(3)、(8)及び(20)の遺伝子については、これらの発現を抑制することのできるsiRNAをBalb/cマウスに投与することで有意な血糖値の低下が観察されたことから、前記(3)、(8)及び(20)の遺伝子の発現変動は2型糖尿病の発症と強い相関があり、従って、前記(3)、(8)及び(20)の遺伝子は2型糖尿病感受性遺伝子であることを強く示唆されるものである。
【0025】
一般に、mRNAの発現量の測定は、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(RT-PCR等)等により、行うことができる。従って本発明の2型糖尿病診断剤である核酸は、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする限り、上記の遺伝子解析技術で利用可能な如何なる形態にあってもよい。例えば、本発明における核酸は、プローブ核酸又はプライマー核酸であり得る。
【0026】
本発明の2型糖尿病診断剤である核酸にはDNA及びRNAの両者が含まれる。本発明における核酸は、好ましくはオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドの塩基長は通常15〜100塩基、好ましくは18〜40塩基であり、ポリヌクレオチドの塩基長は通常200〜3000塩基、好ましくは500〜1000塩基である。また、本発明における核酸を構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチド、あるいは非天然型ヌクレオチドのいずれであってもよい。
【0027】
前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列は、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の各塩基配列に基づいて設計することができる。例えば、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の内、タンパク質をコードする遺伝子については、CDSを含む領域を選択し、当該領域にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするように、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列を設計すればよい。また、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域に、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするように塩基配列を設計することもできる。
【0028】
オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用する場合には、本発明における核酸の5’末端側に制限酵素認識配列やタグ等を付加することができる。また、プローブとして利用する場合には、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
【0029】
本発明の2型糖尿病診断剤の好ましい形態は、前記核酸が固相担体上に結合(固相化)されている形態である。具体的には、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を含むDNAチップ又はDNAマイクロアレイの形態が好ましい。DNAチップ又はDNAマイクロアレイは、遺伝子発現変動を確認する方法として、検出しようとする複数種の遺伝子の塩基配列を有する核酸を適当なキャリアに固相化して使用する技術である。本発明の2型糖尿病診断剤も、例えば「DNAマイクロアレイ実践マニュアル」(林崎良英監修、2000年、羊土社発行)に記載された方法によって、前記(1)〜(38)の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸をDNAチップあるいはDNAマイクロアレイの形態に加工し、使用することができる。
【0030】
なお、本発明にいうストリンジェントな条件下とは、前記核酸が前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の遺伝子の塩基配列に特異的にハイブリダイズし、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子以外の塩基配列にはクロスハイブリしない程度であればよく、その条件は、利用する遺伝子解析技術、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等によって適宜変更することが望ましい。しかしながら、その様な条件は、個々の解析技術に応じて当業者の通常の能力の範囲内で設定することが可能である。例えば、メンブレンを用いたサザンハイブリダイゼーションでは、0.1%[w/v]SDSを含む0.5×SSC溶液(1×SSCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)を用いて50℃でハイブリダイズさせた核酸を含むメンブレンを洗浄するという条件などを挙げることができる。
【0031】
本発明の2型糖尿病診断剤を利用したmRNAの発現量の測定法として、RT-PCRを利用してもよい。具体的には、白血球から抽出した全RNAを基に合成したcDNAを鋳型とし、設計されたプライマーセットを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、前記(a)〜(c)のタンパク質をコードするmRNAの発現量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行うことが望ましい。
【0032】
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、例えばラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法その他の一般的な方法を利用すればよい。RIを用いた定量方法としては、例えば、(i)反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii)PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
【0033】
蛍光色素を用いた定量方法としては、(i)二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii)蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0034】
RT-PCRを利用する場合には、例えばABI PRISM 7700(Applied Biosystems社)等の市販の装置を利用して、遺伝子増幅過程をリアルタイムでモニターリングすることにより、PCR増幅断片のより定量的な解析を行うことができる。
【0035】
前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の発現量の測定値は、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)の発現量の測定値に基づいて補正することが好ましい。
【0036】
一般に、タンパク質の発現量の測定は、公知の免疫学的タンパク質解析技術、例えば、タンパク質に結合する抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA等を利用して行うことができる。従って本発明の2型糖尿病診断剤である抗体若しくはその断片は、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の何れかにコードされるタンパク質と特異的に結合することができる限り、上記の免疫学的タンパク質解析技術で利用可能ないかなる形態にあってもよい。例えば、本発明における抗体若しくはその断片は、ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でもよく、前記タンパク質の結合能を有する断片であってもよい。断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)'2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0037】
本発明にいう「特異抗体」または「特異的に結合する」とは、本発明で使用する抗体又はその断片が、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の何れかにコードされるタンパク質には結合するが、白血球に含まれる他のタンパク質には結合しないことを意味する。その様な抗体の調製に必要とされる免疫学的方法、例えば前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の何れかにコードされるタンパク質を抗体の作成に用いられる動物に投与すること、血清から抗体を直接回収すること、抗体産生細胞を回収してハイブリドーマを作成すること、抗体を精製すること、抗体をラベル化したり固相化したりすること、さらに抗体を用いて目的タンパク質を検出したり定量したりすること等は、すべて当業者にとって通常行い得る方法を採用して行えばよい。
【0038】
本発明のキットは、上記に説明した診断方法に利用するための、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片を含むキットである。本発明の2型糖尿病診断用キットは、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、あるいは前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の何れかにコードされるタンパク質と特異的に結合する抗体若しくはその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。本発明の2型糖尿病診断用キットが、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を含む場合には、例えば、PCRに必要な試薬(例えば水、緩衝剤、塩化マグネシウム、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の作成のための担体や核酸を固相化するための反応試薬等を含むことができる。また、本発明の2型糖尿病診断用キットが、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス
遺伝子に対応するヒト遺伝子の何れかにコードされるタンパク質と特異的に結合する抗体若しくはその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グログリン抗体(二次抗体)、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
【0039】
本発明の2型糖尿病予防薬及び/又は治療薬をスクリーニングする方法は、2型糖尿病モデル非ヒト動物に候補物質を投与した後、前記動物の血液から採取した白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされる非ヒト動物タンパク質の発現レベルを健常動物のそれに近づける或いは戻す効果を指標として、前記候補物質が2型糖尿病予防薬及び/又は治療薬となり得るかどうかを判定することを特徴とする。なお、本発明にいう2型糖尿病予防薬とは、2型糖尿病の発症を予防する又は予防すると期待される物質を意味し、また2型糖尿病治療薬とは、2型糖尿病を治療する又は治療すると期待される物質を意味する。
【0040】
既に2型糖尿病を発症している週齢あるいは発症前の週齢の2型糖尿病モデル非ヒト動物の白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルは、健常非ヒト動物の発現レベルから変動しているので、2型糖尿病モデル動物の白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルを健常動物のそれに近づける或いは戻す効果を有する物質を選択することによって、2型糖尿病の予防薬、又は治療薬をスクリーニングすることができる。すなわち、候補物質を投与した後の前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルが、正常発現レベルに戻ったか否か、又は正常発現レベルに近づいたか否かを指標として、またモデル非ヒト動物の週齢等を考慮して、候補物質の2型糖尿病予防効果あるいは治療効果を判定し、この結果に基づいて候補物質の評価を行う。なお、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の正常発現レベルは、複数の健常動物の発現レベルを測定し、その値の分布から決定することが好ましい。
【0041】
本発明のスクリーニング方法においては、2型糖尿病モデル非ヒト動物としては、白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルが健常動物のそれと比較して変動している動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等)を使用すればよいが、前記KK-Ayマウス、KK Ta/Jclマウス、又はOLETFラット(Otsuka-Long-Evans Tokushima Fattyラット)の使用が特に好ましい。前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現変動を誘導する候補物質を選択するためには、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子のいずれかを導入して、白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の何れかの遺伝子の発現を人為的に変動させたトランスジェニック動物を利用してもよい。
【0042】
本発明の2型糖尿病予防薬及び/又は治療薬のスクリーニング用キットは、検体における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、及び/又は前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の何れかの遺伝子にコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその断片を含むことを特徴とする。
【0043】
本発明のスクリーニング用キットを利用すれば、非ヒト動物の血液から採取した白血球における前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の発現レベルを測定することにより、2型糖尿病の予防薬及び/又は治療薬をスクリーニングすることができる。
【0044】
本発明のスクリーニング用キットは、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体又はその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、本発明の2型糖尿病の診断用キットにおいて例示した各種試薬、器具等の他、モデル動物等を含むことができる。
【0045】
なくとも1種以上に加え、さらに表1に示される遺伝子群の何れかの発現変動を併せて測定し、その結果も併せて考慮することで、2型糖尿病の診断の確度をより高めることができる。この表1に示した遺伝子群に加え、又は代えて、特許文献1及び特許文献2に開示された2型糖尿病の発症と関連している遺伝子群を対象候補とし、それらの中から任意に選択される遺伝子の発現量も併せて測定して、判定材料とすることで、より2型糖尿病の診断の確度を高めることも可能である。
【0046】
なお、被験者から白血球を採取する方法は、臨床的に行われている任意の方法を採用すればよく、特定の方法には限定されない。例えば、血液中の赤血球を選択的に溶解させた後、遠心分離することによって白血球を採取してもよい。また本発明にいう白血球には、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球及び単球のいずれもが含まれ、検体として用いる白血球は、これらのうちの1種類であってもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
【0047】
また、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子又はヒト遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子又は非ヒト動物遺伝子の塩基配列には、データベースに登録されている塩基配列の他に、いわゆる1塩基多型(SNPs)によってその一部が異なる塩基配列をあり得、また各タンパク質には種々のアイソフォーム等が存在する場合もある。その様な塩基配列が相違する遺伝子であっても、前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する遺伝子又はそれらのアイソフォームである限り、その様な遺伝子も、本発明の確認対象として含まれる。
【0048】
以下に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。
【実施例】
【0049】
以下の実験において、測定値は全て平均値±標準偏差で示し、表1の群間の比較はMann-Whitney U testによる両側検定を行なって有意差を検定して、p<0.05の値を統計学的に有意であるとみなした。
【0050】
(1)KK-Ayマウスにおける2型糖尿病発症の確認
実験動物として、KK-Ayマウス((株)ホクドーより購入)及びBalb/cマウスを使用した。KK-Ayマウスは2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)に類似した症状を示す自然発症糖尿病モデル動物であり(Diabetologia、2000年、第50巻、第4号、第891-900頁)、Balb/cマウスは糖尿病を全く発症しないコントロール動物である。
【0051】
各マウスは、人工照明による明暗環境下(明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00)、一定温度(22℃±0.5℃)、相対湿度(58%)の動物実験室内で、固形飼料及び水を自由に摂取させながら17週齢まで飼育して、体重変化(表1)を測定した。また、各週例でHottaらの方法(Hotta,K.ら, Biochem Biophys Acta, 1996年. 第1289巻、第1号、第145-149頁)により、糖負荷試験(Glucose Tolerance Test;GTT)を行い、各マウスの糖耐能の変化を測定した(表1)。血糖値は、尾静脈よりサンプリングした血液を簡易血糖測定システムAccu-check compact(Roche社)を用いて測定した。
【表1】

【0052】
その結果、KK-Ayマウスでは、6週齢頃から体重の増加がBalb/cマウスに比べて上回るようになり、また耐糖能も6週目前後からコントロールと比較して低下が始まることが確認された。
【0053】
(2)絶食負荷及びインスリン負荷における糖尿病関連遺伝子の発現解析
KK-Ayマウス及びBalb/cマウスに対して、4週齢(2型糖尿病発症前)、6週齢(2型糖尿病病体変動期)及び11週齢(2型糖尿病発症後)の各段階で、(i) 一晩絶食及び(ii)一晩絶食後、ブタ膵臓由来インスリン(SIGMA社、5U/kgを腔内投与)の各負荷をかけ、絶食群とインスリン負荷群(各群5匹)を作製した。各群のマウス(インスリン負荷群ではインスリン投与から1時間後)から白血球及び肝臓を回収し、それぞれから全RNAを抽出した。
【0054】
ラベル化cDNAの調製及びハイブリダイゼーションは、Agilent Technologies社で推奨されているプロトコールに従い行った。マウス個体間の遺伝子発現変動差をノーマライズするために、同一採取条件の全RNAを5匹分プールした。RNAの分解の有無をAgilent2100バイオアナライザ(Agilent Technologies社)を用いて確認した。全RNAを鋳型として、ラベル化cRNAプローブの合成をLow RNA Input Fluorescent Linear Amplification Kit(Agilent Technologies社)を用いて行った。KK-AyマウスからのRNAをCyanine5-dCTP(NEN NEL577、Perkin-Elmer社)で、Balb/cマウスからのRNAをCyanine3-dCTP(NEN NEL576、Perkin-Elmer社)で、それぞれラベルした。未反応dNTPsをRNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて除去した後、マイクロアレイにハイブリダイズした。マイクロアレイはマウス全ゲノムDNAマイクロアレイ(G4122A、Agilent Technologies社)を用いた。KK-Ayマウス、Balb/cマウスそれぞれから調製したラベル化cRNAプローブを色素取込効率の補正をした上で等量混合し、コントロールターゲットプローブを加えてハイブリダイゼーション溶液を調製した。ハイブリダイゼーションは65℃、17時間行った。ハイブイダイゼーション終了後、6×SSC、0.005%TritonX-102を含む洗浄液でアレイスライドグラスを室温で10分間洗浄した。2回目の洗浄は0.1×SSC、0.005%TritonX-102を用いて室温で5分間行った。洗浄液の除去はフィルターエアガンを用いた窒素ガス噴射で行った。スキャンまでの間はアレイスライドグラスを遮光ケースに保管して蛍光色素の退色を防止した。
【0055】
マイクロアレイをG2565AAマイクロアレイスキャナー(Agilent Technologies社)を用いてスキャンした。Cy3の測定には532nm、Cy5の測定には635nmのレーザーを使用した。Axon Scannerを用いて作製した16bitTIFF画像をFeature Extraction Software (Agilent Technologies社)を用いて解析し、各スポットのシグナル強度は、LOWEES解析により全スポットのシグナル強度の平均値からバックグラウンド強度の中央値を差し引くことで算出した。各スポットの遺伝子情報は、Unigene及びGenBankのアクセッション番号と共にExcelデータとして処理し、Agilent Technologies社のプロトコールに従い、グローバル補正によるデータマイニング(フラグスポットやコントロールスポットの排除)を行った。
【0056】
絶食負荷群のマウスの白血球と肝臓における、各週齢のKK-AyマウスとBalb/cマウスとの間の発現レベルに有意な差が認められた遺伝子の数を表2に、インスリン負荷群のマウスの白血球と肝臓における、各週齢のKK-AyマウスとBalb/cマウスとの間の発現レベルに有意な差が認められた遺伝子の数を表3に、それぞれ示す。
【表2】

【表3】

【0057】
さらに、絶食負荷群のマウスの白血球と肝臓で共通して発現量の変動が確認された遺伝子を選出し、さらに発現量の各臓器での変動の方向(亢進又は低下)別に遺伝子の数を、週齢別に纏めた結果を表4に、インスリン負荷群のマウスの白血球と肝臓で共通して発現量の変動が確認された遺伝子を選出し、さらに発現量の各臓器での変動の方向(亢進又は低下)別に遺伝子の数を、週齢別に纏めた結果を表5に、それぞれ示す。
【表4】

【表5】

【0058】
さらに、上記の遺伝子の内、白血球と肝臓で共通して発現変動を示した遺伝子数は、絶食時には4週齢(発症前)69遺伝子、6週齢(病態変動期)77遺伝子、11週齢(発症後)146遺伝子、またインスリン負荷時には4週齢(発症前)82遺伝子、6週齢(病態変動期)113遺伝子、11週齢(発症後)175遺伝子であった。これらをすべて合計すると、662遺伝子が両臓器で同時に発現変動する遺伝子であることが確認された。
【0059】
これら662遺伝子から、3つの週齢に渉って常に白血球と肝臓の間で遺伝子発現変動が保存されている遺伝子として、絶食時とインスリン負荷時の合計で82遺伝子を抽出した。さらに、これら82遺伝子の中から、遺伝子にアノテーションが当てられている遺伝子、すなわち遺伝子機能がマウスで調べられている遺伝子もしくは核酸配列、塩基配列にコードされているアミノ酸配列の相同性から機能が予測されている遺伝子を選び出し、2型糖尿病発症前遺伝子診断に適応出来る可能性をもつ遺伝子として、絶食負荷群から16遺伝子(表6)、インスリン負荷群から29遺伝子(表7)を選択した。
【表6】

【表7】

【0060】

【0061】
(3)siRNAを用いたin vivoノックダウンによる各遺伝子の機能解析
(2)で最終的に選択された絶食負荷群の16遺伝子(表6)及びインスリン負荷群の29遺伝子(表7)から、肝臓で発現亢進を示し、かつ、同一のアレイ解析結果から、既知の2型糖尿病感受性遺伝子として報告されているmethyladenosine phosphorylaseとglucose transporter 2遺伝子の3つの週齢に渉る発現変動パターンと類似性を持ち、同時に2型糖尿病の発症との因果関係が報告されていない3種の遺伝子(Asns、Gdpd3、S100a10)を選択した。3種の遺伝子Asns、Gdpd3、S100a10の各塩基配列(配列番号1〜3)を基に、遺伝子発現抑制効果の高いsiRNAの塩基配列として、Asns-siRNA(配列番号4)、Gdpd3-siRNA(配列番号5)及びS100a10-siRNA(配列番号6)を、マウス肝癌由来細胞であるHepa-16細胞を用いたインビトロスクリーニングによってそれぞれ決定した。また、ポジティブコントロールとして、糖新生の律速酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Pck1)を選択し、この遺伝子の発現を抑制するsiRNA(Pck1-siRNA)を用意した。ネガティブコントロールとしては、Green Fluorescence protein(GFP)に対するsiRNAを選択した。
【0062】
Hydrodynamics法(McCaffreyら、Nature、2002年、第418巻、第4号、第38〜39頁)によって、上記siRNA150μgを、4週齢のBalb/cマウス及び6週齢のKK-Ayマウスに静脈投与し、48時間の絶食負荷を与え、36時間後から12時間の絶食負荷を与え、投与48時間後に簡易血糖測定器(Accucheck compact、Rhoche社)を用いて、尾静脈から採血した末梢血血糖値を測定後、肝臓を摘出し、遺伝子発現量を測定した。
【0063】
その結果、Balb/cマウスにおいて、ポジティブコントロールのPck1-siRNA投与群、Asps-siRNA, Gdpd3-siRNA, S100a10-siRNA投与群において、GFP投与群に比べて血糖値が有意に(non-repeatedNOVA、p<0.01)低下した(図1)。また、Gdpd3-siRNA投与群においても、個体差が存在したために有意差は検定できなかったものの、血糖値は低下傾向を示すことが確認された。
【0064】
また、血糖値の低下が遺伝子のノックダウンに起因することを確認するために、血糖値評価に用いた同一マウスの肝臓中の各遺伝子のmRNA量をリアルタイムPCR法により測定したところ、AsnsのmRNAの大幅な減少が有意差を持って(unpaired student-t test、p<0.05)確認され、またPck1を含む他の遺伝子についてもmRNA量は減少の傾向を示した(図2)。
【0065】
一方、KK-Ayマウスでは、Pck1-siRNA投与群で血糖値効果は確認されなかったが、Asns-siRNA投与群で、GFP投与群との間で有意な血糖値低下作用(unpaired student-t test、p<0.05)が確認された(図3)。また、インビトロジェン社提供のソフトプログラム(Webサイトはhttp://www.invitrogen.co.jp/rnai/rnai_designer.shtml)を用いて上記のsiRNAの塩基配列をステルスsiRNA配列に変換し、上記と同様にして4週齢のKK-Ayマウスに投与し、さらに1週間後に同一マウスに同じsiRNAを反復投与して、初回投与から2週間後の血糖値の変化を測定したところ、Pck1とGdpd3の各ステルスsiRNA投与群でネガティブコントロール群との間に有意な血糖値低下作用(unpaired student-t test、p<0.05)が確認された(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】Pck1-siRNA、Asps-siRNA, Gdpd3-siRNA及びS100a10-siRNAをHydrodynamic法によってbalb/cマウスに投与したときの血糖値の変化を示す。
【図2】Pck1-siRNA、Asps-siRNA, Gdpd3-siRNA及びS100a10-siRNAをHydrodynamic法によってbalb/cマウスに投与したときの、肝臓における各遺伝子の発現量の変化を示す。
【図3】Pck1、Asps, Gdpd3及びS100a10の各ステルスsiRNAをHydrodynamic法によってKK-Ayマウスに投与したときの血糖値の変化を示す。
【図4】Pck1、Asps, Gdpd3及びS100a10の各ステルスsiRNAをHydrodynamic法によってKK-Ayマウスに投与したときの、肝臓における各遺伝子の発現量の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の少なくとも1種以上の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるヒトタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤。
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
【請求項2】
前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質の発現量を測定するための、請求項1に記載の2型糖尿病診断剤。
【請求項3】
核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、請求項1又は2に記載の2型糖尿病診断剤。
【請求項4】
下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応するヒト遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるヒトタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片を含む、2型糖尿病診断用キット。
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
【請求項5】
核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
非ヒト動物に候補物質を投与する工程(a)、及び該動物の白血球における下記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する当該非ヒト動物遺伝子、又は下記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされる非ヒト動物タンパク質の発現量を測定する工程を含む、2型糖尿病の予防薬及び/又は治療薬のスクリーニング法。
(1)NM_002436(パルミトイル化膜タンパク質)
(2)NM_002563(G蛋白質共役プリン受容体)
(3)NM_002966(S100A10カルシウム結合性タンパク質)
(4)NM_152665(T型複合体1型精巣発現タンパク質)
(5)NM_006312(核受容体型転写抑制因子2型)
(6)NM_003226(腸管発現クローバー状構造因子3型)
(7)NM_006811(腫瘍分化因子1型)
(8)NM_001673(アスパラギン合成酵素)
(9)NM_001031847(カルニチンパルミトイル転移酵素1a型)
(10)NM_015184(ホスホリパーゼ類似タンパク質2型)
(11)NM_006708(グリオキシラーゼ)
(12)NM_001024(リボソームタンパク質S21)
(13)NM_015633(FGFR1癌遺伝子共同因子2型)
(14)NM_003495(ヒストン1型)
(15)NM_005825(カルシウム及びジアシルグリセロール調節グアニンヌクレオチド交換因子類似タンパク質)
(16)NM_004048(β2ミクログロブリン)
(17)NM_004817(タイトジャンクションタンパク質)
(18)NM_013943(細胞内塩化物イオンチャンネル4型)
(19)NM_021009(ユビキチンC)
(20)NM_001031718(グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメイン保存タンパク質3型)
(21)NM_006764(インターフェロン関連性町長説因子2型)
(22)NM_003548(ヒストン2型)
(23)NM_052864(トラフ2結合タンパク質)
(24)NM_175054(ヒストン4型)
(25)NM_003539(ヒストン1型)
(26)NM_175055(ヒストン3型)
(27)NM_000982(MMU93863リボソームタンパク質L21)
(28)NM_002457(分泌型ゲル形成ムチン類似タンパク質
(29)NM_015770(ノンアゴウチ)
(30)NM_030743(Znフィンガータンパク質313)
(31)XM_138403(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質C13)
(32)NM_009658(アルド−ケト還元酵素ファミリー1型類似タンパク質B3)
(33)NM_011315(血清アミロイドA3)
(34)NM_017372(lysozyme)
(35)NM_145538(発現配列AI840826)
(36)NM_177923(組織適合2M領域)
(37)XM_110660(発現配列AI427122)
(38)XM_356882(60Sリボソームタンパク質L29類似タンパク質)
【請求項7】
非ヒト動物が2型糖尿病モデル非ヒト動物である、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記(1)〜(28)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるヒト遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子、又は前記(29)〜(38)から選ばれるGenBankアクセッション番号で特定されるマウス遺伝子に対応する非ヒト動物遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされる非ヒト動物タンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片を含む、請求項6に記載のスクリーニング用キット。
【請求項9】
核酸又は特異抗体が固相担体に結合されている、請求項8に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−228646(P2008−228646A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72563(P2007−72563)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】