説明

2層式燃焼器

【課題】供給する予混合ガスの圧力損失を低減可能な予混合燃焼方式の2層式燃焼器を提供すること。
【解決手段】外部から中心部に向かって渦巻状に予混合ガスを導入する渦巻状流路を有する予混合室と、中心部から外部に向かって渦巻状に排気ガスを排出する渦巻状流路を有する燃焼室と、予混合室と燃焼室との間を区画する伝熱隔壁と、ほぼ中心部に設けられ、燃焼室側で着火を行う着火手段と、着火手段の周囲に配置され、予混合室と燃焼室とを連通する消炎孔とを備え、燃焼室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層式燃焼器に関し、さらに詳しくは、電気ヒータなどの代替品として用いて好適な2層式燃焼器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用・業務用の加熱機器として、例えば、電気ヒータが広く用いられている。一般に、この種の電気ヒータは、化石燃料の持つエネルギーの多くを発電・送電時に失っているため、化石燃料に対するエネルギー利用効率は約4割程度であると言われている。
【0003】
近年、地球環境に対する負荷を抑制するなどの観点から、一層の省エネ化が進められており、加熱機器についてもエネルギーの有効利用を図る試みが盛んに行われるようになっている。
【0004】
このような背景の下、電気ヒータの代替品として、マイクロコンバスタと呼ばれる燃焼器が提案されている。このマイクロコンバスタは、化石燃料の燃焼熱を直接利用することができるので、約6割ものエネルギーを失う発電過程を省略することができる。そのため、大幅な省エネルギー化を図ることができる技術として期待されている。
【0005】
例えば、非特許文献1および特許文献1には、予混合ガスと排気ガスの流路が交互に配置された渦巻状の管の入口から、予混合ガスを送り込み、その中心部で燃焼させた後、高温の排気ガスを外へ放出する過程で、排熱により予混合ガスを予熱する1層構造の燃焼器が開示されている。
【0006】
この種の燃焼器は、上下両面が加熱される両面加熱構造になっている。そのため、これを例えば、コンロなどの片面加熱機器の熱源として適用すると、無効加熱が生じ、加熱効率を損なうことが考えられる。
【0007】
そのため、本件出願人は、図19に模式的に示すように、それぞれ渦巻状流路102a、104aを形成した予混合室102および燃焼室104の2室を積層し、燃焼室104内からの予熱を予混合室102の予熱に利用し、片面を高効率で加熱することができる2層式燃焼器100を開発し、既に特許出願も行っている(特願2005−351386号)。
【0008】
上記2層式燃焼器100では、外部より供給される予混合ガスFは、予混合室102内の渦巻状流路102aを通って予混合室102の中心部に至る。予混合室102の中心部に至った予混合ガスFは、伝熱隔壁106に形成された消炎孔105より、燃焼室104の中心部に噴出される。噴出された予混合ガスFは、着火手段110により着火されて燃焼する。燃焼により生じた排気ガスEは、燃焼室104内の渦巻状流路104aを通って燃焼室104の外部に排出される。
【0009】
【非特許文献1】“「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 熱源用マイクロコンバスタの研究開発」 平成15年度〜平成16年度成果報告書 受託先 東北大学 委託先 石川島播磨重工業株式会社”、検索バーコード番号100005086、[online]、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、成果報告書データベース、[平成17年11月8日検索]、インターネット<URL:http://www.nedo.go.jp/database/index.html>
【特許文献1】特開2005−76973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記2層式燃焼器は、以下の点で改良の余地があった。
【0011】
すなわち、上記2層式燃焼器は、供給する予混合気の圧力損失が比較的大きく、汎用の燃焼器用空気ファン(例えば、100V電源、0.5kPa(約50mmAq)を用いることができず、吐出圧力が高く、かつ、流量も多い特別なファンを用いて予混合気の圧力を高くせざるを得ないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、供給する予混合ガスの圧力損失を低減可能な予混合燃焼方式の2層式燃焼器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る2層式燃焼器は、外部から中心部に向かって渦巻状に予混合ガスを導入する渦巻状流路を有する予混合室と、中心部から外部に向かって渦巻状に排気ガスを排出する渦巻状流路を有する燃焼室と、上記予混合室と上記燃焼室との間を区画する伝熱隔壁と、ほぼ中心部に設けられ、上記燃焼室側で着火を行う着火手段と、上記着火手段の周囲に配置され、上記予混合室と上記燃焼室とを連通する消炎孔とを備え、上記燃焼室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有していることを要旨とする。
【0014】
ここで、上記2層式燃焼器は、上記燃焼室の中心部に、渦巻状流路隔壁によって取り囲まれ、かつ、最高温度を示す火炎領域が上記燃焼室のほぼ中心部に優勢に形成される広さの燃焼空間を有していると良い。
【0015】
また、上記予混合室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有していると良い。
【0016】
また、上記消炎孔は、上記着火手段周囲に取り付けられたセラミックス体に形成されていると良い。
【0017】
また、上記燃焼室と上記予混合室とは、異種金属材料より形成されており、上記燃焼室を形成する金属材料の熱伝導率は、上記予混合室を形成する金属材料の熱伝導率よりも大きくされていると良い。
【0018】
また、上記燃焼室を形成する金属材料は、銅または銅合金であり、上記予混合室を形成する金属材料は、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0019】
また、その運転時に、上記予混合室内の温度は250℃以上にされることが好ましい。
【0020】
一方、本発明に係るガス器具は、上記2層式燃焼器を有していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る2層式燃焼器は、燃焼室内の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有している。そのため、予混合気の圧力損失を低減することができる。
【0022】
これは、以下の理由によるものと推察される。すなわち、未燃焼ガスや既燃ガスは、火炎が形成される燃焼空間に近いほど、つまり、渦巻状流路の中心部に近いほど、高温に曝されて熱膨張する。そのため、燃焼室内の渦巻状流路が等間隔(流路断面積が一定)であると、排気ガスが排出され難くなり、供給する予混合ガスの圧力損失が大きくなる。
【0023】
これに対して、本発明に係る2層式燃焼器は、燃焼室の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成されている部位を有する。このように、本発明では、温度による排気ガスの体積膨張が考慮されているので、排気ガスが排出されやすくなり、予混合ガスの圧力損失が低減されるものと考えられる。
【0024】
この際、上記2層式燃焼器が、燃焼室の中心部に、渦巻状流路隔壁によって取り囲まれ、かつ、最高温度を示す火炎領域が燃焼室のほぼ中心部に優勢に形成される広さの燃焼空間を有している場合には、以前の2層式燃焼器に比較して、排気ガス中に含まれるCO濃度を低減することが可能になる。
【0025】
これは、以下の理由によるものと推察される。すなわち、以前の2層式燃焼器では、燃焼室内の火炎の高温域が、燃焼室の中心部を取り囲む渦巻状流路隔壁の近傍に存在していた。
【0026】
そのため、高温な火炎は、渦巻状流路隔壁との接触により熱を奪われ、これによって、酸化反応が抑制されて反応速度が低下し、燃焼温度も低下する。それ故、高濃度のCOが排出されていたものと考えられる。
【0027】
これに対して、上記燃焼空間を有している場合には、高温の火炎が渦巻状流路隔壁に接触し難くなるため、燃焼室内での安定燃焼が達成され、CO濃度の低減を図ることが可能になるものと考えられる。
【0028】
また、上記予混合室の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成されている部位を有している場合には、予混合室の中心部に行くほど、高温になるので、上記とほぼ同様の原理によって、予混合ガスを導入しやすくなり、予混合ガスの圧力損失の低減に寄与しやすくなる。
【0029】
また、上記消炎孔が、上記着火手段の周囲に取り付けられたセラミック体に形成されている場合には、消炎孔周辺の耐熱性が向上する。そのため、燃焼室内の高温により、比較的小さな消炎孔が、酸化されたり、変形が生じたりし難くなり、耐久性を向上させることができる。さらに、着火時の燃焼騒音も低減しやすくなる。
【0030】
また、上記燃焼室と上記予混合室とが、異種金属材料より形成されており、上記燃焼室を形成する金属材料の熱伝導率が、上記予混合室を形成する金属材料の熱伝導率よりも大きい場合には、受熱効率を向上させることができる。また、排気ガス中のCO濃度の低減にも寄与しやすい。
【0031】
また、その運転時に、予混合室内の温度が250℃以上にされる場合には、排気ガス中のCO濃度の低減効果に優れる。
【0032】
一方、本発明に係るガス器具は、上記2層式燃焼器を有している。そのため、予混合ガスの供給に汎用の燃焼器用空気ファンを用いることが可能となり、低コスト化などに寄与することが可能になる。
【0033】
また、上記2層式燃焼器が上記燃焼空間を有する場合には、排気ガス中のCO低減による燃焼性能にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の一実施形態に係る2層式燃焼器(以下、「本燃焼器」ということがある。)について説明する。
【0035】
図1は、本燃焼器の外観を模式的に示した斜視図である。図2は、本燃焼器の正面図である。図3は、図1におけるA−A断面図である。図4は、図2におけるB−B断面図である。図5は、図2におけるC−C断面図である。
【0036】
本燃焼器10は、例えば、外形が数十センチから数センチ程度の小型燃焼器とすることができ、主として、ステンレス鋼、銅、銅合金などの金属材料を1種または2種以上組み合わせて、密閉構造に形成されている。
【0037】
本燃焼器10は、図1〜5に示すように、その基本構成として、燃焼室12と、予混合室14と、伝熱隔壁16と、着火手段18と、消炎孔20とを有している。以下、これら構成につき詳細に説明する。
【0038】
本燃焼器10において、燃焼室12は、略円柱状に形成されており、底板22と、外周壁24と、予混合室14の底板34(後述する)とにより囲まれた密閉空間を有している。
【0039】
燃焼室12の外周壁24には、接線方向に向かって排気ガスEを排出する排気ガス排出口26が設けられている。なお、排気ガス排出口26は、図では2つとされているが、これに限定されるものではなく、1つまたは複数個形成されていても良い。
【0040】
燃焼室12の内部には、中心部から外部に向かって渦巻状に排気ガスEを排出する渦巻状流路28が形成されている。この渦巻状流路28は、渦巻状流路隔壁30または外周壁24と、底板22と、予混合室14の底板34(後述する)とにより囲まれた空間によって形成されている。
【0041】
ここで、本燃焼器10では、燃焼室12内の渦巻状流路28は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有している。つまり、渦巻状流路28は、その流路断面積が、中心部側の開口端部において最大となるように形成されている。
【0042】
なお、渦巻状流路28の断面形状は、特に限定されるものではない。渦巻状流路28の断面形状としては、例えば、台形状、長方形状、正方形状などを例示することができる。また、流路長さについても、特に限定されるものではなく、本燃焼器10の大きさなどを考慮して選択することができる。
【0043】
燃焼室12は、その中心部に、渦巻状流路隔壁30によって取り囲まれた燃焼空間32を有している。この燃焼空間32は、上述した渦巻状流路28の中心部側の開口端部と連通されている。
【0044】
燃焼空間32は、最高温度を示す火炎領域が、燃焼室12のほぼ中心部に優勢に形成される広さとされていることが好ましい。渦巻状流路隔壁30の近傍に高温の火炎が形成され難くなり、排気ガスE中に含まれるCO濃度を低減することが可能になるからである。
【0045】
なお、燃焼空間32の広さは、本燃焼器10の大きさなどを考慮して可変させることが可能なものである。また、最高温度を示す火炎領域が、燃焼室12のほぼ中心部に優勢に形成されているか否かは、燃焼室12の中心からの距離と火炎温度との関係(燃焼室12内の温度分布)を、熱電対などを用いて測定すれば判断することができる。
【0046】
上記最高温度としては、好ましくは、1800〜600℃の範囲、より好ましくは、1700〜800℃の範囲などを例示することができる。
【0047】
本燃焼器10において、予混合室14は、上記燃焼室12と同様に、略円柱状に形成されており、底板34と、外周壁36と、蓋部38とにより囲まれた密閉空間を有している。
【0048】
予混合室14の外周壁36には、接線方向から予混合ガスFを導入する予混合ガス導入口40が設けられている。なお、予混合ガス導入口40は、図では3つとされているが、これに限定されるものではなく、1つまたは複数個形成されていても良い。
【0049】
予混合室14の内部には、外部から中心部に向かって渦巻状に予混合ガスFを導入する渦巻状流路42が形成されている。この渦巻状流路42は、渦巻状流路隔壁44または外周壁36と、底板34と、蓋部38とにより囲まれた空間によって形成されている。
【0050】
予混合室14は、その中心部に、渦巻状流路隔壁44によって取り囲まれた空間48を有している。この空間48は、上述した渦巻状流路42の中心部側の開口端部と連通されている。
【0051】
ここで、本燃焼器10では、予混合室14内の渦巻状流路42は、燃焼室12内の渦巻状流路28と同様に、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有していても良いし、隣接する渦巻状流路隔壁44の間隔が一定(流路断面積が一定)となるように形成されていても良い。
【0052】
もっとも、予混合室14内は、これに接して積層されている燃焼室12からの熱によって予熱され、その温度は中心部ほど高くなる傾向がある。そのため、前者のように、予混合室14内の渦巻状流路42を、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成されている場合には、予混合ガスFの導入がスムーズになり、供給する予混合ガスFの圧力損失の低減に寄与しやすくなり好ましい。
【0053】
なお、渦巻状流路42の断面形状、流路長さについては、上記した燃焼室12内の渦巻状流路28と同様である。また、予混合ガスFに適用する燃料の種類は、特に限定されるものではなく、都市ガス、メタン、プロパンなどの種々の可燃燃料を用いることができる。
【0054】
本燃焼器10において、燃焼室12と予混合室14(各室12、14の渦巻状流路28、42の形成材料も含む、以下省略)とは、上述したように、各種の金属材料を用いて形成することができる。
【0055】
好ましくは、受熱効率を向上させるなどの観点から、燃焼室12と予混合室14とは、異種金属材料により形成されており、燃焼室12を形成する金属材料の熱伝導率が、予混合室14を形成する金属材料の熱伝導率よりも大きく設計されていると良い。
【0056】
具体的には、上記燃焼室12を形成する金属材料として、銅または銅合金などを、上記予混合室14を形成する金属材料として、ステンレス鋼などを好適に用いることができる。
【0057】
本燃焼器10は、燃焼室12および予混合室14の中心部がほぼ一致するように、燃焼室12の片面側に予混合室14が並設されて2層構造とされている。具体的には、本実施形態では、一端面が開口した有底略円柱状の燃焼室形成部材と、一端が開口した有底略円柱状の予混合室形成部材とが、両開口面を同方向にして順に積層されることで2層構造とされている。
【0058】
そのため、予混合室14の底板34が、燃焼室14で発生した熱を予混合室14側に伝えるとともに、予混合室14と燃焼室12との間を区画する伝熱隔壁16としての役割を果たしていることになる。
【0059】
本燃焼器10は、上記以外にも、例えば、一端面が開口した有底略円柱状の燃焼室形成部材と、一端が開口した有底略円柱状の予混合室形成部材とを、両開口面を対峙させて配置し、この開口面間に別体の伝熱隔壁を介在させるなどして、2層構造とされていても構わない。
【0060】
本燃焼器10において、両渦巻状流路28、42のほぼ中心部には、着火手段18が設けられている。
【0061】
この着火手段18としては、具体的には、例えば、イグナイタ、セラミックヒータなどを例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0062】
着火手段18は、その着火点50が燃焼室12側になるように配置されている。図1〜5では、予混合室14側から燃焼室12側に向かって着火手段18が挿通され、その着火点50が燃焼室12の燃焼空間32のほぼ中心部に配置された場合を例示している。
【0063】
本燃焼器10において、消炎孔20は、着火手段18の周囲(ここでは、予混合室14の底部34)に取り付けられたセラミックス体52に複数形成されている。この場合には、消炎孔20周辺の耐熱性が向上するため、燃焼室12内の高熱により、比較的小さな消炎孔20が、酸化されたり、変形が生じたりし難くなり、耐久性が向上するなどの利点がある
【0064】
この消炎孔20は、予混合室14と燃焼室12とを連通し、予混合室14内に導入された予混合ガスFを、燃焼室12の燃焼空間32に流入させる役割を有している。
【0065】
したがって、消炎孔20は、上記役割を果たすことができれば、上記セラミックス体52ではなく、伝熱隔壁16(予混合室14の底板34など)に直接形成されていても構わない。
【0066】
本燃焼器10において、消炎孔20とは、消炎直径以下の直径を有する孔を意味する。予混合室14と燃焼室12とを連通する孔の直径が、消炎直径以下であれば、燃焼室12で生じた火炎が予混合室14側へ逆火することを防止することができる。
【0067】
なお、消炎孔20の数は、特に限定されるものではく、使用する燃料の種類、インプット量などに応じて、種々調節することができる。また、具体的な消炎直径については、燃料の種類、予混合ガスFの吹き出し速度、想定される予混合ガスFの温度などを考慮して決定することができるものである。
【0068】
次に、上記構成を備えた本燃焼器10の作用効果について説明する。
【0069】
本燃焼器10では、予混合ガス導入口40から導入された予混合ガスFは、予混合室14内の渦巻状流路42に沿って外部から予混合室14の中心部に至る。予混合室14の中心部に至った予混合ガスFは、消炎孔20より燃焼室12の燃焼空間32に噴出される。噴出された予混合ガスFは、着火手段18により着火されて、火炎が形成されて燃焼が始まる。
【0070】
火炎が一旦形成されると、中心部から熱くなり始め、やがて一定温度の定常状態に至る。そして、燃焼室14の底板22からの熱伝導あるいは輻射熱により、被加熱物(図示されない)を加熱することができる。
【0071】
また、燃焼により生じた排気ガスEは、燃焼室12内の渦巻状流路28に沿って、中心部から外部に向かって流れ、排気ガス排出口26から排出される。
【0072】
なお、予混合室14では、予混合室14の底板34(伝熱隔壁16)を介して伝わる燃焼室12の熱を回収して、予混合ガスFが十分に予熱される。
【0073】
ここで、本燃焼器10では、燃焼室12内の渦巻状流路28が、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有している。そのため、予混合ガスFの圧力損失を低減することができる。これは、主に、火炎が形成される燃焼空間32に近い部分では、高温に曝されて排気ガスEが熱膨張するが、上記構成を採用したことによって、排気ガスEが排出されやすくなるためであると考えられる。
【0074】
また、本燃焼器10が、燃焼室12の中心部に、渦巻状流路隔壁30によって取り囲まれ、かつ、最高温度を示す火炎領域が燃焼室12のほぼ中心部に優勢に形成される広さの燃焼空間32を有している場合には、排気ガスE中に含まれるCO濃度を低減することができる。これは、主に、高温な火炎が、渦巻状流路隔壁30と接触し難くなるためなどの理由によるものと考えられる。
【0075】
本燃焼器10は、排気ガスE中のCO濃度の低減効果に優れるなどの観点から、その運転時における予混合室14内の温度が250℃以上にされることが好ましい。より好ましくは、270℃以上、さらに好ましくは、300℃以上にされると良い。
【0076】
本燃焼器10は、燃焼室12における底板22が加熱面となっているので、片面加熱に適している。本燃焼器10は、例えば、電気コンロや電気フライヤーなどの加熱源、スチームコンベクションやオーブンなどの熱源などの代替として、好適に用いることができる。
【0077】
以上、実施形態に係る2層式燃焼器について説明したが、上記実施形態は本発明を何ら限定するものではなく、種々の変形・改良などが可能なものである。
【0078】
例えば、燃焼室12の底板22は、例えば、燃焼室12内を気密にできれば、被加熱物自体、あるいは、それを入れる容器(なべ底、鉄板など)などの一部などにより代用することも可能である。
【0079】
また、例えば、本燃焼器10は、予混合室14の内壁面のうち、伝熱隔壁16を除いた部分または予混合室14の外壁面(外周壁46と蓋部38)、あるいは、その両壁面を、セラミックス層により被覆しても良い。
【0080】
セラミックス層の材料としては、具体的には、例えば、コージェライト、炭化珪素などを例示することができる。
【0081】
このような構成とした場合には、予混合室14内の断熱性能が向上するので、予混合室14に伝わった熱が外部に放出され難くなる。そのため、より片面加熱に適し、熱交換効率を向上させることができるなどの利点がある。
【実施例】
【0082】
以下、本発明に係る2層式燃焼器を実施例を用いて説明する。
【0083】
1.実施例および比較例に係る2層式燃焼器の作製
(実施例1)
ステンレス鋼(SUS430)を用いて、図1〜図5に示す構造を有する実施例1に係る2層式燃焼器(直径約160mm)を作製した。各部位の寸法は、図6に示した通りである。
【0084】
この際、燃焼室における渦巻状流路の最大流路断面積は、約315mm、最小流路断面積は、約210mmであり、流路長さは、約610mmである。また、予混合室における渦巻状流路の流路断面積は、約210mm一定であり、流路長さは、約830mmである。
【0085】
なお、着火手段にはイグナイタを用い、予混合ガスに用いる燃料ガスには13Aを用いた。
【0086】
上記実施例1に係る2層式燃焼器は、燃焼室の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成されている。一方、予混合室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積がほぼ一定となるように形成されている。また、消炎孔(直径0.9mm)は、予混合室が有する中心空間の底板面に取り付けたコージェライトセラミック円板に形成されている。
【0087】
(実施例2)
ステンレス鋼(SUS430)に代えてリン脱酸銅(C1220)を用いた以外は、実施例1に係る2層式燃焼器と同様にして、実施例2に係る2層式燃焼器を作製した。
【0088】
(比較例1)
ステンレス鋼(SUS430)を用いて、図7に示す構造を有する比較例1に係る2層式燃焼器(直径約120mm)80を作製した。82が燃焼室、84が予混合室、86が伝熱隔壁、90が消炎孔、88が着火手段である。なお、各部位の寸法は、図8に示した通りである。
【0089】
この際、燃焼室82における渦巻状流路82aの流路断面積は、約97.5mm一定であり、流路長さは、約683mmである。また、予混合室84における渦巻状流路84aの流路断面積は、約97.5mm一定であり、流路長さは、約857mmである。
【0090】
なお、着火手段88にはイグナイタを用い、予混合ガスに用いる燃料ガスには13Aを用いた。
【0091】
上記比較例1に係る2層式燃焼器は、燃焼室と予混合室の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって、その流路断面積がほぼ一定となるように形成されている。また、消炎孔(直径0.9mm)は、予混合室が有する中心空間の底板面に取り付けたコージェライトセラミック円板に形成されている。
【0092】
2.燃焼試験
2層式燃焼器を用いた燃焼試験装置の概略について説明する。すなわち、図9に示すように、2層式燃焼器10の予混合ガス導入口40に、予混合ガス導入配管54を接続するとともに、排気ガス排出口26に、排気ガス排出配管56を接続する。
【0093】
燃料源58、空気源60から供給される燃料(最大20L/min)、空気(最大200L/min)は各流量計62、64にて調節され、所定の空気比を有する予混合ガスFとされる。また、予混合ガスFは、圧力計66にて調圧され、所定のインプット量にて予混合ガス導入口40に供給される。
【0094】
燃焼室12の上部(加熱面)には、冷却ジャケット68が積載されており、流量計70にて調節された水道水72を、入口74から出口76に向かって通水可能とされている。なお、2層式燃焼器10の受熱効率は、水温が80℃となる水道水の流量をV、入口の水温をT1、出口の水温をT2とすると、(T2−T1)×V/(テストガスの発熱量)×100の計算式により算出することができる。テストガスには、13A(CH88%、C6%、C4%、C102%、11,000kcal/Nm)を用いている。
【0095】
排気ガスE中のCO濃度および排気ガスEの温度は、排気ガス排出口26から50mm離れた位置でサンプリングした排気ガスEから測定した。なお、圧力損失は、予混合ガスFの圧力と排気ガスEの出口圧力との差から求めることができる。
【0096】
各2層式燃焼器10には、火炎形成状態を確認するため、それぞれ図10および図11に示す位置に、R型熱電対66(0.3mmφ)が複数本取り付けられており、燃焼室10の中心部から距離と温度との関係を測定できるように設定されている。
【0097】
なお、上記燃焼試験は、予混合ガスFのインプット量を、3kW、5kW、6kWとした。また、各インプット量において、空気比を約0.9〜1.7の間で変化させた。
【0098】
3.評価結果
図12は、実施例1および比較例1に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と圧力損失との関係を示したものである。
【0099】
図12によれば、何れの空気比、インプット量の範囲においても、実施例1に係る2層式燃焼器の方が、比較例1に係る2層式燃焼器よりも、予混合気の圧力損失が小さいことが分かる。
【0100】
これは、実施例1に係る2層式燃焼は、燃焼室の渦巻状流路が、中心部から外部に向かって流路断面積が漸次減少するように形成されており、温度による排気ガスの体積膨張が考慮されているので、排気ガスが排出されやすくなり、予混合ガスの圧力損失が低減されたものと考えられる。
【0101】
図13は、実施例1および比較例1に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と排気ガス中のCO濃度との関係を示したものである。
【0102】
図13によれば、何れの空気比、インプット量の範囲においても、実施例1に係る2層式燃焼器の方が、比較例1に係る2層式燃焼器よりも、CO濃度が低減されていることが分かる。
【0103】
これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、図14は、比較例1に係る2層式燃焼器における、燃焼室中心部からの距離と温度との関係(燃焼室内の温度分布:インプット量=5kW)を示したものである。図15は、実施例1に係る2層式燃焼器における、燃焼室中心部からの距離と温度との関係(燃焼室内の温度分布:インプット量=6kW)を示したものである。
【0104】
図14によれば、比較例1に係る2層式燃焼器は、燃焼室内の火炎の高温域が、燃焼室の中心部を取り囲む渦巻状流路隔壁の近傍に存在していることが分かる。したがって、高温な火炎は、渦巻状流路隔壁に接触していると考えられる。
【0105】
それ故、渦巻状流路隔壁との接触により火炎は熱を奪われ、これによって、酸化反応が抑制されて反応速度が低下し、燃焼温度も低下して、高CO濃度の排気ガスが排出されたものと考えられる。
【0106】
これに対し、図15によれば、実施例1に係る2層式燃焼器は、燃焼室内の火炎の高温域は、燃焼室の中心部を取り囲む渦巻状流路隔壁の近傍には存在しておらず、燃焼室のほぼ中心部に優勢に存在していることが分かる。
【0107】
つまり、実施例1に係る2層式燃焼器は、高温の火炎が、ほぼ中心部に優勢に形成されるのに十分な広さの燃焼空間を有していることから、高温の火炎が渦巻状流路隔壁に接触し難くなり、燃焼室内での安定燃焼が達成され、CO濃度を低減を図ることができたものと考えられる。
【0108】
次に、図16は、実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と受熱効率との関係を示したものである。図17は、実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と排気ガス中のCO濃度との関係を示したものである。図18は、実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と予混合室内の温度との関係を示したものである。
【0109】
これらの図から以下のことが分かる。すなわち、図16に示すように、銅材で形成した実施例2に係る2層式燃焼器は、ステンレス鋼材で形成した実施例1に係る2層式燃焼器に比較して、受熱効率が約7%程度向上していることが分かる。
【0110】
もっとも、図17に示すように、実施例2に係る2層式燃焼器は、排気ガス中のCO濃度も若干高めとなる。これは、図18に示すように、予混合室内の温度が低下したためであると考えられる。
【0111】
これらのことから、上記燃焼室を形成する金属材料の熱伝導率を、上記予混合室を形成する金属材料の熱伝導率よりも大きくすれば、受熱効率を向上させることができ、排気ガス中のCO濃度の低減にも寄与しやすいことが分かる。
【0112】
また、その運転時に、予混合室内の温度を約250℃以上にされる場合には、排気ガス中のCO濃度の低減効果に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本実施形態に係る2層式燃焼器の外観を模式的に示した斜視図である。
【図2】本実施形態に係る2層式燃焼器の正面図である。
【図3】図1におけるA−A断面図である。
【図4】図2におけるB−B断面図である。
【図5】図2におけるC−C断面図である。
【図6】実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器の各部位の寸法を示した図である。
【図7】比較例1に係る2層式燃焼器の断面図(図1におけるA−A断面に相当)である。
【図8】比較例1に係る2層式燃焼器の各部位の寸法を示した図である。
【図9】2層式燃焼器を用いた燃焼試験装置の概略図である。
【図10】実施例に係る2層式燃焼器における熱電対の取り付け位置を示した図である。
【図11】比較例に係る2層式燃焼器における熱電対の取り付け位置を示した図である。
【図12】実施例1および比較例1に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と圧力損失との関係を示した図である。
【図13】実施例1および比較例1に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と排気ガス中のCO濃度との関係を示した図である。
【図14】比較例1に係る2層式燃焼器における、燃焼室中心部からの距離と温度との関係(燃焼室内の温度分布:インプット量=5kW)を示した図である。
【図15】実施例1に係る2層式燃焼器における、燃焼室中心部からの距離と温度との関係(燃焼室内の温度分布:インプット量=6kW)を示した図である。
【図16】実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と受熱効率との関係を示した図である。
【図17】実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と排気ガス中のCO濃度との関係を示した図である。
【図18】実施例1および実施例2に係る2層式燃焼器における、予混合気の空気比と予混合室内の温度との関係を示した図である。
【図19】改良前に係る2層式燃焼器の断面構造を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0114】
10 2層式燃焼器
12 燃焼室
14 予混合室
16 伝熱隔壁
18 着火手段
20 消炎孔
22 底板(燃焼室側)
24 外周壁(燃焼室側)
26 排気ガス排出口
28 渦巻状流路(燃焼室側)
30 渦巻状流路隔壁(燃焼室側)
32 燃焼空間
34 底板(予混合室側)
36 外周壁(予混合室側)
38 蓋部
40 予混合ガス導入口
42 渦巻状流路(予混合室側)
44 渦巻状流路隔壁(予混合室側)
46 外周壁(予混合室側)
48 空間
50 着火点
52 セラミックス体
F 予混合ガス
E 排気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から中心部に向かって渦巻状に予混合ガスを導入する渦巻状流路を有する予混合室と、
中心部から外部に向かって渦巻状に排気ガスを排出する渦巻状流路を有する燃焼室と、
前記予混合室と前記燃焼室との間を区画する伝熱隔壁と、
ほぼ中心部に設けられ、前記燃焼室側で着火を行う着火手段と、
前記着火手段の周囲に配置され、前記予混合室と前記燃焼室とを連通する消炎孔とを備えた2層式燃焼器であって、
前記燃焼室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有していることを特徴とする2層式燃焼器。
【請求項2】
前記燃焼室の中心部に、
渦巻状流路隔壁によって取り囲まれ、かつ、最高温度を示す火炎領域が前記燃焼室のほぼ中心部に優勢に形成される広さの燃焼空間を有していることを特徴とする請求項1に記載の2層式燃焼器。
【請求項3】
前記予混合室の渦巻状流路は、中心部から外部に向かって、その流路断面積が漸次減少するように形成された部位を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の2層式燃焼器。
【請求項4】
前記消炎孔は、前記着火手段の周囲に取り付けられたセラミック体に形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の2層式燃焼器。
【請求項5】
前記燃焼室と前記予混合室とは、異種金属材料より形成されており、前記燃焼室を形成する金属材料の熱伝導率は、前記予混合室を形成する金属材料の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の2層式燃焼器。
【請求項6】
前記燃焼室を形成する金属材料は、銅または銅合金であり、前記予混合室を形成する金属材料は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項5に記載の2層式燃焼器。
【請求項7】
その運転時に、前記予混合室内の温度が250℃以上にされることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の2層式燃焼器。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の2層式燃焼器を有するガス器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2008−224197(P2008−224197A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67765(P2007−67765)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(000102348)エイケン工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】