説明

2種類以上の分子を多孔質担体に固定化する方法

【課題】タンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を活性化された多孔質担体に固定化したカラム充填剤を多量かつ安定した品質で提供する。
【解決手段】タンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化する際、固定化反応中の反応液の入れ替え操作を省略した連続するワンポット反応とすることで、多量の充填剤を調製する場合でも、安定した品質でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化したカラム充填剤を調製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続するワンポット反応でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化することを特徴とするカラム充填剤の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析及び触媒などの各種用途に用いることができるタンパク質を担体に固定化した、固定化タンパク質が利用されて来た。しかし、タンパク質の機能を維持したまま、担体に固定化するには、事前に担体に特殊な活性化処理を施す必要がある。しかし、固定化反応中に担体の活性化が持続する時間は短く、2種類以上のタンパク質を固定化しようとすると、担体の固定化能力が低下するため、2種類目以降のタンパク質の固定化では、望ましい結果が得られないことが多い。また、各種用途に用いるプロテアーゼなどの酵素を反応に用いるために担体に固定化した酵素固定化リアクター(バイオリアクター)が、従来提案されている。しかし、プロテアーゼについては、固定化したプロテアーゼが自己消化による分解で失活しやすい。またプロテアーゼなどの酵素の基質が高分子である場合、空間的な制限により担体に結合した酵素と基質との反応が効率よく速やかに進行しにくい。これらの理由から、酵素固定化リアクター(バイオリアクター)については、用いる酵素と基質の種類によってはその用途が制限されており、各種酵素及び基質について広く利用できる酵素固定化リアクター(バイオリアクター)の開発が期待されている。また、酵素固定化リアクター(バイオリアクター)の1つとして、アフィニティーカラムによる親和性を利用した分離方法とバイオリアクターカラムによる酵素反応の特徴を合わせ持ったアフィニティートラップリアクターの開発も行われており、生体由来タンパクを基質とした血管の新生を阻害する物質を生成するアフィニティートラップリアクターの開発も進められている。
【0003】
尚、血管の新生を阻害する物質は、癌の増殖、浸潤、転移を抑制することから、抗腫瘍剤としての用途が期待されており、このような物質の一つとしてアンジオスタチンが知られている。アンジオスタチンは、血液中に存在する、線溶因子であるプラスミノーゲンを分解することにより得られる分子量約40,000のタンパク質であり、動物実験では、癌に対して劇的な効果を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。アンジオスタチンの生産には、(1)プラスミノーゲンをエラスターゼというプロテアーゼで加水分解する(非特許文献2参照) 、(2) 遺伝子組換え技術を用いて大腸菌に直接生産させる(非特許文献3参照)、という2種類の方法が用いられている。この(1)の方法では、エラスターゼの基質特異性が低いため、副生成物が多く生じ、プラスミノーゲンからアンジオスタチンを選択的に生成させることが困難である。また得られるアンジオスタチンの活性が低いなどの欠点がある。(2)の方法では、大腸菌によって生産されるアンジオスタチンの精製が困難であり、コストもかかる。また、溶解性の低さにも問題がある。このため、高純度のアンジオスタチンを簡便な方法で得る手段の開発が求められていた。
【0004】
最近、Bacillus megaterium A9542株が産生するプロテアーゼであるバシロライシンMAが、プラスミノーゲンを特異的に切断して新生血管抑制作用を有するアンジオスタチン様断片(主にGlu1−Ser441,以降、BL−アンジオスタチンと記載する)と、血栓溶解活性を有するミニプラスミノーゲン様断片(主にVal442−Asn791)を生成することが認められた(特許文献1参照)。また、この酵素バシロライシンMAは、非常に安定であるため、担体に固定化して各種用途に用いることが可能である。そこでこのようなバシロライシンMAの特性を利用して、バシロライシンMAと基質プラスミノーゲンとの反応と、その結果得られる生成物BL−アンジオスタチンの精製までの工程を一段階で行なって高純度でBL−アンジオスタチンを得る方法、及びそれを行なうための装置の開発が求められていた。
【0005】
また、上記のような問題点を解決するため、市販のセファロース系の活性化担体にプロテアーゼ(酵素)としてバシロライシンMAを固定化し、該酵素の基質と特異的に結合する分子としてリジン(Lys)を固定化したカラムであるアフィニティートラップリアクターを用いることにより、血液などの生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを高効率かつ速やかに分解精製する方法が開発された(特許文献2、3参照)。
【0006】
しかし、上記のように活性化担体を利用して少量のアフィニティートラップリアクターを作製する場合はあまり問題とならないが、一度に多量のアフィニティートラップリアクターを作製しようとすると、プラスミノーゲンからのBL−アンジオスタチンの精製効率が大きく低下する現象が見られ、アフィニティートラップリアクターの性能の再現性に不安があることが分かっている。
【0007】
また、活性化担体を利用した2種類以上の酵素を固定化するバイオリアクターの作製においても同様のことが考えられ、バイオリアクターにおける酵素固定化の再現性が重要なファクターと考えられる場合には、スケールアップにより品質の再現性の低下が、大きな問題になるため、安定した品質となる合成処方を開発することが望まれていた。
【0008】
本発明者は、上記のようなアフィニティートラップリアクターを多量に作製する場合でもBL−アンジオスタチンの精製効率が安定する合成条件を設定するために鋭意研究を行った結果、品質の安定化に効果があるアフィニティートラップリアクターの調製条件を発見して、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−272453号公報
【特許文献2】特許第3830501号
【特許文献3】WO2005/079835号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】エム・エス・オリリー(M.S.O'Reilly)ほか、「セル」(Cell)、(米国)、1994年10月21日、第79巻、第2号、p315−328
【非特許文献2】エム・エス・オリリー(M.S.O'Reilly)ほか、「ネイチャー・メディシン」(Nature Medicine)、(米国)、1996年、第2巻、p689−692
【非特許文献3】ビー・ケー・シム(B.K.Sim)ほか、「キャンサー・リサーチ」(Cancer Research) 、(米国)、1997年、第57巻、p1329−1334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、NHS活性化された多孔質担体へのバシロライシンMAとリジンの固定化において、多量のカラム充填剤を取得しようとした場合に、BL−アンジオスタチンの精製効率が大幅に低下する現象が見られることを確認していた。すなわち、本発明の目的は、タンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化したカラム充填剤を多量かつ安定した品質で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、固定化反応中の活性基の安定性または分解速度がカラム充填剤の品質の安定化に影響していることが分かった。そこで、反応液の入れ替え操作を省略し、活性基の失活を抑制することで、多量の充填剤を調製する場合でも、安定した品質でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化したカラム充填剤を調製できることを明らかにした。すなわち本発明は、連続するワンポット反応でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化することを特徴とするカラム充填剤の合成方法に関する。尚、特に説明が無い限り、ワンポット反応は、2工程以上の反応を、反応液の入れ替え等の操作を行わずに連続して反応を行うことを言う。
【発明の効果】
【0013】
連続するワンポット反応でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化することで、多量の充填剤を安定した品質で提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の固定化方法
本発明の固定化方法は、連続するワンポット反応でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化する方法であり、従来の2段階に分けて行っていた固定化方法におけるスケールアップ時の再現性の低下を回避するための固定化技術を提供することができる。
【0015】
上記の固定化方法で固定化可能なタンパク質及び該タンパク質と異なる機能を持った分子としては、多孔質担体に共有結合により固定化することができるタンパク質及び該タンパク質と異なる機能を持った分子であれば、種々のタンパク質及び該タンパク質と異なる機能を持った分子を必要に応じて使用することができる。
【0016】
例えば、タンパク質として、酵素を固定化する場合は、プロテアーゼ、糖質分解酵素、及び脂質分解酵素などを含む加水分解酵素、酸化還元酵素、転移酵素、除去付加酵素、異性化酵素、合成酵素など、種々の酵素を使用することができる。該タンパク質と異なる機能を持った分子には、タンパク質、糖類、高分子、低分子などが選択できる。但し、固定化するタンパク質及び該タンパク質と異なる機能を持った分子の組み合わせが酵素と基質のような関係になる場合は、何れか一方が消化されることでバイオリアクターとしての機能が十分に得られないので好ましくない。
【0017】
また、タンパク質として酵素以外のタンパク質、該タンパク質と異なる機能を持った分子として糖類や低分子を組み合わせることで、従来と異なる性能を有する光学分離カラムへの応用が可能である。
【0018】
また、タンパク質及び該タンパク質と異なる機能を持った分子として、2種類の酵素を組み合わせることで、2種類の酵素反応を同時に行うバイオリアクターが得られる。例えば、D−アミノアシラーゼとN−アシルアミノ酸ラセマーゼを組み合わせることで、N−アシル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸を1段階で調製できるバイオリアクターへの応用が可能である。
【0019】
また、タンパク質として酵素、該タンパク質と異なる機能を持った分子として酵素の基質と特異的に結合する分子を組み合わせることで、バイオリアクターとアフィニティーカラムの機能を持ち合わせたアフィニティートラップリアクターカラムが得られる。この酵素の基質と特異的に結合する分子は、低分子リガンドや抗原抗体反応などにより、酵素基質と特異的かつ可逆的に結合する分子であって、多孔質担体と結合しうる分子であれば、必要に応じて任意のものを用いることができる。例えば、酵素の基質、及び目的とする反応生成物には特異的に結合するが、副生成物には結合しない分子を選択して結合させることにより、酵素反応後、副生成物はアフィニティートラップリアクターカラムから容易に除去され、目的生成物のみを高純度で回収することができる。以下に、アフィニティートラップリアクターにおける酵素、基質、それと特異的に結合する分子の例を以下に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
上記に示したように、多孔質担体に結合させる酵素がBacillus megaterium A9542株が産生する酵素であるバシロライシンMAである場合、このような分子としてはリジン(Lys)を好ましく用いることができる。この場合、リジンは、基質であるプラスミノーゲン、及び目的とする分解生成物であるBL−アンジオスタチンとは特異的に結合するが、副生成物であるミニプラスミノーゲンとは結合しない。このため、酵素反応後、副生成物は担体に結合されずにアフィニティートラップリアクターカラムから除去されるため、目的生成物のみを選択的に回収することができる。
【0022】
本発明の固定化方法に使用しうる担体としては、アフィニティークロマトグラフィーにおいて通常使用されている多孔質担体が挙げられ、固定化する酵素や、基質と特異的に結合する分子の種類、性質に応じて適宜選択することができる。
【0023】
また、上記の酵素は、多孔質担体と直接結合していてもよいが、必要に応じて、スペーサー基を介して結合していてもよい。例えば、多孔質担体と酵素とを直接の化学結合でカップリングさせることができない場合、酵素が比較的小さい分子であって酵素と基質との結合を完全に行なわせるのが困難である場合などに、スペーサー基を用いることができる。このようなスペーサー基は、結合させる酵素の種類に応じて適宜選択することができる。
【0024】
一方、バシロライシンMAを多孔質担体に結合させる場合には、スペーサーは特に使用しなくても、これを担体に容易に結合させることができる。
【0025】
以下に、本発明の固定化方法に好適に使用しうる担体、酵素、その基質、基質と特異的に結合しうる分子、及び用いうるスペーサー基の例を挙げるが、本発明の固定化方法は、これらに限定されるものではない。
【0026】
【表2】

【0027】
本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターの作製例
本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターは、多孔質担体に酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させたものなので、生化学の分野で使用されるアフィニティークロマトグラフィーを製造する方法を理解している当業者であれば作製をすることが可能である。
【0028】
作製に際しては、固定化する酵素に応じて、結合させるスペーサーを選択する。スペーサーを結合させる際は、必要に応じて、多孔質担体の官能基を活性化することにより、担体とスペーサーを容易に結合することができる。例えば多孔質担体としてPVA(ポリビニルアルコール重合体)を用いる場合には、エピクロロヒドリンによりエポキシ活性化したPVA担体とし、6−アミノカプロン酸と反応させることで、スペーサーとして6−アミノカプロン酸を固定化したPVA担体とする。この6−アミノカプロン酸固定化PVA担体は、酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体としても使用することができる。
【0029】
次に、使用する担体に酵素を結合させる。結合に際しては、必要に応じて、担体の官能基を活性化することにより、担体と酵素を容易に結合することができる。例えば担体としてスペーサーを結合させていないPVA担体を用いる場合には、臭化シアンにより活性化したCNBr活性化PVA担体とすることで、容易に酵素を結合することができる。また、担体として6−アミノカプロン酸固定化PVA担体を用いる場合には、末端のカルボン酸をN−ヒドロキシコハク酸イミドと脱水縮合し、N−ヒドロキシコハク酸エステル(NHS)基に変換した、NHS活性化されたPVA担体とすることで、容易に酵素を結合することができる。尚、NHS活性化担体の方が、酵素との反応速度が速く、固定化能力に優れているので、NHS活性化担体を使用することが望ましい。
【0030】
必要に応じて活性化した担体を緩衝液で洗浄し、次に同じ緩衝液に溶解した酵素溶液で担体を処理して、担体に酵素を結合させる。緩衝液に含まれる酵素の濃度は、固定化する酵素の種類に応じて適宜決定することができる。また、ここで使用する緩衝液の組成、pH、反応時間なども、固定化する酵素の種類に応じて適宜決定することができる。例えばバシロライシンMAをNHS活性化PVA担体に固定化する場合、バシロライシンMA約0.01〜1mg/mL、好ましくは約0.02mg/mLを含む緩衝液(組成:0.2M 炭酸水素ナトリウム、更に約0.5M NaCl、約5%イソプロピルアルコールを含む)を用い、0〜30℃で1〜30分間、好ましくは5℃で10分間反応させる。
【0031】
次に、酵素溶液を除去せずに該酵素の基質と特異的に結合する分子の溶液を添加し、担体に酵素及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させる。該酵素の基質と特異的に結合する分子の種類は、固定化する酵素の種類に応じて適宜選択することができるが、バシロライシンMAを結合させるアフィニティートラップリアクターとする場合、リジン溶液(組成:2M リジン溶液(pH7〜8)、約5%イソプロピルアルコールを含む)を用い、0〜30℃で1〜240分間、好ましくは5℃で210分間反応させる。
【0032】
次に、酵素及び該酵素の基質と特異的に結合する分子の溶液をろ過等で除去した後、酵素及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体を緩衝液で洗浄することによって、アフィニティートラップリアクターが得られる。緩衝液の種類は、固定化する酵素の種類に応じて適宜選択することができるが、バシロライシンMA及びリジンを結合させたリアクターの場合、緩衝液B(組成:25mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)、約5%イソプロピルアルコールを含む)などの緩衝液で洗浄することができる。
上記のバシロライシンMAを結合させたアフィニティートラップリアクターを作製する各工程で用いる緩衝液又は水溶液に含まれるイソプロピルアルコール濃度は、約1〜10%、好ましくは約5% である。イソプロピルアルコールの存在下で上記の各工程を行なうことにより、担体に固定化した酵素の失活を防ぎ、酵素を安定に長期間保持することができる。
【0033】
このようにして得られたアフィニティートラップリアクターは、緩衝液中、約−90〜4℃程度の低温、好ましくは約−10℃で保存する。緩衝液の種類は、適宜選択することができる。バシロライシンMAを結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、前述の緩衝液B中で保存することができる。このように緩衝液B中、低温で保存することにより、アフィニティートラップリアクターは、酵素を失活させることなく、長期にわたって安定に保存することができる。
【0034】
上記のような構成のアフィニティートラップリアクターとすることで、固定化する酵素と、酵素の基質と特異的に結合する分子の種類に制限されることなく、酵素と基質との反応を高効率で、かつ特異的に進行させることができる。

本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターの使用例
本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターを用いて、所望の酵素と基質の反応を進行させるには、上記のように調製したアフィニティートラップリアクターをあらかじめ緩衝液で平衡化しておく。緩衝液の種類は、固定化した酵素及び基質と特異的に結合する分子の種類に応じて適宜選択することができる。例えば酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子として6−アミノカプロン酸を結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)(緩衝液C)を用いることができる。
【0035】
次に、アフィニティートラップリアクターカラムに固定化されている酵素の基質が含まれている生体試料などの試料(血液など)から遠心分離などの処理により上清を得る。酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子として6−アミノカプロン酸を結合させたアフィニティートラップリアクターの場合には、試料の種類に応じて適宜決定した、遠心分離の条件で処理された上清を、平衡化しておいたアフィニティートラップリアクターに添加することによって生体試料中の基質と酵素との反応を進行させ、その後アフィニティートラップリアクターを緩衝液で洗浄し、次いで溶出液を添加することにより酵素反応によって生じた生成物を溶出する。洗浄に用いる緩衝液としては、平衡化に用いた緩衝液を用いることができる。例えば、酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子として6−アミノカプロン酸を結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、約0.5MのNaClを含む上記の緩衝液Cで洗浄する。溶出液も、酵素、基質の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子として6−アミノカプロン酸を結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、約200mMの6−アミノカプロン酸を溶出液として用いる。
【0036】
酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子として6−アミノカプロン酸を結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、上記の一連の反応はすべて、約0〜50℃程度の温度、好ましくは約20〜30℃の温度で行なう。このような温度で反応を進行させることによって、アフィニティートラップリアクターに固定化されたバシロライシンMAは自己消化せずに安定に保持される一方、プラスミノーゲンに対するバシロライシンMAの作用は、必要最低限確保されるため、酵素反応は円滑かつ特異的に進行する。またこの一連の反応で使用する各種緩衝液には、カルシウムイオンを含有させず、カルシウムイオンの存在しない条件で各反応を進行させる。
【0037】
以上、本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターの作製例及びその使用例について記載したが、本発明は、このアフィニティートラップリアクターを用いた、生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得る方法にも関する。本方法は、プラスミノーゲンを含む生体試料をバシロライシンMA及び6−アミノカプロン酸を結合させた担体からなるアフィニティートラップリアクターに付して、約0〜50℃、好ましくは約20〜30℃の温度で、カルシウムイオンの存在しない条件で反応させて、BL−アンジオスタチンを得ることによる。6−アミノカプロン酸は、基質であるプラスミノーゲンと、目的とする分解生成物であるBL−アンジオスタチンの両者とは特異的に結合するが、副生成物であるミニプラスミノーゲンとは結合しない。このため、酵素反応後、副生成物は6−アミノカプロン酸を介して担体に結合されずにアフィニティートラップリアクターから除去されるため、目的生成物のみを選択的に回収することができる。このような特定の条件で上記のアフィニティートラップリアクターを用いて酵素反応を進行させることにより、プラスミノーゲンから高純度のBL−アンジオスタチンを一段階で得ることができる。
【0038】
本発明は、先に詳細に記載した本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターの作製例により得たアフィニティートラップリアクターを用い、先に記載した本発明の固定化方法によるアフィニティートラップリアクターの使用例により実施することができる。プラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得るための具体的かつ詳細な条件は、以下の実施例に記載したとおりであるので、実施例の記載に基づいて実施することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明について具体的に説明するが、本発明は実施例に記載されたものに限定されるものではない。
(実施例1)
PVA(ポリビニルアルコール重合)担体の作製
特開2007−131668に記載の実施例を参照して作製した。
【0040】
エポキシ活性化したPVA担体の調製
PVA担体249gに、ジメチルスルホキシド(DMSO)400mL、30%NaOH33.4mL、エピクロロヒドリン267mLを加えて、40℃で5時間反応させた。このスラリーをDMSO1.0L、水5.0Lで洗浄することで、エポキシ活性化したPVA担体を得た。
【0041】
6−アミノカプロン酸を固定化したPVA担体の作製
エポキシ活性化したPVA担体270mLに水153mL、2M炭酸ナトリウム水溶液67.5mL、2Mアミノカプロン酸水溶液49.4mLを加え、50℃で5時間反応させた。このスラリーを水5.4Lで洗浄することでアミノカプロン酸固定化担体を得た。
【0042】
NHS活性化したPVA担体の作製
6−アミノカプロン酸を固定化したPVA担体97mLをDMSO243mLで洗浄し、洗浄した担体にDMSO194mL、NHS14.3g、EDC23.8gを加え、40℃で10時間反応させた。このスラリーをDMSO1.9Lで、IPA290mLで洗浄することでNHS活性化したPVA担体を得た。
【0043】
バシロライシンMA及びリジンを固定化したアフィニティートラップリアクターの作製
NHS活性化PVA担体10mLを冷1mM HCl溶液50mLで洗浄し、洗浄した担体に1mM HCl溶液8.81mL、次に0.4mgのバシロライシンMAを含む緩衝液A(1mM HCl溶液と合わせて、0.2M 炭酸水素ナトリウム、0.5M NaCl、5%イソプロピルアルコールとなる溶液)11.19mLを添加し、5℃で10分間撹拌した。次に、1M リジン溶液(5%イソプロピルアルコールを含む)2mLを添加し、5℃で3.5時間攪拌することによって、固定化反応を行なった。反応終了後、溶液を除去し、緩衝液B(5%イソプロピルアルコールを含む、25mM リン酸ナトリウム)100mLでゲルを洗浄し、最後に上記組成の緩衝液B中、−10℃以下で保存した。
【0044】
アフィニティートラップリアクターカラムの作製
アフィニティートラップリアクター担体を1mL計量し、1mL容積のカラムに充填し、前述の緩衝液B中、−10℃以下で保存した。
【0045】
アフィニティートラップリアクターカラムを用いた、ヒト血漿からのBL−アンジオスタチンの一段階精製プロセス
アフィニティートラップリアクターカラム(1mL)を、緩衝液C(50mM リン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化した。平衡化したリアクターに、クエン酸処理したヒト血漿5mLを流速0.125mL/分で添加した。その後、0.5M NaClを含む上記組成の緩衝液C10mLでリアクターを洗浄した(3mL/分)。生成したBL−アンジオスタチンの溶出は、200mMの6−アミノヘキサン酸溶液3mLで行なった。その結果、BL−アンジオスタチンの収量は、163μgであった。
(比較例1)
スケールアップによる固定化反応の不具合で精製効率が低下したリアクターを用いた、ヒト血漿からのBL−アンジオスタチンの一段階精製プロセス
実施例1に従い作製したNHS活性化PVA担体約65mLを冷1mM HCl溶液1950mLで洗浄し、洗浄した担体に2.6mgのバシロライシンMAを含む緩衝液A(0.2M 炭酸水素ナトリウム、0.5M NaCl、5%イソプロピルアルコールとなる溶液)130mLを添加し、25℃で2時間撹拌することによって、酵素固定化反応を行った。反応終了後に反応溶液を除去し、0.2M リジン溶液(5%イソプロピルアルコールを含む)130mLを添加し、25℃で2時間攪拌することによって、リジン固定化反応を行なった。反応終了後、溶液を除去し、緩衝液B(5%イソプロピルアルコールを含む、25mM リン酸ナトリウム)1950mLでゲルを洗浄し、最後に上記組成の緩衝液B中、−10℃以下で保存した。左記のリアクターを使用する以外は、実施例1と同じ方法でカラムの作製及び評価を行った。その結果、BL−アンジオスタチンの収量は、9μgであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続するワンポット反応でタンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子を多孔質担体に固定化することを特徴とするカラム充填剤の合成方法。
【請求項2】
タンパク質と該タンパク質と異なる機能を持った分子の2種類以上を組み合わせて多孔質担体に固定化する、請求項1記載の合成方法。
【請求項3】
タンパク質として酵素、該タンパク質と異なる機能を持った分子として前述の酵素の基質あるいは酵素による基質の分解物と親和性を持つ分子を多孔質担体に固定化する、請求項1または2に記載の合成方法。
【請求項4】
酵素としてプラスミノーゲンを基質とするプロテアーゼであるバシロライシンMA、該酵素の基質あるいは酵素による基質の分解物と親和性を持つ分子としてプラスミノーゲンあるいはバシロライシンMAによるプラスミノーゲンの分解物と親和性を持つ分子であるリジンまたは/および6−アミノカプロン酸を固定化する、請求項1から3のいずれかに記載の合成方法。

【公開番号】特開2012−50387(P2012−50387A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196182(P2010−196182)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】