説明

2置換修飾シクロデキストリンおよびこれを用いた核酸検出方法

【課題】2本鎖DNAと選択的に相互作用する2置換修飾シクロデキストリン、およびこれを用いた、1本鎖DNAと2本鎖DNAとをより高精度に判別し得る核酸検出方法を提供すること。
【解決手段】例えば、式(5)で示される2置換修飾シクロデキストリンは、2本鎖DNAと選択的に相互作用し、その結果、蛍光スペクトルが増大するため、DNAチップ用の試薬など、核酸検出用の標識として好適に利用できる。


(式中、CyDは、α−、β−またはγ−シクロデキストリン骨格を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2置換修飾シクロデキストリンおよびこれを用いた核酸検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノムシークエンシングの進展により、各生物のゲノムの全塩基配列が明らかにされつつある中、この結果を有効に利用する技術が望まれている。
核酸マイクロアレイは、複数の遺伝子を同時に解析できる技術であり、塩基配列を決定するための方法だけではなく、遺伝子の発現量や多型などを効率よく調べる方法として開発され、テーラーメイド医療、菌類などの生物学的分類の特定および疾病の診断などへの技術開発が展開されている。
【0003】
一般に、テーラーメイド医療、および生物学的分類または変異体の同定に用いられる核酸マイクロアレイは、特定の塩基配列を定性的に検出できれば十分であるため、試験紙のように安価で、使い捨て可能なものが求められている。
例えば、特許文献1には、HCV(C型肝炎ウイルス)単離物の同定方法に用いる核酸マイクロアレイとして、ラインプローブ(LiPA:Line Probe Assay,イノジジェネティクス社登録商標)法が開示されている。
このアッセイは、ポリアミド膜片上に平行線として核酸プローブが固定されたものである。
【0004】
このようなアッセイ上での核酸の検出は、主としてRI標識法、蛍光標識法および酵素発色法などを用いて行われる。
これらの方法の中でも、特に、酵素発色法は、安価で簡便な方法であるとして有効とされている。
しかし、この酵素発色法を用いた場合であっても、プライマーをビオチンで修飾する必要があるため、その分コストが高くなるという問題がある。
さらに、酵素発色法では、ストレプトアビジンで修飾したアルカリホスファターゼ、およびストレプトアビジンに対する基質を作用・洗浄する必要があり、検出工程が極めて煩雑となるという問題もある。
【0005】
一方、高感度かつ簡便な検出方法として、ハイブリダイズした核酸の塩基のπ電子スタッキング構造に作用するインターカレーターに関する研究が盛んになされている(非特許文献1参照)。
しかし、非特許文献1に開示されたインターカレーターは、水に難溶であるためにハイブリダイズした2本鎖の核酸に作用し得るだけの濃度調製が極めて困難であった。また、試薬の保存性が悪いため、工業的手法としては適していなかった。
【0006】
以上のような問題点を解決する新たな手法として、本発明者らは、水に可溶で、ハイブリダイズした2本鎖の核酸に選択的に吸着し得るモノ置換修飾シクロデキストリンを見出し、既にこれを報告している(特許文献2参照)。
このモノ置換修飾デキストリンを用いることで、1本鎖DNAと2本鎖DNAとの間に蛍光強度の違いが生じるため、それを検出することで、それらの判別を安価かつ容易に行えるようになる。
しかし、特許文献2の手法では、1本鎖DNAの場合でも蛍光強度に変化が生じてしまうため、1本鎖DNAと2本鎖DNAとを完全かつ高精度に判別するという点においては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平7−503143号公報
【特許文献2】国際公開第2007/105786号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bioorganic & Medical Chemistry Letters,vol.16,2005, P154−157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、2本鎖DNAと選択的に相互作用する2置換修飾シクロデキストリン、および1本鎖DNAと2本鎖DNAとをより高精度に判別し得る核酸検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シクロデキストリンに、特定の中性の2価の有機基をリンカーとして2つの蛍光性発色団を結合させてなる2置換修飾シクロデキストリンが、2本鎖DNAと選択的に相互作用すること、およびこの化合物を用いることで、上述した従来法よりも、高精度に1本鎖DNAと2本鎖DNAとを判別し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で示されることを特徴とする2置換修飾シクロデキストリン、
【化1】


(式中、CyDは、α−、β−またはγ−シクロデキストリン骨格を、A1およびA2は、互いに独立して、エーテル結合またはチオエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基を、B1およびB2は、互いに独立して、単結合、−C(O)−、−C(O)NH−、−NHC(O)−、−C(O)O−または−OC(O)−を、C1およびC2は、互いに独立して、エーテル結合を含む炭素数1〜20のアルキレン基を、X1およびX2は、互いに独立して、蛍光性発色団を表す。)
2. 前記蛍光性発色団が、ピレン、ナフタレン、ダンシルグリシン、アントラセンおよびローダミンBから選ばれる少なくとも1種である1の2置換修飾シクロデキストリン、
3. 前記蛍光性発色団が、エキシマ蛍光性発色団である1の2置換修飾デキストリン、
4. 前記エキシマ蛍光性発色団が、ピレンおよびナフタレンから選ばれる少なくとも1種である3の2置換修飾デキストリン、
5. 式(2)で示されることを特徴とする1の2置換修飾シクロデキストリン、
【化2】


(式中、CyD、A1、A2、B1、B2、C1およびC2は、前記と同じ意味を表す。)
6. 式(3)で示される5の2置換修飾シクロデキストリン、
【化3】


(式中、CyD、C1およびC2は、前記と同じ意味を表す。)
7. 式(4)で示される6の2置換修飾シクロデキストリン、
【化4】


(式中、mおよびnは1〜10の整数を表し、m+n≦19を満足し、oおよびpは1〜10の整数を表し、o+p≦19を満足する。CyDは、前記と同じ意味を表す。)
8. 式(5)で示される7の2置換修飾シクロデキストリン、
【化5】


(式中、CyDは、前記と同じ意味を表す。)
9. 前記CyDが、γ−シクロデキストリン骨格である1〜8のいずれかの2置換修飾シクロデキストリン、
10. AE2置換体である8の2置換修飾シクロデキストリン、
11. 1〜10のいずれかの2置換修飾シクロデキストリンを用いることを特徴とする核酸検出方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の2置換修飾シクロデキストリンは、2本鎖DNAと選択的に相互作用し、その結果、蛍光スペクトルの増大が観察される。
このため、本発明の2置換修飾シクロデキストリンを用いることで、従来法に比べ、高精度かつ簡便に2本鎖DNAと1本鎖DNAとを識別することができるようになる。
このような特徴を有する本発明の2置換修飾シクロデキストリンは、DNAチップ用の試薬など、核酸検出用の標識として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDとdsDNAとの混合溶液の蛍光スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDとssDNAとの混合溶液の蛍光スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDのdsDNAへの第1のインターカレーション推定図である。
【図4】実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDのdsDNAへの第2のインターカレーション推定図である。
【図5】実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDに、アダマンタンカルボン酸ナトリウムを添加した場合のCDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る2置換修飾シクロデキストリンは、式(1)で表されるものである。
【0015】
【化6】

【0016】
式(1)において、CyDは、α−、β−またはγ−シクロデキストリン骨格を意味する。
シクロデキストリンは、D−グルコースが環状に1,4−α−グリコシド結合した化合物であり、これを構成するグルコース数の違いによって、α−シクロデキストリン(グルコース6個)、β−シクロデキストリン(グルコース7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース8個)に分類され、本発明の2置換修飾シクロデキストリンには、α−、β−、γ−のいずれも使用することができるが、特に、γ−シクロデキストリン骨格が好適である。
また、2置換シクロデキストリンでは、これを構成するグルコース上における2つの置換基の結合位置によって各種位置異性体が存在し、例えば、2置換γ−シクロデキストリンでは、下記に示されるように、AB体、AC体、AD体、AE体の各2置換体が存在するが、本発明においては、グルコースAとグルコースEとがそれぞれ置換されているAE体が好適である。
なお、置換基の結合部位は、グルコースの1級水酸基、2級水酸基のいずれでもよいが、製造コストの観点から、1級水酸基が好ましい。
【0017】
【化7】

【0018】
1およびA2は、互いに独立して、エーテル結合またはチオエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基を表すが、特に、炭素数1〜5が好ましい。
その具体例としては、−CH2−O−CH2−、−(CH22−O−(CH22−、−(CH23−O−(CH23−、−(CH24−O−(CH24−、−(CH25−O−(CH25−、−CH2−S−CH2−、−(CH22−S−(CH22−、−(CH23−S−(CH23−、−(CH24−S−(CH24−、−(CH25−S−(CH25−等が挙げられる。
【0019】
1およびB2は、互いに独立して、単結合、−C(O)−、−C(O)NH−、−NHC(O)−、−C(O)O−または−OC(O)−を表すが、特に、−C(O)NH−、−NHC(O)−が好ましい。
なお、単結合の場合は、A1およびC1、A2およびC2が直接結合することになる。
【0020】
1およびC2は、互いに独立して、エーテル結合を含む炭素数1〜20のアルキレン基を表し、好ましくは、エーテル結合を含む炭素数2〜10のアルキレン基であり、より好ましくは、エーテル結合を含む炭素数2〜6のアルキレン基である。
1の具体例としては、−CH2o(O2ppC)−(oおよびpは1〜10の整数を表し、o+p≦19を満足する。)が挙げられるが、特にp=1〜5、o=1〜5のものが好適である。
2の具体例としては、−(Cn2nO)m−CH2−(mおよびnは1〜10の整数を表し、m+n≦19を満足する。)が挙げられるが、特にm=1〜5、n=1〜5のものが好適である。
【0021】
1およびX2は、互いに独立して、蛍光性発色団を表す。この蛍光性発色団としては、蛍光性の置換基であれば特に限定されるものではないが、本発明においては、中性の発色団が好ましい。
発色団の具体例としては、ピレン、ナフタレン、ダンシルグリシン、アントラセン、ローダミンB等が挙げられ、これらの中でもエキシマを形成し得るピレン、ナフタレンが好ましく、ピレンがより好ましい。
置換位置を含めた発色団の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【化8】

【0023】
好適な2置換修飾デキストリンとしては、下記式(3)〜(5)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化9】

(式中、CyD、C1およびC2は、上記と同じ意味を表す。mおよびnは1〜10の整数を表し、m+n≦19を満足し、oおよびpは1〜10の整数を表し、o+p≦19を満足する。)
【0025】
本発明の2置換修飾デキストリンは、公知の有機合成反応を用いて製造することができ、その製造法に制限はない。
デキストリンの1級水酸基への修飾は、例えば、下記スキームに示されるように、これをトシル化することで行うことができる。
【0026】
【化10】

【0027】
この場合、p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)の使用量は、CyD1当量に対して、2〜10当量程度である。
反応溶媒としては、アミン溶媒が好適であり、例えば、ピリジン等を用いることができる。
反応温度は、0〜50℃程度であり、反応時間は、0.1〜10時間程度である。
反応終了後は、水酸化ナトリウム等の塩基で中和し、アセトン等の有機溶媒によって沈殿させることで粗生成物が得られる。
得られた粗生成物は、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー法等によって精製することができる。
【0028】
上記トシル化されたCyDは、トシル基の脱離性を利用した置換反応によって、所望の側鎖を導入することができる。
例えば、下記スキームに示されるように、メルカプト酢酸と反応させることで、チオ酢酸で置換されたCyDを得ることができる。
【化11】

【0029】
この場合、メルカプト酢酸の使用量は、トシル化CyD1当量に対して、2〜10当量程度とすることができる。
反応の際には塩基を用いることが好ましく、その具体例としては、炭酸ナトリウム等が挙げられる。塩基の使用量は、CyD1当量に対して、2〜20当量程度とすることができる。
反応溶媒は、特に限定されるものではないが、DMFが好ましい。
反応温度は、0〜100℃程度であるが、50〜100℃程度が好ましい。
反応時間は、1〜240時間程度である。
反応終了後は、溶媒留去後、塩酸等で中和し、アセトン等の有機溶媒で沈殿させることで、粗生成物が得られる。
得られた粗生成物は、ゲル濾過法等によって精製することができる。
【0030】
上記チオ酢酸基を有するCyDは、発色団を有するアミンやアルコールと縮合させ、アミド結合やエステル結合を形成させることで、発色団を有するCyDとすることができる。
例えば、下記スキームに示されるように、8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミンと縮合させてアミド結合を形成させることで、発色団としてピレンを有するCyDが得られる。
【0031】
【化12】

【0032】
この場合、発色団を有するアミンの使用量は、CyD1当量に対して、2〜10当量程度とすることができるが、2〜5当量程度が好ましい。
また、反応の際には、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド等の公知の脱水縮合剤を用いることもできる。縮合剤の使用量は、CyDに対して、2〜10当量程度とすることができる。
反応溶媒としては、特に限定されるものではないが、DMFを用いることが好ましい。
反応温度は、0〜100℃程度である。
反応時間は、1〜240時間程度である。
反応終了後は、溶媒を留去し、アセトン等の有機溶媒で沈殿させることで、粗生成物が得られる。
得られた粗生成物は、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー法等によって精製することができる。
【0033】
なお、発色団を有するアミンの合成法としても、特に限定されるものではなく、例えば、上記8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミンは、1−ピレンメタノールを、塩基の存在下で1,2−ビス(2−クロロエトキシ)エタンと反応させて得られた8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−クロライドをフタルイミド化し、さらにこれを還元する方法などによって製造することができる。
また、以上の説明では、CyD側のカルボキシル基と、発色団側のアミノ基とを反応させていたが、この逆でもよい。
さらに、発色団を有するアルコールを用いる場合は、酸や塩基を触媒とした公知のエステル化法を用いればよい。
【0034】
以上説明した本発明の2置換修飾シクロデキストリンは、2本鎖DNAと選択的に相互作用し、その蛍光スペクトルが増大されるため、2本鎖DNAと1本鎖DNAとを高精度に識別することができる。
したがって、本発明の2置換修飾デキストリンは、DNAチップ用試薬等の核酸検出のための標識として好適に用いることができ、例えば、基材上に検体核酸または核酸プローブを固定化してアレイを作製する第1工程と、この第1工程で得られたアレイを用いて検体核酸および核酸プローブをハイブリダイズして2本鎖核酸を調製する第2工程と、この第2工程で得られた2本鎖核酸を、本発明の2置換修飾シクロデキストリンで処理する第3工程と、を備えるような核酸検出方法などに好適に用いることができる。
【0035】
ここで、検体核酸とは、検出対象となる核酸を、核酸プローブとは、検体核酸とハイブリダイズし得る核酸をいう。
核酸プローブは、合成されたDNAを用いても、mRNAから逆転写されたcDNAを用いてもよい。DNAの合成は、核酸自動合成機によって行うことができる。
核酸プローブの塩基配列は、検体核酸とハイブリダイズし得るものであれば、検体核酸の塩基配列の完全相補配列に対して数塩基が挿入された配列や、完全相補配列の数塩基が変異および欠失した配列であってもよいが、検出精度を考慮すると、完全相補配列が望ましい。
【0036】
核酸プローブの塩基数は、検出する塩基配列によって変わるものであるため、一概に規定することはできないが、生体から抽出されたゲノムDNAの一塩基レベルの変異を検出することを目的とする場合には、約10〜30塩基、特に、12〜26塩基が好適である。
【0037】
一方、検体核酸は、血液、唾液、毛髪などの生体試料から抽出されたゲノムDNAを用いることができる。抽出法としては、例えば、フェノール抽出法、グアニジンチオシアネート抽出法、バナジルリボヌクレオシド複合抽出法などが挙げられる。
また、ゲノムDNAは、PCR法、LAMP法、ICAN法などの公知の方法によって、検出すべき特定の塩基配列が増幅されたものであってもよい。
【0038】
上記基材としては、検体核酸または核酸プローブ(以下、併せて核酸ということもある)を固定化し得る材料であればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ニトロセルロース等の有機材料;ガラス、シリカ等の無機材料;金、銀、銅等の金属材料などが挙げられる。これらの中でも、成形加工が容易であることから有機材料が好ましく、特に、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミドが好ましい。
基材の形状も任意であり、板状、フィルム状、チューブ状等適宜な形状とすることができる。
【0039】
核酸を基材に固定化する手法は、物理的手法でも化学的手法でもよい。
物理的手法としては、核酸溶液を基材にスポッティングする方法が挙げられる。スポッティング法としては、ディスペンサなどを用いた押出法、クーロン力を用いた吸引法、インクジェット法などが挙げられる。
この場合、核酸プローブに無関係な塩基配列を付加し、UV照射によって基材への核酸プローブへの固定化率を向上させてもよい。核酸プローブに無関係な塩基配列としては、ポリアデニン、ポリシトシン、ポリチミン、ポリグアニン等などが挙げられる。
【0040】
また、基材を表面処理して、核酸の固定化率を向上させてもよい。
表面処理法としては、ポリリジンなどのポリカチオン性の高分子で基材表面を被覆する方法、シランカップリング剤で無機基材表面を処理する方法、アミノ基を有するチオールやジスルフィド化合物で金属基材表面を処理する方法などが挙げられる。
【0041】
一方、化学的手法としては、核酸プローブを、基材と共有結合可能な官能基で修飾する方法や、核酸プローブおよび基材の双方を、それぞれ共有結合可能な官能基で修飾する方法などが挙げられる。
その具体例としては、(1)核酸プローブを、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等のシランカップリング反応が可能な官能基で修飾する方法、(2)基材を、アミノエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤で処理し、一方、核酸プローブをカルボキシル基で修飾する方法などが挙げられる。
【0042】
なお、核酸を固定化する前に、核酸の固定化量を増大させる目的で、基材をプラズマ処理してもよい。このプラズマ処理は、コロナ放電、アーク放電、グロー放電等を用いて行うことができる。
【0043】
以上の方法で作製したアレイを用いて検体核酸と核酸プローブとをハイブリダイズする。
ハイブリダイズ法としては、特に限定されるものではなく、一般的な手法を用いればよい。
その具体例としては、核酸プローブまたは検体核酸を固定化したアレイを、検体核酸の溶液または核酸プローブの溶液に浸漬する方法が挙げられる。ハイブリダイズの温度条件は、用いるDNAプローブの熱変性温度を考慮し、適宜設定すればよい。
なお、未反応の核酸は、洗浄によって容易に除去することができる。
【0044】
以上の方法でハイブリダイズして調製した2本鎖核酸を、本発明の2置換修飾シクロデキストリンで処理し、その蛍光スペクトルの変化を検出する。
2置換修飾シクロデキストリンでの処理方法は特に限定されるものではなく、2置換修飾シクロデキストリンの溶液に核酸を適宜な濃度で添加しても、その逆でもよい。この際、溶媒としては、2置換修飾シクロデキストリンおよび核酸が溶解するものであれば特に制限はないが、本発明においては、DMSO−水の混合溶媒を好適に用いることができる。DMSOの濃度は、1〜30体積%程度が好ましい。
【0045】
以上の処理によって、本発明の2置換修飾シクロデキストリンと2本鎖核酸とが相互作用をし、その結果、検出される蛍光スペクトルに変化が生じる。
具体的には、後述の実施例で詳細に述べるとおり、2置換修飾シクロデキストリンと2本鎖核酸との相互作用によって、シクロデキストリンが有する蛍光性発色団のモノマー蛍光の強度が増加し、また、蛍光性発色団がエキシマを形成し得るものである場合、それと同時にエキシマ蛍光の強度も増加するが、この現象は1本鎖核酸の場合には観察されない。
この現象の違いによって、2本鎖核酸と1本鎖核酸とを高精度に検出、同定することができる。
【0046】
なお、上記相互作用は、シクロデキストリンの有する蛍光性発色団が、2本鎖DNAにインターカレートするものであると推測される。
このインターカレートの態様は、置換している蛍光性発色団によってはエキシマ蛍光の増加が確認されることから、1つの蛍光性発色団が2本鎖核酸にインターカレートし、その外側からもう1つの蛍光性発色団がインターカレートしている発色団を固定化しているもの、または、2つの蛍光性発色団へ2本鎖核酸の1つの塩基対間に挿入しているものが考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、合成例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例にて使用した分析装置および条件は、下記のとおりである。
[1]1H NMRおよび13C NMR
装置:ブルカー:BURUKER-SPECTROSPIN 300
測定溶媒:DMSO−d6
基準物質:テトラメチルシラン
[2]IR
装置:パーキンエルマー:FT-IR Spectrometer SPECTRUM 2000
[3]FAB−MS
装置:日本電子(JEOL):JMS-700
[4]元素分析
装置:ヤナコ分析工業(株):CHNコーダー
[5]蛍光スペクトル
装置:蛍光光度計 Perkin-Elmer LS 40B Fluorescence Spectrophotometer
セル:標準角型蛍光セル(2500μL)
測定条件:Start wavelength:300nm,End wavelength:600nm,Excitation wavelength:343.0nm、Excitation slit:5nm,Emission slit:5nm,Scan speed:100nm/min.
[6]CDスペクトル
装置:日本分光(JASCO):J-720 spectrophotometer
【0048】
[合成例1]8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−クロライドの合成
【化13】

【0049】
1−ピレンメタノール(1.03g,4.42mmol)、1,2−ビス(2−クロロエトキシ)エタン(4.86g,26.1mmol)をdry−THF50mLに溶解後、ナトリウムヒドリド(1.65g,43.2mmol)を加え、加熱環流下で6時間反応させた。反応追跡はTLC(n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1(v/v),TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、メタノールを少量加えてナトリウムヒドリドを分解し、溶媒を留去後、水を加え、クロロホルムで3回抽出した。有機相を水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮後、60℃で一晩減圧乾燥し、黄色のオイル状の粗生成物4.45gを回収した。
粗生成物を少量のクロロホルムに溶解させ、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。展開溶媒はn−ヘキサン−酢酸エチルを用い、徐々に酢酸エチルの比率を上げ、およそ酢酸エチル26〜32vol%の溶出物を回収して濃縮後、60℃で減圧乾燥して黄色のオイル状の目的物0.86g(収率;51.1%)を得た。
【0050】
Rf =0.71(n-hexane: ethyl acetate = 1:1, TLC; silica gel 60F254)
1H NMR (300 MHz, CDCl3)
δ= 3.5-3.8(12H, m, -OCH2CH2O-),5.2-5.3(2H, s, CH2 of pyrenemethoxy),7.9-8.4(9H, m, aromatic H of pyrene).
13C NMR (75 MHz, CDCl3)
δ= 41-45(1C,t,-CCl),67-74(6C, m, -OCH2-),122-132(16C, m, aromatic C of pyrene).
IR(KBr) ν 3041.4(aryl-H), 2865.2(C-H), 1588.6(C=C), 1108.9(C-O-C), 682.3(C-Cl)cm-1.
FAB-MS(m/z);382.2[M]+
【0051】
[合成例2]8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミン−フタルイミドの合成
【化14】

【0052】
合成例1で得られた8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−クロライド(0.85g,2.2mmol)、フタルイミドカリウム(1.07g,5.78mmol)を、dry−DMF15mLに溶解し、90℃で6時間反応させた。反応追跡はTLC(n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1(v/v),TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、溶媒を留去し、水を加え、クロロホルムで3回抽出した。有機相を0.2M水酸化ナトリウム水溶液および水で順次洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮後、60℃で一晩減圧乾燥し、黄色のオイル状の粗生成物0.98gを回収した。
粗生成物を少量のクロロホルムに溶解させ、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。展開溶媒はn−ヘキサン−酢酸エチルを用い、徐々に酢酸エチルの比率を上げ、およそ酢酸エチル30〜55vol%の溶出物を回収し、濃縮後、60℃で減圧乾燥して黄色オイル状の目的物0.45g(収率;41.6%)を得た。
【0053】
Rf =0.39(n-hexane: ethyl acetate=1:1, TLC; silica gel 60F254)
1H NMR (300MHz, CDCl3)
δ= 3.6-3.9(12H, m, -OCH2CH2O-), 5.2-5.3(2H, s, CH2 of pyrenemethoxy), 7.4-7.8(4H, m, aromatic H of phthalimide), 7.9-8.4(9H, m, aromatic H of pyrene).
13C NMR (75MHz, CDCl3)
δ= 35-40(1C, t, -CN), 65-74(6C, m, -OCH2-), 121-135(22C, m, aromatic C of pyrene and phthalimide), 168-169(2C, s, C=O).
IR(KBr) ν 3042.3(aryl-H), 2865.5(C-H), 1772.8(C=O), 1707.6(C=O), 1603.4(C=C), 1106.2(C-O-C)cm-1.
FAB-MS(m/z);493.3[M]+
【0054】
[合成例3]8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミンの合成
【化15】

【0055】
合成例2で得られた8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミン−フタルイミド(1.76g,3.57mmol)をアセトン75mLに溶解後、80%ヒドラジン一水和物75mLを加え、加熱環流下で1時間反応させた。反応追跡はTLC(アセトン:アンモニア水(28%)=20:1(v/v),TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、1M塩酸で中和後、溶媒を留去し、1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで3回抽出した。有機相を1M水酸化ナトリウム水溶液および水で順次洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮後、60℃で一晩減圧乾燥し、黄色オイル状の目的物1.06g(収率;81.3%)を回収した。
【0056】
Rf =0.61[acetone:ammoniaaq(28%)=20:1,TLC; silica gel 60F254]
1H NMR (300 MHz, CDCl3)
δ= 1.5-1.7(2H, s, NH2), 2.7-2.9(2H, t, -CH2N), 3.4-3.8(10H, m, -CH2OCH2-), 5.2-5.3(2H, s, CH2 of pyrenemethoxy), 7.9-8.5(9H, m, aromatic H of pyrene).
13C NMR (75 MHz, CDCl3)
δ= 39-44(1C, t, -CN), 67-74(6C, m, -OCH2-), 122-132(16C, m, aromatic C of pyrene ).
IR(KBr) ν 3397.2(NH), 3040.9(aryl-H), 1587.5(C=C), 1090.1(C-O-C)cm-1.
Calcd. for 3C23H25NO3・H2O: C;74.76, H;7.01, N;3.79%.;Found: C;74.89, H;6.83, N;3.64%.
FAB-MS(m/z);364.2[M+H]+
【0057】
[合成例4]ジ−6A,6E−p−トルエンスルホニルオキシ−γ−CyDの合成
【化16】

【0058】
γ−CyD(5.0960g,3.93mmol)を、ピリジン100mLに完全に溶解させ、p−トルエンスルホニルクロリド(4.7101g,24.7mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応追跡は、TLC(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(v/v/v),TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、ある程度溶媒を留去し、1M水酸化ナトリウム水溶液で中和し、アセトン500mLで再沈した。沈殿物を吸引濾過し、30℃で減圧乾燥後、白色結晶の粗生成物9.7270gを回収した。
粗生成物をdry−DMF30mLに溶解させ、不溶解物を桐山ロート((有)桐山製作所製)で濾過し、濾液を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Lobar column LiChroprep RP−18,メルク製,310mm×10mm)で精製した。展開溶媒はメタノール−水を用い、徐々にメタノールの比率を上げ、メタノール40%の溶出物を回収した。濃縮後、アセトンを加えて結晶化し、沈殿物を吸引濾過後、30℃で減圧乾燥して白色結晶の目的物0.2040g(収率;3.23%)を得た。
【0059】
Rf=0.58(1-butanol: ethanol: water=5:4:3, TLC; silica gel 60F254)
1H NMR (300MHz, DMSO-d6)
δ= 4.5-4.6(6H, w, C1H of CyD), 5.7-5.9(16H, s, OH of C2 and C3 of CyD), 7.4-7.5(4H, d, aromatic H of benzene), 7.7-7.8(4H, d, aromatic H of benzene).
【0060】
[合成例5]ジ−6A,6E−デオキシ−6A,6E−チオ酢酸−γ−CyDの合成
【化17】

【0061】
合成例4で得られたジ−6A,6E−p−トルエンスルホニルオキシ−γ−CyD(0.2040g,0.13mmol)、メルカプト酢酸(0.0623g,0.66mmol)を、dry−DMF15mLに溶解後、炭酸ナトリウム(0.1467g,1.38mmol)を溶解した水3.8mLを滴下し、70℃で4日間反応させた。反応追跡はTLC(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(v/v/v),TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、溶媒を留去し、水を少量加えて炭酸ナトリウムを溶解後、1M塩酸で中和した。濃縮後、アセトン300mLで再沈した。沈殿物を吸引濾過し、60℃で減圧乾燥後、白色結晶の粗生成物0.3295gを回収した。
粗生成物を少量の水に溶解させ、セファデックスG−15のオープンカラム(100cm×1.8cm)で精製した。溶出溶媒は水を用いた。目的の溶出物を回収し、濃縮後、アセトンを加えて結晶化した。沈殿物を吸引濾過後、60℃で減圧乾燥して白色結晶の目的物0.1266g(収率;68.7%)を得た。
【0062】
Rf =0.33(1-BuOH :EtOH :H2O=5:4:3,TLC; silica gel 60F254)
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6)
δ= 4.7-5.0(8H, w, C1H of CyD), 5.5-5.9(16H, s, OH of C2 and C3 of CyD).
IR(KBr) ν 3430.4(O-H), 2934.8(C-H), 1635.4(C=O), 1029.6(C-O-C)cm-1.
【0063】
[実施例1]ジ−6A,6E−デオキシ−6A,6E−[{8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミノ}−(チオアセチル)]−γ−CyDの合成
【化18】

【0064】
合成例5で得られたジ−6A,6E−デオキシ−6A,6E−チオ酢酸−γ−CyD(0.1479g,0.10mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1−HOBt,0.0626g,0.46mmol)を、dry−DMF15mLに溶解した。この溶液を窒素気流下で0℃に冷却後、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC,0.0879g,0.42mmol)を加えた。2時間反応後、合成例3で得られた8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミン(0.1646g,0.45mmol)を加えた。30分後、徐々に室温に戻して1日反応させた後、熱をかけ(81.2℃)、3日間反応させた。反応追跡はTLC(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3,TLC;シリカゲル 60F254)を用いた。
反応終了後、溶媒を留去し、アセトン200mLで再沈した。沈殿物を吸引濾過し、60℃で減圧乾燥後、白色結晶の粗生成物0.1628gを回収した。
粗生成物を少量のdry−DMFと水に溶解させ、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Lobar column LiChroprep RP−18,メルク製,310mm×10mm)で精製した。展開溶媒はメタノール−水を用い、徐々にメタノールの比率を上げ、メタノール80〜100vol%の溶出物を回収した。濃縮後、アセトンを加えて結晶化した。沈殿物を吸引濾過後、60℃で減圧乾燥して白色結晶の目的物0.0134g(yield;6.14%)を得た。
【0065】
Rf =0.56(1-BuOH: EtOH: H2O=5:4:3,TLC;silica gel 60F254)
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6)
δ =4.5-4.7(6H, m, OH of C6 of CyD), 4.8-5.0(8H, d, H of C1 of CyD), 5.1-5.3(2H, s, CH2 of pyrenemethoxy), 5.8-6.2(16H, s, OH of C2 and C3 of CyD), 7.9-8.0(2H, t, H of amide), 8.0-8.5(18H, m, aromatic H of pyrene).
IR(KBr) ν 3423.5(O-H), 2923.5(C-H), 1655.1(C=C), 1634.9(C=O), 1029.8(C-O)cm-1.
【0066】
[実施例2]蛍光スペクトル測定
以下の全ての手順において、溶媒には10%DMSO水溶液を用いた。
〈dsDNAとの相互作用〉
実施例1で得られたジ−6A,6E−デオキシ−6A,6E−[{8−(1−ピレンメトキシ)−3,6−(ジオキサ)オクタ−1−アミノ}−(チオアセチル)]−γ−CyD(以下、2置換ピレン修飾γ−CyDという)を、濃度3×10-7Mとなるように調整した。
そこへ、市販のdsDNA(200Mer)を溶媒にて所定濃度に調整したものを、蛍光セル中でDNA濃度が0,0.9375×10-10,1.875×10-10,3.75×10-10,7.5×10-10,15×10-10,30×10-10,60×10-10,120×10-10,250×10-10Mとなるように加え、蛍光スペクトルの測定を行った。結果を図1に示す。
【0067】
〈ssDNAとの相互作用〉
実施例1で得られた2置換ピレン修飾γ−CyDを、濃度3×10-7Mとなるように調整した。
そこへ、市販のssDNA(40Mer)を溶媒にて所定濃度に調整したものを、蛍光セル中で、DNA濃度が0,4.6875×10-10,9.375×10-10,18.75×10-10,37.5×10-10,75×10-10,150×10-10,300×10-10,600×10-10,1200×10-10Mとなるように加え、蛍光スペクトルの測定を行った。結果を図2に示す。
【0068】
図1に示されるように、2置換ピレン修飾γ−CyDにdsDNAを添加した場合、ピレンのモノマー蛍光(377nm)およびエキシマ蛍光(479nm)の強度が、それぞれ増加していることがわかる。
なお、蛍光強度増加の度合いは、dsDNAを7.5×10-10M添加するまで急激に増加し、その後、さらにdsDNAを添加しても蛍光強度はほぼ変化しなかった。
一方、図2に示されるように、ssDNAを添加しても、2置換ピレン修飾γ−CyDの蛍光強度は増加していないことがわかる。
これは、dsDNAを添加した場合には、2置換ピレン修飾γ−CyDのピレン部位がdsDNAの疎水性の塩基対間に挿入され、10%DMSO水溶液中よりも安定な状態となったため、蛍光強度が増加したと考えられる。
【0069】
2置換ピレン修飾γ−CyDのdsDNAへのインターカレートの態様は、上述のように、ピレンのエキシマ蛍光の増加が確認されたことから、図3に示されるように、片方のピレンがdsDNAにインターカレートし、外側からもう片方のピレンがインターカレートしているピレンを固定化している、または、図4に示されるように、2つのピレンが1つの塩基対間へ挿入しているものと推察される。
【0070】
また、2置換ピレン修飾γ−CyD(3.0×10-5M,10%DMSO水溶液で希釈)に、CyD空孔に包接され易い、アダマンタンカルボン酸ナトリウム(48×10-5M,10%DMSO水溶液で希釈)を添加し、CDスペクトルを測定したところ、図5に示されるように、スペクトルに大きな変化はみられなかった。
これより、2置換ピレン修飾γ−CyDは10%DMSO水溶液中では自己包接していないことがわかる。
以上説明したとおり、2置換ピレン修飾γ−CyDを用いることによって、dsDNA、ssDNAを高精度に識別でき、核酸の検出に好適に利用できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されることを特徴とする2置換修飾シクロデキストリン。
【化1】


(式中、CyDは、α−、β−またはγ−シクロデキストリン骨格を、
1およびA2は、互いに独立して、エーテル結合またはチオエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基を、
1およびB2は、互いに独立して、単結合、−C(O)−、−C(O)NH−、−NHC(O)−、−C(O)O−または−OC(O)−を、
1およびC2は、互いに独立して、エーテル結合を含む炭素数1〜20のアルキレン基を、
1およびX2は、互いに独立して、蛍光性発色団を表す。)
【請求項2】
前記蛍光性発色団が、ピレン、ナフタレン、ダンシルグリシン、アントラセンおよびローダミンBから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【請求項3】
前記蛍光性発色団が、エキシマ蛍光性発色団である請求項1記載の2置換修飾デキストリン。
【請求項4】
前記エキシマ蛍光性発色団が、ピレンおよびナフタレンから選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の2置換修飾デキストリン。
【請求項5】
式(2)で示されることを特徴とする請求項1記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【化2】


(式中、CyD、A1、A2、B1、B2、C1およびC2は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項6】
式(3)で示される請求項5記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【化3】


(式中、CyD、C1およびC2は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項7】
式(4)で示される請求項6記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【化4】


(式中、mおよびnは1〜10の整数を表し、m+n≦19を満足し、oおよびpは1〜10の整数を表し、o+p≦19を満足する。CyDは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項8】
式(5)で示される請求項7記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【化5】


(式中、CyDは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項9】
前記CyDが、γ−シクロデキストリン骨格である請求項1〜8のいずれか1項記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【請求項10】
AE2置換体である請求項8記載の2置換修飾シクロデキストリン。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の2置換修飾シクロデキストリンを用いることを特徴とする核酸検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275408(P2010−275408A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128563(P2009−128563)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】