説明

2部材の締結構造及びそれを用いた流体フィルタ

【課題】締め付け時よりも高温になっても前記螺合が緩んで軸力が低下するのを防止することができ、常に強固な締結状態を維持することができる2部材の締結構造及びそれを用いた流体フィルタを提供することを課題とする。
【解決手段】本2部材の締結構造は、熱膨張率が大きい一方の部材2は、その螺合部2aの先端側に当接部2cを備え、熱膨張率が小さい他方の部材3は、螺合部と螺合する被螺合部3aの基端側に、当接部が当接する被当接部3dを備えることを特徴とする。このような締結構造は、高温になる程、強く熱膨張率の小さい部材の被螺合部と被当接部とによってより強く挟み込まれて圧迫されることとなる。その結果、2つの部材間の締付力が増大し、軸力が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルフィルタ等の流体フィルタのケーシングを構成する金属製のベース及び合成樹脂製のキャップ等、熱膨張率の異なる2つの部材を相対回転による螺合により締結する2部材の締結構造及びそれを用いた流体フィルタに関する。更に詳しくは、締め付け時よりも高温になっても前記螺合が緩んで軸力が低下するのを防止することができ、常に強固な締結状態を維持することができる2部材の締結構造及びそれを用いた流体フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オイルフィルタ等において材質が互いに異なるベースとキャップとを螺合によって組み付けてケーシングを形成する等、熱膨張率の異なる2つの部材を螺合によって締結して組み付けることが行われている。従来のケーシング4を備えたオイルフィルタ21は、図4に示すように、相対回転により互いに螺合可能な合成樹脂製で有底円筒状のキャップ2とアルミニウム合金製のベース3とからなるケーシング4を備えている。前記キャップ2の外周面には、雄ネジ部2bからなる螺合部2aが形成され、且つOリング5が装着されている。また、前記ベース3の内周面には雌ネジ部3bからなる被螺合部3aが形成されている。これら螺合部2aと被螺合部3aとを螺合させ、Oリング5を介してキャップ2及びベース3を螺合させると、ケーシング4の内部が液密に保持されるようになっている。
【0003】
また、ベース3の底部には、ケーシング4の内部のオイルを排出する油路パイプ部9及びケーシング4の内部にオイルを流入させる流入口10が設けられている。キャップ2の内部には、多数の透孔6を有する円筒形状のプロテクタ13が設けられており、このプロテクタ13の外周にはフィルタエレメント11が装着されている。プロテクタ13のバネ受け部14の上部にはプロテクタ13をベース3側に付勢しているコイルスプリングからなるサポートスプリング7が設けられている。
【0004】
前記のように構成されたオイルフィルタ21において、ケーシング4は、一般に、常温下で、ベース3の被螺合部3aの雌ネジ部3bにキャップ2の螺合部2aの雄ネジ部2bを螺合して組み付けられる。組付後は、ベース3の被螺合部3aは、図5に示すように、ベース3の先端部の端面3eが当接するキャップ2のフランジ2dと該キャップ2の螺合部2aとによって挟み込まれ、圧迫されて軸方向の圧迫力である軸力Pが発生する。これにより、キャップ2とベース3とは強固に締め付けられることによって締結される(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−160159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のオイルフィルタ21は、車両走行等のエンジン使用時には高温となるため、キャップ2及びベース3は熱膨張する。ここで、前述のように、キャップ2及びベース3は異なる材質の素材が使用されており、合成樹脂からなるキャップ2はアルミニウム合金からなるベース3より熱膨張率が大きい。このため、高温下において、キャップ2の雄ネジ部2bからなる螺合部2aは、図6に示すように、ベース3の雌ネジ部3bからなる被螺合部3aより大きく伸張し、ベース3の先端部の端面3eとキャップ2のフランジ2dとの当接位置V2を起点として、ベース3の被螺合部3aに対して相対的に軸方向、即ち高温下の締結状態を示す図6における垂直下方に伸びることとなる。その結果、キャップ2の螺合部2aとベース3の被螺合部3aとの間の締付力は減少し、図6で示す軸力P’’が締め付け時よりも低下する傾向にあった。
【0007】
そこで、本発明は、螺合によって組み付けられた後、締め付け時よりも高温になっても前記螺合が緩んで軸力が低下するのを防止することができ、常に強固な締結状態を維持することができる2部材の締結構造及びそれを用いた流体フィルタの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
1.熱膨張率の異なる2つの部材を相対回転による螺合により締結する2部材の締結構造であって、熱膨張率が大きい一方の部材は、その螺合部の先端側に当接部を備え、熱膨張率が小さい他方の部材は、前記螺合部と螺合する被螺合部の基端側に、前記一方の部材の前記当接部が当接する被当接部を備え、前記被当接部及び前記被螺合部は、前記螺合に伴って前記螺合部を軸方向に挟み込んで圧迫することによって軸力を発生させることを特徴とする2部材の締結構造。
2.前記一方の部材は、合成樹脂材からなり、前記他方の部材は、金属材からなることを特徴とする前記1.に記載の2部材の締結構造。
3.前記一方の部材は、2分割体からなるケーシング内にフィルタエレメントを収容してなる流体フィルタの該ケーシングの一方を構成するキャップであり、前記他方の部材は、前記流体フィルタのケーシングの他方を構成するベースであることを特徴とする前記1.又は前記2.に記載の2部材の締結構造。
4.フィルタエレメントと、前記フィルタエレメントを支持するプロテクタと、前記フィルタエレメント及び前記プロテクタを収容すると共に相対回転により互いに螺合可能なキャップ及びケーシングと、を備える流体フィルタであって、前記キャップ及び前記ベースは、前記1.乃至3のいずれか1項記載に記載の締結構造を備えることを特徴とする流体フィルタ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の2部材の締結構造によれば、熱膨張率が大きい一方の部材に先端側に当接部を具備する螺合部を備え、熱膨張率が小さい他方の部材に基端側に前記当接部が当接する被当接部を具備する被螺合部を備えるため、前記被当接部及び該被螺合部は、前記螺合に伴って前記螺合部を軸方向に挟み込んで圧迫し、それによって軸力を発生させることができる。組み付けられた2部材が組み付け時よりも高温下におかれたとき、熱膨張率の大きい部材の螺合部が熱膨張率の小さい部材の被螺合部に対して相対的に伸張しようとしても、熱膨張率の小さい部材の被螺合部と被当接部とによってその自由伸張が妨げられる。そのため、螺合部は、高温になる程、強く熱膨張率の小さい部材の被螺合部と被当接部とによってより強く挟み込まれて圧迫されることとなる。その結果、2つの部材間の締付力が増大し、軸力が大きくなる。したがって、一般に常温下で熱膨張率の異なる2部材が螺合によって組み付けられた後、組み付け時より高温下におかれても、2つの部材間の締付力が減少したり、軸力が低下したりすることがなく、2部材間において常に強固な締結状態を維持することができる。
【0010】
また、熱膨張率の大きい部材が合成樹脂材からなり、熱膨張率の小さい部材が金属材からなる場合は、一方の部材について、合成樹脂材による効果即ち軽量で製造コストが安価である等の効果を享受でき、他方の部材について、金属材による効果即ち強度、剛性が大きい等の効果を享受できる。
更に、2部材の一方が流体フィルタのケーシングの一方を構成するキャップであり、他方が、前記流体フィルタのベースである場合は、使用時に高温となる車両等のエンジンルーム内に配設される流体フィルタにおいて、キャップとベースとを常に強固な締結状態に維持することができる。
【0011】
本流体フィルタは、本締結構造を備えることによって、組み付けられた後、組み付け時より高温下におかれても、キャップ及びベース間の締付力が減少したり、軸力が低下したりすることがなく、キャップ及びベース間において常に強固な締結状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る2部材の締結構造は、熱膨張率の異なる2つの部材を相対回転による互いに螺合により締結する2部材の締結構造であって、図1及び2に例示するように、熱膨張率が大きい一方の部材2は、その螺合部2aの先端側に当接部2cを備え、熱膨張率が小さい他方の部材3は、螺合部2aと螺合する被螺合部3aの基端側に、一方の部材の当接部2cが当接する被当接部3dを備えることを特徴とする。
【0013】
本締結構造は、熱膨張率が異なる2つの部材を相対回転による互いに螺合により締結する2部材の締結構造であれば任意に適用することができ、特に、温度差が生じる場所で使う締結構造に好適に用いることができる。
例えば内燃機関のタンク及び容器類のキャップ部分、具体的には、流体フィルタにおけるキャップ及びベース、並びにケーシング及びドレンキャップ等の螺合部分を挙げることができる。また、配線をベース外に延出する孔に設けられる該配線を保護するブッシュ、並びにオイルタンク及び燃料タンク等のベース及びキャップ等の螺合部分を挙げることができる。更に、暖房器具の燃料タンク等のベース及びキャップ等の螺合部分、断熱材でできたクーラボックスとその排水孔に設けられるキャップとの螺合部分等を例示することができる。特に、使用時に高温となる流体フィルタのキャップ及びベースの螺合部分に好適に適用することができる。本締結構造は、組み付け時より高温下におかれても、2つの部材間の締付力が減少したり、軸力が低下したりすることがなく、2部材間において常に強固な締結状態を維持することができるからである。
【0014】
前記「軸力」とは、相対回転による螺合によって締結される2つの部材の軸方向に発生し、2つの部材を締結する圧迫力及び引張力である。
前記「2つの部材」は、互いに熱膨張率が異なり、相対回転による螺合により締結されるものである限り、その材質、形状、使用箇所等は特に問われるものではない。材質としては、アルミニウム合金等の金属材、ポリアミド樹脂等の合成樹脂材、セラミックス等各種素材が適用される。尚、合成樹脂材の場合は、部材の剛性を高めるため、必要に応じてガラス繊維、グラスウール、炭素繊維等の補強材を加えたものが使用されることがある。互いに熱膨張率が異なる態様としては、例えば、一方の部材が合成樹脂製、他方の部材が金属製であるものを挙げることができ、また、同一の合成樹脂材内、同一の金属材内においても、その素材性状が互いに相違するものを挙げることができる。
【0015】
前記一方の部材の「螺合部」は、雄ネジ又は雌ネジで形成される。また、他方の部材の「被螺合部」は、相対回転によりこの螺合部と螺合可能な雌ネジ又は雄ネジで形成されてなる。尚、前記螺合部及び被螺合部は、雄ネジ及び雌ネジのネジ構造に限られるものではなく、例えば、螺旋状の溝部と凸部とで形成され、互いに螺旋状に嵌合し、螺合可能な形態のものであってもよい。更に、これらの「螺合部」及び「被螺合部」は、単に雄ネジ又は雌ネジが形成されている部分のみを意味するのではなく、およそ2つの部材が相対回転による螺合に係わる部分を意味する。
【0016】
前記「当接部」は、熱膨張率の大きい部材の螺合部の先端部に備えられ、一般には前記先端部の端面で形成される。
前記「被当接部」は、熱膨張率の小さい部材の被螺合部の基端側に備えられ、環状に突出するフランジや円形底面等の形態で形成される。
【0017】
本発明を従来のものと比較すれば、図4〜6に示す従来の2部材の締結構造では、熱膨張率の小さい部材の先端側に当接部を備え、熱膨張率の大きい部材の基端側に前記熱膨張率の小さい部材の被螺合部を挟んで圧迫する被当接部を備え、これらの当接部と被当接部との当接面が2部材の熱膨張の起点となっているのに対し、本発明の2部材の締結構造では、逆に、熱膨張率の大きい部材の先端側に当接部を備え、熱膨張率の小さい部材の基端側に前記熱膨張率の大きい部材の螺合部を挟んで圧迫する被当接部を備え、これらの当接部と被当接部との当接面が2部材の熱膨張の起点となっており、当接部と被当接部とが反対側の部材に備えられている点において両者は相違する。
【0018】
また、上記「合成樹脂材」として任意に選択することができるが、例えば、ガラス繊維等の補強繊維を添加したポリアミド樹脂等を挙げることができる。
更に、上記「金属材」も任意に選択することができるが、例えば、アルミニウム合金及び鋼鉄を挙げることができる。このうち、アルミニウム合金が軽量であるため好適に用いることができる。
【0019】
本流体フィルタ1は、オイル及び水等の任意の流体のフィルタであり、図1に例示するように、フィルタエレメント11と、フィルタエレメント11を支持するプロテクタ13と、フィルタエレメント11及びプロテクタ13を収容すると共に相対回転により互いに螺合可能なキャップ2及びベース3と、を備え、キャップ2及びベース3は、本発明の締結構造を備えることを特徴とする。
前記「キャップ2」は、ベース3と係合されてフィルタエレメント11及びプロテクタ13を収容するケーシング4を構成する限り、その形状等は特に問わない。
前記「ベース3」は、通常、外部からケーシング4内に流体を流入させるための流入路10、及び外部に流体を流出するための流出路9が形成されている。
キャップ2及びベース3の材質は、熱膨張率の異なる材質であれば任意に選択することができる。このうち、キャップ2が雄ネジであり、ベース3が雌ネジである場合、キャップ2が合成樹脂材であり、且つベース3が金属材からなることを好適として挙げることができる。
前記「フィルタエレメント11」は、外周側から中心軸部へ流体を通過させることによってろ過するための部材であり、材質及び構造を特に限定しない。また、フィルタエレメントは筒状体であるが、外周側と内周側の形状が相似であってもよいし異なっていてもよい。更に、中心軸部の一端面が開口していればよく、他端面は開口してもよいし、閉じていてもよい。更に、フィルタエレメント11は、ベース3及びプロテクタ13と接触する部位にシール部材12を設け、流体の液漏れを防止することができる。
前記「プロテクタ13」は、フィルタエレメント11を流体の圧力によって破損しないように保持することができればよくその材質及び形状を任意に選択することができる。また、プロテクタ13を外周側から中心軸部へ流体を通過させることができるように透孔6を設けることができる。
【実施例】
【0020】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。本実施例では、「2部材の締結構造」として、内燃機関のシリンダブロックに装着されるオイルフィルタのケーシングを構成するベース及びキャップを例示する。
【0021】
オイルフィルタ1は、図1に示すように、相対回転により互いに螺合可能な有底円筒状のキャップ2と有底円筒状のベース3とからなるケーシング4を備えている。キャップ2は軽量、製造コスト低減等の点からガラス繊維を配合したポリアミド樹脂等の合成樹脂材で一体に形成されている。また、ベース3はケーシング4の強度を確保し剛性を高める等の点からアルミニウム合金のダイキャストによって形成されている。
【0022】
キャップ2の外周面には、雄ネジ部2bからなる螺合部2aが形成され、その螺合部2aの自由端即ち有底円筒状のキャップ2の開口周縁部における端面には後述するベース3の被当接部3dと当接する当接部2cが形成されている。
一方、ベース3の内周面には前記キャップ2の雄ネジ部2bと螺合可能な雌ネジ部3bからなる被螺合部3aが形成されている。また、被螺合部3aの基端側は、ベース3の内周面に沿って内部側に環状に突出する段部3cが形成されている。更に、段部3cにおける前記キャップの当接部2cと対向する上面には、この当接部2cと当接する被当接部3dが形成されている。
尚、被当接部3dが形成された段部3cは、ベース3の内周面に沿って内部側に環状に突出して形成されているが、これに限定されるものではなく、周方向に間隔をおいて複数に分割して形成されていてもよく、要するところ、ベース3の被螺合部3aの基端側にキャップ2の当接部2cと当接して後述するキャップ2の螺合部2aの熱膨張による自由伸張を阻止する遮断壁として機能することができる形態であればよい。
【0023】
一方、ベース3の被螺合部3aの自由端即ち有底円筒状のベース3の開口周縁部における端面3eはこれと対向するキャップ2の蓋板部の外周に形成されたフランジ2dとは当接せず、前記キャップ2のフランジ2dとの間には所定間隔の隙間Sが介在するように形成されている。即ち、図2に示すように、キャップ2のフランジ2dの下面から螺合部2aの当接部2cまでの長さL1は、ベース3の先端部の端面3eから被螺合部3aの基端側に設けられた被当接部3dまでの長さL2より隙間S分だけ大きいものとなっている。
尚、キャップ2の螺合部2a及びベース3の被螺合部3aは、それぞれ雄ネジ部2b及び雌ネジ部3bが形成されている部分のみを意味するのではなく、およそ螺合に係わる部分を含めた部分を意味する。したがって、図2及び3に示すように、ベース3の基端側の被当接部3dの近傍3fには切削加工上の理由から雌ネジ部3bの形成されていない部分が存在するが、ベース3の被螺合部3aはこの部分も含まれる。
【0024】
キャップ2の螺合部2aの上方及びベース3の被螺合部3aの上方における空間にはOリング5が装着されている。オイルフィルタ1は、これら雄ネジ部2bと雌ネジ部3bとを螺合させて、Oリング5を介してキャップ2及びベース3を螺合させると、ケーシング4の内部が液密に保持されるようになっている。ベース3の底部には、ケーシング4の内部のオイルを排出する油路パイプ部9、及びケーシング4の内部にオイルを流入させる流入口10が設けられている。
【0025】
キャップ2の内部には、多数の透孔6を有する合成樹脂製の円筒形状のプロテクタ13が設けられている。このプロテクタ13の外周には、シール部材12を介して濾紙をひだ折り菊花状に折り曲げ形成してなる円筒状のフィルタエレメント11が装着されている。プロテクタ13は、基端部側に形成されたフランジ部8と、基端部側付近の内部に形成されたバネ受け部14と、先端部に形成された油路連結部15とを備えている。
フランジ部8はキャップ2の内部に形成されたプロテクタ保持部16に着脱可能に支持され、且つ、プロテクタ保持部16の縁部に形成されたストッパ17により脱落が防止される。また、キャップ2とプロテクタ13とが一体回転するための係合爪等の係合機構が設けられている。油路連結部15は、ベース3の油路パイプ部9に相対回転可能に嵌合する。更に、プロテクタ13のバネ受け部14の上部にはコイルスプリングからなるサポートスプリング7が設けられている。このサポートスプリング7は、プロテクタ13をベース3側に付勢している。このサポートスプリング7の付勢力により、フィルタエレメント11に設けられたシール部材12は圧迫され、シール性が高められている。
【0026】
次に、このように構成されたオイルフィルタのケーシングを構成するベース及びキャップの締結及びその締結構造の作用について説明する。
キャップ2及びベース3相互の螺合による組み付け、締結は、一般に常温下の25℃の雰囲気温度において行われる。キャップ2及びベース3の組み付けは、図2に示すように、キャップ2の螺合部2aの雄ネジ部2bをベース3の被螺合部3aの雌ネジ部3bに螺合し、キャップ2の螺合部2aの先端側の当接部2cがベース3の被螺合部3aの基端側の被当接部3dに当接したら、更に、キャップ2を所定角度回転し、増し締めする。すると、キャップ2の螺合部2aはベース3の被螺合部3aと該ベース3の被当接部3dとに挟み込まれて軸方向の圧迫力を受ける。一方、ベース3の被螺合部3aはキャップ2の螺合部2aからの反力による外向け相反対側の軸方向の引張力を受ける。これにより、キャップ2には軸方向の圧迫力である軸力Pが発生し、ベース3には軸方向の引張力である軸力が発生して、キャップ2とベース3とは強固に締結される。
【0027】
次に、前記のようにしてキャップ2とベース3とが組み付けられたオイルフィルタ1が車両走行等のエンジン使用により高温状態となったときのこれらキャップ2とベース3との締結状態を図3に基づいて説明する。
オイルフィルタ1がエンジン使用により高温になるに伴ってキャップ2及びベース3も高温となり、いずれも、キャップ2の螺合部2aの先端側の当接部2cとベース3の被螺合部3aの基端側の被当接部3dとが当接する当接位置V1を起点として軸方向に熱膨張する。キャップ2の螺合部2aは熱による自由膨張によってその長さL3はL3+ΔL3となる。ここで、キャップ2の線膨張係数α1が温度変化のある全範囲で一定であると仮定し、常温と高温との温度差をΔt℃とすれば、前記キャップ2の螺合部2aの伸びΔL3はα1・Δt・L3となる。また、ベース3の被螺合部3aの長さL4はL4+ΔL4となる。ここで、ベース3の線膨張係数α2が温度変化のある全範囲で一定であると仮定し、常温と高温との温度差をΔt℃とすれば、前記ベース3の被螺合部3aの伸びΔL4はα2・Δt・L4となる。尚、常温下においては、キャップ2の螺合部2aの長さL3はベース3の被螺合部3aの長さL4と同一とする。
【0028】
ところが、合成樹脂からなるキャップ2はアルミニウム合金からなるベース3と比較して熱膨張率が大きく、α1>α2であり、自由膨張においてキャップ2の螺合部2aの伸びΔL3はベース3の被螺合部3aの伸びΔL4よりも大きくなる。しかし、キャップ2の螺合部2aは、ベース3の被螺合部3aと該ベース3の被当接部3dとで挟み込まれ、自由膨張が妨げられるので、熱膨張後においても、キャップ2の螺合部2aの長さL3’とベース3の被螺合部3aの長さL4’とは同一となる。その結果、キャップ2の螺合部2aは収縮し、その変形量だけ圧迫によるひずみを受けることとなり、そのひずみに応じた熱応力が発生する。一方、ベース3の被螺合部3aはキャップ2からの反力により膨張し、その変形量だけ引張りによるひずみを受けることとなり、そのひずみに応じた熱応力が発生する。したがって、キャップ2の螺合部2aに対する圧迫力は常温時に比べて増大することとなり、それに対応して同時にベース3の被螺合部3aに対する引張力も常温時に比べて増大する。即ち、図3に示すように、軸力P’は前記熱応力が加わった分だけ、常温時よりも増大し、締付力は増す。これにより、高温時には従来例のような緩みが発生することがなく、むしろより強固な締結状態が得られる。
【0029】
次に、オイルフィルタにおいて、本発明品と従来品との締付強度の比較試験を行った結果を示す。試験は常温の25℃において本発明品、従来品ともベースとキャップとを同一トルクで締め付けた後、高温の130℃の条件下において、ベースからキャップを緩めるのに要するトルクを測定することによって両品の締結強度を比較した。
【0030】
その結果、従来品のトルクは、25℃の常温下での締め付け直後のトルクが、130℃の高温下ではほぼ半減した。一方、本発明品のトルクは、25℃の常温下での締め付け直後のトルクが、130℃の高温下では約1.5倍増大した。これにより、従来のオイルフィルタは高温になると締結力が減少するのに対し、本発明品のオイルフィルタは逆に増大することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例のオイルフィルタを示す分解断面図である。
【図2】本実施例のオイルフィルタのベースとキャップとを常温下で組み付けた状態を示す要部断面図である。
【図3】本実施例のオイルフィルタが高温となったときのベースとキャップとの締結状態を示す要部断面図である。
【図4】従来のオイルフィルタを示す分解断面図である。
【図5】従来のオイルフィルタのベースとキャップとを常温下で組み付けた状態を示す要部断面図である。
【図6】従来のオイルフィルタが高温となったときのベースとキャップとの締結状態を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1;オイルフィルタ、2;キャップ、2a;螺合部、2b;雄ネジ部、2c;当接部、3;ベース、3a;被螺合部、3b;雌ネジ部、3d;被当接部、4;ケーシング、11:フィルタエレメント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張率の異なる2つの部材を相対回転による螺合により締結する2部材の締結構造であって、
熱膨張率が大きい一方の部材は、その螺合部の先端側に当接部を備え、
熱膨張率が小さい他方の部材は、前記螺合部と螺合する被螺合部の基端側に、前記一方の部材の前記当接部が当接する被当接部を備え、
前記被当接部及び前記被螺合部は、前記螺合に伴って前記螺合部を軸方向に挟み込んで圧迫することによって軸力を発生させることを特徴とする2部材の締結構造。
【請求項2】
前記一方の部材は、合成樹脂材からなり、
前記他方の部材は、金属材からなることを特徴とする請求項1に記載の2部材の締結構造。
【請求項3】
前記一方の部材は、2分割体からなるケーシング内にフィルタエレメントを収容してなる流体フィルタの該ケーシングの一方を構成するキャップであり、
前記他方の部材は、前記流体フィルタのケーシングの他方を構成するベースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の2部材の締結構造。
【請求項4】
フィルタエレメントと、
前記フィルタエレメントを支持するプロテクタと、
前記フィルタエレメント及び前記プロテクタを収容すると共に相対回転により互いに螺合可能なキャップ及びベースと、を備える流体フィルタであって、
前記キャップ及び前記ベースは、請求項1乃至3のいずれか1項記載に記載の締結構造を備えることを特徴とする流体フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−85035(P2009−85035A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252529(P2007−252529)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】