説明

2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法

【課題】ヘキサフルオロアセトンとフェノールをフッ化水素を用いる製造方法において、簡便な精製方法を適用しながらも収率を向上させ、かつ、環境への付加を減らすことのできるビスフェノールAFの製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化水素の存在下、ヘキサフルオロアセトンとフェノールを反応させて2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを製造する方法であって、反応開始時においてフェノール1モルに対しヘキサフルオロアセトン0.55〜2倍モルかつフッ化水素が8〜200倍モルとする2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールとヘキサフルオロアセトンを出発原料とする2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(本明細書において、「ビスフェノールAF」ということがある。)の製造方法に関し、より詳しくは、反応収率の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンは、フッ素ゴムの架橋剤や機能性ポリマーおよび医農薬の中間体として重要な物質である。ビスフェノールAFは、ヘキサフルオロアセトンとフェノールを触媒の存在下反応させて得られることが報告されている。この方法では触媒としては、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸(特許文献1)やフッ化水素(非特許文献1、特許文献2)が提案されている。また、原料としてヘキサフルオロアセトンの前駆体でもあるヘキサフルオロプロピレンオキサイドとフェノールをフッ化水素を触媒または溶剤として使用しても同様にビスフェノールAFの得られることが特許文献3に開示されている。
【0003】
典型的な製造方法としては、フェノール1.26モル、無水フッ酸8モル、ヘキサフルオロアセトン0.63モルを100℃、反応圧力0.8〜1.0MPa(8〜10Kg/cm2)で4時間攪拌して反応させ、水洗後の収率85%でビスフェノールAFが得られることが特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4400546号明細書
【特許文献2】特開平7−126200号公報
【特許文献3】米国特許第4358624号明細書
【特許文献4】特開平2−53747号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Izv Akad Nauk SSSR Otd Khim Nauk vol.4 pp.686-692(1960);英語版 pp.647-653
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、工業的に行われているビスフェノールAFの製造方法では、ヘキサフルオロアセトンとフェノールをフッ化水素中において通常100℃程度の温度と1.0MPa程度の反応圧力で反応させている。これらの反応条件では2時間以上の反応時間で、得られる反応生成物には未反応のフェノール、種々の反応副生物とフッ化水素が含まれるので、各種の精製手段を適用して高純度のビスフェノールAFを得ているが、収率は前記典型例から窺えるように約85%と必ずしも高くなく、満足できる水準にはない。
【0007】
また、生成物中のフェノールなどの水溶性化合物の除去は水洗浄によるのが簡便であり精製の効果も高いことが知られているが、洗浄水中に溶存したフェノールをはじめとする有機物を含む排水は環境への付加を増大させることとなるので配慮が求められている。
【0008】
そこで、本発明では、ヘキサフルオロアセトン、フェノールとフッ化水素を用いる製造方法において、簡便な精製方法を適用しながらも収率を向上させ、かつ、環境への付加を減らすことのできるビスフェノールAFの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フッ化水素の存在下でヘキサフルオロアセトンとフェノールを反応させてビスフェノールAFを合成する方法について過去の報告例を検討したところ、反応系中におけるフェノール/ヘキサフルオロアセトン/フッ化水素の比率が、生成物の組成およびビスフェノールAFの収率に大きく関係し、併せて精製工程における水洗浄により生じた排水中に含まれる有機物の量に多大な影響を及ぼすことを見出した。
【0010】
また、未反応ヘキサフルオロアセトンおよび多量に使用するフッ化水素は反応後容易に回収でき、再度反応に使用できることを併せて見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の通りである。
【0012】
[発明1]フッ化水素の存在下、ヘキサフルオロアセトンとフェノールを反応させる反応工程を含む2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを製造する方法であって、反応開始時において、フェノール1モルに対しヘキサフルオロアセトン0.55〜2倍モルかつフッ化水素8〜200倍モルとする反応工程を含む2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【0013】
[発明2]反応工程で得られた反応器内容物からヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素からなる留出液と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを含む塔底液とに分離する蒸留工程を有する発明1の製造方法。
【0014】
[発明3]蒸留工程を反応温度よりも低い温度において行う発明2の製造方法。
【0015】
[発明4]蒸留工程において外部へ抜き出す塔底液のフッ化水素の含有量を2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1モルに対し3〜40モルとする発明2または3の製造方法。
【0016】
[発明5]蒸留工程において外部へ抜き出す塔底液のフッ化水素の含有量を水1モルに対し5〜20モルとする発明2または3の製造方法。
【0017】
[発明6]さらに、塔底液を水と接触させる精製工程を含む発明2〜5のいずれかの製造方法。
【0018】
[発明7]蒸留工程において分離した留出液をヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素の全部または一部として使用する発明2〜6のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法によると、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの収率を高くすることができる。また、未反応のヘキサフルオロアセトンとフッ化水素は、望ましくない成分を含まない混合物として回収でき、それを本発明の製造方法に使用できる。また、精製工程において発生する排水中の有機物含有量(化学的酸素要求量。以下、「COD」ということがある。)を低減することができるので、大規模な2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法として適する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の方法はバッチ式、連続式、半バッチ式のいずれによっても実施できるが、以下の説明ではバッチ式について説明する。連続式または半バッチ式で実施する場合には、当業者はこの技術分野の常識により反応装置および反応条件を適宜変更することができる。
【0021】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンは、フッ化水素の存在下、ヘキサフルオロアセトンとフェノールを反応させることで合成することができる。
【化1】

【0022】
この反応はフェノール1モルに対し、ヘキサフルオロアセトン0.5モルを当量とするので、出発原料はフェノール1モルに対しヘキサフルオロアセトンは理論上は0.5モルでよい。しかし、本発明の方法では、フェノール1モルに対しヘキサフルオロアセトンを0.5モル以上とすることができ、通常、0.55〜2モルを使用し、0.6〜1モルが好ましく、0.65〜0.9モルがより好ましい。本反応の方法では容易に未反応のヘキサフルオロアセトンを回収再利用することができる。1モルを超えるとヘキサフルオロアセトンの多付加物が増加して好ましくない。0.5モル未満の使用では、反応速度が低下して処理に長時間を要し、また、フェノールの転化率が顕著に低下して未反応フェノールが残存し、水洗浄による精製工程での排水中の有機物量が増加するので好ましくない。
【0023】
ヘキサフルオロアセトンは公知の方法で製造できる。例えば、ヘキサクロロアセトンをクロム担持活性炭触媒の存在下フッ化水素でフッ素化する方法や、ヘキサフルオロプロペンを酸化して得られたヘキサフルオロプロペンエポキシドを異性化する方法により製造することができる。本発明の方法で使用する場合、ヘキサフルオロアセトンは、単体、フッ化水素付加体またはフッ化水素溶液として使用できる。
【0024】
本発明の製造方法においては、フッ化水素をフェノール1モルに対し8モル以上使用する。好ましくは10モル以上であり、より好ましくは15モル以上であり、さらに好ましくは25モル以上である。
【0025】
このフッ化水素の使用量の上限は原理的には制限されないが、反応器の効率等の点から実際的には200モル以下であるのが好ましく、100モル以下であるのがより好ましく、75モル以下であるのがさらに好ましい。通常、8〜100モル程度が好ましく、10〜50モル程度が最も好ましい。
【0026】
本発明に使用するフッ化水素に含有する水分の量は少ないことが好ましいが、通常工業用に生産され、供給されているフッ化水素(無水フッ酸)を使用できる。また、本発明の製造方法で反応器内液から回収したフッ化水素を精製して、または精製しないでそのまま使用することができる。フェノールは市販のものを使用できるが、水分の含有量は少ないものが好ましい。フッ化水素は前記の反応式に現れないことからも分かるように反応基質としてではなく、触媒または溶媒として機能し本反応において重要な役割を占める。
【0027】
本発明の方法は、反応温度50〜200℃で行い、70〜150℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。50℃以下では反応が遅く、200℃を超えると大きな反応圧力に耐える反応装置が必要になり、また製品の着色や不純物の生成が増加するので好ましくない。
【0028】
本発明にかかる反応は、反応器内にフェノール、フッ化水素およびヘキサフルオロアセトンを仕込んで所定の温度で所定時間加熱することで行い、そのとき自圧が発生する。反応圧力は、反応温度に応じたフッ化水素の蒸気圧に主として依存するが0.2〜2MPaが好ましい。反応はフッ化水素に耐食性を有する材質からなる圧力容器内で行う。反応器の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、モネル(TM)、インコネル(TM)、白金、銀、フッ素樹脂などが使用でき、これらの材質またはこれらの材質をライニングした材料などが使用できる。
【0029】
本発明の方法での反応時間は、おおよそ5分〜20時間であり、10分〜10時間が好ましく、20分〜5時間がより好ましい。反応時間が5分未満では十分な反応収率が得られず、20時間を越えるのは二次反応により副生成物が増えるので好ましくない。
【0030】
本発明の方法においては、ヘキサフルオロアセトンが消費されてフェノールとヘキサフルオロアセトンの付加反応が完了した後は、速やかに反応を終了させることが好ましく、反応の終期は、反応系中のビスフェノールAFの増加率が実質的にゼロになった時点、またはフェノールの濃度が実質的にゼロ、例えば、1%以下となった時点とするのが好ましい。
【0031】
また、本発明の方法においては、反応終了時において原料等からの意図しない混入を含めて、フッ化水素に対する水の含有量が3重量%を超えないようにするのが望ましい。また、この水は2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。反応器中の水の含有量は、反応の進行に伴うビスフェノールAFの生成量から概算できるほか、直接カールフィシャー法等の水分分析法により測定することもできる。これらの何れの方法により反応時間を決定してもよい。
【0032】
本発明の方法は、原料であるフェノール、ヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素を反応器に導入して開始する。フェノール、ヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素はそれぞれ別々に反応器に導入してもよいが、フェノール、ヘキサフルオロアセトンはそれぞれフッ化水素に溶解させて導入することもでき、またはフェノール、ヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素を反応器外で混合して反応器に導入することもできる。その後反応器を所定の温度に必要な時間保って反応を完了させる。反応器内容物は攪拌をしてもしなくてもよいが、反応時間の短縮には攪拌を行うのが好ましい。
【0033】
反応終了後、反応器内容物にはビスフェノールAF、フッ化水素、ヘキサフルオロアセトン、水、その他の副生成物が含まれる。反応器内容物からビスフェノールAFを取得するには、どのような方法により行ってもよく、従来から行われる方法としては、例えば、反応器内容物をそのまま水中へ投入して酸性分や水溶性有機物を溶解除去して固体のビスフェノールAFを得る方法、また、反応生成物から酸や揮発成分を留去して固体として得る方法が挙げられる。また、得られたこの固体を引き続き水蒸気蒸留でフェノールなどを留去してビスフェノールAFを得る方法などが挙げられる。
【0034】
本発明の方法においては、反応終了後、反応温度よりも低い温度において反応器内容物から未反応のヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素を蒸留分離するのが好ましい。反応器内容物からのフッ化水素およびヘキサフルオロアセトンの除去は、単蒸留または精留によって行うことができ、蒸留はバッチ式または連続式に行うことができる。以下においては、バッチ式による蒸留を例として説明するが、本明細書の記載に基づき連続式蒸留について各条件を決定することは、当業者にとって容易である。蒸留装置としては特に限定されず、通常の蒸留装置を適用することができるが、単蒸留装置よりも精密蒸留装置が適する。反応器生成物は蒸留塔の塔底または中段に導入し、塔頂からはフッ化水素とヘキサフルオロアセトンを取出し、塔底からはビスフェノールAFと水とフッ化水素の混合物を得る。このようにすることで、反応後の反応液を蒸発乾固させる場合(非特許文献1)とは異なり、ヘキサフルオロアセトンとフッ化水素の混合物は他の望ましくない成分を含むことなく、また、ビスフェノールAFは液体で取り扱えるという操作上極めて有利な効果を示すことになる。
【0035】
蒸留において反応後必要以上に長時間反応温度に近い温度に保つことは副生成物量の増加を招く恐れがあるので、塔底温度を反応温度よりも低い温度として蒸留し、塔底温度としては20〜100℃とし、20〜50℃が好ましい。塔底液にはビスフェノールAFが含まれるためフッ化水素水溶液の示す蒸気圧に対応する温度よりも高い塔底温度で蒸留操作をする必要がある。反応開始時において十分に脱水された反応系を用いる場合、ビスフェノールAFの含有量と水の含有量はモル比で1となるので、この条件ではフッ化水素水溶液の示す蒸気圧に対応する温度よりも概ね5〜25℃程度、通常は10〜20℃程度高い塔底温度となる。外部から意図的または非意図的な水の混入がある場合には、異なった塔底温度となるが、蒸留の状態を観察することで温度を決定することができる。通常、蒸留は大気圧近辺で行うが、0.05〜2MPa程度の減圧または加圧下で行ってもよい。塔頂の温度は20℃以下とし、10〜20℃とするのが好ましく、14〜20℃程度に調節するのがより好ましい。HFAはHFと錯体を形成するため、その錯体またはその錯体とHFの混合物として留出物を得ることができる。塔頂から回収されたフッ化水素とヘキサフルオロアセトンは実質的に他の成分を含まず何ら精製することなくそのまま本発明の製造方法に再使用できる。
【0036】
塔底からはフッ化水素とビスフェノールAFを含む水溶液(塔底液)を得ることができる。塔底温度を前記温度範囲とすることにより蒸留後の塔底液中のフッ化水素の組成は、ビスフェノールAF1モルに対して3〜40モルのフッ化水素であるるのが好ましく、4〜30モルがより好ましく、5〜20モルとするのが特に好ましい。フッ化水素のモル比が3未満ではビスフェノールAFがフッ化水素水溶液に十分に溶解せず取り扱いに不便であるので好ましくなく、40モルを超えると回収の困難な大量の有機物含有フッ化水素水溶液が発生することになるので好ましくない。また、前記蒸留後の塔底液には、水1モルに対し5〜20モル程度のフッ化水素が存在している。水とフッ化水素は約114℃で共沸するため塔頂から留出するフッ化水素とヘキサフルオロアセトンへは実質上水は混入しない。
【0037】
塔底から回収されたビスフェノールAFのフッ化水素水溶液からは、従来知られている方法、例えば、塔底液を水中に投入して残存したフッ化水素や水溶性有機物を除去する精製方法を適用して固体のビスフェノールAFを得ることができる。この固体は各種の中間生成物やビスフェノールAFの異性体、場合によっては未反応フェノールなどが含まれることがあるが、フェノールやモノフェノール(フェノールのベンゼン環に一つのヘキサフルオロイソプロパノール基が置換した化合物をいう。)は水溶性であり水洗浄でビスフェノールAFから除去することができ、ビスフェノールAFを95%以上、通常98%以上の純度として得ることができる。
【0038】
水洗浄において使用した洗浄水には水溶性のフェノールやモノフェノールなどが含まれ排水中に有機物量(化学的酸素要求量COD)を生ずることになる。
【0039】
ここで得られるビスフェノールAFは、公知の各種の方法によりさらに精製することができる。例えば、粗製ビスフェノールAFを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カルシウムなどの塩基性化合物の水溶液に溶解し、そこへ塩酸、硝酸等の鉱酸を添加してビスフェノールAFを析出させ、それを濾別して精製ビスフェノールAFとすることできる。また、ビスフェノールAFと水を常温(約25℃)以上に加熱し、溶解液を冷却して析出させることでも精製することができる。得られた精製ビスフェノールAFは公知の手段で乾燥することができる。
【0040】
蒸留工程において分離して得られたヘキサフルオロアセトンとフッ化水素は本発明の製造方法において原料、触媒としてのヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素の全部または一部として使用することができる。通常はヘキサフルオロアセトンはフッ化水素溶液として取り扱えるが、さらに蒸留してそれぞれの成分として使用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1に結果をまとめる。以下において、有機物の分析はFID検出器を用いたガスクロマトグラフで行い、「%」は「面積%」を表す。
【0042】
[実施例1]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、フッ化水素(以下、「HF」と略す。)240.6g(12.03mol)を仕込み、次いでヘキサフルオロアセトン(以下、「HFA」と略す。)80.1(0.48mol)を仕込んだ(フェノールに対するHFAのモル比0.6、HFのモル比15)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を110℃に昇温し、内温が110℃に達してから2時間反応を継続した。この時の内圧は1.15〜1.09MPaであった。この時の反応液(有機物)の組成を分析したところ、目的物であるビスフェノールAFが95.9%であった。この他に、原料のフェノ−ルが0.9%、中間体の2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが0.1%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが2.0%、ビスフェノールAFの異性体が0.7%、ビスフェノールAFのHFA付加体が0.3%、その他が0.1%であった。
【0043】
反応終了後は氷浴にて30℃以下まで冷却後、約1800gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管に接続した抜き出し管から持圧および窒素加圧にて反応液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、さらに約650gの水で2回洗浄することで純度98.5%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、116.1gのビスフェノールAFが得られ、この時の収率は92.5%であった。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は9375mg/Lであった。
【0044】
[実施例2]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、HF241.4g(12.07mol)を仕込み、次いでHFA106.3(0.64mol)を仕込んだ(フェノールに対するHFAのモル比0.8、HFのモル比15)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を90℃に昇温し、内温が90℃に達してから3時間反応を継続した。この時の内圧は0.75〜0.69MPaであった。この時の反応液(有機物)の組成を分析したところ目的物であるビスフェノールAFが95.7%であった。この他に、中間体である2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが0.3%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが3.4%、ビスフェノールAFの異性体が0.2%、その他が0.4%であった。
【0045】
反応終了後は氷浴にて30℃以下まで冷却後、約1800gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管に接続した抜き出し管から持圧および窒素加圧にて反応液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、さらに約650gの水で2回洗浄することで純度99.0%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、109.9gのビスフェノールAFが得られ、この時の収率は94.0%であった。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は8055mg/Lであった。
【0046】
[実施例3]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、HF241.2g(12.06mol)を仕込み、次いでHFA106.9(0.64mol)を仕込んだ(フェノールに対するヘキサフルオロアセトンのモル比0.8、HFのモル比15)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を100℃に昇温し、内温が100℃に達してから2時間反応を継続した。この時の反応液(有機物)の組成は目的物である2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)が96.5%であった。この他に、フェノ−ルが0.1%、中間体の2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが0.1%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが2.6%、ビスフェノールAFの異性体が0.3%、ビスフェノールAFのHFA付加体が0.4%、その他が0.1%であった。
【0047】
反応終了後、HFA/HF回収塔(以下「回収塔」という。)を用いて反応液を蒸留分離して未反応のヘキサフルオロアセトンとフッ化水素からなる留出液とビスフェノールAFを含む塔底液とに分離した。回収塔の材質としてはフッ素樹脂またはポリエチレンを用いた。蒸留ポット(ボトム)はポリテトラフルオロエチレン製容器、蒸留塔は充填材としてポリエチレン製ラシヒリングを充填したPFA製カラム、コンデンサーとしてPFA製の円筒形で内部に冷媒を流す蛇管を備えた容器を使用し、塔頂からの留出液の受器として500mlのPFA製容器を用いた。
【0048】
オートクレーブを氷浴にて30℃以下まで冷却し、オ−トクレ−ブに備えたサイホン管出口の抜き出し弁と回収塔のボトム(容量500mL)に備えた移液弁を配管でつなぎ持圧および窒素加圧にて反応液404.7gを移液した。移液時にはあらかじめ回収塔のコンデンサ−に−15℃の冷媒を流して冷却し、移液時にHFAおよびHFが系外に逃げないようにした。移液後はオ−トクレ−ブを外し、回収塔ボトムを40℃に設定したオイルバスにて加温した。20分程度するとHFA/HFの混合物の全還流が始まった。この時のボトムの内温は24.4℃で回収塔の塔頂の温度は17.0℃であった。全還流を30分保持した後、抜きだしを開始した。抜き出し時は塔頂の温度が20℃以下となるように、還流比(還流:留出)=10秒:5秒にて還流を行った。抜き出し開始後はオイルバスの温度を5℃/30分の速度で50℃まで上げた。ボトムの内温が38℃となった所で、HFA/HFの回収を終了して抜き出しを終了すると共にボトムのオイルバスを外し、ボトムを氷浴にて20℃以下まで冷却した。冷却後は900gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管から窒素加圧にてボトム残液を全量抜きだし、固体を析出させた。析出した固体を濾過し、約450gの水で2回洗浄することで純度98.5%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、ビスフェノールAFの収率は94.2%であった。また、回収した留出液の重量は162.4gで、組成を分析したところHF130.1g、HFA32.3gであった。HFは仕込み質量に対し56.4質量%が回収され、HFAは理論上の過剰量の83.4質量%が回収された。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は8686mg/Lであった。
【0049】
[実施例4]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、HF241.0g(12.05mol)を仕込み、次いでHFA106.3(0.64mol)を仕込んだ(フェノールに対するヘキサフルオロアセトンのモル比0.8、HFのモル比15)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を100℃に昇温し、内温が100℃に達してから2時間反応を継続した。この時の反応液(有機物)の組成は分析から目的物である2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)が96.2%であった。この他に、フェノ−ルが0.1%、中間体の2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが0.1%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが2.9%、ビスフェノールAFの異性体が0.4%、ビスフェノールAFのHFA付加体が0.2%、その他が0.1%であった。
【0050】
反応終了後、オートクレーブを氷浴にて30℃以下まで冷却し、オ−トクレ−ブに備えたサイホン管出口の抜き出し弁と回収塔のボトム(容量500mL)に備えた移液弁を配管でつなぎ持圧および窒素加圧にて反応液388.4gを移液した。移液時にはあらかじめHFA/HF回収塔のコンデンサ−に−15℃の冷媒を流して冷却し、移液時にHFAおよびHFが系外に逃げないようにした。移液後はオ−トクレ−ブを外し、回収塔ボトムを40℃に設定したオイルバスにて加温した。20分程度するとHFA/HFの混合物の全還流が始まった。この時のボトムの内温は25.2℃で回収塔の塔頂の温度は16.9℃であった。全還流を30分保持した後、抜きだしを開始した。抜き出し時は塔頂の温度が20℃以下となるように、還流比(還流:留出)=10秒:5秒にて還流を行った。抜き出し開始後はオイルバスの温度を5℃/30分の速度で50℃まで上げた。ボトムの内温が42℃となった所で、HFA/HFの回収を終了して抜き出しを終了すると共にボトムのオイルバスを外し、ボトムを氷浴にて20℃以下まで冷却した。冷却後は900gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管から窒素加圧にてボトム残液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、約450gの水で2回洗浄することで純度99.1%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、ビスフェノールAFの収率は95.0%であった。また、回収した留出液の重量は179.0gで、組成を分析したところHF147.8g、HFA32.3gであった。HFは仕込み質量に対し66.7質量%が回収され、HFAは理論上の過剰量の84.8質量%が回収された。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は9413mg/Lであった。
【0051】
[実施例5]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、実施例4および5の回収蒸留で得たHF、HFA混合物(HF:HFAモル比=97.4:2.6)162.8g(HF:133.7g、HFA:29.2g)を仕込み、次いで不足分のHF112.5g(12.31mol)とHFA77.9g(0.47mol)を仕込んだ(フェノールに対するHFAのモル比は0.8、HFのモル比15)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を100℃に昇温し、内温が100℃に達してから2時間反応を継続した。この時の内圧は0.95〜0.88MPaであった。この時の反応液(有機物)の組成は目的物であるビスフェノールAFが95.9%であった。この他に、原料であるフェノ−ルが0.1%、中間体である2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが0.1%、中間体の異性体である2−ヒドロキシ−2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが3.1%、ビスフェノールAFの異性体が0.3%、その他が0.5%であった。
【0052】
反応終了後、氷浴にて30℃以下まで冷却後、約1800gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管の付いた抜き出し弁から持圧および窒素加圧にて反応液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、約650gの水で2回洗浄することで純度99.1%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、114.3gであった。この時のビスフェノールAFの収率は93.1%であった。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は6056mg/Lであった。
【0053】
[比較例1]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、フッ化水素(HF)96.8g(4.84mol)を仕込み、次いでヘキサフルオロアセトン(HFA)68.1(0.41mol)を仕込んだ(フェノールに対するヘキサフルオロアセトンのモル比0.51、フッ化水素のモル比6)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を98℃に昇温し、内温が98℃に達してから5時間反応を継続した。この時の反応液(有機物)の組成は目的物である2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)が90.9%であった。この他に、フェノ−ルが1.7%、中間体の2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが2.4%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが4.3%、ビスフェノールAFの異性体が0.2%、その他が0.5%であった。
【0054】
反応終了後、氷浴にて30℃以下まで冷却後、約1800gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管の付いた抜き出し弁から持圧および窒素加圧にて反応液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、約650gの水で2回洗浄することで純度99.6%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、115.3gであった。この時のビスフェノールAFの収率は85.8%であった。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は30318mg/Lであった。
【0055】
[比較例2]
攪拌機、ガス導入弁、熱電対、圧力計、サイホン管を備えたステンレス鋼製500mLオ−トクレ−ブに、溶融したフェノール75.2g(0.80mol)を投入し氷浴にて冷却した。内部温度が10℃以下まで下がった時点で、HF321.5g(16.08mol)を仕込み、次いでHFA66.9(0.40mol)を仕込んだ(フェノールに対するHFAのモル比0.5、HFのモル比20)。オートクレーブを密閉し撹拌しながら内温を98℃に昇温し、内温が98℃に達してから5時間反応を継続した。この時の反応液(有機物)の組成は目的物である2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)が92.4%であった。この他に、フェノ−ルが4.1%、中間体の2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが0.2%、中間体の異性体である2−(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−2−オールが2.4%、ビスフェノールAFの異性体が0.5%、その他が0.4%であった。
【0056】
反応終了後、氷浴にて30℃以下まで冷却後、約1800gの水を入れたポリエチレン製の容器中にサイホン管の付いた抜き出し弁から持圧および窒素加圧にて反応液を全量抜きだし固体を析出させた。析出した固体を濾過し、約650gの水で2回洗浄することで純度99.7%のビスフェノールAFを得た。これを乾燥したところ、114.6gであった。この時のビスフェノールAFの収率は85.3%であった。また、洗浄水をJIS K0102に従って測定したところ、COD値は22355mg/Lであった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
フッ素ゴムの架橋剤や機能性ポリマーおよび医農薬の中間体として重要な2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素の存在下、ヘキサフルオロアセトンとフェノールを反応させる反応工程を含む2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを製造する方法であって、反応開始時において、フェノール1モルに対しヘキサフルオロアセトン0.55〜2倍モルかつフッ化水素8〜200倍モルとする反応工程を含む2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項2】
反応工程で得られた反応器内容物からヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素からなる留出液と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを含む塔底液とに分離する蒸留工程を有する請求項1に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項3】
蒸留工程を反応温度よりも低い温度において行う請求項2に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項4】
蒸留工程において外部へ抜き出す塔底液のフッ化水素の含有量を2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1モルに対し3〜40モルとする請求項2または3に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項5】
蒸留工程において外部へ抜き出す塔底液のフッ化水素の含有量を水1モルに対し5〜20モルとする請求項2または3に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項6】
さらに、塔底液を水と接触させる精製工程を含む請求項2〜5のいずれか1項に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。
【請求項7】
蒸留工程において分離した留出液をヘキサフルオロアセトンおよびフッ化水素の全部または一部として使用する請求項2〜6のいずれか1項に記載の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの製造方法。

【公開番号】特開2010−275295(P2010−275295A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97954(P2010−97954)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】